報われない男の物語   作:羽付き羊

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第24話「泥を啜って勝てるなら血ヘドも骨も持っていけ」

 

エルトはリューガ皇子に案内されて騎獣を探していた。

 

最高峰とも言われるドラゴンの上位種から小さな赤ちゃんのパートナーとして人気の騎獣まで紹介するという何とも漢気溢れる事をされたのだが、その漢気むなしくエルトはそんな騎獣達と相性がとてつもなく悪かった。

 

「……ここまで騎獣と相性の悪い人間は中々いませんよ」

 

リューガが頭を抱えるのも無理はなかった。

理由は恐らく圧倒的な潜在マナの力に騎獣が怯えていると推測は出来たがそれは数日でコントロール出来る様な簡単な物ではないのである。

それに本人も騎獣の乗り方がドが付くほど下手な事も災いしていた。

 

「いやまだ時間はある。諦めるのは全部をやった後でも遅くはねぇ」

 

しかしエルトは諦めなかった。

ディファイとカルマを助ける事を諦めなかった、彼は出来ないことが諦める理由にはならない。

 

「ならば……最終手段です。貴方には相応の覚悟があるようですので【竜の路地裏】に連れて行きましょう」

 

その覚悟に応じる様にリューガも覚悟を決めた。

 

「ん?何だそれ」

 

「【竜の路地裏】とは様々な野生のドラゴンが集まる場所です。それこそ竜王種の様な騎獣を見つける可能性すらあります。ただ……」

 

「危険って事だよな?……可能性があるなら俺はそこに懸けるぜ。絶対無敵究極正義は伊達じゃねぇってとこみせてやるよ!」

 

「その言葉信じてみましょう」

 

実際に危険度で言えば相当なものであるし、いくら本人も了承しているとはいえ招待しているからには来賓扱いとなるので、新人戦以外の場所且つ招待者が同行している最中にケガをされたりするとエルムガルド公国的には非常に不味いのである。

しかし、同じ位に主催なのに不手際で連絡が出来ておらず相手の国が新人騎士大会に参加出来ないとなればそれもまた大問題であるのだ。

 

いくら王族、皇族だからと言って不義理をしていれば外交は悪くなるのである。特に均衡している国同士なら尚更なのだ。

 

 

 

(……まぁ、それとは別にこのエルトとは正々堂々と潰したいという気持ちもあるからな)

 

リューガ皇子は自分の龍を龍王種として認めさせるという事を決めた頃から心に余裕が出来た事もあり、大分心持ちに余裕が出来た結果である。

 

(さてさて、御手並み拝見としますかアルシリアのNo.1従騎士(スクワイア)の実力とやらを!)

 

 

 

 

 

そんなこんなで竜の路地裏に来た一行であったが、なんとそこのボス龍をエルトは手懐けたのである!

 

なんと御都合主義な事であるのか、女王騎士試験の二次試験の時に助けてあけだ風の竜王種であるリンドブルムがパートナーになってくれた。

 

「ありがとな!えーーーと……」

 

「ギィ!」

 

「コイツの名前はギィだ!」

 

「鳴き声が名前って犬にワンって付けるようなもんだぞ!?風の龍王種にそんな名前付けるな!バカ野郎!」

 

こんな一悶着があったりしたが、なんとかなったのである。

 

 

「なぁD(ディー)?ここの国の名物ってなんかあったけ?」

 

「うん?確か竜王様のシッポ焼きが美味しいって聞いた事あるよ」

 

「え?ここって竜王の尾っぽ切ってんの?クレイジーな文化だなぁ」

 

「なんか鮫の歯みたいなもんで定期的に生え変わるんだって、んでそれが熟成されてすげー美味しいらしいよ」

 

「んじゃあ後で一緒に食べようぜー」

 

「あいよー」

 

暗躍する怪しい陰らしき人物たちは時が来るまで観光していた。

 

「最後の晩餐になるかなぁ……」

 

「縁起でもねぇなぁ、まぁその為に今は休息しねーとなぁ」

 

 

そして1週間が経過し、 始まった新人騎士世界大会である。

 

 

『なんと完全に同着だぁぁぁあ!!』

 

 

実況の声通り、エルトとリューガの完全同着!

 

「まじかぁぁぁ……」

 

「……剣を取れ、エルト=フォーエンハイム」

 

「へ?」

 

「恋に同着1等賞は存在しないだろう?ここで白黒はっきりさせようじゃないか!」

リューガ皇子としてはここではっきりさせたいのである。

 

「面白ぇ……やってやろうじゃねーか!!一騎打ちだぁ!!!」

 

こうして、騎騎討ちが始まった。

 

 

「有り得るのか?ここまでのレースで完全に疲労しているはずなのに何故ここまで動ける?」

 

すっかり観戦モードになった参加者の1人であるワールーク公国のバルトハルト王子であるが、ここまでのレースは非常に過酷な物であった。騎獣に乗ってレースするのかと思えばある区間は騎獣を担いでレースしたりと中々にふざけた内容があったりと体力的には非常に過酷であるものであった。

しかし彼等はまるでスタートする前の様子で剣戟を繰り広げているのである。

 

「そりゃあアイツらが賭けた物がそれぐらい大切だって事なんだろうよ」

 

ギスカーンのジン皇子は2人の様子を見ながらバルトハルトにそう伝えた。

これは欲しい物を得る権利を自らの手で勝ち取る為の、好きな女に好きだと伝える為の資格を得る為だけの戦いなのだ。

 

そこに身分の差は存在しない。何故なら二人がそれを善しとしないからだ。

身分があれば護れる訳ではなく好きだから護れる訳でもない。

 

結局は力無き者が欲しい物を得られる事は困難である。

ならば力さえあれば良いという訳でもない。

心の強さこそが、想いの強さこそが力となるマナがあるこの世界において決闘はある意味一番公平な戦いなのだ。

 

 

(……ふふ、足がまるで鉛みたいに重くて動かない)

 

 

(酸素が足りなくて視界が狭くなってきやがった)

 

 

((だが絶対に負けない[ねぇ])))

 

二人の剣はガギインいう鈍い鉄の音が鳴らした。

 

 

 

「……くっ」

 

アルマはもう見てられなかった。自分の騎士が傷付く姿と自分の幼い頃からの知り合いが傷つけ合う姿を見ていたいと思う様な人間ではないのだ。しかし彼等が戦っている姿を何故か見ないでいる方が失礼な気がして目を背けられない。

 

「漢のプライドか……」

 

ジェダは彼等の姿を見て自然とそう言葉を漏らした。

 

「え?」

 

不思議そうにするアルマにジェダは言葉を続ける。

 

 

「好きな女性に好きだと伝える為の権利をあの二人は何よりも欲しいのですよアルマ様、お互いを認めてもそれでも好きな気持ちだけは譲れない。ならば互いに納得できる答えは一つ、それが相手に勝つ事なんです。バカみたいですよね……でも嫌いじゃないですよ俺は」

 

ジェダらしくもない言葉ではあるが、そう思わず本音を言ってしまう程の戦いであるのだ。そしてこの戦いを見る上で言葉を濁して伝えるのは何故か彼は嫌だった。

 

「しっかり見てて下さいよ。これが本気の漢の覚悟ってやつです」

 

「はい……」

 

 

そして試合は更に過熱していく。

自分の武器を使い、マナを使い、知恵や経験、知識を使ってもお互いに倒れない。

もう武器も防具も壊れているのにお互いに負けを認めようとしない。

 

 

「 こっから先はただの喧嘩だ!女王騎士とかエルムガンドの皇子とかは関係ない、一人の漢と漢の喧嘩だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

「望むところだエルト=フォーエンハイムゥゥゥ!!」

 

 

 

先程まで繰り広げられていた高度な技の応酬とはうって代わり、子供の喧嘩の延長戦のようになっていた。

 

只の喧嘩で意地と意地のぶつかり合い。

しかし、だからなのだろうかこの戦いとも言えない拙い喧嘩を誰も目を離すことができなかった

 

 

 

血の味がする。

口の中がゴリゴリと音を立てていると思えば、欠けた奥歯で口の中がズタズタになっていた。

 

それでも前へ

倒れるなら相手よりも後に覆い被さる様に倒れてやろう。

 

そう決意し、また彼は腕を振った。

 

 

 

 

頭の中が真っ白だ。

何も考えたくないし、出来ることならこのまま目を瞑って寝たい。

 

しかしそんな欲求よりも、目の前にいる男の前よりも早く倒れる訳にはいかなかった。

 

拳を通じて解り合えた。

どんなにアルマ姫に対して誠実な想いなのかも知ることができた。

 

だからこそ前へ

そして彼は拳をあげた。

 

 

日々重ねた想いは両者共に同じであるがこそ譲れない、いや譲りたくないのだ。

闘争心は留まる事を知らず、瞳の奥の炎は燃え盛り、相手を倒す事にしか考えられない状態だ。

 

別にこの戦いに勝てばアルマと恋人になれるとかそんな事はどちらも思ってはいないし、ましてや彼女にそれを強要する気持ちは彼等には欠片もない。

 

ただ一人の女性を好きになり、その人を幸せにできるのに相応しいと胸を張って言いたい。

 

その為の、ただその為だけの闘いなのだ。

 

 

(コイツなら俺以上にアルマ姫を幸せにできるかも知れねぇ)

 

(権力に屈しないコイツならば私がいなくてもアルマを護り抜く事ができるかも知れない)

 

お互いがお互いを認めている。

剣や拳を通じて相手の事はなんとなくだが理解できるのだ。だが……

 

((だがそれとこれとは話が別だ!!))

 

これはお互いの意地と重ねてきた想いを吐き出す戦い。

 

「まだやれる」と心が訴えかけているこの状態で全てを出し切ったと言う様な男にはなりたくないからこそ彼等は足掻く。

 

自分の用いる力と経験、技術、そして想いの全てを吐き出すまでは意地でも止められないのだ。

 

そして何より……

 

(コイツに……)

 

(お前に……)

 

((みっともない所を見せたくない!!))

 

お互いがお互いの顎を拳で捉える。だが彼等は倒れはしない。

それが彼等の誇りを現しているようだ。

 

 

 

「魂が震えるとはこの事か……」

 

いつもは澄ました顔をしているバルトハルトもこの光景を見て何も思わない訳がなかった。

 

男が男と真剣勝負をしている事に対して普段は何とも思わない。

ワールークの騎士である彼にとってそれは日常だからだ。

意地があって欲しい物は自分の手で勝ち取るのは当たり前の世界で生き残ってきたのだから当然だろう。

 

………しかし、しかしだ。

 

ならば何故こんなにも気持ちが心が動かせられるのだろうか?

それはお互いの用いる全てを全力で出し切って更に上へと昇ろうとしているからではないだろうか?

 

 

「へっ不細工にも程があるぜ、こんなガキの喧嘩以下の戦いなんざ……でもすげぇな」

 

武術に関してはこの場にいる中では一番詳しいと言えるジン皇子が気付けば拳を強く握りしめながらそう言った。

 

「何が凄いのか、妾に教えてはくれぬか?」

 

サクヤもヤパーナの姫とはいえ、この勝負の熱さを肌で感じ取っていた。だがなぜこうも心が震えるのか理由は分からないのだ。

 

「……んとなぁ実際問題、どんな風に効率良く人を倒せるかってのが戦いの基本だ。最初の戦いは事実そうだったしな自分の持てる技術と経験を使った戦い。そこまでは分かるか?」

 

「うむ」

 

「疲れ果てても武道を極めた者ならばその動きが勝手に出てくるもんだ。それが自分の血肉になってんだからな。実際、アイツ等もたまにカウンターを合わせたりしてるだろう?それがその証拠だ」

 

ジンにとっては武とは日常であり、それが自然に出るほど修練している。

 

「ただ、もう指一本も動かすのすら辛いこの状況で精神力だけで戦ってるのがすげえんだ」

 

そしてそれがどれだけ凄いことなのかも理解しているのだ。

 

 

「でもな、だからこそ、ここにいる全員がアイツ等をすげぇと思えるんだよ。息が整わない。両肩で呼吸していて視界が縦にブレていく。視野も狭くなる一方で最早周囲の事を見れる余裕すらない。そんな状態で闘争心は目に見えて上がってくなんざあり得ねぇ‥‥いや普通は無理だ」

 

 

エルトの顎をリューガの拳が捉える。

鈍い音がしたと思えば今度はリューガの鳩尾にエルトの蹴りが突き刺さる。

両者は一歩も譲らない。

 

 

「アヤツ等は限界がないのか?」

 

サクヤ姫がふとそう呟く。

 

 

「限界なんて当の昔に越えてらぁ」

 

「……」

 

「あれだけのレース戦の後にこれだけガチでやりあえるだけ異常ってもんだぜ。まぁ同じ男としちゃ嫉妬する位にはアイツ等"漢"らしいよな」

 

「ふむ……なるほどな」

 

「だがもう決着みたいだな」

 

ジンは格闘家としての腕はこの中で郡を抜いてる。そんな彼にはもう決着が付くと理解できたが勝者については全く見えていなかった。

 

お互いの拳が同時に入り両者ともに倒れた。

 

(泥の味がする……血の味が混じってもう訳が分かんねぇ……だけど泥を啜って血ヘドを吐いてアイツに勝てるなら!)

 

 

脚も手も動かないなら口を使って相手の所へ進むのみ

 

 

「すげぇカッコ良いな……」

 

その不格好な姿は何よりも美しく尊いモノだ。

同じ男として産まれ、好きな人の為にここまで出来る自信があると心から言えるだろうか?

 

だからこそ魂を揺さぶられる。ここまでの事をしてまでも欲しい存在など一生を探しても見付かるか分からない。

 

力を振り絞って両者は立ち上がった。

 

「これで終わりだぁ」

 

 

リューガの渾身の拳がエルトの額に突き刺さる。

 

 

「俺の頭は石頭なんでね!」

 

エルトはそれを受けてボディに向かって拳を突き立てる。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

その拳を受けてふらつくがまだ倒れないリューガ。

 

「まだだ……」

 

 

「あれを受けて倒れねぇのか!?」

 

 

ジンは驚きを隠せない。あの状態なら意識を断つのが当然の一撃を受けてまだ倒れないその精神力はもう賞賛の域を超えている。

 

 

「なにがそこまで……いやそれは無粋か」

 

気づけば立ち上がっていた。もう座って居ることなど出来るわけも無い。ここまでの勝負になるとは思っていなかった。

 

(しかし、これ以上は……)

 

もう勝負の行方はジンを持ってしても分からなくなった。

 

 

 

 

気を失いそうになる、限界なんて当の昔に越えている。

それでも動けたのはエルト=フォーエンハイムが相手だからだ。

 

そんな奴に気持ちの良い一撃を貰ってしまった。

だが立たなければならない。

それが自分が認めた漢に対しての意地であり礼儀である。

 

言わなければならない言葉を吐き出すまでは脚が砕けようとも立たなければならない。

 

「ごばぁぁぁあ……!!」

 

血を吐き出し胃袋の中の物も全部出た。

王族がこんな惨めな姿を晒していたら国民は付いてきてくれないだろう。

 

 

「リューガ皇子!もう良いんです!寝て下さい」

 

誰かの泣いてる声が聞こえる。

そんな甘い言葉を掛けられる価値が今の自分にあるのだろうか?

 

「キュー……」

 

ファイアーランスの……相棒の心配そうな鳴き声が聞こえる。

 

そう心配するな、まだやることが残っているだけだ。

 

なんとか気持ちを保って前を向けば、傷だらけの男がいる。

 

 

その男は押せば今にも倒れそうなのに目だけギラギラに燃え盛っている。

 

ふぅ……

 

「はぁ……はぁ……」

 

整わない息を無理矢理整える。

この言葉を言わなければ、俺は後悔するだろう。

 

 

「俺の負けだエルト……」

 

敗北したのにも関わらずこんなに清々しい気持ちになったのは相手がコイツだったから。

だからこそ今にも気絶しそうな意識を堪えたのだ。

 

 

 

お互いに緊張が切れて仰向けに倒れた。

 

 

 

「うぉぉぉぉ……」

 

その小さな拳を天に掲げる。

声にならないその叫びは大好きな大切な人へと届くように。

 

 

 

 

 

 

あとがき

何年ぶりかの更新です

そして勘違い成分0ですいません。

とりあえず後7話ぐらいで終わりの予定。

あともう1話したらディファイ出てきます。

……何年先になるのだろうか

 

 

 

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