帝国歴959年 アーヴによる人類帝国は新たなる作戦を発動させた。その作戦名は双棘(そうきょく)作戦と命名された。ラスィース王国とスュルグゼーデ王国の間に獲得した新領土から天川門群中心円までを制圧することで人類統合体と拡大アルコント共和国を分離。同時にバルケー王国を発起点として人類統合体と人民主権星系連合体の勢力境界線を打通し、中心円に至る。これにより人類統合体を孤立させることを目的としていた。
「退屈だわ。」
スポール・アロン=セクパト・レトパーニュ大公爵・ペネージュ提督は、双棘(そうきょく)第一艦隊の旗艦<ラーシュカウ>の司令座艦橋の長椅子のような司令座席で、優雅にねそべっていて、平面宇宙を紅い瞳で見つめながらつぶやいた。
「司令長官、ここは、一応、3ヶ国連合の人民主権星系連合体の領域です。そのような風な調子では士気にかかわるのではないのでしょうか?」
クファディス・ウェフ=ウェスピール・セスピー千翔長は、勇気を持って、スポールに忠言をした。
「参謀長、なら、あなたがさっさと、敵の艦隊を出してください。そうしたら、あたくしは、喜んで相手をしますよ。そのかたたちと。さあ、早くだしなさい。」
そういいながらもとがめるような目つきでスポールはクファディスを見つめた。
「すいません。それは、無理です。とりあえず、ここは、状況を静観します。」
クファディスは、その視線をさけるように自分の仕事に専念した。
「そう、わかったわ。なら、あたくしも好きにさせていただくわ。」
そう言った後、スポールは、軽いあくびをした後、司令座席にいつもの通りよりかかっていた。
そんな状況の中で、クファディスは、今後の偵察の進路予定を考えていると、突然、平面宇宙に異変が起きた。
「司令長官、カルハーク門から突撃艦級時空泡が確認されました。こちらへ向かっている様子です」
「あら、何かしら。ひとつということは、戦闘を望んでいるとは思えないわね。それだったら、そうとうのお馬鹿さんでしょうね。まあ、とりあえず、様子をみようかしら」
状況が進展して退屈から解放されると思い、スポールは紅い唇をゆがめた。
「司令長官、どうやら、泡間通信で、その船は自分の星系の降伏を申し入れています。詳しい条件は記憶片で渡すと伝えられました。」参謀長のクファディスは難しい表情で伝えた。
「降伏…?ふー、面倒ね。無条件ではないみだけど、この手の仕事は、皇太子殿下にまかせたらいいのに、どうしようかしら?まぁ、いいわ。とりあえず、条件を見てから決めるわ。」
その後、旗艦<ラーシュカウ>のもとに、カルハーク星系の使節の人物が連絡艇で記憶片をたずさせてきた。そして、スポールは儀礼どおり挨拶をすると、記憶片をつないで、その条件を見た。
「ふーん、なるほどね。条件は一つ。降伏調印の式典を真空空間ではなく地上で行って欲しいということね。わかったわ。その条件でいいわ。うけましょう。」
そういって、使者に優雅にスポールは微笑んだ。
「そうですか、ありがとうございます。では、早速、準備の方をすすめます。」使者も安心した様子で答えた。
「司令長官、いいのですか?そんなにあっさりとお受けになって、もう少し慎重に決めた方がいいのではないでしょうか?地上世界に行くという条件は少し妙だと思います。」
クファディスは、スポールに慎重に考えてから決断するようにすすめた。
「あら、参謀長、ここの最高指揮官は誰かしら?これは、命令よ。それに決定事項だわ。」
「そうですか、わかりました。」
「でも、あなたの言うことももっともね。なら、あたくしではなく、他の方にその式典にはいってもらうわ。」
そういって、何かを思いついたように口を歪めた。
そのとき、クファディスは思った。この条件を聞いた瞬間からスポールの頭の中にはすでにその候補が決まっていたのだということを。そして、それが、彼女のちょっとした悪戯もしくは、なにかの嫌がらせの一種だとも感じていた。それが自分にこないようにもクファディスも祈っていた。
そうすると、スポールはその様子を楽しそうに見ながら言った。
「あら、残念ながら参謀長にはその役目は頼まないわよ。安心して。あたくしがこれから言う条件の方をその式典の帝国代表に選んで。ついでに副代表も必要になるわ。」
「はい、わかりました。(副代表?どういうことだろう。とにかく、俺ではなくて助かった)」ほっとクファディスは胸をなでおろした。
スポールが出した条件は、主に三つあった。一つは、宮中序列でなるべく身分の高い人物であること、二つめは、地上世界において任務もしくは、戦闘の経験があること、そして最後はこの星系から1週間以内にこられることだった。
その条件を満たす人物を代表、そして、それに近い人物を副代表に選ぶというのが基準であった。
クファディスがその条件を照らし合わせたとき、ある人物の名があがった。そのとき、彼は思った。これは、スポールなりの嫌がらせと復讐だと。
「司令長官、候補が見つかりました。アブリアル副百翔長とリン主計前衛翔士です。彼女達が乗っている襲撃艦<フリーコヴ>がここの近くの国境付近で訓練を行っているとありました。」
「あら、そのお二人なの。偶然とはおそろしいものね。参謀長。なら、早速手配して頂戴。あくまでも、あたくしが条件をだしたのがたまたま、該当したと殿下と伯爵閣下には伝えておいてね。」
そういいながらもスポールは満足な笑みを浮かべていた。
「はい、わかりました。連絡艇で命令を伝えます。(わかっていて、この条件をだしたくせに)」そういって、敬礼をして、クファディスはその場をさった。
「さて、どうなることかしら。できれば、地上世界で楽しいことが起きて欲しいわね。でないとあの頑固娘に痛い目をあわせることはできないわ。」
そういって、スポールはとても楽しそうにつぶやいた。