随分と禁欲的な建物だなもし、というのがこの大村落に対するマイン・クラフトの見解である。
石造りであることはともかく、全体として装飾や遊び心に欠けているくせに壁ばかりが妙に厚く、窓も一つ一つが小さい上に数が少ない。中央の塔だけは優美な白色に輝いているが、それが却って周囲の塔を要塞じみた印象にしていて悩ましい。
「諸君! ご観覧あれ! この僕、ギーシュ・ド・グラモンによる決闘だ!」
さてもマインの案内されてきたこの日当たりのよくない中庭では、何やら金色頭部がバラを掲げている。ここの村人もどきたちはハアンでなくウオオと鳴く。こちらの方が景気がいいような気もする。
「ギーシュ! 決闘なんてやめなさいよ! マインが飲んじゃった香水は弁償するから……ね?」
「いやいやルイズ、もうそういう問題じゃない! もとより平民が貴族とテーブルを同じくすること自体に問題があったんだ! 僕の行うこれは正しい秩序を回復させるためのものなんだよ!」
「貴族と平民が決闘する秩序なんてないわよ!」
「そ、それは……ルイズ! 随分とかばうじゃないか! そこの平民が好きなのかい?」
「へ、変な言い方しないで! 自分の使い魔なんだから……わたしの召喚に応じてくれたんだから……た、た、大切に決まってるでしょ! あんたは自分の使い魔を嫌ったり、傷つけたりできるっていうの?」
「何てことを言うんだ! 僕がヴェルダンデを嫌うだって? 傷つけるだって? あの可愛らしくも愛おしいヴェルダンデを? 馬鹿なことを! まったくもって馬鹿なことを!」
「馬鹿はあんたよ! そもそも、あんたが誰か一人をきちんと好きでいたらよかった話じゃない!」
「だ、だからそれは、薔薇が……」
日陰にいると空の青さがよくわかる。満腹を抱え、村人もどきにまみれて、マインはつらつらと思う。
建てたい。この世界にも自分の在ることの証を打ち立てたい。建材不十分な状態での大規模建築はしばしば妥結を必要とするし、それが後々に際限なき増改築の日々を招くとは承知しているけれども……それもまた楽しいから。
そのためにも、まずはベッドだ。ハサミは用意した。日の高い内に草原や森へ繰り出して白いのや黒いのや茶色いのを毛刈りだヤッホイ。柵で囲い込んでおくことも忘れまい。
「待て! 逃がしはしないよ!」
不思議なことが起きた。マインの周りに突如として七体の全身甲冑がスポーンしたのだ。
武器こそ持っていないが、顔を覆うヘルメット、曲線を主とした造形のチェストプレート、レギンス、ブーツ……それらどれもが何とも味のある金属で構成されている。レア・スポーンではないだろうか。これは。
「僕はメイジだ。故有れば平民を打擲することに魔法を使うことをためらわ……何だって!?」
レア・スポーンが一斉に襲いかかってきたから、マインは上へ逃れた。ジャンプしつつ足元に土ブロックを積み上げたのだ。危機回避の基本である。十ブロックほど積んだ後はクモ返しとして土柱に屋根部分を作った。これは冒険の日々の習慣である。ベッドがあれば思わず設置していたかもしれない。
「そういう風にも使えるんだ、あんたの土……」
「ルイズ! 君の使い魔はメイジなのかい!?」
「さあ……どうなのかしら?」
「わからないのかい!? だってあれは……って、この、なんて太々しい態度なんだ!」
マインは中腰になって縁を歩き回り、しげしげとレア・スポーンを観察した。中々に強そうである。近いところとしてはウィザースケルトンだろうか。ネザー要塞における攻防が懐かしく思い出される。
「どうやら少々の土魔法を使えるらしいが、そんなもので僕の『ワルキューレ』に対抗できるとは思わないことだ! 柱を崩して地面へ……えええ!? え? ええええええ!?」
「あー……そう。あそう。あんたの土ならそういうこともあるのかもね。ギーシュが騒いでくれるから、なんか冷静に見れるわ……」
レア・スポーンが土ブロックを壊した。これもまた希少な行為に思えて、マインは中腰のままに首を傾げまくった。これら全身甲冑にはエンダーマンの要素もあるのかもしれない。
とりあえず五体倒そう。マインはアイテムスロットを確認しつつそう思考した。繁殖できるようにも見えないが、能力やドロップの確認もしたいところであるし、二体も残しておけばいいだろうという判断だ。
まずは射殺すか。おや、また妙に効率的な破壊が思いつく。
「め、目の錯覚か!? どうして崩れないんだ!? まるで土全体が浮いている……ひょっ?」
一撃だった。頭頂部に命中して股下まで抜けた。これにはマインも驚いた。金属装備を相手に強力すぎる。
青紫色にエネルギーを揺らめかせる弓をまじまじと見る。パワーとインフィニティをエンチャントした対エンダードラゴン用の弓である。数で勝負するための武器だ。だからもう二射目を引き絞ってしまった。この射角はきついと思いつつもう一体を倒した。
「矢? 弓矢なのか? で、でも、矢がない……飛んでくるのに残らない!?」
「……もう、魔法だと思えばいいんじゃない?」
三射目でマインは確信を得た。まさかとは思っていたが三度も確かめれば嫌でもわかる。
ドロップがない。レア・スポーンのくせに何もドロップしない。ガッカリである。その防具欲しかったのに。豚でも肉を残すというのに。
こうなれば被ダメージ計測も一発だけにしようそうしようと思いつつ、マインはダイヤ装備一式を身にまとった。これらも全てエンチャントを組み合わせてある。見た目は角張っていてレア・スポーンに比べると見劣りするが、性能は最高峰のものだ。武器はダイヤ剣である。
「あ……ああ……『ワルキューレ』が……」
飛び降りるなり、一体をジャンプして切り下ろした。クリティカルのタイミングがとてもとりやすかった。さしたる手応えもなく一刀両断である。
続けて別の一体を通常攻撃で切ってみた。こちらも一撃で終わってしまった。見た目ほどには丈夫な素材ではないのかもしれないと思う。それにしても身体がよく動く。
残り二体については回りこみつつ柵で囲んだ。最近は柵の上に柵を重ねることも容易いマインだ。とりあえずの拘束であったが、何としたことか、二体は細部を観察している間に消失してしまった。すわテレポートかと周囲を見回すも、何やら立ち尽くす村人もどきたちがいるだけである。
「参った。僕の負けだ……」
金色頭部がバラを落として何やら悲しげに鳴いた。
拾えばいいんじゃないかな、とマインは思った。