マイクラな使い魔   作:あるなし

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アクアストーンとボートと泳法

 マイン・クラフトは無心になっていた。

 掘って掘って掘り進んで、しばしば食事し、寝ることもなく掘り続ける。時にチェストを設置して大量の土、丸石、砂などをしまいこむ。回収の予定はないが何となくそうする。時に水底へ顔を出す。すると必ず奇妙な水流に見舞われるから、やれやれと通路に戻って穴をガラスブロックで塞ぐ。その下に松明を設置する。そんなことを繰り返している。

 

「静かなもんだなあ、相棒。このところ賑やかだったからなおさらにそう思うね」

 

 不思議剣がカタカタと鳴いている。親しげで、作業の邪魔にならない音だ。

 

「大概わかってきたけど、相棒はやることなすこと全てが面白いんだな。普通に考えりゃ苦行苦役なんてもんじゃないトンネル掘りでも、寝る間も惜しむくらいに楽しんでる。心の赴くままに、求めるままに、生きてる。てーしたもんだ。言うなれば三昧というやつか? 相棒は毎日が人生三昧ってわけだ……お、またソレか」

 

 松明を置かずとも暗闇が淡く照らされたから、マインは前進から採掘へと気持ちを切り替えツルハシも持ち替えた。

 ダイヤのようでいてダイヤでなく、ラピスラズリのようでラピスラズリでもない……それでいてツルハシを当てると発光するそれは新種のパワーストーンだ。その色調からアクアストーンと名づけた鉱石である。

 

「お? 休憩するのか? 確かにそろそろ一度寝た方が……って、違うか。ベッド出さずにかまどばっかそんなに並べたとこみると何か溶かすんだろ? それであれだ、その間に周りを掘り広げて鉄鉱石やら何やら見つけるわけだ。ほらあった。で、そうなるとまた面白くなってくるのが相棒だ。ホント、際限なく楽しむなあ」

 

 不思議剣の呆れたような鳴き声を聞き、マインはしみじみと頷いた。

 地下潜りはいつも止め所が難しい。次の瞬間にも貴重な鉱石が姿を見せるかもしれない。あるいは坑道や遺跡に出くわすかもしれない。そう思うと止められない。頻度こそまちまちながら、止めずにいれば何かがあるのは確実なのだから。

 さても先を急ぐ身である。ほどほどにしておくこととする。

 どうして急いでいるのか、マインとしても明確な理由はわからない。何とはなしに思い浮かぶのはピンク色の頭である。様々に防衛力を増した城にいる以上、安全ではあろうが。

 そんなことを考えていたからかもしれない。

 耳の奥にそれは鳴り響いた。 

 

『はぁ!? マインが落ちた!?』

 

 マインは飛びあがった。手に持っていた何かを投げ捨てた。思わずのことだ。

 思わぬ災難となった。

 投げたものはブロックにせんとしていたアクアストーンだった。それが石ブロックにぶつかって砕けるなり、大量の水が発生したではないか。たちまちのうちに簡易採石場が風呂になり池になり、更には湖になろうとしている。水害の発生である。

 

『この穴は底を貫通している。レビテーションで確かめた』

『何やってるのよ、あいつ……そういうことするのがあいつなんだけど……!』

『わー、凄い穴』

 

 凄い水勢だ。このままでは通路全体が水没しかねない。

 ところで耳の奥で複数の鳴き声が続いている。

 

『ところで、あなたは誰? この村の人……というかエルフ?』

『あ、えっと、その……ハーフですけど……あのっ』

『ふーん、ハーフエルフなの。もしもマインが迷惑かけてたらごめんなさいね。わたしはルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン王国の貴族で、マインの主人よ』

 

 轟々と水が唸る中、ルイズの名乗りを聞く。

 さてもマインは慌てない。水源となっている個所を封じるべく丸石ブロックを手に進む。いかな水流とて前進するマインを押しとどめることなどできはしない。

 

『……あの人の……』

『幻獣』

『タバサ、あんたそれいつも言うわよね?』

『異常だから』

 

 走る。水流に逆らい、水面から半ば身体を浮かせ、直立して。

 

『それは、まあ、そうだけど……でも良い異常よ? あれで可愛いところもあるし』

『彼はとっても働き者だと思う。可愛い、というよりはカッコイイかな?』

『異常』

 

 異常現象が起きた。

 水源らしき空間に丸石ブロックが置けないのだ。すぐ下までは水流を押し退けて積めたというのに。これでは水源を断てない。問題だ。このまま水量が増した場合……作業がしづらくなる。あと設置してきた松明が押し流されてしまう。

 ならばバケツだ!

 駄目だった。水バケツにはなったが水源が消えない。

 ならば丸石ブロックで立体的に囲い込む!

 とりあえずは封じた。しかし嫌な音がする。おお、なんとしたことか。丸石ブロックが一つ砕けた。凄まじい勢いで水が飛び出し、マインをかすめ、石ブロックの壁面を抉り壊した。まるで兵器だ。先の水底への激流といい、この世界の水流は扱いづらいことこの上ない。

 

『そりゃあ、あんたのウィンドドラゴンやキュルケのサラマンダーと比べたら、扱いづらいのかもしれないけど……それでこそのマインなのよ』

『……屈服させ甲斐があると?』

『何よそれ。違うわよ。わたしはね、マインの隣に立ちたいの。同じ風景を見たいのよ……って、あれ? 何これ? わたし、今、泣いてないわよね? 何か水が見える……』

 

 いよいよまずい。もう通路の水没は甘受しなければなるまい。いっそそちらへ水を追いやって進行方向への活路を見出すべきか。

 

『視界の共有?』

『え? これが? 水しか見えないけど……あ、でも、これって……!』

『下は海。あり得る』

『う、海って……彼、大丈夫なのかな?』

 

 いや、駄目だ。通路も建築物だ。どうしてむざむざと水没などさせられようか。

 

『真っ暗で、水が凄くて……でも立ち向かってる! マインだもの!』

 

 ピンク色の閃きがマインを衝き動かす。

 そうだ。発想を変えるべきだ。

 マインはむしろ通路への道を丸石ブロックで塞いだ。三重四重の壁で念入りにである。これで簡易採石場は密閉空間となった。急速に水位が上がっていく。水が満ちていく……満ちてなお水は発生し続ける。

 

(……なるほどな。相棒の狙いはそれか)

 

 松明に一瞬照らされて、マインは首を傾げた。不思議剣の鳴き声が耳を介さずに聞こえる。

 

(この『性能』なら確かにやれるかもしれねえ。すぐに拡散するとはいえ、継続的に力が加わるしな。だがそれにしたって途中までだ。水の精霊を振り切るには足らねえぞ?)

 

 鈍い音がそこかしこから聞こえてくる。心なしか窮屈だ。

 回収できるだけのものを回収し、松明呼吸を一回、マインは閉鎖空間の天井中央へと向かった。ツルハシを振るう。水中では使いにくいはずのそれも、この行為が『引き金』であると思うと妙に振りやすい。

 あと少しで水底というところまで掘り進める。

 グイグイと押し付けられる感覚……そろそろ秒読みか。

 

『海が何よ。空が何よ。マインは真っ直ぐに乗り越えていくわ!』

 

 発射である。

 水底を突き破って、とてつもない速度で、垂直上昇していく。

 己を砲弾に見立てた水流式水中砲……アクアストーン・キャノンとでも名付けておくか。

 

「やったな、相棒! 水の精霊が唖然としてたぜ!」

 

 グングンと水面が迫る。しかし上昇の勢いは減ずる一方だ。水の抵抗は空気の比ではない。

 しかし悪いことばかりではない。勢いを増やす手段もある。浮上運動だ。空中ではできなくとも水中でならそれができる。

 

「おお……これはまた奇妙な泳法だなあ……気をつけの姿勢でなあ……」

 

 パシャンと音を立てて、マインは青空の下へと顔を出した。

 そしてすぐにまた水流に巻き込まれた。

 

「奇怪な技ではあった。しかし寄る辺なきお前に我から逃れる術などない」

「くそ、折角ここまで来れたってのに!」

「沈め。深く。沈んでしまえ」

「逆戻りか……!」

 

 次はアクアストーンブロックでやってみよう。砲身も長くしよう。爆圧に似た水圧をそこへ集約すべく、水充填室の形は円柱を基本としよう。底部は半球形、上部へかけて円錐形にしていって砲身へつながるように……つまりは落涙型か。いや、それとも単純な球形の方が圧力を溜め込めるだろうか。

 

 いやあ、面白い。何度もやろう。

 

 マインは何度もやった。

 三度目で水面から十ブロックの高さに達した。

 六度目で着水の間際にボートへ乗り込むことに成功した。

 

「これが『過ぎる者』の力か……我、遂にそれを阻むこと能わず。この上は『大いなる意志』との約定に従い、ただ見過ごすのみ。彼の者の過ぎたる後の世界に在り続けるため」

 

 水平線に陸地の影を認めて、マインは首をグリグリと振り回した。

 山のように採掘したアクアストーンでもって、さて、他にどんな実験をしようかしらん?

 そんなことを考えていた。

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