「零無、今すぐ来なさい」
結界を抜けられた感覚から数分とたたずに紫は現れた。ついさっきみた夢がちらつく、これではまたからかわれてしまう。そんな気の抜けたことを考えていた僕に紫は厳格な声でスキマに入るよう促した。
「それで、どんな感じなんだ?」
「・・・貴女は来る必要なかったのよ」
「へへへ、そんなこと言うなよ、異変だろ?私も異変ハンターだ!」
紫はやれやれといった様子で歩いていく。
「状況としてはいつもどおり外来人が迷い込んだ、でもいつもと違うところがあるわ」
「・・・その外来人は明確な意思をもって結界を抜けた」
紫は静かにうなずく、いままでも異変は何度かあった、しかし紫自ら呼び出しにきたのはそう多くない。いつもは彼女の式の藍か橙がくる。・・・それほどの異常事態なのだろう
「てことは早苗とかみたいな感じか、まーた神かぁ?」
「いいえ、入ってきたのは人間よ、普通の、ね」
「はぁ?普通の人間?それがどうやって結界をこえてくるんだ?」
「結界をこえてくるものは三種類、うっかり結界を通り抜けてしまったか、そもそも人間じゃないものか、」
「・・・僕らのように特殊な力をもった人間か」
魔理沙はいまいち理解しきっていない様子だったが、紫は構わずスキマを開ける。そこに広がる景色は、一面の向日葵畑だった。・・・非常にまずい、ほかの妖怪ならいざ知らず、あそこは一番まずい。
「紫、外来人は・・・」
どこだ?そう聞こうとした瞬間閃光が弾ける。向日葵畑の上空、まるで花のように広がる弾幕が見えた。それと赤い光、流れ星のような速度で縦横無尽に動き回るそれは、今までであった誰よりも速い、天狗の文もかなりのものだが、それと同等かそれ以上。
「あれは・・・?」
「おいおい、もう始まってるじゃないか、おい零無早く行こうぜ」
「あ、ああ・・・」
紫がスキマを広げ、外に出る。上ではすさまじい戦闘が行われている、そう戦闘だ、あれは弾幕ごっこではない。
「まずいわね、幽香、本気よ」
風見幽香、幻想郷屈指の実力者、そんな彼女が本気を出している・・・?
「おいおい、かなりやばくないか?」
「紫」
「ええ、スキマの中に幽香をいれるわ、でもあの二人を離さないと・・・」
魔理沙の方を向く、何も言わずともこちらの意図を察してくれたのか、一度うなずいた後深く帽子をかぶりなおした。上での戦闘はまだ続いている、もはや素手の殴り合いになっている、しかし外来人と幽香では速さがかなり差が開いてるらしく、攻撃して離れてを繰り返し、外来人が幽香を圧倒している。
「いくぞ!マスタースパーク!」
圧倒的な物量をもつ光の柱が一直線に空へ、幽香達のもとへのびていく。弾幕はパワー、普段からそういうだけって魔理沙の弾幕の火力はすさまじい、紫の弾幕では幽香の気を引くことができないし、僕の弾幕では不必要に傷つけてしまう、魔理沙がついてきてくれたのはありがたかったかもしれない。完全な不意打ちにもかかわらず幽香は難なく光の柱を避ける。
しかし、突如として光の柱が上昇を止める。
「なっ!?あいつ、私のマスパを真正面から受け止めやがった!」
ありえない、魔理沙のマスタースパークを受け止めたことではない、あれを受け止めるだけなら僕にもできる、しかしあの力は、あの外来人が纏う力は。
「博麗の力・・・!」
紫が声を上げる、紫は昔から博麗の者と交流があった、僕よりも詳しいはずだ。
「博麗の力!?てことはあいつ零無とおなじ・・・!?」
「ありえないわ、外の世界にこれほどの力を持ったものはすでにいないはず・・・」
『うおあああああああああ!!!』
咆哮、彼の纏う赤い気が巨大化する、激しく波打つそれはまるで炎のように揺らめき、太陽のように輝いていた。
「うっ・・・!」
「魔理沙!」
突然魔理沙が膝をつく、魔理沙に駆け寄ると、ほとんどの魔力が失われているのが分かった。
「もってかれた・・・!」
「!!」
上を見る、そこには紅蓮に染まった巨大な光弾が浮かんでいた。太陽がごとき光を放つ光弾からは魔理沙の魔力と博麗の霊力を感じる。彼の退魔力がどれほどかわからないが、あんなものを受ければ大抵の妖怪はひとたまりもないだろう。幽香ですら危ういかもしれない。
「紫!」
「!」
・
・
・
なんなんだこの人間は、この私と対等に渡り合えるなんて。
風見幽香は、流星のごとく現れた少年に興味を抱いていた。
彼はつい先ほど現れた二人の少女の知り合いだろう、二人が名前を呼んでいたし。
なんの前触れもなく現れた強大な気配、妖怪ではない神でもない鬼でもない、ではこの胸の高鳴りを誘う力の持ち主は何者なのだろうか。そんなことを考えながら向日葵畑を抜けようとした時だった。二人の少女が現れたのは、一人は栗色の髪に黒いスカートををはいた活発そうな少女、もう一人は金色の髪に紫色の瞳、どことなく紫を思い出させる少女だった。少女達は私を見つけると口をそろえて「逃げて!」と叫んできた、この私に、逃げて?その瞬間少女たちを追いかける大柄な妖怪が目に映る。どうやら彼女たちは幻想郷に迷い込み、運悪くあの妖怪に見つかってここまで逃げてきたのだろう。しかしこの少女たちは運がいい、なにせ私はいま機嫌がいい。
妖怪はこちらにきずく様子もなく少女たちを追いかけている、彼女たちが私の隣まで来ると、私の手を引き、逃げるよう促してくる。私はくすくすと笑いなぜ?と問いかける、少女はその時初めて私が妖怪であることにきずいたのか顔を青くした。その時、大柄の妖怪は私のすぐ後ろまで来ており、汚い雄たけびとともに腕を振り上げ、少女たちごと私に振りおろしてくる。危ない!少女が叫ぶのと妖怪の体が吹き飛ぶのは同時だった。安心しなさい、今私の興味はあなたたちにはないわ。少女たちにそう告げるとすぐに、私は大きく後ろに飛びのいた、一瞬前まで私のいた地面が大きくえぐれ、土煙が上がっている。神助!少女たちが叫ぶ、なるほど彼は神助というのか。私は直感的に彼が先ほど感じた気配であることを理解した。どうやら彼は私が妖怪であることをわかっているようで、すさまじい殺気を放っている、少しでも敵意を見せた瞬間彼は襲ってくるだろう。
さて、どうしようか、そう一度瞬きをした瞬間、鈍い痛みを腹部に感じるとともに大きく後ろに吹き飛ばされていた。素早く体制を立て直す、彼はすでに目の前まで迫ており振りかぶったこぶしを叩き込んでくる。なんとか腕を交差させて防ぐ、すさまじい衝撃が腕に走る、ただの攻撃ではない、明らかに妖怪を殺すための一撃だ。
「あなた、なにもの?」
「妖怪になのるほど安い名は、持ち合わせていない、だがまぁしいて名乗るなら」
「外の博麗の継承者」
「!?」
・
・
・
「外の博麗の継承者、確かにそういったのね、幽香」
「ええ、私の聞き間違いじゃなければね」
幽香に向けて放たれた紅蓮の光弾は、スキマから飛び出した零無の結界によって防がれた。幽香はスキマに引きずり込まれ、紫になにがあったのかを話していた。
「あれほど強力な力を持った人間、そうそういないとは思ったけどまさか博麗の者とはね」
赤い光を纏った少年の猛攻を零無は時には結界で防ぎ、時に受け流し、見事にしのぎ切っている。そして定期的に魔理沙の援護射撃が入り、形勢は完全に零無に傾いている。何度目かの衝突、零無の結界と少年のこぶしがぶつかり合う。
「君は何者だ?その力、どこで手に入れた」
「・・・答えてやる義理はない」
なぜだろう、あの外来人を見ていると懐かしい気持ちになってくる。あったことはないはずだ、あれだけの力を持っていたら一度でも会えば覚えているだろう、ましてや同じ博麗の力だ。結界に作った隙間からこぶしを叩き込む、しかし容易くつかまれてしまう。やはり体術では勝てない、そう思ったとき、彼の纏う光が再び大きさを増す。
(まずい・・・!何か来る!)
「おっりゃあああああああああああ!」
「!?」
その時、後方にマスパを打ち、加速した魔理沙が空から突っ込んできた。少年は完全な不意打ちにもかかわらず魔理沙の突進に反応し、迎撃しようとする。
霊符「糸の結界」
無数の霊力で編まれた糸が少年に絡みつき、動きを止める。
「おりゃあああああああああ!!」
魔理沙の突進をもろに受けた少年は吹き飛ばされ、地面をえぐりながら転がって行った。魔理沙はすべての魔力を使い切ったのかふらふらしており、今にも落ちて行ってしまいそうだ。
「ずいぶん無茶したね」
「へへっ・・・あんくらい、どうってことないぜ・・・」
魔理沙に肩をかしながらゆっくりと降りていく、下には少女二人が起き上がらない少年に駆け寄っていく。地面に降りるとスキマが開き、紫と幽香が出てくる、幽香は服こそぼろぼろだが目立った怪我をしていない、さすがは幻想郷最恐といわれるだけはある。
「一応お礼を言っておくわ、ありがとう零無」
「私にはなしかよー」
不意に少年がゆらりと立ち上がる、全員が彼の方を向き警戒する。彼と目が合う、一瞬、彼の瞳から一筋の光が走るのが見えた。その瞬間、思考が形になるより早く体が動いた、紫を押しのけ陰陽玉を手に具現化し彼のこぶしにたたきつける。
霊符「無想封印」 我流「神殺し」
音がなく光もない、色もなく形もない。すべてがあいまいで、なんにでもなれそうな、そんな空間。
その空間に僕は彼と立っていた、それはほんの数秒だったのか、それとも数時間そうしていたのか、僕にも彼にもわからなかった。しかし、ただ一つ、僕の無くした記憶が叫んでいる、誰のものともわからない名前を叫んでいる。
違う、知っている、知っているその名前を、奪われたその名前は・・・・・
気が付いたとき、僕は神社の自室にいた。
「気が付いたのね、零無」
「紫・・・?僕は、確か・・・」
「最後の彼の攻撃を無想封印で相殺したのよ」
どうやら彼が最後に放った攻撃を相殺した後倒れてしまったらしい、すでに外がかなり明るくなっていることからかなり寝ていたらしい。意識を失った理由は紫にもわからないらしいが、彼が纏う博麗の力と零無の博麗の力が反発しあってお互いの霊力や意識を吹き飛ばしたらしい。どうやら博麗の術には博麗の者同士で争わないように術が仕込まれているらしい。
「どうやら、彼は妖怪に関して詳しいみたいね、どうやって知ったかはわからないけど」
「それで、その人たちは?」
「となりの部屋にいるわ、彼もそろそろ目を覚ますころじゃないかしら」
その時、勢いよく襖が開け放たれ、彼が現れる。僕が立ち上がろうと畳に手を置いたとき。
「さっきは悪かった」
一瞬何をいわれたかわからなかった、すぐに意味を理解する、謝られた。
「俺は黒崎神助、こいつらと秘封倶楽部という名前でいろいろ活動してる」
「えーと、私は宇佐見蓮子、こいつとは幼馴染で、一応秘封倶楽部の部長」
「マエリベリー・ハーンです、神助たちとは学校で知り合って蓮子に無理やり秘封倶楽部に入れられました、あ、名前言いにくかったらメリーでもいいですよ」
「は、博麗零無、この神社で巫女代理をやってる」
突然の自己紹介に困惑しつつこちらも名乗る。
どうやら三人とも幻想郷でいうところの寺子屋の生徒で、蓮子と神助は昔からの友人らしい。
「私と零無みたいなもんか」
「そうだね、それより、君に聞きたいことがる」
「さっきの戦闘のことに関してなら、俺が答えられる事は無い」
「え・・・」
「いまいち記憶が曖昧なんだ、蓮子とメリーが吸い込まれた境界をぶち抜いたとこまでは覚えてんだがなぁ・・・」
ちらりと紫に視線を送ると紫は静かに首を振った、どうやら嘘はついていないようだ。
「じゃぁ別の質問、なぜ君は・・・」
グウゥ~
「あ、零無、腹減った」
・・・なぜ博麗の力が使えるのか、どんな能力を持っているのか、聞きたいことは多くあったが盛大に鳴った魔理沙の腹の音でまだ朝食を食べていないことを思い出し、いろいろ聞くのは朝食の後で、ということになった。
・
・
・
「うーん、やっぱり見えないわねぇ」
湖のほとりにある紅い洋館の主、レミリア・スカーレットは自室にてうまく発動しない自身の能力に苛立ち始めていた。運命を操る程度の能力をもつ彼女は運命を見ることができるのだ。そんな能力を使って自身と零無のたどる運命を見るのが彼女の日課なのだが、今日は調子が悪いのか、見ることができない。ちなみにいつも見ているのはどこにいつ行けば偶然を装って零無に会えるか、というものだった。
余談だが零無はレミリアから向けられている感情を理解してはいるものの見た目のせいか小さい子からの好意程度に受け取っているので、彼女の従者の心労は絶えない。
今日は諦めて神社に直接向かおうかと考えているとき、部屋に控えめなノックの音が響く。
「お姉さま、フランだけど、はいっていい?」
「・・・かまわないわよ」
ゆっくりと開いた扉からは最愛の妹たるフランドール・スカーレットが入ってくる。少し前までは部屋に引きこもり、というよりは能力の危険性から閉じ込めていたというほうが正しいのだけれど。だが少し前にレミリアがおこした異変、それを解決しに来た零無と魔理沙によってフランは救われ、今ではほとんど暴走せずに能力を使うことができるようになっている。
「こんな時間にどうしたの?」
「なんだか寝付けなくて・・・」
現在の時刻は朝を少し過ぎたくらいで普通の人間ならば起きている時間なのだが、この姉妹は吸血鬼でありレミリアがこんな時間に起きているのも変なのである。まぁ、零無の生活サイクルに合わせ、彼との運命を見始めるようになってからは昼夜逆転しているのでたいして問題はない。
「そう、なら一緒に寝ましょ、私もちょうど仮眠をとろうと思っていたの」
「ねぇお姉さま、ちょっと怒ってる」
「・・・ちょっと能力の調子が悪いの、いつもは見えるものが見えなくて」
レミリアは少しだけ驚いていた、かつてのフランは能力を操ることができず、多くの者を傷つけてしまっていた。しかし零無に倒され、その力の使い方を教わり、今では寺子屋にも通えるようになっている。友達ができたと楽しそうに笑うフランに紅魔館の皆は安心したように笑っていた。他人の表情から感情を読み取れるほど成長していたのか。姉としてうれしく思いながらフランを見つめる。
その瞳にはかつてあった狂気は無い。穏やかで優しげな光が、宿っていた。
「私見えない理由分かるよ」
「え・・・?」
目の前に立っているのはだれだ?いや、姿や声はフランだ、だがその瞳には何も映されていなかった。虚無なのだ、その瞳を見た瞬間レミリアは身体の自由を奪われた、正確には動かそうと思えば動かせる、だが動かそうという意思がまるで”破壊”されたように身体が動かなかった。
「まさ、か・・・」
「うん、お姉さまの意思を壊したの、すごいでしょ?こんなこともできるようになるなんて思ってもみなかった」
フランは笑みを浮かべたままその手にレーヴァテインを握る、とても自然に、フランはレーヴァテインを振りぬく、無理やり動かした身体がきしみを上げる、だが何とか攻撃を避けることはできた。だが完全にはよけきれずわずかに腹部が切ら、血が噴き出す。
「くっ・・・」
「あ、もう動けるんだ、やっぱりまだ完璧じゃないね、もっと練習しないと」
「フラン、いったいどうして・・・」
「どうして?あれ?どうして私はお姉さまを殺そうとしてるんだろう、必要なこと?なんで?あれ?」
「・・・?」
フランは明らかに混乱していた、その瞳はわずかに光を取り戻しかけていたが光はすぐに消え去り、再び虚無が瞳を支配した。
フランは誰かに操られている、だが誰に?この紅魔館に出入りしているのは私たちや零無と魔理沙くらいなものだが彼らがそんなことをする理由はない。そもそもいつから?昨日は零無が来ていたし、最近は寺子屋も休みで外に出ることもない。もっと前から?自分たちに気づかれずに?不可能だ、零無と出会ってからはフランは零無にもらったお守りをずっと持っていた、零無曰くフランがもし誰かに操られるような能力を使用されたとき、フランを守ってくれるお守り。
『こいつを無効化できるとしたら紫くらいなもんだが、紫がそんなことする意味ないしね』
「八雲、紫、でも、なぜ・・・?」
「いろいろあるのよ」
「!?」
不意に背後からの声に振り返ると、境界に座る紫がいた。普段の飄々とした態度はなりを潜め、細められた瞳からは身震いするくらいの冷たい視線が向けられていた。
「そっちのはもういいわよ、霊夢」
霊夢?紫が聞きなれたはずの聞きなれない響きの名前を呼んだ瞬間背後にスキマが開き、フランに五色の巨大な光弾が迫る。フランはまるで自ら吸い込まれるようにして五色の光弾全てを受けた。
「フラン!!」
「あら、意外に頑丈なのね、無想封印一発じゃ死なないどころかほとんど無傷じゃない」
先ほど開いたスキマから再び光弾が放たれる、レミリアは瞬時にフランの前に移動し、光弾をすべてたたき落とす。
(勘違いじゃなければ、さっきの攻撃は、零無が使う無想封印だった・・・)
絶え間なく打ち出される弾幕をグングニルで迎撃しながらフランの方に視線を向ける。
ひどい状態だった、四肢は残っているが全身に酷い火傷をおっている、吸血鬼の治癒力があればもう回復していてもおかしくはないのだが、フランの傷は治るどころかどんどん悪くなっている。以前零無に聞いてことがある、零無は退魔力というものをもっていて、それを霊力とともに弾幕に込め、妖怪にぶつけると通常の数倍のダメージと吸血鬼なら治癒力の阻害などまさしく妖怪を殺すための力があると。今目の前から飛んできている弾幕に込められているのはそれなのだろう、魔理沙のマスパをも正面から受け止めたグングニルがすでに砕けかけている。
(もうちょっと苦戦するかと思ったけど案外楽に行けたわね、吸血鬼といってもしょせん見た目通りの子供ね)
紫はレミリアのもつグングニルが砕けると同時に視線を切る、もう見る価値はないといわんばかりに視線を逸らそうとしたとき、すさまじい轟音とともに目前に赤い槍が迫っていた。紫は驚愕しながらもスキマを開き、グングニルを回避する。
槍の飛んできた先にゆっくりと視線を向ける。そこには変わらずレミリアが立っていた、しかし纏う雰囲気が明らかに違う、その小さい身体からは大気が震えるほどの殺気が放たれていた。
紫はわずかに身震いする、伊達に幻想郷最強クラスに数えられてはいないと、認識を改め、紫は静かに境界から降りた。
「しぶといわね」
再び放たれた光弾をはじきながらレミリアは正面のスキマに視線を向ける、スキマから現れたのは少女だった、黒く艶のある髪に凛とした瞳、紅白の巫女服を纏う少女にレミリアはいつの間にか見とれていた。
どことなく似ている、姿こそまったく違うものの纏う雰囲気や立ち姿がどことなく零無を連想させる。
「あなたはいったい、何者なの」
「私は神代霊夢、普通の巫女よ」
そこからの戦闘は一方的なものだった。霊夢が使う技はすべて零無が使っているものと同じだった。一度見たものならある程度は対策ができる。しかしそこに込められた退魔力のせいでレミリアは攻撃を防ぐので手いっぱいになり攻勢に移ることができないでいた。
「さっきまでは本気じゃなかったのね、グングニルが簡単に砕かれるなんて」
「あんたこそ、ここまで耐えた妖怪は初めてよ」
霊夢の攻撃を躱しながらフランの様子を確認する、全身の火傷はひどいままだが、ひとまず悪化は止まっている。あの様子ならもう少しすれば治癒がはじまるだろう。
何とか隙を探ろうとしていたレミリアだったが先に動いたのは霊夢だった。
「えーいめんどくさいわね!まとめてぶっ飛ばすわ!!」
「な!?霊夢!待ちなさ・・・」
「霊符『無想封印・爆』」
光だった、霊夢が何かの術を発動した瞬間視界全ては光に包まれた。ああ、自分は死ぬのだろう、能力を使わずともレミリアには理解できた、それほどにその光からは濃密な死の気配した。
光が迫りレミリアを飲み込もうとした瞬間、レミリアを突き飛ばし一つの影が前に出る。
「!!」
「ごめんなさい、お姉さま・・・」
フランだった、瞳には優しい光の灯ったいつもの可愛い自慢の妹。両手をいっぱいに広げてレミリアを守るように光の前に立ちはだかる。レミリアは必死に手をのばし、最愛の妹の名を叫ぶ。
「フラン!フラン!!」
「お姉さま、零無に、いっぱいの幸せをありがとうって、フランの代わりに伝えてほしいな、ほんとは自分で言いたかったけど、フランはここまでみたいだから・・・」
最後にフランは静かにほほ笑む、その瞳から静かに流れる雫がほほを伝い床に落ちる。必死に伸ばす手は届くことはなく__
フランを、レミリアを、そして紅魔館のすべてを光が包み込む。
「なんだ、あれ」
魔理沙の視線の先には極大の光の柱が天を貫いていた。光の奔流は紅魔館から離れた博麗神社にも届いていた。すさまじい衝撃が木々を揺らし、大地を震えさせる。
「レミリア、フラン・・・」
自分を見つけるとはじけるような笑顔でかけてくるフランと出かけるたびにいつの間にか横にいるレミリアの横顔を思い出しながら、零無は無意識のうちに駆け出していた。
この日、紅魔館は幻想郷から消滅した。