報われない男の物語   作:羽付き羊

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そして真実に至る道編
23話「姫と一人の騎士に決して破られる事ない約束を」


「うっひゃぁードラゴンがいっぱいだ!」

 

ゆらりと揺れる馬車の中でエルトは興奮していた。

エルムガンドに初めて来たというかアルシリア以外の国自体に初めて訪れ外国というものに興奮しているらしい。

いや、それよりも男としドラゴンに憧れない者はいないからそこに興奮しているようだ。

 

「うふふ……そうですねこのエルムガンド公国は別名『龍の国』と呼ばれていますから」

 

口に手を当てながら微笑むアルマは王族らしく気品に溢れている。

そんな彼女の姿にエルトは顔を赤くした。

彼等がなぜエルムガンドにいるのかと言えば話を少し遡らならければならない。

 

 

女王騎士試験になんとか合格したエルトであったがディファイやカルマを助けられなかった不甲斐なさを感じた為に訓練を積んだ。

もう二度と自分の前で仲間を失いたくないという想いを胸に秘めて。

 

 

とそこまで言えば凄くカッコ良いのだが、このエルトという男はずっとシリアスが続かないのである。

確かに助けられなかった自分を責めてはいるが、まだ彼等が死んだと決まっていない以上ある程度の自分の為に遊んだりもするし、相変わらずアルマ姫の事になると暴走する部分があったりする。

 

勿論、彼等を探してはいるが手掛かりが全くと言っていいほど掴めないのだ。

 

時折脳裏にその時の光景が浮かび、そのせいで後悔の念が生じて無茶苦茶に訓練している所がルカとイージスに見られた事により少し勘違いされてる部分もあるようだが三つ子の魂百までと言われる様にこの男の根本的な部分はあまり変化はしていなかった。

 

それはそれとして、彼等の事はまるで誰かが意図的に隠しているかのように見つからなかった。

 

当のエルト本人はそんな事には気付きもしていないのだが……

 

そんな日々の中で魔黒騎士と言われる謎の敵との交戦があったり、聖霊剣を会得したり仲間との中を深めたりと色々あったが姫との仲はあまり進展しなかったと本人は思っている。

だが、本人の知らぬ所で好感度は上げており従騎士、いや男性として少し意識されているのだが……残念な事に気付いていない。

 

まぁ結果として従騎士の中ではムードメーカーでありながら世界新人騎士大会に出るための新人女王騎士内のトーナメントで優勝してここにいるのでエルト本人の成長には良かったのだろう。

本人の目標にも確実に近付いているのだから。

 

 

「あはは、お恥ずかしい所をお見せしました」

 

まるで借りてきた猫の様ではあるが好きな人の前ではそうなってしまうのは道理である。

 

「うふふ、初めてのエルムガンドですもの仕方ないですよ。私もここに初めて来た時は同じ反応しましたもの」

 

(姫様と同じ……)

 

こんな会話が普通に出来るようになっただけ成長したとも言えるのだろう。

 

そんな時に外から叫び声が聞こえた。

 

「うわぁぁドラゴンが暴れてんぞぉ!」

 

その声を聞いて直ぐ様エルトは馬車から飛び降りた。

そして周囲を確認すると叫び声の通りに龍が暴れてそのままこっちに向かって突っ込んで来たのだ。

 

「おい兄ちゃん危ねーぞ!」

 

その声を聞いて聞かずかエルトは首にぶら下げていた|忠誠の十字架(クイーンクロス)にマナを込めた。

 

「うん、これくらいなら大丈夫だろ」

 

誰に言った訳でもない一人言だったがその言葉には自信に満ち溢れていた。

 

「ロングウイップ!」

 

龍が突っ込んで来ると同時にエルトは忠誠の十字架を長い鞭へと変化させ一瞬にして捕縛したのだった。

 

(ワン)=(タオ)隊長が得意とする万里剣と言われる技の応用である。

忠誠の十字架はマナを込めるとその所有者の求める姿に変化が可能である優れものだ。

例を出せば剣、槍、弓、手裏剣の様な物にでも変化出来る。

そして込めたマナに応じて大きさも変化可能なのだ。

 

「いやはやお見事ですね、流石は女王騎士と言った所ですか」

 

その言葉を発した人物の方向を見ると龍に乗っている人物が一人。

その人物の後ろには数匹の龍が捕縛されていた。

 

「すいません、先ずは謝罪からさせて頂きます。この度は私達が逃がしてしまった龍を街に被害なく捕まえて頂きありがとうございます」

 

そう発言した男の顔は毅然たる姿に気品も兼ね揃えていた。

 

「リューガ皇子が謝る必要なんかありませんよ!私の不注意でまだ人間に馴れてない龍を逃がしてしまったのを捕まえて頂いたんですから!」

 

「いえ、私が取りこぼしてしまった結果がコレです。謝罪しない訳にはいきませんよ」

 

話を聞く限りで言えばよく出来た人間なのであろう事が伺える。

 

「いえ別にこっちも被害なかったんで構いませんよリューガ殿下」

 

そう返したのはアルマ姫側近の女王騎士であるロイヤルガードのルドルフである。

巨漢で髭面であるので厳つさが滲み出ているが、

 

「そう言って頂けると助かります」

 

「リューガ皇子?お久しぶりですね!」

 

待ちくたびれたのかアルマ姫が馬車から降りるとリューガと呼ばれた男へと近付いて行った。

 

「お久しぶりですアルマ姫」

 

そしてリューガは近付いたアルマ姫の右手へと口付けをしたのだった。

 

(何と羨ましけしからん事をぉぉぉぉ!?っていうか知り合いだとぉぉぉ!?)

 

エルトは人生で一番焦っていた。

女王騎士試験でもこんなに焦る事はなかったのに……

そんな彼が何故焦っているかと言えば皇子と言われる相手に花の咲いた様な笑顔を向ける姫様に焦りを感じているからに他ならない。

 

「はっはっは!いやぁお似合いですなぁ」

 

「もうルドルフ!リューガ皇子に失礼ですよ!」

 

「いやいや麗しきアルマ姫とお似合いとは嬉しい限りですよ」

 

そんな社交辞令としか思えない会話ですら今のエルトのからしたら動揺させるに十分に値する。

 

(ぐぬぬぬぬ……お似合いだぁ!?そんな事俺が許す訳ねーだろう!)

 

物事を冷静に考えられる事すらできない。恋は盲目とは昔の人は上手く言った物だ。

 

(でも……もしアルマ姫がコイツの事が好きなら俺は……)

 

そして盲目だからこその迷いがエルトに生じていた。

 

 

新人大会が始まるまであと2週間程はあるが、皇族が全員揃ったという事で顔合わせを兼ねたパーティーが行われる事になった。

エルトは皇族ではなかったが、出場騎士として参加できる事になり姫の護衛も兼ねて参加していた。

 

「いやぁ久しぶりだなぁアルマ!ほれ肉でも食うか?」

 

「相変わらずですね、ジン皇子」

 

 

「アルマー!久しぶりなのじゃ!」

 

「キャッ!……もう!サクヤ様急に抱きつかないで下さい」

 

 

「ふむ、息災の様で何よりだな」

 

「バルトハルト殿下もお元気そうで何よりです」

 

 

「おいあいういえう。ああおあいえいえおうえいえう、アルマ姫」

 

「お久しぶりです。またお会いでき光栄です。アルマ姫と兄上は申しております」

 

「アハハハ、アザラーク皇子もミサ皇女もお久しぶりです」

 

そしてアルマ姫は色々な同世代の皇族に絡まれていた。

 

「何かウチの姫って慕われてますね」

 

エルトはその様子を見て喜ばしく思った。自分の国の姫様が慕われているのは当然嬉しい。

 

「嬉しい限りじゃねーか、まぁ俺等の爺さん位の世代じゃ仲が悪かったりするが親父の世代からは友好的になってるな」

 

「そうなんですか?」

 

「ん?そういやお前は田舎から来たんだったな、詳しくなくて当然か……よしこの際だ説明してやろう」

 

エルトは武力に関して言うならば従騎士レベルでもトップクラスであるのだが、訳あって世間知らずな部分があり国内国外問わず情勢については詳しくないのだ。

 

「まずは現在同盟を組んでいるアルシリア王国、エルムガンド公国、ヤーパナ、ワールーク帝国、マクロイス魔法皇国、ギスカーン帝国の6大国で新人騎士大会をするのはお前も知っての通りだな」

 

「そうっすね」

 

「でだ、その国同士が同盟を組むまでは国家間で戦争がよく起こっていた訳なんだよ」

 

「戦争……」

 

「そこに喉から手が出る位に欲しい資源があれば戦争が起こるのは仕方ねぇ納得はできねぇがな。

そこで言えば地理的にアルシリア王国ってのは他の5国を行き来する際に一番重要な土地なんだから当然ちゃ当然だけどな」

 

アルシリアという国は極めて危険な場所で国として成りったっていると言っても過言ではない。

何故なら他の国に囲まれており、国境には女王騎士達が何名か配置されているとはいえ厳しいのには代わりないのだから。

 

「まぁ今はお前も知っての通りアルテリーナ陛下の行方不明っていう機密があるんだが、実際にこれが他国にバレでもしたら普通は非常に不味いんだが……実はボルト家のおかげで暫くは安泰なんだわ」

 

「ボルト家っすか?」

 

「ん?いくらバカのお前でも知ってると思ってたんだが」

 

「バカとは失礼な!まぁ確かにあんまり詳しくないっすけど……

 

口を尖らせて怒る姿は子供にしか見えない。実際にまだ20歳も過ぎてない子供なのだ。

 

「はははは!まぁそう怒るな、でもホテル経営で有名なのは流石のお前でも知ってるだろ?」

 

「女王騎士御用達のホテルって有名だよな!いやー近くで生の女王騎士に会えるとか興奮したぜ!」

 

普段の慣れない敬語を頑張って使っているが時折、興奮するといつもの言葉使いに戻ってしまう。

そんな姿に心を緩ませながらテーオバルトは続ける。

 

「歴史的にも100年以上続いてるらしい由緒正しいホテルなんだが……そこのホテルってお前も泊まった事があるって言っただろ?なら何か気付かないか?」

 

「え?いや普通にすげぇ便利なホテルだなぁって思ってた位だけど……」

 

「何がどう便利だったか覚えてるか?」

 

「んーと、まず産地がギスカーンの野菜と肉のうめぇ料理が注文して直ぐに食べれたり、マクノイスの最新技術の格ゲーができたりがビデオ?とかで女王騎士の式典の様子が見えたり、ワールークでしか手に入らない筈のカードパックが買えたりとか、そんな感じかなぁ」

 

「目の付くとこがお前らしいな……そして、それがそのままボルト家の凄さに繋がる訳だ」

 

「え?」

 

「考えてもみろよ、ワールークでしか買えない物が何でそこのホテルで買えれる?マクロイスの最新技術が詰まったゲームなんて高度な魔術の術式が詰まってる。そんなものがアルリシアっていう他国で何で出来る?ギスカーンにしたって産地直送とかそうできない。ビデオってもワールーク帝国から借り受けたもんだって聞いたぜ?」

 

「それって普通に凄いよな?」

 

「普通じゃねえよ異常だよ。アルシリア王国ですら知らねぇ情報も扱ってるし輸送ルートも確保してるってことだからな、各国からも信頼されてるし、ボルト家に害をなそうと考える国なんてほぼねぇ。ありゃ言ってみりゃアルシリアの中にある一つの国だ「憩いの郷」っつう名前のな」

 

「……」

 

「そのおかげでアルシリア王国が直ぐに危険に晒される事はない訳だ。ボルト家様々だわマジで」

 

テーオバルトは複雑そうにそう言った。確かに女王騎士として国を守る立場の筈なのに、守る筈の存在に守られているのは内心色々と思う事があるのだろう。

エルトもその言葉に少なくない衝撃を感じた。

 

「別にそれが悪いって訳でもないし尊敬もしてるんだがな、ボルト家の"始まりのクウガ"、"革命のコンバート"、"英雄の半身ギルバード"っていや女王騎士の中だけじゃなく世界的に有名だしよ」

 

「ギルバードさん以外はあんまり聞いた事ないっすよ?」

 

因みにエルトはギルバードの事は"英雄の半身"という二つ名でしか知らない。なのでディファイの事もボルト家という事を知らなかったのである。

 

「ギルバードさんが凄いのは間違いないな今でも俺等の世代じゃ憧れの女王騎士よ。

まぁ色々理由があって今じゃそのホテル経営してるけどな。

それよりも、今の聖騎装の大本を作ったと言われるのがクウガさんその人だ。それまでは机上の空論と言われてたマナに関する色々な事を変えていったんだよ。それに各国に出歩いて色んな人達を救ったりしてるし。本当に偉大な人だったよ」

 

「そんなにすげぇ人なんだ。会ってみてぇなぁ……」

 

純粋にそう呟いたエルトにテーオバルトは悲しそうな表情を浮かべた。

 

「残念ながら亡くなっているんだわもう10年近く経つ」

 

「……そりゃ残念だ」

 

「コンバートさんならまだ会えるがな、あの人もクウガさんに並んで色々と世界を発達させた人だよ。聖騎装の忠誠の十字架を作った人でもあるしなありゃ正しく革命だよ」

 

忠誠の十字架は簡単に言えばマナを質量に変換させる道具である。

幾らマナがあるとしてもそれに重さは存在しない。

そう言われていたのを変えたのがコンバートその人なのだ。

世界的に100年分は科学を進めたとも言われている事からその凄さが分かるだろう。

 

「とまぁ、そんな感じでボルト家の人達の尽力によって今じゃ世界的にアルシリアとは友好関係な訳だ……って何だ騒がしくなってきたな」

 

テーオバルトが説明を終わる頃にアルマ姫が驚きの表情を浮かべ、そして周りもざわついていた。

 

「聞いてませんよ!?今回の新人騎士大会が騎獣を使う物なんて!」

 

そのアルマ姫の言葉でエルトもテーオバルトも驚き、そして何故騒がしいのかという理由も分かった。

 

 

「うーむ、何故アルシリアだけに情報が行ってなかったのだろう……」

 

エルムガンド公国の王であるリューファイナルがそう呟くのも無理はない。

何せ全て書簡で送っており返事も来ていた。それなのに何故かアルシリア王国だけが伝わっていないのだから。

 

「コレがその書簡です」

 

アルマ姫から渡された書簡を見ると改竄された部分があった。これはアルシリアを害そうという悪意に満ちている事が分かる。

この新人騎士大会は各国の現状の兵力を確かめる様相もある為、どこの国も力を入れている。

 

その国の騎士のレベルが低いとなると同盟を破棄され侵攻される場合もあり、更に言えば他国から侵攻され易いアルシリアにとってこれは死活問題なのだ。

 

「流石にコレはキツいだろ」

「ふむ、だが今からアルシリアから騎獣を送ってもらうにしても騎士との連携が取れるかどうか……」

「アルマ……」

「ううあいいおおあいああ(難しい問題だな……)」

 

それぞれがアルシリアの圧倒的不利を懸念している。

その中で一人だけ考え込んだ様子でエルトへと歩み寄った人物がいた。

 

「エルト君と言ったね?」

 

「そうだ……です。リューガ皇子」

 

「君が良ければなんだがドラゴンを騎獣にさせるつもりはないかい?良いのであれば僕が手伝わせて貰うけど」

 

「はい?そりゃそうできたら助かりますし嬉しいですけど。何でそっちにメリットがないことを?」

 

言葉が理解出来なかった訳ではないがその意図が分からずにそのまま疑問の言葉が出た。

 

「君とは正々堂々と闘いそして潰したいんだよ」

 

「な!?」

 

(気付いてないと思っているのかい?君もアルマ姫が好きなんだろう?)

 

("も"って事はアンタもか!?)

 

(まぁね、といっても幼い頃からの片想いだけどさ)

 

リューガはアルマに優しい表情を向けた。

 

(だからアルマ姫が君の事を気に掛けているのが正直な話気に食わなくてね)

 

(ぐぬぬぬぬ……)

 

(それにメリットなら公の場で君を、いや……女王騎士を倒したらアルマ姫を妃に迎えれるだろう?)

 

リューガが言っている事が無茶苦茶なのはエルトでも分かる。だが確かにリューガはアルマの事が本当に好きなのは分かった。

なら女王騎士としても男としても答える言葉は一つしかない。

 

「お願いしますよリューガ皇子、そして後悔して下さい。女王騎士の標語の意味をその身体でね」

 

「よし交渉成立ってとこかな?父上という事なので明日から私はエルト殿と一緒にドラゴンを探しに向かいます。異論はありますでしょうか?」

 

「ない(ていうか決まるの早いなおい )」

 

そうしてこの騒動は一端ではあるが終局したのだった。

 

 

 

アルマがバルコニーに一人で出歩いた事を気に掛けたエルトがその後を追うと彼女は不安そうに何かを考えていた。

 

「アルマ姫、どうされましたか?」

 

そのアルマの様子にエルトは思わず声を掛けた。

 

「エルトですか……いや私が不甲斐ないばかりに貴方にまで迷惑を掛けて申し訳なく思っていたのですよ……」

 

「そんな、今回の件はアルマ姫のせいじゃないですよ!」

 

「そうでしょうか?私が母上のようにしっかりしていればこんな事が起こる事もなかったでしょうし、仮に起こったとしてもリューガ皇子の手をわずらわせざに解決できたでしょう……現状で言えば母上が不在なままのアルシリアですし、万が一にでも同盟が破棄されればアルシリアの平和は壊されますからこんな事があったとなると……」

 

「不安なんですか?」

 

「不安で不安で仕方ないですよ……アルテリーナ陛下とアルマ姫では格が違うと陰で言われてるは知ってますから……」

 

今にも泣きそうなアルマの顔を見てエルトは直ぐにでも慰めてあげたい気持ちになった。

 

貴方のせいじゃない。

 

気にしなくても自分達がいる。

 

もっと自分達を頼ってくれ。

 

そんな言葉を掛けたかった。しかしその言葉だけでは今のアルマの不安は拭えないないだろう。

ならば自分の思いの丈を全て話そうとエルトは行動に移った。

 

「姫様、歯をくいしばって下さい」

 

「え?」

 

その言葉を聞いた瞬間エルトはアルマに平手を挙げた。

ポンッという軽い音ではあるがエルトはアルマに初めて手を挙げたのである。

これまで小さな石が彼女の前にあれば拾い。毛虫でも出れば遠くに放り投げた様な過保護のような行動をしていた彼の行動にアルマは固まった。

 

「このエルト=フォーエンハイム、アルシリアの姫君であるアルマ=アルシリア姫に仕える身でありながらの無礼を承知で申し上げます!

私は貴方がアルシリアの姫だから仕えている訳ではありません。あなたが……貴方がアルマという一人の姫が自分よりも民の為に何ができるかと日々考えていき行動に移しているからこそ心身共に仕えているのです!

だから……だからそんな悲しい事は言わないで下さい、貴方は!アルマは一人なんかじゃない!俺達が、女王騎士がついているんだから!」

 

「エルト……」

 

自分より泣きそうな表情で訴える彼の言葉にアルマは自分がいかに情けないのかを察した。

ここまでの事を騎士にさせているのは自分のせいであるし情けない気持ちもまだある。

しかしそんな気持ちが吹き飛ぶぐらい彼の気持ちが言葉が嬉しかった。

 

「先ほどの無礼、このエルトの首が必要ならば差し上げます」

 

彼の覚悟も伝わった、目がアルマの瞳から離れないし話そうともしない。

自分の命を懸けてアルマの目を覚まそうとしているこの騎士を無下にできる訳がなかった。

 

「そうね……首はいらないけど罰を与えます」

 

彼女は真剣な表情で指を一本立てた。

 

「そんなに言うならばアルシリアに優勝トロフィーを持って帰るまで貴方の帰国を許しません!でも私の護衛は国に帰っても続ける事」

 

「姫……?」

 

「うふふふ、勝ってくれるんでしょ?この命令は必ず守ってもらいますからね、頼りにしていますよエルト」

 

つまりは優勝するのを信じているという事を彼女は自分の信頼する騎士に言っただけだった。

それがエルトにとってどれだけ嬉しい事かは言うまでもない。

 

「はい!この命果てようがアルシリアに、いえ貴方に優勝を捧げます!」

 

「命を散らすのは許しません。貴方はずっと私を護ってもらわなくちゃ困りますからね」

 

「姫……」

 

姫と騎士の約束がここに成立した瞬間だった。

 

 

 

「うわぁ皇族に手を挙げるとかよくやるわ……漢らしいけどなありゃ姫さんに骨の髄まで惚れてんなぁ」

 

「だろうね、ここは年長者としてアドバイスの一つや二つを……」

 

二人の様子を監視する影が二つある。

 

「おいD、分かっているとは思うが女王騎士達や王族との接触は厳禁だからな」

 

「勿論だって、Θ(シータ)……てかこのコードネーム意味ある?」

 

「雰囲気が大事なんだよこういうのは!」

 

「うーん、なんだか締まらないなぁ」

 

漆黒のローブに姿を隠し、手練れだらけの厳重な警備体勢が敷かれているこの場で誰にも気付かれる事なくいる事の凄さは驚くべきである。

……会話の内容は別として

 

「俺達の任務はなんだか分かっているんだろ?」

 

「それは勿論だってコレは絶対にしなくちゃいけない事だから」

 

「そう俺達の任務はアルシリアの癌を滅亡させる事だからな」

 

彼等はアルマ姫とエルトの姿を瞳に写した。

 

 

 




連続投稿すると言ったな、アレは嘘だ!
とまぁ王道ストーリーでお送りしています。
ギャグ成分はディファイがいないと限りなく薄味になります。
今回からはクライマックス編に突入しますが後10話近くは行きますのでご了承下さいませ。
最終話までの構想はバッチリですし皆さんが「うげ、こんな展開予想できる訳ねーじゃん」と思う感じになっていると思いますのでそれまでまったりのんびり待って頂けると幸いです。
……伏線回収しようと思って更に伏線が増えていくこの不思議……
良ければお暇な時にでも感想頂けると嬉しいです





次回予告


漢として産まれた時から今日この日の事を待ち望んでいたのかも知れない。
ただ自分の想いを吐き出して応えてくれる存在を……


第24話「泥を啜って勝てるなら血ヘドも骨も持っていけ」

二人の漢が一人の女性を愛した時の一つの答えがここにある。

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