この世に何が起こるかわからない、なんて言葉は誰が言ったのだろう。
この世はこんなにも単純明快なのに。
不正行為をした国会議員。
不倫をしていた芸能人。
今日も死にゆく人々。
そして、今日もつまらない日常。
きっと僕も、このつまらない日常の一環として死んでいくのだろう。
今日も始まる、変わり映えのない日常。
朝が必ず来るように、夜も必ずやって来る。
だけど、その日、僕らの世界に夜はやってこなかった。
夏のギラついた太陽がさも当然かの如く輝いていた。
世界には、当たり前のものが当たり前に存在していて、それがない事は考えられないし、僕達は考えた事もなかった。
それは、例えば空気。
例えば生き物。
例えば科学。
例えば時間。
そういったものが、もしこの世から消えたら、この世はどうなってしまうのだろう。
もしなくなったとき、僕たちにできる事は、なんだろう。
〇〇〇
腕の違和感で、目が覚めた。
うっすらと目を開けて違和感の先を見ると、看護婦が血圧を測っていた。
「あら、起こしちゃった?終夜君。」
「いえ、大丈夫です。」
視線を横に移動して見た時計は、午前六時を指していた。
いつも起きる時間だ。
そういえば今日は診察の日だった、と脳内で昨日の医師の言葉を思い出し、血圧を測り終えた看護婦の顔を内心忌々しく思った。
「問題ないわね。まだ寝ててもいいのよ?」
「いえ、大丈夫です。」
先程と全く同じ言葉を繰り返し、外向け用の笑顔で看護婦に言った。
「診察の時間まで、何もありませんか。」
「えぇ、そうね。だから、院内を散歩でもしてみたら?」
「考えます。」
看護婦が病室から去っていくのを見て、僕は溜息を零した。
窓から差し込む初夏の日差しがやけに眩しい。
この世は恐ろしく平凡で、単調で、つまらない。
今日も僕はこうして病室の自分のベットで横になりながら窓の外の景色か時計を眺めるだけだ。
幼い頃から体の弱い僕は、こうして病院生活を送っていた。
歳をとるにつれて体は弱っていき、学校へはまともに通えない状態。友達も恋人もできるはずもなく本来は送っているはずの楽しい高校生活が、僕には理解のできないものと化していた。
今年は丁度高校生になる歳で、桜の花びらが散るのを、僕は窓から特になんとも思わず見ていた。
過保護な母親と無愛想な父親は僕の体のせいで頻繁に喧嘩をしている。
時々、僕はこの世に必要な存在なのか否かを問いたくもなった。
その疑問への解答は、恐らく誰も知らない。
カチカチと時間を知らせる時計をなんとも思わずにただぼーっと見つめて、僕はそのまま意識を手放した。