マイクラな使い魔   作:あるなし

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ハーフブロックとベンチと怪物

 マイン・クラフトは確信する。人生とは建築だ。万事万物は建築につながり、畢竟、建築者は世界とつながることになる。それは常なる晴れ舞台を生きるということだ。

 彼は満喫していた。

 でこぼことした土ブロックを除去して丸石ハーフブロックを敷き詰め、小川とも用水路とも知れない中途半端な溝を整えて水ブロックによる水流を伸ばし、どうしてか初心者じみた拙さや綻びの点在する屋根を階段ブロックで改め、ゾンビ対策の甘い壁という壁を小粋にガラス板や相応の建材で補い……他にも色々と諸々と作業して。

 気づけば夕暮れである。ちょっとのつもりが夢中になってしまった。

 マインは笑顔でジャンプを一つした。金属看板の家を中心とした一画は実にマイン好みに仕上がった。必要建材量を計るための試行としては十二分の成果を上げたといえる。

 

「おでれーた。相棒はあれか。『使い手』なだけでなく『行使手』でもあるのか? いや、この理不尽がまかり通る感じはむしろ……あれ? 何だっけ?」

「言ってる意味がわからないわ。マインに関することなら教えなさいよ」

「何だって主人が使い魔のことを聞くんだ。逆だろ、普通は」

「そ、そうかもしれないけど……何よ、教えてくれたっていいじゃない!」

「ん? 相棒が見てるぞ?」

「え!?」

 

 ベンチに座っているルイズを見て、マインは微笑んだ。やはり制作物は利用されてこそである。

 そして首を傾げた。ルイズに預けた剣が音を立てているからだ。先にも思ったが、その音は村人もどきたちの鳴き声と似ている。こうして見ると、まるで交流をしているようではないか。

 不思議な剣だ。いや、不思議なエンチャントというべきか。

  

「ま、ま、マイン。べべ別にわたしはあんたのことを不審がってるわけじゃなくて、その、むしろ信じてる! 信頼してるけど! でも、あの……」

「おっと嬢ちゃん、頬が赤いぞ? どうした?」

「な! このボロ剣!」

 

 そもそもあの剣には奇妙な性質がある。マインのアイテムスロットへ入らないのだ。仮設チェストでも試したが駄目だったし、仮設かまどで試そうとすると奇妙な鳴き声を上げてうるさかった上に失敗した。後は額縁でも試さなければなるまいと思う。

 そんなわけでルイズが装備した状態でいるのだが、マインとしては己の心境の変化に苦笑うばかりである。敵対関係にないとはいえ、クリーパー的何かに対して武器を渡すなど本来であれば絶対にしないことだ。自殺行為といってもいい。ましてやあれには詳細不明ながらも強力なエンチャントがかかっているのだ。

 

 まあ、ルイズなら、いいか。

 

 どうしてかそう思ってしまう自分がとても不思議に思えて、マインはとりあえず焼き豚をかじった。美味い。やはり建築による空腹を建築物に囲まれつつ満たす食事には堪らない充足感がある。

 しかし、マインは食べ終えると焼き豚の残量が気にかかった。そろそろ畜産を始めたいところだが、草原や森に牛や豚や羊を見かけず困っている。とりあえず兎の飼育は始めたが、焼き兎肉とは少々腹に物足りないものだ。

 

「相変わらず野蛮な食べ方ね……って、もうこんな時間なんだ。気づかなった」

「そりゃこんだけ明るけりゃな。てーしたもんだ、相棒の魔法は」

「……マインの松明って、ずっと明るいのよね。ずっと消えないの」

「……この通り沿い、家と家の隙間も何もかも、どこもかしこも明るいな?」

「…………よ、夜も明るくて、便利。うん、便利便利。ね?」

「…………一欠片の夜も来ない通りの出来上がりか。おでれーた」

 

 さても、とりあえずここら辺りの湧き潰しは完璧に実施してある。続きは翌朝のお楽しみだ。

 採石場を開いて資材を調達し、適当な場所に仮拠点を……いやいっそ既にある草原の仮拠点からレールを敷いてもいい。高速トロッコを試すのだ。上手くいけば往復が容易になって大村落での美味い食事にありつける。うん、そうしようそうしよう。マインは大きく頷いた。

 

「そうね。帰りましょ。今から急げば食堂も開いてると思うわ」

 

 ルイズが剣を寄越したから、マインはそれを持って構えた。例によって力はみなぎるが、やはりアイテムスロットへしまえないのは酷く不便だ。瞬時に土ブロックを持つこともできない。

 

「マイン、それじゃ門を通れないわ。鞘があるんだから背負えばいいのよ。待って。結んであげるから」

 

 驚きであった。まさかの発想であった。

 マインは首を捻って己の背を確認し、そこに剣がある新鮮さに目を見張った。まるで自分の背中が額縁にでもなったかのようだ。そこには確かに剣がある。手を伸ばせば取ることもできる。

 

「甲斐甲斐しいねえ。貴族の嬢ちゃんに世話させるなんざ、結構なご身分じゃねえか! 相棒!」

「マイン、それもう少し鞘に押し込んどいて! 黙るらしいから!」

 

 さすがルイズというべきか……マインは満面の笑みで頷きを繰り返した。新発想とは即ち革命である。慣習を越え固定観念を超えた者にこそ、世界はより鮮やかで美しい姿を見せてくれるのだ。

 思えばこの世界に目覚めて最初に出会ったのはこのピンク頭だった。そしてそこから新鮮な発見の日々が始まったのである。あるいはルイズに出会うためにこそこの世界に来たのかもしれない……マインはそんなことまで思った。何しろ今のところルイズほど珍妙な希少個体は見つけていないことでもあるし。

 

「そ、そそそ、そんなに見つめないでよ!」

 

 速い。追う。更に加速した。更に追う。特に意味はないが、何とはなしに。

 そうやって風切り駆けることしばし……大村落の重々しい外観を望む夕闇の草原において、マインは奇妙極まる光景に出くわすこととなった。

 仮拠点の側に巨大な人型の何かがいる。

 大きい。本当に大きい。ガスト以上であることは間違いない。しかも動きに力強さがある。強い。あれは強力だ。材質は土か? いや、拳部分が金属になった。それは振り下ろされて、樫の木製のテントが潰れた。

 マインは馬上で呆気にとられた。ルイズと剣が何やらひっきりなしに鳴いていた。


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