The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~ 作:手拭
絶対零度に近いという凍結魔法の冷気を受けて、クロノ・ハラオウンの全身には霜がかかっていた。
インテリジェンスデバイスに比べ、強い耐久力を持つストレージデバイスであったからこそデュランダルにカートリッジシステムを搭載した。
結果残していたカートリッジ全てとクロノに残存していた魔力の全てをつぎ込んで放ったそれは、本来の性能の数倍の威力を誇ることとなった。
皮肉にも元々グレアムの意図していた最終的解決方法が現在のクロノ達のおかれた状況を好転させた。
数分前の集中砲撃の後、表層化していた管制人格と、闇の書の防衛機構とを切り離すことに成功した。
現在の主である八神はやての意識と肉体が戻り、闇の書――夜天の書の正常化が果たされた。
この瞬間、クロノとしては今回の事件に対して果たそうとした目的が潰えた。
しかし、不快感はない。
むしろすっきりとした気持ちだ。
グレアムの存在も理由だったが、リーゼロッテ、リーゼアリアの二人に当初は影響も受けはした。
それでも、クロノとしては、前回の闇の書事件の被害者の息子として完全に納得のいく解決をもたらすつもりだった。
そのためにグレアムやリーゼロッテ、リーゼアリアを出し抜いた。
事件についての重要情報の収集後は、誘導を目的としてあえて守護騎士やレナードに接触した。
自らの母親であるリンディにも一切を秘匿した上で、自身の信条の上で行動した。
その結果、守護騎士やレナードと当然、衝突することになった。
場合によっては、なのは達やアースラの乗員とすら衝突することもあった。
そして今しがた、時間を稼ぐための最後の一撃を放ったばかりだ。
ああ――たぶん僕は焦っていたのだろう。
先ほど、笑顔で会話する守護騎士達とレナード、八神はやてを見て思ったのだ。
何を焦っていたのか。
強すぎる正義感か、たまたま機密情報を得られた運回りか、おぼろげに覚えている自身の父の姿か、闇の書事件の被害者遺族としての思いか。
あるいはそのすべてが彼を駆り立たせたのだろうか。
誰にも分かることではあるが、クロノ・ハラオウンという少年は悪人ではない。
むしろ良識に富んだ未来のある、"子供"だ。
知識もある。魔力もある。執務官としての肩書もある。
それでも彼は15歳の純粋さは持っていたのだ。
それまでの冷静な彼を知っている者であれば、今回のことは珍しいことだと思っただろう。
だから、彼はおそらく焦っていたのだと思う。
そしてその本来の性質は変わっていないのだろう。
魔力を使い果たし、意識を失って落下していく瞬間見えた、彼の口元の笑みがそれを語っている。
支えるように抱えたフェイトも、画面越しにその姿を確認したリンディも、それを確認して表には出さずに安心したのだった。
集中砲撃の終わった直後に飛び出したクロノを見て、何をするつもりだと身構えたレナードは己の卑小さに自分を嗤った。
夢の世界でサガラたちと出会い、抱えていたトラウマも解決したと思ったが自分は相変わらず人が信用できないようだ。
エターナル・コフィンといった魔法を放ち終えた彼がその直前に浮かべた笑みを見てレナードは、そう思ったのだ。
彼は間違えなかった。
そういうことだとレナードは思う。
ウィスパードと魔法とを同じに語るのは問題があるのだろうが、それでもそういうことだろう。
どちらも本来はあり得ない、力。
その上過去の境遇。
どちらもレナードと似たようなものが、彼にはあると思った。
けれど、彼は自分とは違った。
そう、間違えなかったのだ。
思えば、彼の仲間。特に高町なのはやフェイト・テスタロッサなどはテレサによく似た目をしていると思う。
なるほど強いわけだ。
レナードは、フェイトに慌てて支えられるクロノを見てそう思った。
だが、彼は気がついていない。
彼もまた、クロノ・ハラオウンと同様の笑みを浮かべていることに。
「どうした?レナード」
「ん?何がだい」
「今、笑っていたが?」
「そうかい?」
ザフィーラとレナードが会話を始めると、守護騎士やハヤテが集まってきた。
「ほんま。ほんま。わろてたで。こう、ニヤッとした嫌らしい笑みや」
「ハヤテちゃん。もうちょっとさわやかだったと思うわ」
「まー。レナードが嫌らしいのはいつものことだからな」
「ヴィータ。元気なようでうれしいよ。後でゆっくり話そう」
「いや、反論しないあたりお前も自覚はあるんだな」
ハヤテをはじめとして、シャマル、ヴィータ、シグナムが好き勝手に口を開いた。
いつもの、八神家の光景だった。
「主、大丈夫ですか」
デバイスとなった夜天の書から、管制人格――はやてによりリィンフォースと名付けられた彼女の声が響いた。
直後にユニゾンが解かれ、姿を現す。
「大丈夫。大丈夫。よし。これでみんな揃ったな」
そう言って、八神ハヤテは周囲を見回した。
そして、全員がハッとして気がついた。
レナードはこの流れが分かっていたが、守護騎士達は今気がついたようだ。
特に、ヴィータなどは後ろめたそうにしている。
「ハ、ハヤテ――」
「ヴィータやめろ。主はやて、すみません。全ては将である私に責があることです」
シグナムがそう言ったが、ハヤテは手で制してこう言った。
「まあ、色々聞きたいこともあるけど。みんな無事でよかった。おかえり。そして、ただいま」
心優しい主は、自らの騎士たちに向かって、ただ笑顔でそう迎い入れたのだった。
そしてそれを見て、レナードは今度こそ良かったと思った。
これが、望んでいたことだ。
彼が、初めて心の底から望んでいたことだ。
それが、目の前に広がっている。
かつてアマルガムに所属し、闘争の果てに絶望し、TAROSによる世界の変容にまで手をかけた青年は新たな天地で運命に抗った。
かつての彼は諦めた。
今度の彼は戦った。
ウィスパード。ソフィア。アマルガム。幼少期の家庭。カナメやテレサ、サガラ達とのやり取り。
様々な要素が絡み合い、彼を歪めた。
それは、この別の世界に移動した後も、彼を苦しめた。
だが彼は抗い、いまやそれに勝利した。
結果だけ見ると、彼が無理をして頑張る必要はなかったのではないか。
そう思うかもしれない。
けれど、彼が何もしなければクロノは目的を果たしていた。
クロノがどうするつもりだったかは分からないが、ハヤテが完全に無事だったとは思えない。
彼が何もしなければ、蒐集時に守護騎士はなのは達に破れ、闇の書の浸食により、結果的に八神はやては救われなかった。
彼の努力は実際のところ無駄ではなかった。
そして何より、彼自身がそれを行うことが重要だった。
彼は、本当の意味で勝利したのだ。
彼は、それを認めないかもしれない。
だが、それでも彼は到達したのだ。
そう、やはりそれは望んでいたことだ。
彼が渇望し、かつて得られなかったもの。
それが目の前に広がっている。
満足した彼は、愛する者達の声を聞きながらただ瞑目して微笑んだのだった。
そして束の間の安息は、すぐに破られることとなった。
安心している場合ではないのだ、仕方のないことだろう。
『こちらは時空管理局、時空航行艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです。唐突で申し訳ないけれど、貴方たちに現状況への協力を依頼します』
空中にモニターのようなものが出現し、リンディの映像が現れた。
周囲にはいつの間にか、空戦魔導士が数十名ほど現れている。
レナードは癖か、状況に対する嫌味か両手を上げて大人しくしていた。
守護騎士達は装備を解いて、争う気のないことを意思表示していた。
――数分後、アースラ艦内。
「あななたちには聞きたいことが山のようにあるけれど、とりあえずは現状の解決を優先します」
その一言から始まった説明を要約するとこうだ。
リィンフォースから切り離された闇の書の自己防衛システムは現在、エターナル・コフィンにより停止している。
これは本来なかった威力の凍結効果をカートリッジシステムが威力を底上げしてもたらしたものだったとのことだ。
その反動で、クロノは凍結により自身にも被害を受け現在治療を受けており、出動は出来なくなった。
そのため艦内における指揮および、現場指揮をリンディが行う。
今回への協力を元に、事件の事後処理においては有利な証言を、彼らの世界で受けることになる裁判では証言する。
次に猶予が残り30分程であり、時間の経過後に自己防衛システムの凍結効果が解ける。
凍結が解けた直後に集中砲火を浴びせ、コア露出の後に転送。
アルカンシェルという砲撃で、消滅させるとのことだった。
短い説明の後はすぐに解散になった。
本当に時間が無いのだろう。守護騎士や、レナードに対する拘束や監視の措置は一切見られなかった。
レナードは守護騎士とはやて達と共に、アースラ艦内の食堂で待機することとなった。
「なあ、レナードは全部知ってたん?」
「ん?ああ。全部知ってた」
「私のためなんは分かるけど、こう、説明はしてほしかったんやけど」
「ごめん」
言ってはみたものの、ハヤテの機嫌は直らないようだ。
守護騎士達はしゅんとしていた。
これはどうしたものかと思案していると、来客があった。
なのはとフェイトたちが、食堂へと入ってきたのだった。
レナードとしては、空気を改善する機会だと思ったのだが、むしろかえって空気は重くなった。
いや、正確には守護騎士とレナード達の空気だけはかえって重くなった。
ハヤテとなのは、フェイト達は楽しそうに話している。
なんというか、勝手に動いて戦った負い目があるのだろう。
ヴィータを見ると、苦笑いをしてこちらを見つめ返してきた。
するとそんな様子に気がついたのか、なのはがヴィータに声をかけた。
「あ!ヴィータちゃん。お話があるんだよ」
「ッ―ハイ!」
「――ぶふぉ!――」
ハヤテ相手でも見たことのない、軍曹にでも呼ばれた新兵の様な返事をするヴィータに思わず吹き出してしまった。
直後に、なんだこのやろうという視線を顔を真っ赤にしたヴィータから感じる。
「あ。レナード全然反省してへんな」
「レナードさんだけ自然ですね」
「・・・なんか責められてる気がするけど。いやヴィータ。すまない。あまりにおかしくてつい」
「おいレナード。喧嘩うってるのかテメェ!」
「だめだよヴィータちゃん。そんな言い方しちゃ」
「ッ―ハイ!」
「「「――ぶふぉ!――」」」
我慢できずに噴き出したのは、レナードだけではなかったようだ。
見ればシャマルやシグナム、ザフィーラまでもが笑っていた。
その後は、本気で怒るヴィータをからかいながら全員で歓談して過ごした。
それまでの経緯がまるでなかったかのように会話するなのはとフェイトも態度もあって、守護騎士達の空気も大分緩和された。
出撃までの時間の僅かな隙間でも、会話ができて良かったと思う。
レナード達は、心の底からそう思っていた。
配置につき、凍結した自動防衛システム――ナハトヴァールのなれの果てを眺める。
見ればそれはどこか見覚えのある形をしており、それが自分達が蒐集したものの塊であることがすぐに分かった。
ハヤテを助けるために飛び回った、守護騎士達と集めた成果物がこれだ。
展開が当初の予定とは異なるがゆえに、とんでもないことをしたものだと思った。
「大丈夫か。レナード」
「問題ないよ」
言いつつ、視線をナハトヴァールの氷塊から目を逸らさないレナードに守護騎士達は不安を覚えた。
「レナード。お前だけのせいではない」
「・・・ああ」
励ましの言葉をもらうが、やはり負い目はあった。
自身が代わり身になる意図で、ハヤテの負荷を知りつつ行動し、現在の惨状を引き起こした責任は大部分がレナードにある。
先ほどまでも笑ってはいても、引き目を感じていた。
「我らは同胞だ。そして我らもその責は同じだ。だが、それは終わってからにしろ」
シグナムが、レナードに近づいて言った。
力のこもったその言葉に、視線を合わせレナードはただ頷いただけで返した。
直後、轟音が周囲に響き渡る。
視線を戻すと、氷塊の一部が崩壊し始めていた。
ナハトヴァールの活動が、再開したのだ。
『各員、行動を開始してください』
『アースラ、軌道上座標に向けて、段階的に高度を上げます。防御結界を維持しつつ上昇開始――』
『現地、担当員を支援しつつアルカンシェル臨界点に向けて用意――現場担当官の転送準備を開始してください――』
「高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて。いきます!」
直後、はじかれたように全員が行動を開始した。
アースラ艦内で立てたナハトヴァール攻略の筋道に沿って、戦力が展開される。
崩壊を始めてからものの数分で、凍結の影響は消え去り、その禍々しい姿が再び露わになる。
蒐集により集められた、異界の龍の様な生物から、爬虫類の脚、触手が猛威を振るい始める。
本当の最終戦闘が、開始されたのだった。
閃光を放ちながら、回避運動をしつつ本体の注意を引きながら飛行。
その陰から、放たれた触手の根元まで絶つ斬撃が放たれる。
放たれた斬撃の隙間を縫い、鉄槌が下され展開された防御陣を粉砕する。
粉々に砕けた防御の中心を、火矢が駆け抜け炎と共に本体を蹂躙する。
損害の出た本体を補う防御陣が展開されるがこれを、鉄拳が再度粉砕する。
粉砕された防御の中心を、貫通性を高めた魔力弾が駆け抜け本体に風穴を空ける。
集中展開された防御の薄くなった部分に、混成砲撃が放たれる。
培われたコンビネーションは完璧とも思えるものだった。
互いを補いあった上で、全員が真剣に何の加減もなく放っている。
誰かが抜けた穴を、誰かが無意識のレベルで補いあいながら戦っている。
これであれば当初の予定である、コアの露出までは正直そんなに時間はかからないと思えた。
だがレナード本人含め、守護騎士達の誰もがこの時忘れていた。
一番最初に蒐集を受けた人物が誰で、その誰かは先程まで八神はやてと共に何とユニゾンしていたのかということを。
そしてその変化は突然だった。
ひと際大きな断末魔のような奇声が発され、突然ナハトヴァールが黒く染まりあがる。
直後、常識を疑う現象が発生した。
それは、本来は起こり得ることのない現象だ。
そう、物理的な攻撃を、ひと際大きな光がまるで空中で受け止めて制止させて防いだのだ。
レナードの表情が驚愕の色に染まる。
「まさか・・・いや、そういえば・・・そんな」
「おい!何をぼさっとしてやがる!?―ッガァ」
「ヴィータ!?――チィ」
それと同時に触手が再生し、以前にもまして猛威を振るい始める。
そして、それら1つ1つには魔法障壁を貫通する性質が備わっていた。
「なんだというのこれは。情報は!?」
「不明です。過去の記録に該当ありません!」
アースラ艦内で、リンディは状況の変化を読み取り対応にすぐにとりかかった。
こちらの魔導師の持つ防御陣が通用しないことはすぐに見て取れた。
現場担当官に、距離をとりつつの戦闘に切り替えるように指示を出す。
直後、1人から通信が入った。
「レナード・テスタロッサという。君たちの指揮官につないでほしい――」
失敗できない筈の状況下で発生したトラブル。
そんな中で、彼の賭けが始まった――。
『それで、レナード君。あれが何なのか分かるのね』
「とてもよく知っている。というよりも、あれ自体は僕が開発したものだ」
『あなたが?・・・どういうことかしら』
「時間が無いのは分かっているから手短に話そうと思う。あれ自体は、人間の内の特殊な意識を汲み取って、現実に反映させるものだ。
僕らはあれを、TAROSと呼んでいた。要するに願ったことを現実にする能力だ」
『にわかには信じがたい話だわ』
「確かにそうだ。だがそれほど万能でもない。使える範囲は、せいぜい戦闘の範囲内だけだ。
例えばそう。防がれたはずの実弾を、当たると願い、物理的防御を貫通させて命中させたり」
『・・・』
「まだ信じていないな。実演して見せてやろう」
言って、レナードは飛びあがり3発ほど魔力弾を放った。
そしてそれは、防がれるはずの防御を光と共にすり抜けて、ナハト本体に直撃した。
アースラ艦内に、どよめきが走ったのが伝わってくる。
『よく分かりました。それで、あなたはあれを、どうするというの?』
話が早いというべきか、やはりリンディもこうした隊の指揮官なのだと思う。
冷静に、事態の改善に向けた意図を優先して会話をしている。
それに対して、レナードも解決策を示した。
「ラムダドライバを無効化できるのは、ラムダドライバによる力場のみだ。
だから僕が突っ込んで、コアを露出させる」
かつての彼からしたら、冷笑に付したかもしれない。
だがこれが今の彼が望む、賭けだった。
それを聞いたリンディは逡巡した。
普段であれば、馬鹿なことをいうのではないとたしなめるところだ。
しかし、状況がそれを許さないことをよく理解していた。
防御結界内の損壊率は限界に近い。
リンディ達としては、危険性が高まった場合には現地の被害を省みずにアルカンシェルを発射する策も含まれている。
自立防衛システムへの損害は十分であるが、ここにきてコアを露出させることが困難になった。
対応に当たっている魔導師達は、苦戦を強いられ近づくことすら出来ない状態になっている。
加えて与えた損害は、自動修復機能により修復されつつある。
手を打つならば、今しかない。
「レナード君。分かっていると思うけれど、最悪の場合私たちは――」
「分かっている。その上でだが、協力してほしい」
画面越しに、見る銀髪の青年の瞳は力を宿していた。
その瞳は、自分もよく知る瞳のそれだった。
だから、リンディ・ハラオウンは決断した。
「現場担当官に、指示を。全隊、座標(100.98)に集結。レナード・テスタロッサを支援しつつ砲撃戦用意」
『復唱。全隊、座標(100.98)に集結。レナード・テスタロッサを支援しつつ砲撃戦用意』
「レナード君。時間は5分程度しかあげられないわ」
「分かっている。ありがとう」
それを最後に、通信が切れた。
氷塊の浮く、海鳴市海洋上を見渡す。
吹きつける風に、黒の外套であるバリアジャケットを翻しながらレナードは準備の完了を確認した。
レナードの周囲には、なのは達をはじめ全員が集まってきていた。
「聞こえていた通りだよ。時間がない。はじめよう」
「だけど!・・・」
「ハヤテ。後から怒られるから、今は許してほしい」
やはり、不安そうな顔をしている八神はやてにレナードはそう返した。
周囲も渋々といった表情だったが、頷いてくれた。
南の空に、光が集まる。
星屑を集めた収束と、雷撃を集めた収束と、闇色の光の収束と。
無数の影が飛び出して、防御壁を破砕した。
轟音が鳴り響き、破砕された防御壁の中心を突き抜けた。
そして、レナード・テスタロッサは自身の最高速で砲撃と共に、突っ込んだ。
耳鳴りがして痛い。
たぶん鼓膜が破れた。
視界が赤い。
頭にガンガンとした頭痛が響いている。
構わず、突っ込む。
見ると砲撃が直撃している部分が、輝きに逸らされている。
レナードは願った。
当たれ。
直後、逸らされていた砲撃がナハト本体に直撃し始める。
道が開けた。
ナハトヴァールが呻き、手足、触手を振り回す。
その一撃が、レナードを掠める。
腹部に傷を受けた。
鮮血が飛び散る。
まだだ。
迫る触手を、ベリアルの魔力刃を使い、切り刻む。
あと数メートル!
さらに加速する。
本体中央に辿りついた。
「ベリアル!」
「Combat form(近接格闘形態)」
銀光を湛えたナイフの形状に、ベリアルが変化する。
魔力弾を、数十発生成し、直撃させる。
貫通力を持った、それがナハトコア付近に突き刺さる。
まだだ!!
裂帛の気合と共に、ベリアルを突き刺した。
届け!!
レナードは願った。
ラムダ・ドライバが発動する。
輝きは、レナードの願いを実現する。
コアが、露出した。
「シャマル!!」
遠方、自身の仲間の守護騎士の名を叫んだ。
「――捕まえた」
湖の騎士シャマルは、コアを固定した。
直後に転送が開始される。
「「長距離転送開始、目標軌道上アースラ!」」
そのとき、夜天の空に地上から転送による光が走った。
――軌道上、アースラ艦内。
「目標、転送中――自動修復中」
「軌道上きます!」
数拍を置いて、リンディは宣言した。
「――アルカンシェル発射」
都市1つを一撃で葬り去る、砲撃が放たれた。
地上から昇った光を、レナードは自身の傷も忘れただ見つめ続けていた。
その光が夜天の空に、ひと際大きく瞬いた。
その明滅する光が消えるのを見届けて、彼は自らの意識を完全に手放した。
19.それは望んでいたこと(fin)
(続く)
2018.4.19
内容が重複していたので修正
2018.4.19
あとがきを活動記録に転記
文章を若干修正