※注意
この小説は、以下の成分が含まれます。
・残虐行為
・救いようのない結末
・悪性を讃える精神

 その他色々問題のある一品なので、胸糞悪いバッドエンドが苦手な方は読むのをお控えください。
 大丈夫な方は、暇潰しにでもどうぞ。


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 友人との話で生まれた作品です。物は試しに書いてみました。



英雄

 

 その世界は、『英雄』によって救われた。

 長い時を戦乱にさらされ、あらゆる国家が疲弊によって潰えかけた時、突如戦場に現れた英雄とその仲間は、戦争の元凶を打ち倒し平和を確立させた。

 民衆は戦争の終焉と英雄の登場に歓喜し、和平を結んだ国家はその所業を讃えた。

 ならばその英雄が潰えた時、その世界はどうなってしまうのだろうか。

 

 

 円形に囲まれた建造物、コロシアム。そこでは激しい剣戟の応酬が繰り広げられていた。

 片や軽鎧に身を包み、陽光に輝く両刃剣を振るう『英雄』と呼ばれる少年。片やフードを目深に被り、片刃の曲刀を振るう謎の人物。背格好から男であることは推測できる。

「ぐっ!」

 剣戟の末に引いたのは、英雄の方だった。苦々しい顔で後退し、剣を構え直す。対し相手は追わず、だらりと曲刀を下げている。

「……弱い」

 フードの奥から小さく低い男の声が響く。それはこの剣一本で戦争を終わらせた英雄のプライドを刺激するには十分だったが、心中は怒りでなく疑念に満ちていた。

 市中を歩いている際、突如剣を投げつけてきた無礼な男。そこで悪びれる様子もなく決闘を申し込み、民衆が上げる彼への非難を背に近くのコロシアムで闘うこととなり、現在。てっきり英雄を倒して名を上げようと浅ましい考えの馬鹿かと思ったが、剣を振るうその実力は本物だった。

 一時的とはいえ、こちらを劣勢に追い込むほどの剣技。なのに誇る様子もなく、ただ構えて待ち構える姿。

「……お前は、継戦国の刺客か?」

 未だ戦争を望む者たちからの手の者か? 暗にそう問うてみるも、返ってくるのは沈黙のみ。

 沈黙を肯定と判断し、英雄は剣を構え直す。

「何も語らずか……いずれにせよ、この平和を乱そうとするものは許さない!」

 叫び、手に持っていた剣が輝き始める。それを横薙ぎに振るうと、光の剣閃が放たれた。

「……っ」

 高速で飛来する攻撃を、フードの男は横に跳んで避ける。

「今のは全力じゃない。刺客とはいえ人の命を奪うのは嫌なんだ、だから降参してくれ」

 切っ先を下げつつ英雄は降伏勧告をする。その姿に先程まで不安げに試合を見ていた観客達は歓声を上げる。

「……」

 フードの男は何も答えない。再び剣を構え突進をする。かなりの速度、しかし察知できないほどではない。

 英雄は諦めたのかかぶりを振り、切っ先を背後に向ける。剣から放たれる輝きは、先程の比ではない。

「仕方ない……平和を守るためだ、恨まないでくれよ? 

 リヒト・ルス!!」

 切り上げの要領で振るわれた一撃は、巨大な光の柱を生み出した。

 人間どころか巨大兵器も塵すら残らない一撃はコロシアムの中心に底の見えぬ穴を開け、観客を魅了する。そうして光が収まると英雄は一息吐いて剣を収め、

 

 

 その背に奇怪な茨に似た金属が突き刺さり、腹を突き抜けた。

 

 

「ガ、ハ!?」

 英雄の口から血が吐き出され、そこへフードの男が容赦なく蹴りを見舞い、刺された茨から強引に引き抜かれ、吹き飛ばされる。

「ガ、アアアアア!?」

 文字通り内臓を引き裂かれる痛みに、英雄は絶叫する。刺された時より傷は広がり、起き上がる事さえままならない。

「つまらないな」

 痛みに叫ぶ中、光の柱による衝撃でフードの外れた男は、倒れた英雄を見下ろす。その容貌は端正と言っていいが、瞳に感情の色はなく、底無しの汚泥が広がっているようだ。

「剣術は素人に毛が生えた程度、魔術は先天性に依存の上極少数、初級レベルしか扱えない。唯一多少の脅威となる玩具も力任せに振るうだけでは宝の持ち腐れ」

 先程の無口が嘘のように淡々と侮蔑の言葉を並べていく。表情は変わらないが、先程言ったとおり語り口はつまらなそうなものだ。

 男は傍らに突き刺していた剣を引き抜き、振り上げる。

「つまらないから、死ね。お前の死に価値はあれども意味なんてない」

「――!!」

 その言葉で歯を食いしばり、英雄は落とした剣を拾って片手で構える。

「……まだやるのか」

「当たり、前だ……! 意味がない、なんて、言わせない……! 俺が、俺が倒れたら、折角の平和が台無しになる! だから俺は、それを守る!」

 力強く宣言し、怪我人と思わせないキレのある動きに、観客達の悲鳴が歓声に変わる。「頑張れー!」、「負けるなー!」と。

 これが喜劇なら、男は瀕死の英雄に敗れるのが定石だろう。だが、そんな奇跡はない。

「……」

 無言で英雄を見る男の瞳には、呆れと微かな憐れみの色が感じられた。

「下らんな。力がないのに主張だけは強気で善的、虫唾が走る。

 ……いや、何も知らないからこそそう言えるのか」

「……何のことだ?」

 英雄は五感に優れている。だから男の小声にもしっかりと反応した。

 その時虫の知らせか、英雄の本能が告げる。この先を聞いてはいけない、速やかに男を倒すべきだと。しかし剣を振るう腕を止め、口を開いてしまった。何故と。

 その問い掛けは、英雄自身を殺す刃になると知らずに。

「俺は何処に雇われたと思う?」

「何処? そんなの、継戦国に決まって」

 英雄に最後まで言わせず、男は首を横に振る。

「――」

 男が口にしたその国が英雄は一瞬硬直するが、すぐに立ち直り激昂した口調になる。

「ふざけたことを言うな!!」

「ふざけてなどいない、ただの事実だ」

 男は淡々と言うが、英雄には到底信じられない。何故なら告げられたのは、自分が守り、愛し、今ここにいる国なのだから。

「騙すにしてももう少しマシな嘘を吐くんだな! 証拠も何もないのに、信じられる訳がないだろう!」

「……証拠、か。それならあるぞ」

 今にも斬りかかりそうな英雄に対し、男は調子を変えず掌を天にかざす。すると手の上に光球が浮かび上がり、英雄に向かってゆっくりと飛んでいく。

「それに触れれば、分かる」

 罠だと思った、本能も触れるなと警告を流している。それでも英雄は傷だらけのまま疑念を拭えず、手を伸ばしてしまった。

 

 

「――では、――殿は継戦国の刺客によって亡くなる、ということでよろしいですか、姫殿下?」

「ええ、それで構いません。異世界から来ていただいた――殿には申し訳ありませんが、彼には死ぬことで本物の『英雄』となっていただきましょう」

「かしこまりました。それでは人選なのですが――」

 

 

 会話の内容、言葉とは裏腹の醜悪な表情、見覚えがある王城の一室、自分が信頼し、信頼してくれた大臣、共に戦場を駆け、そして婚約を誓った愛する姫君。

 時間にしてどれくらいか、それら全てが偽りと断ぜられないリアルな幻覚として見えた。見えて、しまった。。

「うそ、だ」

 英雄は搾り出すようにそれだけ言い、握っていた剣が乾いた音を立てて落ちる。

「ただの事実だ」

 男が冷たく断じると、英雄はうわ言のように口を開く。

「でも、俺には、守る民が」

「お前の劣勢を感じてすぐ様逃げ出すような輩をか」

 実際、英雄が倒れたのを見て悲鳴を上げながら逃げ出すものは少なからずいた。

「死にかけているお前を、誰も助けようとしない連中を」

 実際戦闘の間に割って入るなど無茶もいいところで、誰も助けないのはそれだけ英雄の実力を信じているからなのだが、彼にはそれを否定する材料が、もう、既になかった。

 空虚さが心を閉め、英雄は膝を付いてしまう。そんな彼の様子に観客が疑念と悲鳴の声を上げる中、

「哀れだな」

 いつの間にか傍らに立っていた男が、無表情のまま、

「呼ばれ、戦わされ、利用され、亡き者にされる。ここで例え俺を退けても、同じような刺客が送り込まれるだろう。

 お前は世界に見放された」

 男の言葉は呆然としている英雄にとって不思議とよく聞こえ、その心を絶望に染めていく。

「捨てられしもの。お前は、どうしたい?」

 ゆっくりと紡がれる男の言葉に、英雄はしばし黙り、そして、

「……許せ、ない」

 言った。その言葉をきっかけに、空虚さは憤怒に、絶望が憎悪に転じていくのを感じる。

 負の想念に染まりつつある英雄を見て、男は一つ頷く。心なしか、満足気に。

「ならば剣を取れ。お前を見放した民に、お前を利用し、裏切った国に」

「う、ぅ」

「お前には復讐の権利がある、その力もある。ならば後は思うままに振るえばいい。

 民も国も、敵も味方も平等に殺し尽くせ。そうすれば争いはなくなる、お前が望む『平和』が訪れる。

 さあ――お前の『正義』を執行しろ」

「う、ううぅゥウ、アアアアアァァァァアァ!!!」

 男の宣言と共に、英雄の唸り声は絶叫へと転じた。銀に輝く剣は漆黒へと転じ、纏う気配は物理的圧迫を伴うほどの殺気に転じる。

「ア、アァ、ユ」

 状況が理解できず戸惑う民に剣を向け、

「ユル、サナイ!」

 かつて戦乱を静めるために振るわれた白い光は、黒の極光となってコロシアムの半分を、そこに居る民ごと薙ぎ払った。

「ゼン、ブ、オワラセル……!」

 己が築き上げた『平和』を終わらせるため、堕ちた英雄は前進を始める。

 

 

 

「……持ち主の性質に応じて聖剣にも魔剣にも転じ、その性質を両儀いずれかに偏らせる玩具、か。言葉一つであれだけ染まるのだから、性質の悪いものだ」

「玩具もそうだが素養もあったのでしょうね。召喚される前は鬱々としていたようだし、『平和』だの『英雄』だのに拘るのは自身の過去を振り返らぬための逃避では?」

 半円が吹き飛び、民衆が逃げ去ったコロシアムの中心には、英雄を陥れた黒髪の男と薄い紫の長髪を揺らし、楽しげに酷薄な笑みを浮かべた女がいた。

 少女と女の中間にある見るものを魅了してやまない容姿、鈴の音のような愛らしくも美しい声音を持つが、その纏う気配は禍々しい神性と矛盾した例えが合うもので、瞳は男が底無しの汚泥なら、こちらは穴だろう。落ちれば決して戻れぬ暗さを讃える、そう錯覚してしまうほどの。

 二人は破壊されたコロシアムの方角を向いている。そこからは街のあちこちで黒い極光が上がるのが分かる程度だが、彼等には破壊される町並み、泣き叫び逃げ惑う人々、それらを切り伏せる、あるいは消し飛ばす英雄の姿が見えていた。

 その光景を男は無表情で、女は愉快そうに見ている。とそこに、

「おい貴様、どういうつもりだ!」

 格好からして高位の身分だろう、痩せぎすの男が激昂した様子で男の胸倉を掴み上げる。

「……どういうつもり、とは?」

「とぼけるな! 何故あの場で英雄を殺さず、暴走させるような真似をした!」

「契約では英雄を負かす、という条件で引き受けた。殺せとは言われていない」

「それは方便だ、そもそも彼を亡き者にして『英雄』にするのに、生かして何の意味がある!

 とにかく、今すぐに奴を止めるんだ! このままでは国がほ――ガッ!?」

 貴族の男は最後まで言えなかった。その腹を男の手刀で貫かれたからだ。

「な、にを――」

「あんたには感謝している。皇族に俺を紹介してくれたお陰で、奴を地獄の底に堕とす材料が容易に手に入ったからな。

 だから――楽に殺してやろう」

 そう言って、男はもう片方の手を振るおうとするが、

「ストップ、待ちなさい」

 その手を傍らの女に掴まれ、強制的に止められる。

「……なんだ?」

「そいつは私が預かるわ。折角の楽しい会話を邪魔したのだし、躾のなってない畜生には罰を下さないとな、『蟲蔵(むしぐら)』?」

「……好きにしろ。あんたの命なら従う、『殲火(せんか)』」

 蟲蔵と呼ばれた男が貫いていた手を引き抜くと、殲火と呼ばれた女は貴族風の男の首根っこを掴む。

「な、なに、を」

「囀るな塵芥。さて、私の会話を遮った罪は」

 女が指を鳴らずと、その背後に無貌の影とでも呼ぶべき、顔の無い異形の巨人が複数出現する。

「今日は気分がいいし、三十分で許しましょう。では、良い生き地獄を」

 そう言って、貴族風の男を投げ捨てる。そこに異形達が群がり、絶叫と咀嚼音が聞こえてきた。

「それで、英雄さんはどうかしら?」

「王城の方へ向かっているな。城門も破壊された、接触はもうすぐだろう」

「そう。それならそろそろ向かいましょうか」

「……別にここからでも『視える』が」

「分かってないわねえ。ああいう絶景は、その目で直接特等席で味わうのが醍醐味なのよ」

「……そういうものか」

「そういうものよ。それじゃあ、最後の仕上げを見に行くとしよう」

 背後の絶叫など気にも留めず、男と女はその場から消え去った。

 

 

「やめて、どうしてこんなことを!? 貴方が望んだ平和を、守ると誓った平和を、どうして!?」

「アア、ウソダ、ウソウソウソウソ!! イマノオレニハワカル、オマエガノゾムヘイワガチガウノモ、オレヘノアイノコトバガカザリナノモ!」

「――それ、は」

「――ウソ、ナンダロウ?」

「……ごめん、なさい。貴方を呼んで、利用して、捨てて。それでも私は、私が愛した『国』を、守りたかったの!!」

「……ソウ、カ」

「許してなんて言わない、だけど分かって欲しいの、私は――」

 

 

「ジャア――シネ」

 

 

「――!? かっ、や、め」

「シネ、シネシネ。オマエモタミモ、クニモゼンブキエテシマエ。ソレガコノオレヲ、『エイユウ』ヲウラギッタダイショウダ」

「っ、それ、だ、け、は。おね、が」

 ブチィ。最後まで言うこと叶わず、姫と呼ばれた女の首は『英雄』の手で引き千切られた。

「ア、ハハ……ハハハッハアハハハハハ!!!」

 無残にも人と物が破壊された部屋の中で、もいだ部分から臓器が垂れる女の首を手に、『英雄』は狂笑する。

「ハ、ハハ、アハハハアハハハハハハハハッハハ!!!」

「……在り来たりな悲劇と惨劇だな、何が楽しいんだ?」

 『英雄』が笑い続ける中、同じ部屋の端に立つ男は冷めた口調で傍らの女に問い掛ける。その声には、失望の色が強い。

「そうね、行為だけ見ると然して珍しくもないわ。だが、『英雄』の瞳を見るといい」

 言われて視線を向けると、その瞳からは鮮血が流れていた。

「『英雄』は黒に染まりきった訳じゃない、僅かだけど善の部分を残している。その部分が、愛した国を、姫を殺した己の行為を後悔している、嘆いている。

 良心の呵責、と言うべきか。あの涙はその証、堕ちて笑いながら、残った善意で泣いている。

 それは究極の自己満足。そう考えれば――ねえ、これほど愉しいものはないでしょう(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「……」

 女の解説を受け、男は再度男を見る。未だ笑い続ける『英雄』、その瞳から流れる赤い涙。再度それを認識し、ゆっくりと噛み締め、

「……確かに、悦を感じられるな」

 一つ、頷いた。それに女は満足そうに微笑む。

「ふふ、分かってきたわね。貴方、笑ってるわよ?」

「……そうか?」

 男は叩き割られた鏡に目を向ける。そこには歪に映りながらも、確かに笑みを浮かべている己が映っていた。

「そのようだな」

「そうそう、自覚するのは大切なことよ。

 さて、これで干渉は終わり。後は程よい所になったら改めて来ましょう」

「アレに任せるのか? 一応観察を続けた方がいいと思うが」

「もう最大の見せ場は過ぎたし、あとは流れ作業。閉幕後の凡庸な日常を書く舞台作家はいないでしょう? 私達がやるのは、最後の片付けで十分なのよ」

 もうここに価値はない。女がそう断じたので男は頷き、二人はその場から消え去った。

 『英雄』は未だ笑う。己を貶めた者達が気付かず、気付けぬまま。

 

 

 彼等は『星』を喰らうもの。

 世界を渡り、命を啄ばみ、文明を崩壊させ、焦土に変える。

 行うは殲滅と売却。しかして真の目的は――その過程で行われる、人という種を絶望と狂乱に叩き落とす事で得られる、愉悦。

 悪逆を美徳とする彼等はこう呼ばれる。

 『滅星屋(ほろぼしや)』と。

 

 

 




登場人物紹介
蟲蔵
 フードを目深に被った青年。『英雄』を貶め、世界を破滅に導かせた。肉体を変化させる能力を持つようだが、詳細不明。
 
 
殲火
 蟲蔵の上役に当たる存在。その残虐さは蟲蔵を上回るのは間違いない。
 
 
英雄
 異界より呼ばれ、戦乱を収めたことで『英雄』と呼ばれた存在。しかし武力しか持たず政治的駆け引きが行えないため、戦後は帰順した自国に持て余され、疎まれる存在となった。
 呼ばれる以前の世界で孤独だった故、与えられた使命に喜び奮闘した男。それ故裏切られたときの喪失と憎悪への反転は、彼の心を容易く蝕んだ。
 
 
後書き
 どうも、ゆっくりいんⅡです。この作品は前書きに書いたとおり友人との話を元に執筆してみたオリジナル作品です。
 現在手掛けている緋弾のアリアや艦これとは大分毛色の違う作品となっていますが……まあ、こういうのも好きな趣味の悪い奴だと思ってください。自覚はあります(汗)
 突発の思い付きで書いた単発なので、今後続きはあるか分かりません。続きは気が向くか、友人との会話が盛り上がったら書くかもしれません。
 それでは今回はここまで。良ければ感想、批評、評価、誤字訂正、お待ちしています。

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