The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~   作:手拭

13 / 20
13.そして聖夜の空の下(前編)

そして12月25日。

その日を迎えていた。

 

「おおきに。それよりごめんなせっかくのクリスマスやったのに」

「そういうのは言わないものよ」

「ここでだってお話は出来るから」

 

はやての言葉にアリサとすずかが返す。

 

ファミレスで倒れたはやては救急車で運ばれ病室へ。

 

結果として容体は悪化していた。

 

守護騎士とレナードは病院ではやてと共に1夜を明かしている。

 

さっき、はやての症状は落ち着いてようやく面会できるようになったのだ。

 

そして昼を過ぎた辺りからなのは達がお見舞いにやってきたのだった。

 

病室の窓側に守護騎士たちが。

その反対側になのはやフェイトたちがパイプ椅子に腰掛けている。

 

レナードはシグナムと共に立って壁に背中を預けている。

談笑しているはやて達に聞こえないように会話を続けていた。

 

「彼女達を排除するつもりか」

「ああ。あのクロノという少年にしてもどういうつもりか知らんが、それもいつまで続くか分からん」

 

結果、はやてが倒れたドサクサに紛れて管理局員がやってくるというようなことはなかった。

クロノが押し留めている証拠だろう。

 

それでも信用ならない。

そう言っている。

 

「クロノは僕が止めよう。彼女達に手を出すんじゃない」

「テスタロッサ達に罪がないのは分かっている。だがそれでも、あと少しだけ大人しくしていてもらわなければ困る」

「シグナム――」

「レナード。私達だってただの悪人じゃない。主が助かれば――その後にきちんと裁きは受けるさ」

 

そう言って珍しく烈火の将は微笑んだ。

 

本当に珍しい、穏やかな表情だ。

 

しかしその表情の下に強い意志がたしかにあるのが感じられる。

それを見てレナードはこれ以上制止するのをやめた。

 

「どうしてもやるのか」

「お前も最近何を知ったか知らんが、私達は元よりそのつもりだ。

 自分たちの状態については私達も良く知っているのでな」

 

暴走侵食体ナハトヴァール。

あれが一番厄介なのだ。

 

それを闇の書から切り離すのが最後の目的になる。

管理局を排除し、頁を集め、ナハトの暴走を食い止める。

 

これさえ為してしまえば後は何もいうことはない。

ナハトにしても起動直後に守護騎士全員が万全の状態で刺し違える覚悟で望めばいい。

 

集中砲火を加え、シャマルにコアを捕捉させる。

そこに全員が互いの身すら省みずに全力の攻撃を行えばチャンスはある。

 

 

――自分達も破壊することになるだろうがな。

 

 

シグナムはレナードをまっすぐ見据えている。

 

 

できればこの同胞に我が主の後のことを託したいと思う。

 

この身は闇の書の守護騎士という宿命で生まれた存在。

だが例えプログラムだとしても、意思を持った存在なのだ。

 

守護騎士たちにも当然願いはある。

 

できるのであれば主と共に穏やかな生活を。

 

しかしそれは叶わない。

 

ならば。

 

目の前の、我らの同胞に思いを継いで欲しい。

 

どうか、我らの分まで主と共に穏やかな生活を送ってほしい。

 

我らが主と共に、そしてお前と共にあったことを証明し続けてほしい。

 

それが彼女達の願いだった――

 

 

シグナムの瞳へ視線を合わせながらレナードは思った。

 

何らかの覚悟があるようだ。

ならもう何も言わない。

 

僕も、守護騎士達も、なのはとフェイト達、クロノも。

全員が全員、己が覚悟の上で行動するだけだなのだから。

 

「無茶をするんじゃないぞ」

「お互い様だ」

 

それだけ言って軽く笑いあう。

そこにはやての声がかかった。

 

「こら。そこで2人でなにこそこそ話してるんや」

 

自分たちの中心となる存在は少々おかんむりのようだ。

 

「ああ。すまないねハヤテ。いや君を動物に例えると何になるかと話していてね」

「へえ。それでレナードさん。はやてちゃんは何になるんですか?」

「ああ――どうもタヌキじゃないかってシグナムが」

「おいレナード!すみません主。決してそのようなことは――」

 

はやてに呼ばれ2人も会話の輪に加わる。

珍しく慌てるシグナムの姿に、聞いたなのはとフェイトが目を丸くしていた。

 

その顔をみてレナードが笑うと、ヴィータもつられて笑っていた。

そのあとハッとしてそっぽを向いていたが。

 

他はみんな苦笑していたり笑っていたり。

 

シグナムからの視線は強くなったが。

 

とはいえ僅かばかりの穏やかな時間を、皆が過ごすことが出来ていた。

本当であれば善良な彼女達にずっとある筈の時間。

 

それを、作らなければならない――

レナードは自分でも気がつかないうちに拳を握り締めていた。

 

 

 

お互いに、相手を思いやりながらすれ違う。

なんとも不器用で歪な巡りあわせでないだろうか。

 

一つのパズルを想像したとするとそれは、同じピースが何枚もあるかのような錯覚を抱かせる。

 

今回の闇の書に居合わせた魔導師たち。

本当に誰もが悲しい出来事が起こることを望んでいるわけではない。

 

皆が皆、よい方向に向くように力を尽くしたいと思っている。

 

だが同じピースは噛み合わない。

だからぶつかり合う。

 

そこには誰もが気がついていない奇妙な運命が転がっていたのだった。

 

 

 

 

やがて面会の時間も終わり、見舞いに来た者達も帰宅することとになった。

 

 

「下まで送ろう」

 

そう言ったシグナムの言葉に他の守護騎士達もついていきエレベータへとのる。

すずかとアリサ。

それになのはとフェイトを見送るのだろう。

 

別の目的もあるはずだが。

 

扉が閉まる前に、エレベータに乗るなのは達へレナードは声をかけた。

 

「できたらすずか以外のみんなも、はやての友達になってあげてくれないかな?」

 

レナードがそう言うと魔導師の2人含めて表情を明るくしてこう言った。

 

「「「はい、もちろん!!」」」

 

仲良く被ったその言葉にレナードは本心から笑ってこう返した。

 

「そうか。ありがとう」

 

言い終えると扉が閉まった。

 

良かった。

これでもう思い残すことは無いだろう――

 

はやてはもう1人じゃない。

 

踵を返し病室へと向かう。

 

ギチギチと不協和音を響かせながら回っていた彼の運命の歯車。

あまりにも歪なそれの終着点。

 

 

 

最後の時間がこれから始まる。

 

 

 

そして病室にははやてとレナードだけが残った。

夕陽が差し込み室内を橙色の光が照らす。

 

外の景色を眺めると、街並みもやはり朱に染まっていた。

 

「みんな行ってしもうたね」

「そうだな。2人で話すのも思えば久しぶりか」

 

そんな、とりとめもない会話を交わす。

言いながら水差しでコップへ水を注ぎ、はやてへと渡す。

 

本当に久しぶりだ。

 

実際2人だけで会話したのは図書館以来なので、そう時期が開いているわけではない。

たった数週間前の出来事のはずなのに随分前の出来事に感じられた。

 

はやてが水を飲み終わり再びコップをこちらへ渡してくるのを受け取る。

それをテーブルへ置きながらレナードはこう切り出した。

 

 

まともな会話をするとすればもうこれが最後になるだろう。

 

 

「ハヤテ、ちょっと聞いてくれるかな?」

「――なに?」

 

そういってコップから口を離すとはやてはこちらを向いた。

 

いつか図書館でレナードを見つけたとき。

あの時と同じ反応を八神はやてはしていた。

 

抱いている感情は全く異なるが。

 

このとき彼は今まで見たことが無いほど穏やかな表情をしていた。

 

それは年相応か。

年齢よりも幾分か落ち着いた様子に、はやての瞳にはうつった。

 

その雰囲気にはやては軽口を言えなくなる。

 

話を始める彼を、ちょうど背後から夕日が照らしていた。

彼が静かに言葉を発する。

 

「僕は、君に出会うことが出来て本当に良かったと思っている。

 以前は分からなかったある哲学者の言葉を、少しだけ理解することが出来たと思うんだ」

 

「哲学者の言葉?」

 

そういってきょとんとした表情をしている。

そんな様子のこの子から視線を外さずに告げる。

 

「ああ。『運命を愛せよ』

 僕はそれこそつい最近まで、この言葉の意味がまるで分からなかったんだ」

 

自分の認識する現実を受け入れられたら。

そしてその認識が行動を生んだのなら。

そして変わることができなたなら。

 

彼の場合でのそれは。

 

一瞬でも心から笑うことが出来、ひとときでも穏やかな時の中にいられたのなら。

そしてそのために行動することが出来。

結果、以前とは違う思いを抱けるようになった。

 

 

――僕にとって本当の意味での救いだった。

 

 

「ありがとう。僕は己というものを知ることが出来た気がする」

 

 

本当に心からの思いだった。

はやてに自分はどれだけ感謝してもし足りない。

知らず、彼ははやての手を取っていた。

 

「なんやほんとにかしこまって。照れくさいなぁ」

 

突然手を握られたことで気恥ずかしくなる。

 

そう言ってはやては、少し赤らいだ顔を自身にかかる毛布へと視線を落とした。

そこまで感謝されることなのだろうか?

でも、家族に感謝されるのは嬉しいのでいいかとはやては思った。

 

でもどうして彼はこんな話を突然したのだろう?

それがとても気になる。

 

「でもなんで、そんな別れの挨拶みたいな――」

 

はやてがそう言って顔を上げると同時にレナードは立ち上がった。

そして言った。

 

彼はなおも笑っている。

 

「ごめん。どうか、悲しまないで欲しい――僕が連れて行くことになる彼女の分まで言っておくよ。

 そしてありがとう。繰り返しになるけれど、君に会えて本当に良かった」

 

 

レナードはそう言って、はやての意識を奪った。

意識を失ったはやてをきちんと寝かしつけ毛布と布団をかける。

 

 

これでいいのだ。

彼女には自分がいなくとも守護騎士たちと、新しい良い友人達がもういるのだから。

 

僕は彼女に恩を返さなければならない。

 

自分の身などもはやどうでもいい。

 

皆には悪いがこれから先は自分の思うとおりに進めさせてもらう。

 

彼が聖夜に願うことがあるとすればはやてと守護騎士達のことだけだ。

 

 

――全員、生かして帰す。

 

 

以前は彼になかったもの。

意志が、彼の瞳に宿っている。

 

 

眠るはやてをしばらく眺めた後、顔を上げた。

 

 

そしてそのまま病室の入り口へと目をやる。

そこには自分のバリアジャケットと同じ色の、黒い魔導師が立っていた。

 

既に結界は展開されているようだ。

 

「君もハヤテのお見舞いかい?クロノ君」

「いや。僕は違う」

「そうか。では招かれざる客にはお引取り願おう」

 

そういって互いに一度黙り、正面から対峙する。

 

「ところで君は昔の僕に似ているな」

「なに?」

 

レナードは突然クロノにそう言った。

 

 

――自らの思う正しさを追い求めた姿。違ったのは彼は強かったということだけだ。

 

 

力ではなく心が。

クロノはそれが自分よりも強いのだということをレナードは見抜いていた。

 

「だから、間違えて欲しくないんだ」

「僕は僕の信念で結果を求め、責任を負うつもりだ。

 邪魔をするというのなら障害は取り除く」

 

クロノがデバイスを構えた。

 

「set up(セットアップ)」

 

ベリアルの声が室内に響き、レナードもセットアップとバリアジャケットの展開を済ませる。

 

「悪いけど、ハヤテに手を出すことは許さない」

 

「なら押し通るだけだ」

 

室内で戦闘が始まる。

 

瞬間、閃光と共に病室の窓ガラスが吹き飛んだ――

 

 

はやてと共に転移し、その無事を確認する。

 

自分たちの張った結界は正常に動作し彼女を守っている。

 

その上にシャマルから教えてもらった結界をかけて急いで偽装した。

 

そして空中に飛び出すと、すぐに魔力弾が飛んできた。

 

それをS字を描く軌道で避ける。

 

「君達を助けるのに一番最適な方法なんだ!」

「それは押し付けと言うんだよ。いくら前回の被害者とはいえ傲慢だ」

 

言いながらレナードも数発の魔力弾を放った。

魔力弾同士の衝突が煙幕を周囲に張った。

 

次は強力な一撃が来るだろう。

 

その裏をかく行動をレナードは取る。

自身の最高速度で移動し別の建物の貯水槽の上に立つ。

 

魔力弾を細く操作。矢に見立てベリアルにつがえた。

 

煙が晴れる。

 

弦は十分に引き絞られている。

 

だが――

 

「そんなことだろうと思ったよ」

 

その声と共に放たれた相手の魔法は予想していたものとは異なった。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 

光の剣となった魔力弾が周囲に降り注ぐ。

対単体の高威力の攻撃ではなく、中距離高火力範囲攻撃

 

「すまないが君のそのレアスキルは使わせない」

 

中広域魔法を使ってから、クロノはレナードへ接近戦を挑んできたのだった。

 

回避に気をとられ、動きが制限される。

 

クロノがレアスキルと呼ぶもの。

それはラムダドライバのことだ。

そしてそれは魔導師同士のそれにおいて非常な有利なものであることは間違いない。

しかし、それにも弱点はある。

このシステムには発動時に意思が必要だ。

 

意識する必要があるということは事前に対象を認識していなければならない。

その弱点をクロノは突いていた。

 

攻撃にこそ転用すれば恐ろしいものだが、相手を攻め続けている限りその脅威は薄らぐ。

 

かなりの速度を伴って放たれる攻撃の1つ1つを、常時意識して防ぐなんて事はレナードをもってしても不可能だった。

 

「よく研究してるじゃないか」

 

言いながら回避しつつのカウンターを放つ。

だが、それは簡単に避けられ腕を絡めとられそうになる。

慌てて下がった。

 

しかしそこへ今度は回し蹴りが来る。

腕で防ぐと掌打が来る。

 

いきなり防戦一方になったレナードはその動きに見覚えがあった。

 

「この動きは――」

「ほう。やっぱり気がつくか。

 まあ一度、君は僕の師匠達と戦っているからな」

 

――あの仮面の男達か。それにこいつ。武器頼りかと思っていたら中々ダーティな戦い方をするんだな。

 

これならまだ他の2人を相手にしたほうがマシだったかもしれない。

なにせ肉弾戦に持ち込めばまだ対等に闘えるのだから。

 

対して目の前の少年はどうだろうか。

 

魔力量。魔力操作技術。その威力。

拳と脚による打撃の威力。その組み合わせ。身のこなし。

 

全てにおいて自分の上を行く相手ではないか。

 

こういうとき自分は妙な対抗心というかプライドは抱かない。

それが彼の妹であるテッサとの違いだった。

 

それに勝つためにはどうするか?

それを考えている。

 

この局面での撤退はもうできない。

死地というほどでもないが、退けば戦略的に敗北することになる。

 

目的が達成できずに終わってしまう。

そんなことはできない。

 

だが魔導師としての戦闘でクロノに勝利することは非常に困難だ。

なら助けを呼ぶか?

 

遠くでヴォルケンリッター達が戦闘しているのが確認できた。

各々が宿敵とぶつかっているみたいだ。

 

時々、流れ弾が飛んできている。

 

最終局面であることを薄々誰もが感じているのだろう。

 

全員が、出し惜しみなし。

非殺傷設定すら外れているだろうことが一撃一撃から感じ取れる。

結界内の建物のほとんどが既に崩壊している。

 

縦横無尽に魔力弾が。刃が。拳が交差する。

 

シグナムにフェイトが。

ヴィータになのはが。

ザフィーラにはアルフが。

シャマルは結界の展開と通信妨害。補助と回復に専念している。

 

混沌としたこの状況では助け合うことなど不可能だ。

 

クロノの拳や蹴りを回避し続けながら考え続ける。

 

ふと、妙な点に1つ気がついた。

 

あのアルフとかいった使い魔。

どこに潜んでいたんだ?

 

「考え事とは余裕だな」

 

クロノ・ハラオウンがそう告げた。

 

見れば体1つ分ほどの距離が開いている。

相手は腰だめに拳を構えていた。

 

だめだこれは。

絶対に避けなくてはいけない。

 

肌が粟立つのが分かる。

もらえばただではすまないだろうことが感じられた。

 

そして、目の前の相手の動きへの対応より思考することに重点を置いた自分を呪う。

 

とにかく回避をしようと試みる。

 

だが――

 

「なに!?しまっ――」

 

両手両足にバインドがかけられていた。

 

「僕を侮りすぎたか。それとも自信が過ぎたのか。何にしてもこれが結果だよ」

 

クロノは魔力を操作し加速する。

 

縮地の要領で接近。

一歩でレナードの目の前へ。

 

背筋をそらし、後ろにずらしていた右足だけにかけていた体重を前へ。

体を前傾姿勢へと移す。

 

体重を支える右足が地面に見立てた魔方陣を踏み締める。

 

そして大きく踏み込んだ左足が魔方陣を叩く。

ドンッという轟音が周囲に響く。

 

それと同時。

 

圧縮された魔力の篭った両拳。

 

それをレナードの腹部へと叩きつけた――

 

 

必殺とも思える一撃をくらったレナードは吹き飛ばされ建物に突っ込んだ。

 

コンクリートの建物の壁面が陥没している。

その中央にレナードの体があった。

 

腹部に叩きつけられた魔力強化による拳は確実にレナードにダメージを与えていた。

口元から血が垂れている。

 

「・・・内臓がやられたか?」

 

ひとまず袖で口を拭った。

 

自分の状態を確認する。

普通ならこんなもの貰えば行動不能だろう。

 

だが無理をすればまだ動くことができそうだった。

 

バリアジャケットがあったことに初めて感謝した。

 

そして、

 

――これを、待っていた。

 

「ベリアル。いけるか?」

「alright(もちろんです)」

 

ナイフの形態をとったベリアルが返す。

そしてベリアルを無造作に空中へ突き出したレナードがイメージする。

 

大気が大きく揺らぐ。

揺らいだ大気は圧縮され疎密を生む。

 

それを、かつて人々はかまいたちと呼んだ。

 

空を裂く音が聞こえた。

 

ラムダドライバによって発生した風の刃が放たれたのだった。

 

 

 

ガラガラと崩れる建物は粉塵を上げ、悪かった視界をさらに悪くした。

デュランダルを一振りし、辺りを払う。

 

クロノ・ハラオウンは用心深く、相手が突っ込んだビルを観察していた。

 

先程の技の手ごたえは完璧ともいえるものだった。

拳の感触。

体重のかけ方と力の込め方。

放つ早さ。

 

さらに魔力の篭っていたあの一撃をもらって相手がまともに動けるとは思えない。

 

だが用心深い性格を彼はしていた。

そして今回もそれが彼を救ったのだ。

 

注意していたからこそ、それが迫るのを直感的に感じとれたのだった。

 

「――ッ!」

 

大げさすぎるほどに回避する。

ヒュオ。という音が通り過ぎていった。

 

とたん。

 

自分の右腕に大きな切り傷が出来ていた。

かなり深くまで切られたようだ。

血が止まらない。

 

しかし見やれば自分が先程までいた場所にあった鉄柱は、

 

中ほどから切断され、轟音を立てて崩れ始めていた。

 

ぞっとした気持ちになる。

 

 

「勘がいいな、避けたか。正解だよ」

 

 

大技を貰ってボロボロのはずのレナードがビルの上に立っていた。

 

「魔力弾だけにのせるものじゃないのか・・・」

 

右腕を布で止血しながらクロノが聞いた。

 

「残念ながらね。むしろ本来の使い方はこちらのほうが正しい」

 

再び距離を開けて対峙している。

最初の状況に戻っていた。

 

今度はクロノの方が思考することとなる。

目の前のこのレナードという男。

 

思考能力と状況に対応する力がずば抜けて高いようだ。

 

封じた戦法を使わせてしまったのはミスだが、戦闘中に無拍子で戦い方を切り替えてくる。

接近戦を挑んでそれに応じてくるかと思えば回避に回られ。

突き放せば得意とするだろう遠距離戦へ。

かと思えばレアスキルと魔法と格闘を交えた総合戦闘を。

 

厄介なことこの上ない。

 

はやめに終わらせなければまずい。

 

魔力すら用いずに放たれる魔法並みの攻撃。

まともに戦えば圧倒的に不利なのはいうまでもない。

 

というか長時間の戦闘になればこちらの命がないだろう。

 

 

「考え事とは余裕だな?」

 

そう言ってレナードがにやりと笑う。

そこから戦闘の様子は様変わりしたのだった。

 

レナードが攻撃を放ち続ける。

 

それをクロノは防ぐのではなく、逸らすか避けるかのみで対処していく。

防げばそれは負けたも同然だからだ。

 

なのは達にこの男を向けなくて正解だったと思う。

 

真っ直ぐすぎる彼女達の戦い方は強力でも、魔導師としてのそれだ。

こんな複雑な戦い方をしいられる戦闘にははっきり言って不向きなのだ。

 

戦闘の中、互いに視線を交わす。

 

残存魔力は8割程度といったところ。

負傷は多いものの大した消費をお互いにしていない。

 

十分に戦闘が可能な状態だ。

 

まだ、長い戦いは始まったばかりなのだった。

 

 

13.そして聖夜の空の下(前編) fin





2016.9.10
全話、あとがきを削除しました
バックアップは取っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。