ドラゴンクエスト―ダイの大冒険―最善の勇気―   作:神仁

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久しぶりの更新デス。


第2話―激闘!大武術大会!!―

 

「翔ぶが如く!翔ぶが如くっ!!翔ぶが如くゥッッ!!!」

 

私は疾駆する――ひたすらに、只々加速する――正に翔ぶが如く!!

 

「――まぁ、昨日誰かさんが散々飲み食いした挙げ句に酔い潰れて、今の今まで起きずに武術大会の登録に遅れそう――って、だけの話なんですがねぇ……」

 

「ええいっ、五月蝿いぞ貴様っ!!起きたのだから良いであろうがっ!!」

 

――そう、私とユースケは武術大会の受付へと向かっている。

私の勝利を祝う為の宴が、この様な悲劇を招くとは――嗚呼、無情也――。

 

「つーか、お前白目部分が普通の黒目になってるじゃん!何があった!?」

 

「時間が無くてコンタクトを入れている暇がなかったのだッッッ!!察しろっ!!」

 

「つーか、それコンタクトだったのかよ!?」

 

「今更かッッ!?プロローグ冒頭で語られていただろうがっ!!」

 

「メメタァ!!」

 

――等と言いながらも、動かす足は止めず。

走って走って走り抜いた――その結果。

 

***********

 

「ふへぇ……何とか間に合った……」

 

「ふん、我等の脚力なら……当然だろう……」

 

「……お前はもう少し反省しやがれ」

 

「うぬぅ……」

 

何とか受付を済ませた我らが勇者と闇勇者は、大武術大会に参加する者達が集う、控え室へと通された。

 

「まぁ、それはとりあえず置いておいて……えーと、予選はどういう方式だったっけ?」

 

「受付で聞いた話では、総勢数十名による勝ち抜き戦だな……そこで有象無象を篩に掛けて最終的に決勝に残る8名を決め、その8名で勝ち抜き戦を行い、勝者を決するとか――」

 

「……よくあの状況で話を聞けたな?」

 

「そんなのは当然では無いか。情報は戦局を左右する大事な武器なのだ――日常生活においても情報の重要性は変わらぬからな」

 

至極真っ当な意見を述べるイオリスに、今度はユースケの方が舌を巻く。

この闇勇者、普段は色々と空回りしているが、頭の回り自体は恐ろしくよろしいのである。

 

――と。

 

「よお、兄ちゃん」

 

ぬっ、と表れたのは巨漢の男――。

厳つい顔をした、如何にも戦士然とした少ーし太めのハゲ頭だった。

 

「有象無象ってのは俺たちのことかい?」

 

「……ふむ、耳が悪いのか?くくっ、ならば耳鼻科に行くことを進めよう……あるかは分からんがな」

 

「ガハハッ!何を言ってるかわからねーが、テメェが虚仮にしてるのだけは分かった……」

 

豪快に笑い飛ばすが、目が笑っていない男に対して、イオリスは冷笑を浮かべて対応する――。

 

(止めた方が良いのかコレ?)

 

ユースケは相方の気障ったらしい態度が、相手の神経を逆撫ですることを知っている。

というか、半ば分かっててやっていることを知っている……そして。

 

「――舐めてんじゃねぇぞ、このチビがぁっ!!」

 

激昂して突如襲い掛かる男――周囲の者は我関せず……否、ニヤニヤしている所を見るに敢えて黙認しているのだろう。

 

が、対するユースケは気が気では無かった。

イオリスの気配が一変したからだ。

 

軽く殺意の混じった気配を発している理由は――男の放った『チビ』という単語。

 

闇勇者イオリス――容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能を地でいく彼が気にしている数少ないモノの一つ――それが身長だ。

 

誤解の無いように説明しておくが、イオリスの身長は平均的な男性の身長と同等かそれより若干下回る程度であり、決して小人族というワケでは無い。

 

しかし、幼少の頃のとある出来事によって――チビ扱いされるということは、彼にとってはカッペ扱いされることに次いで許せないことなのである。

 

――ユースケですらそのことに触れる時は『身長がちょっと残念』と、オブラートに包んだ言い方をするのだ。

 

ド直球、侮蔑100%で言い放たれたその台詞が、イオリスをどこぞの鋼のニーサンの如く怒りに導くであろうことは容易に想像出来る事柄であった。

 

「私は謙虚だからな……半殺しでまけといてやろう」

 

ボソリと呟いたイオリスは拳を握り締め――。

 

「やめなさいっ!!」

 

……しかし、その剛拳が放たれることは無く――。

「なっ……」

 

戦士然とした男の一撃が、第三者に止められるという形で終わりを向かえることになった。

 

正確には、男の一撃を受け流した――だが。

 

それを成した第三者というのが、目の覚める様な美少女だったのだから驚きも倍率ドンッッ!だ。

 

「ほう……私とそのハゲ頭の間に入り、襲い来る拳の横っ面を叩いて拳の軌道を逸らすとは、女だてらにやるではないか」

 

「説明、乙」

 

淡い桃色の髪を後ろで一つに纏めて団子にし、同じく淡い桃色のチャイナ服の様な装束を身に纏う――。

両側面のスリットから大胆に覗くフトモモが非常に眩しいっ!!

 

「貴方たち、武術大会にきたんでしょう?それとも、ただ喧嘩をしにきたの?」

 

「この女ぁ、邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

戦士然とした男は、横槍を入れられたことが気に入らないのだろう。

少女に対して怒りを顕にする。

少女はそんな男に厳しい眼差しを向ける。

 

それを見て、男は益々激昂――。

 

「こ、の……このやろうっ!!!」

 

怒りの矛先を少女に向けたのだった――が。

 

「フッ――」

 

「ッッ!?」

 

徐に前に歩み出たイオリスが、少女に襲い掛かってきた男の拳を難なく片手で掴み取ってしまった。

 

「て、てめぇ……っ!?」

 

「些か、私も頭に血が上っていたようだ……よもや貴様ごときを相手に、冷静さを失うとはな――」

 

「ぐっ!?う、うごかねぇ……は、離せこのチ「おーっと、手が滑った」ぬがあああぁぁぁぁっ!!?」

 

男は掴まれた拳を振りほどこうともがくが、全くビクともしない。

またしても迂闊なことを口走ろうとした男はしかし、イオリスの万力の様な握力によって悲鳴をあげながら膝を着くという、なんとも哀れな醜態を曝すことに相成った。

 

「――ふん、そこの少女に免じてコレくらいで勘弁してやろう……何処へなりとも失せるがいい」

 

そう言って、男の拳を握り締めていた手を解放したイオリスは、侮蔑の籠った眼差しを向けた。

 

「く、くそっ!!てめぇら、絶対許さねぇ!!覚えてやがれよっ!?」

 

慌てて立ち上がり、捨て台詞を残してその場を去る男。

 

「ふん、あの手合いの言うことは決まって同じだな!」

 

「……オマエモナー」

 

勝ち誇った表情を浮かべるイオリスに、ユースケは過去のイオリスを思い浮かべ、ジト目でその言葉をプレゼントしたのだった……。

 

「さて、少女よ。迷惑をかけたな?おかげで、自分を見失わずに済んだ――特別に礼を言っておいてやろう」

 

「ゴメンな?こいつ、無駄に尊大で気障ったらしくて気が短いところがあるけど……でも悪い奴じゃないから」

 

「貴様……それでフォローしているつもりか?」

 

ふんぞり返りながら感謝を述べる……という、おおよそ礼儀に反する態度を取るイオリスをやんわりとフォローするユースケ……しかし、イオリスはフォローの内容に納得がいかないのか、ジト目でユースケを睨み付けていた。

 

「……もういいわ。けど、もう喧嘩はやめてね。貴方たちもここにいるってことは、武術大会の参加者なんでしょう?だったら、その研いた腕は試合で示すべきよ」

 

「ぬぐぅ……」

 

「『たち』って、俺も?」

 

「止めないで見ていたんだから、貴方も同罪よ」

 

「オゥフ……」

 

少女のあまりにも真っ直ぐな物言いに、二人とも言葉に詰まってしまう――。

 

思わず絶句する二人に、少女は厳しい顔付きを崩した――。

 

「――けど、ありがとう。さっきは私を庇ってくれたんでしょう?」

 

そう言って微笑む彼女は、まるで慈母の様な優しさに溢れていて――。

 

「ぬぅ……」

 

「へぇ……」

 

それを直接向けられたイオリスは勿論、横で見ていたユースケですらも再び言葉に詰まってしまう。

但し、そこに到る理由は先程のそれとは全く異なるのだが――。

 

「でも、試合であたったら遠慮はしないからね?正々堂々、悔いの無い試合をしましょう」

 

「……フッ、無論だ!むしろ手を抜かれたりしたらそちらの方が屈辱だからな!」

 

「俺は女の子相手っていうのは、正直気が進まないなぁ……」

 

「あら、女だからって油断していると痛い目にあうかもよ?」

 

「それは、さっきのでよーぅく分かったよ」

 

「まぁ、周りの連中は気が気ではないようだがな――」

 

等と、少女と和気藹々とした会話が弾む二人――。

イオリスの言うように、周囲の者達は気が気ではないようだ。

 

それもそうだろう――彼等はイオリスに因縁を付けに行った男を見て、ほくそ笑んでいたのだから――。

馬鹿な若造が、手痛い授業料を払うことになる。

――その瞬間が見れることへの愉悦を……確かに感じて。

 

それが第三者に邪魔されて、しかもその第三者を含めてかなりの実力者であったとなれば――心穏やかではいられないのは道理というものだろう。

 

中にはそれを見て、気を引き締め直す強者も居たが――。

 

果たして、何人居るだろうか?

 

少女と語らう、漆黒の装具を纏いし男と深紅の装具を纏いし男――彼等の真の実力を見抜いた者は……。

 

ただ言えるのは――。

 

「……」

 

この参加者の中で唯一、確実に一人は彼等の実力を見抜いた者がいた、ということと――。

 

「チェストーっ!!」

 

――その誰かが、突如として襲い掛かって来た小さな影の持ち主では、決して無い……ということだ。

 

「っ!私の後ろに立つなぁっ!!」

 

「タコスッ!!!??」

 

しかし、殺気を向けられての奇襲に対応出来ないイオリスでは無く……というか、条件反射で振り向き様にアッパーとフックの中間の様な、打ち上げる様なパンチ――『スマッシュ』を叩き込んだ。

 

「「「あっ」」」

 

派手に吹っ飛ばされていく闖入者――。

それを呆気に取られた表情で見やる三人。

周囲の者達も、唖然とした表情を浮かべている。

 

「あぶっ!?へぷしっ!?たわばっ!?」

 

闖入者はまるでピンボールの様に壁や天井にぶつかっては弾き飛ばされている――咄嗟の一撃とは言え、その威力を如実に物語っている。

 

べしょっ……と、地に落下して動かなくなった闖入者……。

 

なんとも妙な空気が蔓延していく――そんな中。

 

「チウじゃない、何してるの貴方っ!?」

 

吃驚した様子で闖入者に駆け寄って行く少女――どうやら知り合いらしい。

その闖入者――よくよく見ると人間ではない。

 

「おおねずみ――ねずみポ……モンスター」

 

「貴様……今、ポ○モンと言おうとしただろう?」

 

「……人間の子供程度の大きさのモンスターで、田畑を荒らしたりする農家の敵の様なモンスター。戦闘能力は高くないがその牙は鋭く、駆け出し冒険者は注意が必要だろう……byモンスター図鑑!!」

 

(……勢いで誤魔化したな)

 

ジト目を向けるイオリスをスルーして説明するユースケ。

買ってて良かったモンスター図鑑。

 

「しかし、なんだってモンスターが此処に――」

 

「どうも、あの少女の知り合いの様だが――」

 

「お前、謝った方が良いんじゃないの?」

 

「ムッ、襲われたのはコチラだぞ。何故謝らなければならんっ!!」

 

「でないと、またキッツいこと言われるかも――」

 

「ぐぬぬ……っ!!」

 

謎の闖入者の正体を色々と模索する二人。

しかし、状況から見て少女の知り合いであるのは確定的に明らかなわけで――。

 

ならばと、ユースケは謝罪を促すが――イオリスの言う言葉もまた正論。

しかし、またキッツい言葉を投げ掛けられるのは、二人ともゴメン被るわけで。

 

その道の方々にはご褒美かも知れないが、そんな趣味嗜好を持ち合わせていないイオリスは、自身のプライドと秤に掛けて葛藤していた――と。

 

「や……やるねぇキミぃ……」

 

フラフラと、覚束ない足取りで立ち上がったおおねずみは、仲間になりたそうにこちらを見て……いるワケでは無く。

垂れ流し状態の鼻血を拭い、好戦的な瞳をイオリスに向けている……。

 

「……このボクに一撃を入れたのは、マァムさんと老師以外ではキミがはじめてだよ……」

 

「………」

 

「……あー、良かったら治療しようか?」

 

おおねずみは、自信に満ちた表情で何やらイオリスを指差して言っているが、いかんせん再び鼻血を垂らしていたので何とも締まらなかった。

 

それ故か、はたまた別の理由か――少女は何やら疲れた様な表情をしているし、ユースケはユースケで居たたまれない様で、おおねずみの治療を願い出ていた。

 

「だが、これで勝ったと思わないことだ……ボクには、必殺技があるんだからね……!」

 

「……ほう?」

 

しかしそんなこと等どこ吹く風。

自信満々に言い放つおおねずみに、イオリスは目を細めた。

 

「大言を吐くのは、自身の実力を考慮してからの方が身の為だぞ――」

 

「ならば、試してみるかね……?」

 

「よかろう――」

 

あくまで上から目線のおおねずみに、互いの実力差を考慮して忠告するイオリスだが――根っからのバトルジャンキーであるイオリスが、これだけ煽られて穏便に済ませるワケが無い。

 

――或いは、件のおおねずみから何かを感じ取ったのか、実に楽しそうな――鋭い笑顔を浮かべていた。

 

「いくぞっ!!窮鼠ぶ――」

 

「――やめなさいチウッ!!」

 

おおねずみは拳を振り上げ、それを縦に回転させてイオリスに飛び掛かろうとしたが、済んでの所で少女に止められた――。

 

「はいっ!!!」

 

おおねずみはピタリと止まり、直立不動の状態となった――云わば『きをつけっ!!』である。

――心なしか嬉しそうでもある。

 

「――良かったな、生き別れた弟と再会できて」

 

「――どういう意味だ貴様」

 

そのおおねずみの姿を見たユースケは何故かデジャヴを感じ、実に良い笑顔でイオリスを労ってあげたのだった。

 

――イオリスは遺憾の意をこれでもかと表現していたが。

 

***********

 

「自己紹介がまだだったわね。私はマァム――見てのとおり武道家よ。それと彼は『空手ねずみ』のチウ――私の弟弟子」

 

「まぁ、マァムさんの紹介だからね。特別によろしくしてあげてもいいよぉ――あ、サインは遠慮してくれたまえよ。今日は僕の華々しい活躍でファンが増えてしまうから、そのファンたちにサイン会を開いてあげないとねぇ。キミたちも僕のサインが欲しかったら、サイン会に来て順番に並んでくれたまえ」

 

「……この鼠が誰の弟だと?」

 

「……正直スマンかった」

 

俺とイオリスは改めて少女と、この鼠の名前を聞くに至った。

なんでもこの二人(一人と一匹?)は、同じ師匠に弟子入りして武術を学んだ兄弟弟子なんだそうだが――。

 

同じ師匠に学んだとは思えない程の――性格の違い。

 

俺はさっき、この鼠――『空手ねずみのチウ』をイオリスの生き別れた弟と評したけど、思わずイオリスに謝る程度には反省していた。

 

はっきり言おう――鬱陶しいです。

 

「と、こっちも自己紹介だよな。俺はユースケ」

 

「イオリスだ――人は私のことを『闇の貴公子』と呼ぶ」

 

……言わん言わん。

仮に言ったとしても、それを自ら、さも自慢気に語るなんてあり得ないって……お前が言うな?

ほっとけ!!

 

「『闇の貴公子』……か、穏やかな呼び名では無いわね」

 

あっるぇ〜?なんで普通に納得してるん………あぁ、そうだよな。

此処は普通に、魔王軍なんてのがいる世界なんだよな……。

そういう言い回しというか、『字(あざな)』を普通に名乗っても不思議じゃない世界なんだよな……。

前の世界でも、俺は勇者で――イオリスは闇勇者だったワケだしな。

 

「――けど、貴方が悪い人じゃないってことは、少なからず話した中で理解できたつもりよ」

 

「う、ぬぅ……」

 

彼女――マァムは一瞬表情を崩して、微笑ましいものを見る様な優しい笑みを浮かべた。

それを見たイオリスは、何やら唸りながら視線を逸らした――。

 

「おいキミ、冗談はもう少し上手く言った方が良いぞ?」

 

と、それを見ていたチウがこれでもかと、不愉快だと言う感情を表情に表して言った。

 

「キミの実力は認めてやらんこともないがね――そんな格好付けたことを言っていると、ボクに負けた時に恥ずかしい思いをすることになるよ?」

 

「ふん、そう言うことはもっと経験を積んでから言うのだな」

 

チウの挑発めいた台詞だったが、今度のイオリスはそれに乗らずスルーした。

軽く皮肉は返したけどな。

 

「ふん、良いだろう!ならばボクの強さを存分に見せ付けてあげるよ――それまで負けないでくれたまえよ!!」

 

どうにも、イオリスはライバル視されてるらしいな。

 

「それとキミ、ユースケ君と言ったね!」

 

「ん、俺?」

 

「さっきは回復してくれてありがとう。お礼にサイン会が始まったらボクのサインを優先的に書いてあげようじゃないか!」

 

「……遠慮しておく」

 

そう、俺は鼻血を垂れ流していたチウが不憫だったので、キュアを掛けてあげたんだ。

 

チウはお礼のつもりなんだろうが……気分としては『お断りします(゜ω゜)』という感じだ。

 

「けど、ユースケの『魔法』って不思議ね。ホイミみたいだったけど、なにかが違うっていうか……」

 

「まぁ、少し系統の違うものだからね……って、よく違うって分かったな?」

 

「これでも前は僧侶戦士だったから、回復呪文も少しだけ使えるのよ。だからね」

 

俺とイオリスの『魔法』とこの世界の『呪文』――似て非なるそれが持つ違和感を察したマァムの疑問に、簡単だけど答えた俺。

――まぁ、俺も魔法はいつの間にか使える様になっていただけだから、詳しい説明は出来ないのだけど。

異世界から来ました――なんて説明した日には黄色い救急車を呼ばれかねないしね。

 

「む、予選が始まったか……」

 

イオリスが言うように、何やら会場の方が騒がしくなってきた。

多分、予選が始まったのだろう。

 

「マァム選手、タタック選手、準備の方をお願いします」

 

マァムが呼ばれた……どうやら次の試合らしい。

相手の――タタックとか言う奴は………げっ。

 

「ぐふぐふ、こんなに早く仕返しをするチャンスがやってくるとはなぁ」

 

――どうやら、相手はさっきの戦士(仮)らしい。

しっかし、あれだけの実力差を見せ付けられて尻尾を巻いて逃げたくせに、何故勝てる気でいるのか、小一時間ほど問い詰めたい。

 

「女ぁ、試合でさっきの礼をたっぷりしてやるぜぇ……そして、それが終わったら次はテメェらだ!覚悟しておくんだなっ!」

 

「………」

 

下卑た視線を向けるタタック(豚)の視線を受けても、マァムは平然としていた。

例えどんな試合でも、全力を尽くすという感じだ。

 

――こりゃあ、勝負あったな。

 

「マァムよ、そのような豚にも劣る畜生など、早々に蹴散らしてやると良い」

 

「――要するに頑張れって言いたいんだろう?まだるっこしいんだよ、お前の言い方は――あっ、俺も応援してるから」

 

上から目線で激励を送るイオリス。

一応、俺がフォローを入れておく――まぁ、マァムもコイツがどんな奴か理解しているっぽいけど。

 

タタック?アウトオブ眼中ですが何か?

 

「――ありがとう、貴方たちも頑張ってね!」

 

花が咲いた様な笑顔を残し、マァムと戦士の皮を被った豚さんはその場を後にした。

 

「いかん!マァムさんの応援にいかねば!!ではキミたちも頑張ってくれたまえ!とくにお前!ボクに倒されるまで負けるんじゃないぞ!!」

 

チウは俺たち――特にイオリスに念入りに告げ、マァムの後を追うように去っていった。

 

「すっかりライバル扱いされてるな、お前」

 

「フン、私のライバルは後にも先にも貴様だけだ――が、奴は成長が楽しみではあるな」

 

正直、男のツンデレとか『いりません』――って。

 

「チウってそんなに強いのか?言っちゃ悪いが、俺にはそれほどには見えなかったけど――」

 

「安心しろ、その目利きは概ね正しい。今の奴は精々おおねずみに毛が生えた程度でしかない――今はまだ、な」

 

「今は……ってことは、これから化ける可能性があるってことか?」

 

「あくまで可能性だがな。そうなれば楽しみは増える」

 

……本当にバトルマニアだなコイツ――いや、此処までいくとジャンキーか?

まぁ、今のチウがどれだけのモノかは分からないけど、コイツがここまで言うんだから才能はあるんだろう。

 

「さて、じゃあ俺たちも準備しますか」

 

「あぁ――ユースケ、間違っても予選で負けてくれるなよ?」

 

「その台詞、そっくりお返ししてやんよ」

 

互いにニヤリと笑いながら、拳をぶつけ合って予選を勝ち抜くことを誓った。

――尚、マァムとタタックの試合は、マァムの圧勝だったらしい――まぁ、当然だな。

 

***********

 

その後、ユースケ、イオリス、そしてマァムは順当に予選を勝ち上がって行った――ちなみに、チウは予選一回戦敗退であった……。

 

ここで、我らが勇者と闇勇者が如何にして予選を勝ち上がって行ったのか、少しだけ見てみたいと思う。

 

**********

 

予選一回戦――イオリスの場合。

 

イオリスの相手は戦士――モンスターの骸骨を頭に被り、毛皮を纏った――戦士というより蛮族と言ったイメージの方が近い男。

 

身長はイオリスより小さく、横に太めだ。

 

「オラは負けらんねぇ!村で待ってる兄弟たちのためにも、この大会で優勝して有名になるだ!」

 

「意気込みは立派だが、もう息があがっているではないか――悪いことは言わん、ギブアップしろ」

 

「まだまだぁ!!オラの大金槌を受けてみろぉ!!」

 

「――ならば、受けてたとう!!」

 

戦士――名をモコモコという――と、イオリスは互いに駆け抜けて交差した。

 

――そして。

 

「モ……モコッ、チ……」

 

モコモコは崩れ落ち、イオリスのみがその場に留まった。

――イオリスは、愛刀と愛剣を抜かずに素手のみでモコモコを降した。

 

「――貴様の気概は中々のモノだったが、実力が伴っていなかった――出直してくるのだな」

 

予選一回戦――ユースケの場合。

 

ユースケの相手は冒険家風の男、名をスタングルと言った。

肩まである長髪を靡かせ、バンダナを着けている。

――身長はイオリスより低い。

 

このスタングル、武器は万能ムチを扱う――。

 

「ぼくのムチは、疾風の如く相手を切り裂く!簡単に避けられると思うなよ!」

 

――鞭はその構造上、そのしなりによって先端の速度は高速に至り相手を切り裂く――ましてや、スタングルは鞭の名手である。

 

鞭の構造上の弱点とも言える、連撃に不向きな形状を――引き戻しの速さと、手首と腕の返しの速さで克服している。

 

その技術は見事の一言に尽きる――が。

 

「よっ、はっ、ほっ――」

 

正直、相手が悪かった――。

文字通り、レベルが違い過ぎたのだ。

 

ユースケは高速に至った鞭の先端を見切り、左右へジグザグに動きながら前進しつつ避ける。

 

「くっ、この――っ!」

 

「カカッ、とな」

 

「なっ……!?」

 

焦ったスタングルは鞭を大きく振るおうとしてしまうが、ユースケはその隙を突いて瞬時に距離を詰めてしまった。

 

「そりゃ!!」

 

「ぐわあぁっ!!?」

 

ユースケはその勢いのまま、盾を叩き付けた。

その強烈な一撃にスタングルは弾き飛ばされ、場外の壁へと叩き付けられてしまった。

 

「勝負あり、だな」

 

ユースケもまた剣を抜かず、余力を残したまま相手を降したのだった。

 

さて、時間を少し進めてマァム視点――。

 

順当に勝ち上がり決勝進出を決めたマァムは、再会を果たした仲間達と予選最後の試合を見ることになる。

 

当然の様に、チウも一緒だ。

 

「やったね、マァム!」

 

マァムの手を取り、純粋に喜びを表現する少年――名をダイと言い、この世界の勇者でもある。

数奇な運命を辿り、自分の血に流れる重い宿命を背負いながらも、それを乗り越える強さを持った真っ直ぐな少年だ。

 

「ま、オレぁ始めから心配しちゃいなかったけどな!」

 

そう言いながらも、嬉しさを隠しきれない様子の少年――名をポップと言い、ダイと旅を続けている魔導士である。

お調子者で臆病、弱腰になることもしばしばだったが、勇気を振り絞って立ち上がり戦ってきたことで、身も心もレベルアップしてきた少年だ。

 

ダイとポップ、それにマァムはかつて同じ師に教えを受けた仲間である。

アバンの使徒――かつて魔王を打ち倒した勇者アバン――彼の教え子達の総称。

 

彼等は魔王軍と戦うために旅を続けている――もっとも、マァムは思うところがあって旅の道中で二人と別れ、武道の神とも言われる者に弟子入りしたのだが。

 

「ありがとう、このままの勢いで覇者の剣を――と、言いたいところだけど……そう上手くはいきそうにないわね」

 

マァムは微笑みを浮かべるが、直ぐに顔を引き締める。

 

本来、マァムはこの大会には腕試しの為に参加していたのだが、ダイとポップと再会したことで事情が変わった。

 

二人がロモスにやって来たのは、武術大会に参加して優勝賞品である『覇者の剣』を手に入れる為であった。

 

――もっとも、二人がロモスに到着した時には、参加受付時間が過ぎていた為に参加出来なかったのだが。

そこで偶然にもマァムと再会を果たし、紆余曲折の末に覇者の剣の入手を託したのである。

 

「何いってんだよ、マァムは此処まで余裕で勝ち上がってきたじゃねーか。決勝でも楽勝だって!なあ、ダイ?」

 

「うん……」

 

ポップはマァムの勝利を信じて疑わない……それはマァムが此処までスムーズに勝ち上がってきたことも理由の一つだが、もう一つ理由がある。

 

ポップにはこの大会に参加する選手の中に、マァム以上の者が居ない様に思えたのだ。

ポップは魔導士であり、格闘術は基礎程度しか習っていないが、それでも今まで多くの死線を潜り抜けて来た故に、なんとなく『強そうな奴』というのは、見れば分かるくらいにはなっていたのだ。

 

その一方で、ダイはポップの問い掛けに歯切れ悪く返した。

 

「んだよ、ハッキリしねぇなぁ……誰か気になる奴でもいたのかよ?」

 

「何人か、ね――多分、力を隠しているんだと思う」

 

ダイは隔絶した力を持つ――それこそ、世界の命運を左右しかねない程の力を。

その力が強すぎる為に、生半可な武器では彼の力に耐えきれない程に――。

故に、自身の力に見合った武器を求めて、ロモスを訪れたのである。

 

そしてその力故か、天性の戦闘センス故か――或いは今までの経験故か。

 

ダイには何人かの参加者が、力を隠している様に思えたのだ。

その内の一人は、既に決勝に勝ち上がっていた――が。

 

「たぶん、ダイの言うとおりでしょうね……これから戦う二人は、相当な使い手のはずよ」

 

「知ってるのかマァム?」

 

「えぇ、控え室で少し話をしただけで直接戦ってるところは、あまり見ていないんだけどね」

 

実際、マァムが目にしたのはこれから戦う二人の内の一人が、自分を庇う際に見せた剛力、そしてその彼が予選一回戦で見せた卓越した格闘能力の片鱗のみ。

 

それ以外は、二人とも秒単位で試合を終わらせていたのでじっくり試合を見る暇が無かったし、何より負けて医務室に運ばれたチウの見舞もしていたので、試合自体を見る暇も無かった。

 

「うーん、オレも試合は見てたケド、そんな強そうなイメージは無かったけどなぁ……」

 

ポップは件の二人の試合を見てきたが、あまりにアッサリ勝負が着き過ぎるので、二人が強いのでは無く相手が弱かっただけに思えてしまったのだ。

何よりも、二人の試合には派手さがあまり無かった。

これまで、良くも悪くも強大な敵と戦って来た故の、ある種の視野狭窄でもあった。

 

「いずれにせよ、この試合を見ればハッキリするはずよ――最後の決勝進出者を決める、この試合を――」

 

「うん――!」

 

この予選最大の山場――予選最終戦。

最後の決勝進出枠を決める試合に、今大会一番の激闘の予感を察して――ダイとマァムは真剣な面持ちで舞台を見つめた。

 

「……なぁ、気になってたんだけど……コイツ、なんでこんなに落ち込んでるんだ?」

 

そんな中――ポップが気になったのは、さっきから一言も発していないチウである。

チウは予選一回戦で敗北した時、マァムに武道家としての死刑宣告『手足が短い』を告げられ、意気消沈していたが――それにしても落ち込み過ぎている様に見えた。

 

「えっと……チウはこれから戦う二人の内の一人に、宣戦布告というか、挑戦を挑んだというか、ね……」

 

「――あぁ、なんとなく分かった。そいつに喧嘩を売って、試合で戦おうとしたけど、肝心の自分は一回戦で負けちまったと――で、これからそいつの試合が始まるからそれを思い出して余計に落ち込んでるってわけね……」

 

「は、ははは……」

 

……なんとも緩んだ空気になってしまったが、予選最終戦が始まる――今まさに、注目の二人が舞台に上がり向かい合ったのだから――。

 

***********

 

「よもや、予選で見えることになるとはな――」

 

「だな……まぁ、やることは変わらないけどな――」

 

「あぁ、どちらが真の勇者か――どちらがリーダーに相応しいか――雌雄を決すとしようか!!」

 

「だから、お前は勇者は勇者でも闇勇者だろーに――まぁ、良いけどさ」

 

予選最終戦――決勝で戦おうと誓った二人が、皮肉にもぶつかり合う形となった――。

 

「こうして貴様と相見えるのは何度目になるか……」

 

「さて、何度も戦ってきた気がするけど――こうして一対一で戦り合うのは初めてだな」

 

言葉を交わしながら、互いに得物を引き抜く――勇気の名を冠した聖剣を――切れぬ物無しと謳われた銘刀と、宵闇の如き魔剣を――。

 

「ふむ――では、この戦いは記念すべき物になろう――私の勝利を飾るモノとしてなっ!!」

 

「抜かせっ!!ギッタギタにしてやんよっ!!」

 

言うが早いか、互いに地を蹴り駆ける――互いを射程圏内に捕らえ、ユースケは聖剣を横凪ぎに振るい、イオリスはそれに銘刀を唐竹割りの用量で打ち降ろして合わせる。

 

激しく金属音が響き渡り、間髪入れずにイオリスが漆黒の剣を袈裟懸けに振るうと、ユースケは真紅の盾でそれを受け流した。

 

ギャリギャリと耳障りな金属音が響いた瞬間には既に二人は交差し、それぞれ再び距離を取った。

 

「んにゃろう……挨拶がわりのつもりかよ?」

 

「それはお互い様だ――分かってはいたが、容易くはいかんようだな――だが、それでこそだ!!」

 

イオリスは気合いを込めることで、更に威圧感を増した。

 

「此処からは更にペースを上げて行くぞ……着いて来れるか?」

 

「ハッ、そっちが着いてこいってんだ!!」

 

負けじとユースケも気合いを入れる――。

二人を気流の渦の様な物が包む――。

 

見る者が見れば分かるそれは、この世界では『闘気』と呼ばれる物だった――。

 

「行くぞ!!」

 

「ハアァッ!!」

 

互いに先程とは比べ物にならない速度で駆け出し、接近。

その剣腕を思う様振るった――。

 

「おおぁぁぁっ!!!」

 

イオリスは両手に持つ二振りの剣を縦横無尽に振るう――横凪ぎ、袈裟懸け、逆袈裟、切り下ろし、切り上げ、突き――。

疾風怒濤の勢いで振られるそれは――『五月雨斬り』という、イオリスの技の一つ。

 

この技を教えた魔将グラントを持ってして、『自身のそれより尚、苛烈』と言わしめた程に、昇華された技だ。

 

「くぬぁぁぁっ!!!」

 

それをユースケは時には剣で迎え撃ち、時には盾で受け流して対処していた。

イオリスの剣は二刀流による手数の多さもさることながら、一撃一撃が重い――必滅の意思を乗せて放ってくるので、それも当然であるが。

 

(この野郎……殺る気満々じゃねーかっ!!)

 

ユースケは苦笑いを浮かべながらも、動きは止めない――虎視眈々とチャンスを伺う。

 

「さすがに守りが固いな――だが、守ってばかりでは勝てんぞ!!!」

 

言うなり、魔剣と銘刀を大きく振りかぶった――。

 

「っ、チャンス!!」

 

その隙をついてユースケが打って出る――!!

 

「――引っ掛かったなマヌケがぁッ!!!」

 

しかし、それは誘いであり――ガードを空けて突っ込んで来たユースケ目掛けて垂直蹴りを見舞う。

 

「マヌケは――テメェだああぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

しかし、誘いであると察していたユースケは、すかさず盾を前面に翳し、その勢いのまま突貫した。

 

イオリスは盾を蹴りつける形になってしまい、そのまま弾き飛ばされてしまう――。

 

また、蹴りの威力が強烈だった為に、ユースケも若干の後退を余儀なくされた――。

 

互いに体勢を崩し、先に立ち直ったのは――ユースケ。

 

「烈!!激我允っ!!!」

 

前傾姿勢を取り、大地を蹴って爆発的な加速を得たユースケは、見に纏った闘気を聖剣に伝わせ、その闘気の剣閃を飛ばした。

 

長き旅の中でユースケが編み出した、熱き血潮を剣に乗せて放つ、ユースケだけの秘技――その名も『熱血斬り』である。

 

「ぐっ、ナメるなぁッッ!!!!」

 

何とか体勢を立て直したイオリスだが、飛来する闘気の刃が眼前にまで迫っていたことを確認すると、瞬時に身を屈めて回避する――。

その際、イオリスが後ろで纏めていた長髪の内、何本か持っていかれたが――。

 

「貰ったああぁぁっ!!!」

 

「ッ!!?」

 

剣閃の後ろから追撃してきていたユースケが、身を屈めているイオリスに勢いのまま打ち降ろしを見舞う。

 

イオリスは二刀を交差して受け止めようとするが、間に合わないと判断――咄嗟に二刀で受け流しながら跳躍を果たす。

 

ユースケの一撃は舞台を大きく穿ち、周囲に礫を撒き散らした。

 

(くっ……やってくれる……!!)

 

空高く飛翔したイオリスは、先程のユースケの一撃に舌を巻いた。

 

ユースケの剣撃は、手数とパワーという面ではイオリスに僅かに軍配が上がるが、そのパワーの差を体捌きで補ってくる上に、一撃の速さ、鋭さにおいてはイオリスを凌駕してくる。

 

現に、先程の一撃は受け流しこそしたが流し切れず、剣を持つ手に痺れを残す結果となった。

 

「てりゃああぁぁぁっ!!」

 

ユースケもイオリスを追って跳躍。

空中にてイオリスと接敵を果たす。

 

「ふんっ!返り討ちにしてくれるっ!!」

 

イオリスは痺れる腕に渇を入れ、ユースケを迎撃する。

互いに剣を、刀を、盾を、蹴りを振るい――落下しながらもその攻撃を緩めない。

 

「ッオオォォォォッ!!!」

 

「くぬっ!?ぐああぁぁぁっ!!?」

 

無数の攻撃を放ち、避け、受け流す――素人目には何をしているか理解出来ないであろう空中戦を制したのは――イオリスであった。

 

踏ん張りの効かない空中では、体捌きによる荷重移動が行い難く、一撃の重さと手数の多さでイオリスの方が優勢へと傾いた。

 

だが、コレだけでは押し切るには至らなかっただろう――。

こと、剣の勝負ならユースケとイオリスの技量は互角――否、ユースケの方が上回っていると言っても良い。

 

しかし、此処に来てイオリスは二刀流や蹴り以外に、拳をも使いだした。

 

剣だけの勝負ならいざ知らず、格闘術においてはイオリスはユースケの数段上を行く。

そして、その総合力は空中戦において絶大な効果を発揮し、ユースケを地面に文字通り叩き落とした。

 

「かは……っ!?」

 

「終わりだっ!」

 

轟音と共に舞台に叩き付けられてユースケは、身体を強く打ち付けられ、息を詰まらせられた。

 

その隙に、トドメとばかりにイオリスが放ったのが炎の球――『フレイムバースト』である。

 

「ぐっ、なんとぉっ!!!」

 

意識が明滅する中、飛来する火球を認識したユースケは傷む身体に鞭を打ち、バック転の要領で飛び上がって後方に退避――済んでの所でフレイムバーストを回避することに成功する。

 

「――お返しだ!『フリーズストーム』ッッ!!」

 

イオリスが着地した瞬間を狙い、ユースケが放ったのが氷の魔法――『フリーズストーム』。

 

魔力で出来た氷の刃を、広範囲に乱れ撃つ中級魔法である。

 

「チッ……『ブラストボム』ッ!!」

 

コレに対してイオリスは、爆炎魔法『ブラストボム』で相殺を図る。

ブラストボムはこの世界の呪文、イオ系とギラ系の中間の様な魔法であり、その制圧力は他の魔法を遥かに凌ぐ。

 

爆炎と氷刃の衝突により、舞台の中央で爆発と水蒸気が巻き起こる。

 

本来、相性と威力と制圧力によりブラストボムが優位に立つのだが、ユースケとイオリスでは保有魔力に差がある為に相殺で終わってしまう――。

 

だが――それはイオリスも承知の上である。

 

「………」

 

「………」

 

すかさずイオリスは二刀に炎の魔力を纏い、ユースケも負けじと聖剣に氷の魔力を纏う――。

 

――爆煙が晴れるか晴れないか――。

二人はほぼ同時に駆け抜けた――。

 

「『火炎斬』ッ!!!」

 

「『氷雪斬』っ!!!」

 

炎の魔法剣と、氷の魔法剣がぶつかり合う――。

炎と氷が空気を喰らい尽くしていく――。

 

「ツオオォォォォッ!!!」

 

「こなくそおぉぉぉぉっ!!!」

 

互いに力を、魔力を、闘気を振り絞る――。

拮抗する流れを変える為に――勝つ為に――!

 

二人のぶつかり合いにより大気が震える――。

異界の勇者と闇勇者の激闘は、まだ続きそうである――。

 

***********

 

「…………」

 

「す、凄い……あの二人が、こんなに強かったなんて……」

 

観客席から二人の戦いを見ていたアバンの使徒+αは、開いた口が塞がらない状態だった。

 

「つ、強いなんてもんじゃねぇよ……レベルが違いすぎらぁ……!!」

 

未知の呪文、桁外れの闘気――力、技量――そのどれもが人間離れしていた――。

無論、ポップは魔導士だ――最近、文字通り死の淵から這い上がってパワーアップを果たしてもいる――魔力においては舞台上の二人にも勝っている自信はある……が。

 

そんなアドバンテージを吹き飛ばす程の何かを、二人から感じていた――。

 

「それに、ありゃあ『魔法剣』だ――ダイやバラン以外にあんな芸当が出来る奴らがいたなんて……」

 

バランとは、ダイの実の父親にしてダイと同じ血の宿命を背負いし者――そして、魔王軍の超竜軍団長である。

奇しくも、ユースケ達が立ち寄ったカール王国を滅ぼした張本人でもある――。

 

此処に来る少し前に、生き別れていたダイとバランは邂逅を果たしていた。

バランはダイに人間を見限り、魔王軍に入って人間を滅ぼす手伝いをすることを要求――しかし、ダイはその要求を蹴った。

 

ダイ自身、助けた人間に自分の力を忌避されたりして、人間に対して僅かながら疑問を覚えていた矢先であったが。

それでも、自分を認めてくれる人間もいると、人間全てが悪意に満ちているワケでは無いと――。

 

人間に絶望した者と、人間に希望を見出だした者――相反する両者がぶつかり合うのは必定だった。

 

バランは息子を愛するが故に、その記憶を封じてまで連れ去ろうとし――ダイはそんなバランに仲間を傷つけられ、親友とも言うべき少年の命をも奪われ……怒り、悲しみ、憤慨し――記憶を自らの力で取り戻すに至った。

 

そして、凄絶なる親子喧嘩が始まった――。

互いに互いを否定し、その超越した力を振るった――。

 

一進一退の攻防――否、バランが僅かながら優勢に進む中、流れを変えたのが――命を落とした筈の親友――ポップによる魔法の一撃だった。

 

勝敗は決し、痛み分けに近い形だったが――辛くもダイが勝利を納めた。

そして、バランはその血の力でポップを蘇生し、その場を去っていった――。

 

この世界における『魔法剣』とは、そんな人知を超越した存在にのみ許された力なのである。

 

「――けど、二人ともまだ加減しながら戦っているような気がする」

 

「えっ!?」

 

「なぬっ!!?」

 

ダイの発言に三人は驚愕を顕にする。

それはそうだ――あれだけ暴れまわっていて加減していると言うのだから――。

 

「本当なの、ダイ?」

 

「――さっきの闘気剣にしても、呪文にしても、観客席に影響が無いように放っているんだ――だから、加減しているって言うのも違うのかも知れないけど……」

 

言われてみればと、皆は戦いを振り返る。

先程二人が放った未知の呪文は舞台上でのみ炸裂していたし、ユースケが放った熱血斬りも場外の壁際近くの地面を深く切り裂いただけに留まっている。

 

つまり、あれだけ白熱した戦いを繰り広げながら、二人とも周りが見えているということである。

 

「強いとは思っていたけど、これだけの力を持っていたなんて……」

 

マァムは冷や汗を感じた――そして、自問自答する――あの二人の内、どちらかが決勝に出てくるとして、自分は勝てるのかと――。

 

当初の目的通り、腕試しをするならば問題はない。

むしろ胸を借りるつもりで挑み、悔いの無い様に戦うことは出来るだろう――。

 

しかし、今は目的が違う――ダイの為に、勇者の為に、正義の為に――なにがなんでも覇者の剣を勝ち取らなければならない――。

 

しかしそれでも、マァムが出した答えは『全身全霊で挑む』しかないということであった。

 

例え勝ち目が薄かろうと今更後には引けないし、卑怯な策を労する気は更々無い。

しかも、あの二人とは悔いの無い様に全力で戦うことを約束したのだ。

 

ならば、自分のするべきことは変わらない――そう結論付けたマァムは、更に決意を固めて舞台上を注視した――対戦相手になるかも知れない者を、見定める為に。

 

(たしかに強い……おれが『紋章』の力を使っても勝てるかどうか……でも)

 

ダイは二人の持つ力に驚き、純粋に称賛を顕にしていたが――気付いてしまった。

 

二人があまりに人知を逸した力を見せるため、観客が静まり返っているのだ――。

観客達を占めるのは、驚愕、興味、未知、そして――恐怖。

 

ダイには分かる――自分も、同じ様な感情を向けられたから――。

人はあまりに理解が及ばぬ事柄に対し、恐怖という感情が沸き起こってしまう。

 

そして、恐怖は否定に、否定は排他に繋がる――。

 

それを知ってしまっているダイは、辛そうに顔を歪める―――が。

 

「「ッ!!!??」」

 

一瞬、二人の剣が怪しく光ったかと思うと、二人とも慌てて距離を取った――。

 

「な、なんだぁ今のは?」

 

「わからない……だけど……」

 

それを見ていた四人には何が起こったのか理解出来なかったが、ダイは本能的に察していた――今のは『危なかった』と。

そしてそれは舞台上の二人も同様だった――。

 

**********

 

炎と氷が互いに喰い合い、押し切ろうとせめぎ合っていた――次の瞬間!!

 

「「ッ!!!??」」

 

突如としてユースケの聖剣の氷が、イオリスの銘刀と魔剣の炎が、光と化したのだ。

 

その光に、底知れぬ何かを感じた二人はほぼ同時に距離を取った――。

 

(なんなんだ、今のは――?)

 

(なんだか分からんが、一瞬背筋に寒気が走った――)

 

光は消え去ったが、二人とも冷や汗を隠しきれない――。

 

(……もしも、あのまませめぎ合っていたら――)

 

(あと一瞬でも対応に遅れていたならば……)

 

『危なかった』……と、本能的に察した。

聖剣も、魔剣も、銘刀も――己自身でさえも消しうる……あれはそういう類いの光なのだと――。

 

「ぷふぅー……ん?」

 

接戦による緊張感と相俟って、一息挟んだユースケはあることに気付く。

 

「……タイム!」

 

「……あぁ、貴様の言いたいことは分かる」

 

そして、それにはイオリスも気付いた様で、ユースケのタイムを受け入れた――そして。

 

「貴様らあぁぁぁっ!!!応援の声が無いではないかああぁぁっ!!もっと声を張り上げんかあぁッッ!!!!」

 

「そうそう!!もっと応援をプリーズ!!ハリー!!ハリー!!!」

 

そう、観客の歓声が止まっていることだ。

観客が発する雰囲気から、瞬時に自分達がやり過ぎたのではないかと危惧した二人は、歓声を要求したのである。

 

正直、勝負に集中していて気付かなかったが、気付いてしまった以上は放置出来なかった。

 

放置しても勝負には何ら問題は無いが、それでも雰囲気的に好ましくないのは確かだ。

 

イオリスは、公衆の面前でどちらが強いかを決める為にこの場を望んだ。

故に、世論を味方に付けるべきと判断した。

仮に勝負がつかなかったとして、最終的に観客の声こそが勝敗を決する鍵になると践んだのだ。

 

ユースケは決着を着けたかったのもあるが……単に武術大会というお祭り騒ぎで、お通夜みたいな雰囲気を醸し出しているのが気に入らなかっただけに過ぎない。

 

「皆、私の勝利を信じて疑わないのは分からんでもないが……あまりに静かでは興が削がれるというもの――」

 

「おいィ、無知なガングロの無知な言動に驚きが鬼なる……此処で俺が勝利するのは確定的に明らか」

 

「……ふっ、少し良い勝負が出来たからと言って調子に乗るなよ?私にはまだ、新技があるのだからなっ!!」

 

「……言ってて気付かないか?さっきチウが言ってたのと同じ様なセリフだぞ、ソレ」

 

「なん……だと!?」

 

――なにやら、舞台上が妙な雰囲気になってきた様だ。

 

「貴様ぁッ!!また私をあのネズミと同列に扱うかぁッッ!!」

 

「同族嫌悪って名セリフを知らんのかよ?」

 

「セリフですらないわあぁぁぁっ!!!!」

 

***********

 

「この貧弱草食系がぁっ!!」

 

「んだとぉ、このカッペ野郎がっ!!!」

 

「貴様……ッッ!!!」

 

「もう――ゆ・る・さ・んっ!!!」

 

「……なにやってんだよあいつら……」

 

舞台上で行われている、あまりにも低レベルな口論に呆れ、つい口に出たポップの一言である。

 

――どうやら、それは会場全体の総意であり、先程強まった恐怖心が薄れているようである。

 

「さっき言ったネズミってボクのことかっ!!訂正しろっ!ボクの方がお前よりカッコいい!!」

 

……さっきの落ち込みようは何処へやら――チウは舞台上のイオリスに対して文句を言っていた。

 

「ふんっ!!一回戦で敗退した貴様が何を言うか!!偉そうに言いながら、あんな無様に負けおってからに!!」

 

――しっかり聞こえていた様で、キッチリ言い返していた。

 

「くぬぬぅ、言わせておけばぁ……ユースケ君!!遠慮はいらんから、そんな紫頭はさっさとやっつけてくれたまえっ!!!」

 

「おう、任せとけっ!!どーだイオリス!俺に一人応援がついたぜ!!」

 

チウの声援に答え、これでもかとドヤ顔を見せつけるユースケ。

 

「応援も何もネズミではないかッッ!!!」

 

「それでも一人は一人だ!」

 

「ぐぬぬ……!」

 

勢いに圧され、言葉に詰まったイオリスが取った行動は――。

 

「会場の者たちよ!!私に元気を分けてくれぇっ!!」

 

……応援の催促だった。

 

「ちょ、そういうのは主人公の俺が言うべきセリフっしょ!?」

 

「フハハハ!!こういうのは言ったもの勝ちなのだッ!!」

 

それを見ていたダイは、表情を崩した――。

 

「いいぞー!!二人とも頑張れーっ!!」

 

「お、おいダイ……!」

 

急に声援を送ったダイに、ポップは戸惑った。

自分達はマァムの応援をしているのである。

故に、最大の障害足るユースケ達に声援を送ったダイを咎めずにはいられなかったのだ――。

 

「――なんだかおかしくってさ。あの二人を見てると、おれの考えなんて馬鹿馬鹿しく思えちゃって……」

 

あんなに強い力を持つ者でも、周りに忌避されそうになっても、あんな風に馬鹿騒ぎをしている――。

そんな二人に、何故かダイは勇気を分けて貰った様な……そんな気持ちになったのだ。

 

そして――。

 

「二人とも頑張って!!決勝で待ってるからねーっ!!」

 

それは伝染する――。

 

「フハハハッッ!!!マァムとあの少年の声援は私が貰ったぞぉ!!」

 

「節穴イヤーなんですかお前は。どっちも『二人とも』って言ってるでしょーが」

 

この戦いを、状況を楽しむ二人を見て――。

 

「ったく、しょーがねーなぁ……応援してやるから、さっさと決着つけやがれってーのっ!!」

 

恰も、水面に落ちた水滴が波紋を生むように――。

 

「よし、オレは黒い兄ちゃんを応援するぜ!!負けんじゃねーぞっ!!」

 

「赤いの!!おれはお前に賭けてんだ!!絶対勝てよぉ!!」

 

**********

 

「「「イオリス!!イオリス!!イオリス!!」」」

 

「「「ユースケ!!ユースケ!!ユースケ!!」」」

 

果たして、俺たちの声は届き――観客の声援が二分されることになった――。

 

「これで、ようやく再開出来るな?」

 

やれやれと息を吐く俺に、イオリスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「フン、せっかく受けた声援が裏切られることになるのだから、憐れと言わざるを得んな!!」

 

「抜かせっ!!貧弱草食系呼ばわりしたのは忘れてないからなっ!!」

 

「貴様こそ、カッペチビ野郎と言ったではないかっ!!この屈辱、忘れんぞッッ!!!」

 

「チビとは言ってない件」

 

コイツ、自分で墓穴を掘りやがった……。

 

「まぁ、良いや――新技いくぜッ!!」

 

俺は再びクゥ・ラージュを構える――。

新技とは言え、俺とイオリスは一緒に修行をしていた――だからこそ互いの手の内は、ほぼ知り尽くしている。

 

――この技も、元はと言えばイオリスから教わった物だからな。

技自体も、実際に見たことがあるけど――。

 

「ハアァッ――」

 

クゥ・ラージュに氷の魔力を集束させていく――乗せる魔法はフリーズストーム――俺が使える一番強い攻撃魔法だ。

――けど、これじゃあまだ足りない。

 

この技を使うには、あの世界の最上位氷結魔法――『フリーズゼロ』に匹敵する氷の魔力を剣に込めなければならない――けれど、俺にフリーズゼロは使えない。

 

だから――。

 

(これで――どうだッ!!)

 

俺はフリーズストームの込められたクゥ・ラージュへ、更にこの世界の氷結呪文――『ヒャダイン』を上乗せするっ!!

 

――どうやら、辛うじて届いたらしい。

 

触れれば凍って砕ける――そんな確信にも似た感覚を得た、極低温の刃と化したクゥ・ラージュ。

 

それを構え――。

 

「行くぜ――」

 

俺は宣告する、これから放つ技――。

 

「『乱れ――雪月花』ッッ!!」

 

イオリスの師匠、魔将グラントが誇る必殺剣を――!!!

 

***********

 

ユースケが放った技――我が師グラントの必殺剣、『乱れ雪月花』――。

 

極低温の刃を持って、縦横無尽に敵を屠る我が師の奥義――。

 

私の五月雨斬りは、言うならば未完成な技であり、此処に魔法を込めることで初めて完成となる。

 

もっとも、私には氷結魔法の才は無かった様で、師の奥義を受け継げなかったが、氷結魔法を使えるユースケならば――と、教えた次第だ。

 

そうしたらこの男、この奥義の基礎である五月雨斬りは勿論、乱れ雪月花をもトントン拍子で覚えていったのだ。

本人曰く、この世界に来て氷結呪文を覚えたからこそ、この技を覚えられたのだと言うが――。

 

それでも、恐ろしい才覚であることは明白だ。

 

「見た目は本物だ――しかし中身はどうかな!!」

 

私は再び剣に炎を纏い、ユースケを迎撃する――先程の光が脳裏を過るが、もしこの乱れ雪月花が師の物と同等であるならば、素のままで受けるのはそれこそ自殺行為に他ならない。

 

「でりゃああぁぁぁっ!!」

 

「くおぉぉぉっ!!?」

 

は、速い――剣速もさることながら、一撃の重さが――っ!?

 

私は二刀を振るい、ユースケの剣撃を相殺していくが――手数で勝る筈の私の剣と同等の――否、ソレ以上の速度で剣閃が襲い来る――ッ!!?

 

更には――!

 

「炎が……凍るッッ!!!??」

 

私の炎の魔力を纏った二刀が、その炎ごと徐々に凍り付いていくではないか……っ!!

 

これは互いの得物に込められた魔力の差……それが炎を凍らせるという不可思議な現象を引き起こしたのだ――。

 

――認めよう、その力。

その技が……我が師グラントの秘剣と寸分違わぬ物だと――!!

 

「だが!!私とて、このまま終わるつもりは毛頭無いッッ!!!」

 

私は二刀に込められた魔法、中級火炎魔法フレイムバーストへ、更にこの世界で得た火炎呪文『メラミ』を上乗せする。

 

「新技を覚えたのが、貴様だけだと思うなぁッッ!!!」

 

「ぐぬっ!!?」

 

私の二刀が纏った凍り付いた炎は、その氷を溶かして再び勢いを増す。

そしてユースケの連撃に割り込み、放つ!!!

 

「『獄炎乱舞』ッッ!!!!」

 

五月雨斬りに、獄炎を宿した私なりの完成形!!

両の刀剣で、再びユースケの剣撃を迎撃する!!!

 

「くおぉぉぉっ!!!」

 

「うりゃああああぁぁぁぁっ!!!」

 

互いの斬撃が、刺突が――無数にぶつかり、弾けて、またぶつかり合う――。

 

――技の威力自体は互角だが、込められた魔力はユースケの方が上回っている――。

我が炎が凍らされることは無いが、炎自体が徐々に弱まってきている気がする――。

 

「ぜあああぁぁっ!!!」

 

「コンチキショオォォォッ!!!」

 

それを知ってか知らずか、互いに剣を大きく振りかぶり雌雄を決しようとした――。

しかして、互いの一撃は強力ではあったが、互いに吹き飛ばされるだけに終わった――。

 

「ぐ、ぬ……ッ!!」

 

「うぎぎ……ッ!!」

 

お互い、場外に弾き飛ばされそうになったが、済んでの所で踏みとどまった――。

 

「くくっ、ある程度は理解していたつもりだったが……まさか此処まで実力が拮抗しているとは、な」

 

「まったくだ……へへっ、武者震いが止まらねぇや!!」

 

――正直に言わせて貰うなら、時間を掛けていけばいく程に、私が不利になるだろう。

――ユースケの奴め、徐々にではあるが私の攻撃に対応してきている。

 

私とて才能には恵まれたつもりではあったが、こと剣と魔法においては奴が一枚上手だ――それは、認めねばなるまい。

 

――故に!!

 

「貴様との勝負はこの上なく楽しいが、そろそろ幕といこうではないかっ!!」

 

私は自身に強化魔法を掛ける――。

己が武器自体の鋭さや頑強さを強化する魔法――『リーンフォース』。

 

「あーっ!!ずるいぞ!!」

 

「フハハハッッ!!まだまだぁ!!」

 

更に、すかさず脚力を強化し速度を上げる魔法――『アクセラ』も唱える。

 

「フハハハッッ!!!滾るッ!!滾るぞぉ!!!」

 

「汚ないなさすが闇勇者汚ない!」

 

ふん、何とでもほざくがいい!!

幾ら貴様の魔力が上回っていようと、使用できる魔法のバリエーションでは私が上!!

ならばそれを利用せんのは阿呆のすることよッ!!!

 

「更にぃ!!!」

 

私は剣に爆炎魔法であるブラストボムを込める――。

 

「『爆炎斬』――私が新たに編み出した技の一つだ。幾ら貴様とは言え、生半可な技ではこれを突破することは叶わんぞ?」

 

私は魔力で劣ってはいるが、氷結魔法と爆炎魔法では相性的に爆炎魔法に分がある。

 

更に攻撃力と速度を強化しているのだから、奴の氷の剣すら打ち砕く自信がある!!

 

「だったら――俺も全力全開だっ!!!」

 

ユースケが腰を落として半身になり、剣を斜め上段に構えた。

すると、氷の魔力は霧散し――その代わりに先程の様に剣に闘気が集束していく――ただし、それはより洗練され、より強固な物に変化していった。

 

氷の魔力を霧散させたのは些か計算外――いや、薄々は最後の決め技はそれで来るだろうと思ってはいた。

 

奴の十八番――奴がもっとも得意とする、最強の技でッ!!!

 

「よし――いくぞぉ!!!」

 

「受けてたつッッ!!!」

 

ならば、私も全力で迎え撃つのみだ!!

 

***********

 

「あれは……っ!!」

 

「ど、どうしたんだよダイ?」

 

突如、驚愕を顕にしたダイにポップは疑問を投げ掛ける――。

 

「間違いない……構え方は違うけど……あれは――アバンストラッシュだ!!」

 

「えっ!?」

 

「なんだとぉっ!?」

 

確信を込めて放たれたダイの言葉に、ポップのみならずマァムも驚きを隠せない。

 

「えっと、アバンストラッシュって?」

 

――約一名、意味を理解できていないネズミがいたが。

 

「アバンストラッシュってのは、オレたちの先生――勇者アバンが生み出した必殺剣だ!!」

 

ポップが言う様に、アバンストラッシュとは彼らの師であるアバンが生み出した、『アバン流刀殺法』の奥義とも言うべき必殺剣のことである。

 

曰く、大地を斬り、海を斬り、空を斬る――。

それらを全て成し遂げた者にのみ扱える秘技――。

 

「ピ、ピィ〜……」

 

と、ダイ達の側で何やら驚いている様子の金色の塊がいた――。

彼?はゴールデンメタルスライムのゴメちゃん。

 

ダイが小さい時から(今も小さいが)の友達で、ダイ達の立派な旅の仲間である。

 

基本ゴメちゃんは、その小さな身体に生えた小さな翼で、ダイ達の側で飛んでいる。

知能も高い様で、人の言葉をよく理解している節がある。

 

故に、ダイ達と共に旅をしてきたゴメちゃんが、アバンストラッシュについて知っていても、何の不思議もないのである――どっとはらい。

 

***********

 

「うおりゃあっ!!」

 

「ぬっ!?」

 

俺は左手に装備していた盾を、フリスビーの要領で投げつけた。

当たればそれなりのダメージが見込めるけど、イオリスなら叩き落とせるだろう――でも。

 

「チィ――ッ!!」

 

――イオリスは避けた。

いや、避けざるを得なかったんだ。

 

何故なら、盾を叩き落とせばその動作の分だけ隙が生まれるからだ。

また、盾を叩き落とせば、剣に込めている魔力がその分だけ霧散する。

 

イオリスはこれから放つ俺の技が、生半可なものじゃないことを知っている――。

 

だからこそ、盾を叩き落とす労力を嫌ったのだろう。

けれど、そのせいで避けるしかなかったイオリスは、少しだけ体勢を崩した。

――狙い通りだ!!

 

――すかさず、俺は剣を掲げて駆ける。

アイツが――イオリスの技がどんなに凄くても、打ち勝つ自信が俺にはあった。

 

曰く、大地を斬り、海を斬り、空を斬る――!

その果てに辿り着く、剣における一種の到達点。

 

何よりも、あの世界でピータンが――ルイが使っていたこの技。

 

偉大なる英雄であり、ピータンの父でルイの師匠である、アルシオンが使っていたというこの技――!

 

絶対に打ち破られるものかッ!!!

 

「ぬおおぉぉっ!!『爆炎斬』ッ!!!」

 

「『アルシオン――スラーーッシュ』ッ!!!」

 

剣と刀を交差して放ったイオリスの爆炎を纏った剣と、俺の放ったアルシオンスラッシュがぶつかり合う――。

 

「くっ、ぬぅ……!!」

 

「ぐぅ……!!」

 

イオリスの二刀から溢れる爆炎の余波が、俺に襲い掛かる――けど、拮抗したのは一瞬!!

 

「でやあああぁぁぁっ!!!」

 

「ぐぬぉぉッッ!!!??」

 

高らかに響き渡る金属音――僅かに技の出が早く、威力で大きく勝った俺の一撃が――イオリスの二刀を弾き飛ばした瞬間だった。

 

(――勝った!!)

 

イオリスの両手から弾き飛ばされていく二振りの剣を見据え、俺は勝利を確信した――。

 

「――獲ったぞ」

 

――――筈だった。

 

「な、に……?」

 

俺が目にしたのは、弾き飛ばされた剣なんて気にも止めずに懐に飛び込んで来ていたイオリスの姿――。

 

そして――。

 

「しまっ――」

 

「『烈火――爆裂拳』ッ!!!」

 

放たれたのは、無数に襲い掛かる拳打の嵐だった――!!!

 

***********

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッ!!!」

 

「ぐわあああぁぁぁぁっ!!!??」

 

烈火爆裂拳――イオリスの持つ、烈火拳という乱打技の強化版。

烈火拳が瞬時に数発の拳打を放つのに対して、烈火爆裂拳は瞬間数十発を放つ。

 

その拳打の嵐は、容赦なくユースケを打ち据えていく。

 

盾を投擲し、必殺剣を振り切り、勝利を確信してしまったユースケに防ぐ余裕も暇も無く――。

 

「オラァッッ!!!!」

 

「ごふっ……!!」

 

敢えなくトドメの一撃をテンプルに貰ったユースケは、大きく弾き飛ばされてしまった。

 

一瞬、ユースケの意識が明滅する――。

ただでさえ威力のあるイオリスの技が、魔法で強化されているのである――それも当然の既決であった。

 

――しかし、ユースケは倒れきる前に踏ん張った。

歯を喰い縛り、腰を入れ、足に力を入れる――。

ガガガと足の接地面が削れる音が響き――舞台際ギリギリにて踏みとどまった。

 

そして、ユースケはイオリスを見据える――その顔は勝ち誇ったものでは無く、眉間に皺を寄せた厳しいものであった。

 

それを見たユースケは苦笑を浮かべ――。

 

「降参――俺の、負けだ……」

 

己の敗北を告げ、ゆっくりと倒れ込んだのだった――。

 

***********

 

ユースケの降参を聞き取り、審判が私の勝利を告げる――。

観客から拍手が喝采し、私の勝利を実感させてくれる――しかし、私の心は晴れやかとは程遠かった。

 

「たはは……参った。もう、鼻くそをほじる力も残ってねーや……」

 

なんぞ戯けたことをぬかしている眼前に倒れた馬鹿者に、中級回復魔法『キュアラ』を掛けてやる。

 

魔力の輝きが奴を包み、傷を癒す。

 

「そら、これで動ける様になっただろう?」

 

「お、動く……サンキューイオリス!しかし、回復してくれたのはありがたいけど、お前が勝ち誇らずに回復を優先してくれるなんてな……これも勝者の余裕ですかこの野郎」

 

ふん、よくもぬかしおる……!

本人に自覚が無さそうなのが、余計頭にくる。

――なので、私は立ち上がったユースケに一言言ってやることにした。

 

「……貴様、何故あの時に武器を狙った?貴様のアルシオンスラッシュなら、私の攻撃を抜けて私にダメージを与えることも不可能では無かった筈だ」

 

そう、ユースケはあの時に私自身を狙わず私の武器を狙い、弾き飛ばすことに終始した。

 

もし、コイツが私自身を狙ってアルシオンスラッシュを放っていたら、私も手痛いダメージを負っていたのは明白だ。

最悪、それで勝負が決まってしまう可能性もあった――。

 

――本来、私は肉を切らせて骨を断つ様なつもりで、烈火爆裂拳を放つ予定だった。

アルシオンスラッシュと競り合い尚、私の爆炎斬が打ち負けるであろうことは、剣を合わせた時点で感じたことだった――。

 

ならば、ユースケのアルシオンスラッシュを耐えきり、起死回生の烈火爆裂拳を叩き込む――筈だったのだが。

 

それをこの馬鹿者は……!

 

「最初はそのつもりだったんだけどな……仮にも仲間相手だって思ったら――気付いた時には武器目掛けて剣を振ってたよ」

 

「貴様は私を侮辱するつもりか?貴様の攻撃くらい、耐えられん私では無いッ!」

 

「――かもな。それでも、振っちまってたんだからしょうがないだろう?まぁ、武器を弾き飛ばした時点で、勝ったつもりになって油断していたんだから――言い訳のしようもないけどな」

 

全くこの男は、何処までお人好しなのか――。

 

コイツの答えに呆れ返るばかりの私だが……。

不思議と先程のモヤモヤした感情は消えていた。

 

まぁ、納得出来たのだろう――この馬鹿が、どうしようもないお人好しであることによる結果なのだと――。

 

しかしそれ故に――。

 

「この勝負、私の勝ちだが――手心を加えられたことには納得してはおらん……決着は次に持ち越しだ!!文句は言わせんぞッ!!!」

 

――ユースケが底抜けのお人好しなのは理解したしその結果に納得もしよう――だが、ソレとコレとは話が別だ。

 

私が望むのは、ハッキリと白黒を付けること!

 

故にこの勝負が私の勝ちであることには納得出来たが、これが我々の雌雄を決する勝負であるなどとは――納得いかんっ!!

 

「そりゃあ文句は言わないけどさ――お前って本当に変わってるなぁ」

 

「貴様に言われたくないわッ!!」

 

私はこの馬鹿よりはマトモなつもりだッ!!!

断じて違うとは言わせんぞッッ!!!

 

「まぁ、良いけどさ。とりあえず御約束通りに、『俺に勝ったんだから、決勝でも負けるなよ?』って言っておいてやるよ」

 

「フッ……では私は『当たり前だ馬鹿め』と、答えてやろう」

 

互いに御約束なセリフを言い合い、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

言われなくとも、ユースケ以外の者に負ける気はせんが……元より、油断や慢心は捨て去っている。

いかなる相手でも、全霊をもって挑んでくれるわッッ!!!

 

***********

 

「ほっほっほっ、いやはや凄い試合じゃったのう!じゃが、これで決勝進出者が決まったわけじゃな――のう、ザムザ殿」

 

「はい、王様――いよいよですな」

 

(そう、いよいよ選りすぐりのモルモットが選出された――これで我々の研究も更に進むというもの――キーヒッヒッヒッ!!)

 

ロモス国王がニコヤカに、嬉々として出した問いに答えた神官風の男は――その内心でドス黒い陰謀を渦巻かせていた――。

 

賑やかで活気溢れる武術大会に、風雲急を告げる足音が刻一刻と近付いていたのであった――。

 

***********

 

う・ん・ち・く♪

 

○熱血斬り

 

ユースケが旅の中で編み出した、必殺剣。

剣に闘気を纏い、その剣閃で敵を薙ぎ払う。

 

『烈!激我允!!(れつ!げきがいん!!)』のセリフと共に放たれる。

 

○氷雪斬

 

氷の魔力を纏わせ、敵を切り裂くと同時に凍らせる魔法剣。

その威力は込められる魔法の魔力量に左右される。

 

○フリーズストーム

 

中級氷結魔法。

氷結魔法とは言うが相手を凍らせるのでは無く、実際は空気中の水分を魔力で結晶化させ、氷の刃と化した弾丸で敵を切り裂く魔法。

 

フリーズストームは数十発の氷弾を乱れ撃つ。

 

○乱れ雪月花

 

イオリスの師匠、魔将グラントが誇る最大の必殺剣。

 

剣に氷の魔力を込め、敵を滅多斬りにする。

刀身に触れたモノは全て凍って砕けると言われ、その極低温の刃は炎ですら凍らせる。

 

この技を使う最低条件として、最上位氷結魔法フリーズゼロに匹敵する氷の魔力を込めなければならない。

 

ユースケはフリーズストームに、この世界の氷結呪文であるヒャダインを上乗せすることで、辛うじてこの技を再現してみせた。

 

○アルシオンスラッシュ

大地を斬り、海を斬り、空を斬ることが出来て初めて完成するという、英雄アルシオンの奥義。

 

かつてアルシオンに師事した勇者ルイが――。

また、かつてのアルシオンの弟子から学んだアルシオンの息子ピータンが使ってみせた技。

 

その本質は闘気剣ではあるが、密度や質量など、通常の闘気剣とは比べ物にならないくらい高く、正に奥義の名に恥じぬ威力を誇る。

 

本来なら厳しい修行の末に会得出来る技だが、ユースケは友であるピータンの命を魔将の一人に弄ばれ、極限の怒りと悲しみの中で会得してみせた。

 

ユースケ曰く、ピータンが力を貸してくれたから――らしい。

 

ダイが言うには型は違えど、自身の必殺剣であるアバンストラッシュにそっくりらしいのだが……。

 

●フレイムバースト

 

中級火炎魔法。

燃え盛る炎の球を敵に投げつけ、敵を燃やす。

その火球は火柱を伴い、敵を焼き尽くす。

この世界のメラミに相当する魔法である。

 

●ブラストボム

 

中級爆炎魔法。

強力な爆炎で広範囲を吹き飛ばす。

この世界のイオラとベギラマの中間の様な魔法であり、感覚としては爆炎の球を放つ様な感じなので、イオラの様に連発することが出来る。

 

●リーンフォース

 

武器自体の鋭さと頑強さを強化し、攻撃力を上げる魔法。

重ね掛けが可能で、最大で倍近く攻撃力を底上げすることが出来る。

 

●アクセラ

 

脚力を強化して素早さを上げる魔法。

重ね掛けが可能で、最大で倍近く素早さを底上げすることが出来る。

 

●火炎斬

 

炎の魔力を纏わせ、敵を切り裂くと同時に燃やす魔法剣。

その威力は込められる魔法の魔力量に左右される。

 

●爆炎斬

 

爆炎の魔力を纏わせ、敵を切り裂くと同時に爆炎を見舞う魔法剣。

その威力は込められる魔法の魔力量に左右される。

尚、イオリスの完全オリジナル技である。

 

●五月雨斬り(二刀)

 

無数の斬撃で敵を滅多斬りにする技。

本来は乱れ雪月花の下地とも言うべき技で、此処に氷の魔力を込めて初めて完成となる。

 

イオリスは氷の魔法の才能が無く、乱れ雪月花は継承出来なかったが、そのぶん技としての練度を上げることで必殺の技へと昇華させた。

 

二刀による手数もさることながら、その鋭さは魔将グラントをして「自身より苛烈」と言わしめた。

 

尚、乱れ雪月花が使えるユースケも五月雨斬りは使える。

 

●獄炎乱舞

 

五月雨斬りに炎の魔力を込め、敵を滅多斬りにするイオリスのオリジナル技。

 

乱れ雪月花を覚えたユースケに対抗して、自身が一番得意とする炎の魔力を込めることで、独自の技として完成させた。

 

今までは自身の魔力量の少なさ故に、敢えて魔法剣として完成させなかった五月雨斬りを、自身最大の火炎魔法フレイムバーストと――この世界で覚えた火炎呪文であるメラミを掛け合わせることで、威力の増強を図った。

 

その二刀による炎剣の嵐は、敵対する者を容赦なく燃やし斬る。

 

●烈火爆裂拳

 

一瞬で数発の闘気で強化された拳打を放つ、烈火拳のグレードアップ版。

 

その苛烈な迄の拳速は、瞬間数十発を可能とする上に闘気の練度も高まっているので、一発一発が非常に重い。

 

イオリスが、烈火拳を独自に昇華させて編み出した必殺拳である。

 

 




今回のお話は――。

◎スタングルは犠牲になったのだ……。

◎ザム「もう止めて!ステージの中のBPのライフはもうゼロよ!!」

ユー&イオ「「HA・NA・SE!!」」

――の、二本でお送りいたしました!
それじゃあ皆さんご一緒に――じゃんけんポンッ!うふふふふ〜(´ω`)

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