The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~ 作:手拭
戦闘は時間の経過と共に激しさを増していた。
互いに相対する相手の動き、癖、技を知り尽くしているためいつまで経っても決着がつかない。
とうの昔に総力戦という名の消耗戦に突入している。
本来なら動けなくなるほどの傷を負いながらもそれは止まらない。
譲れないのだ。
魔導師達はなおも聖夜の空を縦横無尽に飛びまわっている。
だが当初の1対1という構図から少しづつ様子が変化してきている。
一瞬、一瞬ではあるが互いにカバーしあう場面ができるようになっていた。
「アクセルシュータ――シュートッ!!」
「――任せろヴィータッ!」
「ザフィーラ!!」
乱戦となっている状況の中、時折だが協力し不規則な動きを繰りかえす。
こうした不確定要素も原因となっている。
「あんたの相手はあたしだよ――」
「させるか!アイゼン!!」
「アルフさん離れて!――ディバインバスタァアアア!!」
もう何度目になるか分からない砲撃が結界内の地面や壁を抉り取る。
ビルの合間で縦に射線の通るこの場所での砲撃は、避けるのにはどうしても苦労する。
「――甘い!」
その射線を掻い潜ってザフィーラがなのはに接敵し拳を放つ。
だがなのはに届く寸前にチェーンバインドで腕が絡め取られた。
なのはが離れる。
「チィッ――」
構わず強引に引き千切り、振り返りざまに勘で拳を放つ。
迫っていたアルフの拳とぶつかり合い、互いに吹き飛んで建物の中へと突っ込んだ。
土煙があがる。
その土煙を払う風が、他方で繰り出される。
「飛竜、一閃!!」
「プラズマスマッシャー!!」
建物は倒壊し、アスファルトは抉れ。
魔導師たちの流血は止まらない。
それでも全員が止まらない。
戦いはまだ終わらない――
クロノは相手の攻撃を見切ること。
受け流すことにのみ集中した。
相手の攻撃が強すぎる場合。
ミスを誘うかリソース切れを待つのは、それだけの耐久力が自分にある場合は有効だ。
「全く嫌なやり方をするね。君は」
言うならチェスや将棋のような戦い方をしている。
積み重ねられた定石が、経験となってこの戦い方を可能にしているのだ。
「お前が言うな――」
今、最近ではあまり感じたことのない恐怖をクロノは感じている。
レナードの攻撃はここにきて苛烈さを増していた。
ラムダドライバをのせた魔力弾。
ラムダドライバによって発生させられる風の刃。
レナード自身が放つ刺突と拳。
全てが組み合わさってとても正面から太刀打ちできる状況ではなかった。
駆けていたビルが大きく傾いた。
なのはの砲撃が命中し倒壊を始める。
空中に飛び出す。
プロテクションを貫通する魔力弾が3方向から飛来する。
避けた場所に置いてあったかのようにバインドが。
自身のプロテクションで弾いてその勢いで反対側に飛ぶ。
レナードの右拳が目の前にある。
――いつの間に。
そう考える前にのけぞって避ける。
肩の辺りにナイフが構えられていた。
それが突き出されるのを平手で相手の腕ごと逸らす。
肉弾戦に持ち込むために踏み込む。
踏み込んだ場所に魔力弾。
被弾。
拳を放つ。
相手の即頭部へ直撃。
代わりに大腿部を切られる。
魔力弾を放ちながら、再び拳を。
魔力弾の全てが風の刃で切断され霧散する――
既に通常の場合に想定される戦闘時間を大幅に上回っている。
互いに息はあがっている。
だが止まらない。
容赦がないにも程がある。
相手は間違いなく殺す気で攻撃を放ってきている。
クロノは思った。
当然といえば当然だ。
魔導師としての資質が違う相手にレナードが手など抜けば戦いにならない。
だがそれだけにこの男も本気なのだということが分かる。
たまらず距離を取った。
すかさず魔力弾と風の刃が織り交ざって飛んでくる。
遮蔽物を切り刻み、射線を開きながら斬撃と魔力弾が殺到する。
ちなみにプロテクションでの防御を試みたが拮抗すらせずにプロテクションが切断された。
構わず傾いたビルの中に逃げ込んで、柱の後ろに隠れる。
クロノの後を追いかけレナードが飛来する。
柱に背をあわせ、呼吸を落ち着ける。
――残りカートリッジは12本。残存魔力5割程度。
――右腕と大腿部の筋肉断裂及び裂傷に頭部からの出血。
「君も鬼ごっこをしている場合じゃないだろう。出てくるんだ」
パキ。
自分が飛び散ったガラスの破片を踏む音が響く。
だがレナードも深手を負っているのは間違いない。
――パラジウムリアクターの電源の残りは12分程度。残存魔力も4割。
――内臓へのダメージとあばら骨数本の骨折。頭部への打撲と出血。もって2時間か。
後のことを考えるとこれで勝負をつけてしまいたい。
同じ事を2人とも考えていた。
クロノは長めの息を吐き、目を閉じる。
相手はこちらを見つけていないが、それはこちらも同じだ。
耳を澄ませる。
パキ。
再び飛び散ったガラス片を相手が踏む音が聞こえる。
その音と会話で距離を計ることにする。
「時間がないのは分かってる。なら大人しくしていてくれないか?」
相手が振り向く音が聞こえる。
パキ。
「それはこちらも同じ思いだよ」
――距離7m。思ったより近いな
相手が立ち止まったのが分かった。
心臓がやけに大きく鼓動しているように感じる。
気がつけば手には汗を握っていた。
――頃合か。
恐らく相手もこちらとの間合いを把握したはずだ。
柱の影から飛び出した。
瞬間、柱が切断され崩れる。
風の刃を勘で掻い潜り接近した。
クロノの頬に切り傷が浮かぶ。
相手がナイフを構えたのが分かる。
デュランダルを振り、それを弾く。
数合打ち合うが近接戦はこちらの方が優位だ。
相手が後退した。
このチャンスを見逃すわけにはいかない。
懐からそれを取り出して放る。
それは放射線を描いてレナードの足元に届いた。
「お土産だよ」
「なっ――」
後退した自分の足元に転がったものに驚愕した。
レナードは彼に珍しく、ひどく驚いた顔をしている。
今、目の前には臨界点を迎えている暴発寸前のカートリッジの束が6本あった。
本当に時間がないのだろう。
ほぼ間隔のない明滅を繰り返している。
すぐさま飛びのこうとする。
しかし――
「チィ――なんだと!?」
「させないさ。さあ、どちらが生き残るかな?」
そんなレナードの肩を、クロノがしっかりと押さえ逃げられないようにしていた。
――こいつ、自爆に巻き込む気か
後に為すべきことがある状況での判断として、とてもだがまともとは言い難い。
「正気か」
そう言ったとき、クロノの放ったカートリッジが爆ぜた。
閃光が放たれ2人の視界を白一色に染める。
ビルの中腹から爆炎が噴出しそのまま周辺を極光が飲み込んだ。
その轟音と閃光は結界内にいる者の全員の注意を惹きつける。
「クロノ!?」
「レナード!!――ぐっ!?」
誰のものか分からないが2人の名を呼ぶ声が響く。
遠慮容赦のない攻撃の応酬を繰り返していたが、先程の爆発は並みのそれではないことが全員に分かった。
最低でもなのはのスターライトブレイカーに少し届かない程度。
やって来る魔力波と衝撃波をそれぞれ防ぐ。
強力すぎる爆発が生んだ衝撃波と破片、魔力波が気絶しているはやてをも襲う。
それは守護騎士とレナードが貼ったはやてに対する結界をも破壊し掻き消した。
彼女の姿が病院の屋上の隅に現れる。
闇の書は主の傍に浮いていた。
――見つけた。
それを、彼女は見逃さなかった――
リンディ・ハラオウンはアースラのモニターで結界内の様子を確認していた。
閃光に包まれ自らの息子がそれに消えていくのを視認した。
艦のクルー達、全員に沈黙が流れる。
その胸中を察した者達が立ち上がって彼女の方へと近づく。
「艦長・・・」
自分の子が散るのを見る親の気持ちとはどんなものなのだろうか。
想像するだけでも胸のえぐられる思いがする。
しかし、そんな想像をしていた彼らをリンディはあっさりと裏切る。
「まったく。クロノにはおしおきが必要なようね」
「えっ?」
先程とは違う意味の沈黙がクルー達の間に流れた。
「――?何でそんな表情をしているのあなたたち。私の息子があの程度でどうにかなるはずがありません」
本当に怒ったような表情をしているリンディに全員が唖然とする。
実はこのときリンディは本当に怒っていた。
――あの子ときたら。最近頑な過ぎると思っていたけれどこんなことをするなんて
――主人に似てきたと思ったらこれなんだから。こんなことなら任せずに私が動けばよかったわ。
亡き夫の面影が現れていることに怒りと喜びとが綯い交ぜになったよく分からない感情を抱く。
「と。それどころではなかったわね」
「は?」
「ほら、そんなところで立ってないで仕事に戻りなさいな。エイミィ!状況は!?」
すぐに元の冷静さを指示を出す。
それに慌てて皆は己の職務に戻っていく。
エイミィはそんなリンディの様子にクスリと小さく微笑んだ。
あの程度でクロノがどうにかなると思っていなのはエイミィも同じだ。
彼のことは心配ないと思う。
今、問題にするべきは新たに姿を現した闇の書のほうだ。
「結界内中心付近の建物屋上に、主と思しき少女と共に闇の書の本体が出現しています!」
求められた報告を行う。
モニターに映して頂戴。
エイミィはその指示に従う。
そして映し出された映像に、リンディは息を呑んだ。
意識のない、八神はやてとその傍に浮遊する闇の書が映し出されている。
「まさか。この子が――」
言葉を失う。
以前に商店街で会った少女。
驚きと共に理不尽さを感じる。
自分も書の被害者。
たぶん、あの子も書の被害者。
皆、被害者だった。
料理の話をしながら時折家族の話をした画面に映っているあの子の笑顔を思い出す。
リンディは無表情で、しばらくモニターに移る闇の書を見つめていた――
リーゼロッテは彼女が父様と呼ぶ男、ギル・グレアムから新たな指示を受けている。
今、アリア手製の魔法を詰め込んだカードの束を持っている。
それを託したアリア自身は行動不能になり寝入ってしまった。
そして同じくカード型となっている複製したデュランダルも懐に収まっている。
状況が進展するまで演技を続けるつもりだったがもう必要がないようだ。
目標は発見した。
「ォオオオ!」
「あんたにもう用はない」
演じていたアルフという使い魔の役を捨てる。
バインドでザフィーラとかいった目の前の守護騎士を捕縛する。
一気に病院の屋上へと跳んだ。
「アルフ!?――じゃない!?」
「あの使い魔なら今頃公園のベンチで眠ってるさ」
すれ違いざまに全員をバインドで拘束しながら言ってやる。
何か言っているのが聞こえたが無視した。
これから魔法を放つのだ。
唱え、カードに込められた魔法を放つだけでいい。
複製したデュランダルを展開する。
ギル・グレアムはこう指示を出していた。
――ロッテ。頼んだ。エターナルコフィンで繰り返される悲劇に終止符を打ってくれ。
主の命を果たすべく行動する。
それはもうすぐ叶うだろう――
屋上で眠る、八神はやて。
それを上空から眺め見下ろす。
――闇の書の主の宿命は始まったときが終わり。悪く思わないでね。
そう思ってから発動の準備に入る。
リフレクター散開。
配置完了。
詠唱開始――
「悠久なる凍土 凍てつく棺の――」
詠唱中にカードを取り出し発動の準備をする。
これで。
私たちの悲願は叶う。
後は何も出来なかった者たちの追求を受け止めるだけでいい。
最後にもう一度だけ病院の屋上に横たわる少女を眺める。
数秒だけそれを続けた後、発動にかかった。
「エターナル――」
そしてそんな時、はなれた場所で光の瞬きが起こる。
ロッテとて一流の戦士だ。
それに気がつかないわけがなかった。
半分、条件反射のようにプロテクションを展開し振り向く。
魔力弾が防御壁と拮抗したまま停止した。
――誰だ?こんな時に。
ロッテは苛立ちを覚える。
後はもう放つだけのところまで来ているのだ。
こんなところで邪魔が入るなんて――
遠いビルの傾いた屋上。
そこに射撃を行った2人の姿はあった。
「――外したか。この下手くそめ」
「うるさい。僕に任せるといったのは君だろ。それによく見ろ。命中はしているじゃないか」
「ダメージが通ってないのに命中とはいい難いだろう。まあいい、そのまま頼むぞ」
デュランダルをライフルのように構えたクロノの傍にレナードが立っている。
爆発のせいか、結界内の空気は循環し強風となって吹き付けている。
その風に外套をはためかせながらレナードとクロノは立っていた。
レナードとクロノはボロボロの状態でそこにいた。
クロノの自爆の瞬間。
バリアジャケットを連続生成。
それをパージし続けて爆発から身を守るという無茶苦茶な防御法を2人ともとった。
パージされたバリアジャケットの小刻みな爆発で迫ってくる爆発の威力を相殺するという奇想天外な発想だ。
結果ことが収まってお互いの状態を確認すれば、防御にまわしたせいで互いに魔力は1割か2割程度しか残っていなかった。
おまけに満身創痍だ。
とはいえまだパラジウムリアクターの電源とカートリッジがそれぞれに残されている。
しかし、言いはしないもののこれ以上の戦闘は無意味であることに互いに気がついていた。
そして、クロノは己の負けを認めた。
目の前の男が何をしようとしていたのかは分からない。
だが自分の目的を達成するためにとった行動は失敗に終わった。
自分がとろうとした方法には莫大な魔力が必要だったのだ。
今の状態ではとても足りない。
あとはせいぜい状況を見守ることとこうしてアシストするしか出来ない。
ロッテの目的は知っているのであれは防がねばならないからだ。
相手も必死だったとはいえここまで魔力を使わされるとは思っていなかった。
持久戦に持ち込んだのが間違いだったのだと悟る。
「レナード。どうして僕を助けたんだ」
それが気になった。
荒業を使った直後で飛行できなかった。
あのときレナードが助けなければそのままクロノは今頃、瓦礫の下かクレーターの中心部で消し飛んでいただろう。
彼からすればどうして自分を助けたのかがわからなかった。
「記憶力の方は大丈夫か?頭を打ったのなら病院に行くことをオススメするよ」
「なんだと!?」
相変わらず腹の立つ男だ。
やはりただの気まぐれだったのだろう。
クロノがむっとした表情をしていると苦笑しながらの説明が加えられた。
「まあ、最初に言っただろ。君は僕に似ていると」
――ところで君は昔の僕に似ているな
――だから、間違えて欲しくないんだ
先刻言っていた言葉を思い出した。
なるほど。
最初からこちらの無力化だけを狙っていたか。
これはもう完敗だ。
万策尽きた。
魔力弾を射出しながら膝をついて座り込む。
それから結界内の惨状を眺めた。
随分暴れまわったことだと思う。
こんな惨状を目の当たりにしたのはクロノも初めてだった。
普通はこんなことになる前に決着がつくのだ。
誰もが譲れなかったのだということが分かる。
だがそれゆえに答えを出さなければならない。
繰り返される闇の書の悲劇の、その結末を――
「もう1つだけ聞く。君はこれからの状況を終息させる手を持っているか?」
それに頷きながらレナードは答えた。
「もちろんだ。だから安心して僕をアシストするといい。勝者として要求させてもらおう」
その言葉に苦笑してしまった。
僕のアシストがなければロッテに敵わないくせによく言う。
「いいだろう。僕を止めたんだ。責任は取ってもらうぞ」
「まったく。責任だとか結果だとか子供の使う言葉じゃないだろうに――」
じとりとクロノを見つつそれだけ言うと、ロッテの方へ向けて飛行していった。
あいつ、僕が自分とそう歳が離れていないことに絶対に気がついてないな。
まあ頼まれた以上やるしかないだろう。
こうして2人の協力戦が始まったのだ。
「まだ休めないようだデュランダル」
「Yes Boss(はい ボス)」
デュランダルに宿る簡易知性がそう答えたのにどこか満足感を得たクロノだった。
ロッテは迫ってくるレナードに対して脅威を抱かなかった。
相手は今や死に損ない同然だ。
魔力も使わずにどうやって飛行しているのか分からないが、建物の残骸の上を時折駆けている点から見て、
消耗を抑えているに違いなかった。
クロノが何故かあの男に協力しているが愛弟子の放つ魔力弾ごときたやすく見切れる。
レナードを的にして散弾のような魔力弾を数発、狙いもつけずに放ちつつ牽制だけを行う。
レナードの飛行軌道の影から3発。
上空から狙ったものや的を外した軌道が2発。
追跡弾が1発。
ロッテへと迫ってくる。
それをプロテクションで逸らし、防ぎながら旋回移動する。
高度を上げ状況を確認した。
今、守護騎士となのはとフェイトの戦闘は停止していた。
その全員をバインドで拘束しているからだ。
むしろそちらの方が脅威だった。
あれらがまともに動き始める前に事を為してしまいたい。
――場所を移そう。
いつか自分達が受けた、その考えに至る。
事が現状で為しにくいならばたやすく行えるようにすればいい。
八神はやてを攫い、別の場所で事を為す。
そのための行動を、リーゼロッテは開始した。
屋上で横たわるはやてへリーゼロッテが迫ったのだった。
13.そして聖夜の空の下(中編) fin
2016.9.10
全話、あとがきを削除しました
バックアップは取っています。