マイクラな使い魔   作:あるなし

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死亡メッセージと翼船と黄粉

 マイン・クラフトは最初それを壮大な巨塔と見ていたから、枯れたりとはいえ巨大樹なのだと気づいたその時、興奮のあまり首を滅茶苦茶に動かしながら闇雲なジャンプを繰り返しつつ右手を最高速度で振り回した。

 ルイズに押さえつけられた。

 

「マインお願い! 首取れちゃうから! いつか首取れちゃうから!」

「おっと目のやり場に困る光景だ。ぼくはクールにそっぽを向くよ」

「躾は大事」

「……船の目星はつけてある。僕が交渉してこよう」

「あらー? フフ……ウフフフフ」

 

 恐怖とは何か。

 それは危機に際して備えなき時に抱く感情であり、たとえば直下掘りの際の溶岩遊泳であり、たとえば財宝欲しさに落下した先の感圧板であり、たとえば無邪気に駆けた先の大穴であり……直近の例としてはルイズの拘束である。現在進行形のそれにマインは慄き固まるよりなかった。

 

「何だかこの先も楽しそうなことこの上ないけど……ねえ、ヴァリエール。あたしたちはここまでよね? あなたたちがこの町で何をしたか、アルビオンで何をするか、全部を知らないということにして」

「そうね。わたしとギーシュはそれぞれ実家にまつわる事情で学院をお休みするの。邪推はそれぞれの家への侮辱となるわ。あんたとタバサはラ・ロシェールを観光して帰還、わたしたちの欠席を知る……そういうことよ」

 

 殺られる。

 どんな死の瞬間にも感じた視界の赤さ……己の失敗を突き付けられるそれが次の瞬間にも訪れるだろうことを予測し、マインは静かに目を閉じた。既に死因は知れている。ルイズに爆破されてしまった、である。

 思えば何度もその危機はあった。この世界で目を覚ました直後の時、枕元に立たれていた時、寝込みを襲われた時……辛うじて死を回避してこられたのはマインの技術や行動の結果ではない。全てルイズの裁量だ。マインにはどうすることもできなかった。

 認めざるを得まい。生かされてきたのだ、と。

 

「約束は守るわ。でも一つだけ言わせてちょうだい……生きて帰ってきなさいね、ルイズ」

「死にに行くつもりはないわ。目的があってのことなんだから、そう簡単に死んでなんていられない。たとえどんな目にあったって……」

「ううん、違うのよ。あたしが言ってるのはそういうことじゃないの。たとえ失敗したとしても、成功の望みがなくなったとしても、死なずにちゃんと帰ってきなさいってことよ」

「……おめおめと、ということ?」

 

 粛々と、死のう。こうも密着されての爆発など、どうしようもないのだから。

 

「堂々と、よ。どうして一つや二つの失敗でしょぼくれなきゃならないの。あなたならわかるでしょ? 貴族の誇りはね、そんなに儚くもなければ安っぽくもないの。豪華に着飾るから貴族じゃないのよ。貴き者は、豪華な服と宝石で飾らなければ済まないほどに、その在り様が貴いのだわ」

「それは……自国で問題を起こしすぎて、トリステインの魔法学院へやってきたあんたらしい言葉ね? ツェルプストー」

「そうね……コモン・マジックすら失敗続きで、『ゼロ』なんて二つ名を貰ったあなたらしい言葉でしょ? ヴァリエール」

 

 そうだ、大変なことを忘れていた。マインは括目して松明に照らされる街並みへと顔を向けた。鶏猫牛だ。ダイヤ装備のロストは甘んじて受け入れるとしても、アレは駄目だ。絶対にマインのものである。

 昨晩眠ったベッドはまだ撤去していない。目覚める位置は石製家屋の屋上だ。真っ先に鶏猫牛をお座りさせた小庭へ向かわなければ。待機状態に不安があるのだ。現にエンダードラゴンもどきは手懐けたにもかかわらず見失ってしまった。やはり飛べるからだろうか。

 

「話をつけた。硫黄を運ぶ貨物船だ。風石が足りないようなことを言っていたが、それは僕の魔法で補う。『風』のスクウェアだからね」

「あらー、硫黄なんて剣呑だわね?」

「キュルケ、詮索も無用よ」

「わかってるわよ、ルイズ。それじゃ、いってらっしゃい。お土産の内容であなたの成果を計らせてもらうことにするわ」

「成果かあ。薔薇のごとき戦果を……って、ルイズ、君の使い魔は大丈夫かい?」

「うーん、なんか、ぼーっとしてるのよ。やっぱり首を振りすぎたんだと思う」

 

 ふと見れば、ルイズ以外の村人もどきたちがしきりに首を振っている。何かあったのだろうか。その位置にいると爆殺されることを免れないのに……と考えたマインは、己がいつの間にか窮地を脱していることに気づいた。ルイズが離れている。そうかそれか。死が遠のいた感動か。マインもまた首を動かした。

 

「ハァ……まあ、いいわ。行きましょう」

「あ、船倉! ルイズ、船倉に土を入れさせてくれないかな?」

「土? そんな時間はないし、既に硫黄が満載だったが」

「ああ、そんなぁ……ヴェルダンデ……せめて戯れるだけの量を!」

 

 ルイズが木製の階段を登っていく。後に続くのは金色頭部とウィッチもどきだ。赤頭茶顔と青頭子供はその場に留まった。マインは首を捻り、とりあえずルイズの後を追うことにした。

 そして、嵐のように首を振りまくることとなった。

 感動的な風景がそこにあった。

 大きい。なんて大きな船だろうか。まるで家のような船だ。しかも飛ぶ。その船には翼がしつらえてあって、水上ではなく空中を移動するのだ。何という発想か。この世界では空が随分と身近ではないか。エンダードラゴンもどき、鶏猫牛、村人もどきの次には大船が飛ぶ。そのうちルイズも飛ぶのかもしれない。

 しかしマインが最も感動したものは別にある。

 長年の謎が解明され、久しく希求していたものが発見されたのだ。

 物置らしき部屋で大量に見つけた黄色い粉……これと木炭とパワーストーン粉を混ぜたところ……火薬になった。

 火薬である。ああ、火薬であるぞ。

 クリーパーやガストやウィッチを狩りたて収集しなくとも、スタック単位どころかチェスト単位の火薬を確保できるのだ。素晴らしい。素晴らしすぎる。これで思う存分にTNTを作れるではないか!

 

「マイン、下に篭ってないで外を見てみない? それともやっぱり具合が悪いの?」

 

 ルイズの声をとりあえず無視して、マインは夢中になっていた。

 その内にグラグラと部屋が揺れ出した。迷惑だった。しばらくするとドーンと大きな音もした。

 部屋の扉がガンガンと叩かれても、作業を終えるまで、マインが部屋を出ることはなかった。


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