報われない男の物語 作:羽付き羊
もう最終試験か……
ここまで来たのかと思うも同時に私は物足りなさを感じていた。
最難度の位置に属するアルシリアの女王騎士入団試験、それでも物足りなさを感じてしまう。
私は幼小の頃から強さというものに憧れを感じていた。それは子供の頃に喧嘩で負けたというのが理由でもある。
理由はくだらないものだった。
巷で人気の女王騎士フィギアで私は王=道隊長を当ててしまい、ダブっていたので捨てた。
それを見たディファイが捨てるならゴミ箱に捨てろというのに気が障ったのが発端だ。
私は小さいながらも当時では負け知らずだったので傲慢に育っていたのだがあっさりと負けてしまった。
悔しかったのも事実だが、それよりもディファイという人間に興味を持った。
2歳上の親戚という認識が私より強い存在に書き換えられたのもその時だった。
話してみれば意外とノリの良いヤツだったのでジェダも交えて3人でよく遊んだものだ。
しかしある事件を機に3人で遊ぶことは少なくなった。ジェダと私、いやバンニール家自体がギクシャクし始めたせいだろう。
誰が悪い訳でもないがかえってそれが亀裂を生じさせる原因となったのだろう。
しかしディファイがいたおかげでなんとか少し仲が悪い程度になっていたので奴には感謝している。
そして月日は流れ私は騎士学校において首席を収め、女王騎士に一番近い男とも呼ばれるようになっていた。
確かにマナの絶対量や身体能力等は私は誰にも負けてなかったと自負できる。
しかしそれでもディファイには勝った気分が全くしない。
他の生徒相手なら負ける事すらなかった私がディファイ相手だと何度も土を付けられているのだから当然だろう。
本当はバンニール家の私に譲っているのではないか?と疑問に思ってしまう。
ならばこの女王騎士の入団試験で白黒ハッキリ決着を着けたかったのだが同じチームとなればそれも叶わない。
入団したとしてもできて模擬戦、そうなればディファイはまた勝ちを私に譲るだろう……
そんなモヤモヤを抱えたままディファイが見えたので話しかけた。
「ディファイお前とは同じチームか……誕生日に試験とはお前も大変だな」
誕生日に試験とはコイツは本当に女王騎士になる為に生まれてきたような人間だな。
「誕生日だからサービスしてくれるんなら別に良かったんだけどね」
と苦笑いしていた。
それにしても普段のディファイは俗に言うオタクなのにこういう時には何故輝いてみえるのだろうか?
オタクだから弱いとかいう問題ではないにしろ不思議だ。
だがコイツの強さは私が一番身近で見てきたから分かっている。だから女王騎士になる前に戦ってディファイという壁を超えたかった。
「頑張ろうね。カルマ君となら大丈夫だと思うけどさ」
そう言われた時、つい本音が出てしまった。
「…俺はお前と戦いたかったがな」
「え?」
「イヤ、何でもない。」
思わず出た本音だがディファイに分からなかったようだ。
「では始めっっ!!」
その声と同時に私は敵陣へと先行した。
静止を促す声もあったが、ディファイが後方にいるという安心感もあり私は一人で突っ込んでいった。
ディファイなら私が敵陣にいくという事で敵チームの虚を突いてバラバラになったところを攻め込むという作戦を考えるだろう。
もしくはそれ以上の作戦を考えてくれるだろう。
しかし敵陣に突っ込む前に前方からいくつかのマナが、3……いや4人のマナ。
しかしまだ私には気づいていないらしく私は奇襲をしかけたのだが、1人だけそれを受け流した奴がいた。
ソイツは第1チェックポイントで簡単に倒したエルト=フォーエンハイムだった。
「今の攻撃を受け流すとは、この短期間で腕を上げたようだな」
「っへ、そう簡単にやられてたまるかよ!」
第1チェックポイントとは別人のようにマナを感知できるようになった時点で相当レベルがあがったのは間違いはない。
これは中々楽しめそうだ。
攻撃をするにもガ―ドの上からなので中々通らない。
しかも相手は毒が回っているいうのに動きが良い。
武器でも攻撃が同時に交わり、互いの武器が弾かれ宙に舞う。
互いの武器が入れ替わり攻撃をしようと思った時、黒い何かに攻撃された。
一瞬なんのことかわからなかったが、その攻撃はジェダからのものだった。
「テメぇをずっとぶっ殺してやりたかったんだよぉ!!」
その言葉に私はジェダの関係がもはや修復が困難な関係になっていたのが分かった。
母の事が原因でもあるだろうし、私や父に認められたかったのだろう。
ジェダは私よりも母想いであったが為に悩みを抱えていたのは分かっていたがまさかここまでとは思わなかった。
意識が薄れてゆく中で思った。
こんなところで死ぬくらいならもう一度ディファイと戦いたかった。
いや、違う、ディファイを私は倒したい。
その想いで僅かに残った力を振り絞りジェダの腕からその黒いものを剥ぎ取っていた。
そして自分の身体の一部にそれが装着された。
「ほう、コイツは良い。力が漲ってくるようだ……」
気分が良い……自分の我慢していたものがなくなったようだった。
そして誰かれ構わずにこの黒い武器を使い周りの受験者のマナを吸い取ろうとした。
受験者がもうすぐで死ぬかもしれないと思うがマナを吸い取りたいという欲望に勝てずにマナを吸収していく。
その時この武器の腕めがけて一本の剣が真っ直ぐに飛んできた。
マナを吸収するのを止めて剣を薙ぎ払う。その剣が飛んできた方向をみると悠然とディファイが立っていた。
「ディファイ…お前か」
そうだ、私はお前に勝ちたい。いくらたっても勝てなかったお前に……!!
「俺はお前に勝ちたい…」
「俺とカルマ君じゃ勝負が成り立たないよ?」
ディファイは当たり前だというようにその言葉を投げかけてきた。
その言葉は私が一番よく分かっていることだ。
だからこそ腹の底が煮えくりかえる。
「その言葉に俺がどれだけの屈辱を受けていると思っている……!」
不思議そうな顔をするディファイ、それがまた私の怒りを増加させていく。
「もっと吸い取りたかったがまあいいマナは満ち溢れている」
マナは満ち溢れている、もう私はディファイと戦うという欲望から逃れなれない。
「あの模擬戦の時も、練習試合の時も、子供の時の喧嘩も!俺はお前に勝てたことがない!」
子供の頃からずっとお前に対して私は劣等感を持っていた。
もうこの気持からは逃れられずに黒い武器をディファイに対して向ける。
しかし他の奴等が私に向かって攻撃をしようとしてる。邪魔だ……
「手を出すな!」
ディファイがそれを静止する。
自分以外の奴が相手すると足で纏いになると感じたのだろう。
「邪魔者はいない…始めよう。俺とお前のどちらが強いのかをな!」
その言葉を皮切りに攻撃を始めるが、ディファイはマナコントロールが上手く敵意のあるマナの察知もそれに輪をかけて上手いので避けられる。
しかし私の攻撃の速度がそれを上回り微かにだがダメージを与える事ができた。
「何してくれんだよカルマ……」
口調が変化した。
ディファイが本気を出す時の口調……
子供の時の喧嘩のディファイの怒った姿だ。
「テメェ……一回殴られないと解らねぇみたいだなぁ~?おい」
静かにそして怒気を含んだ口調。本気の姿で戦える…それは私にとって嬉しいの一言に尽きる。
「コ、コイツは、ハアハア…俺の、獲物だ!寄越せ!」
とジェダが入ってきた。
あの時に気絶させておけばよかった……攻撃をしようと思ったのだがディファイがジェダを静止させた。
「口の聴き方をまずは直せ、お前は黙ってろ……後でやるから今は黙って見てろ……」
すぐに倒せると思ったのだろうか?そうはさせない今度こそ勝つのは私だ!
「ディファイ、行くぞ…」
「来い!!」
そこから私の猛攻が始まった。
しかしそれを薄皮を掠める程度のダメージしか与えられない。マナ感知が優れているディファイにとっては避けるのはたやすいだろう。
「流石だな…」
思わずそう言ってしまった。それでこそ私が認め、倒したいと思った男だ。
「いい加減諦めろ!」
その言葉には余裕はない。
もうアチラはマナがほとんどない状態なのだからそれは仕方ないと言えるだろう。
「女王騎士になりお前と対等な立場になるのもいいが…その前に一度でいいからお前に勝つ!」
勝ちたい、そして肩を並べたい。その欲望が今の私の全てだった。
「対等だあ~?何言ってんだ?」
その言葉に私は怒りを感じた。
「俺とお前は対等なはずはない…そんなこと分かってはいる。分かっているんだ!!」
理解はしている。
ディファイと私の強さは違うベクトルであり強さの形は一つではない事は……
しかしそれが納得できるという訳ではない、肩を並べていたい。
負けている等の劣等感なんて持っていたくはないのだ。
「対等以前に親友だろうが!?」
その言葉に私は驚きを隠せらなかった。
親友……私には友人というものがいない。
それは私並の資質を持った人間がいないということもあるが、それ以上に私は人に心を晒すことが苦手で怖かったのだ。
「………」
「親友だから今のお前は許せない!」
思わず黙ってしまった私にディファイはそう言った。
親友だから許せない……
その言葉に私は戸惑いを感じてしまった。
だが、私は勝ちたいという欲望には勝てずに結局はディファイを攻撃をするという手段に出たいた。
「お前に勝ちたいだけだ、俺はな!」
さっきよりも攻撃により力を入れて攻撃をする。防御をほぼ無視した攻撃すらディファイは避けた。
しかし雨で抜かるんだ土に足を取られたディファイを見て好機だと思い接近戦に持ち込もうとした途端、視界が真っ暗闇に覆われた。
おそらくは滑ったと見せかけて泥土を私の目にかけてきたのだろう。
意識の外の攻撃、これがあるからディファイには勝てない……
一瞬戸惑ってしまった私は結局ディファイの術中にはまってしまったのだ。
そしてその隙を逃す程ディファイは愚かではなく、顔面を殴打された。
何発も何発も、反撃を許されなかった。
一発一発のパンチの重さはなかったがそれが積み重なればすごい威力になることはいうまでもない。
私は力尽き、倒れてた。
「…やはり負けたか」
やはり負けた………
悔しかったが親友と言われた事に嬉しさも感じていた。子供の時からの劣等感から解放されたかは分からないが悔しさもあるがすっきりとした気分もする。
なんとも複雑な気分だ、負けて悪い気分にしかなったことがないが今回はそこまで悪くない。
「そんなモノを使うからだよ、カルマ君の強みは冷静な状況把握能力でしょ?」
そう言うディファイの表情はいつももと変わらないものに戻っていた。
「強引な力技よりもそっちの方がいいと思うよ?まあその力を制御できて冷静になれたらもう勝てる気はしないね」
「いや、俺は借り物の力ではなく、実力でお前に勝つことにした。」
借り物の力で勝っても嬉しくはない、今の私にはもう劣等感なんて抱く必要がない。
大事な親友だからこそ本当の実力で勝ちたいのだから。
「ていうか勝ち負けにこだわるのは辞めた方が良いよ?大切なものを守れればそれだけでいいんだって俺の知り合いのお……ねぇさんが言ってたし」
誰の言葉かは分からないが勝ち負けにこだわるのではなく自分の大切なものを貫く力がディファイにはある。それが奴の強さなのだろう。
「それがお前の強さか……勝てない訳だな」
寝ていた身体を起こすとディファイの手が差し出されていた。
それを嬉しく思い手を掴むと私達は握手を交わした。
憑きものが落ちたようだった。今まで気にしていた自分がいかに愚かだったかということもよく分かった。
「ひひひ、くだらねぇ友情ごっこか?三文芝居にすらなりゃしね~よ。」
いきなり薄笑いしながら出てきた黒衣の男。何やら怪しい雰囲気を出していた。
「まあでも、いい人材がいるねぇ~?宿主が3人、いや2人か…コイツはもう使えなさそうだしな…」
そう言いながらグラムの次男の方を見て何かを言うと腕から私と似たような武器を回収していた。どうやら奴も持っていたようだ。
「じゃあ
そう言うと肩から腕みたいなものを出し、その場にはアンデット系のモンスターが蟻の巣の前の蟻みたいに群がった。
「行け」
その号令と共にモンスター達は一斉に受験者を襲いだす。
「本体をやれば終わりだ!行くぞエルトォ!!」
「おう!!」
そう言いながら応戦しているが数のせいで劣勢を強いられているエルトとかいう男とブリュンヒルデ家のイージス達。
「じゃあ行くとしますか。」
そう言って私を肩から出した腕で持ち上げた。私はもう立つのがやっとぐらいにまでマナを消耗していた為に抵抗できなかったが、ディファイは攻撃していた。
「コ、コイツまだ俺に楯突くだけの力が残ってたのか?ちっ、仕方ないか……」
黒いマナが精製されディファイに攻撃をしようと魔法を使おうとしている黒衣の男。
「コイツは俺の獲物だ…渡さねえよ!」
ジェダ君が左腕で攻撃していた。あのケガで動くとは我が弟ながらよくやるものだ。
アイツとはまだ話をしていない。弟だから分かってくれているという甘えがあったからだろう。
母の事も父の事も話さなければならない。それが今の私が兄としてジェダにできることだろう。
「うがっ…」
予想外の攻撃をくらって倒れる男。
捕えられていた私は崖の方へ投げ出された。
「カルマ!!」
咄嗟に投げ出されたのを見たディファイが私の左腕を見事に掴んだ。
だが、手を離したら私と同じ様に真っ逆さまに落ちてしまう。
「離せ!じゃないとお前まで崖から落ちるぞ!?」
ディファイは身体的には弱い。
それはいつも見ていた私がよく分かっている。だからディファイはマナのコントロールを鍛えていたのだから。しかも毒のことやサバイバルのこと、さらに先程の私との戦闘でもう動くのも精一杯だろう。
このままだと親友が私のせいで落ちてしまう。それが私には嫌だった。
「何言ってるんだよ?親友助けるのに命ぐらい懸けるよ」
「ディファイ…」
その言葉に私は目頭が熱くなった。
親友と言ってくれたディファイが言葉ではなく本当に私を大切にしてくれていることが分かったからだ。
「カルマ君、早く上って…」
そういうディファイに私は腕を上げようとするが力が入らない。先程の戦闘でもうマナが空になったようだ。
「…さっきマナを使いすぎて今は腕が動かないんだ……」
このままだとディファイまで落ちてしまう、そうならば私がこの手を離せばいい。そう思い行動に移そうとした時私の身体は上へと持ち上げられていくことを感じた。
「ぬがががぐぎゃあぁ~!!」
叫びながらディファイは私は上へ引っ張られ崖の上まで辿り着いた。
礼を言おうとディファイの方を向くと力が尽きて崖へと落ちて行くディファイの姿が見えた。
「ディファイ!」
掴もうとしたが間に合わず落下していくディファイ、私は何も考えずディファイの後を追って飛び降りた。
落下しているディファイの服を掴んだが、この後が問題だ。最悪私が下になろう。そう思っていると私の足が何者かに掴まれた。
エルトだった。そしてエルトはもう片方の手で剣を使い崖に剣を差しながら落下のスピードを弱めて行き、なんとか落ちてもギリギリ助かりそうな位置で止まった。
「っへ、お前等見てらんね~ぜ」
「礼を言う。ディファイを………親友を助けてくれてありがとう」
「気にすんな。俺の同僚になろうとする奴が落ちていくのをほっておける訳ないだろう?」
そんなやり取りをした後にディファイが気づいたようだった。
「…大丈夫か!?」
そう言う私にたいしてディファイは、
「……ギリギリで」
と苦い笑いしながら言っていた。
「皆で正々堂々と勝負して女王騎士になろうぜ!」
そういうエルトに私は感謝した。こういう前向きな奴は毛嫌いしていたがコイツは好きになれそうだ。
「お疲れさん。」
という声がした方向を向くとそこには黒衣の男が…
「そして残念でした!」
と言って剣を抜き全員が落下していった。
その後の事は覚えていない。
ただ親友を守れたかどうかだけが気になった。