The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~   作:手拭

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10.そして止められないこと(後編)

シャマルはその気配にすぐに気がついた。

後ろから視線を感じ取りばっと振り向く。

 

そこには知っている人物が立っていた。

 

「彼に時間を取られてしまった。なに、気を失っているだけだよ」

 

クロノ・ハラオウンはまず第一声をそう発した。

 

そう言って、彼が引きずって来た狼状態のザフィーラを魔法でこちらへ飛ばしてくる。

 

足元に転がったザフィーラの元へと駆け寄る。

警戒しているシャマルへとクロノはなおも話しかけた。

 

「彼は仲間を守りながら、僕と僕の周囲にいた魔導師数人を相手にして戦った。

 僕が放った魔法を射線上にいた他の2人を庇って受けさえしなければ、負けていたのは僕らだった。

 事実無事な魔導師は僕しか残っていない」

 

 

そう言って切れた頬をさすりながらザフィーラを見つめた。

 

「誇っていいだろう。君達は間違いなく彼女、八神はやてを守る最強の騎士達だよ。

 まあそれはいいとして本題に入ろう。」

 

そういってクロノは自分のバリアジャケットと武器であるデバイスの展開を解いたのだった。

 

「どういうつもり?」

 

シャマルが問う。

 

まあそう思うだろうとクロノは思った。

だが今回も純粋に話がしたいだけだ。

 

「つもりもなにも君と話がしたいだけさ。

 前回言っただろう。報告はしてもらうと」

 

そうだった。

 

シャマルは思い出す。

確かに以前、アースラから逃れる際にクロノは言っていた。

 

彼女は傷ついたザフィーラを抱えてクロノと戦うか。

このまま話を続けてタイミングを見計らって脱出するか。

 

その2つを天秤にかけて後者を取った。

 

「分かったわ。でもザフィーラの治療をさせて頂戴」

「構わない。じゃあさっそく君たちがどういう状況にいるのか聞かせてもらおう」

 

シャマルは治癒魔法をザフィーラにかけながら語り始めた。

自分たちがアースラから脱走してから今まで何をしていたのか――

 

 

頁を蒐集するペース自体は早かった。

後ろの2週間目だけで完成に近づいてしまうほどに。

 

元々完成寸前の状態にまで集まっていたため消費も百頁程度であれば1、2週間あればなんとかなった。

だがあの時、守護騎士達とレナードの警戒心は非常に高まっていたのだ。

 

だから最初の1週間で守りを固めた。

 

八神家を覆う結界は今や3重となっており1重目が隠蔽用の魔法感知対策。ようするにステルス性の向上。

 

2重目が対魔力感知能力の向上。攻性魔力が半径2km以内に感知されると全員に知らせが入るようにしていた。

魔法による攻撃を行う魔導師だけを感知するものだ。

 

3重目が主であるはやてを中心とした排他的防御結界だった。

発動した瞬間に彼女以外の存在をその結界からはじき出す代物だ。

 

3つ目だけは主を中心として移動し、2重目が発動した際にしか動作しない仕組みだった。

 

全員の魔力が空になる程の労力を注いだその守りは、貼った本人達ですら束になっても破ることができないほどの堅さだった。

 

おまけに感知するまで発動しないため、それほどの魔力であっても察知されることすらない。

それは、まさに主を守るための城壁だった。

 

代わりに身動きの取れなくなった彼女達は休息をとる。

そうして当初の1週間はあっという間に過ぎ去ったのだった。

 

そして次の一週間、本格的に蒐集を再開した。

 

対策を練り。

可能な限り管理局と衝突をしない場所を選び。

かつ効率的に動き続けた。

 

その結果、闇の書はまたも完成間際のところまで来ている。

 

その話を聞いてクロノはもう一度確認を取る。

 

「ではもう闇の書は完成寸前なのか」

「ええ。仮面の2人に襲撃された時よりは少ないけれど、それでももう完成間際といってもいいわ」

 

「なるほど。わかった」

 

確認したクロノは考える。

 

闇の書の完成。

その意味をおそらく彼女達とレナードは知らない。

 

それを教えるべきだろうか。

 

自らのその行いが主を苦しめており、その息さえも書の完成と共に奪うと。

 

――いや。彼らは知るべきではない。

 

知ったところでどうにもできないのだ。

教えたところで無駄な絶望を与えるだけだった。

 

――僕の持って行きたい方向とは異なる。

 

しかし、このままではリーゼ達の方法を取るしかなくなってしまうだろう。

デュランダルで闇の書の主ごと凍結。

転移させてアルカンシェルで破壊。

 

それは自分の望むものではない。

 

何のためにここまで内密に行動してきたのか。

それはこれから起こる悲劇を未然に防ぐためだ。

 

グレアムは八神はやてを犠牲にすると言った。

そして繰り返される惨劇に終止符を打つと。

 

終止符を打つ。その思いには賛成だ。

 

しかし、その方法には納得できない。

デュランダルを受け取るとき協力するとは誓った。

 

だが望み通りに実現させるとは言っていない。

僕は、僕の信念を貫かせてもらおう。

 

僕が防ぎたいのはその悲劇だけなのだ。

そのために新たな犠牲を払ってどうする。

 

ではどうするべきだろうか。

 

そうだ――

 

これしかない。

 

そのことを思いついたクロノはシャマルへこう告げた。

 

「報告の内容については問題ない。では――2つ目の指示を出そう。

 なに、たぶんこれが最後になるだろう」

 

そう前置きをしてから、シャマルへとクロノは2つ目の指示を出したのだった。

 

 

 

 

シャマルと分かれたレナードは砂漠の空を翔ける。

もう十数分は飛び回っていた。

 

それでもザフィーラはいっこうに見つからなかった。

 

――これは拙いな。

 

ここは一旦捜索をとめてやはり誰かと合流するべきだろう。

そう思い周囲を見渡す。

 

そしてレナードはそれを見つけた。

 

離れた位置の上空。

 

巨大な魔方陣。

そこに集まる強烈な光。

 

それが放たれる射線上にいるだろうヴィータ。

 

ヴィータは、見ればバインドで手足を拘束されていた――

 

 

「受けてみて!ヴィータちゃん。私の正真正銘、全力全開――」

 

 

なんだこれ?

そう思う。

 

ヴィータにはもうなのはの言葉など聞こえていなかった。

 

目の前に展開される、相手の魔方陣をただ見つめている。

 

大技で叩こうと距離を取ったとき、移動先に遅延式のバインドが仕掛けてあった。

それに拘束され気をとられていると相手の姿を見失った。

 

そして次になのはをヴィータが肉眼で捉えるとこの光景が広がっていたのだ。

 

自らの頭上、離れた位置で極大の光がさらにその大きさと輝きを増していく。

 

「悪魔め」

 

そう言ってもうすぐ自分へと迫ってくるその光を睨みつけた。

 

可能な限り体をそらし、プロテクションで威力を削ろう。

あの砲撃を受けた後で自分が無事である姿など想像もつかなかったがそうするしかない。

 

 

「スターライト、ブレイカァァアアアア!!」

 

 

極大の光がヴィータへと押し寄せる。

輝く星の名を冠したその砲撃は、その名にふさわしいものだった。

 

迫る轟音と極光。

 

あまりの明るさに視界が白一色となる。

 

ヴィータはその光の中へと飲み込まれた――。

 

 

高町なのはは最大の一撃を放ち終えた。

 

蒸気と共に熱を伴った空気が抜ける音がする。

レイジングハートから空になったカートリッジの薬きょうが排出された。

 

以前フェイトにそれを放ったとき、結界内の都市はほとんど崩壊しきっていた。

空間内に飛び散っている魔力を全て収束し放つその魔法の威力を誰よりも知っている。

 

だからきっとあの子も無事じゃない。

 

助けに行こうと自分が目標とした場所へと飛行し移動し始める。

 

「だけど、これでやっとお話できるよね」

「alright.master(その通りです。マスター)」

 

スターライトブレイカー。

高町なのはの放つその最大の砲撃。

事実の正否は定かでないにしろ、実に戦術核5個分程度のものと言われている。

 

そうした魔法ばかり使う自分だったが、その威力には自信を持っていた。

 

煙に包まれ、周囲がよく見えない。

 

飛び回りながら今しがた目標とした人物の名を呼んだ。

 

「ヴィータちゃーん?」

 

空中に立ち込めていた煙が徐々に晴れていく。

少し先に人影が見えた。

 

「あ!大丈夫?」

 

自分で放っておいて言うのもなんだが相手を心配していた。

相手の返事を待つ。

 

バインドで浮いているだけで気絶しているのかもしれない。

そう思ってもっと近づいた。

 

しかし、そこにいたのは予想してたのとは違う人物だった。

 

 

ヴィータはその後姿を見て驚いた。

 

見れば片手を突き出したままの状態で彼は止まっている。

 

「だ、大丈夫かお前!?」

 

たぶん目の前の彼に助けられたのだろう。

それは分かったのだが、直前まで感じていた相手の魔力のそれは尋常ではなかった。

とても無事とは思えない。

 

だが――。

 

「ああ。問題ない」

 

けろりとした顔で振り返ってレナードはそう言う。

 

「ひどいものだね全く。悪い子はお仕置きされるのが妥当だ」

 

再び前を見る。

そこにはさっきまで離れた位置にいたなのはが浮遊していたのだった。

 

「え!?レナードさ――」

 

驚いたなのはだったが、その意識はすぐに刈り取られる。

 

実はラムダドライバによる飛行は短距離ならば魔法によるそれより早い。

 

何せ何十トンもある巨体すら自在に動かしていた力だ。

生身にかかるGさえ我慢すればいくらでも性能限界まで加速することが出来る。

 

その動きで、なのはの首筋を打って気絶させる。

 

すると今度は彼女のデバイスが点滅するのが分かった。

それを感知したベリアルがそのデバイスへ告げる。

 

「please stop.my master is serious(止まってください。私のマスターは本気です)」

 

その声になのはのデバイスの点滅も止まった。

そして告げてくる。

 

「OK....(いいでしょう)」

 

戦闘の音が、煙が消え去ると共にやむ。

 

「ありがとう。彼女を傷つけるつもりはない。

 どこかに降ろして立ち去るからそのまま何もしないでくれ」

 

それは要求と共に警告でもある。

自らのマスターの命を優先したレイジングハートは沈黙することでそれに答えたのだった。

 

なのはを降ろし岩陰へと横たえた後、レナードとヴィータはすぐにシグナムの場所へと移動を始めた。

 

「お前、今さっきのはどういうことだよ」

 

ヴィータは明らかに納得のいっていない様子だ。

 

高町なのはとかいうあの魔導師の放った砲撃は並みのそれではなかった。

魔導師2人がかりで防御を展開してかろうじて自分達だけ守れるかといったところだ。

 

正直なところヴィータは自分の未来を諦めたレベルだった。

たぶん非殺傷設定だったとはいえあれだけ威力が強ければ絶対に怪我では済まない。

 

それにプログラムである守護騎士であっても、消し飛んでしまえばお仕舞いだ。

 

例えば訓練用のゴム弾でも命中する場所によっては命も危ないだろう。

それと似たようなことだ。

 

助けが入って本当に良かったと思う。

だが、不可解だった。

 

どうして自分よりも魔力値自体も魔導師としての経験も劣るこの男があの攻撃を防ぐことが出来たのか?

それだけがとても気になった。

 

そして相手の答えを、ヴィータが待っている雰囲気を感じ取ったレナードがようやく答える。

 

「あれは魔法じゃない。事象自体を――分かりやすく言うと自分の願った出来事自体を引き起こす代物だ」

 

現にそれを行使しながら飛行している。

虚弦斥力場生成システム。

本来的な名称のところはオムニ・スフィア転移反応装置。

TAROSとはそういうものだ。

 

「なんだそれ?――」

「まあ制約は割と多いんだけどね。そんなことよりもほら、シグナムを見つけたぞ」

 

その言葉にヴィータは眼下を見据える。

雲の隙間から見える地上。

 

そこに自分たちの将が金色の死神と戦っているのが見て取れた。

 

「おう。お前は右から、あたしは左からだ」

「オーライ。それじゃいこうか」

 

そう言って2人は地上へと跳んだ。

 

 

ザフィーラは転移させた。

それを終えたシャマルも今、シグナムの元へと移動している。

 

クラールヴィントで確認すると、ヴィータとレナードの2人もシグナムの元へと向かっているのが分かった。

 

今回の戦闘は終息に向かっている。

なんとか事なきを得られそうだと少しだけ安堵する。

 

クロノは2つ目の指示を出した後、そのまま引き下がりどこかへ向かった。

彼の仲間を救助しに行くこととさらにするべきことがもう1つ出来たと言っていた。

 

戦闘を行うことなく事を済ませることができたのだ。

 

だが彼女の表情は暗い。

 

原因はクロノが出した意味不明な2つ目の指示にある。

 

――考えるのは後。今はシグナム達との合流が優先ね。

 

既に準備は完了している。

後は急いで実行するだけだ。

 

シャマルはさらにその移動速度を上げた。

 

 

混乱を極めた今回の管理局との一幕。

 

それは一応のところヴォルケンリッター達に軍配が上がりつつあった。

 

 

シグナムは、肩で荒い息を繰り返している。

周りの音が消え去り自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえた。

 

数メートル先。

そこにいるテスタロッサから視線を外さない。

 

速さではもう敵うことのない相手だ。

空中での回避だけではあらゆる方向から迫る鎌に対応しなくてはいけない。

 

だから攻撃以外のタイミングでは全て地上を選択した。

 

空中からの魔力弾の雨に晒されるというハンデはあったが、これで上と水平方向にだけ意識を向ければいい。

 

後は回避し続ける。

攻撃のために接近したときだけ反撃する。

 

これで戦闘時間を引き延ばすのだ。

 

結果として相手であるテスタロッサの体力は奪われ続ける。

 

 

フェイトは思う。

 

相手は持久戦に持ち込んできた。

これは拙い。

 

バルディッシュを斜めに構えながら考える。

 

「バルディッシュ。カートリッジの残り本数は?」

「three(3つです)」

 

点滅しながら自らのデバイスはそう短く答えた。

 

彼女も息があがっている。

速度こそ落ちていなかったが、それもあと少しで鈍るだろう。

 

そうなったら後は相手の為すがままだ。

 

――速さで誤魔化しているけど、このままじゃ。

 

 

「どうした?まだ戦えるのだろう。それともまた勝負は預けるか?」

 

 

シグナムがそういうのが聞こえる。

明らかな挑発だ。

だが、あえてそれにフェイトは乗った。

 

「いいえ。必ずこの場であなたに勝ちます」

 

そう言って、構えを変化させる。

その変化はシグナムにも伝わったようだ。

彼女も口を開くのをやめた。

 

砂漠の風と自分たちの呼吸音。

 

それしかここには無かった。

互いに満身創痍。

 

これで決着をつける。

 

ぴたりと2人の動きは停止した。

 

達人同士による戦いが決するとき、それは一瞬だ。

互いに放てばただではすまない一撃をもってして相対するからだ。

 

彼女達の戦いにおいてもそれは例外ではない。

 

今、その戦いに決着がつこうとしていた。

 

だが――

 

「ラケーテン、ハンマァアアア!」

 

突如飛来した鉄騎によってその戦いは中断される。

 

 

「ヴィータ!?」

 

シグナムは現れた彼女に驚いた。

そして現れたのはヴィータだけではなかった。

 

フェイトを挟んで反対側、その位置からレナードが迫るのが見て取れる。

 

「レナード!待て!!」

 

シグナムはそう叫んだ。

 

 

「ぐっ――!!」

 

呻きながらもフェイトはプロテクションを展開して鉄槌を防ぐ。

だがそれは簡単に破られた。

 

ヴィータという騎士が放つその槌。

その威力を防ぐことが出来るほど、彼女の守りは堅くない。

 

だから防御ではなく回避を選んだ。

 

その槌から逃れる。

 

「速いッ――レナード!!」

 

そういってフェイトに襲い掛かってきた紅い騎士が上空を見上げる。

その視線の先をフェイトも追った。

 

そこに黒い外套を翻しながら、レナードといった人物が拳を構えていた。

 

「やあフェイト・テスタロッサさん。ちょっと悪戯が過ぎたようだね」

「レナードさん?――なんで」

 

ここに。

そう続く言葉をフェイトは発することが出来なかった。

 

拳を放ち、一撃で失神させる。

 

そして自由落下を始めたフェイトを彼は抱えた。

 

「おっと」

 

彼女を抱えたまま、地上に降り立ちシグナムへと寄っていったのだった。

 

 

シグナムは、ヴィータとレナードの2人が近づいてくるとレヴァンティンの展開を解いた。

地面に座り込む。

 

そしてフェイトを抱えているレナードに向かってこう言った。

 

「勝負に水を差された。礼は言わんぞ」

 

「ああ。すまなかったね。だがそれは次回にしてくれ」

 

地面にフェイトを下ろしながらレナードがそう言う。

彼女のデバイスであるバルディッシュは沈黙したままだ。

 

さて、これでようやく集合できた。

 

「あとはシャマルだけだな。立てるか?」

「ああ。すぐにでも動こう」

 

レナードが聞くとシグナムはすぐに立ち上がった。

 

離れた上空。

そこに照明弾が数発あがるのが見える。

 

準備が出来たのだろう。

 

レナードとヴォルケンリッター達は撤退を開始したのだった。

 

 

 

リーゼロッテとリーゼアリアは武装隊を引き連れて飛行している。

 

「私達はクロノを探しに行くわ」

「他の方は2人をお願い」

 

「「「「了解」」」」

 

その命令を了承した返答が聞こえる。

そうして2手に分かれた。

 

2人は警戒しながら砂漠を駆け巡った。

 

仮面の男として一度は壊滅寸前のところまで守護騎士を追いやった彼女達だったが、正面から相対すれば不利だろう。

あの時は相手の傾向と力量を推し量った上での奇襲だったから成功したのだ。

 

それに今回は仲間の救出だ。

より慎重に行動するべきだろう。

 

他の人間はともかくとして最低でもクロノだけは助け出さなくてはいけない。

今のデュランダルを扱えるのはあの子だけだからだ。

 

いつの間にかデュランダルは改造されていた。

どこから仕入れたのか、その威力とチャージ時間短縮のためにカートリッジシステムを追加したらしい。

 

追加仕様書を読んでいるとJ・Sというイニシャルの研究者が加工したことになっていた。

イニシャル以外の情報が明らかでないその研究者を怪しんだが、既にデュランダルは改造され後の祭りだった。

 

ちなみに2人が調べようとしたら主人であるグレアムに圧力がかかったとの事だ。

 

猶予が無いこともあり事後承諾の形でそれを渋々受け入れた。

そして実行者は必ずクロノとする旨の確約を得て事は落ち着いたのだった。

 

2人がここ数日の出来事を思い返していると探していた人物を見つけた。

 

何も無い砂漠。

 

そこにフェイトとなのはの2人を仰向けにさせ、その脇にクロノは座っていた。

 

「クロスケ!!大丈夫だった!?」

「ん?ああロッテ。僕は大丈夫だよ」

「2人は大丈夫なの?」

 

それも問題ない。眠っているだけだよとクロノは言った。

 

良かった。これ以上の戦力を欠くことはできない。

2人は合理的にそう考えていた。

 

「さ。アースラへ帰りましょう。他の隊員の救助には別働隊を向かわせているわ」

「・・・・・」

 

その声を聞いてもクロノは動かない。

無言で俯いている。

 

2つある太陽の光を雲がちょうど遮ったのもあり、その表情を伺うことは出来なかった。

 

「クロスケ?」

「クロノ?どうしたの?」

 

――妙だ。

 

気温が下がったような気がする。

 

「君達は、悲劇を止めようと言う。そしてそれは僕の父さんのためにもなると」

「ええ。クライド君もきっと――」

「それは違うんだ。父さんはきっと最後まで笑って逝ったと思う」

「え?」

 

艦のみんなを護り、護送ポッドで闇の書を道連れにした。

 

母さんを守ることが出来た。

僕の父親としてその背中を行動で示すことが出来たと。

 

気温が下がったのは気のせいではなかった。

 

目の前のクロノは白い吐息を吐きながら続ける。

 

今や砂漠の気温は氷点下まで下がろうとしている。

太陽を雲が遮ったのは偶然ではない。

 

氷結の杖、デュランダル。

その魔法が使用されたのだ。

 

「君達は、悲劇を止めるという目的もあるけれどそれ以上の動機があるんだろう」

「あなた裏切るつもり!?」

「アリア、転移の準備を――」

 

クロノから距離を取る2人を、顔を上げてまっすぐに見据える。

2人を澄んだ瞳で見つめていた。

 

「復讐の感情が、君達には感じられる。僕達は局員だ。正しきを行う者なんだ。

 君達は今回の闇の書の件には不適格だ。ここで、ちょっとだけ眠っていてもらう」

 

稼いだ距離。

それはエターナルコフィンから逃れるには十分な距離ではない。

むしろ発動距離として好都合だった。

既にチャージは終了している。

 

「ごめん。僕が必ず止めるからしばらく眠っていてくれ――」

 

転移が間に合わない。

 

「デュランダル」

「Eternal Coffin(エターナルコフィン)」

 

元より質実剛健を誇るストレージデバイス。

カートリッジシステムを搭載するのに何の問題も無かった。

 

デュランダルに全カートリッジがロードされその魔法が発動される。

 

杖本体から放たれた氷結砲は周囲に展開されたリフレクターで何度も反射、増幅しその威力を増す。

 

元々の倍以上の威力のそれはリーゼ達を決して逃がすようなことはなかった。

そうして砂漠の中心に、氷像が2つ出来上がる。

 

――誓おう。君達も納得するような結末を導いてみせる。

 

氷像となった彼女達を見つめながら思う。

 

他人の分まで責任を負うには若すぎるその少年。

彼はそう彼女達に誓ったのだった。

 

10.そしてとめられないこと(後編)fin





2016.9.10
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