目の前で繰り広げられる恐るべき光景に、マイン・クラフトはオロオロと平行移動を繰り返していた。
「はぁ、はぁ……やっぱり、使った魔法によって距離の違いが出るのね」
爆発だった。連続爆発であった。マインが適当に石炭の露天掘りをしていた丘は今やちょっとした谷と化した。ピンクでクリーパーなルイズが何やらブツブツと鳴きつつ座り込んでいるが、今にもその小柄な身体が点滅しそうで、マインは気が気ではない。もう少し離れるか。
「込める力や、魔法の難易度で、爆発力の違いもある……それはつまり、私の魔法が途中まではちゃんと発動しているということ。最初から失敗なら、どれも同じ爆発になるはずだもの……どこかで間違うのよ。わたしは、まずそれを理解しなくちゃ……」
やはりルイズはクリーパー的存在だ。マインは唾を呑んだ。最近はあまり爆発しなかったから、あるいは金のリンゴでも食べたかして村人もどきになったのではと油断していれば……この所業である。
そもどうしてこの危険生物がここにいるのか。マインはそそくさと土と石を回収しつつ首を捻りまくった。
朝からである。今朝、マインが仮拠点のベッドで目を覚ますと、枕元にルイズが立っていた。じっとマインを見ていた。
声にならない叫び声を上げて多目的ホールの端にまで走った。振り向くとクリーパーというのは本当にショッキングであるが、それ以上の衝撃であった。何しろベッド脇だ。たとえ不発弾化したルイズとはいえ……いや、それも誤解だったが。
「魔法を成功させるのは……ゼロなんて言われるわたしがそれをするのは……途方もないことなんだって、認めなきゃ。メイジにとっての当たり前が、わたしにはそうじゃないんだって……最後の最後に求めるものなんだって……そう受け止めないと、もう、努力の仕方もわからない」
胸をざわめかせる正体不明の焦燥感があって、マインは意味もなく鉄ツルハシとベイクドポテトを高速切り替えした。どうしてかエンダーパール収集の日々が思い出される。夜の砂漠を彷徨う、あの不毛ともいえる時の過ごし方が。
「……いつか報われるのかな、わたしの努力……」
気づけば、マインはTNTを抱えていた。
谷の底へ飛び降りて、これでもかというほどに設置していく。今のところ火薬入手の当てがないから貴重なスタックではある。それでも勢いのままに積む。あ、やばい。谷から上がる段差がちょっときつい。
「え、何? マイン?」
必死のパンチで土階段を形成、そしてジャンプにつぐジャンプだ。まずいまずいぞ急げ急げ!
うわ間に合わなっ、爆発爆発、ぎゃあああ、爆発爆発大爆発。少しおいてまた爆発。
TNTは気紛れな秒数で誘爆するけれどそこにさりげない詫び寂びがあるのかもしれない……などと適当なことを思いつつマインは吹き飛ばされた。
「えええええ!? マイン、あんた何したの!? え!? 大丈夫!?」
飛び散る土やら石やらを即時回収しつつ立ち上がって、マインは再び谷へと駆け出した。勇んで飛び降りてそれなりのダメージをくらった。深くなっていた。さもありなん。
そして惨憺たる様相を見せる谷底を土ブロックで平たく均す。すぐさま木材ブロックに持ち替えて建築を開始だ。まずは床。次は壁。そして天井。素人の手順ながら玄人の速度で作業していく。作業台も適当な位置だ。ドアを作るためだけのそれ。
「す、凄い……けど。凄いけど、何か、味も素っ気もない建物ね?」
四角四面の求積しやすき造形……実に見事な豆腐である。右も左もわからなかった頃に建てたきりのこれは、マインの初めての家を再現したものだ。
そしてこれにもTNTを設置する。今度は退路を確保してからだ。そいっと爆発。残った木材を鉄斧で手早く回収する。そして今度は丸石や階段も使って狭いながらもそれなりの家を建てた。アイテムスロットにガラスを入れていなかったので窓は柵で代用だ。ルイズのところに戻り、一度大きく頷いてから、三度のTNTである。
「わかった……わかったわよ。もういいから。もう、充分だから」
土ブロックでの縄張りを元に土台、柱、作業用足場などを組んでいたマインであるが、側にピンク色の頭が見えたことでふと我に返った。首をあっちへこっちへと動かして現状を把握する。何で自分はここに家を?
「あんたって、色々と非常識だし、オールド・オスマンもビックリするくらいに凄いことするけど……全部、こんな風に手作業だったのね。あの畑と同じで、どれもこれも完成すれば見栄えがするけど、そこまでの過程は泥塗れだったのね」
見渡せば惨憺たる地形破壊……いっそここに地下階を有する大型建造物を建てるのも面白いかもしれない。心を乱した妙な衝動もいつの間にか消えて、今、マインは新たなる建築意欲にニンマリとするばかりだ。
「フフ……しかも、最初から上手だったわけじゃないのね。あんたは最初から凄かったわけじゃない。それでもずっとずっと努力してきたから……夢中になってきたから……だから今、あんたは堂々としてる」
コツン、とマインの肩に触れるものがあった。何かと思えばピンク頭である。
「その……か、かかか……カッコイイと思うわ。そういうの」
クリーパー的存在との耐爆エンチャント装備もなしでの接触である。悲鳴を上げるべきところだが、不思議とマインはそれをしなかった。緊張感は半端なものではないのだが。
「わたしも、もっともっと夢中になるわ」
離れてくれた。爆発しなかった。マインは安堵した。
「それができて当たり前よ。何たって、わたしは、あんたの主人なんだから!」
そういえばもうすぐ大村落の中央塔で豪勢な食事ができる時間だ。
マインはのっしのっしと歩くルイズの後に続きつつ、空きっ腹を埋める食料をあれやこれやと夢想した。