報われない男の物語   作:羽付き羊

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20話「野生のピタゴラスイッチは唐突に牙を向く」

とりあえず目的地近くに着いたらしいのでダチョウから降りた。お尻が痛い程度で済んで良かったと思っていると、船に乗り込まないといけないというのを受付けの人が言っていたのを思い出したので船を探して歩いていたら何か巫女さんに呼ばれた。

 

「こっちじゃ、こっち。ギルドから話は聞いておる」

 

と言うので完全にこの人が依頼主であろう、何だか美人な人だ。うん、後7年後辺りが凄く楽しみだ。

 

「この度依頼を受ける事になりました。ディファイと申します」

 

「よく来てくれたの。お主に依頼を出したのはこのワラワじゃ」

 

辺り触りのない会話を話しながら、本題に入ろうとする。それにしてもこの人、見た事あるような、ないような……

まぁそれを言うと前にエルムガンドで会ったリューガっていう人も見たことがあるような気がするんだよね。

ネットでだったかな?う~ん、どうだったけ?

 

「早速じゃが、今回の依頼の内容はアスカ=ヤマトの捜索じゃ。それ以上の言葉はいらんじゃろう。宜しく頼む……それにしても何故犬を連れておるんじゃ?」

 

俺の隣にいるちっこい犬の姿のベルを見てそう言う巫女さん。何故って言われても…この子いないと俺の命の危険レベルがガララワニから八王になるという驚きのレベルアップを果たすからなんですけどね。

 

「何故かと言われれば……この任務に必要不可欠だからですね」

 

まぁ実際空を飛んで探せば見つかりやすいだろうし、ベルは鼻がよく利くので行方不明者探しにはもってこいだろう。臭いがあればだけど。

 

「そうか……まぁお主なら大丈夫という話を聞いておるのでな、頼むぞ。アスカのみならずこの国に仕える民を行方知らずのままにするのは心許ないのでな」

 

巫女さんは俺の目をしっかりと見てそう言い放つ。何だかその言い方だと王様っぽいよね。だから巫女姫とかいうあだ名が付いてるんだろう。

 

「はい」

 

人を心配しているのは悪い事じゃないもんね。しかも行方不明とかなら尚更心配だろう。

行方不明者探すのって大変だもんね。山とか海とかで遭難する人も少なくないし、そういう時に探すのって非常に難しいらしいから。

 

「うむ、ではソナタに任せた。この船で“霊園”に向かってくれ」

 

という訳で船に乗り込み人探しに行く事に、この依頼を終えたらとりあえずコスプレイヤーを使って潜入捜査をしよう。流石にそろそろお仕事しないといけない気分になってくる。

それにしてもニート期間が一度もないとか何の冗談だ?

 

「おい、兄ちゃん。そろそろだぜ」

 

船員さんの言葉で現実に戻ってくるとそこに見えたのはデッカイ島。

そういえば何故アスカって人が行方不明になったかというのを船員さんから聞いてもないのに教えてくれた。

この船員さんは自分が一方的に話すのがお好きな様子である。

 

依頼の事なので聞くと何でも“霊園”と言う場所で訓練していた時にいなくなったとか。騎士団の一員らしくてそこで何らかの実戦訓練をしていたらしい。

そこで天災があったせいで騎士団がバラバラになってアスカという人だけ行方不明になったとか。

 

でも行方知らずになっても普通集合場所とか決めているものなのでそれを聞いてみるとどうにもその集合場所に戻ってこないらしい。一ヶ月も……

 

足か何かをケガしていて帰ってこれないのだろう。幸いにも“霊園”という場所には水は豊富にあるらしいので命は何とかあるだろうとの事。

しかし騎士団達が探しても中々見つからないので依頼を出したらしい。

確かにこの“霊園”とやらはデスフォレスト以上に広そうだ。依頼を出したのもうなずける。

 

「兄ちゃん、今日は比較的に穏やかな雨しか降ってねぇぞ。良かったな」

 

とか言う船員さん。何でも普段だったらゲロ吐いてもおかしくないくらい船が揺れる嵐に逢うらしい。嵐とか雷とか週6は確実にあるのがこの“霊園”という島だとか。

そういう事もあって行方不明者を探せないのだろう。

船から降りて、無事に島に上陸して一歩目を踏み出そうとするときにふと思った。

 

「見つけたらどうすれば良いですか?」

 

すっかり失念していた。見つけて俺も迷子になったら意味ないじゃん。しかも雨とか嵐とかなら煙で合図出せないし。

 

「じゃあ頑張れよ!」

 

という声がかなり遠くの方から聞こえる。あれ~何でそんな所に?

待っててくれる訳でもなかったの?

どうやって俺は帰るのだろう。というか普通初めて依頼を受けるんだからそのシステムを教えてもらわないと分かんないじゃん!

 

「ディファイ行かないの?」

 

愕然としながら地面にへたり込む俺にベルがそう言った。

いやいや、帰り方が分からない。というか帰らないと思ったらテンション下がるでしょ?

ベルは少し抜けているんだから……ていうかいきなり龍になってバレたら色々めんどくさいのに……

うん、ベル?

ベルいるじゃん!!

 

「行こうか」

 

まぁベルいたら何とかなるだろう。因みに雨で臭いが流されてるので臭い大作戦は使えないという事が分かったのでベルが上空から、俺が地上から探すことになった。

 

「口笛吹いてね、そしたら飛んでくるから」

 

とベルが言っていたので安心して分かれて探す。

とりあえず森の中を探す事にして、騎士団の人達を途中で見つけて情報収集しようと思ってたんだけど、人が全然いない。

捜索しているんだったら結構いそうなもんだと思っていたのだが全くいないのだ。

 

う~ん、何でだろう?

 

不思議に思いながらもあてもなくただ山道の坂を下っていく俺。途中に石ころに躓いてバランスを崩し地面がぬかるんでいるせいもあり、滑った。

凄く滑った。

 

どれぐらいかと言うとこれ以上下がありませんという位の所まで滑るかと思った。しかも、途中に人が一人ぐらい落ちてもおかしくないくらいの穴の中にすっぽり入った。

さらに穴に落ちたら落ちたで試験の時みたいに地下の川っぽいところに落ちて流された。

何とか自力で這い上がる事に成功する俺。

 

「一体全体どんなピタゴラスイッチが起こったんだ?」

 

ビショビショの服をとりあえず絞りながら溜息が出た。何が起こったのか自分でもよく分からないし説明できない。とりあえず山で滑ったら溺れそうになったんだとしか言いようがない。そんなバカな……

現状の把握をしようと思い辺りを眺めてみると洞窟っぽい。

まぁとりあえず試験の時にはなんとかなったのでどうにかなるだろうと思い、ビショビショのカバンからイノシシの肉を食べる。濡れたら不味いなぁ…

 

食べていても、進まない事には始まらないという事で川の流れに沿って歩き始めてみる。それにしても行方不明者を探しに来て俺が迷子になるってどう?

ミイラ取りがなんとかな状態だなとか思っていながら歩いていると何か大きなモグラが死んでたり、蛇がいっぱい死んでいた。

 

何これ怖いんですけど?

とか思っていると剣を松葉杖的に使っている人をみかけた。どうやらこの人が倒したらしい、裸足だったので足を見ると凄く腫れていたので骨折しているのが分かるぐらいだった。

 

「大丈夫ですか?」

 

ボロボロで見かけ的に全然大丈夫じゃないけどとりあえずそう言った。大丈夫ですか?って便利な言葉だよね。

 

「あ、アナタは救援の人ですか?」

 

振りかえってそう言った人の顔を見ると、アスカ=ヤマトその人でした。

 

「はい」

 

返事すると安堵の表情を浮かべるアスカ君。どうにも不安だったらしい。そりゃこんな場所でずっと一人だったらそうなるよな。

後はベル呼ぶだけなんだけど、外に出ないと呼ぶに呼べないし……

とりあえず外に出ようかな。

 

「肩を貸しますよ」

 

「すいません、足が折れているみたいで……」

 

限界らしく声を出すのも辛い状態らしい。

そんな状態だが話をしてくれたので聞くと、どうやら俺と同じ感じでこの洞窟に落ちたのだとか、しかも落ちた先にはモンスターが山のように居たのでそこで生死を懸けたバトルを繰り広げていたらしい。

進むとモンスターが現れるのでキリがなかったらしくここまで来るのに凄く時間がかかったとか。逃げたり、隠れたりもしていたらしいのでそりゃあ仕方ないな。

 

「それは大変でしたね……」

 

俺なら完全に死んでます。

 

よく生きていられてこられたな普通に凄いわ。

そういう会話しながら歩いて行くと洞窟の出口が見えた。

 

「何とか帰る事ができそうですね……」

 

と言うアスカ君。出口近くまで行くと地震が起きたかのように錯覚する程の凄まじい咆哮が轟いた。

 

「アイツが、アイツが来る……」

 

と言いながら震えだすアスカ君を見る俺。ガタガタと歯を鳴らしながら心底怖がっている。

そんなに怖がられたら俺も怖くなるんですけど…

そんな事を思いながら出口をまた見ると、大きな口に烈火の如く燃え盛るような赤い鱗、2本の大きな牙をむき出しに出しながら涎を大量に垂らしながら俺達を見ている爆龍こと、ドラギリアスさんがいました、まる。

 

「マジで?」

 

ば、爆龍って、爆龍ってアンタ、勝てるわけないでしょう?ベルいないし……

逃げたいという衝動に駆られ、スタコラサッサと逃げようとしたけど、アスカ君が足をケガして逃げるに逃げられない。

腹をくくるしかないようだ。逃げたらアスカ君を置いて行くことになる。ケガ人を見捨てるような人間に育った覚えはない。

 

見捨てたら生きていてとても嫌だと思うしね。とっても逃げたい。めちゃくちゃ震えてきた……

脚が笑ってるし、心臓の鼓動が速くなるし…でも逃げる訳にはいかないな。

 

修行だと思って何とかするしかない。

 

「私を置いて逃げて下さい。もう助かりようがない……」

 

アスカ君は悟ったかのように諦めたようだ。しかしな~。

逃げても助かる保障ないし、それならベルが来るまで戦うしかない。口笛を吹けば飛んでくるって言ってたからな。さっさと吹くか…

うん?くちぶえ……?

俺口笛吹けないじゃん!

 

『メシだ、メシだ!メシの時間だぁぁぁぁ!!!!』

 

という凄い嫌な予感しかしないテレパシーを送ってくるドラギリアスさん。いや話合いをしようとか思ったけど無理だねコレ。やるしかねぇ……覚悟を決めろ、死んだら死んだ時だ。いや死にたくないなやっぱり…

とりあえず時間稼ぎするしか方法はない。生きてここから逃げ出す為にも!!

ビビりながら小さな逆十字を懐から出す。

 

「我、忠誠を誓いしモノ、今ここに汝の全てをさらけ出さんとするモノなり。我に力を貸せ、“忠誠せし剣”(ナイトセイバー)!!」

 

逆十字が黒い光を放ち、長めの片手剣程の大きさになった。小太刀的な感じの剣。因みに黒い光は仕様らしい。発明した人曰く、「だって白いと負けな気がしない?」との事、誰に負けた気がするのかよく分からないけどね。

 

「アナタは一体?」

 

とか言っているアスカ君に俺は曖昧な笑顔を返す。足折れてるから戦力になりえないもんねアナタ……

アイマイミーマイン、自分でやるしかねぇ!

ケガ人ほっぽり出して死なれたら目覚めが悪いにも程があるし。とりあえずアスカ君から離れないといけないな。

仕方ない、正式名が“ボルトセイバー”とはいえ、自分の名前が付くから極力使いたくはなかったけど…炎に風は効かないしね。雷はまだマシだし本当に仕方ない。

 

「種族ベルキュロス、名をバオウ、その者との契約により稲妻の力を我に力を与えよ“ボルトセイバー”!!」

 

稲妻が剣に宿る、俺はまだ契約の詠唱破棄せずに精霊剣を使う事ができないのでこういう状態になってしまっている。普通と比べるとしょぼいけどね。まぁこの状況で恥ずかしいだの何だの言ってられないかんね。ドラギリアスは俺の方を凝視しているのでそのまま一気に洞窟から飛び出てアスカ君から離れる。それにしても自分の家名を他人の前で言うハメになるとは、生き恥じだ。でも、死ぬか生きるかなら、俺は生き恥さらしてでも生きてやる!!

『ゲハハハ、クワセロォォ!!』

 

そう言って火炎の玉を吐きだす。土砂降りの雨の中であんなもん吐いてくるとかあり?とか思いつつ、距離を一気に離れる。あの攻撃は一撃でも喰らえば死んでしまってもおかしくない。というか攻撃しようにも攻撃できないので速効精霊剣を切り替える。

 

「種族アーレス、名をサイス、その者との契約により我を守護せよ!“トルネードバリア”!!」

 

防御魔法的な精霊剣、トルネードセイバーの応用って感じです。攻撃には使えないし威力もへっぽこだがマナコントロールだけは得意な俺には攻撃を晒すように風を操るぐらいならできるんだ!火炎の玉を風でどうにか逸らす事に成功する。それにしても何時死んでもおかしくないなコレ…

 

とりあえずまた詠唱して攻撃しますよ?的な事を相手に思わせていないと一気に攻めきられてお終いな気がしてならないのでまた“ボルトセイバー”を使う。それを見て相手の火炎も近距離での攻撃ではなく遠距離、中距離での攻撃でしかしてこない。それを見る度に切り替えて“トルネードバリア”を使う。

 

正直に言えばベルが来るまでの時間稼ぎみたいなもんですよ。こんだけドンパチしてたら気付くだろ。たぶん。

 

『メシが……ちょこまか動くなぁぁぁぁあああ!!!』

 

しかし攻撃しても逸らされてばかりなのでキレてしまったドラギリアスが突っ込んでこようとする。イノシシのように真っ直ぐに猪突猛進。“トルネードバリア”をドラギリアスと自分自身の間に生み出し、擦れ違い的な事を起こす。コロの原理的な感じで、避ける事に関して定評あるからね。そのまま大木に突っ込んでいく。そしてそのまま動かなくなった。

 

「終わりか……」

 

と呟く。

しまった!フラグを建ててしまった!これはヤバいぞ…強くなって復活フラグだぞコレ。

尻尾がピクンと動きドラギリアスは大木を噛みつぶした。俺の方を振り返って目がマグマの如く真っ赤になっていた。

そして耳を潰されるのではないかと思うぐらいの咆哮……

 

『く、喰いコロス!痛ぶってコロス!!四肢を喰い千切ってコロス!!!』

 

怒り狂っているようだった。怖すぎて少しチビッタ。

さっきの数倍かと思えるぐらいの速さで突っ込んでこようとするドラギリアスに向かってきて俺に後数mで当たるマナもさっきの“トルネードバリア”で空っぽでもう使用できない。オワタ!

というところでドラギリアスに落雷が落ちた。

金色の鱗を纏った龍が俺の前に現れたのだ。

 

「やっと来たか。遅いよ」

 

と文句の一つも言いたくなる。でも来てくれてありがとう!!

 

「口笛吹いてって言ったじゃん!危なかったよ?」

 

だって吹けないもんは吹けないってば。ようやくこれで終わりかと思って安心していると火焔の玉がベルに向かって吐きだされた。

 

「ベル!!」

 

「ふん!!」

 

俺のかけ声に反応してベルは轟風を起こしてその火焔の玉を火焔を消して弾き返す。

 

『譲ちゃん、まだ経験が少ないなぁ?』

 

落雷で焦げた鱗が煙を出しながら平気そうに俺達に向かってそう言ってくる。

 

『それだけじゃオレは倒せない』

 

さっきと違って怒っている様子ではなく冷静になっているようだった。お前ラスボスか何かか!?と心の中で突っ込んでしまったのも仕方ないだろう。

 

「ディファイ、コイツまだ力が残ってるみたいだよ……」

 

俺もうマナ空っぽだよ?ベルの攻撃も効かないし……ベルは子供だからそう簡単に何回も攻撃できないし。逃げようにもアスカ君ドラギリアスの後ろにいるから逃げられないし…

しかも落雷した後はエネルギー不足で人を背負ってまだ飛べないってベル言ってたし…

本格的にオワタ!!

火焔の玉が連弾で俺達に向かって吐きだされる。ベルが風を起こすが何個か突きぬけて俺に向かって玉が!

 

「ディファイ!!」

 

そして火焔が俺の目の前数十cmというところまで来た。

思わず目を瞑り痛みに備える。ていうか死ぬ可能性高くない?

そして轟くような衝撃音がした。しかし俺自身に当たなかった。

オカシイと思い目を開けると長い尻尾的何かが俺の目の前にいてそれが火焔を受け止めてくれていたようだった。

尻尾?

 

『私の縄張りで何しているのかしら?』

 

「ラウザルク姉さん!!」

 

現れたのは巨大な狼の様な龍だった。やべぇマジで死ぬかとおもった。

あ、完全に小便漏れた。強めの雨だからバレナイからいいか。某霊界探偵漫画でもそう言ってたし。

 

『あん?何だよ年増に用はねぇよ消えうせろ。ババア!』

 

というドラギリアス、どうやら仲がよろしくないらしい。それにしても龍でこんな罵り合いとかしてるんだ。とか思ってしまったのも仕方ないだろう。たぶん。その間にアスカ君を連れて逃げようと忍び足でアスカ君に近づく。

 

『だ……まだコ…』

 

テレパシーなのに聴き辛いってどういう事?

 

『あん?何だって年増?』

 

挑発にも程がある。というか年齢分からないから何ともいえないけどね。

 

『……誰が年増だコラ』

 

そのテレパシーが頭に鳴り響いた時、背筋が凍った。雨だけのせいではない寒気がしすぎて半端ない。恐怖による威嚇。

 

「ディファイ!危ない、ラウザルク姉さん怒ってる!!」

 

ベルの声に反応してアスカ君をおんぶしてスタコラサッサ。するとラウザルクさんの回りに電気が集まりだした。電気と電気が反発しあっているような音、その音がどんどん大きくなっていく。

一瞬その音が消える、嵐の前の静けさのような……そう思っていると口が開いた。

そして数十キロは聞こえるであろう咆哮。その回りには凄まじい電気が迸る。うわ掠った!!

 

『死んで詫びよ』

 

「で、出た……姉さん得意技だよ。ラウザルク姉さんの雷での身体強化、凶暴性と雷の付加ダメージが数倍上がるんだよ、早く離れて!!」

 

だから名前がラウザルクなの?

とりあえず思いっきりガッシュじゃなくてダッシュ。アスカ君は今この光景を見て口をあんぐり。うん、俺もそうなるのは分かる。と思っていたら被電して気絶してた。

何かゴメン。

電気の充電が終わったらしく、狼の巨体が加速する。4本の足を鞭のようにしならせドラギリアスへ距離を一気に詰める。

火炎の玉を吐きだしているドラギリアス。しかしそれは簡単に避けられる。

地上戦では歩が悪いと考えたのかドラギリアスは翼を広げて上空へ逃げようとする。

それを見たラウザルクさんは尻尾を上空へと向かって突きだした。

尻尾からパチパチと音がする。パチパチと擦れるような音からバチバチという激しい音になり電気がみるみる大きくなっていく。そして尻尾から電撃が放たれた。

それが直撃したドラギリアスはそのまま地上へと落下。

 

しかしドラギリアスもやはり竜王種というだけあってすぐに体勢を整えて攻撃しようとする。だが、それよりも早くラウザルクさんは攻撃を始める。爪で相手を引き裂き、落雷の攻撃。尻尾を使った電撃攻撃。何よりその攻撃が常に同じ個所しか狙っていない。

 

『ははは、お前に足りない物、それは、情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、速さ、そして何よりもぉぉ』

 

ドラギリアスも反撃しているがそれが当たるどころかかすりもしない。そしてラウザルクさんが一瞬攻撃の手を休めた。それを見たドラギリアスが距離を開けて体勢を整えようとする。

 

『年齢が足りない!』

 

その言葉が頭に鳴り響いたと同時に距離を取っていたドラギリアスに一気に近づいてその加速したスピードと電撃で強化した爪を全体重をかけて相手に突き刺した。

 

「それを言うなら経験だよ?」 

 

ベルがナイスなツッコミを入れてくれましたが、ラウザルクさんには聞こえてない。

まぁ結論だけ言うと、フルボッコでオーバーキルでした。ドラギリアスは倒れて動かない。動きがないどうやら屍のようだ。

 

『ふぅ、全く失礼しちゃいますね』

 

とにかく分かった事はこの龍は怒らせてはいけないという事です。

 

「ラウザルク姉さん、久しぶりだね!」

 

『アレ?ベル何でこんなとこにいるの?』

 

「き、気付いてなかったの?」

 

『縄張りに入ってきたのがいるから注意しようと思ってたのよ』

 

「そ、そうなんだ」

 

ベルの声色が引き攣っているのはまあ仕方ないよね。

それにしてもアレースさんとかと比べても同じぐらい強くね?

そういう血統なのかな……

 

『ベルがお世話になっているようで』

 

挨拶してきた。怒らせなければ普通ということですか…それなら良かったです。

 

「いえいえコチラこそベルには助けられてばっかりで……」

 

極々普通の世間話になりつつある。まぁそれはそれでいいけどね。助かったし。

とか思っていたら何か顔を近づけてジロジロ見てきた。

最近、あんまり龍に顔近付けられてもビビらなくなったのって凄い進歩だと自分では思うんだけど。

 

『アナタは不思議な人ですね。邪悪な欲望を感じない』

 

「え?そうですか?」

 

欲望に満ち溢れている俺に何故そんな事を?

普通に平和に暮らして嫁さん貰って子供3人ぐらいに囲まれて孫の顔を見て死ぬというのが人生の目標。

 

後は普通に漫画とかアニメとかゲームをできたら最高ですね。こんなもう人生として最高レベルの欲望を持つ俺が何故にそんな事を言われるのだろうか?

 

『普通の人間には誰にでも欲望があります。“金”が欲しい。“異性”にモテたい。“権力”が欲しい。色々ありますが、アナタには平和に暮らしたいという思いが根底にあります。それは普通誰もが持っている願いです。本能という奴でもありますしね。邪悪な欲望とは言いませんから』

 

そういうものなのか?

おっぱいおっぱい言ってたりもするけどそれも本能という事なのだろうか?

 

『それにベルが懐いている時点でアナタの心は醜くない事は分かってますし』

 

普通に一緒に遊んでるだけで懐かれてるんですけどね。まぁそう言われて悪い気しないからいいけど。

 

『食欲、性欲、睡眠欲、これは本能の部類です。本能だけの存在が欲深い訳ではありません』

 

まぁそう言う解釈の仕方もあるのだろう。ただ性欲丸出しの奴は犯罪者になる可能性が高すぎるので邪悪な部類に入ると思うのは譲れないです。

 

「ディファイ、この人大丈夫なの?」

 

ベルが俺の背中で気絶しているアスカ君を心配そうに見る。

 

「息は安定してるから大丈夫だと思うよ」

 

まぁケガ酷いけど何とかなるんじゃない?

息はしているし、骨折だけでは死ぬ可能性は低いからね。でも早くちゃんとした所で見た方がいいな。とりあえず応急処置をしておくか。それにしても学○シリーズって凄い役立つな…

 

「なら、そろそろ行こうか?」

 

「ああ、でも病院に着いたらベルもラウザルクさんと話したい事もあるだろうからここに戻っていいよ?」

 

どうせ1週間ぐらい潜入調査の予定だし。漫画喫茶で色々することあるしね。

 

「………」

 

何か凄い悲しそうな顔でこっちを見てくるのは何故?話したい事あるんじゃないの?

 

「まぁ、1週間はいる予定だからそれまでには帰ってきてね」

 

「!!うん分かった!でも今日だけ姉さんのとこに泊まるね。」

 

何か今度は凄い笑顔になった。どういう理由で機嫌が変化したんだろ?

 

『ではアナタはもう行ってしまうのですか……もう少しお話をしたかったのですが残念です』

 

「すいません。この人の手当てをしないといけないので…」

 

龍の涙とかも効かないし仕方ないだろう。

 

『では一つ私からアナタにお願いがあります』

 

「何ですか?私の出来る範囲の事なら何とかしますけど」

 

できる範囲と言えば限りなく小さい範囲何だけどね。

 

『ベルを宜しく頼みます』

 

うん?

よく分かんないけど、結婚的な事でなければ何とかしてみます。

 

「はい。分かりました」

 

一応笑顔で応えておいた。返事する時にスマイルって大切だと思うんだ。何となくそう思っただけだけど。

 

「んじゃ、行こうか」

 

「うん」

 

翼を大きく広げて飛び立とうとするベルにラウザルクさんが何か言ってた。

 

「大丈夫だよ。この人なら絶対に」

 

『気を付けてね』

 

「何の…」

 

話?と聞こうとしたら急加速で真上に急上昇、何も言えなくなります。因みにアスカ君をおぶっている状態なのでうっかり落としそうになった。

 

「うん?何か言った?」

 

「……とりあえず安全飛行でお願いします」

 

はいよ。という返事を返すベル、とりあえずこれで無茶な事はしないだろう。

もう聞こうと思ってた事も忘れたし。

もう疲れたから、とりあえず病院にアスカ君を連れて行って宿で寝よう。そこに異論はないだろう。あれ?そういやどこで降りたらいいのかな?

 

―――――――――――――――――――――

 

『行きましたか……』

 

久しぶりに会った従妹を見送りながらラウザルクは呟いた。

 

『それにしてもあのディファイとかいう人、何か不思議だわ』

 

何が不思議かと言われれば分からない、感じたマナは人のモノである。しかし何かがおかしいと思えて仕方ない。

真っ白な紙に白に限りなく近い灰色の点があるような違和感を感じるのだ。

この時代に生きる人間のマナも感じる、しかしそうでない何かのマナも感じるのだから。

 

『まぁ考えたところで分からないわね。』

 

考えても分からない、しかも調べる術もないのが現状なら考えても仕方ないという答えに辿り着くのは仕方ないと言えるだろう。

 

『ベルも人間を受け入れるようになった、ディファイという人間がよっぽど好きなんでしようね』

 

ベルは人間が嫌いだった。何故嫌いだったかと言えば、人の心の醜さ、汚さ、卑劣さがベルに直接聞こえてくるからだ。

 

ドラゴンはそういう力が多少なりあるがベルはその力が遥かに強い。

ベルは伝説とも言われる金色の鱗を持つドラゴンであるし、その鱗の美しさもある為、小さな頃に人間に誘拐されろうになった事が幾度かある。

その頃はまだ力がない状態だったので何もできずにタダ誘拐される時に人間のドスグロイ感情を感じ取ったのだ。

結果的に誘拐はサイスとバオウの手によって阻止されたが、それは小さなベルにとっては根深いトラウマになっている。

 

もちろん誘拐を企んだ人間の記憶を消しているし、いないという記憶を植え付けたせいで、ベルの存在は隠せていた。

しかしベルは違う。人間にだけ使える消去術であるから記憶は消せない。例え記憶を消せたとしても、そのトラウマは心の奥底には存在するし、下手に消してしまえば人を嫌いなものと思ってしまう。それはベルにとって良い事ではないのは間違いない。

 

その結果ベルは心を閉ざし、人間を嫌った。

このまま一生人間を嫌いなまま、もしかしたら人間を殺してしまうのではないかと心配していたのだが、それが久しぶりに会ってみたらどうだ。

ディファイという人間に懐いているではないか、彼が何をしたのかは分からないし、想像もつかないがベルが人間を見て笑っているのだ。

 

テレパシーでサイスから聞いてはいたのだが生で見て本当に驚いた。

ラウザルクは嬉しかった、彼女が何を言っても人間は嫌いと言って譲らなかったベルが懐いているのだから、しかしそれと同時に不安もあった。

 

『あのまま封印が解かれなければいいのですが……』

 

封印が解く鍵はディファイが握っている。できればこのまま封印されていて欲しいがどうなるかは分からない。ベルが認めたのは彼だから。だから『ベルを宜しく頼みます』と言ったのだ。

そしてベルにも気を付けるように言っておいたのだ。

 

(「大丈夫だよ、この人なら絶対に」)

 

『……まあ後で色々話を聞こうしから』

 

その言葉を思い出しながら、ベルが帰ってきてから今晩の晩御飯の時にでも詳しい話を聞こうとラウザルクは思うのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「それにしてもよく寝てるな~」

 

夕方頃に島から無事に帰ってきた俺達はアスカ君を病院に連れて行き、検査とか治療とか寝ている間にしてもらった。

医者曰く、「結構危なかったけど、割と良い感じの応急処置してあったから大事にはならないね。」とのこと。

 

「起きる気配ないね」

 

「そうだね。報告だけして宿探す事にするから、ベルは遊びに行って良いよ」

 

「分かった。けど今日の晩だけだからディファイも無茶しちゃいけないよ?」

 

俺が無茶を自分からすると思ったら大きな間違いである。

大体無茶するような厄介事に突っ込んでいく事は自分からした事は……あった気もするけどカウントはしない!

と言う訳でとりあえず温泉にあったのと同じマークの建物があったのでそこに入って報告しておいた。

受付の人は

 

「え!?一人で帰ってきたんですか!!?」

 

とか驚いてたけど割とどうでいい。何かごちゃごちゃ言ってたけどコッチは非常に疲れていて眠たいので寝た。

何でも温泉の時に過払いがあったのでそれを立て替える代わりでタダらしい。同系列の店とは言えラッキーである。それで一応シャワーだけ浴びてそのまま泥の様に寝た。

 

 

 

目が覚めると何か何か外がザワザワしてた。

朝からにぎやかだなとか思いながら、そう言えばお金の受け取りの話を聞いていなかったので、もう一度受付に行くと何か依頼人の巫女姫さんとベルがじゃれて遊んでいた。

 

因みにベルはお腹をさすられて眠たそうな顔をしていた。何してんの?

 

「おう、依頼の事じゃが成功したらしいのぉ。一応成功報酬じゃ」

 

ベルのお腹から手を話して懐からお金を取りだした。ベルは気持ち良すぎたせいか寝ていた。本当に何をしてるんだ?

そう思いながら渡されたのは10万zだった。アレ1万zだったのに間違ってない?

 

「すいません、成功報酬は1万zですけど?」

 

「それはお礼じゃな。受け取ってくれんか?」

 

はい?お礼って言われてもな…だって元々は1万zって書いてあるのにそんなの関係あるのかな?正直貰えるもんは貰っとけと思う部分もあるが、貰ったらやっかいな事になりそうな感じがするので嫌だ。上手い話には裏があるとも言うしな。

出会い系でよくある3000万円の遺産相続とかの話は引っかかる奴がいるのか?とか思う。

だって明らかにバレバレじゃん。ホントにそうならカイジは苦労しないだろう。何百万の借金で地下での労働とかアホらしくなるだろうしな。

 

「お礼なんて要りませんよ。私は依頼を成功させただけですから」

 

受け取ったら何をされるか分かんないしね。良い人そうだけど金銭関係の事はトラブルの元なのでそこはしっかりしておかないと。

 

「……そうか、お主がそう言うなら無理をして渡す訳にはいかんのお。」

 

とか言って1万zくれるのかと思ったら、10万zという御札だったので後で崩して貰う事になった。

 

「なら取りあえず我が城に招待させてくれんかの?」

 

我が城って我が家って事で良いんだよね?まぁ普通に自分の家を我が城とか言う時もあるし深くは突っ込まないでおこう。まぁ家に行く=御持て成し?だろうし……ならいいかな?ベル居るからとりあえず逃走手段はバッチシだしね。

 

「そう言う事なら……分かりました」

 

という事でとりあえず寝ているベルを抱っこしながら牛車ていうのに乗った。

車の中ではアスカ君の現在の状況の話とかを聞いた。

どうにも命に別状もなく今日はアスカ君も来るらしい。

……昨日の今日の話でよく来ようと思ったな。どれだけ頑丈なんだよ。ていうかそこは安静にしておくべきじゃね?

 

「さあ着いたぞ」

 

と言われて外に出て家を見ようとするとベルが起きて俺の顔に向かって抱きついてきた。そのせいで前が見えない…

 

「ベル!ちょっ、前見えないから!!」

 

「私がいない間にどこ行こうとしてるの!?」

 

いや抱っこしてたじゃん。

 

「巫女姫さんの家だって!」

 

「家で何をするつもりなの?ナニをするつもりなの!?」

 

最後のイントネーションが何かおかしな感じだったのは気のせいだと思う。というかその言葉は小さな子が言っちゃいけません!!

 

「何って、家に招待されたからだって。大体ベルがいるのに何をしようって飯ぐらいしかないだろう?」

 

「……本当に?」

 

それ以外に何があるのかコチラが聞いていいですか?ただ怒ってる相手にそれを言っても逆効果な気がするので言わないけど……

 

「本当だって、いい加減離れてくれる?」

 

「それもそうだよね。分かった。というかココどこ?」

 

「知らない人に着いていっちゃダメでしょうに……」

 

そりゃあ寝てたのもあるから仕方ないかもしれないけど……それにしてもデッカイ玄関だな~、家の外観はベルで分からなかったけどね。とりあえずいいとこのお嬢さんという事は分かった、こりゃ本物の姫さんかもしれないね。

 

「それじゃあ支度があるのでしばしここで待ってくれんかの?」

 

そう言われたのでおとなしく待っていると、包帯ぐるぐるのアスカ君が現れました。

 

「どうもあの時はありがとうございました」

 

「いえ、私は別に大した事してませんよ」

 

リアルに大した事してないしね。俺なんて時間稼ぎしてただけだし。

 

「私がこうして生きていられるのはアナタのおかげ何ですから、謙遜しないで下さいよ」

 

別に謙遜なんてしてないんだけどね。まぁ否定するのも肯定するのも面倒臭いからどうでもいいや。お金貰えるなら。

 

「そういえば、サクヤ様にはお会いになられましたか?」

 

とか言ってくるアスカ君。

 

「サクヤ様?」

 

誰の事だってばよ?疑問の言葉が漏れ、その言葉にアスカ君は少し驚いている。

 

「ヤパーナの姫様の事ですよ。あれ?おかしいな、サクヤ様が出迎えるっていう話だったのに……」

 

本物の御姫様が出向かてくれるとか普通あり得ないからね?

 

「いや巫女姫さんという人に連れられてきましたが、サクヤ様にはまだお会いしてませんよ」

 

俺の勘違いではないし、たぶんアスカ君の勘違いだろう。全く、王族にそう簡単に逢う事なんてできる訳ないじゃないか、確立的も低いでしょうに……

 

「巫女姫?ああそれがサクヤ様ですよ。何だお会いになっているじゃないですか…」

 

What do you say ?

思考が一瞬停止状態。御姫様が何だって?巫女姫っていうのがサクヤ様で、サクヤ様はヤパーナの御姫様って事ですかい?

あれ???

とか思っていると戸が開いた。

 

「待たせたの。そういえばまだお主には名を言っておらんかったの、我が名はサクヤ、このヤパーナの姫じゃ」

 

とか思っていると正装の巫女姫さんが現れました。

ええええええ!?正装じゃないから気付かなかったけどそういえばそうだ!!

やべぇ……実は潜入捜査がバレタのか?いやまだしてないけどさ。

何と言う情報網。王族の人に逢っちゃいけないんだって、一応は不法入国しているんだから俺。コレはやばい!

 

「ベル……」

 

俺はベルの方に向いて目力で緊急事態を伝える。

全・力・逃・亡と

 

「仕方ないね」

 

そう言ってベルは煙をまき散らしながら元の金色の龍に戻った。

 

「な!?」

 

「アルべロスじゃと!?」

 

とか2人が喋っていたがそんな事は気にしてはいけない。背中に乗ってとりあえずまあ全速力で逃げる!

 

「待って下さい!」

 

待てと言われて待つ馬鹿がいるか!?

という訳であばよ、とっつあん!

うん?

ちょっと待てよ?お金貰ってないじゃん!!うわ~でもそんな事言ってられないしな…マジ最悪だ~

 

「じゃあ全速で行くよ!!」

 

べ、ベルさん?また音速を超えるつもり……

ですよね~

俺はまた意識がブラックアウトになった。とりあえず次に行く場所は決めて言っておいたので良いだろう。

マクノイス魔法皇国に。

まぁ天井壊したから修理代ってことになるのかな?あのお金……

あ、靴忘れた。

 

Side 原作で唯一の王族でないのに騎士代表に選ばれた人(原作主人公は除く)

 

「行ってしまったのぉ~」

 

「ちゃんとしたお礼をしたかったんですけどね」

 

もう米粒程の大きさになってしまった命の恩人を見送る事になってしまった私とサクヤ様。

私自身がお礼として持ってきた1月分の給料袋とサクヤ様が懸けてくれた依頼金のどちらも受け取ってもらえないなんて…

 

「それにしても、あのアルべロスを従わせるとはどんな実力者だというのじゃ、あのディファイと言う男は……」

 

驚きを隠せていないサクヤ様、無理もないだろう伝説上の龍として伝記のみに伝わっている龍で災いと幸運のどちらももたらす存在と言われていた存在を従わせる男を自身の目で見たのだから。

 

「ディファイさん、ですか……」

 

そう言えば名前を聞いていなかったな、そういう名前なのか……

あの時私はあのまま死んでいくと思って覚悟を決めた。

だがあの人は私を置いて行かなかった。

それが私には不思議で堪らなかった。ケガ人を置いて普通の人間は逃げるだろう。それが知り合いでも仲間でもなんでもない存在なら尚更だ。

 

しかしあの人はそれをしようとしなかった。

それどころかあのドラギリアスに立ち向かっていったのだ。

 

マナの量的に言えば私以下のはずの存在が私が歯も立たなかった存在にたち向かう姿はどこか変であり止めてほしくもあったが何よりも嬉しかった。

 

置いて逃げろと言っているのにそれをしないディファイという男が輝かしく見えたのだ。

あの人が何を考えてそうしたのかは分かるはずもない、それでも置いてけぼりにされずに残って戦ってくれて嬉しかったのだ。

そしてあの人は“逆十字”のアクセサリーを剣に変えてドラギリアスに立ち向かった。

噂に聞いた事がある聖騎装でアルシリアの女王騎士の“女王の剣”だと最初は思ったが雰囲気というか何かが違っているように感じてならない。

“逆十字”という事自体がまずあり得ないのだ。逆さまにした訳でもない本当に“逆十字”のアクセサリーを武器に変えたのだ。

 

『アナタは一体?』

 

その問いかけにあの人は気付いていないらしくそのままドラギリアスに向かっていった。

立ち向かう時に属性を極めたとまで言われる精霊剣を使ったのだ。しかも精霊剣を2つも…おそらくアルシリアの中でもトップクラスの存在なのだろう。

 

ドラギリアスが雷属性の剣を見て距離を取り接近戦に持ち込みたくないらしく、遠距離から火炎の玉を吐くとあの人はタイミングを完全に合わせて風属性の精霊剣を使い防御に徹した。

絶妙すぎるマナコントロール。

切り替えの速さがコンマ1秒単位だ。それは練度の高さが窺える。

 

これはセンスよりも練習量がなければできない芸当。

無駄なマナ等一つもない。

しかも全く異なる属性をあの速さで切り替える事ができるのは大変難しいはずなのだ。

それを難なく成功させるあの人は何者なのだろうか?

 

そしてあの人はドラギリアスを上手く大木に突っ込ませた。

終わったかのように見えたのだが、ドラギリアスをさらに興奮させてしまったらしい。

今度はどう相手するのかと思いあの人の方を見ていると、ただそこに立っていた。

突っ込んでくるドラギリアスに微塵も避ける気配のない男。

 

「危ない!避けて!!」

 

そう思わず叫んでしまったがもう衝突するのは時間の問題である。

その瞬間を見たくない為に私は思わず目を閉じた。

すると衝突音の代わりに落雷の音がした。何事だろうと思い目を開けると見た事もない金色のドラゴンがそこに現れた。

 

「ア、アルべロス?」

 

エルムガンドに次いでヤパーナも龍が多い国である。その他にも幻獣などもたくさんいるが、ヤパーナの伝記に書かれているのでも極々マイナーな龍がそこにいた。

 

“龍獅子”アルべロス

 

このヤパーナで存在する最強にして不滅の龍ラヴィエンテ。これはヤパーナに住む民なら知っている龍である。しかしアルべロスは違う。知る者は極一握りだ。何故なら災いと幸福のどちらも運ぶ龍と言われるからだ。

ある伝記では3つの国を一晩で無に帰したと言われ、またある伝記では3つの国を災いから守ったと言われる。

しかしそのアルべロスでもまだ子供であるらしく、ドラギリアスを仕留めきれてはいなかった。

私達を助けに来たのかどうかは分からないが、どうにもこちらに攻撃をしかける様子はないようであった。しかしドラギリアスはあの人に狙いを定めて獄炎の炎を吐きだした。

 

その速さは私では到底反応できる速度ではなかった。

今度こそ死んでしまう。

 

そう思い目を瞑ると爆炎が弾ける音がする。明らかに炎が何かにぶつかった音であった。恐る恐るではあるが私は目を開けると今度はこの島の中でも上位の存在である“雷狼竜”であるジンオウガがいた。

 

「ジ、ジンオウガ!?」

 

この島のジンオウガは普通の個体であるジンオウガよりもはるかに強い。

そしてジンオウガが現れた時点で私は本当に死を覚悟した。

何故ならこの3匹の龍がいる時点で逃げるの事も戦う事も不可能である私が助かる訳がないからだ。

そして、ジンオウガが戦闘態勢に入り、その時に雷が被電して記憶を失った。

 

 

 

 

 

 

 

「……病院?」

 

目が覚めるとベッドの上だった。

最初は死んだから地獄にいるのではないかと思っていたがどうにも足が滅茶苦茶に痛いし、看護婦さんらしき人がうろちょろしているのを見たので病院に間違いないだろう。

そしてそこで自分がここにいる理由を聞いた。するとあの人が私を連れて病院に連れてきたのだとか。

 

そこで聞いた話では色々と必要な手続きを何もしていなかったらしく、しかも勝手にクエストから帰ってきたりしたので依頼金を払うかどうかがギルドが困ってしまったらしい。

そこでサクヤ様にギルドから連絡が入り、「なら勝手にこっちで支払おう」という結論になり、まぁ御持て成しと依頼金の支払いを兼ねて招待することになったらしい。

 

サクヤ様には迷惑をかけてしまったな……

主従関係なのに守るどころか守られしまっているのはこの国の騎士として情けない話だ。

そして翌朝にサクヤ様が見舞いに来られた。

 

一応の事実確認として私に聞きに来たらしいのとギルドが“霊園”を調査に行った結果が出た事を伝えに来たらしい。何故ギルドが調査に行ったかのといえば、討伐クエストで実際に討伐した場合はその対象の獲物が死んだ場所に行き確認するのは当然の事であるが今回のクエストは捜索クエストであるからその必要はない。

 

なら何故そこに行ったのかと言えば、『勝手に帰ってきたから』である。

通常のクエストでは終了後にギルドの休憩所に依頼終了や依頼放棄を選んで帰る為の船やらを待つのが流れなのだが、それをせずに帰って来たというのがギルドにとっては謎だったかららしい。何故なら“霊園”の通行手段は船“のみ”だからである。“霊園”はマナが乱れている為に移動魔法やその類の道具が使えない。

それなのに船を使わずに帰ってきたのが謎だったので、調査に出たとサクヤ様が説明してくれた。

 

「それでお前はどうやって帰ってきたんじゃ?」

 

「それが、その~、ジンオウガの電撃を喰らって覚えてないんです……」

 

「そうか、覚えてな…ん?ジンオウガ?」

 

「はい、“爆龍”ドラギリアスに襲われてしまい…そこでアルべロスやらジンオウガが現れて……」

 

「はあ?何でお前はその3匹に囲まれて無事に生きておるんじゃ?」

 

サクヤ様が呆然としながらそう言った。

そういえば何であの状態から生きて帰れたんだろう?生きている方がおかしな状態で…

 

「分かりませんね……」

 

「まぁ、とりあえず依頼金の支払いも兼ねてその男を呼ぶから何か分かるじゃろ」

 

そういう事であの人を城に呼ぶ事になった。城に呼ぶだけでは何なので軽く持て成す感じにするらしいとのこと。

 

そして私は本人に礼を言っていないので自分でしっかり礼を言いたかったので医者に無理を言って数時間だけ外出許可を得た。

城で礼を言って、何気ない会話をしているとあの人の顔色が段々と悪くなってきた。

 

何で悪くなってきたのかは分からないが、そしてサクヤ様が現れると冷汗だらけになっていた。

大丈夫ですか?と声を掛けようとした時だった。連れていた子犬から煙が包まれ、そして晴れて現れたのは、あの時見たアルべロスだった。

 

「な!?」

 

「アルべロスじゃと!?」

 

私もサクヤ様も驚きの声しか出ずに固まってしまっている間にあの人はアルべロスの背に乗り逃げるかのようにこの場を立ち去ろうとしている。

 

「待って下さい!」

 

そう叫んだが、止まろうはせずにそのままアルべロスと共に飛び立ってしまった。天井を壊して。そして冒頭に戻るわけだ。

 

「それにしてもアルべロスを従える人間だったとはの。ならお主が生きているのも納得できる。伝説の龍を従えるんじゃから逃げるぐらいは出来るだろうし。ただその存在が吉と出るか凶と出るか…」

 

「大丈夫じゃないですか?悪い人には見えませんでしたし」

 

「そうだといいがの……」

 

大丈夫だと思う、何故ならこの国に伝わる伝説にはこう書かれている。

“金色の龍のみ現れし時、世は災いと幸運どちらも起こるだろう。しかし、金色の龍の背に乗りし人現れたるは、災いを幸運に変える”と書かれているのだから。

 

 

 

ただ、翌日にドラギリアスが死んでいたという情報が入り、実は逃げるのではなく勝っていた事が分かり、テンヤワンヤするのはまた別の話。

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