森の中に少年は立っていた、それほど大きくはない、少し歩けば抜けられる程度の小さな森。
ふと少年は思う、なぜ自分はこの森がそれほど広くないことを知っているのだろう。
「ーーーーー」
知らないはずなのによく知っている森のおくで、なにかが光ったように見えた。
なにかに引っ張られるように少年は歩き出す、森の奥に、まるでこの先になにがあるかわかっているかのように。
「こんばんわ、**くん」
彼女を最初に見たとき、綺麗な人だと思った、流れる金色の長髪は月の光を反射して輝き、すらりとのびる手足に少女といわれても不思議ではない見た目に反し放たれている雰囲気はあまりにも妖艶だった。
紫のドレスに日傘をさした彼女は、あまりにも美しすぎた。
そしてあまりにも美しすぎるからか、少年の家柄か、きずいてしまったのだ。
彼女が、人ならざるものだということを。
「!?」
いつの間にか少年は彼女に抱きかかえられていた、抵抗はできない、いや、そもそも抵抗しようという気が起きない。徐々に意識が遠のいていく、一切の抵抗は許されず、押し寄せる睡魔はどんどん少年の意識を奪っていく。
「ーーー!!!」
声が聞こえた、ひどく懐かしい、知らないはずなのに自分の声の次に聴いていた声。
「ごめんなさい、そしておやすみなさい、大丈夫よ、彼には何もしないわ」
彼女の声が聞こえると、あの声は聞こえなくなり、少年の意識は、暗闇の中に落ちていった。
「あなたが全てを思い出したとき、きっとあなたは私を許さないでしょうね・・・でも、それでも私は・・・」
目を覚ますと、そこはいつも見る自室の天井があった。
夢を見た気がする、しかし霧がかかったように内容は思い出せない。
「夢、だったのか?」
どんな夢だったのか思い出せない、しかしなぜかとても懐かしい声を聴いた気がする。
もしかしたら無くした記憶だったのかもしれない。
少年は起き上がり外へ出る。
月明りに照らされる庭には、一人の少女が立っていた。
「僕の家には盗むものは特にないぞ」
「人聞きが悪いなぁ別に盗んでないぞ、一生借りてるだけだ」
それを盗むというのではないか、と少年は思うが、もう慣れたので何も言わない。
彼女は少年の目の前まで来ると、手に持っていたものを見せる。
「こんなにいい月夜にぐーすか寝てたらもったいない」
「こんな夜中に月見酒とは・・・まってろ、なにか持ってくる」
真夜中の訪問者は縁側に腰かけ、箒を隣に置く。
「あの時も、こんな月夜じゃなかったか?」
「あの時?」
聞き返してすぐに気づく、あの時、僕と彼女が最初にであったときも綺麗な月夜だった。
普通の少女だった彼女と記憶をなくした、ただの迷子だった自分。
「あの時は本当にどうしよもなかった、母さんが見つけてくれなければ二人とも妖怪に食われていただろうね」
「ああ、お前の母さんには、本当に感謝してる」
母さん、先代の博麗の巫女に僕たちは偶然助けられた。
身元のわからない僕はそのまま博麗神社にひきとられ、魔理沙は里の親の元へ送られた。
それから僕は博麗の巫女の代理として、修行をつまされた。
元々僕には素質があったらしく、修行はそこまで大変ではなかった。
「なにが大変だったって、博麗神社にたいする人里の評判をよくするのが大変だった」
「お前、すごい走り回ってたよな~朝昼晩どこ行ってもお前が退治された妖怪の後始末や壊れた家や畑の修理をやってたの覚えてるぜ」
「そうだったのか、誰かに見られているのはわかってたけど魔理沙だとはきずかなかったよ」
魔理沙と出会ってからもう10年にもなるのか、ふとそんな事を考える。
突然黙り込んだ僕を不審がったのか、魔理沙は僕の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫か?もしかして、思い出してたのか?」
三年前、先代博麗の巫女は死んだ。
母として、巫女として、僕を守って死んだ、紫はそう言った。
母さんは、最後になんて言っていただろう、わずかに覚えているのは「悔しい」たしかに母さんはそう言って僕を抱きしめながら死んだ。
妖怪の攻撃から僕をかばい、致命傷をおった。
妖怪は倒すことができたが母さんは助からなかった。
「大丈夫、もう三年のたつんだ、いつまでも引きずってたら、母さんに怒られる」
「・・・そう、だな、よし!零無!いまから弾幕ごっこやろう!」
「こんな夜中に?」
「花火みたいなもんさ、それにお前なら人里の連中も許してくれるだろう」
謝るのは僕なのか、いつものことながら魔理沙は勝手だ、まぁそれに何度も救われてきたが。
「しょうがない、付き合うよ」
「そうこなくっちゃ!」
『くやしいなぁ、あなたが、あなたが******じゃなければ、私も******のに・・・』
不意に母さんの最後の言葉を思い出す、でも、何かが足りない。
なにか、わすれてはいけないことを忘れている気がする。
しかし不意打ち気味にとんできた魔理沙の弾幕によって思考をさえぎられる。
「げぇ・・・これも避けるのかよ」
「いくら弾速が速くても撃つ寸前に一瞬の”タメ”ができる、そこを改善しないと僕には当てられないよ」
魔理沙がムッとした表情を浮かべる、もともと負けず嫌いな性格だ、わりとのせるのは簡単。
(問題は彼女がなにをしてくるのか、だな)
彼女は毎回こちらの驚く技を見せてくれる。
どれほど回数を重ねようと、どれだけ見切ろうと、彼女は新しい戦い方を見せてくれる。
(魔理沙、君とならきっと僕は・・・)
・・・!
それにきずいたものはわずかだった、幻想郷の実力者と呼ばれる少女たちの中でもさらに少数。
常に頂に立ち続ける彼女たちだけが感じ取った違和感。
「どうされたのですか?お嬢様」
「うふふ、いえ、少し面白い運命がみえただけよ」
「この子達が傷つかなければいいけど」
「私たちと同等、いや、それ以上か・・・?」
「そんなやつ、外にのこってたっけ?」
「んー?うん、強いやつの匂いだ、それもあんときのなぐりあった博麗の巫女並みの」
「あら?うーん困ったわね、最近忙しいというのに」
「結界を抜けてきた・・・?」
あるものは赤く、紅い屋敷のなかで
あるものは一年中咲き誇る向日葵達の横で
あるもの達は高い山の上の神社で
あるものは地底深くの鬼たちがすまう酒屋で
あるものは竹林の奥にある診療所で
あるものはすさまじい数の目玉がのぞく空間で
「・・・!」
「ん?どうした零無、弾幕ごっこの最中によそみなんてお前らしくない」
「・・・結界を抜けてきたものがいる」
「結界を?でもあんまり珍しいことじゃないんだろ?そんなことより続きを・・・」
「自分自身で抜けてきたんだ、幻想郷にひかれたのではなく、自身の意思で結界を通り抜けてきた」
「!?」
魔理沙は知っていた、数多くの妖怪を打倒してきた霊夢ですら自力で結界を抜けることは不可能なことを。
「また、異変か・・・」
それは偶然だったのか、それとも運命だったのか。
しかし歯車は動き始めた、たとえ彼らがどんな選択をしようと過去が変わることはないだろう。
過去は変えることはできない、しかし消し去ることはできる。
記憶から消え、記録から消え、世界のすべてに忘れられたとき、過去は消える。
だから、きっとこの選択は間違いじゃない、記憶を、記録を、世界のすべてを変えれば、きっと、きっとこの運命は変えられる。
いえ、変えてみせる、絶対に・・・絶対に霊夢を殺させやしない・・・!
これは過去を失った少年と、未来を失った少年が、すべてを取り戻す物語