報われない男の物語 作:羽付き羊
ギルバード=R=ボルト。
その名は女王騎士で知らない者はおらず、最強にして最高の騎士と言われ、味方からは“
彼は多くの伝説を残しているが、今でも尚語り草になっている話がある。
それはギルバードが単騎で敵国2000人の兵を倒したという話だ。
当時、一番安全だと思われた場所が敵国からの侵攻にあい、女王騎士達が応戦した。
万を越える兵相手にでも僅か50人程度で殆どの兵を倒したのだから"絶対無敵 究極正義"の看板は伊達ではないのだ。
しかしやはり数の暴力には勝てず、残り2000人というところで女王騎士達は力尽きてしまったのだ。
だがアルシリア王国は負けなかった。
何故ならその戦いで最後まで立っていたのは敵国2000の兵でも敵を打ち倒そうと再度立ち上がった女王騎士でもなく、ギルバードというたった1人の男。
他の女王騎士達が増援に駆けつけた時には敵は全て倒れ、ただ一人彼だけが悠然と立っていたのだ。
このギルバードという男は味方は気絶していて誰からの援護もなく、更に驚くべき事に
その事実に誰もが驚愕したのは仕方ない事だろう。
更にはその横に巨大な龍が息絶えていたのだからその凄さは計りしれない。
この他にも色々な伝説はあるが、彼を語る上で外せないのは正式な女王騎士ではないということと、マナの量は普通の女王騎士程度しか持っていない事だ。
絶対的な力を持っている訳でもないのにその功績は輝かしいものばかり。
その為、彼はどの女王騎士達の憧れでもあった。
エクスードのような無敵の強さも圧倒的マナもないのに、一騎当千以上の実力。
それは誰でも彼になれる可能性があるという事でもあり、女王騎士達への原動力ばかりか傭兵や自警団に至る全ての騎士や国を守る者達の憧れであり希望である。
だから親しみと敬意を持って女王騎士達や周囲の人間は彼の事をこう呼んだ“希望の騎士”と……
「……っていう話が私が女王騎士さんの人に聞いた話だよ」
イルマちゃんが語っていた話の内容に俺は呆然としていた。
誰だそのカッコ良い
「いやいや、いくらなんでも嘘だよ!親父だってアレだよ?俺と腕相撲同じぐらいなんだよ?」
「ええ?でもお母さんも同じような事言ってたよ?」
「いやいやいや、俺の方が親父の事は知ってるからさ。陛下も何かしらの誤解をしてるんじゃない?」
あの親父を見て信じられる訳がない。
まぁ100歩譲って腕相撲は手加減しているとしても、門番の人の方が腕ごつかったし、家で煙草吸いながら、「増税するの?マジ勘弁して……おこづかいがカツカツだよぉ」とか独り言もしているのを目撃しているのでその姿を見て信じる奴はいない筈だ。
もしいたとしたら精神科行ってこい、このアルシリアの王城が巨大ロボットに変形するぐらい信じられないからね?
「そうなのかな?」
「そうだよ」
イルマちゃんの疑問に俺はすかさず答えた。
しかし、何故に親父がそんなポジションにいるのだろうか?
詳しい話はよく分からないので何とも言えないが明かにおかしい。
「う~ん、でもこれ本当の話だからね?ギルバードさんに一度聞いてみたらどうかな?」
イルマちゃんはまだ納得できていないらしい。
確かに母親である陛下からそういう話をされたならそれが本当の事だと信じてしまうのも分かる話だ。
それにしても過大評価過ぎて笑うわ。
「分かった。今度聞いてみるよ」
俺も年上だから頭ごなしに否定するのはよくない事だというのはしっかりと理解しているのでそう言っておいた。
それにしたって俺の親父はどういう経緯でこうなったのだろう?
●
ディファ君がギルバードさんの話をあり得ないという表情で聞いていたのはとても不思議だな。
だって、全部本当の話なのに……
お母さんから聞いた話だからというのもあるけど、それ以前に昔の資料に残っているから間違いないと思う。
だって流石に私も一人で2000人を倒すのはお父さんでも“
それに龍王種も女王の剣だけで一体倒すなんて、幼い頃の私ですら信じられなかった。
それだけお伽話みたいに嘘っぽい話だったんだよ?
私が全く信じてない事を悟ったお母さんは頬笑みながら、当時の資料である写真幼い私に見せてくれたのだ。
龍が倒れてそれを女王騎士の人達が運んでいる写真と、勲章を貰っているギルバードさんの写真。
私は小さいながらもその写真に写った龍の大きさに驚いた。
このアルシリア城の半分はあるだろう大きさの龍がお腹を半分に斬られて死んでいるんだからビックリした。
そしてその龍は普通の女王騎士だけでは倒せないらしい。
「お父さんでも少し難しいと思うよ?」とお母さんが言っていたのには驚いた。
お父さんは“
でもディファ君はそんな事全然知らないらしい。
何でだろう?普通にギルバードさんが武勇伝とか語ってそうなのに……
そういうお話があんまり好きじゃないのかな?
「そうそう、今日ってイルマちゃんの誕生日でしょ?はいこれプレゼント」
そんな事を考えている私にディファ君は持ってきた大きなカバンの中から私にエーデルワイスの花束を私にくれた。
「さっきアルマちゃんにも花束あげたけど、これは母さんがあげろっていった奴ね。んでこれが俺からのプレゼント」
そう言ってまた大きなカバンから取り出したのはボロボロのお面だった。
「このお面って…」
「これはね、クウガのお面だよ。俺が小さい頃の子供雑誌の付録に付いてきた奴だから結構ボロボロなんだけどね……」
すごく年季の入ったもので、耳にかける部分が輪ゴムの力に耐え切れずにボロボロになっていてたくさんセロハンテープで修正しているのが分かる。
本当に大切に使っていた事がよく分かった。
「これ、イルマちゃんにあげる。」
「え?大切なものじゃないの?」
私は驚いた。
ディファ君は自分のコレクションを自慢したりするけど中々コレクションは貸さない。
アルマ姉さんには誤魔化して絶対に貸さないのも知ってた。
お転婆すぎて壊されそうだからとは言ってた。
アルマ姉さんはそんな事はしないんだけど確かにイメージだけでいえばそう思われても仕方ないからなぁ……
そんなディファ君でも人に自分の大切なものは絶対にあげなかった。
一生懸命おこずかいを貯めて買ったと言っていたから当たり前だと思う。
私だってジークから貰ったぬいぐるみを人にあげようとは思わないからそういう事だもんね?
そんな中で一番大切だと言っていたのはこのクウガのお面。
小さな頃初めて自分でおこづかいを貯めて買ったと言っていて凄く凄く大切にしていたと言っていたお面を私にくれると言ってくれたのだから私はとっても驚いたのだ。
「えっとね……実はね、こうしてイルマちゃんと家の中で遊ぶの本当に楽しいんだ。家の中で一人で遊ぶよりイルマちゃんと一緒に遊ぶ方がずっと楽しいし……だから俺の宝物あげる。ボロボロで悪いけどね。今度ちゃんとしたものをあげるから」
照れ臭いのか鼻の頭を人指し指で擦りながらそのお面を私にくれた。
「あ、ありがとう!!絶対大切にするね!」
大切なものをくれるような友達だってディファ君が認めてくれた訳だから本当に素直な気持ちで嬉しかった。
「まぁ本当は魔法少女系のものあげたかったんだけど……お店でそれを買う勇気がなくて…ごめんね?」
「うんうん、私この前ジ―クにもらったぬいぐるみ貰った時みたいに嬉しいよ!」
「ありがとう。待っててね大きくなったら、もっと凄い仮面作るから!」
「うふふふ、分かった。楽しみにしてるね」
自分の大切なものをくれたディファ君の心が嬉しかった。
私はディファ君の友達で良かったと思う。
優しいし面白いし、でもたまに意地悪するのは止めてほしいかな……
でもそんなディファ君が友達で本当に良かった!
そういえばエーデルワイスの花言葉って“楽しい思い出”だったなぁ……
そういえば今日お母さんが部屋に来ちゃいけないって言ってたけど…どうしようかな?
これお母さんに自慢したいな~
……ちょっとならいいよね?
●
私はレヴァンデイン卿を女王の間に呼んでいた。
開発担当をしているレヴァンデイン卿がいうには新型の聖騎装ができたらしくそれを私にまず見せたいと言っていたからだ。
普段は開発が成功した聖騎装は女王騎士にそのまま渡されるのだが、私が即位した10周年記念のパレードの時に襲撃にあって万が一にでも女王騎士がいない場合の自己防衛用らしい。
確かに用心するに越した事はないので、私はそれを受け入れた。
しかし他の女王騎士達が「そんなものはいらない!!私達が陛下を守れないとでも思っているのか!!!」と怒っているらしく、しかし私の事を案じてくれて作ってくれたレヴァンデイン卿の事を思って秘密裏に呼んだのだ。
2時間程前に昔話に花を咲かせていたギルバードさんを帰したのはそれが理由である。
「レヴァンデイン卿、それがそうなのですか?」
私は金色に輝くその聖騎装を見た。
「はい、これが陛下専用の聖騎装、いや“
それには何故か魅力を感じた。
理由はよく分からないが、あの色と艶…それに私は魅力を感じてしまったらしい。
「これは、陛下の身体能力自体の向上もそうですが、何より安全を重視する為に防御力を重視しております。例え“女王の剣”で貫かれても平気なのがこれの凄いところなんですよ」
私はそれを聞いて、本当にこのレヴァンデイン卿は私の身を案じてくれているんだと思い嬉しくなった。
色々黒い噂を耳にする時もあるが、やはり女王騎士として私を守ってくれようと努力してくれているのだろう。
「ならさっそく試着してみますね」
服の上からでも付けられるし、ドレスの下から付けても違和感のないデザインに色々考えてくれているんだなと思いながら私は金色に輝く女王装を身に付けた。
「……ひひひ、装着なさいましたね陛下?」
その瞬間、私は闇に呑まれそうになった。
「な、何をしたのです?」
「いや、ただアナタの欲望をさらけだしてあげたくててですね?気持ちいいでしょう?」
段々と黒くなりだす女王装。そして私の意識も黒く怪しくなっていく感覚に襲われた。
「いや~、ここまで来るのに10年かかりましたよ。邪魔なエンチャント博士はもういないし、バルド=フォーエンハイムのバカもいない」
私は気付かなかった、まさかレヴァンデインが私を裏切るなんて……
確かに当時の総括部門長であったエンチャント=ギア―ド博士とは仲違いがあったのは知っていた。
そして彼が不慮の事故により死んだという報告をすっかり信じてしまった。
その時にバルト=フォーエンハイムが行方不明になった事もよくよく考えれば繋がっていた。
でもなんでレヴァンデイン卿はこんなことを……?
「ア、アナタは私をどうするつもりですか!?」
「な~に、ちょっと闇に呑まれてもらうだけですよ?死にはしない。ただアナタの自我がなくなって私の思うがままになるだけです」
「そんな事をしてどうするつもりですか!?」
「どうって簡単な事ですよ?私の研究成果を陛下に分かってもらいつつ私がこの国の影の支配者になりたいだけです」
なんてことだろう……
こんな事になるなんて思ってもみなかった。
私はただ民が平和になるようにと他国から侵略を防ぐべく為に武器を作るように依頼しただけなのに……
それが仇になって返ってくるなんて……
「誰か!誰か来てください!!」
私は必至で叫んだ。
女王騎士を呼ぼうと椅子の下にあった緊急用のアラームを鳴らそうとするが音が出ない。
「陛下……私が聖騎装の総括部門長という事をお忘れでないですか?騒音遮断用聖騎装を使っていますし、私が先程緊急アラーム用の回線を切ってきましたから、誰も来ないですよ?」
憐れみ、そして薄笑いをしながら私を見るレヴァンデイン卿。
私はこの人の思うどおりにされ、民を騙し、裏切り、やっと作りあげた平和なアルシリアをまた戦乱に招くの?
それだけは絶対嫌だ。
何のために私の夫が死んだのか、それはこのアルシリアを平和に導く為だ!
そういった強い意志によりなんとかマナを抑えている。
「無駄な事を……」
そう呆れたように言うレヴァンデイン卿。
その時に扉が開いた。
「陛下失礼します。イルマ姫の件なのですが……へ、陛下!!!レヴァンデイン卿!陛下に何を!?」
タイミング良くジークが駆けつけてくれたようだ。
毎度誰がいようと関係なく入ってくる姿勢は呆れた物だが今回ばかりはそれに救われたらしい。
「っち、邪魔が入ったか。まぁいい私は陛下が闇に染まりきった姿を後で見るとしようか」
「待て!」
「そんな事を言ってる場合かな?陛下はもうそろそろ闇に呑まれてしまうぞ?」
「っぐ……お前はグラムの名にかけて俺が倒す!!」
「ひっひひ、言ってろ、グラムのガキが」
その場を後にするレヴァンデイン卿を追うとするジークだが私の事を思いだし女王の剣を取り出した。
「陛下、私が今この魔黒装を壊します!」
女王の剣でこの黒い女王装ごと切ろうとするジ―クだが、剣ごと跳ね返りジ―クの左目に襲いかかった。
「うぐ……な、なんという硬さ…」
左目を抑えながら何とか致命傷は避けたらしい。
しかし思った以上に状況は悪いらしい。
「ひっひっひ、陛下、先程言った防御力の話は本当ですからね?絶望に苦しみながら闇に堕ちてください。ひっひっひ…」
そう言いながら扉から出るレヴァンデイン卿…
「っく、陛下今から人を呼んできます。少しお待ちください!」
そう言ってジ―クは部屋から出ようとするが、もう私がこの黒い女王装を抑えらる時間はあまりない……
なら答えは決まっている。
「ジ―ク!私が今この女王装を抑えている間に私をこれごと貫きなさい!」
「し、しかし!」
戸惑いを隠せないジ―クだが時は一刻を争う。
このまま私が操られてしまえば民を私が愛した国をまた戦乱の時代に巻き込む事になってしまう。
「速くしなさい!私がこれを抑えている時間はあまり長くありません!!」
「…分かりました。このジ―ク、アルテリーナ=アルテミス=アルシリア陛下の最後の命を御受けいたします」
そう言いながらジ―クは腰につけていた剣の聖騎装を抜いた。
今この場にいるのがジ―クの他にも女王騎士達がいたのならまだ可能性があったのだろうけど、もう諦めるしかないのだろう…
心残りは山程ある。
しかし私が死ぬ方が国が助かるのなら仕方ない。
せめてあの人がまだ生きてくれたなら……
そう思うと涙が溢れてくる。
走馬灯のように昔の事が思い出される。
そういえば、子供の頃に一度誘拐されったけ。あの時はギルバードさんが助けに来てくれたな……
アルマ……
あなたにはまだ色々教える事が残ってたのにごめんね?お母さんもうダメみたい。
あなたには色々苦労かけると思うけど、大丈夫よ…イルマがいるから…
イルマ……
あなたに私は何もしてあげられなかったわね……
本当にごめんね?
お母さん本当はアナタと色々御話とかお化粧の事とか色々教えてあげたかったけどそれももうできないみたいだわ。
でもね大丈夫よ、あなたにはアルマがいるから…
アナタ……
今私もアナタのところに逝きますね。
でも本当は生きていたい。でも叶わぬ願いなのだろう
ジ―クが涙を流しながら私にむかって剣を突き刺そうと動こうとしたその時、扉が開き一人の男がこう言った。
「陛下、ギルバード=R=ボルトただいま参上いたしました」
私の願いは小さな頃誘拐されていた絶望感から救ってくれた彼に届いた。