マイクラな使い魔   作:あるなし

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ガンダールヴとオフハンドスロット

「きゃぁああああああああ!」

「キュルケ!? ウィンドドラゴンになんて乗って、何やってんの! そのゴーレム何なのよ!」

「し、知らないわ! あたしはここに遊びにきただけだもの。今日はお宝掘りに行かないみたいだから、金銀財宝について少しお話ししようかと思って……」

「はあ!? マインの家に来るなら、事前にわたしの許可をとりなさい!」

「あら、ヴァリエール。何をそんなに怖がっているのかしら?」

「……どういう意味よ、ツェルプストー」

「来る……回避」

「え、何、タバサ、きゃぁああああ!?」

 

 太い腕を振り回す大きな大きな人型のそれは、造形がどこかしらアイアンゴーレムに似ているから、マイン・クラフトは頭に浮かんだ一つの疑念を払い捨てた。

 

 あれ、エンダードラゴンじゃないな。うん。黒くもなければ飛びもしないし。

 

 むしろその周囲を飛び回る有翼の生き物の方がエンダードラゴンのイメージに近い。色こそ青色だが風を巻き空を滑るその飛翔こそはマインの想定していたものだ。既に目はタイミングを見極めている。はい、今射れば当たった。そら、今も。

 

「危ない! 何で逃げないの、キュルケ!」

「駄目よ。ゴーレムの肩を見なさい、ルイズ!」

「メイジ……こんなに大きい土ゴーレムを操れるなんて、『トライアングル』クラスね?」

「あなたの使い魔の宝物が目当てなのよ! きっと!」

「まさか……『土くれ』の!?」

 

 それにしても不思議なのは、巨大ゴーレムにしろエンダードラゴンもどきにしろ、どちらにも村人もどきが乗っかっていることだ。前者については大きさからいって高層建築の高所作業という風でもあるが、後者についてはまるで空飛ぶ馬といった有様である。いや、鳥だろうか。チキンジョッキーとは高度が違うが。

 考えのまとまらないままに、マインは馬から降りた。そしておもむろにベイクドポテトを一つかじる。

 

「おう、どうした相棒。まさかビビッて……るわけもないか。目をまん丸にして、笑顔か」

 

 欲しい。マインはあれが欲しいと思った。エンダードラゴンもどきをだ。空を自由に移動できたならネザーの攻略がどれほどに容易であったろうか。溶岩浴の間抜けを晒すガストへ襲いかかれたらさぞかし痛快だったろうに。

 一方で、巨大ゴーレムの方は……いらない。

 あれはかさばりすぎる。村の守護者として配置したら畑がひどいことになりそうだ。乗っている村人もどきも、エンダードラゴンもどきの方と違って鳴き声の一つも上げない。降りるに降りられないのだろう。往々にして村人とは愚にもつかないことをするものだ。段差が足りず入れない家に住まうとか。

 巻き添えになっても仕方ないね、とマインは頷いた。

 さても僅かな空腹をベイクドポテトで満たしきって、マインはダイヤ製防具一式を身にまとった。武器としては右手にダイヤ剣である。後は弓矢と釣り竿くらいしか攻撃に使えるアイテムを所持していない。

 

「おでれーた! どっから出した、その武装は! どれもとんでもねー材質でとんでもねー魔力だ!」

 

 剣の鳴き声が下からする。どうやらダイヤチェストプレートに弾かれて紐が解けたようだ。少し思案し、マインはそれへと()()を伸ばした。

 

「おお!? 何だ、この凄え力は! これは……そうか……相棒の心が震えてるのか! そうやって力が溜まって……おおお、色々と思い出してきたぞ!?」

 

 マインは三つのことに驚いた。

 一つに、左手の甲にエンチャントの際に見られる文字列のようなものがあり、しかもそれが発光していることだ。いつの間にそんなものがあったのか。何かしら効果を発揮しているのか。あるいはこのポーション服用時に似る症状がそれか。二つ目の驚きとはいつも以上に症状が強いことだ。

 三つ目にして最大の驚きは……左手に物を持てた、ということである。

 これまでマインは己の左手に意識を向けることがほとんどなかった。両手で作業することはあったものの、左手だけで何かをしたことは皆無だった。右手で世界を相手にしてきたのだ。

 しかし、今、心震わせながら左手を用いている。

 そういうこともできるのではないか、という閃きはピンク色をしていた。

 

「ルイズこそ逃げなさい! あなたは魔法が……!」

「いやよ! わたしはマインの主人よ! あいつがあんなに嬉しそうに見せてくれた家を……マインの努力の結晶を……それを目の前で無茶苦茶にされて、どうして逃げられるのよ! それのどこが貴族よ! 誇りある者よ!」

 

 ルイズが大きく鳴いて、クリーパーとしての力を発揮した。爆発だ。巨大ゴーレムの膝が派手に弾けた。中々の威力だが砕くには至らない。やはり硬い。しかしノックバックに似た症状を引き起こしたようだ。

 その足元へとマインは走り込んだ。散らかった土ブロックや階段ブロックを素早く回収すると、土に埋もれた形のラージチェストと作業台とかまどが姿を見せた。地上作業用の簡易設備である。

 これらは巨大ゴーレムの攻撃によって埋まったのではない。もとよりその位置に設置していた。階段ブロックによるテントは外観こそ美しいものの内部の容積は極小である。地下へ降りる階段を二つ並びにしたことの弊害もあった。要はそこにしか置けなかったのだ。

 

「マイン! 危ない!」

 

 ルイズが鳴いた。それが警告だとわかった。マインは即座に走り出した。巨大な一撃が階段を崩し埋めた音を背に聞く。ツルハシを振るわないでは地下倉庫へ行けなくなった。続けざまの一撃も高速で並行移動して避ける。やはり俊敏のポーションと同質かつ強力な効果が出ている。

 

「いいぞ相棒! そう! 思い出したぜ! お前さんは『ガンダールヴ』だ! 懐かしくて錆びも落ちるってもんだぜ! 俺のほんとの姿を見せてやる!」

 

 何やら左手の剣が急に耐久度を回復させたようだ。面白いエンチャントだから後で調べよう、とマインは思った。

 そして右手にダイヤツルハシを構えた。埋もれラージチェスト……スタック単位にまとまるまで雑多な品を入れておいた適当箱……から取り出したTNTが三個あって、それもすぐに持ち替えられるよう準備した。

 見上げる先には巨大ゴーレムがいる。威嚇するように両手を広げている。明確に敵対している。

 マインはグリンと首を回した。

 

 上等だぞ、コノヤロウ。

 

 実のところ、マインは怒っていた。目の前の巨大ゴーレムは建築物破壊の現行犯であった。


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