報われない男の物語 作:羽付き羊
俺の目の前に今まで一番の強敵が現れた。
ソイツは俺と互角に戦い、そして一瞬の油断も出来ない真剣勝負を繰り広げている。
「この戦いは歴史に残るな……」
「ああ、ここまでの戦いは今までに見た事がねぇ~よ」
ギャラリーが興奮した様子で俺達の戦いを見ているのは仕方ない事なのだろう。
ここまで均衡した勝負も珍しいのだから……
『全力全壊!
「出たぜ、さっきの嵌め殺しコンボ!!これは勝てないだろう!?」
コパ、コパ、コパ。
「バインドが解かれる一瞬で目押しだと!!」
「ありえねぇ!!けどダメージも受けてるぞ!?これで終わりか?」
「ギリギリ生き残りやがった!!だけど相手の体力ゲージは半分以上だぞ?時間切れで“白い悪魔”の勝ちだな」
「いや、待て!“腹ペコ王”が動くぞ!?」
「なっ!アレは上段ガードをさせてからの下段攻撃のコンボ技か!?」
「違う!アレは究極技だ!!幻のNoフレーム不可避技……」
『“
『Winer 2p !! 』
『シロー、お腹が減りました……』
「「「「「うわわああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」
瞬間、爆発したかのような歓声が辺りを包み込んだ。
「俺はこの戦いを忘れないぜ!!」
「勝った方も負けた方もどっちが勝ってもおかしくなかったぜ!」
ディスプレイに表示されたと同時に湧き上がる歓喜と驚きの声。
凄い勢いで胴上げされそうになっているんだけど?
何故俺が対戦格ゲーしてギャラリーに囲まれている状況になったかと言われれば少しだけ長い説明が必要になる。
○
とりあえずマクノイスに着いたんだけど王族とか貴族とかの情報が全くと言って良い程見つからないのでゲームセンターで情報収集中していたんだ。
遊んでた訳じゃないよ?別に3クレで好きなゲームができるというのに釣られた訳じゃないよ?
大体こうなってしまったのには理由がちゃんとあるんです。
前回の失敗を踏まえてとりあえず顔がバレると危ないと判断した俺は、ベルに擬犬化してもらった後にコスプレイヤーを使って変装しようとしたんだよ。
「HENSHIN!」
鏡に向かってカッコよくポージングをして遊んだりするのは御愛嬌ということで。
「それってコスプレって奴?」
「まぁ間違いではないけどさ……」
何か微妙な空気になったので仮面ライダー的な何かになろうと思ったけどここでなったら変な人だと思われてしまうので止めたんだ。
いや別に仮面ライダーも魔法使える奴もいるけどなんとなく違う気がしたんだよね。
という事とマクノイスは魔法の国だと踏まえた上で、昔ネットで見た動画を参考にその国の普通の格好をしようと思ったんだ。
因みに今のイメージは魔法の国という訳で杖持ってローブで帽子をかぶってます。
そして町を歩いてみると気付く新事実。
「何あの人?」
「ママ~あの人何であんな格好してるの~?」
「見ちゃいけません!」
なんということでしょう。
普通の格好してる人のが多いというこの事実!!
その後そそくさとネカフェでアルちゃんねるを駆使して調べた結果、動画は女性の儀式の正装用らしく今の俺の格好を言ってみれば、巫女さんの格好をしている男の変な人である。
男の娘っていう顔とか体型してないんだぜ?
おかしな話だろ?笑えよべジータ……
結局コスプレイヤーを使っても両頬の傷を隠すだけでいつもの感じの格好になってしまった。
そして喫茶店とかネットとかで情報収集していて王族関係の情報は完全に極秘扱いになっていて調べようがなかった。
分かったのはミサ皇女は素敵な女の子、アザラ―ク皇子は少しインドア派の人。という事ぐらいしか分からなかった。
ミサ皇女は顔出ししているがアザラーク皇子はその辺を好まないらしく、ネットで上げられた
写真等は全て削除するらしい。
流石にパレード等の自国で行う行事は写真があったのだが上手い具合に顔が見えないのだ。
これ以上の情報収集は不可能だという事が分かり、暇潰しにゲーセン……ゴホン、基、忙しいながらも僅かに掴んだ『アザラーク皇子がインドア派だという情報でゲーセンによくいるのではないか?』
という推察とマクノイスの文化レベルを調査する為にやって来たという訳である。
それで好きなゲームが1コイン3クレで遊べる事にヒャッハ―していると、2階から歓声が聞こえてきたので、様子を見に歓声のしている方へ向かうと格ゲーをしていた。
「アレはバインドからの“星光の殲滅”!?嘘だろ?0フレどころの入力じゃないぐらいシビアって言われてんのに!?」
「うわ~強えぇ……これで30連勝だぜ?」
神業コンボだと!?
何か猛者がいるようだ、俺も一応はストーリーモード魔力モードをクリアした身。ここで勝負をしなくては男ではない!!
「俺が挑戦させてもらっても構わないかな?」
「お客様、ペット連れでのご来店はご遠慮しているのですが……」
「え、あ、いや、これは、その、あ、アレですので……」
「ですがお客さま……」
急に店員さんがやって来てベルを外に連れ出そうとする。
まぁゲーセンにペット連れてきちゃいけないしね……
精密機械壊されても困る訳だし。外でベルに待っててもらおうにも俺の頭から貼りついて離れないのでどうしようもない。
そんなやりとりをしていると猛者の男(とは言ってもガタイは普通の男の人)が店員に、
「………構わない。彼と勝負させてくれ」
「分かりました。では失礼させてもらいます」
と言って退けさせた。
何この人テライケメン!
因みに俺の言うイケメンとは顔の事ではないその滲み出るオーラや性格の事を言う。
別名“優男|ヤサオ|”とも言うがまあそれは置いといて……
「アナタは強そうだ」
「貴方の方もね」
さぁ、始めよう最初で最後の本気の勝負!!
あ、でも俺の使うキャラはそれとは違うわ……
……という訳で冒頭に至るという訳である。
因みにこのゲーム“魔力戦争Ⅳ”通称"魔Ⅳ"は格ゲーに分類される。
目押しとかハメ技とかもあるんだがこのゲームを語るのにはキャラクターの量が異常に多い事が必要不可欠だろう。
しかもキャラクターによってコマンドが全く違うし、ボタンが8個もあるという玄人好みのゲームである。
しかしキャラクターがぬるぬる動く姿や原作の表現を超えたと言われるほどの必殺技のクオリティーの高さ、着せ替え要素など色々な要素がある為3年前のゲームなのに未だに根強い人気を誇るゲームなのだ。
因みに俺は親父がホテルのゲームコーナーに導入していたので、お金をかけずに遊びまくった事もあり、結構強いと自分で思っている、ただ公式の大会等には学校があったりしたせいで行けてないので井の中の蛙状態なのかもしれないので何とも言えなかったのだが、おそらく結構強いと思って良いと思う。
そしてその後に何回か勝負した訳だが4勝4敗2分という結果となった。
稀によくある相撃ちとなったのはそれだけ実力が均衡していたからだろう。そして試合を通じて仲良くなり、そのまま意気投合して昼飯をおごってくれる事になった。
お金がないので正直助かった。
自分の預金通帳から引き出すのは趣味だけで十分です。
大体ブラック企業かよって話だよ。
こんだけ一生懸命に働いているに手当てが異常に少ないしさ……
何が「お前の情報操作で金掛かってんだから仕方ないんだ!!」だ。
俺別にそんなに酷い事してないはずだぞ?
ていうか普通に良い事しかしてないしな……文句を言われる筋合いは皆無のはずなんだけど。
「私はディファイと申します。いや~、それにしても強いですね~」
「私はアザラークだ……貴方の方もね」
軽く名前だけ自己紹介をして、目の前のジャンクフードを食べながら、褒め合う男共、傍から見ていたら超キモい……
アザラーク君かぁ、マイケル位の感覚でマクロイスじゃたくさんある名前だからなぁ……
流石に本物の皇子がジャンクフードを食べる訳がないから違うたわろうな、多分。
「そんな事ないですよ。“
そしてあのゲームの話で盛り上がる。
実際、俺の目の前の男、アザラーク君は相当強い。
原作コンボと言われるバインドからの“
実際に初見ではかわせなかっただろう。試合を観戦していなければ俺が負け越しているに違いない。
「何を言っている?“
誉められると嬉しい限りなんだが、俺はそのキャラしか使ってなかったんだよね。
原作好き過ぎたおかげでこの“円卓の王”をここまで扱えるようにしたてのだから。大体このゲームをプレイする人間てのは2種類で、好きなキャラを使っている奴と勝つためにマイナーキャラを使う奴に分かれる。
因みに初心者用のキャラは『スターダスト魔女』の“メルル”とかいうキャラだったりする。
このゲームは有名なキャラ程使いづらく、マイナーのキャラ程使いやすい仕様らしい。
玄人好みは“
因みにどれも使う人間はいるにはいるが、使いこなすレベルの人間には逢った事はない。
ゲームバランスの関係上、極端に防御力が低かったり、HPが低かったり、ゲージの回収がしにくかったり、溜まりにくかったりとするからだ。
俺の扱う“円卓の王”の“
しかし扱うのは超絶難しい。
というかHPを必ず1に出来るとは限らないし、常にゲージが減り続けるキャラなので10戦に1回使えれば恩の字の究極技なのだ。
因みに“白い悪魔”の“星光の殲滅”はある程度難しいが普通に出せない技ではなかったりする、ただ溜めのモーションがかかる為に相手がピヨッた時にしか使えない技とも言われているのだが、難易度SS級のテクニックと言われるコンボが存在する。
それが“
ダメージ必須で半分以上のダメージが削られるのは確定の技だ。目押しした所で全てのダメージを無効化できる訳ではないので凄いダメージを喰らうという技。最高3/4のダメージで防御しても3/5のダメージ、目押ししてようやく半分という技だ。
「全く話の内容が理解できないよぉ……」
ベルが俺にしか聞こえない小さな声で呟いた。
ごめんね、でも初めて見つけた人間の“魔Ⅳ”の猛者だからテンション上がって自重できないんだよね。
そんなこんなで盛り上がりまくっているとアザラーク君がコレクションを見せたいという事なので家に招待されることになった。
「……凄いデカイ家だな~」
ゲーセンから歩く事約15分。隣にデッカイ城がある横にアザラーク君の家はあるらしい。
その時点でたぶん城の要人的な何かの息子だと思われる。そうじゃないとこんなデカイ家に住める訳ないし……
実は皇子だったりとか言われたらビビるけどね。まぁ皇子なら本邸である城に住んでるはずだから違うだろう。
家に上がると“魔力大戦Ⅳ”のトロフィーが飾ってあった。
やはり相当強いらしい。
トロフィーとか見ているとその横に凄い存在感を醸し出す精巧なフィギアがあった。
「こ、コレは“魔Ⅳ”の全国大会に出れば貰える“白い悪魔”の大人バージョンじゃないですか!」
「分かるか?」
分かるに決まってんじゃないか!!
コレは市場に出回ってないし、オークションにも出ない代物でもしオークションに出たらウン十万は下らない代物だ。
しかも、その横には女王騎士フィギアの先代女王陛下アルテリア様の若いVer.がある。コレは女王騎士フィギアの1stシーズンの激レアもの。
俺も一応持っているがそれはアルテリーナ様に譲った後の奴なので、それ相応の御歳の姿だ。これもレアなのだがコレに比べれば月とスッポンみたいなものだ。
他にも、魔法少女もののグッズやら魔法バトルもののグッズやらがたくさんあった。やべぇ、ここはお宝の山だぜ!!
「ディファイぃ~~暇だよ。早く帰ろうよ~」
テンションが上がり過ぎて気付かなかったがベルが頭の上から小声で泣きついてきた。
時間を見て見ると結構な時間が経っていた。アレだな、ベルの状態は俺も経験した事がある状態だよコレは。
子供の頃母さんが俺の服を買う為に俺を連れて服屋に行った時の状態だよコレ……
流石に2時間はしんどかったのかな?寝てても良かったのに。
「夫の趣味を知り、理解するのが夫婦円満のコツって母さんが言ってたから……」
小さな子犬が円らな瞳で俺を見てくる。
というか何故そこまで俺の評価が高いのか気になるんですけど?
……よし如何に種族の壁を超える事が難しいかを説明しなければならないようだ。
大体一応貴族の嫡男だから子供は欲しいんだよね……
龍と人間でどうやって子供を作れと?コウノトリさんに頼むしかねぇだろJK。
まぁ別にベルが嫌いな訳じゃないし、一緒にいるだけでいいなら全然いいんだけどね。
というか好かれているのに自分から遠ざけるのは俺にはムリなんだよなぁ。
そんな事を考えているとアザラーク君の携帯が鳴った。
「何用だ?……何?キメラだと?」
何か色々巻き込まれそうな予感がするのは何故だろうね?
電話の内容はどうやらお仕事の話らしく、先程話していて分かったのだが何でもアザラーク君はこの国の騎士団に所属しているのだとかでマナ魔法もバッチリ使えるらしい。
因みにこの国において、というかこの世界において全てのエネルギーの源はマナである。そしてそれは生き物なら誰にでも持っているものである。持っている量の大小はあるが、蟻にしたって雑草にだってマナはある。
その中でも一番マナの保有量が多いのが人間や神聖な生物だと言われている。
コレは未だによく分かっていないが、仮説として思考や感情を持つ生物にマナが呼応するのではないかとか遺伝的にマナが受け継がれるとか言われている。
まぁ詳しい話は良く分からんからなんとも言えない。
そしてマナはどんなエネルギーにも変換できる。例えば属性等に変換するのはどこの国でも多いし基本である。水、氷、雷、風、火、土等が有名なところであろう。
しかしマナはその多様性から国々によって発達の仕方が大きく違うのだ。
マクノイスでは身体から離れたマナを研究しているのでマナの発動を封じる魔法やより効率よくマナを使う為の魔法陣などの技術が発達している。
そして生物を魔法生物とする為の研究もしているらしい。
ワールークではマナが貯蔵できる事に目を付け、個を強化するのではなく軍として強化しており統率力は世界一である。
ギスカーンは人体内部のマナに目を付け、身体能力の向上をさせており、武術の国で有名である。
ヤパーナは武器を身体の一部として使う技をマナを用いてより強化することに成功させ、刀剣術等では右に出る者はいないとされている。
エルムガンド公国は生物にもマナがある事に目を付け、ドラゴンなどのマナの保有量の高い生物を操っており個でみると世界で一番強い騎士団を持っているが、数が少ない。しかしその騎士一人一人のレベルの高さから“眠れる龍の国"と言われている。
そして俺の母国のアルシリアは各国のいいとこ取りをしようとしているけど、あんまり上手くいっていないが一通りはできる人材が豊富。
それが各国でもトップクラスの騎士団と言われる女王騎士団という訳だ。
器用貧乏という解釈で良いと思う。
アルシリアは各国からの侵攻を受けやすいというデメリットと共に各国の技術も入ってきやすいというメリットがあるのでこうなったらしい。
まぁでもそれでも本当に大事な事は教えてもらえないので独自で研究した結果よく分からん事になって今に至るということらしいのだ。
話はそれたが要は、この国で新たに作った魔法生物であるキメラが、暴れているらしく、その任務の内容的に新人に任せられるものでもないが対処できるであろう他の団員達は他の任務で忙しいらしいので、アザラーク君がこの問題を対処するらしい。
「今日は客人が来ているのだが……そうか父上が」
電話越しにそう言うアザラーク君に少し残念にそうに見えたけど、仕事なら仕方ないと思ってしまった俺はニートになりたいという気持ちが少し鈍って来ている事に驚きを隠せない。
「ニート王に俺はなる!」と心に誓った事を今全力で否定しているというのか?
少しづつ社会の歯車的な思考回路になっているのか?何か嫌だなぁ~
「スマナイな用事ができた。俺が行かなくてはならないようだ」
「よろしければ私も同行しましょうか?」
「いいのか?」
「別に構いませんよ」
「ふむ……そうかなら頼もう、よろしく頼む」
面倒くさいことに巻き込まれたくないのだが、それとは別に趣味が合う人自体とネット以外で通じるのは初めての事だったので協力することにした。
………出てきたお菓子が超高級茶菓子だったり、お茶とかも高いと言われているヤパーナ茶の中でも最高級の“ギョクロ”と言われているもんを飲んだりしたから、後で「何もしてない」とかいちゃもん付けられても困るからという訳ではないよ?
そういう事で現場の魔法研究所に着きました。俺はアザラーク君と一緒に入れば無問題とのことなので、守衛の人にその事を説明してもらうことになった。
「アザラーク様、お待ちしておりました」
「ああ、ああええあういあ」
へ?
急に訳の分からない言語を吐きだすアザラーク君に驚いた。
その後の会話は
「おうあ、おあいおおいうあおおうおうああ」
「分かりました。ではその御隣の人も御一緒ということですね?」
「おおいうおあお?」
「そこの子犬もですか?危険ですよ?」
「おおあいあい」
「そうですか?分かりましたではお通りください、くれぐれも気を付けてくださいね」
何故会話が成立している!?
なんとなく雰囲気では分かるがまったくアザラーク君の言葉が意味不明なんだけど?
雰囲気的には「ああ待たせて悪いな。」「そうだ、隣のコイツらも同行者だ」「この犬もだぞ?」「問題ない」的な順で話しているとは思うけど子音がねぇ……
「うん?どうした」
いやどうしたもこうしたもないんですけど!何で今は普通に喋れてんのにあんな言語になってるの?そういう暗号なの?
「アレは暗号か何かですか?」
「ああ~……そう言う事か。いや、緊張すると思った通りの言葉が出ないんだよ。恥ずかしながらね」
何じゃそりゃあ!?言語障害なんて目じゃねぇぞ?
俺もそれなりに言葉は伝えるのは苦手だけどあんな事にはならないぞ!?
しかし騎士の人も何故それで理解できるんだろうか?テレパシー的な何かを送っているのかな?
まぁいいや考えたら考えた分だけ損しそうな気がしてならないからどうでもいいや。
内心全然そんな事思っていないのだが「それなら仕方ないですね」と言って、さっさと問題を片づけようと心に誓う俺であった。
○
道中にそんなことがあったが破壊されまくっている現場の大きな部屋までアザラーク君に案内されると、そこには5~6メートルぐらいのデカイライオンに羽が生えたような怪物がそこにいた。
そう、この怪物こそが、魔獣“イービルキメラ”マクノイスでも有名なキメラの中の1体。
その姿から付けられた名前の通り恐ろしい程の威圧感を放っている。
しかし生来の性格はおとなしいのだが、一度怒ると凄まじい力とマナで相手を撃退してくるらしい。
一般人には到底どうにもできない怪物なのだ。しかしながら下級クラスの騎士なら数人で十分対処できるレベルなのでそこまで問題ないのだが……
「何だかただ腹減って怒っているだけっぽいな」
イ―ビルキメラを見ると腹が減りすぎてダダこねている子供のようにしか見えなかった。
ていうか実際スーパーとかで子供が
「このおもちゃ買って買って!!」
とかいう感じで地べたに仰向けになりながら暴れている姿と同じような姿で暴れているのだ。
しかしイ―ビルキメラがそれをやるとスカジャン着てそうな人がダダこねている感じですっげぇ怖いんだけどね。
主食は電気。
しかし最近は研究で電気をどこまで無い状態で生きられるかを研究していたらしく、お腹が空きすぎて暴れているらしい。
それならさっさと電気渡せよとかおもっていたのだが、マナを電気に変換する装置がイ―ビルキメラが暴れたせいで壊れてしまったらしく、仕方なく応援を要請したとのこと。
マナを直接エネルギーとして変換できないイ―ビルキメラは電気をマナに変換しているらしい。
詳しい話は専門家に聞かないと分からんから何ともいえないけど、普通の生物は食事と睡眠等で自分のマナを精製している。マナは直接エネルギーとして吸収できないのだが偶に例外的にできる奴がいる。
例えるなら魔黒装装備者だ。マナを食糧と認識することによって可能になったとかイウェンが言ってたけど、その辺の詳しい話は分からん。何故ならマナの研究は各国日々されているがまだまだ全てを解明できていないのだ。その不思議エネルギーの事を俺が全て説明できる訳がないだろ?
因みにイ―ビルキメラは電気を食糧としているので、少し特別な枠に入るが例外にはならないらしい。まぁ食糧をマナに変えているのが普通な訳だからそうだろう。
「ガルルル……」
イ―ビルキメラは今暴れるのを止めているが、目がラリっているので相当に頭がおかしくなっているのだろう。
このまま暴れて外に出られたら被害も半端なさそうだからな、まぁ今アザラーク君しかいないし、面倒くさい事をさっさと終わらせてまた遊びたいので技を使わせてもらいますか。
「すいません、作戦があるのですが良いですか?」
「うん?」
「私は雷属性のマナを使えるので、少しの間アイツの動きを止めて貰えませんか?」
「別に構わないが、私も雷属性のマナ魔法ぐらいは使えるぞ?」
「役割分担した方が早く終わるでしょう?」
「………ふむ、確かに一理あるな。ならそれで行くか」
と言う事で作戦実行ということになりました。
「大気に存在せし大いなるマナよ、我が手となり彼の者を縛りつけよ。“フィジカル・ディバインド”!!」
アザラーク君の完璧なマナ魔法でイ―ビルキメラは見えない何かの力で拘束されている。
ここまで完璧なマナ魔法はイウェンのおっさんでも無理だろう。あの人のマナ魔法も中々に凄いんだがそれよりも上を行くレベルだ。才能の塊だねこりゃ。
そりゃあ1人で依頼任せられる訳だわ。なら俺もさっさと手伝って終わらせますか。
「ありがとうございます、ではこれで終わりにしましょうか。『種族ベルキュロス、名をバオウ、その契約により稲妻の力を我に力を貸し与えよ“ボルトセイバー”!!』」
電撃を帯びた剣で切りつける訳にはいかないので、軽く当てる。
そしてビリビリと感電するイ―ビルキメラ。
どうにもこの前戦ったドラゴンのおかげで技のレベルが少し上がっているっぽい。経験値美味しいですってことらしいね。
「ガ~ルル~ル~~~~♪」
そして気持ちよさそうに鳴き声をあげるイ―ビルキメラ。
すっかり満足したらしくオレに向かって尻尾を振ってきている。しかもペロペロ舐められてるし、なんというか懐かれたっぽい。
「ふぅ、これでしばらくは大丈夫だと思いますよ。しっかり餌さえあげてれば大人しくしているらしいので」
ベル曰く
「『電気さえ貰えばきっちり仕事するぜ?その代わり貰えなければ暴れてしまうけどな!!』って言ってたよ。コラ!私以外がディファイを舐めちゃダメ!」
との事なので大丈夫だろう。
そしてベルお前はまたペロペロするつもりだったのかい?犬の時ならいいけど龍の時はだめだからね?
今回は精霊剣のレベルが上がったおかげでなんとかなった。恥ずかしい名前の精霊剣のおかげだ。
因みに契約なしで使う“ボルトセイバー”と契約した“ボルトセイバー”だと契約した方が断然に威力が高い。これは契約した生物のマナを借りる事が可能だからと言われている。
契約しないでも精霊剣は使える。人によって大なり小なりの努力と才能がいるけど。
因みに俺は契約しちゃったので契約しなくても使えるかどうかは契約を破棄するまで分からない。
しかし俺の場合は契約したにも関わらず俺自身のマナの総量が少ないので詠唱破棄すると途端に“プチボルトセイバー”になってしまうので未だに詠唱しているけどね。
契約に関してはあの龍の訓練中に無理やりされました。龍と仲良くなるとは契約の事なんですよねはい。
しかし、契約するのには結構面倒なのでする人が少ない。ていうか普通の人、ていうか俺みたいな理不尽な理由で契約すること以外はほぼあり得ないと言って良い。
理由は色々あるんだけど主に契約するデメリットに比べてメリットは少ないから。
威力は確かに高いけど、その分詠唱しないとほぼ意味をなさないし、その間に対処されやすいという理由が一つ。
それだけだと1.2倍の威力も出せるから契約した方が良いと思うだろう?
ところがギッチョン、その他にも理由があるんですよ。
次に七大巨龍しか契約できないらしい。
らしいというのはバオウさんが言ってた話では契約そのもの自体はどの種族でもできるらしいのだがそれを知っていて尚且つ契約可能なマナを持つのが七大巨龍なのだとか。
『マナの量で言うならアルシリアの女王ぐらいなら行けそうな気もするけどね。結局龍の涙が必需品だから無理だと思うわ』
とバオウさんが言ってたから間違いないと思う。
因みに巨龍自体の絶対数が少ないので契約できる人も少ないとかなんとか。
しかし探し出すメリットもあるのも事実。
しかし最後の契約すること自体がデメリットの塊なのだ。
まず契約する生物に認められること。
これは生物の出す試練を乗り越えないと契約者に認められない。生物とは言ったが同種の種族とは契約できない決まりがあるらしく、人なら人と、龍なら龍とは契約できない。
しかし、ドラゴンに関しては同種族以外なら契約できるので龍と竜なら契約可能だ。
だが、基本的にドラゴンは他種族とは仲が悪く契約しない。
サイスさんとバオウさんは変わり者なのです。
因みに巨龍は単独で子供を産む事が可能らしいよ?分裂とかじゃなくて良かったけどビックリした。
自身こそが最強の遺伝子だと思っているからこその単一生殖なのだとか。
話が面倒なので全部は話さないけが、とりあえず七大巨龍というか巨竜王種はオカマとかオナベとかオコゲとかでもない、凄い生物なのだ。
次にマナの性質一致。
マナの属性は遺伝やら育った環境により培われ、その属性のマナに対して一致する種族の生物でないと契約できない。
風の精霊剣を使えるように契約するなら風のマナを使える生物でないと何の意味もないということだ。
そして最後、この最後が非常にやっかいなので現時点では契約対象者は俺を含めて歴代で百数人しかいないらしい。
サイスさんとバオウさんが契約したのは俺が2人目とのこと。
これは極めて少ない。
なんせ契約の概念ができてから数千年の間で百数人しかいないのだから少ないてか少なすぎる。そしてその内容とは『30日以内に999回契約した生物のマナを貰うこと』である
これが簡単だと思った人も多いはずだが、実際問題これのせいで人間の契約者は現段階で世界でも数人以下と言われている。
ていうか俺しかいないかも知れないとかなんとかサイスさんが言ってた。
これは簡単に言った場合というか詐欺紛いの情報です。超高校級の詐欺師も真っ青なレベルで。
俺も最初は「そんなんでいいなら契約します」とか言ってしまったのですわ。
そして本当の条件は
“30日以内に契約する性質のマナを自分の身体に999回その性質のマナを与えて貰うこと”なのだ。
つまりその属性のマナを自分の身体で受け止めろってことらしい。雷属性なら電撃攻撃を風属性ならかまいたち攻撃を1日に33回は受け続けなければならない。
死ぬか生きるか微妙なラインで。
俺の場合は2属性なので1日66回。
多すぎても少なすぎてもダメらしくきっちり1日33×2回で31日の合計999×2回らしい。最後の一日は9×2回だけどね。それでもやべぇよ?
正直に言おうか?
アレはただの拷問だ。訓練=契約できるまでという図式だったらしく激しく死にかけた。いや実際何回か死んだんじゃねぇの俺?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『大気に覆いし揺れる雷よ……詠唱面倒くさい、落雷!』
「おっぺぴぎぃぃ!!」
『全くこれしきの事で心臓が止まるとはのう、情けない。焦げ臭いし』
『あらあら血が出すぎちゃったみたいにねぇ?ショック死かしら、ビクンビクンしてるわよ?焦げ臭いし』
「や、やりすぎじゃない?焦げ臭いけど」
『大丈夫じゃよ。龍の涙さえあれば死にはしないかあらのぉ。心配症じゃのベルは』
『そうよ、まぁ後30秒以上に与えなけらば確実に死んじゃうけど大丈夫よ男の子だもん』
「ええぇぇ!?早くあげないとダメじゃん!ていうか精神的に死ぬんじゃないの!?」
『大丈夫、大丈夫一応加減して……あっ、心臓止まってない?』
「えええぇぇ!?殺すような加減はダメだよ!!」
うっすら記憶に残っている光景がこれだったような気がするんだけど……
……うん、たぶん俺の記憶違いだよね。そういや2日目の時やたらとバオウさんが焦ってたような気もするし、両頬の傷もあの時に出来た傷だったな。雷撃?かまいたち?
ナニソレオイシイノ?
そして生き地獄の一ヶ月は俺の契約しますという言葉尻を捕えられて始まった。
「おっぺぎぃぃ!!」
「はにゃあ~ん」
「あべし!!」
「ち~ば~!!」
「俺を殺しても第2、第3の俺が…」
「殺せよ!いっそ殺せよ!!」
「我生涯に一片の悔いなし!」
最初の1週間はこんな感じで意識を失くした。そして龍の涙をぶっかけられて意識を取り戻してまた攻撃されるという繰り返しの日々だった。避けるのもダメ、身構えて防御するのもダメ。
イガグリ頭の5歳児のOPかよってレベルだっての。
……いや俺も途中で止めようとしたんだよ?
流石に当初の目的と違うというか俺のニートの夢を叶える前に死ぬとか何の冗談だよとか思ったよ?
しかも慣れたら慣れた分だけ気絶しなくなるから痛くなるという拷問だから当たり前じゃん。
でもバオウさん曰く、『一応決まりだから死ぬか生きるしか選択肢ないぞ?』とのことだった。
もう仕方ないんだから。
………と言うとでも思ったかクソ野郎、つうかクソドラゴ~~~~~~~~~~~ン!!!!
これにくらべりゃ魔黒騎士の訓練なんて小学校の組体操だっつの、女王騎士試験なんて幼稚園の御遊戯だっつうううの!!ボケがぁぁぁ!!!!!
と全力で叫びたかったあの頃の俺は間違っていない。
でも最後の方は
「神様助けてくれ」
「こんなじゃ逝けねぇじゃねぇ~かよ!」
「いかれてる。皆いかれてるよ~」
「死に申したぁぁ!!」
「俺の痛みを数えろ!」
「俺の痛みを聞けぇ!!」
とか若干ふざけるくらいの余裕もあった。
しかしもう2度と思いだしたくもない。正しく生き地獄を味わったのだから。
この頃にはレベル的に最強クラスの根性というか精神力をゲットしていたと思います。
カンストしたんじゃないの?と思うくらいには。
因みにベルに「最初もおかしいけど最後の方は完全におかしいよね」と言われた。
いや本当に慣れって怖いよね。
因みにこれ以外にも契約方法がある事にはあるらしいのだが、それはほとんどあり得ないので除外する。
だって契約生物との間でできた子供は契約対象とか普通にあり得ないじゃん?
だからこそ人間での契約対象はここまで少ないらしい。
話は逸れたがまぁこれで終わった事だし、すっかり日も暮れたので宿を探すとしますか。
その事を告げようとアザラーク君に話しかけようとすると、研究所の傭兵の人が先にアザラーク君に話しかけていた。
「お疲れ様でした。アザラーク皇子。私共ではああも簡単にはいかなかったでしょう」
「いいううあ。ああ、おんあいあおいうおおあええおあうあああ」
「それもそうですね。それにしてもこの方は一体誰です?」
「あああ?ああおんあいあいあおう」
「アザラーク様がそう言うなら構わないですけど……今後はこんな事がないように以後気を付ける次第です」
会話を聞いている内に冷や汗がダラダラ、脇汗でぐしょぐしょになった。灰色のTシャツならヤバかったが黒いのでモ―マンタイ。心の中はもう無理たい。
アザラーク“皇子”だと?
マクノイス皇国史上で最も華麗なマナ魔法を使う皇子と言われているあのアザラーク皇子だと!?
驚きながらも何とか表情に出さずに何時にも増して仏頂面を醸して誤魔化しながらも内心では不法侵入がバレルのではないかとビビりまくりです。
いかに逃げるかを頭を超フル回転させながら、やっぱりベル?と思っていると馬の声が聞こえた。
羽が生えた馬の馬車が俺達の前に降りたのだ。
そしてその中から美人な女の子が降りてきた。
何か見た事があるようなっていうか確実に見た事がある顔の人である。
極秘扱いの情報の中で顔写真や写真やらは民衆に曝け出すからか普通に出回っていたあの写真。俺がネカフェで色々してた時についでに調べた皇族の写真で見た人だった。
「お兄様お疲れ様です。お父様から言われて来たのですが問題なさそうですね」
ミサ皇女!?
ネットでしか見た事しかないが本物は美人だな……じゃなくて、うわぁコイツは予想外だぞ、てか俺皇族に高確率で遭遇しすぎだろ。
アザラーク皇子に至っては名前で分かれよって言うかもしれないが、それは無理なお話だ。前にも言った通り、毎年子供に付ける流行りの名前ってあるよね?
有名人の名前を自分の子供に付けようとするやつ。
マクノイス魔法皇国は皇族の名前を付けてはイケないとかいう決まりはないので結構な多さでアザラークとミサという名前が多い。アザラーク君とミサ皇女の命名された年の子供になるとアザラ―ブとかミサリィとかのややこしい名前を含めると人口の1.3割を超えるとかなんとか。
まぁ昔で言う太郎とかマイケルとかその辺の名前ってわけ。もしくはジョンとも言う、丞太郎では断じてないのです。
あはははこりゃあ無理ゲーだわ。さっさと逃げた方が良さそうだわ、今後の為には捕まった方がいいのかもしれないけど目先の事に走る俺にはムリなお話なので。
「ベル、ジンギスカン喰いに行こう」
「えええ!?早くない、今日は宿にも泊まらないの?」
「犬が喋ったぁぁぁぁぁぁ!?」
「いやミサ、猫も喋る地域があるらしいから別におかしくはないぞ?」
さっさとトンズラをする為に予め決めていた逃走するよ?という隠語を使う俺に、意味が分かってるのか分かっていないのかすら判断できないベル。そしてパ二クるミサ皇女に至って冷静なアザラーク皇子。
割とカオスだ。
「割と本気でお願いします」
「仕方ないなぁ~もうディファイは私がいないとダメなんだから~~~」
俺がそう頼むと凄く上機嫌な声を出す。
何か勘違いしてない?いや確かにベルがいるといないとでは凄く効率変わってくるのは確かだけどさ。
そんな事を考えている内にベルは子犬化を解除しドラゴンの姿に戻る。
「な、な、な……」
「“龍獅子”!?まさか『黄金の龍と漆黒の騎士』!?」
流石にアザラーク皇子も驚いたのか、それ以上の言葉はなかったので。こちらとしても助かる次第だ。
「また逢いましょう、そして決着はその時まで取っておきましょう」
とりあえず去り際のフラグを残すのは忘れない。
因みにこのフラグは「言った方がその相手と戦う前に負ける」というフラグ。
カッコつけてみたかっただけの話しだから気にしないでねフラグさん。
さぁ、行くんだベル、風の如く!魔黒の騎士だからバレルとやばいよ!?
ベルの背に乗り耳元で呟く、こそばゆそうな顔をしているけど緊急なので仕方ない。
何故逃げるか?
ふっ……密入国って結構な罰金と懲役喰らうんだぜ?
「『風の如く』って音速って意味?了解。」
いや、そういう意味じゃないんだよ!?
ベ、ベルさん?お~い、ベルさ~ん?聞いてますか?
「お腹も空いたし取りあえず美味しそうな木が生えてるとこまで本気で行くね~」
……結局はブラックアウトになるのがオチなんですね、分かりますが納得はできません!!
次はどこに行くんだっけ?確かジンギスカン食べに行くんだったかな?
そう思いながら意識は暗転していくのだった。
●
私、ミザ=マクノイスの兄であるアザラーク兄様は口下手である。
どれぐらい口下手なのかと言うと親しい人間や本当に心を許した人間でないと会話が出来ないくらい口下手だ。
口下手というのがお兄様の代名詞と言っても過言ではない。
そんなお兄様のことを私は決して嫌いという訳ではない。
お兄様は魔法に関して言えばこの国の誰よりも詳しいと言える知識の量を持っているし、魔法の実力も皇子であることを抜きにしてマクノイス始まって以来の天才だと言われるくらい凄い兄を嫌いになろう理由がないからだ。
――しかし、しかしだ。
「ミサ、どうした顔色が優れないようだが?」
「あ、アザラーク皇子!ここにいらしたのですか、実は折り入ってご相談があるのですがよろしいでしょうか?」
「
何で部下にまで口下手になるんですか!
いくらなんでも人見知りが過ぎませんか?
「実はですね、王直々に話があるそうなのでお連れしてこいとのことなんですが……」
「
「分かりました」
そしてこんな母音だらけの言葉を解読するスキルがほぼ全兵士が持っているし……
そこが不満というか何かお兄様と話すのは新しい言語を習得するぐらい難しいみたいな事を言われてないか不安だわ……
まぁ私もそのお兄様語を理解できる時点でアレだとは思うけれど。
因みに魔法を使って言葉を翻訳している訳でもない。慣れで分かるらしいとのこと、いや私が言うのも何だけどそれおかしいよね?
●
そんな日々が過ぎて行くある日、兵士の方からお兄様と初対面で仲良くなった人がいるという話がありそれが信じられなくて様子を見に来た。
何でも意気投合しているらしくお兄様の大事なコレクションが入ってる倉庫代わりの屋敷に招待までしたとか。
お兄様のコレクション、またの名を『王家の財宝』をまさか初対面の人間に紹介しよう日がくるなんて…
因みにお兄様が勝手に『王家の財宝』って言ってるいるだけでマクロイスの財宝とは無関係なのは言わずもがなである。
我が王家の財宝は金品の類いではなく、書物や魔法具等がとり揃っており、それも凄く扱いにくい魔法具やら解読不能な書物まで存在している。
"宝石の種"と呼ばれる魔法具は願い事を歪んで叶えることができるやら、専門の解読屋が数百通りの解読ができるがそれが全てフェイクと呼ばれる"アンノウンコード"と呼ばれる書物など、歴史的に価値がある物や危険な代物を保管している。
あれ?
これただの危険物倉庫じゃ……
……ゴホン、因みにお兄様は自分で働いたり、ゲームの大会などでコレクションを集めているので本当の意味でお兄様の実力で勝ち取ったコレクションらしい。
私はそのコレクションの屋敷まで行ってみたが何故かお兄様達はいなかった。
メイドに話を聞くとどうやらキメラが暴れているらしくそれを鎮圧する為に出掛けたようだ。
お兄様は普段の様子からは考えられない位の強さを誇るマクノイスの魔法騎士。
キメラごときに遅れを取るなどはあり得ないのでそれは心配していなかったのだが、どうしても早くお兄様と仲よくなった人を見ておきたかったのだ。
――お兄様が騙されている可能性もなくはないし……
そんな心配があったので魔法の馬車を使って移動した時に望遠鏡を使うと、そこで目にしたのは何時もの数十倍は楽しそうなお兄様だった。
「お、お兄様のあんな楽しそうな顔見た事がないわ!写真、写真を撮らないと!」
私は慌ててカメラを探してワールーク制の超高性能カメラで一心不乱にシャッターをきった。
「ふぅ……はっ!とりあえずお兄様のところに行かないと……」
私は地上に降りて、お兄様の隣に立っている黒髪の男を見た。
普通の男の人だな……
オーラというかそれすらも普通であり変な人という事もないだろう、子犬を連れているしなんだかなついてる様子を見ても悪い人には思えないし……
そんな事を思っていると子犬が喋った。
ドラゴン以外の生物は人の言語を理解できたとしても喋れるというのは聞いた事がなかったからとても驚いた。
後からお兄様に聞いたら「ヤパーナでは猫が喋るので別に不思議な事はない」らしい、流石はお兄様博識ですね。
しかしそんなお兄様も子犬がドラゴンになったのは驚いたみたいだ。
「まさか黄金の龍が現れるなんて…」
子犬がドラゴンになっていた事に驚いていた訳じゃなかったみたい……
流石はお兄様そこはお見通しだったのですね!
「お兄様、"龍獅子"ってなんなんです?普通のドラゴンではなさそうでしたけど……」
「"龍獅子"は異名で本当の名前はアルベロス。エルムガンド公国でも伝説と言われるドラゴンだ」
「なるほど……だからお兄様は驚かれたんですね?」
「それもそうだが、アルベロスが人の言うことを聞いていた事に驚きを隠せなかったんだよ。私もまだまだだな」
「え?ドラゴンは人の話が分かる程賢いではないですか、何故驚かれたのです?」
「そうだな、まずはそれを説明するにはこの話をしないといけないな……」
そこでお兄様が私に話したのは黄金の龍の御伽話だった。
●
昔々、一匹の龍はとある森の深くでずっと一人で遊んでました。
龍は何故一人でここにいるのかいつからここにいるのかも分からないまま一人で遊んでました。
そんなある日、黒い鎧を来た兵士が現れました
すると男は龍に向かって
「一人で遊んでないで僕と一緒に遊ぼうよ」
と言いました。
龍は一人でずっと遊んでたものですから二人での遊び方が分からず困ってしまいました。
「どうやって遊べばいいの?」
すると男は答えました。
「一緒に空を飛んでみようよ!僕は飛べないから背中に乗せてくれない?一緒にいたらきっと楽しいよ!」
龍はモノは試しと男を乗せて空を飛びました。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、雲の上を飛んだり、虹のはじっこを見つけに行ったりもしました。
すると男はとてもはしゃいで嬉しそうに笑いました。
そんな男の様子をみた龍は自分もなんだか嬉しい気分になりました。
「龍くん凄いね!僕の名前はアルベルト、君の名前は?」
「僕に名前はないんだ、気付いた時からずっとここに一人だったから……」
「じゃあ僕が名前を付けても良いかい?」
「え、いいの!?つけて!つけて!」
龍は自分の名前をくれるという言葉にえらく喜びました。いつも一人だったから本当に嬉しそうです。
「じゃあねぇロスってのはどうかな?」
「ロス?凄くカッコ良い名前だ!やったぁー!!」
ロスとアルベルトは一緒にたくさん遊びました。
どんな時も二人で遊んですっかり仲良しさんになりました。
そんなある日、たくさんの兵隊達が森に現れてアルベルトを探しに来ました。
アルベルトとロスが遊んでいる姿を見られたから来たそうです。
「ロスは隠れてて、僕に用事があるみたいだから行ってくるよ」
「大丈夫?帰ってこれる?」
「うん、約束するね」
そう言ってアルベルトはロスと離れて兵隊達のところに行きました。
それからいつまでも経ってもアルベルトは帰って来ません。
不安に思ったロスはこっそりアルベルトの匂いを辿り、兵隊達のいた国へと入って行きました。
アルベルトの臭いを辿って行くと大きなお城についたので隠れて臭いを辿って行きました。
すると、そこにいたのは動かなくなってしまったアルベルトがいたのです。
「龍を殺せば助けてやると言ったのにバカな男だ」
動かなくなったアルベルトに一人の兵士がそう言いました。
ロスは怒り狂いました。
それは国を燃やし、海を割り、山を砕く程の怒りでその国は滅んでしまいました。
ロスは一週間泣き続けました。
雨の日も嵐の夜もずっとロスの泣き声が響き続けました。
そんな時、神様が現れてロスとアルベルトを一緒にしてくれました。
そんな悲しい悲しいお話です。
●
「これはアルベロスに関する逸話であるが実際の史実でもあるらしいな。
人に取って黄金とは特別な存在であるし、その当時、龍の毛皮や牙等はマナを豊富に内包されている為乱獲されていたのは有名な話なのは知ってるだろ?
その為黄金の龍の存在は権力者からすれば喉から手が出る程欲しいもの。
権力や地位を誇示する為には必要であったのだろう。
そんな時代、黄金の龍の噂を聞いた一人の騎士が討伐に行ったが帰って来なかった。
その騎士の名前はアルベルト。
その当時は黒い鎧を身につけていた事から"黒獅子"と言われ、最強の騎士と名高かったがドラゴンとの共存を望んでいたとといわれている。
国に忠義はあったのだろうがそれ以上にロスに愛着が湧いたのだろう。
ドラゴンとの共存を望む彼にとっては殺したくないと思うのも仕方ない事だ。
痺れを切らした王が兵隊を遣いにやりアルベルトを連れ帰ったは良いが、どうしてもロスを殺せなかったという。
王はそれならアルベルトの知人を殺していくと脅しをしたのだが、ロスをどうしても裏切れないアルベルトは結果的に自害した。
ロスはそれに怒り狂って国を滅ぼした。
それなりに大きかったこの国は一晩で誰も住めない土地へと変貌してしまったという。
そしてロスはアルベルトの死体を食べてどこかへと行ってしまったらしい。
それがアルベルトとロス、アルベロスと呼ばれるようになった話だよ」
「ぐすん……なんて悲しいお話なんですか!」
龍と人間の友情と人間の愚かさが分かる話ですね。
「だから基本的には人間嫌いなドラゴンという認識なんだけどね……不思議と彼にはなついていたから驚いたんだよ」
「でもお兄様、多分種族が同じでも個体が違うなら人になつくのもあり得る話ではないのですか?」
私は普通に疑問に思った事を言ったのだがお兄様は苦笑いしながらもその疑問に答えてくれた。
「それがアルベロスは前世の記憶を受け継ぐドラゴンってのが定説なんだよ」
「え?前世の記憶をですか?」
そんな事が有り得るのだろうか?
「まぁそういう説があるって話だから本当かどうかは分からないけどね」
でもお兄様がその説を信じているという事はなにか根拠があるのだろう。
だとしたらあの男の人は一体何者なんだろうか?
……それにしてもどんな事も知っているお兄様は流石です!