ハピナ様主催の第一回ハーメルンコンテスト参加作品とさせて頂きます。作者はとても機械に疎いため間違いがあれば訂正して頂けると非常に助かります。
「ん……?」
明日の予定を見るために張り紙が貼られた壁を見てみると不思議な数字を見つけた。
2/29
しかし異様な数字だと思っていたが、直ぐに目はその日にちに馴染んだ。
「なんだ……ただの閏年か。」
何となく徒労を感じながら明日の準備を始める。何故なのか分からないが溜息が止まらない。
別に今年の2/29日に何かある訳じゃあない。果てしなく何も無く、逆に面白味のない4年に1度の事。無理に嫌なところをあげるとすれば、その29日が月曜日である事ぐらいなだけである。
「はぁ……つまらないなぁ。」
溜息が止まらないのが嫌になり、作業をやめてベットに横になった。明日の準備をするだけなのにこんなにも億劫になるなんて、こんなにも自分が堕落していると思ったのは初めてだ。
別に自堕落な自分は嫌いじゃない。そこまで堕ちてる訳じゃないし、親に多少なりとも迷惑をかけているだろうが未成年なので少しは目を瞑ってもらいたい。
閑話休題
さっきから何故だか2/29という日にちが頭からちっとも離れない。
理由は分かっている。
何も無いからだ。
自分には閏年だからーとか、4年に1度だからーとか、そんな夢物語を語れるの程の人生経験を持ち合わせていない。彼女いない歴=年齢な奴にロマンチックな事を求める奴はいないとは思うがそういう事が無いのは唯々空しい物ではあった。
別に異世界にいけるとか望んでいる訳じゃない。非日常を味わいたいとか思っている訳じゃない。まぁ行けるのならば自分は喜んで今生きている「自分」を捨てて何処かへ旅立つだろう。突拍子も無く厨二病だと言うだろうがこればっかりは仕方ない事だと思っている。
リアルで生きられない奴はバーチャルでしか生きられないから。
さて、言い訳なんて言わないで動くとしようか。
この程度の理屈は誰にでも思い浮かぶであろう屁理屈に過ぎないのだから。
「はぁ……」
ツいてない。
2/29日は朝からまぁ、酷い物だった。
寝坊をして定時の電車には乗れないわ、満員電車で押し込まれ気分は悪くなるわ、何だか知らないがおっさんからいちゃもんをつけられるわ、嫌な事が続いた。
……主に電車だけだったのだが。
学校につくとつまらん授業を受けさせられたり、受験で専攻をしないような勉強もさせられ散々だった。
しかしそれはいつもの通りの事。日常の一コマに過ぎなかったはずなのにいつも以上にイライラする、腹立たしい。閏年という物にどうやら自分は嫌われてしまったと錯覚してしまう程だ。
死んでる様に授業を受け終わってから一緒に帰ろうと言われたが、いつもより塾の時間が早いからだと適当な理由を作って早々に帰った。しかしそのせいで塾にいくまでの時間が余ってしまった。無論、塾の時間が早い訳は無い。はぁ……とことんついてない。自分は家で無意味に過ごすのも嫌だったので、塾周辺を彷徨いておこうと思って学校の最寄り駅へ小走りで向かってから電車に乗って直行した。
「うぅ……寒。」
電車の中が温かかった為、外が余計に寒く感じられた。文明が人を悪くするとはこの事か、などとつまらない事を考えながらブラブラと歩き回っていた。
この周辺は栄えているという訳では無いが人が少ないという訳でもない。なので時間が余り過ぎる事も、逆に使い過ぎる事も無い駅周辺。別に貶してないよ?万能はいい事だよ。
すると何やら音が頭の中に響いてきた。
微かにであったが綺麗な音色、穏やかなメロディ。何となく足を進めていると歌声も聞こえてきた。自分はふと、進めていた足を止めた。
そこにはギターを肩から提げて、座りながら演奏していた女性がいた。
ただのストリートミュージシャンであった。でも彼女が歌っている曲は自分も知っている曲だったので吃驚した。
私が指を差す……大きな声で
自分は無意識的に音は発しなかったが拍手をした。別段と上手だった訳じゃない。けれども心に残る様な歌。普段パソコンなどから聞いていた機械的なモノとは違った……
自分は何も考えずにぼーっとしていた。ただ、足だけは動かしていたみたいで気がついた時は伴奏を終えた彼女がキョトンとして自分を見ていた。自分ははっとしてからなんだかきまりが悪くなって恥ずかしくなったが目を逸らしてしまった。
「ね、ねぇねぇ君。私の歌どうだった……?」
自分はその言葉を聞いてゆっくりと顔を彼女の方へと向けた。彼女は笑ってはいたが唇は微かに震え、さっきまでギターを弾いていた手は一定のリズムを刻みながらポンポンとギターの弦の部分を叩いていた。
「えぇっと……上手く言えないんですが、個人的に好きですよ。貴女の歌。」
「……ふふっ、そう?ありがとう。君、夢中になって聞き入っている感じがしてたんだけど気のせいかなぁなんて思ったんだけど……私の歌で気に入って貰えたのは嬉しい……かな…………エヘヘ。」
彼女は自分の言葉で緊張が解けたと思うと、安心したのか頬を大袈裟に緩ませた。随分と嬉しそうだったのでこっちも嬉しくなってきた。
「でもこんな真冬にデネブもベガもアルタイルも夏の大三角も見れないと思いますよ?」
「それ言っちゃいけないよ!私が好きなんだからいいでしょ?」
「ハハハッ、自分も好きですよ?アニメも原作も。」
「おっと奇遇。私も好きなんだ。ねぇねぇ原作はどこら辺が好き?」
「やっぱりヒロインと主人公の掛け合いですかね。」
「やっぱり!?いいよねぇ〜私も好きなんだよね!」
「失礼噛みました。」
「違うわざとだ。」
「噛みまみた!」
「わざとじゃない!?……ふふっ余り通じる友達がいないんだよね。」
「それは残念ですね。」
「ホントっ、オタクの居場所って少ないと思わない?」
「自分の所の高校は意外とそうでも無いですよ?」
「えぇ!いいなぁ……世代かなぁ。」
「そんなに年離れてないように見えますけど……」
「さぁどうでしょうね?それじゃあ1曲いきますか!」
彼女はそう言っておもむろに次の曲を弾き始めた。
願いの破片よ、永久へ……
「ありがとう……こんな寒い中私の歌を聴いてくれて。」
「自分なんかで良ければ光栄ですよ。どれも神曲のアニソンですし、貴女は歌は上手ですから。」
「そっか…………私ね、ここで歌い続けてよかった。私を認めてくれる人がいて、一緒に楽しんでくれる貴方が来てくれたし……もう心残りは無いかな。」
「えっ……」
身体中の熱が冷めていく感じ、嫌な予感が止まらないのは気のせいではないであろう。
「さて君!次でラスト1曲だよ!!」
「えっ……もう終わりですか?」
「そうそう、だって君もうそろそろ塾の時間だよ?」
自分はすぐ様スマホを開いて確認したが、認めたくない事に針が開始時間に迫っている事に気がついた。
「いや……だとしても塾なんか」
「駄目だよ。」
咄嗟に大丈夫だと言おうとしたのだが静止されてしまった。
「………………分かりました。」
嫌だった。とても嫌だった。果てしなく嫌だった。それでも認める事しか出来なかった。強く否定したかった。でも出来なかった。
だって彼女自身が涙を流していたのだから
悲しいのは自分だけじゃない、苦しいのは自分だけじゃない。そう自分に言い聞かせて血が出るくらい強く唇を噛んで無理にでも笑顔を作り、彼女を真正面から見た。
「ぐすっ……君、今日は来てくれてありがとぉ…………いつもはもう夜で近所迷惑になるから歌わないんだけど……今は君に……きみだけぇにぃ…………歌います。聴いてください!!」
誰にも言えない感情
消えるどころか増していくから
もう一度だけ駄目でしょうか?
この気持ちは迷惑でしょうか?
聞けないよ…………
それから家までの事ははっきりとは覚えていない。
ぐちゃぐちゃのノートを見ると筆跡が新しい古文単語が書かれていたから塾には行っていたのだろう。ただ、その汚いノートを見ていると雫がポタポタと落ちていった。それは他人からしてみればありふれた出会いと別れのワンシーンに過ぎないだろう。
しかし、自分にとっては儚くも散ってしまった楽しいひと時。
今まで自分の感じた事の無い至福の時。
こんな事がもう起きないと思うといっその事知りたくなかった蜜の味。
「あうぁ……もう嫌いだぁ、嫌いだよぉ。どうしてこんなにも人生って上手く行かないんだぁ……」
最高にして最悪の2/29日はこうして幕を閉じた。
それからというもの自分はいつも通りの生活を続けて行った。相も変わらず満員電車には悪戦苦闘し、授業中はヒィヒィいいながら勉強して、何かと理由をつけたり屁理屈を言って人生を悟った様にしている。
ただあの日を境に一つだけ……たった一つではあるが変わった事がある。それは…………
おおっと、これは恥ずかしいから墓まで持っていくよ。
拙いながらも何とか書き終えた……他の方々と比べて文才や内容は劣るかもしれませんが、いい機会になったと思います。次回もこのような機会に会える事を祈りながら締めさせて頂きます。
ハピナ様を始めとする様々な方々、感謝で言葉もありませんがあえて言葉にさせてもらいます。
ありがとうございました!!