地中深いその場所で、マイン・クラフトは鼻歌まじりに鉄ツルハシを振るっていた。今相手にしているのはエメラルド鉱石である。精錬すれば碧色に輝く美しい宝石となる。かなり希少価値の高いものだし、村人との取引にも便利だ。
熟練の手際で掘り終えて、ベイクドポテトをかじる。美味い。生でも食べられる上に植えれば増えるジャガイモは極めて優秀な食糧だ。唯一の欠点は小腹が減っているとついつい農作業中にもパクついてしまうところか。
「きゅるきゅる」
可愛い鳴き声がして、手元を照らす明るさが増した。火炎尻尾である。すべすべとした鼻先がグイと腕を押してくる。エメラルド色の瞳がとても愛らしい。石炭を与えると大きな口で丸呑みにした。
この動く照明器具たる生き物をマインが連れ歩き始めたのは、つい昨日からのことだ。
それまでも何度か見かけていた火炎尻尾だが、昨日は赤頭茶顔の村人もどきと連れ立って拠点へやってきた。どちらもかまどに興味があるらしく、ハアンだのきゅるきゅるだのと鳴いて炎を見ていた。そこでマインは思いついたものだ。松明的な生き物なら、木炭か石炭を食べるのかもしれないと。
「きゅきゅん、きゅるるる」
「あらー、こんなに喜ぶなんて凄いわー」
正解だった。後は何度も与えて懐くその瞬間を待つばかりと思ったマインだから、赤頭茶顔に割って入られた時には思わず石炭で殴りそうになった。村人もどきを相手に荒ぶるのも馬鹿らしいので、とりあえずはとかまどから精錬された分を取り出したが。
「きゃあ! ごごごゴールド!? え!? これ全部!?」
赤頭茶顔が鳴きに鳴いてマインを閉口させた。小麦でなく金インゴットで繁殖するのだとしたら、そんな村人は滅んでしまえばいい……マインは吐息し、そして合点がいった。道理でパンどころではない豪勢な食事をしていても一向に子供を増やさないわけだ、と。
「ルイズの使い魔って、本当に何者なの? 学院の教師たちも特別な配慮をしている風だし……」
金インゴットといえばそれなりに希少だ。見ただけでも積極性が上がったのかもしれない。何やら怪しい動きを見せる赤頭茶顔にゾッとするも、マインはその後も石炭を与え続けた。そして火炎尻尾を追従させることに成功したのである。
「わかったわ。こんなにも素敵な宝物を見つけるためなら、フレイムをお供につけてあげる! 探しに行くときにはいつでも言って。使い魔だから、あたしでなくフレイムに言っても大丈夫だからね?」
村人もどきに金は見せない方がいいな……思えば鉄でも妙な反応をするんだし。
そんなことを考えつつマインは二個目のベイクドポテトを齧る。地下での食事はやはり満腹するまで食べるに限る。いつ何時溶岩プールに落ちるか知れたものではないのだし。
「もぐ! もぐもぐもぐ!」
隅の暗がりからずんぐりとした生き物が突進してきた。マインはそれに驚かない。莞爾としてそれを迎え入れた。
剣ではなしに手に構えたものは、どこかネザーウォートにも似た細長くも生々しいものの塊……新アイテム『肉糸』だ。この世界では土の中でやたらにドロップする。ネザー同様、新しい場所には新しい物があるといったところか。たくさんあるので惜しまず与える。
「もぐもぐもぐもぐ……」
この茶色く丸々しい生き物もまた、このところ採掘時の同伴者である。いや、相棒というべきか。マインは茶色丸々の円らな瞳を頼もしげに見つめた。期待の眼差しである。
そら、くんかくんかと鼻を鳴らしはじめた。マインは早くもツルハシを握り締めている。そして振るう。ここか、ここ掘れくんかくんかなのかと興奮気味に石を砕き土を退ける。松明の設置ももどかしいという、その勢いを支えてくれるのは動く松明たる火炎尻尾だ。
マインは凄まじい速度で掘り進んで……青色の鉱石を露にするに至った。観察し、首を傾げる。まただった。これはラピスラズリのように見えるが違うものだ。精錬すると青い綺麗な宝石になる。マインはこれを蒼玉と名付けている。硬さとしてはダイヤモンドには劣るものの鉄に勝る。
実際のところ、この世界にはネザー以上に新アイテムが多い。その分類のためだけにラージチェストを何個も必要とするほどだ。マインとしては大歓迎である。ワクワクの毎日だ。
「もぐもぐ!」
茶色丸々は働き者だ。早くも次なる鉱石を見つけたらしい。
任せろとばかりに掘り進めてみれば、今度はレッドストーンのようでそうではない赤色の鉱石だ。マインはこれを紅玉と名付けている。硬さは蒼玉と同等で、やはり精錬すると赤い綺麗な宝石になる。
やれやれ、魅力的な鉱石ばかりで、なかなか岩盤まで掘り下げられないや。
マインはニマニマとした。ブランチマイニングを実施してきた日々を思えばいい加減にすぎる掘り方だというのに、こうも収獲があるとは……何とも贅沢な話だ。
しかし、採掘とは何よりもダイヤモンドを目標とすべきであろう。そのためにもまずは岩盤へ至らなければ。
翌日にはそう考え直したマインであるが、その決意もまた頓挫することになった。
前掘って下掘って降りて、前掘って下掘って降りて……階段状の足場を作りつつ地中深くへと降りていきはした。いつも通りの作業はしたのだ。それですぐにも岩盤へと至るはずだったのだが。
「きゅるる?」
「もぐぐ!」
見たこともない白色の鉱石にぶつかった。いや、その埋蔵量からいって鉱脈というべきか。鉄ツルハシで問題なく採掘はできる。しかし打った時の反応がマインの興味を強く引いた。レッドストーンを打った時のように、淡く光を発するのだ。
奇妙な力を放つその鉱石は、精錬すればするほどに透明になった。
作業中、何としたことかかまどが宙に浮くという珍事が生じてマインの度肝を抜いた。