報われない男の物語 作:羽付き羊
第2チェックポイントが思ったよりも遠くて時間がかかってしまい、今や4日目の昼……
魔物とかに襲われつつも逃げ延びて、命があるだけ嬉しいんだが、そろそろ毒が微妙に回り始めた気がする。
そろそろ急がないと非常にヤバいと思うが、急がば回れという諺を信じてしっかり飯食って、7時間は寝てます。
飯についてはイノシシの干し肉が凄く役立ってる。
なんだかんだで10㎏近くもあった干し肉は獲物が見つからない時に食べたりして残り2㎏程度に減ってた。
ちょっと節約を意識しないとヤバイな……よし最終日まで取っておくとしよう。
でお腹空いたら食べよう。
――しかし小太りの男の断末魔のせいで二日目の晩は眠れなかった……
静止の声を掛けた側から自分で奈落の底に落ちていくとかフォローしようがなかったけど……
化けて出て来たらどうしよう……
そんな事を思い出している内に第2チェックポイントの祭壇まで来た。
そしてその祭壇にいたのは奈落の底へと落ちていった筈のあの小太りの男だった。
――ゆ、幽霊?
「ディファイさん?」
俺の名前を呼びながらゆっくり俺に近付こうとする小太りの男の怨霊。
あまりの恐怖で俺は剣を抜き、小太りの男の怨霊を斬ろうとした。
剣を振りかぶり、そのまま振り下ろそうとした瞬間、どこかしらに隠れていた男が急に飛び出してきた。
その男は怨霊へ攻撃をしようと機会を伺っていたらしく、俺が攻撃をする瞬間を狙ったらしい。
しかし困った事にその男は怨霊と被っていたのだ。
簡単に言えば、俺の前に小太りの怨霊だけだったのが、
俺の前に男と小太りの男が重なっている状態。
そして俺の方が男よりも攻撃が速かった。
つまり、俺は怨霊へ攻撃するつもりがその男にダイレクトアタックしてしまった訳である。
「ぐ、ディファイ=R=ボルトぉぉぉぉ……」
その言葉を残して男は気絶した。
振り下ろした剣は止まらないから仕方ないとは言え正直すまんかった。
致命傷にはならんと思うから勘弁してくれ。
「助かりました……ありがとうございます」
小太りの怨霊から礼を言われた。
……あれ?
よくよく見ると足があるし、なんか生きてるっぽい?
俺生きてる人間に向かって剣を振り下ろそうとしたのか……
ていうか実際に振り下ろしちゃってるけどね、いや本当にすまんかった。
「……結局パートナーは見つからずですか?」
とりあえず話を逸らそうと話しかけた。
「はは、まぁそんなところですかね……」
会話をしながら祭壇を見回すと台座が2つあった。
ふむ、どうやら2つの台座があるから2人で何かをしなければならないんだろう。そうすれば第2チェックポイントまで行けるとかそんな感じなんだろう。
ていうか2人1組って言ってたからこのパターンは読めてたんだけどね……
この状況どうしようもないじゃん!
――いや、待てよ……そこに1人いるじゃないか!
俺と組めば小太りの男は第2チェックポイントに進める。利害が一致してるし文句はないだろう。
「なら私と組みますか?」
「え?」
驚いている様子だったが、そんなのは関係ないね。
こちとら
「いや、私も1人でこの試験は手厳しいんですよ。ならパートナーがいない者同士で組みませんか?」
「でも私は、解毒剤がないんですよ…」
……マジで?
でも一緒に行かないと先進めないし……途中で他の受験生から奪える可能性も上がるからなぁ……
うぅ……仕方ないか……
「なら私のを差し上げましょうか?」
「な、何を言ってるんですか!?」
驚いた様子の小太りの男。
多分、そのまま見放すと思った?
残念、正解は俺の解毒剤を渡すでした!
二人一緒に進めば他のリタイアした受験生の解毒剤を貰える可能性も0ではない。
確かに上手くいく可能性の方が低いだろうが0じゃないなら賭けても良いんじゃない?ということでそう言った訳である。
だって普通にこの試験受けてても死ぬ可能性の方が高いから死なない可能性あげたいんだよ。
俺1人しかいない状況でこのまま進むよりも2人になって進んだ方が生き残る可能性が高くなる筈だし。
「貴方も都合がいいでしょう?」
「でも…足手まといにしかならないと思いますよ?」
「そんなの関係ないですよ。1人より2人の方が何かと便利ですしね」
小太りの男はワナワナと震え出し涙目になっていたが、時間が経過すると震えが収まった。
そして第2チェックポイントの行き方を教えてくれるとのこと。
どうやら、この祭壇から本当のチェックポイントに行くには2つの台座に同時にマナを込めなければならないらしい。
片方だけにマナを込めた場合は第一チェックポイントまで戻されるらしい。
すごろくで言うふりだしへ戻るを試験でやられると心が折れるよな……
どんどん話を進めるので聞いてると台座にマナを込める為に必要な腕輪があるらしい。
……え?腕輪?
ない、ないよ!腕輪なんて貰ってないよ!?あの試験官、うっかりにも程があるぞ!?
どうしようと困惑してると倒れていた男が腕輪をしている事に気づく。
……すまんなこれも試験なんだよ。
「それじゃあ行きますか。」
腕輪にマナを込めて台座に触れると輝きだした。
小太りの男も成功したようでこのまま第2チェックポイントへそのままワープするらしい。
とその瞬間小太りの男は台座から飛び離れた。
え、何してんの?
「嬉しかったですよ、でも私はもう無理です。エルト君やアナタのような人が騎士になるべきですよ……」
いや、なんで自分の死を悟ったけど味方を安心させる為に笑顔で無理に送り出す人間みたいな顔をしてんの?
いいからお前も来いよ!
ははん?まだ解毒剤渡してないからって信用してないな?
来たら渡すから早く台座掴めよ!
「では……」
その一言で俺は悟った。また俺は一人で試験を受けることになるということを
そういえば最後まで小太りの男の名前聞いてなかったなぁ……
●
ディファイがワープしたのを確認したのを見届けたパエールは孤独に呟いた。
「一度リタイアしようと思った人間がまた復帰なんてずうずうしい真似できませんよ……」
エルトとイージスの二人組と行動を共にしていたパエールであったが、自分の限界を感じてエルトに女王騎士になる望みを託して解毒剤を渡していたのだった。
「マリアンヌ……ごめん。でも後悔はしてないんだ。エルト君にしたってディファイさんにしたって足手纏いにしかならない私の事を気にかけてくれたんだから」
自分の懐にしまっていた彼女の写真を満足そうな顔で見ながらも目には一筋の雫が溢れる。
「ただ、もう一度一目でいいからキミに会いたかったよ……」
彼の言葉は誰に届くことなく空へと消えていった。
○
ワープしている最中にテンションメチャクチャ下がってしまっていた。
せっかく旅は道連れ的な感じで仲間が増えると思ったのに結局仲間が増えなかったのだからそりゃテンションも下がるというものだ。
そんな下がりまくったテンションでワープ先に現れたのは人間の3倍ぐらい大きなロボットだった。
甲冑を着込んだ兵士のようではあるが、その大きさの人間はいない筈なのでロボットだろう。
俺は咄嗟に剣を抜いたが、そのロボットは俺に気付くと大きな剣を振り下ろして来た。
なんとか避けて、攻撃された場所を見ると地面が陥没しており一撃でも喰らえばリアルにペシャンコになるだろう事が予測できた。
……どうしろと?
こんなの無理ゲーじゃねーかよ!
でも考えるのを辞めれば待っているのは死。だからなんとかしようとロボットの事を観察しながら攻撃を避ける。
観察していると攻撃するタイミングでロボットに保有してあるマナが大量に減っているのが分かった。
……という事は全力で避け続けてマナが切れるまで待てばいいんだな!
そうとなれば話は早いんだが……俺が持つかな?
結構、体力を使ってるから足元がフラフラでやばいんですけど……
「分かっている。お前の倒し方なんてな!」
声を出して気合いを入れる。自己暗示は大切、割とマジで。
剣である箇所にダメージを与えていてもマナが減っていくのが分かったので大振りで攻撃していたのだが、剣がスッポぬけて壁が突き刺さってた。
やばい、剣は盾代わりにも使っていたのにそれがないとなると一気に死ぬ可能性が上がってしまう!
必死の形相で剣を引き抜こうとしようとダッシュで向かう。命がかかっているので必死も必死だ。
「合格だ!」
剣のところまできて引き抜こうとしたら声がした。
え?合格なの?
「……お前のような合格の仕方は初めてだ。流石はギルバートさんの息子といった所か?」
とか言っている覆面の人。
まぁ解毒剤貰えるなら文句はないから良いけどさ。
そしてそのまま始まった第3チェックポイントだったのだが楽勝だった。
解毒剤の材料の花を取りに行くだけだったからイージーモードだった。サービス問題的な感じなのだろう。
楽勝だったけど、花から解毒剤を精製するので2日かかってしまった。
まぁ体をある程度休めていたのも理由に含まれるけどね。
いやね?俺も急いだ方がいいと思ってたけど試験官の人がね、結局7日まで過ぎないと解毒剤作れないとか言われたら、それは焦る気もなくなるってもんですよ。
ただ7日の期限以内に最終チェックポイントに着かないとこれまでの努力が無駄になる。
だから半日前ぐらいに最終チェックポイントに着けば丁度良いだろうと考えたのだ。
そして最終チェックポイントの手前、イリュード遺跡に着いたのだが……
「俺は悪くねぇ!」
「騙されるお前らが悪いんだろ?やめろぉおぉっぉぉぉ!!」
とか言っている人達、まあおそらく幻覚をみて錯乱状態になっているのだろう。
病は気からだしね。しっかり休むべきでしょうに…
最終チェックポイントの時計台まで後少しなのに勿体ないな……
そのままイリュード遺跡を抜けようとするとルカ君、イージス君、エルト君の三人が
「負けるかよ!」
とか言っているエルト君。
そんな聖騎装を完全装備している女王騎士に普通の受験生が勝てる訳がないのは考えれば分かる。
つまりこの様子だと現状どう足掻いても勝てない存在に対してどう対処するかを問われているのではないだろうか?
女王騎士たる者強大な敵を恐れていけないとか言っている人もいるけど、状況を把握して逃げるのも必要だしね。
だって死んだら国を守るどころじゃないじゃん。
国を守る為に生きて情報を持ち帰るのってすごく大切な事だと思わない?
まぁコレは持論だけど。
……うん?
よくよく様子を見ていると仮面被ってるのアルマ姫様じゃない?
おいおい、仮面舞踏会みたいな仮面で顔隠しきれてないしそうだよね?
「トルネードセイバー!!」
ああ、声が完璧姫様だわ。
あのお姫様何やってんの?
つうか、なんで精霊剣使えているの?アレッて会得するの大変なんじゃないの?
――そう言えばマナの保有量といい才能といい姫でなければ騎士でもトップクラスになれるって親父が言ってたっけ……
王族の血筋って怖いわー。
そんな風に傍観しているとルカ君達が何かアイコンタクトしているのが見えた。
何かするのかな?
というか俺普通に見物しているけどいいのかな?
いやこれもしかしたら一グループにつき1回みたいなそんな戦闘なのかも知れないし、そうなると俺は確実につむ。
ならばここは俺も参加一択だろう、多分この後に当然逃げるだろうけど逃げるタイミングを作って一緒に逃げたらオールオッケーだろ。
とか思いながら俺がルカ君達に近づこうと走っていると、エルト君が姫様に向かって突っ込んでいった。
「え?」
姫様もビックリして一瞬気が動転して止まった。
まあ逃げるだろうからね。普通は……
実際にルカ君とイージス君は逃げてるし。
ボゴッ
嫌な音がしたかと思うと、姫様の攻撃で地盤が弱ってしまったらしく、そのまま姫様もエルト君も穴に落ちていきました。
「エルト!」
「エルト君!!」
と心配しているイージス君にルカ君、友達想いだね。
俺はって?
もちろん絶賛、落下中ですよ。
「ディファイさん!?」
「ボルト!?」
いや~、走った勢いが止められなかった。
二人が落ちた穴を二人を追う形で落ちていったのだ。
落下した所が地下の水流だったので3人仲良く流されていました。
エルト君が姫様を助けたのを確認して、俺も這い上がっり手を差し伸べて3人共水流からは脱出できた。
「……どうするんですか?」
エルト君にとりあえず聞いてみる。
姫様を置いていくとか言われたら俺が背負うしかないんだけどね。
「放っておける訳ないだろう?」
「まぁそれは当然ですよね」
相手はこの国の姫様ですから。
「そりゃいくら女王騎士の試験官でもこんな場所で放っておくことなんてできないしな」
……アレ?
この子気付いてないの?
あんな仮面じゃ隠している内に入らないってのに?
「それじゃあ行こうぜ!ボルト」
う~ん、まぁいいか鈍いのもこの子の持ち味の一つなんだろう。
エルト君が姫様背負って地下洞窟から地上に出る為に走る。
「う、ううん……」
「気付いたか?」
エルト君が姫様をおぶっている状態で話し掛けた。
姫様は気が動転しているらしく、装備していた
「ぐぎゃ!」
姫は黙って
その後経緯を話すと姫様は納得してくれた。
地下に流されてしまったので大幅に時間がかかったと思ったのだが後1時間程は余裕があるらしく、少しの間休憩をとることにした。
まぁ急いだ方が良いのは変わりないがエルト君が催したらしく用をたす間だけだけど。
「どうしたんですか?」
姫様が何か喋りたいっぽかったので聞いてみた。
「アナタもしかして……仮面の中をみました?」
「いえいえ、見ていませんよ」
「そうですか、ならいいのですが…う、っぐ……」
と足を抑える姫様、流された時にやられたらしい。
「姫様、足を挫いていらっしゃるんですから無理なさらずに……」
「そうですが……って、正体バレてる!」
「え?隠しているつもりだったんですか?」
その事に逆に驚く俺。
なんでこの国の人間はあんな軽装の仮面でバレナイと思っているのだろうか?
フルフェイスだったら俺も分からないと思うけど……
「なんかすいません……」
少し申し訳なくなったので謝っておいた。
「いいえ、ばれたなら仕方ないです。ディファイさん、お久しぶりですね」
「5年ぶりぐらいなのに良く覚えていましたね?」
凄く驚いた。
けっこうな時間が経過しているのにまだ覚えてもらっていたのは結構嬉しい。
「忘れないですよ。一緒に3人で遊んだのは楽しかった思い出ですもの」
「そうですね、なつかしいな……」
「そうですね、お母様がいた時は楽しかったのに…」
「あれ?まだ帰ってなかったんでした…あっ」
げ、まだ言ってなかったのかあの人……てっきりそろそろ娘にはこっそり言ってるかと思ってたのに……
「……え?“まだ”ってどういう?」
姫様の目が続きを話しなさいよと言ってくる。
ヤバイ……
「ああ~結構やばかったな。じゃあお二人さんそろそろ行こうぜ。」
なんというKY(空気読める)!
いやタイミング完璧だよエルト君、ありがとう。
「そうですね、行きましょうか」
「………」
おうおう、凄い目で見てきますね……
まぁコレを言ったら色々とヤバイのでさっさとこの場から離れたい。
(……後でしっかり話してもらいますからね?)
……俺、死んだかも。
○
一地下洞窟を走っていると凄くいい感じで会話が弾んで、2人で話している姫様とエルト君。
まぁ年齢近いし背負ってるから親密度アップ半端ないね。
ボゴボゴ…
地中から魔物が現れた。
油断して魔物が来るのを察知できていなかったがこの魔物、けっこう強い……
姫様が聖騎装を使って手伝おうって言っているのにエルト君はそれを拒否。
試験だから手出しは無用とか言っている。
なにこの子男前。
しかし、ここは俺に任せて貰おうか。
「私が相手します。2人は先に進んでください」
「何言ってんだ!?2人で戦えばいいだろう!」
「女王騎士聖典慈愛の章、第32節、第4項!」
「“守る者がいるなればそれを徹底して守るべき!!”……ボルトお前……!」
「先に行ってください」
「分かった。待ってるぞ!」
つうか姫様連れてどっかに行ってください。
じゃないと俺の命が割とやばいんだよ。
実際には俺も詳しい話は分からないけど実家に迷惑かける事になるし、それ以上に王族の揉め事にコレ以上かかわるのは勘弁して欲しいのだ。
「……行ったか?そういえばコイツ、変にちょっかいかけなければおとなしいモンスターだって授業で習ったな」
普通にそのまま帰ろうとする魔物。
「驚かしたか?ゴメンな。じゃあ帰っていいぞ」
そのまま帰っていく様子を見て無駄な血を流さずにすんで良かった。特に俺の。
つうかこの魔物って地上に出て餌を狩って、地下の巣に持ち帰る奴だったな、という事はコイツの掘った先を辿れば地上につながっている可能性はある?
そう思って魔物を後をついていくと地上に出る事に成功した。
鐘の音がなっていたのでアウトかな?
とか思っていると期限ギリギリで間に合ったらしい。しかし上手くいったなぁ……
「ボルトはいないのか?」
ギリギリセーフで辿りついたエルト君に俺の事を聞いているイージス君。
「っく、ボルトは…」
とか言ってなんかきまずい雰囲気で出るに出れない。
おーい、俺はここにいるよ~?
誰も聞いてすらいねぇ……
カルマ君とかジェダ君は気付いているみたいなんだけどなぁ……
仕方ないこんな状況だけど勝利の干し肉を食べるとするか、うわ水に濡れてびちゃびちゃじゃん……
……ん?意外とイケるぞ?
●
「おい、姫様はどうだった?」
「少し怪我をなされているようだが無事だ」
「まったく姫様にも困ったものだな…」
「本当だよ…」
という4人の女王騎士。
彼らは騎士団でも特に優れているアルマ姫様を守る側近ロイヤル・ガードだ。
穴ぼこに落ちていった3人の無事の確認をしつつ、姫様に万が一がないように影で見守っているのだ。
「私たち2人は報告に向かうからお前ら、後は頼むぞ?」
「おう、任せときな。」
2組に分かれるらしく、そのまま警護にあたるのは男組だった。
「全くお転婆な姫さんだよ」
「ああ、毎回の事とはいえ今回ばかりは心配したな」
という雑談をしながらも一切、微妙な気配の変化を見逃さないのは流石だと言える。
現に凶暴な魔物は3人に気付かれる事なく粗方倒していたのだからその強さが分かるだろう。
そんな様子を見守る途中で会話で暇を潰そうと1人が話題をふった。
「エルト=フォーエンハイムっつたか?奴もなかなか見どころあるじゃないか?あのロボット壊したって話だぜ?」
という髭のあるムサイ男。オヤジというか親方という表現がよく似合う男ルドルフがそういった。
「そうなのか?なかなか面白いな……だが、やはりディファイには及ばんだろ?」
と返すのはテーオバルト、彼はキザな雰囲気をしていて、優男という表現が良く似合う男だ。
「あ?なんでだ?」
「知らないのか?アイツ、マナで操っていた本人を見極めたらしいぞ?」
「なっ!?本当か?」
「ああ、ドローセルマイヤー本人からの報告だ。何でも剣を投げつけられたらしい。ギリギリでよけたが危なかったらしいぞ?」
「何というか流石はギルバードさんの息子ってとこか?いや、そういうのは本人に失礼か……」
「まぁな、ギルバード=R=ボルトの実子って事で皆特別扱いしてるのかと思えば、そういう事でもないらしい」
そう言いながらアルマ姫の様子を見るのを忘れない。声も聞き洩らさないように集中もしている。
「……姫様だってばれてるな?という事は姫様だという事が分かったから穴から落ちたのを助けに行ったってことか?」
「そうなるな、アイツ自体は先の試験の内容を理解していたが、姫のピンチになるとすぐに助けに行ったって事になる」
「……もう合格でよくないか?アイツレベルの人材なんてそうはいないぞ?まぁ落ちはしないとは思うがな 」
「贔屓はいかんからな。特別扱いは彼の嫌うことだろう。父親の事に関しては受験生の一部しか知らないって話だし、自分が貴族だと名乗りもしないしな。だがそれでもアイツは警戒されている……それ程の実力者ってことだ」
そんな事を言っている内に聞き捨てならない会話が聞こえた。
「あれ?まだ帰ってなかったんでした…あっ」
「……え?“まだ”ってどういう?」
姫様も騎士の2人もその“まだ”という言葉に驚きは隠せない。
なぜなら女王陛下が行方知れずなのは女王騎士と六大公爵家の面々しか知らないからだ。
外交にも関わる大変重要なこの国のトップシークレット、それが幾らボルト家での長男でも知っているはずはない。
「どういうことだ?」
「分からないな、だが何かを知っているようだな。っち、邪魔が入ったな」
「まぁいい、この試験が終わってから聞けばいいだろう」
「そうだな……」
エルトがトイレから戻ってきて先に進む事になった。姫様をおぶりながら走るエルト、それに並走しているディファイ。
出口までもう少しというところで魔物が出現した。
「おいおい、モグランゼミじゃないか?受験者レベルだとキツイな」
「おっ、奴さん男だねぇ~、エルトの野郎姫さんを頼らずに倒すつもりだぜ?」
と喜ぶ親方風の騎士。高見の見物といきたいところだがモンスターが5匹現れた。
「ドラゴン系のモンスターか…テ―オバルト!お前は姫様の方を頼む。」
「ああ。」
2手に分かれる。エルトは姫様をおぶったまま、出口に向かって走っていったのでそちらを追いかける。
「ディファイって奴はつくづく好い男だね~、俺が女なら惚れてるよ!」
そう言いながらドラゴンを全滅させるルドルフ。
彼の強さはその屈強な体を生かした力技にあり、その彼にかかればドラゴンを倒すのなんて赤子の相手をするような程容易いことだ。
「じゃあ俺も行くかな」
そう言うとルドルフは時計台へと向かった。
●
エルトが時計台までの制限時間ギリギリで着きそうな頃、ルドルフはテ―オバルトに追いついていた。
「ルドルフ、ディファイの奴はどうした?」
「……まだ着いてないのか?」
「ああ、まさかモンスターにやられたのか?」
「それはないと思うが……」
と少し不安そうなルドルフ、ここで負けるような人間ではないと思いたい。
が、あの他にも魔物がたくさん出るとなると流石に聖騎装をつけていないディファイでは危険だろう。
(置いていったのは間違いだったかな?)
そして時間いっぱいギリギリでエルトは着いたがそこにディファイの姿はいなかった。
「…不合格か」
「……残念だが仕方ないだろう」
言葉では納得しているが心情は残念な気持ちを抑えられない2人である。
「……ボルトはいないのか?」
そんな中、エルトに向かってイージスは確認の為に声を掛ける。
「っく、ボルトは…」
と悔しそうに顔をゆがめるエルト、その表情ですべて分かってしまったイージス達や他の受験生達。
残念に思う者やそれを嬉しく思う者等、多様であったが全ての受験生には何らかの感情があった。
しかし、2人程は全くその事に関しては無関心な様子である。いや少し怒っていた。
だがそれはディファイに対してではなく、他の受験生達に対してである
「イージス、貴殿程の人間がディファイという人間を見誤るとはな……」
と言っているのはこの試験で合格確実だと言われている人間の1人であるカルマ=バンニ―ルであった。
「けっ、何時ものことだ……ディファイ(主役)は遅れてくるんだっての。」
そういうのはジェダ=バンニ―ル、カルマの弟でありディファイをよく知る男の1人。
普段は兄弟の仲がそこまでよろしくないのだが、この男の事に関しての事は息がピッタリ合うのだ。親戚であり、仲間であり、親友であるのだから当然なのかも知れない。
「でも、ボルトは……!」
というエルト、それを見て俯く姫。しかしそんなことは関係ないといった風な2人。
「はっ、流石は駄犬だな。馬鹿は馬鹿だと思っていたがディファイの力を見ていながらそんな事を抜かすとはな」
と嘲笑うジェダ。
「んだと!?ジェダてめぇーーー!!」
その事にたいして怒るエルト。
「何を怒っているんだ?事実だろうに…」
カルマもジェダに賛同する。
いつも無口なこの男が他人の事でこんなに喋るのは珍しい。
それほどディファイという人間に対して何らかの感情があるのだろう。
「……何でそんな事が言えるんだ!?」
とエルトは吠えた。エルトは自分が彼を見捨ててしまったと思っているから余計に怒りが増しているのだろう。
しかしその言葉はしっかりと、そして簡単に返される事になる。
「「何故かって?ディファイはそこにいるからだ」」
2人が指示した方向には自分で作った猪の干し肉を食べているディファイがいた。
「……食べますか?」
そんな事を言っている彼。
何時もの強い彼の姿がそこにはあった。