報われない男の物語 作:羽付き羊
崖から落ちた後、何かシモンズ君が俺とカルマ君を連れていったらしい。
らしいというのは俺があの後体力を使い果たして丸3日爆睡していてその事を覚えていないからだ。
目覚めて少し混乱していた時にお見舞いに来てリンゴをうさぎカットにしてくれたシモンズ君からその事を聞いた。
そしてシモンズ君が「この毒、別に解毒剤必要ねーけど解毒剤飲むか?」という衝撃発言をしてくれた。
というか死ぬと言われていた一週間から更に3日経った後に解毒剤渡されてももう死ぬ事ないじゃん!
シモンズ君が言うには何でも一時的に仮死状態になってしまう毒薬らしく、1時間ぐらい動けなくなってしまうらしい。
毎年恒例の女王騎士としての覚悟を試す為の嘘ではあるが、大体リタイアする人間や現役女王騎士達はこの毒薬の事を口外するのを禁じられているとか。
何でも試験の緊張感を保つ為らしい。
やっぱりあん時にリタイアしとくべきだったかなぁ……
なんだなんだで看病してくれていたシモンズ君には感謝しておきたいのだが、シモンズが邪魔しなかったら受かったであろう女王騎士試験に落ちたのであんまり感謝できなかった。
なんだろう受かったら確かになりたくもない女王騎士になって地獄を見る事にはなっていたとは思うけど、やっぱりなってみたい気もしないではなかったというか……
落ちて良かったといえば良かったんだけど勿体ない事したかなぁという複雑な気持ち。
元々落ちる前提で受けてたし、命もあるから良しとしておきたいんだが……
やっぱりフィギア欲しかったかなぁ。
手が届きそうだったと思うと別に欲しくない物でも欲しくなるみたいな心理状態になってしまってるみたい。
例えでいうとビンゴ大会で「はん、こんなの当たるわけねぇっての」とか思っててさ、司会の人に「リーチの人いませんかぁ?居たら手を上げてくださ~い」とか言われて手を上げてみたら自分だけで心の中では(うわ、コレ行けるんじゃね?お米券1万円分ゲットじゃね?)とか思っている状態で結局他の人に取られた心境に似てる。
しかも自分は結局無駄にトリプルリーチとかしてもビンゴにはならないっていう状態……
考えただけでゾッとするね……
とまぁそんなこんなを考えている内に何日か過ぎて傷も癒えたので家に帰って溜まったニヤニヤ動画を見ようとして帰り支度を始めていたら引きとめられた。
何で?
と思っているとシモンズ君がカルマ君と俺を呼び出して2体のフィギアを取りだした。
「そ、それは!?」
「何だコレは?」
俺はあまりの驚きように心臓が飛び出すかと思った。
カルマ君は子供の頃しか集めていなかったらしく反応が薄い。
「受け取れ」
そう言われて受けとったフィギアを詳しく見るとやはり間違いはなかった。
市場には出回っていない事と数量が極限に少なく、ネットでは都市伝説とまで言われているあのアルテリーナ女王陛下Ver.黒色武装がそこにあったのだ。
なんとまぁ驚いた事に一応はあの試験に合格という扱いになっているんだよね、コレを貰えたという事は。
シモンズ君に聞いてみたところあの試験は魔黒騎士の選抜試験でもあるとの事。
ジェダ君とかカルマ君とかルカ君に憑いてた訳分からん武器の使い手を育ててアルシリアの機密部隊になるのが目的とか言ってた。
なるほど、だから女王騎士の紋章は貰えない代わりに、「女王様を手元に置いていつも敬うように」という名目で渡されるフィギアだけが貰える訳か。
コレを貰えた事で俺は今までの努力は結ばれたんだなぁとちょっと思ってしまった。
しかしアルテリーナ陛下正装Ver.をあきらめた訳ではない。
いつかルカ君かイージス君に頼んで貰えるように説得しよう。
自分の女王陛下のフィギアは誰にも渡せない決まりになっているけど人形使い部隊に配属されたら貰えるかも知れないもんね。
そういえばシモンズ君は俺より年下に見えるんだけど、魔黒騎士としてのキャリアは先輩なんだよね?
一体どうやって入ったんだろう?
女王騎士試験は5年に1回の筈だし年齢的には17歳ぐらいだけど今年の試験で魔黒騎士に入っている訳でもなさそうなのにな……
「そういえば、シモンズ君はどうやってこの部隊にいるんですか?」
「ツークリック詐欺に騙されてな……」
「え!?」
「冗談だ」
俺が驚くと真顔でそう言った。
一瞬信じたかけたよ!
「貴族でも公爵家でもない人間で魔黒騎士としての才能がある人材という事でここの部隊のイゥエンていう奴に誘われて入った」
普通にそう言うシモンズ君。さっきから思っていたんだけど試験の時と少し性格変わってない?
「そうだったんですか……でも何で女王騎士じゃなくて魔黒騎士になろうと思ったんですか?」
「さぁ?その場のノリだよ。別に悪い事する訳でもねぇし。……親父の事についてそんなに聞かれないしな」
後半のボソッと言っていた話も聞こえたけど意味分からなくてスル―した。
あんまり突っ込んだ話をしてもこっちが痛い目みるかもしれないしね。
「それはそうとディファイにカルマ、ここの部隊は上司とか以外は先輩でも敬語とか使わなくていいからな、まぁ本人が使いたいなら使ってもいいけどよ」
何それ、流石は裏の組織という事か?
「アルシリア以外にも魔黒騎士としての才能がある奴を引き抜いてたりするから他国出身の奴も多いんだ。敬語使うとどこの国出身だから偉いとかそう思う奴もいたりして小競り合いがあったからそれを阻止する為にこうなったんだよ……ったく面倒臭い限りだぜ」
なら全員が敬語使えば良いのでは?とは思うんだけどね、まぁ郷に入れば郷に従えって事ですかね。
「シモンズとか言ったな?つまり俺達は女王騎士の暗部組織に属するという解釈で良いんだな?」
「ん?まぁそう言う事になるな」
……ん?
カルマ君の言葉で気が付いたけど、俺達この状況を普通に受け入れてるんだけどそれってどうなの?
これ魔黒騎士になるしかない状況で拒否権ない感じじゃね?
「良かったなディファイ……お前も俺も正式な女王騎士ではないが昔からの夢だった女王騎士になれたんだな」
か、カルマ君が、あの滅多な事で表情を崩さないカルマ君が優しく微笑んでるだと!?
そんな笑顔見せられると断れねぇ……
「そうだね……」
内心では女王騎士になりたくないと心が叫びたがっているんだけどなぁ……
機密部隊って要するに特殊部隊って事だよね?
普通の女王騎士より危険な任務じゃないの?
……辞退してぇなマジで。
「で、話を戻すが
「ん?
「
「契約とは何だ?」
カルマ君がそんな事を聞いていた。
というか今の今まで何で黙ってたんだろう……
そう思って何気なくカルマ君の手元をみたらフィギアの陛下がパン1、ブラ1になっていた。
……何しているんですかね?
お年頃なのは分かるけどそれはどうかと思うよ?
「盗聴器とか監視カメラとかそんなのがないかを調べていただけだ」
俺の視線に気づいたカルマ君はそう言った。
そういう事にしておこう。じゃないと色々面倒な気がする。従弟は思春期。
「ああ魔黒装との契約だ」
そしてシモンズ君は何もなかったかのように話を進めていた。
この人マイペースだな……
それにしても魔黒装との契約?
「魔黒装でも俺のような幹部に渡される特別製の魔黒装は"生きて"いるんだよ」
ああ、だから喋ってたの……
って生きているの?マジで?
ていうかその年齢で幹部なの!?優秀なんだね……
「カルマは知っているだろう?現に装備している訳だからな」
「そうだな」
カルマ君がそんな嘘を吐く訳ないので本当なんだろう。
俺はてっきり自分の闇の部分が喋る感じの厨二だと思っていたけど予想は外れたらしい。
「でコイツ等は知能もあるから、ややこしい書類仕事も丸投げにして頼るのも契約次第って訳。なぁ?」
『ちょっと待て、それはまずガンガンで掲載している王女騎士伝記の11巻を買ってからだぞ?展開が熱くなってきたんだからな!!』
「まぁそういうな、黒金の錬成術師の方が熱いだろう?賢者の宝石が何百人以上の人の命を使わないと作れない事が分かってこれからどうなるかってところで読み終わってんだからさ」
『ちょっ、おま……』
何これ?こんな感じだったけ?もっとこう威圧的で怖い感じがしたはずと思ったんだけど…
「不思議そうにしてるな?まぁそう思うだろうな。基本的に上級魔黒装は自我があるから扱い辛い。でも一度手なずけたら思いのままに動かせる。ただ時々本性が現れるのが面倒なんだよ。こっちまで闇の部分に引っ張られちまう」
やれやれみたいな感じで言うシモンズ君。
なるほどだからあの試験の時と今では雰囲気全く違うのか。
力を使えば使う程、闇に飲まれていくとか聖石使いの羅刹の剣みたいでカッコ良いなぁ。
マナコントロールとかは自信あるし俺も制御できたりするかも知れないし、ちょっと使ってみたいかも……
『因みに俺はコイツがガン○ンを立ち読みしたときに気になった王女騎士伝記を買ってもらうという事で軍門に下った訳だ、何という孔明』
そう淡々と言う魔黒装。
因みにコイツはシモンズ君が試験の時に使っていた魔黒装で名前は
……魔黒装凄く欲しい。
そしてなんだかリリカルでいうデバイスとかいう奴に似ている気がしてならない。
というかガ○ガンって立ち読みできないはずじゃね?
辞書以上に分厚くて付録たくさん入ってるから紐とか縛ってあるからなぁ……
「いや、どっかのクソガキが本の紐解いてたから暇潰しで読んでた。んで店の人に怒られて買い取りになった」
「シモンズ!!何どうでもいい話をしているんだ!?」
俺の心をナチュラルに読むシモンズ君に内心驚いてると
白髪のおじさんが扉を蹴破って入ってきた。
「ああイゥエンか?丁度良かった。俺今から
『魔黒装のせいにするのはどうかと思います、けど11巻買ってくれるなら別にいいよ?』
「なら『貴方に届いて』の6巻で……って違う!!ちゃんと新人の教育をしているのんだろうな!?」
どうやらこのおじさんはイゥエンというらしい。
「俺としても歳近い魔黒騎士は大切にするつもりだから分かっている事はちゃんと教えてる。大体ここの部隊あのヴァレリーの姉ちゃん以外歳喰い過ぎなんだよ」
「それは仕方ないだろう……文句ならレヴァンデイン卿に言ってくれ」
どうやらこのおじさんは苦労人ポジションらしい。
中間管理職的な感じなのだろうか?でもシモンズ君が敬語使わなくても良いとか言ってたし現にシモンズ君使ってないから俺も使わなくても良いのかも知れない。
「じゃあ行ってくるな」
「ああ、それ以降のが出てたら3巻ぐらい買って来てくれ」
1500カネ―を財布から取り出してシモンズ君に渡すイゥエンさん。
どうやら気前の良い性格ではないようだ。
……魔黒騎士って給料良くないのだろうか?
「カルマに、ディファイとか言ったな?」
そう言いながら俺達の方を向くイゥエンさん。
「ここの部隊は厳しいぞ?覚悟しておけ!」
……何か説得力があんまりないなぁ。
というかシモンズ君のあんなゆるい感じを見せられたら、そう思っても仕方ないと思います。
『じゃあイゥエン、俺等行ってくるから後は頼んだぞ』
送葬手はそう言ってシモンズ君と一緒に本屋に行ってしまった。
「はぁ~、オリジナルの聖騎装を使われて闇の部分が薄れてからコイツ等変わりすぎだろう……」
そう漏らすイゥエンさんだが俺に言ってる事がさっぱり分からない。
オリジナルの聖騎装って事はレプリカとかあるのかな?
「今でも闇の部分が強いのは俺が使っている魔黒装以外は
何だかやる気がなくなったようにそういうイゥエンさんの目を見ると死んだ魚の目をしていた。
どこかしらの青春ラブコメが間違ってそうな主人公よりも濁っている……
一体何があったのか気になるが、イゥエンさんの死んだ目の理由を聞いたところで俺のプラスにはならないだろう。というか俺が切なくなりそうだし……
○
そんなこんなで2週間の訓練で魔黒騎士のなんたるかを教わった訳なんだけど俺は魔黒装使えなかった。
魔黒装を使えない魔黒騎士って一体……
普通にマナの量が足りていないとかいう訳でもないのだが、なんかこうドス黒イ感じのマナを出せないと使えないんだとか。
しかも上級の魔黒装は魔黒装と使用者が共鳴し合える仲でないと使う事が不可能であり、俺はシモンズ君の持っている系統の魔黒装と相性が悪くて使えなかったのだ。
実は俺が魔黒騎士に選ばれたのはイゥエンさんがカルマ君と戦っている時の直感で「コイツは魔黒騎士にふさわしい!」とか思って選ばれたんだとか。
しかもマナの雰囲気しか分かっていない状態で……
見当違いも甚だしいです。
「お前は“デスフォレスト”に行ってこい。レヴァンデイン卿の命だ」
とイゥエンさんが指導を投げ出されて行く事になった訳。
家に帰りたい、仕事したくない。
というか家に帰るのは正式な魔黒騎士にならないと無理らしく、それまでは寮生活という事らしい。
そりゃ新人騎士だから寮生活なのは仕方ないけど娯楽がなくてストレスマッハだわ。
そんなストレスを抱えているとシモンズ君が色々と話題を提供してくれた。
気を紛れさせてくれる心遣いには感謝ですわ。
その話の中にイゥエンさんが女王騎士入団試験の時に何をやってたかも話してくれた。
なんでもイゥエンさんはルカ君とかジェダ君とかに魔黒装を与えた張本人らしい。
魔黒装は誰でも持っている闇の面を増幅させるとかも言っていた。
しかし俺はさ、別に闇に落ちるとかの厨二病持ってないし、生きるだけで一杯一杯だしさ、そんな厨二臭い設定誰でも持っているとか仮定の話で連れてこられてもね?
カルマ君とかシモンズ君は家庭の事情で暗黒面ちょっと強そうだけど。
俺はあんまりないしな、というか悩みは基本的に一晩寝たらどうでもよくなるタイプの人間だしな。
良く良く考えてみたのだが俺のニートになるという思いは何故か暗黒面にはならないらしい。
暗黒面じゃないニートとかそれニートじゃないよね?
そしてシモンズ君が言っていたが、魔黒騎士はレヴァンデイン卿の直属の部隊らしい。
ジークさんや陛下を探したり女王騎士が実戦に慣れる為に色々悪い事をするフリしたりする組織とのこと。
でも基本的には秘密諜報機関らしい。
……アルテリーナ陛下かぁ。
今頃何やってるんだろうなぁ?
去年の暮れにコンバートのじいちゃんとこで親父とジークさんと飲んでた頃から会ってないけど多分元気だろう。
あれ?俺ってもしかして魔黒騎士になったから陛下の居場所突き止めないと行けない感じ?
……いや知らんぷりしとこう。レヴァンデイン卿って悪い噂もあるし、親父からも陛下からも口止めされてるし、何より厄介事に巻き込まれたくないしな!
○
そんなこんなでデスフォレストにやって来ました。
イゥエンさんのバシルーラ的な魔法で来た通称“死んだ方がマシな森”。
食糧や環境にも恵まれている豊かな森なのだが、まずここに来るまで200kmにおよぶ樹海が存在する。
まず迷って入ったらまず自力での脱出は不可能。さらにこの森に入ると毒蛇とか毒蜘蛛とかが溢れかえっている。
奥に進むと狂暴な野生動物とかいるモンスターもいるし、極めつけはここはあの龍で有名なエルムガンド公国の付近に存在しているせいかどうかは知らないが“竜王種”がアホ程いるらしい。
ここに行けというのは“死んでこい”と同義なんです。イゥエンさんが「レヴァンデイン卿が死ぬ思いをして暗黒面を作ろう」と言っていたからとかなんとか。
レヴァンデイン卿適当かよ!?と抗議しようと思ったら魔法で飛ばされた。
バシルーラ的なものを使われて飛ばされてしまって抗議もする時間もなかった。
というか監視もいないのに俺が死んだらどうするつもりなんだろう……
ピッコ○さんですら○飯を遠くから見守っていたのにその気配はまるでない。
「というか、何故に魔黒装も聖騎装もなしで普通の武器で1か月もここに居なくちゃいけねぇの?」
一人でそう漏らしたが返事はない。
「ただの屍のようだ。」と言ってみたくなる程に返事が返ってこない。
あれ?
そう言えばデスフォレストに今いるから魔物とか襲ってきそうなもんなのにそれがないな?
ラッキーなのかと言うとそういうレベルの話ではなくデスフォレストでは強い魔物の縄張りに近い程、魔物が少なくなるらしいので危険なのだ。
それにしたってマナ感知が得意な俺ですら魔物がこの辺りにいない事が分かるってのは変だぞ?
オカシイ……
そう思った瞬間だった。
突風が吹き荒れたと思うと頭上から気配を殺していたであろうドラゴンが現れた。
マナすら感知できないレベルの隠匿とかこのドラゴン相当強いぞ!?
ていうか4代目公王のパートナーで"漆黒の風"という異名を持っているアレースさんじゃないですかぁー。
――初手エグゾディア決められたレベルですね。
いやはや短い人生だったなぁ……
心の中で号泣しているとドラゴンが口を開いた。
食われて死ぬとか痛いのは勘弁して欲しいですね……
『お主、もしかしてあの時の人間か?』
はい?