報われない男の物語 作:羽付き羊
ルカ君にあんな発言をされてしまった訳だけど、さっさと場外負けしたいと本心では思っているので特になんとも思わなかった。
むしろ敵意持ってくれてた方が助かる的な?
だって場外負けするにしてもある程度実力あるルカ君みたいな人にやられた方が俺の立場的にも助かる訳じゃん?
それにバトル・ロワイアル形式で場外ありのこの試験は武器は木製の物なのでよっぼどの事がなければ死にはしないから、ちょこっと頑張って場外負けになろう。
石の闘技場だから床に打ち付けられると痛いし場外負けが本当にベストだな。
そんなこんなを考えている内に俺のグループの出番になった。
「始めっっ!」
という掛け声がかかったのでその号令と同時に斜め後ろへジャンプしてみた。
理由は簡単、とりあえず場外に落ちる感じの場所は端っこが良いだろうという考えだからです。
そして着地した瞬間、俺の横を人が飛んでいき場外になり、10人いた受験者は残り4人と人数が激減してました。
いやありえないっしょ!
何がどうしたんだ?
とか思っているとルカ君が驚いた表情で俺を見つめている。
どうやらルカ君が最初に俺狙いで開幕ブッパで攻撃してきたらしい。いやぁ容赦ないなぁ……
確か技の名前は「グラムスラッシュ」とかいう家名が付いてた恥ずかしいもの。
これが自分の名前の「ボルト切り(笑)」とか「超ボルト切り(爆)」とかの名前なら軽く死にたくなる。
まぁでもルカ君は六大公爵家だから逆に立派な感じがするから不思議だよね。
驚きながらもルカ君は俺以外の残り2人を場外まで「グラムスラッシュ」でぶっ飛ばしてた。
「人ってあんなに飛ぶんだねぇー」ってぐらい飛ばしていました。スマシスのホームランコンテストか?とか思うほど。
そしてバトル・ロワイアル形式のこの体力テストは俺とルカ君の二人だけとなった。
──2人だけ?
やべぇ!
自分から勝手に落ちられるシチュエーションじゃないじゃん!?
理想は場外負けする感じの場所まで自分から移動して剣でガチャガチャして実力で押し負けて場外に落ちる感じだったのに……
まぁ俺の剣技の実力じゃあ本当に精一杯頑張っても良くて5番目位だろう。
なのに既に残り2人……
もしかしなくても合格しそうじゃない?
いや待て希望を捨てる訳にはいかん、二次試験に進めるのはエリートだけだし二位通過なら落ちる事が可能かも知れない!
こうなればルカ君相手に戦ってできるだけ痛くない感じで負けるのがベスト!
そう思ってルカ君の方を向いて態勢を整えようとしたんだが、ルカ君は凄い勢いで俺の方に突っ込んできた。
ヤル気満々じゃん……
そんなにトイレの下りがお気に召さなかったの?
ルカ君は真正面から突っ込んできているので後ろに飛んでもダメージは必至である。
普通に上段切りとか悪くても突きだろう?突っ込んできたら後ろに避けた方が俺のダメージ倍プッシュだから勘弁してほしい、いやマジで。
横に避けようかな?と思ったが横に避けてもダメージ大きそうだしなぁ……
よし、ここはジャンプで回避だ!
俺が膝に力を溜めこんでジャンプの体勢に入ったその瞬間をルカ君は見逃さなかった。
「読んでましたよ!」
ルカ君は急停止したかと思うとジャンプした。
どうやら俺がジャンプして空中で身動きできない状態のときに俺より遥か真上から止めを刺そうという事らしい。
下に向かうルカ君の力に上へ跳躍しようとしてる俺の力を合わせるとものすごく痛い事になる。下手したら頭が割れちゃうぞ?
ルカ君、それってドSだよね?
と思いながらも縮めた膝を伸ばそうとしているので回避は無理。
勝利は既にルカ君の手中に収まった。という感じになった……
─はずだったんだけど、マイマントが闘技場の石の繋ぎ目にひっかかってしまってジャンプできなかった。
凄い丈夫なマントだったらしく全然破れなかったが俺の体勢を後ろへと崩すのには十分な出来事であった。
そして俺は綺麗にバク宙。
その時何かにぶつかった感じもしたけど理由は分かりません。
「何だと!?」
と誰かの声が聞こえたが自分でもまさかこんな場でバク宙するなんてビックリだから仕方ない。
大体俺は実力的にはバク転までだからなぁ。
バク宙とか偶然決まったのを含めるとこれで2回目だし。
バク宙は綺麗に決まったが、俺は場外になる為に闘技場のはじっこギリギリにいたので着地したところは場外だった。
場外に落ちたので負けかぁ……
もうちょっとカッコいい負け方したかったけど結果オーラ……
「勝者ディファイ=R=ボルト!」
……じゃなかったらしい。なんで俺が勝者になってんの!?
そう思って闘技場の上を見ると誰も立ってなかった。あれ?ルカ君どこいったのー?
「流石ですね…僕の完敗ですよ。」
というルカ君の声が後ろから聞こえた。
ルカ君いつの間に場外にいたの?すごく驚いたんだけど?
どうすればいいのだろうか?
こうなってくると結構危険な感じがする……この試験に受かってしまうという危険な可能性が!
こうなりゃあ漫画やアニメ、ゲームに至るまでサブカルチャーにとっては必要不可欠なこの裏技を使うしかないようだな……
「ルカ君、私と次に会う時は騎士の高みで…」
そういわゆる誰もが知っているフラグ建築という奴である。
とりあえずこんな感じの言葉を言っておいた方が落ちるのはザコキャラやモブキャラの必須能力と言っても良い。
名付けて脱落フラグ。これを使えば落ちる事はまず間違いないだろう。
「はい!追い付いて見せますよ!」
ルカ君はご満悦で笑ってた。
あれ?追い付くって表現おかしくない?
確かになぜか俺が勝ってしまったけどここは「待ってますよ騎士の高みで……」的な台詞を言うんじゃないの?
いやそうなると俺が受かってしまうフラグになりかねないしなぁ……ここはルカ君が黙って去るのがベストだったのか?
まぁそんな思う通りに行く訳ないから仕方ないか……
というかルカ君、今思い返すとトイレの下りは俺の考えであって口に出してない筈だよね?
そうなると何で怒ってたんだろ?
まったく分からん……
●
私の名前はイージス=ブリュンヒルデ、六大公爵家の一つブリュンヒルデ家の者で女王騎士になるべくこの試験を受けている。
受け付けは難なく突破したが一次試験のペーパーテストはジェダの企みで睡眠薬を飲まされて試験に臨むことになった。
私とルカ、エルトの三人で談笑しているところにルカの元メイドで今はバンニール家のジェダに仕えているシェリーというメイドと出会い、少し話して紅茶を貰いそれを飲んだ。
それがジェダの罠だとも知らずに……
私が甘かった。
これから女王騎士になろうという者がシェリーを使い俺達に睡眠薬入りの紅茶を飲ませるとは考えもしなかったせいだ。
女王騎士になろうとする者がこんな計画を企てるなんて……カルマという凄い兄がいるせいでひねくれてしまったのだろうが許す訳にはいかない。
私と同じく睡眠薬を飲んだエルトは試験中に爆睡していたが、私は自分の太股にペンを突き刺してなんとか意識を保つ事ができた。
ふふふふ、ジェダよお前の思い通りにはさせないぞ!
その後シェリーに事情を聞くとジェダに言われて仕方なくやったと涙ながらに語っていた。
ルカには睡眠薬を飲ませず私とエルトだけに睡眠薬を飲ませたのはルカには昔拾って貰った恩義があり、ルカの実家が没落しかけている為に泣く泣くバンニール家のメイドになってからも恩義は忘れた事がないとも言っていた。
その事を悔い、自主的に試験を辞退するとシェリーは言っていたが私達はそれを止めた。
俺達が一次試験を通りさえすればシェリーも負い目を感じる必要はないし、"絶対無敵 究極正義"を掲げる女王騎士になるならばこんな困難さえなんなく乗り越えるべきだと思ったからだ。
そんな事もあり、次の体力テストでジェダと一緒のグループになったエルトは正々堂々とジェダを倒すと本気で言っていた。
エルトは田舎の出身で騎士学校等に通った事がない為マナの使い方は不安が残るが身体能力には目を見張る物があるし、女王騎士になるという心意気は確かな物なので案外良い勝負をするだろう。
それよりも心配なのはルカの方だ。
今回の試験でカルマと同率で合格に一番近いと言われる男、ディファイ=R=ボルト。奴は私にとっても未知数の存在だ。
私は騎士学校でも有名なカルマの模擬戦を見たのだが、それだけでは奴の真の実力は分からなかった。
アレが本気なのか、それとも1割の力しか出していないのか偶然だったのかすら分からなかった。
マナ量は私達六大公爵には劣るが、私でも勝てると断言できない。
実際に模擬戦で騎士学校の通っていた人間はボルトに10回に2回は負けている、それは教官も例外ではない。
カルマは騎士学校の唯一の黒星を付けられた相手がボルトと言えばその異常さが分かるだろう。
私はボルトには勝ち越しているがカルマには騎士学校では一度も勝てなかった。
相性と片付けられる問題ではない。
実力を隠しているとしか考えられないだろう。
だからこそボルトとルカの単純な実力の違いが分からないのだ。
「ルカの一撃で終わるんじゃねぇの?」
とエルトがつまらなそうに言っていた。
確かに不意をつけば出来なくもないだろう。実際ルカは開始直後の速攻でそれを狙っている。
しかし何が起こるのかは分からない。奴は何せ“仮面"なのだから。
「決着がつくまでは分からん」
「ん?お前ならルカが絶対勝つって言うと思ってたのにな」
「ルカならこの試験は必ず通る、だが1位通過かどうか分からん」
「へぇ~……ボルトって奴はそんなに強いのか?」
「見ていれば分かる」
そして勝負が始まった。
ルカはまずボルトを狙いにいった。不意をついての一撃で倒そうとしたのだろう。
しかしボルトは予め知ったいたかのように避けた。しかもルカの一撃を他の受験生達に効率よく与える位置に誘い込んで……
その事に一番驚いていたのはルカ本人だ。それもそのはずだろう、自分の策が見抜かれたのだから。
本当に恐ろしい奴だ……
おそらくルカの攻撃対象がボルト本人だと奴は感じ取り誘導したのだろう。
明らかにルカは敵意剥き出しだったから分からなくもないがあそこまで上手く誘導するとは……
普通は狙われてるのが分かった時点で迎え撃つなり、防御に意識を向ける筈だが、あえてそれを他の受験者に誘導し自分の手を汚さずに倒すなんて普通は思いつかないぞ……
「……流石としか言いようがないな」
「凄いのか?何か微妙じゃね?」
エルトはまだ納得がいっていないようで首をかしげていた。
「ふっ、だからお前は甘いんだ。ここからよく見てろ」
「へいへい」
策を見抜かれて多少動揺していたルカはボルトと一対一の場を作る為に他の受験生を場外へと追いやった。
その間ボルトは静観していた。
どうやらルカが他の受験生を倒すのを待っているらしい。
(一対一なら正々堂々と戦うのか?)
ボルトはカルマと同等以上の存在である。
それは騎士学校にいた奴なら全員知っている。だが身体能力自体はお粗末なものだ。
手を抜いていれば分かる便利な機械がありそれを使って自身を追い込む訓練が騎士学校では行われている。
それを使って計測したボルトの身体能力は中の下程度であったからそれは間違いない。
だからこそ奴の実力が測れないのだが……
そう考えている内に、ルカはボルトに向かって突っ込んでいった。
ボルトを場外に落とすつもりに見せかけて何かを仕掛けるのだろう。
ボルトはフィールドの隅にいるので迎撃か回避、受けの三つの選択肢しかない。奴は避けるという選択を取ったようでボルトは誰もが分かるようにジャンプしようと足に力を溜めていた。
「読んでましたよ!」
とルカはジャンプの体勢に入りそうなボルトの上へと跳躍した。俺がルカでもそうしていただろう。
これでルカの勝ちは堅いと私は思った。この場にいた全ての人間がそう思っただろう。
しかし、その考えは奴の前では浅はかなものでしかなかった。
ボルトは上へと跳躍はせずにその場でバク宙したのだ。
そう、ボルトの上から迫るルカを蹴り飛ばして……
ルカを場外に落とした後でボルトも場外へと着地した。
「何だと!?」
思わず私は叫んでしまっていた。
見事なまでのタイミング、ルカの狙いさえもその作戦に含まれていたということだろう。
ルカの落下のタイミングに自身のバク宙のタイミング、その全てが完全にそろわないとこうはならないだろう…
さらにルールを完全に把握している、最後までステージに落ちなかった者の勝利というルールの盲点をついた作戦。さらに一歩間違えれば自滅というのにそれを実行する度量。
実力の差が測れない……
それほどまでに離れているというのか?
ならそれをこの試験中に覆してみせる!