報われない男の物語 作:羽付き羊
11話「未亡人だろうとNTRはダメに決まっている」
――昔の夢を見ていた。
アルテリーナ女王陛下即位10周年パレード。
そこには俺の初恋の相手がいた。
その名はアルテリーナ陛下、そうつまり女王陛下に俺は恋をしてしまったのである。
身分的にも年齢的にも禁断の恋、子供を生んでいるのにあの若さにあの美貌は当時13歳だった俺を何かに目覚めさせるのには十分な衝撃だった。
俺はその時に一瞬この人を守りたいな……と思ったのだが人妻ということを思い出して家に帰って風呂場で泣いたのは今でも俺の黒歴史の一つである。
そう初恋は実らない。仮にもしこの初恋が実ったりしたのなら国が傾いてしまう、いや滅んでしまうので実ってはならなかったので今考えると良かったと思う。
いやまあ叶う可能性なんて0%であるのは充分に分かっているのだが「あそこで本気出して女王陛下にアプローチしてたらどうなってたか分からなかった」といった誤魔化し方もできる。
いや実際に他人に話すとかではなくて自分の中で保険をかけておくだけの話なのだがこうする事によって自分の塵のようなプライドが保てるのである。
因みにコレは高嶺の花が他の男に取られてしまった時に使う負けた男達の悲しい見栄で本来好んで使いたいものではないので俺は二度使いたくない。
女王騎士になればワンチャンあるかも!とか一瞬血迷いもしたが刹那で正気に戻った。
いや本気で極刑待ったなしになるからそれは勘弁して欲しい。
そんな俺は女王騎士になりたいと望んでいる訳でもないのに騎士学校に通っているのだが、成績は上の下程度。
この成績は良い方ではあるが入団試験にはまぁ合格できないだろうという成績なのだ。
何せ上の上に入る成績の人間ですら不合格になるのが女王騎士入団試験なので、普通に考えれば入団できようがない。しかしながらこの学校で成績が良いと他の貴族の間でも体面は良いのだ。
まぁそれは表向きの理由で完全に小遣いが報酬制だからめちゃくちゃ頑張ってたのが本当の理由だけど。
そんな事もあって女王騎士のハードさが予想の斜め上をいっており、昔から考えていた家を継ごうというのに照準を合わせようと思っているのだが「受かんないと思っても一応は受けろよ」と親父から言われているので一応は受けなくてはいけない。
でも俺は多分落ちたとは思うけど……
そんなある日の未明、何故かうちのホテルに女王陛下の馬車が女王騎士付きで来た。
どうやらお忍びでバーで飲んでいたらしくそのお迎えだとか。
うちのバーを経営しているコンバート爺ちゃんは聞き上手で有名だし作る酒も上手いと評判だから陛下もお忍びでよく六大公爵家の人達やらロイヤルガード(女王陛下の側近の女王騎士)の人達と来る。
陛下という立場上ストレスも溜まり易いのだろう。
それに親父と陛下は昔から付き合いがあるらしく親父目当てで陛下が来たりもするとか。
その出合いの切っ掛けを聞いた事もあるのだが親父自身がよく分かっていない。
「う~ん?俺もイマイチ分かってないんだが………女王陛下が小さい時に一度会ったのが切っ掛けだと思う……」
女王陛下が乗った馬車を見送りながらその事を聞いてみた。
普通に考えて六大公爵家の人間なら分かるが貴族の中なら中流なボルト家と女王陛下がこんなに仲良くなっているのかは謎でしかない。
言ったら悪いが別に親父の顔がイケメンとかでも何かが特別優れている訳でもない。
そんな人間がどうやって王族がお忍びでお目当てに来る人間になるのかは本当に謎だ。
俺が納得できていないと思った親父は続きを話してくれた。
「ある日俺が細道歩いているとな、石に躓いて荷物を抱えて走ってた変なおっさんとぶつかって一緒に倒れたら礼を言われたんだよ」
「なにそれ?意味分かんないよ?」
「そうなんだよなぁ。しかも命の恩人とか言われてるし、何でだろうな?……今更聞ける雰囲気じゃないのはお前も分かるだろう?」
「そうだけど、本当に意味分かんないよ?」
「まぁ俺本人が分かってないからな~――そうそう思い出した!その後おっさんがブチ切れて、俺に斬りかかろうとするんだよ、いや~アレはビビった、本気でビビった」
「そんなにキレなくてもいいのにね?でも生きてるからそんなに大ケガじゃなかったんじゃないの?」
「うん?いやケガは無かったぞ、偶然女王騎士の人が近くにいたからそのおっさんを倒してくれたんだよ。流石は女王騎士って感じだったな」
そう言った後、親父は思い出したかのように続けて話した。
「そういえばあの時、アルテリーナ様がロープで縛られてた姿で俺の前に出てきたな……女王騎士の人がその縄をすぐ斬ってたけど、何だったんだろうアレ……」
「何かよく分からないね?」
「まぁ礼を言うのはコッチの方だったんだけどな。動揺しすぎて無理だった。いきなり女王騎士に誘われて陛下に礼を言われて頭パニックだったからな。女王騎士の方は適当に誤魔化したな。だって俺自分の命を守るのですら危ういし、普通に死ぬぞ?」
「まぁ俺も死ぬかもしれないけどさ…」
「大丈夫だ、弟がいる!」
「俺が死ぬかもしれない発言をしている時にその発言はおかしくない?」
「……その発言を深く後悔しながら彼は天を仰いで息子のこれからの人生をただ祈っていた」
「そんな地の文のようなセリフ良く言えるね?」
「まぁそれを言うな重い冗談だ、お前が女王騎士になるかもって話を陛下に言ったら連れて来いって言われたから城まで行くぞ」
「世間一般的にたぶん重い冗談っていうのは皮肉に入る気がするんだけどね、でいつ行くの?」
「今日の昼」
「マ、マジで!?」
「酒の席での話で今思い出した。遅れるなよ?」
という訳で朝までそこそこ微妙に寝た後に、正装に着替えさせられ、カルマ君とジェダ君と一緒に遊ぶ約束を予定が入って無理になったという事を告げて、城まで歩いている。
貴族だが馬も何にも使わない。まあ歩いて30分程度のところでそんなの使うのは勿体ないというケチくさい理由ですが。
「ちょっと時間押してない?走らなくて良いの?」
「ギリギリだけどなんとかなるだろう。まぁ素直に謝ったら許してくれるし、それになにより陛下昨日めちゃくちゃ飲んでたから遅い方が良いと思うんだよ」
それで良いのか?と思う反面、なるほどと納得している自分がいる。
俺は確実にこの父親の方の血を色濃く受け継いでいるのだと改めて感じた。
「そういやさ今日の晩飯ってやっぱり俺が作るの?」
「たぶんお前だな、帰りに業務用の店でも寄るか?」
「寄る寄る、それにしても家ってケチだよね。食材の余りが出ないからシェフの人に作ってもらうのは何か違う気がするって意味分かんなくない?」
「いやそれはアーニャが自分で家族の分のご飯作りたいっていうのが本当の理由だぞ?」
「やっぱりか……うん母さんらしいね」
「俺は普通に良い嫁さん貰ったと思うよ」
親父はお見合い結婚らしいがそれ以上は何も言わない。普通に仲は良い方だと思うのだが……
色々あったらしく教えてくれないのでそれ以上は知らないのだ。でも母さんは割と病弱なのでその治療費で結構お金を使ってもいるらしい。
「でも母さん実家に戻ってるじゃん」
しかし現在絶賛喧嘩中である。親父は夕方からホテルの人達とのミーティングがあって晩飯作れないから俺が作る事になったのだ。
「それは言うな……くそあの時に新作の料理が不味いというべきではなかったな」
と後悔している親父。まあでも思わず言ってしまったのもうなずける。
「でもアレは確かに不味かったもんね…」
あの料理は正直に言って焼き肉の焦げすぎて炭になってしまった肉を食べた方がマシだ。
もうそれで癌になっても良いくらい。
なんというか……こう食べた瞬間に砂利を食べたような食感に混ぜ過ぎ危険といったぐらいに混ぜた調味料。
味醂に醤油に豆板醤、マヨネーズ、辛子、ソース、料理酒、ワイン、日本酒、タルタルソースにうどんつゆ、たべれるラー油に味噌、ゆず味噌、ポータージュスープに、カレー粉、イチゴジャムにブルーベリージャム、砂糖、塩、片栗粉……などなど取りあえずキッチンに入った時にそれが全部一度に大量に入れられていたのを目撃した。
ジャイアンシチューもビックリである。
いや、なにそのカオス?と思ったのだが、喰わして貰っている身なので言えない。
そんな中親父が一口目で「え?ゲロ食ったの俺?」と言ったので口論して実家に帰って行きました。
まぁ1週間もしたらすぐ仲直りするからいいだろう。どうでもいいけどこの前喧嘩して仲直りした3ヶ月後に弟ができたって言われたけど、なんか関係あるのかな?
「母さん、時々よく分からないもの作るからな……」
「いつもは普通に美味しいのにね……何を血迷うんだろう」
「ああ~お義父さんになんて言おう……」
頭を抱える親父は中々面白かったからあの事は言わない、爺ちゃんはあの料理が不味いとはっきり言ってくれる親父になんだかんだで感謝しているということを……
確かに母さんが作ってくれる料理はたいていは美味しいんだが、時々アタリが存在する。
そんな料理を食べた時不味いという本音を爺ちゃんは出せない、娘が怖いから。
2,3日あまりの不味さに熱を出したことのある爺ちゃんは本当に可哀想だった。
「親父、頑張れ!(でも爺ちゃんはもっと頑張れ!!)」
そんな話をしている間に城まで着いた。
門番の人に親父が挨拶してる。
「どうもお久しぶりです。ギルバード=R=ボルトです。陛下と会う約束をしているのですが……」
「ギルバードさん!お久しぶりですね。今回も何かの事件ですか?大変ですね」
「ギルバードさん、今度は何するんですか?ギルバードさんが出るとなると相当な事件だなこりゃ」
「いや、普通に息子に会いたいと陛下が言うものですから息子を連れて会いに来たんですよ」
「そうなんですか?ギルバードさんの息子なら将来はロイヤルガードかな?いやもしかしたら七大公爵家になるかもしれませんね。ハハハ!」
「いやいやもしかしたら“帝王”のエクソードさんみたいになるかもよ?ナハハハ!」
――何これ?親父って実は凄い?
いやあり得ない。母さんにいつもヘコヘコ謝ってるしな。これはたぶん何かの勘違いだな。
だって親父は俺と腕相撲同じぐらいの強さだもん。
騎士学校で鍛えまくっているとはいえ13歳と同じレベルの父親とか鼻で笑うわ。
「アハハハ……じゃあ私はこれで」
「「はい、また今度」」
乾いた笑い声の親父、完全に面倒くさいからもうどうでもいい時の笑い方だ……
開門した門をくぐり抜けて門番の人達が見えなくなるところまでとりあえず歩いていく。
「親父……大変だね」
「本当に面倒だよ。あの人達いくら言っても何か俺の事凄い奴みたいに言ってくるんだよ。何せ俺は臨時の女王騎士みたいな扱い受けてるっぽいしな」
「何それ!?初耳!」
「だってお前の生まれる前にしかその権限発動されてないし、それに俺は弱くて後方支援専門だから言う必要もないと思ってな」
そんな事を言っている親父、正規の女王騎士ではないらしいのでどうでもいいや。
本当にいつも思うが、家の親父は変なコネを持ち過ぎていると思う。
そんな会話をしている内に途中でトイレに行きたくなり「トイレに行く」事を告げて1人で歩いたのだが……
「迷った…」
(早くしないとこの年で漏らしちゃうじゃん……)
と困っていると変な場所を見つけた。変に汚れがない四角い部分があったので触ってみるとそれが抜けた。
隠し通路になっていたどうやらこの先は隠し部屋に繋がっているみたいだ。
王族は隠し部屋とか作っているという事も聞いた事がある。
ならば隠しトイレもあるのでは?
と思いそこに入って奥に進むと小さな女の子が居た。
「誰?」
怯えたようでその声色や表情からは不安の色がぬぐりきれない。そんな中俺は我慢が出来ずにこう一言。
「……トイレ貸してください」
「えっ?」
その女の子の表情は驚きしかなく、俺の表情は一周回って冷静であったが冷や汗というか脂汗でびっしょりだった。
それが俺とイルマ姫の出会い。
普通はもっとドラマチックな筈なお姫さまと男の子の出会いであった。
──因みにトイレは洋式でした。
豪華なので出るものが引っ込んでしまって時間がかかった……