ロモス城下町を出て、幾日か経った。
この世界が、我々の世界と同じ時を刻んでいるのならば、おおよそ2日だろうか。
その間、我々の前に幾度もモンスターが立ちはだかったが――。
文字どおり、蹴散らした。
この世界に来たばかりの我々には、この世界のモンスターの名前など分からなかったが――。
ユースケが『モンスター図鑑』なる物を購入したので、おおよその理解を得られた。
この世界に来た当初、襲い掛かってきたライオンの様なモンスターは、『ライオンヘッド』と言い、それなりにレベルの高いモンスターだったようだ。
――他にも、青い小型の軟体モンスター『スライム』、人間の子供程の大きさの体躯を持つ、角が生えた兎である『一角うさぎ』。
人型の獣人である『リカント』に、足の無い鳥のような『キメラ』など。
いずれも、修行の足しにもならない様な有象無象ばかりではあったが――。
「とは言え、『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』とも言うからな……油断だけは決してすまい」
「それは良いけどさ、どうするんだこれから」
「むぅ……」
現在は2日目の朝で、我々は○イジのアレ――串に刺したチーズを火で炙り、とろっとろに溶ける寸前の物をパンに乗せた物――を、朝食にしながら今日の予定を考えていた。
……しかし、このチーズは絶品だな。
朝昼晩と、2日間続けて食べているにも関わらず、飽きさせることが無い。
……以前は、死に損ないなどと言う暴言を吐いてしまったが……これだけのチーズを作る男に対して、失礼極まりないことだったと――今では反省している。
ロルフ……恐ろしい男よ……。
「地図を見る限りじゃ、ここ――ラインリバー大陸の北部には漁村があるらしいけど、そこで船を貸してくれるかどうか……」
この大陸のモンスターが、あまりに手応えが無いので……船で別の大陸――差し当たってギルドメイン大陸にでも行こうと考え付いたわけなのだが――。
我々の目標は武術大会であり、修行や見聞を広めるのに勤しんで大会に参加出来なくなったら、本末転倒である。
「――やむを得まい。計画は中断して……ん?」
しかし此処で、私の灰色の脳細胞がジャストモーメントを唱えた。
――何か、大事なことを忘れているんじゃないか……と。
そして、ふと――思い付いた。
「ユースケ……例の道具袋には、前の世界から持ってきた道具が入っているんだったな?」
「?そうだな……言っておくけど、飛空挺は使えないぞ?リモコンがあっても、本体の船はあの世界にあるんだし――」
「それは分かっている」
ユースケは飛空挺を所持していた――正確には、飛空挺を呼ぶためのリモコンを所持していた――だが。
私自身、魔王との最終決戦――の前に、我が師である魔将グラントと対峙するコイツらに加担したわけだから、詳しくは分からないが――。
試しにそのリモコンを使ってみたが、飛空挺が現れることは無かった。
当然だな――これはあくまでもリモコンでしかなく、飛空挺自体はあの世界にある――今しがたユースケが言っていた通りだ。
「私が言いたいのは、飛空挺の他に乗り物は無いのか?ということだ。――確か、『魔法のボトルシップ』なるアイテムがあったと、聞き及んでいたが――」
以前、魔王軍に居た時に魔将の一人であるデスマスカレイドが、そんなことを言っていた気がする――。
「……………あ」
「……貴様、もしかしなくても忘れていたな?」
「あ、あはははは……」
――どうやら、本気で失念していた様で、さしものこの男もネタに走ることすら出来なかった様である。
「まったく、貴様という奴は……おおかた、そういった道具の管理はリィムさんや、あの医者に任せきりだったのだろう……嘆かわしい限りだ」
「そ、そんなことないぞ?普段はちゃんと道具の管理は俺がしてたし、ただ、使うにしても飛空挺しか使ってなかったから、忘れちゃってただけなんだからねっ!?」
……訂正。
やはり、ネタに走らずにはいられない男だったらしい……。
「んーと……お、あったあった!ほら、これが魔法のボトルシップだ」
道具袋を漁っていたユースケが取り出した物は……なるほど、確かにボトルシップだ。
よく出来た帆船模型が、瓶の中にある。
「このボトルの蓋を開けると、中の船が大きくなって出てくるって仕組みさ!――まぁ、細かいことは分からないんだけどな」
自慢気に語りながら、最後に自信無さげに呟くユースケ。
何か魔法の力が働いているのだろうが……やはり、我々では分かりかねるな。
「よし、では早速それで――」
「ちょーっと待ったぁ!!」
「――今度はなんだ?」
「ボトルシップのことを思い出したら、もっと良い物があることも思い出したのさ!」
そう言って、ボトルシップを仕舞って再び道具袋を漁り出すユースケ――。
「……っと、コレコレ!」
取り出した物は………。
「……これは?」
「これは『魔法の座布団』だ!」
――そう、座布団だ。
紫色で、少し大きめの――○点の大喜利コーナーで使われている様な、そんな座布団が二枚……。
「これは空飛ぶ座布団で、これに乗ると着物姿になって――あまり高くは飛べないけど、空を飛ぶことが出来るんだ。ただし、ちゃんと正座をしなきゃならないけど――」
――色々と突っ込みどころが多すぎて、正直困り果てているのだが――。
「これが空を飛ぶというのは……まぁ、良いとしよう。だが何故に正座?何故に着物姿になるのだ?」
「それが咄家の――心意気って奴だからさっ」
「貴様はいつから咄家になったのだっ!?」
――とにもかくにも、空を飛べる手段を手に入れられたのはありがたい……。
正直、船では移動に時間が掛かりすぎる可能性があったからな――。
地図を見る限りでは、大陸と大陸の間は然程開いていない様に見える――。
距離的には、半日もあれば着くだろう。
だが、海には海のモンスターがいるので、それらを相手にする時間を加味すると、少なく見積もっても予想の倍は掛かる。
その上、帆船である以上は波の動きや、風の流れなども影響してくる筈だ――。
ちなみに、『魔法』のボトルシップというだけあって、操縦や管理という面においては面倒が無いらしい。
「しかし、座布団に正座して飛行とか……些かを通り越してシュールだな……」
「そうか?結構イカすと思うけど――」
「――貴様の感覚は絶対におかしい」
***********
こうして、魔法の座布団の力で大陸を渡った彼等は――ギルドメイン大陸へと降り立つ。
――余談だが、イオリスの着物姿は笑○の紫の人のそれに、大変酷似していたとかいないとか……。
魔法の座布団は、下手な船よりスピードが出る上に、簡易的な魔力障壁でも張られているのか……風に煽られることも無かった。
それ故、予想より早く大陸を渡れたのは彼等にとっては僥幸だろう。
彼等が降り立ったのは、ギルドメイン大陸の西部――。
そこから彼等は、徒歩で周囲の散策を開始する。
彼等の目的はこの世界の地理を知ること、そして修行のために新たなるモンスターと戦うことである――。
そのため、魔法の座布団から降りての徒歩であった……もっとも、下手にあの姿で人里に近付いたら、いらぬ警戒を与えかねないという不安もあったのだが。
モンスターに関しては、ラインリバー大陸よりワンランク上のモンスターが現れたが、いかんせん彼等が強すぎたので、鎧袖一触となるのはある意味当然と言えよう。
「――なぁ、なんか弱い者イジメをしているみたいで気分が悪いんだけど……」
「ふん、襲い掛かってくるコイツらが間抜けなだけでは無いか!……とは言え、こうも一方的では……な」
修行の足しにもならない……とは、イオリスの談だが――。
ユースケは元より、当のイオリスですら哀れみを通り越して、躊躇いを感じている様だ。
「とりあえず、何処か町でも探さないか?いざとなったらテレポートの目印になるし、ぶっちゃけベットが恋しいです……安○先生……ッ!」
「誰が○西先生かっ……しかし、確かに一度大きな町に行くのもアリ……か」
彼等は相談の末、大きな町を探すことを決めた。
地図には『カール王国』という表記があって、この周囲を治めている国の中心地がそこであり、そこには城と城下町があるという。
「いっそのこと、俺たちだけで修行したほうが逆に効率的な気がするんだけど――」
「むぅ……一理あるな。大会前に互いの手の内が曝される可能性はあるが――」
「それ、一緒に旅をしている時点で今更だよな?」
「うぬぉ!?しぃまったああぁぁぁッツ!!?」
「……まぁ、別行動したらしたで色々と面倒だけどなー」
……と、珍しくユースケが突っ込みに回る中、今後の方針について談笑しながら進んでいく……。
もっとも、彼らの紡ぐ声は直ぐに途絶えることになる――。
眼前に広がる、凄惨な光景のために――。
***********
「……な、なんだよコレ……」
俺たちは、カール王国を目指して歩いてきた。
けど、俺たちが目の当たりにしたのは……。
かつて城であった物、かつて町であった物……そして、かつて人であったモノ……。
「……どういうことだ?廃墟――というには、新しすぎる……壊滅してから、然程時間は経っていない様に見えるが……」
壊滅……そう、コレは壊滅なのだろう。
城や町は無残にも壊され、人は打ち捨てられている……人の形を保っている人は、まだ良い。
全身黒焦げで、老若男女の区別すらつかない人も数多かったのだから……。
――俺は以前に、似たような光景を見たことがある……いや、見せ付けられたことが――。
「っ!?」
「誰だっ!!」
俺とイオリスは人の気配を感じ、警戒心を強めながら後ろを振り返った。
「ま、待ってくれ。おれは怪しい者じゃないよ……」
そこに居たのは、満身創痍という言葉がピッタリ嵌まりそうな、包帯と傷だらけの男。
軽装の鎧を着込んでいて、その鎧はそこいらに打ち捨てられている、この国の兵士だっただろう人たちの物と――同じ物だ。
「この国の兵士……か?」
イオリスが警戒心を解き、その人物に問い掛ける――。
俺も彼から敵意みたいなモノは感じられなかったので、警戒を解くことにする。
「あぁ……そういうアンタたちは?」
「俺たちは、旅の途中でここに立ち寄ったんだけど……教えてくれ、いったい何があったんだ……?」
「……ああ」
***********
「魔王軍……か」
「よもや、この世界にも魔王軍が存在するとはな……」
彼――元カール王国の兵士であるアンディから、ある程度の事情を聞くことが出来た。
このカール王国は、かつて魔王を倒した勇者が居たことのある国で、その勇者に負けじと腕を磨いてきた屈強な戦士たちが、数多く存在した国らしい。
それまで、その強さで魔王軍の進攻を拒んできたらしいけど、その均衡は崩れさってしまった。
曰く、無数のドラゴンを率いた魔王軍が突如として襲い掛かってきたそうだ。
ドラゴン……前の世界にもいたモンスターだけど、中々に厄介なモンスターだったことを覚えている。
口からブレスを吐き、その巨体に見合った強靭な筋力から繰り出される重い一撃と、鋼鉄以上の強度を持つという竜鱗による鉄壁の防御力――。
俺のこの鎧も、そんな竜鱗から作られているわけだから――その硬さは身を持って理解している。
――この世界のドラゴンが、同じような強さを持っているかは分からないけど、ね。
「まぁ、私としてはドラゴンよりもあの男の兄を一撃の元に打ち倒したという、魔王軍の将の方が気になるがな」
彼の兄はこの国の騎士団長を勤めていて、隣国にもその名が知れ渡る程の英雄だったそうだ。
それこそ、剣の腕ならばかつてこの国に居た勇者に勝るとも劣らない程だったとか――。
「剣の勝負では互角だったのに、一撃でやられた……だったよ、な?」
「あぁ……全く、もう少し早くこの世界に来ていれば、その強者と立ち合えたかも知れないものを……無念極まりない、な――」
「……不謹慎だぞ、イオリス。こういう時にする話じゃないだろうに……全く」
「貴様から話を振ってきたのではないかっ!!」
……なんて、話しながらも俺たちが何をしているのかと言われたら。
一言で言えば、アンディの手伝いになるかな……。
「――どうかしたのか?」
「いや、何でもないよ……それより、こっちは粗方終わったよ」
「そうか……それじゃあ、少し休憩しようか」
――そう、死んでしまった人たちを弔う手伝いを……。
事情を聞いた俺たちは、(アンディの姿があまりに痛々しかったので、キュアフォースを奢ってやった後)この場を後にしようとした。
アンディはこれからどうするのか聞いたら、彼は町の人や城の人たちを弔うのだと言う。
――いてもたってもいられなかった俺は、彼の手伝いを申し出た。
……イオリスは渋い顔をしていたけど、今はこうして進んで手伝いをしている――。
「すまない、関係無いアンタたちにこんなことをさせちまって……」
「良いよ……こんなの見たら、放っておけないからさ……な?」
「ふん……このお人好し馬鹿が――だが、命を懸けて戦った戦士たちや無辜の者たちを、野晒しにするわけにもいくまい――」
――以前のコイツなら、無駄死にした奴らなど放っておけ……とかって暴言を吐いていたんだけど……それとも、コッチが素なのか?
ま、不味い……ますます俺の主人公としての立場が……。
「それより、貴様はこれからどうするのだ?」
「――国もなくなって、家族もいなくなっちまったからなぁ……せめて、兄や仲間が眠るこの地で、墓守でもしながら過ごすさ……」
力なく、イオリスの問いに答えるアンディ――それも仕方ないのかも知れないけど……。
それでも、俺は尋ねたかった。
「お前それでいいのか……?」
悔しくはないのか――と。
「悔しいさ!!出来るなら、俺の手で兄の仇をとりたい……魔王軍をこの手で滅ぼしてやりたいっ!!……けど、しょうがないじゃないか!!アンタらは、あれを見ていないから……あの恐ろしい悪魔を見ていないから、そんなことが言えるんだ!!」
アンディは、溜まっていた物を吐き出す様に――怒りを顕にした。
その怒りは、俺たちに向けたものか、魔王軍に向けたものなのか――はたまた、自分自身に向けたものなのか……。
「……勝てるわけない。周辺諸国から、最強と謳われたカール騎士団が……その頂点に立っていた兄が、やられてしまったのだから……今更俺なんかが――」
「――話をしよう」
俺はそんな彼に、かつての自分を見ているような錯覚を覚えた――。
「むかぁーし、むかし……ってほど昔じゃないけれど。あるところに、一人の青年がおりました」
「な、何を……」
「………」
だからだろう――話したくなったんだ。
弱くて……愚かで……それでも立ち上がった、馬鹿野郎の話を。
「その青年は、容姿端麗のイケメンではありましたが、ひどく無気力な青年で――ニート最高!とか言っている、どうしようもない奴でした」
「ニート……?」
「――働いたら負けとか思っている人種のことだ。まぁ、イケメン云々を含めてスルーしておけ。大事なのはそこじゃない」
……何か、イオリスの奴が聞き捨てのならないことを言った気がする――けど、確かに大事なのはそこじゃないから、荻原 祐介はクールに流すぜ!
「――ある時、青年は勇者に選ばれたんだ。勇者として、魔王を倒す様にって――今まで、戦ったことはおろか……喧嘩をしたことすら、片手で数えるくらいしか無かった青年は、勿論良い顔はしなかった。けれど、周囲におだてられて、チヤホヤされてさ……その気になっちゃったんだな。何の覚悟も持たずに、さ」
「…………」
「そのせいで、自分なんかより強い――それこそ、勇者と呼ぶのに相応しい男が死んでしまった――そのことで、弱腰になっていた勇者(笑)は、さらに誇り高い若い王様に庇われてしまう」
俺は、ゆっくりゆっくり思い出す――ヘッポコ勇者の黒歴史を。
「たまたま、その国を訪れていた勇者(笑)と、その仲間は魔物の軍勢に襲われるその国を助けるために、弱腰になりながら戦ったよ。……結局は、助けられなかったけど――でも、せめて王様だけでも助けようって思ったんだ……けど、実際に助けられたのは勇者と仲間だった――」
今でも、鮮明に思い出せる――俺とピータンを庇って、魔王の配下と対峙するルイの背中を。
魔王軍に国を壊滅させられ、一緒に逃げようとして――隠し通路へ俺たちだけを逃がした時の、トンヌラ王の表情を――。
「勇者は年甲斐もなく泣きじゃくったよ――悔しくて悔しくて……二度も守られて、また助けられなくて……自分にそんな価値なんか、あるわけないのに……ってさ」
けれど、そんな俺でも――。
「それでも、仲間に発破をかけられて、悔しさをバネにして立ち上がったんだ。もう、こんな想いは繰り返してたまるもんか――ってね」
「それで……どうなったんだ?」
アンディが話を促して来たので、俺はニッと笑って答えた。
「それからも、辛いことや悲しいことはあったけど――彼は勇者として戦い抜いたよ。王様と、勇者に相応しい男の無念を晴らして、さ」
そこまで言って、俺は一息つく。
「まぁ、どこにでもある愛と勇気のお伽噺さ」
「………」
「それでユースケ、貴様はコイツに何を求めているのだ?よもや、我等の仲間になれとでも?」
「アンディがそれを望むならね――旅は道連れ世は情けという名台詞があってだな……」
けどまぁ、それは彼が望むなら――だ。
「そんなヘッポコ勇者でさえ立ち上がったんだ――アンディだって、立ち上がれると思ってね」
そう、ヘッポコ勇者が仲間の支えで立ち上がった様に、彼が一人で立ち上がれないなら――支えになってやろうって。
彼とは出会って間もないけど、自分と重ねて見てしまって他人事には思えなくなってしまったんだ。
イオリスの言うように、お人好し馬鹿かもなぁ――。
「……けど、おれは……」
「そう悲観することもあるまい」
アンディは一度、自分の拳を強く握りしめたけれど、それは直ぐに力なく解かれてしまう。
そんな様子を見て、イオリスは徐に口を開いた。
「ひとつ聞くが、我々が此処で死者の埋葬を手伝う前から、貴様は埋葬をしていたのだったな――」
「あ、あぁ……魔王軍が襲って来た後、決して軽くない傷を負ったおれは、命からがら助けを求めに向かい……結局、途中で力尽きて倒れた。……あの時、旅の剣士が居てくれなければ兄の埋葬はおろか、おれ自身も事切れていただろう――その旅の剣士も、兄の埋葬とおれへの応急手当てをした後、この地を去って行った……何やら慌てていたようだったが」
その話は此処に来た時に、アンディから聞いていた。
そのあと、アンディは何日か療養生活を続けたけど、居ても立ってもいられなくなって人々の埋葬を行ったとか――。
「肝心なのはそこじゃない。貴様はその後、いの一番に何処に向かった?まさか手当たり次第に埋葬を始めたワケではあるまい?」
「あ、あぁ……あの時、俺は城へ――この国の女王であるフローラ様や、重臣の方々の安否を確かめるために向かった……しかし、城は見るも無残に壊し尽くされていた……あれでは、もう――」
「だから貴様は阿呆なのだ――ところでユースケ」
一息、呆れた様に溜め息を吐いたイオリスが、今度は俺に視線を向けた。
「なんだよ?」
「貴様は先程この男に語ったな?国を魔物に滅ぼされ、守るべき王に助けられたヘッポコ勇者の話を」
――確かに、ヘッポコ勇者だったし自分で言い出したことだけど……コイツに言われると腹が立つな――。
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「――貴様も阿呆か?……ならば聞くが、そのダメダメ勇者はどうやって助けられた?魔物の群れに襲撃され、周囲に逃げ場が無い状況で……だ」
この野郎……苛立ちが有頂天になる所をグッと堪えて、俺はイオリスの質問に答える――。
「それは、秘密の抜け道があったんだよ。だから――……あ」
「やっと分かった様だな?そう、抜け道だ。大きな国の城には外敵の襲来に備えて、秘密の抜け道を用意している場合が多い。ならばこの国にも、そういった物があると考えて然るべきだろう」
「だ、だがおれたち騎士団はそんなことは聞かされていない――」
「だから阿呆だと言っている。幾ら『騎士団』とは言え、一般兵に毛が生えた様な貴様らにそんな秘密が知らされているわけなかろうが」
そう言えば、アンディは『騎士団』に所属する兵士で、騎士では無いって言っていたっけ?
「恐らく知っていたのは女王や重臣――その身辺を警護していたであろう者たち……或いは貴様の兄ならば知っていたやも知れんがな」
「し、しかし今アンタが語ったのは憶測に過ぎない!そんな証拠は何処にも……」
「……頭の固い男だ。ならば証明してやろう――ユースケ、貴様も手伝えよ?」
「いいですとも」
休憩もしたからな。
俺とイオリスは徐に立ち上がり、城があったと思われる場所へと足を向けた――。
「!ま、待ってくれ――!!」
その後を、慌ててアンディが着いてくるのを背後に感じながら――。
***********
「――キャオラァッ!!!」
「奮っ!!!」
「…………」
城の跡地と思われる場所にたどり着いたユースケたちは、城の中――玉座に位置する場所を徹底的に掘り返していた。
――ユースケとイオリスは、自身の倍以上の体積がある瓦礫を、千切っては投げ、千切っては投げしており――着いてきたアンディは唖然とする他無かったが。
「にしても、こうやって瓦礫を退けるのも、面倒ではあるが――いっそのこと、魔法か何かで吹き飛ばせば楽なのだが――なっ!」
「そんなことをして――どっせい!!証拠ごと吹き飛ばしたら、不味いって言ったのはお前だろ?それに……ウェーイッ!!!ふぅ、もし瓦礫の下敷きになった人がいたら、その人ごと吹き飛ばしかねないからな……」
「それはそうだがな――っと、コイツは大物だな。ユースケ、手伝え」
「ロルフならこれくらいの瓦礫も、一人で投げ飛ばせるんだろうなぁ……よし、いくぜ――」
会話を続けながら、瓦礫の撤去を続けていた二人は、最後に表れた巨大な岩盤――。
体積的には、人の十倍以上は軽く超えているであろうそれの両端を、それぞれに掴むユースケとイオリス――そして。
「どりゃあっ!!!」
「むっしゅむらむらぁっ!!!」
ブオンッと振りかぶり勢い良く投げ捨てられたそれは、崩れた城壁から外へと向かい――しばらくしてから。
「――――ッ??!!」
何か強烈な破砕音と激突音を空気中に響かせ、微かな大地の揺れを以て、その末路を伝えることと相成った。
「ちょうど玉座の辺りだったか――」
「ということはこの辺に……おっ!おーい、アンディ!!」
「ッ!?ど、どうしたんだ?」
呆然自失と化していたアンディは、ユースケの呼び掛けに気付いて彼等の元へ向かった。
――そこにあったのは。
「こ、これは……」
「――これで私の憶測を実証出来たというわけだな?」
瓦礫で埋め尽くされてはいるが、確かに階段の様な物があった跡を発見したのだった――。
「此処に到るまでに兵の亡骸こそあったものの、非戦闘員は勿論、女王と思われる亡骸も無かった。既に脱出していると見るべきだな」
イオリスは証拠を元に自身の推論を語る。
ユースケも反論は無い様で、頻りに頷いていた。
「確かに、脱出した形跡は見つけられたが……それでも、女王が無事な証拠とは……もしかしたら魔王軍に捕まってしまっているかも――」
「ええーいっ女々しい奴め!!そもそも、国の代表を捕らえたのならば!!魔王軍が何も動きを見せないのは変では無いかッ!!!!」
「――そうだよなぁ、もし女王さまが捕まったなら――国一つを平気で滅ぼす様な魔王軍のことだし――公開処刑くらいはやっているかも……」
「あっ……」
イオリスとユースケの言葉を聞き、それに思い当たるアンディ――。
そう、そうなのだ――仮にアンディの言が正しいのなら、魔王軍を退けてきた強国であるカール王国の代表を捕らえて、魔王軍が何のアクションも起こさないのは有り得ないのだ。
「フローラ様は、生きている……?」
「その可能性が高いだろう――貴様から聞いた女王の人物像から推測して……恐らく、魔王軍に反撃を行う為に虎視眈々と力を蓄えているのだろうよ」
「―――っ!!」
女王の生存――その可能性に行き着いたアンディは、解いた拳を再び強く握りしめた――!!
「おれは……おれは……っ!!」
二人はアンディを見て悟る――彼の心に、小さくも力強い火が灯るのを――。
失われた『希望』が再び灯り、『闘志』と『勇気』が湧いて出ていることを――。
「ふんっ、面倒くさい奴だ――ようやく奮い立ったか」
「そう言うなって――正直、助かった。俺だけじゃアンディを奮い立たせられなかったかも知れない……お前も大概お人好しだな?」
「……ふんっ、私はただ事実を言っただけだ――っ!?」
「な、なんだぁっ!?」
ユースケの言葉に、イオリスが照れ隠しの様に言葉を紡ぐ――。
いつもの他愛ない会話のキャッチボール……此処でユースケが『男のツンデレは【いりません】』』等と言った返しをするのが常ではあるが。
しかし、二人は咄嗟に頭上に顔を向けた。
感じたのは魔力――。
それも、強大な魔力だ――。
「これは――リィムと同じ、いやそれ以上だ――!!」
「この魔力……ザビエルを凌ぐか……ッ!!!」
かつての旅の仲間であり、真実の魔法剣『トゥルース』に選ばれた魔法使いの少女、リィムよりも――かつて敵対した魔将が1人、魔導の達人にして残忍なる研究者であったザビエルよりも――大きい魔力。
「?どうしたんだ二人とも……」
アンディは気付いていない様で、疑問を問い掛けるが――。
「――来るぞっ!!」
ユースケの声が響いた瞬間――。
ブワッ――と、飛来した何かにより土煙が巻き起こる。
ユースケとイオリスは、それぞれの得物に手を掛け――アンディもまた、ただならぬ雰囲気を感じ取って臨戦態勢を取る。
「――おいおい、随分と物騒じゃねぇか」
響いた声は、堂々としていながら、何処か飄々とした様な、威勢の良い声――。
次第に土煙が晴れ――現れたのは――。
「やれやれ……この国の奴は、何時から年寄りに殺気を向けるような薄情な連中になっちまったのかねぇ?」
ゆったりとしたローブとゆったりとした帽子――手には杖を持った魔導士風の――否、真実魔導士であろう男。
顔には皺が刻まれ、その歩んで来た年月を如実に示している。
それでも、見た目以上に年を感じさせない覇気のような――若々しさも、その魔導士からは感じられた。
そんな魔導士から皮肉を言われ、ムッとした表情で返したのはイオリス。
「――ご老体、この国の惨状は見て取れよう。そんな中、貴方の様な強大な魔力の持ち主が飛来したならば、警戒の一つもするのが当然と言えよう」
「へっ、ケツの穴のちいせぇ奴だね。それと若ぇの、俺はご老体とか言われるほど耄碌はしてねぇぜ」
小指で鼻くそをほじりながら、そう言い放った魔導士に元々沸点が低いイオリスはストレスがマッハになる。
(な、なんなのだこのジジイはああぁぁぁぁぁぁっ!!??)
これが漫画なら、『びきびきぃ!!』とか『!?』とか言う表現がされること請け合いである。
「で、誰なんだアンタ一体?」
「俺かい?俺ぁマトリフってんだ。見ての通り魔導士よ」
ユースケが尋ねると、魔導士は名乗った。
「マトリフ!?かつて勇者アバンと共に魔王を倒したという――大魔導士マトリフだと言うのか!!?」
「知ってるのかアンディ!?」
アンディはその名を聞いて驚愕を顕にした。
アンディ曰く、このカール王国に所属していたかつての勇者――アバン。
そのアバンに力を貸した四人の仲間有り――。
類い稀なる剛剣の使い手である、戦士ロカ。
拳聖と謳われた伝説の格闘家、ブロキーナ。
パーティーの紅一点にして癒し手である、僧侶レイラ。
そして――。
「パーティーの頭脳にして、最強最大の魔法使いでチョベリグーなハイセンスの持ち主……それがこの俺、大魔導士マトリフ様よ!」
「……それを自分で言うか?というか、チョベリグーとかひっさしぶりに聞いたのだが……」
「……俺が言うのもなんだけど、本当にそんな凄い大魔導士さんなのか?」
「……おれも自信が無くなってきた」
自身を指し示して誇らしげに語るマトリフを前に、ユースケやアンディ――怒りが有頂天だったイオリスすらも、唖然とせざるをえない状況だった。
否、ユースケとイオリスは理解している。
多少なりとも魔法を齧ったことのある二人である――少なくとも、眼前の男が内包する魔力量を感じ取る程度には、魔法を習熟していた。
「しっかし、酷い有り様じゃねぇか……風の噂で聞いちゃあいたが、こうまで手酷くやられていたとはねぇ……」
男――マトリフは、何処か複雑そうな表情で物思いに耽る。
その表情は、今しがたまでの飄々とした男の物とは思えない、貫禄のある物だった。
「ご覧の通りです……魔王軍の猛威は止まる所を知らず――生き残ったのは自分1人という有り様です……」
アンディはそんなマトリフへ、この国に降りかかった災厄について語る――瞳を閉じ、思いを馳せ、屈辱と恐怖を思い起こしながら――。
「――しかし、彼ら――旅の冒険者であるユースケとイオリスが、フローラ様が無事かも知れないと――」
「だろうなぁ」
アンディがようやく掴んだ希望――しかし、マトリフは然もありなんと、あっさり肯定してみせた。
「えーと、マトリフさんは分かってたのか?女王様が無事だってのを……」
「俺はそう何度も会ったりしたわけじゃねぇが――あの女王さんは中々に強かだからな。上手いこと逃げおおせただろうよ――」
ユースケの問いにニヤリと、自信に満ちた顔で答えるマトリフ――。
「……しっかし、昔はそれはもうピッチピチのかわいこちゃんだったが――今ならさぞかしイイ女になってるんだろうなぁー」
――しかし、その顔はイヤらしく歪み、ヒェッヒェヒェと気色の悪い笑い声をあげている。
おまけに、ナニかを揉む様に宙を動かす指は卑猥に尽きる。
――何か、色々と台無しだった。
「……それで、貴殿は何をしに此処に来たのだ?」
「――おっと、そうだった。すっかり忘れちまうところだったぜ!」
何処か疲れ果てた様なイオリスの問いに、ようやく現実に戻ってきたマトリフ。
「ふむ、それにしても――お前ら、ナイスなタイミングで此処にいてくれたもんだぜ……」
「ぬっ……」
「マ、マトリフ殿……?」
「なんか……いや〜んな感じ……」
マトリフのニヤついた笑みを受け、三人は冷や汗と共にたじろぐことを強いられたのであった――どっとはらい。
***********
「ほれほれ、キリキリ働け。でないと日が暮れっちまうぞぉ?」
「――納得いかんっ!!」
「まあまあ――気持ちは分かるけどさ」
俺とイオリス――そしてアンディは、再び瓦礫の撤去に勤しんでいた。
それというのも、マトリフさんの希望(強制)があったからだ。
俺たちが今いるのはカール王国王立図書館跡――マトリフさんは、とある本を探しにこの国にやって来たらしい。
残念ながら、その図書館も瓦礫の山と化していたわけで、本なんて跡形も無くなっているのは想像に難くないわけだ。
それでも、その本はこの国の国宝に等しい物なので、もしかしたら――ということらしい。
で、そのマトリフさんが何をしているかというと……。
『俺は『ご老体』らしいからよぉ……ご老体はご老体らしく、後ろで大人しく見学させてもらうぜ』
――そう言って、片肘を付きながら横になって、鼻くそをほじりながら野次を飛ばしている――というわけだ。
「納得いかんっ!納得いかんっ!!納得いかんッッ!!!」
その態度に再び怒りが有頂天になったイオリスは、その怒りを瓦礫の山にぶつけるかの様に物凄い勢いで瓦礫を撤去していた。
まぁ、気持ちは大変よく分かるんだけどさ。
俺はイオリスが有頂天なので、逆に冷静になれた――だからマイペースに撤去作業をやってる。
それでも、ハイペースなのか――アンディはもっとゆっくりなペースで作業をしている。
「けど、良いのか?その本って国宝なんだろ?」
「構わないさ……フローラ様が無事かも知れないとはいえ、国としては見るも無残な状況だ。噂が広まれば、遅かれ早かれ野盗に荒らされることになるだろう――おれ1人じゃ、そんな奴ら全員に対処することは出来ないだろうし……それに、マトリフ殿なら悪いようにはしないと思う」
アンディは何処か悟った様な雰囲気でそう語った――。
アンディ曰く、野盗相手に戦って遅れを取ることはないけど、相手が盗掘のみに集中するならその限りでは無いらしい。
「まぁ、そう言うなら良いけどさ――」
そう言いながら、俺もまた大きな岩を放り投げ――ん?
「宝箱だ――」
俺が放り投げた岩の下から宝箱が現れた。
木製みたいだけど、中々頑丈な作りをしているみたいで、表面に傷はあっても大きく歪んだり、壊れたりはしていなかった。
「なぁ、これがそうなのか?」
「多分……おれも図書館になんてほとんど来たこと無いから、なんとも言えないんだが……」
物は試し――と。
宝箱を開けてみようとしたんだけど――。
「開かない……」
「仮にも国宝だからな。鍵くらいかけるさ」
んー……流石にこの瓦礫の中から鍵を探すのは難しいだろうし、無理くりこじ開けるのも――中身がマトリフさんの探している本だったら、目も当てられないことになりそうだしなぁ――。
「とりあえず、マトリフ殿にも見てもらった方が良いんじゃないか?」
「――そうしようか」
とりあえず俺とアンディはその宝箱をマトリフさん(と、納得いかんっと連呼しながら瓦礫をぶん投げるイオリス)の元へ持っていくことに。
「マトリフさん、宝箱を見つけたけど……」
「おっ、待ちくたびれたぜぇ」
宝箱を持っていくと、マトリフさんは徐に立ち上がった。
……なお、イオリスもこっちに来ているけど――その顔は虚脱感に満ちていた――当たり前か。
「けど、鍵が掛かっているみたいで開かないんだ」
「それなら任せな。流石に若いのに任せきりじゃ、立つ瀬がねぇからな」
言うなり、地面に置いた宝箱に手を翳すマトリフさん――そして。
「――『アバカムッ!!』」
そう唱えると、宝箱が光を発して――光が収まった瞬間、ガチャッと――ひとりでに宝箱が開いたのだった。
「い、今のは――」
「こりゃあ『アバカム』って言う、鍵を開ける呪文さ――さーて、中身は……おっ、ビンゴだぜ」
俺とイオリスがその呪文の内容に軽く驚く中、マトリフさんは宝箱の中身を確認して、したり顔で頷く。
気を取り直して、俺も宝箱の中を覗く。
――そこには本があった。
辞書の様な厚みを持った、皮装丁の本。
表紙には何やら紋章があしらってある。
「これが――」
「あぁ、これが俺の探していた本――勇者アバンが記した書物……『アバンの書』だ」
ちなみに、この紋章は勇者アバンの家系に纏わる物で――要するに家紋なんだそうな。
「しかし、この本は何について記した書物なのだ?」
「こいつにはアバンが編み出した流派、アバン流の全てが記してある。力・技・そして心――その全てを、な」
「そんな物を、どうしてマトリフさんが……?」
どっからどう見ても魔法使いにしか見えないマトリフさんが、幾ら戦友の記した物とは言え、そんな内容の本を必要とするだろうか?
「もしかして、マトリフ殿も知らない様な魔法が記されているとか――」
「確かにアバンの書には、魔法についても書かれちゃいるが――アイツの知ってる魔法ぐらい、この俺が知らないわけねぇだろーが」
アンディの質問を軽く一蹴――何だかよく分からないが、とにかく凄い自信だ。
「俺が必要なんじゃねぇよ――アバンの弟子どもに必要なんじゃねぇかと思って、コイツを取りに来たのよ」
「弟子?そのアバンとやらには、弟子が居るのか?」
「あぁ、アバンの忘れ形見って奴さ……巷じゃ御大層にも『アバンの使徒』なんて呼ばれているがな」
アバンの使徒――それが勇者アバンの忘れ……ん?
「もしかして、そのアバンって人は――」
「……死んだよ。弟子のアイツらを庇ってな――まぁ、聞いた話だがよ」
――俺と、同じ――……。
「良い奴はみんな死んじまう――俺みたいな悪党を残してな……ったく、嫌な時代になったもんだぜ……」
「……マトリフ殿」
「…………」
マトリフさんの悲しげな雰囲気に、アンディやイオリス、俺も言葉を紡ぐことが出来なかった。
マトリフさんとアバンさんは、共に戦った戦友なんだろうけど――それだけじゃなくて、親友と言っても良い仲だったのかも知れない。
なんとなく、そう思った――。
「――そこの二人、ユースケとイオリスだったか?俺ぁ剣士でもなければ、武道家でもねぇが――お前らが生半可な力量(レベル)じゃねぇってことくらいは分かるぜ」
そう言うなり、マトリフさんはアバンの書を俺たちに差し出した。
「読んでみるかい?掘り出すのを手伝わせたんだ――それくらいはしても、アバンの奴も目くじらを立てやしねぇだろ……」
――確かに、それだけ凄いって言われる勇者が書いた本なら、読んでみたい気もする――けれど。
「いや、やめておくよ。それはアバンの使徒にこそ相応しいと思うし、何の関係もない俺たちが読むのは、やっぱり違うと思うから」
「私も同感だ――それだけの武芸の持ち主の書、惜しい気もするがな」
「そうかい……そっちの兵士の兄ちゃんも同じかい?」
「……ええ、自分にはその資格はないと思います。やはり彼の言うように、それはアバンの使徒が持つべき物だと思います」
俺とイオリス、それにアンディはマトリフさんの申し出を辞退した。
それを見たマトリフさんは、おかしそうにくっくっと笑う。
「ったく、どいつもこいつも――あの甘ちゃんのヒヨコどもにソックリじゃねぇーか」
「むっ、心外だな――確かにコイツらは甘ちゃんかも知れないが、私は違うぞ――訂正を要求するッ」
――何かイオリスが言っている――大変腹立たしいのでツッコミを入れておこう。
「うるせー、ミルクセーキにマシュマロ入れて食ってそうなイジケ虫のくせに――」
「何ーッ!?あれは美ん味いであろうがぁーッッ!!」
「あっ、本当にミルクセーキにマシュマロ入れて食ってたのか――やーい、イジケ虫イジケ虫〜」
「貴様、もうゆ・る・さ・ん・!!表に出ろっ!!」
「――もうここ表ですしおすし」
ムキャー!!と、怒りが有頂天になったイオリスをおちょくる俺。
イオリスの怒りがピークになり、アイツが武器に手を掛けた瞬間――。
―――――ッ……!!
空気が――震えた――……!!
「「ッ!!?」」
僅かだけど、大気を震わす力の流れ――俺とイオリスは咄嗟にそちらへ顔を向けた。
「な、なんだこのオーラ力は……」
「オーラ……確かに、これは魔力の類いでは無い――分かることはこの方角に、強い何かが居るということだ……しかも、それが2つ、か」
これは、戦っている――のか?
「なぁ、イオリス――お前、この力の持ち主の片方にでも勝てる自信あるか?」
「ふん、愚問だな――負ける気はせん!!……が、五体満足というワケにはいかんだろうがな」
……俺も、全くの同意見だ。
確かに、感じた力は凄く強い物だったけど、それでもそれは、今の俺たちと大差は無いように思う。
「この方角には……テランっていう国があるのか」
「?二人とも何を言っているんだ?」
アンディには、この力の流れが分からないみたいだ――。
まぁ、分からないのが普通なんだけど――。
「――やれやれ、こりゃあノンビリってわけにもいかねぇか」
「――マトリフさん?」
マトリフさんも、何かを感じたのか?
「悪いが急用が出来ちまった――まぁ、また会うこともあるだろ……じゃあな」
そう言うなり、マトリフさんはその場から飛び去ってしまった――。
「……行っちまったな」
「恐らく……否、十中八九先程の強者の気配がする場所へ向かったのだろうな――全く、騒々しい爺さんだ」
「もしかしたら、さっき言ってたアバンの使徒が何か関係してるのかね?」
「――かも知れんが、それを確認する手段は我々には無い。テランという国がある方角に居るのが分かっただけで、そのテランに居るのか分からんし、仮にテランに居たとしても行ったことのない場所へはテレポート出来ん――歩いて向かうことは可能だが、その頃には全て終わっているだろう」
「そうか――」
アバンの使徒――少し興味があったんだけどな――。
色々話をしてみたかったというか――。
「ふん……あのマトリフの爺さんとは、いずれまた会うだろう――そのアバンの使徒とやらにも、会えるかも知れんぞ――まぁ、ただの勘だがな」
「あぁ、そうだな――」
事実は小説より奇なり――なんて言うように、そんなご都合主義的な出会いも、起こり得るんだろうな――。
前に進み続ける限り。
だったらその時を、密かに期待させてもらおうかな?
***********
――その後、日も暮れて来たので彼ら三人は夕食を摂ることにした。
(その際、アンディの寝床としている納屋の様な場所に向かった)
その夕食時、アンディから出た言葉にユースケは軽い衝撃を受けた。
「女王様を探すって?」
「あぁ、国の人々を埋葬し終わったら、フローラ様を探してみようと思う」
「――探してどうするのだ?」
「もし、マトリフ殿の言っていた様に、フローラ様が落ち延びて再起を図ろうとしておられるなら、俺もお力添えをしたい――それが、カール騎士団の生き残りである、俺がすべきことだと思ったんだ」
迷いの無い、真っ直ぐな眼を向けられ、ユースケは満足気に頷き、イオリスも何処か可笑しそうに笑みを浮かべた。
「それじゃ、明日も頑張ってやらないとな!」
「いや、これはおれがやらなきゃならないことだ――アンタたちには、アンタたちの為すべきことがあるだろう?」
「んー、そう言われてもな……実際、武術大会までは暇なんだよな、俺たち」
「――まぁ、これはこれで鍛練にはなるだろうからな、明日も手伝ってやろう!フハハ!!泣いて感謝するがいいッ!!」
アンディの申し出をやんわり断る二人。
実際、彼らは武術大会を控える身で、自身の修練に時間を割きたいのが本音であろう。
しかし、それでも元来の性格からか――放っておけなかったのだ。
「……ありがとう」
アンディは、二人の気遣いを改めて噛み締めるのだった――。
***********
――さて、その後の彼等の動きを簡単に語りたいと思う。
その後、ユースケとイオリスはアンディの手伝いを4日程行った。
その間、暇を見付けては実戦形式の組手をしたり、アンディからこの世界の魔法を教わったりした。
――この世界の魔法は、彼らが以前まで居た世界の魔法と非常に良く似ていたが、習得するまでの流れが違っていた。
以前の世界では、一度『切っ掛け』さえ掴めば誰でも魔法が使えた。
使える魔法は資質と才能、後は個人の努力次第だが。
ユースケは聖剣を守る大樹に、イオリスは師である魔将に、その切っ掛けを与えられた。
対してこちらの魔法を使う為には、資質や才能――そして努力が必要なのは変わらないが、何より重要なのが『契約』である。
こちらの魔法――呪文は、それぞれの魔法と契約をすることで初めて覚えることが出来る。
勿論、先にも言ったように資質や才能が不可欠なので、例えば火炎系呪文の資質があれば火炎系呪文を覚えられるが、氷結系呪文の資質が無ければ氷結系呪文は覚えられないのである。
アンディは生粋の剣士であった兄と違って、ある程度魔法も使いこなす魔法剣士タイプであった。
使える呪文は火炎系呪文の『メラ』とその上位呪文の『メラミ』、氷結呪文の『ヒャド』とその上位呪文である『ヒャダルコ』、爆裂呪文である『イオ』。
バリエーションは少ないが、自身の覚えている呪文については契約の為の魔法陣を描けるというので、ユースケとイオリスは嬉々として契約を行った。
やはり、異界の魔法という物に興味をそそられたのだろう――。
結果はイオリスがメラ系とイオ系――ユースケがヒャド系の呪文を習得するに到った。
途中、アンディの危惧した様に盗掘者――墓荒しがやって来たが、元よりカール騎士団に所属していたアンディが、ゴロツキ程度に遅れを取る筈がなく……何より、ユースケとイオリスが居たので、全員纏めてボロ雑巾と化した。
そして4日後――流石に全ての人々を葬ることは出来なかったが、それでもかなりの人々を弔うことが出来た。
そして、別れの日がやって来たのであった――。
***********
「それじゃ、俺たちは行くけど――本当に大丈夫か?」
「――おかげさまでな。ここから先はおれだけでも十分さ……アンタたちには本当に世話になったな――」
「ふん、もっと感謝するがいい!!……私も貴様の武運くらいは祈ってやろう」
俺たちは再び、ロモスに戻ることにした。
そろそろ武術大会が始まる頃だし、何よりアンディが申し出たことだからだ。
後は自分だけで大丈夫だから――ってな。
そう言われたら、俺たちも納得するしかなかったわけで――。
「また、会えるといいな――」
「ああ、その時までには二人に負けないくらい、兄にも負けないくらいに腕をあげておくさ」
「ふっ、楽しみにしておこう!」
またアンディとは会える気がする……イオリス風に言うなら、勘だな。
俺たちが、アンディが前に進み続ける限り――道は必ず繋がっていると思う。
きっと、何処かで――。
「では、サラダバーッッ!!」
「いやそれ自決フラグ――」
などと言う俺のツッコミをスルーして、イオリスはテレポートを行った――。
……なんとも締まらない別れかただけど、この方が俺たちらしいのかも。
**********
そんなこんなで、再びロモス城下町。
「何か、前に来た時より賑やかだなぁ……武術大会があるからか?」
「だろうな――大会を明日に控えているのだ――この活気も頷けるというものだ」
イオリスはしたり顔で頷いている。
賑やかなのは嫌いじゃないし、良いんだけどね。
「さて、今日は宿屋で休むとするか――流石に、ギリギリまで修行して大会受付に間に合いませんでした……じゃ、本末転倒だからな」
「ふむ、そうだな――今日は休むとしよう。私の勝利を祝して、前祝いにパーッと飲み食いするのも悪くはないが――」
「おいィ、なに勝った気になっちゃってるわけ?そこは俺の勝利の為の前祝いの間違いなのは確定的に明らか」
「ふっ、寝言は寝てから言うが良い――!!」
「――お前は次に『真の主人公である私が負けるはずがなかろう!!』と言うッ!!」
「真の主人公である私が負けるはずがなかろう!!――ハッ!?」
――なんて、いつものノリで談笑しながら明日に備えて休養を取ることにした俺たちなのであった――。
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ユースケは『ヒャド』と『ヒャダルコ』をおぼえた!
イオリスは『メラ』と『メラミ』と『イオ』をおぼえた!
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う・ん・ち・く・☆
『ミュート』
足音を消す魔法。
足音を消すことで、敵との遭遇率を下げる。
足音を消すだけで、気配は消せないので見付かる時は見付かってしまう。
『キュアフォース』
ダイ大で言うところの『ベホマ』に位置する回復魔法。
あらゆる傷や体力を一気に全快させる。
ども、1話更新しました――神仁です。
今回は、原作にも搭乗した『カール騎士団団長ホルキンスの弟』と、みんな大好き元祖大魔導士マトリフさん登場の回です。
ホルキンスの弟の名前――アンディの元ネタは、ドラクエ5の富豪の令嬢の幼馴染みです。
マトリフさんカッコいいですよね(´ω`)
次回はいよいよ武術大会編――更新がいつになるかは分かりませんが……気張らない程度に頑張りたいと思います。
m(__)m