マイクラな使い魔   作:あるなし

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食料とポーションと薔薇

 何ということだ……これは……何ということなんだ!

 

 広々とした空間設計にも、洒落た花の飾りにも、やり過ぎなほどに長いテーブルにも、繁殖管理に失敗したかのような村人もどきの大量さにも目もくれず、マイン・クラフトは目の前に並ぶご馳走に驚愕していた。

 焼き鳥、ステーキ、リンゴ、パン……これら馴染みの食料については、まあいいとして。

 未知の食料がいかにも美味そうに湯気を立てていて、しかもどれもこれもが複数種類の食材を組み合わせていると窺い知れるのだ。その食材自体も半分以上は原型を想像できないのだから。

 とてつもない贅沢の気配がして、マインは喉をゴクリと鳴らせた。

 どれもこれも、はっきり言って、食材を個々別個に食した方が効率がいい。咄嗟に栽培もできるし満腹度の合計も高い。冒険をするものの常識である。ウサギシチューのごとき食材の非効率化は堕落とさえマインは考えていた。

 ところが、どうだ。かくも手の込んだ食料の数々が並んでみれば……圧倒的ではないか。

 恐る恐るシチューを口に運び、飲んだ。

 

 美味い!? 美味いぞ! 美味すぎる!!

 

 未知の味はそのままに未知の喜びであった。具材の一つ一つを思う様咀嚼し、その芳醇さに酔いしれて、マインは一つの真理を悟るに至った。全ては「敢えて」なのだと。

 

 敢えて効率を捨ててこそ得られる価値って……それ、美学じゃん。

 

 これまでマインは食べる場所にしかこだわってこなかった。雪の舞い散る山頂で齧ったベイクドポテト、海面を見上げるガラスドームで食した焼き魚、養豚場を見下ろす石橋の上で小麦をチラ見せしつつ食い散らかした焼き豚……思えばいずれの食事も効率など度外視していたではないか。どうして食料にだけはそれをしなかったのか。

 

 教えられたな……村人もどきに。まだまだ世界を楽しめるという、そのことを。

 

 マインは笑顔で涙ぐんだ。生きることは感動の連続だ。エンダードラゴンを倒すと決めたその日から過ごした計画的装備調達の日々は、ダイヤ装備やポーションを充実させはしたけれど、ワクワクやドキドキに欠けていたのかもしれない。おっとやばい満腹度的にあと一品しか食べられない。

 

「あんた……物凄く幸せそうに食べるわね。食べ方はお行儀よくないけど」

 

 隣に座るルイズは呆れたような気配だ。呆れているのはマインである。ステーキやパンを食べるとはどんなクリーパーだ。それが長年追い求めた火薬の材料とでもいうのか。いや、村人もどきたちも肉食している。事件だ。

 

「ああ、使い魔さん。デザートにケーキはいかがですか?」

 

 黒色頭部がケーキを一切れ寄越してくれた。マインにとっては作る手間暇的に食料というよりは調度品であるそれも、ここにおいては純粋に食べて楽しむものなのだろう。いただく。とても美味しい。

 

「なあなあ、ギーシュ。今は誰が恋人なんだよ。羨ましいんだよ。どういうことだよ」

「君は前のめりすぎるな。恋とは追えば獣、追われれば花というだろう? 僕の場合は花は花でも薔薇さ。多くの女性を魅了しても……ふふ……棘持つ身ゆえ独占されることはない」 

 

 それにしても、とマインは首を振った。この場で一点だけ理解し難いことがある。食料と並んでポーションが置かれていることだ。

 まずもって用途がわからない。あるいは知識としては知る空腹のポーションだろうか。より食料を消費するために敢えてそれを飲む……いや、さすがにその「敢えて」は容認できない。そろそろ飲んで確かめてみようか。

 折しも、傍らに試飲に相応しいサイズの小瓶が落ちてきた……落とした金色頭部のやつはウィッチの類だろうか……中身の色は紫色である。毒のポーションではなさそうだが、さて?

 

「おお? ギーシュ、君が落としたその香水を平民が拾ったぞ?」

「……何のことかな?」

「やや、その鮮やかな紫色は……まさかモンモもおおおお!?」

「何を……って、うわわ、ちょちょちょっと君、何をするんだね!」

 

 美味くない。それに何のステータス効果も感じない。量の問題かもしれない。だからマインは飲み干すことにした。

 

「待て! 待ちたまえ! それはモンモランシーが丹精込めて調合した香水だ! 君の行いは彼女の技術と名誉を貶めている!」

「やっぱりモンモランシーのじゃんか! 金髪縦ロールは君のために巻かれているとでも!?」

「ち、違……いや今はそんなことよりもだね?」

「ギーシュ様! やはり貴方はミス・モンモランシーと!」

「うわあ、ケティ、誤解だ……って、わあ、全部飲んだだと!? 何てことを!」

「そんなに大切なら、宝箱にでもしまっておけばよろしいのよ! さようなら!」

「いや別にそういう意味ではなくてだね! 薔薇には薔薇の、香水には香水の……」

「どういう意味かしら? 私は大切ではないということかしらね?」

「な、ちょ、モンモ……」

「うそつき!」

 

 騒がしさに目を向けて、マインはポーションを頭からかぶるという不思議な儀式を目撃することになった。なるほどそう使うのかと手を打つ。やはりウィッチ的である。

 

「ど、どうしてこんなことに……」

 

 この金色頭部の真似をすれば、未知のポーションについても理解が進むのかもしれない。マインはとりあえず目に付いた一瓶を頭からかぶってみた。だがやはり何も効果がない。ルイズが何やら騒いでいる。

 

「ちょっと! 何やってるのよ、マイン!」

「そうだ、君だ……ゼロのルイズが呼び出した君のせいだ。どうしてくれるんだ! ていうか、どういう躾をしてるんだい!? 平民にしたってどうかしてる!」

「ええと、その、マインはちょっと変わってて……」

「それで済むものか! 僕が代わりに躾けてあげよう! まずは粗相をした罰だ!」

 

 金色頭部がバラを突き付けてきたから、マインは首を傾げた。ここの村人もどきは色々と道具を使う。

 

「ヴェストリの広場へ行く。今すぐに!」


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