The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~   作:手拭

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気に入らなければ叩き割る。
陶芸家の気持ちで執筆したいと思います。






1. それは不思議なこと


レナード・テスタロッサは目を覚ました。

 

まだ寝ていたい欲求に最大限の抵抗を試みながらベッドから抜け出す。

起きぬけの覚醒しきっていない意識のままぼんやりと壁に掛かった時計を見る。

 

8時52分

 

「・・・ふむ。我ながら眠りすぎたようだね。」

 

最近、安心して眠れる環境になったからだろうか。

以前よりも睡眠時間が格段に増えている。気でも緩んでるのだろうか?

そんな疑問も口にしようとしたところに声が掛かった。

 

「いや寝すぎやから!ほっといたらいつになったら目覚ますかと思ってたら全然起きへんし」

 

――そのときレナードに衝撃が走った。

 

――妙だ。時計から声が聞こえる。

 

いやまて、時計に高性能のAIが組み込まれているのかもしれない。

いやいや誰がそんな無駄をするというのか。ということは―

 

「時計の声が聞こえる?これはまだ夢なのか」

 

「いつまで時計見てるん・・・首の角度もうちょい下げてみ」

 

時計のAIの指示に従って視界の角度を下げると車椅子に座った少女と目があった。

車椅子の少女は眉根を寄せた表情でこちらを見つめていた。

 

「ああなんだ。おはようハヤテ」

「はぁ。3回も起こしにきてようやくかいな」

「・・・すまない。気がつかなかったんだ」

「まぁ、レナードが朝弱いのはようわかった。でもって朝ごはんできてるからはよおりてきてなー」

 

そう言うが早いか彼女は車椅子を器用に操作し階下へと向かっていってしまった。

 

「無理に朝食を作る必要はないと言ったんだがね」

 

ベッドに腰掛ける。

見慣れ始めてしまった自身に割り当てられた寝室を見回してからため息を吐く。

 

彼女の名は八神はやてという。

この家の家主であり、居候である自身の恩人でありここ最近で一番の会話相手だ。

現状に至った原因はいくつかある。

そもそもこの家に厄介になる直前の記憶。その記憶にある出来事の中で自身は深手を負っていた。

というのも――

 

「―おっといけないな。はやくリビングへ行くか」

幾度となく繰り返している思考を放棄してレナードは、家主の待つ食卓へと向かった。

 

・・・・・

・・・・

・・・

 

「んでなシャマル。レナード、時計から声がきこえるーとかいいだすんよ」

 

朝の食卓、早々にレナードは窮地に追い込まれていた。

今朝は言いようが妙におとなしかったと思えばこういうことだったらしい。

皆一様に口元に食事を運びながらハヤテの言葉を聴いている。

 

「まぁレナード君、時計と会話するスキルがあるの?」

「いやハヤテの言葉をストレートに受け取らないでくれシャマルさん。朝は時計しか目に映らないんだ」

「どんだけ視野狭いんだ。お前」

 

突っ込むヴィータにクスクス笑うシャマル。

最大限の抵抗を試みたが不発に終わったらしい。・・・理不尽なものだ。

 

と、それまで黙々と食事をしていたシグナムが口を開いた。

 

「夜中に何かしているのか?」

「庭に残ったベリアルの残骸の解析を進めていてね。ちょうど壁に当たって頓挫していたところだったんだ」

「なるほど。それで何か分かったのか?」

「相変わらずだ。GPSの位置情報は無茶苦茶だし、そもそも一番肝心な部分のデータにアクセスできない」

「・・・そうか。なにやら分からんが、まあ時間はある。ゆっくりと進めればいいだろう」

「そうやでー。ここにいるのはかまへんから、何か分かったら教えてな」

 

ザフィーラの言葉に続いて、そううれしそうに言って、ここの家主は食事に集中し始めた。

 

 

実にありがたい話ではあった。

 

気がついたら、自分は既にこの家のベッドに横たわっていた。

 

――サガラと対峙していたとき、スイッチに手をかけたところで体に衝撃を感じたところまでは覚えている。

そして目を覚ませば見知らぬ家の天井を見ていたというわけだ。

 

ようするに傷の治療を施され、匿われているという状況だった。

 

遥か太平洋の無人島にいたはずの自身がなぜ一般の民家にいるのか。

塞がった傷を見て気がついたことだが、そもそもこの重症でどうして生きていたのか。

 

当初は、様々な疑問があったが体が癒えないことにはどうしようもなかったためひとまず現実を受け入れることにしたのだった。

 

それに加えて次のようなやりとりもあった。

 

――「君にとっても迷惑だろう。僕は別のところにいくとするよ」

――「何言うてんのや!体が治って行き先がわかるまで家から出さへんで!!」

 

これがこの居候生活が始まることになった、主なきっかけであった。

 

きっかけはそんなものだったが、既に2ヶ月が経過している。

賑やかさとは縁のない生活を送っていた以前の自身だったがそろそろ慣れてきた。

結果として、自分でも何故かは分からないが今の生活を気に入っているみたいだ。

 

そう、彼自身気がついていないことだったがこの善良な家主たちとの共同生活をレナードは楽しいと思いはじめていたのだった。

 

「んん。まあ今日も図書館行くんでよろしくたのむで」

「ああ、分かったよハヤテ」

 

状況がはっきりとするまで、この家主に付き添う生活も悪くは無いだろう。

そう思いレナードは八神はやて達との共同生活を選択したのだった。

 

 

 

 

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1.それは不思議なこと

 

若干の傾斜のついた緩やかな坂道がある。

2車線の道路の両端に植えられた木々は既に葉をつけておらず、季節がもう冬であることを物語っていた。

 

この緩やかな坂道を越えた先にある建物が目的地だ。

 

海鳴市立図書館。

 

八神はやてのよく通う場所である。

この場所と自宅を行き来する際に同伴するのがレナードにとっての日課になりつつあった。

 

「やれやれ。ようやく着いたな」

 

ハヤテの座る車椅子を押し正面入り口の自動ドアをくぐりながらレナードはぼやいた。

 

「毎回まったくおんなじことゆうてて飽きへんなあ・・・まあいつも通りにしてくるから」

「ああ、分かった。僕も館内で読書に集中するとしよう」

 

そういって図書館の奥のほうに向かっていく家主を見送ってレナードも目的の書籍を探しに向かった。

 

 

 

それは遡ること2日前である。

八神家での夕食時にリビングでつけっぱなしにされていたTVのニュース番組の一コマだった。

 

『――ご覧ください。未曾有の災害に見舞われたモスクワ市内の様子です。この災害に対する措置として”ロシア”政府は――』

 

聞き間違いではなかったはずだ。

 

モスクワという知っている単語と聞いた覚えの無いロシア政府と言う言葉。

 

そして自身の記憶している限り、ソ連で起こったクーデターは失敗に終わり東西の冷戦構造はその後維持されたままになっていたはずだ。

その国交が断絶しているはずの現地に、日本のTVレポーターがいたことが不可解だった。

 

―まさか、変容が成功したのか。

 

自身でも半信半疑だったがそう思った。

あのメリダ島での行動はこのために自身が起こしたものだ。

だが、仮に成功したと仮定しても不可解な点が多い。

 

その代表例として、変容前の記憶が自身にあることの説明がつかないことなどがある。

 

なにか手がかりはないか。

 

今日はそうした疑問について検証する材料を集めるのが目的だった。

まず手に取った書籍は3冊ほど

近現代史に関する書籍、科学技術に関する書籍、地図の載っている書籍だ。

 

レナードは図書館に設置されているテーブルの端のほうに腰掛けると、さっそく選別した書籍に目を通し始めた――

 

 

4時間後。

 

八神はやてはレナードを探していた。

そんなに大きな建物ではないこの図書館は車椅子で探しまわっても30分ほどで1週できる広さだ。

だというのに未だ見つからないので本当にどこにいったのかと思っていたときに、彼を見つけたのだった。

 

 

――レナードが書籍に読み耽り始めてから日は徐々に傾き、窓には夕暮れの景色が映し出されていた。

暖房の効いた室内は夕焼け色に映し出されている。

周囲にあまり人影は無く、広いテーブルも彼がただ一人座っているのみで、そこは彼の世界となっていた。

 

長い銀髪は夕焼けに照らされ、テーブルに肘をつき、

口元に手を当てながら片手で押さえた書籍に目を落としている様は黄昏時に気取っているように見えながらもそれなりに絵になっていた。

端から見ればきれいな一枚絵だ。

 

年頃の娘であれば思わず魅入ってしまう光景なのかもしれない。

 

しかし八神はやての抱いた感想は全く別物だった。

 

彼がどこか寂しそうだと思ったのだ。

 

そう思ったのは何故だか分からなかった。だが、彼を見て自分がどこか寂寥感を感じていることは確かだった。

自分と比べれば幾分も大人であるはずの彼の姿が何故か自分と同年代の、それも置き去りにされた子供のように写ったのだ。

 

もしかすると自身が以前に抱いていた孤独感がそう思わせたのかもしれない。

それでも直感的に彼女は感じていた。

 

彼は自分と似ている――

だから、声をかけなくてはいけない。

 

「レナード」

 

 

 

 

 

 

図書館という公共の場所で提供される書籍で得られるものは得られた。

予想はある程度は当たっていた。

だが、予想通りだったためにかえって得られるものが少なかったというのが正直な感想だった。

 

「レナード」

 

まず、近代史についてだが自分の記憶している史実と大きく異なる点がいくつか見られた。

中でも興味深かったのはやはりソビエト社会主義国連邦の崩壊だろう。

 

「レナード!」

 

加えてこの世界の技術水準を知ることが出来た。

概ね自分の知っている技術が登場する前の水準だった。

 

 

「レナード!!」

 

そして、ベリアルのGPSの位置情報が無茶苦茶だった理由も判明した。

日本地図を1ページ目から最終ページまで眺めていたのだが、

自身の記憶している部分と共通しているところも多かったが、異なる点も多く見られた。

一例としては大阪府が大坂都になっていたような部分だ。

 

これらの情報が得られた今次にやるべきことは――

 

 

「レナァァアドォォオオ!!」

 

 

――瞬間彼は驚いて顔をあげ周囲を見渡した。

 

そして声の主を見つけると呆れた様な声で告げた。

 

「なんだハヤテ、図書館はそんな大きな声を出す場ではないんだが」

「ちょいまった!おにーさん本気でゆーてんのか!何回呼んだら気がつくねん」

「む?1回しか呼ばれなかったと思うんだが」

「まじか!!6回は呼んだがな!!」

 

嘘である。

最後を含めても彼女は4回しかレナードを呼んでいない。

 

「そうか・・・すまなかった。気がつかなかったんだ」

「いやなんかそれ最近口癖になってない?!というかなんで気がつかんねん」

「そんなことよりもだハヤテ」

「なんや?!華麗にスルーして流そうとしても無駄やで」

「あそこのカウンターに座って六法全書を手に取った司書さんの目つきが先ほどから気になるわけだが・・・」

「あぁ!司書さんごめんなさい!静かにするんで角はゆるしてぇ!!」

 

結果、八神はやてに図書館司書の鉄槌は下されたのだった。

 

 

 

 

「納得いかへん・・・なんで私だけ制裁されるんやぁ・・・」

図書館からの帰り道、レナードに車椅子を押されながらはやてはぼやいた。

そのぼやきを聞きながらレナードはただ、苦笑する。

 

「まあ図書館ではお静かにということだよハヤテ」

「いやその原因に言われてもなんかなぁ!」

 

なだめるために言ったというのに余計に刺激してしまったようだった。

苦笑しながらハヤテの車椅子を押して坂道を下っていく。

 

やれやれ図書館での調査結果といい今日は散々だな。

 

内心でレナードはそう思った。

 

まずよく考えてみると、得られた情報がどれも中途半端に解が得られたというような状況で、結局何も解決していない点が不満だった。

史実は異なり、ブラックテクノロジーの存在も無い。

だが自身に記憶があることやベリアルの残骸のように、変容が成功したことを否定する確たる証拠が存在しているのだ。

その部分については資料からはやはり何も得られないのが問題だった。

 

個々の解が得られたのに結果として何も進んでいないのだ。

 

加えて、今の自分の気分にも納得がいっていない。

 

変容が僅かでも成功した可能性があるというのに気分は最低だったのだ。

 

 

正しい世界を願った自分。

間違った世界を正そうとし、その崇高な理念を実行に移した。

 

そうしたことのどれもがどうしようもなく、くだらないと思えたのだった。

 

そんな筈はないはずだ。

 

あんな世界は間違っていた。

ウィスパード、ブラックテクノロジー、そうしたものに包まれている世界。

 

自分の行動は正しかった。

だって自分はそうするしかなかったではないか。

 

だというのに何故?――こんなにも――

 

「どうかしたん?」

「―っ!?いやなんでもない」

 

こちらの表情を伺うハヤテの言葉にはっと気がついた。

坂道はもう下りきっており、行きも帰りも利用するバスの停留所がもうほんの少し先という程度までさしかかっていた。

 

「まあバスが来るまで待つしかないね」

 

「・・・」

 

思考に耽っていたことを誤魔化すように口にしたのだが、結果として無言で返されてしまった。

先ほどのこともあるのか、やはり家主はご機嫌ナナメなのだろう。

さてどうやって機嫌をとったものかとレナードが思案しているところに彼女の声が掛かった。

 

「今日はゆっくり散歩でもしてかえろ。晩御飯は作り置きもあるし、1時間くらいしか変わらんやろ」

 

 

「バスを待たずに歩いて帰るのか?まあ僕はかまわないが」

「そうや。散歩して帰るんや。ちょっと寒いけど付き合ってな」

 

そういうと家主ハヤテは車椅子を押すことを催促してきたのだった。

 

 

坂道を下りきった後もこの街道の並木は続いていた。

木々には葉はついておらず、ところどころ紛れ込んだイチョウの黄色が目立つ。

気温はやはり肌寒い。

冬間でもやはり日が昇っている時間と、日が沈んだ時間とでは寒さが段違いだ。

 

曲がり角に差し掛かったところで声をかけた。

 

「君はなにか僕にいいたいことでもあるのか?」

「こういう時だけ反応いいんやなぁ。まあそうやね」

「さすがに誰でも気がつくシチュエーションだろう。それでなんだい?」

「いやな、なんか悩んでるんちゃうんかなとおもってな?」

「・・・」

「何で黙るんや。まあ話しにくい内容なら別に話さんでもええんやけどな」

「いや驚いたんだよ。君が本当はいくつなのかと思ってね」

「茶化さんといて。別に話したくないならええんやけど」

 

自分より7歳も年下の娘に相談する男というのもどうなのだろうか。

それも子供。

いやまて、そんなことを言うのなら家主-居候という関係上で既に逆転していたか。

 

そんな余計なことを考えてから、他に話す相手もいなかったなと思い本心を告げることにした。

 

「ハヤテ、例えばだが君は自分自身が絶対だと思っていた価値がどうでもいいと感じるというような経験はあるかな?」

「なんかえらいヘビーなボールきたなぁ」

「ひどいやつだな。君は」

 

聞いてきておいてその感想はどうなのか。

言いながらも彼女の率直な反応に苦笑した。

 

 

それから結局、彼女は何も言わず黙ったまま景色を楽しんでいた。

 

図書館へと続くレンガの敷き詰められた歩道が終わり、見慣れたアスファルトの道へと入った。

 

カラカラと車輪の音を立てながら、歩道を進む。

 

見覚えのある景色がちらちらと見え始めていた。

彼女の家が近いのだろう。

 

 

そんなことを考えながら、先ほどのことなど忘れて歩んでいた。

 

と、そんなときに声が掛かった。

 

「あんな。うち子供やから何があったかなんか聞いても分からんと思う」

 

「でもな。シグナムやシャマルみんなに言ったことなんやけど。これだけは確かにいえることがあるんや―」

 

なにが、と言おうとしてレナードは口にすることが出来なかった。

なぜならその瞬間彼女は彼がこの数ヶ月で見た中で一番の笑顔で微笑んでいたのだから。

 

 

「シグナムも、シャマルやヴィータ、ザフィーラそんでレナードも、みんなおんなじ家に住んでご飯たべてる家族なんや」

 

 

はっきり言って意味が分からなかった。

 

 

同じ家にいて、一緒に食事をすれば家族だなどという彼女の言葉は理解不能だ。

それに肉親にすら裏切られたことのあるレナードにしてみればなおさらのことだ。

 

そしてなにより、質問の答えになっていない。

 

だが―

 

だが、不思議と悪い気はしなかった。

 

なぜだかは分からない。

だが悪い気はしないのは本当だった。 

 

「そうか。家族か――まあ家族ならしょうがないな」

 

自分自身なにを言っているのか分からなかった。

 

「そうや家族なんや」

 

それを聞いて何が誇らしいのか彼女は胸を張りながらそう言う。

そんな彼女を見ていると、レナードは先ほどまで考えていた内容などどうでもよくなってしまった。

 

暗鬱な気持ちは消え去り、いつもの落ち着きをレナードは取り戻していた。

 

 

「だがまあ、僕には妹が一応いるんだが・・・」

 

 

すると彼女は心底驚いたような表情でこう告げた。

「え?レナード妹さんいるん?初耳やでそれ。あれ?記憶喪失やなかったん?」

 

「ああ。仲は最悪だったが一人ね。それとなんだい、その人の記憶がないかのような言い草は」

「えっと。庭で倒れてるようなやつはみんな記憶喪失なんだってシャマルが言うてた」

「なんなんだ・・・そのピンポイントなカテゴライズは。悪いが記憶ははっきりしているよ」

 

そんな会話をしているうちに、八神家の前まで到着していた。

 

「じゃあ晩御飯食べながら詳しい話ちゃんと聞かんとな」

 

「ああそうしよう。なに今夜は僕が作ろう――」

 

こちらを見上げる少女に笑顔でそう応えながらレナードは彼女の車椅子を押して家の中へと入っていった。

 

 

1話 それは不思議なこと fin

 

 




2016.9.10
全話、あとがきを削除しました
バックアップは取っています。
2018.4.19
「1話」を「1.」へ変更
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