The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~ 作:手拭
ナハトヴァール消滅確認後、現地周辺はしばらくの間歓喜と混乱に包まれた。
状況が終了したことを単純に喜ぶ者。負傷者の救護に当たる者や、その後の事務手続きに頭を悩ます者。
そんな中、当事者たちはというと八神はやてやレナードのように意識のない者がおり、その救急に対応し続けた。
アースラ艦内。医務室。
「恐らく、極度の疲労状態にあると思われます」
意識のない八神はやて、レナードの両名を慌てて医務室に担ぎ込んだ一行に向かって、担当した医師は去り際に続けた。
「たぶん、急激な魔力行使が原因です。まずは体力を戻すために、起きたら何か食べさせて下さい」
「そうですか。有り難うございます」
扉が閉まるまで、守護騎士達は頭を下げたままでいた。
「とりあえず、大事ではないようで安心したな」
「ああ」
「だけど、これからどうする?」
「それについて、私から話がある」
タイミングを図ったかのように、リィンフォースが穏やかな表情でそう言った。
それを守護騎士達の誰もが、不安げな表情で見つめ返していた。
同アースラ艦内。食堂。
「――以上が、彼らの状況と今後の対応だ。続けて―」
「待って!それじゃあリィンフォースさんは!」
「なのは。まだ話の途中だよ。それでクロノ。続きは?」
「ああ。続きだが裁判は管理世界で行われる。内容は2件、守護騎士達の対応と、レナード容疑者の対応だ。
ちなみに、僕自身は『対応に疑問が残るが、事件解決に向けた具体的かつ明確な問題が見当たらない』ということで減給および謹慎処分になる」
「そっか、クロノもおしおきされるんだね」
「勝手なこと、しちゃいけないんだよ。じゃなくて!!リィンフォースさんは!それにレナードさんが容疑者って」
「落ち着いてくれなのは。守護騎士達には今、本人から説明しているそうだ。それとレナードについては・・・」
「ついては?クロノ。ちゃんと話そう」
目を背けながら語尾を曇らせたクロノを真っすぐ見つめて、フェイト・T・ハラオンは自らの義兄に先を促した。
その言葉に従うようにうなずいた後、間をおいてクロノは重々しく言葉を口にした。
「彼には、管理外世界に関する規定の中でも最も重い刑罰が科せられる。
主な理由は、『"守護騎士プログラム"ではなく自律した意思のある普通の人間であり、闇の書の暴走を促した上、局員の活動を著しく妨害し損害を与えたため』だ」
「「そんな!!」」
なのはに落ち着くように注意していたフェイトだが、今度は一緒になって憤った。
そんな2人に言って聞かせるように、今度はリンディが口を開いた。
「2人とも落ち着いてちょうだい。まだ続きがあるわ。クロノ執務官?」
「はい。その上でだが、レナードには条件付きで特赦の可能性がある」
「「特赦?」」
「彼の持つラムダ・ドライバという技術。その技術知識の提供と管理局への恒常的な協力が条件だそうだ」
本心では、きな臭い話を二人に漏らしたくないクロノだったが苦虫をかみ潰したような表情でそう言った。
苦しげなその表情を見て、なのはとフェイトの2人もようやく落ち着いたのだった。
世間には過去の被害者であるリンディ親子達による、闇の書事件の解決として公表される。
そのためクロノは厳戒処分を免れ、その矛先が守護騎士達と今は眠っているレナードに向かった形となった。
当初、厳罰規定に則り監獄に収容される流れになっていたところをリンディとクロノが必死に擁護した。
今回の不祥事ともとれるクロノの対応を盾にされ、非常に厳しいやり取りになったもののなんとか特赦を取り付けたのだ。
しかしその代償は、『恒常的な管理局への協力』だ。
管理局側は、レナードがナハトヴァールに向かって魔力弾数発を放つ動画や、それが彼の持つレア"技術"であることを知り態度を変えたのだ。
それまでの流れもあり、リンディもクロノもそれ以上は言えなかったが、管理局内部のこうした部分の問題を強く認識せざるを得なかった。
レナードの方は以上だ。
問題は、守護騎士達の方にも残っている。
夜天の書を解析したところ、防衛システムそのものは取り除かれたが、そもそもそれを生み出す機能自体が残っている。
それはつまり、再びナハトヴァールのような存在を生み出し、また主である八神はやてを苦しめる原因を作り出すことになる。
管制人格融合騎であるリィンフォースには、それがよく分かっていた。
だから、彼女はその機能を含む自身ごと消滅させることでの解決を申し出た。
現実は、いつもこうだ。
それでも受け入れて、考え抜くしかない。
重々しい話だと思う。
けれど、歩み続けるしかないのだろう。
年齢不相応に、そんなことを考えて、疲れ切った表情を見せてしまった。
そのせいか、先ほどまでの勢いはなのはとフェイトにはなくなってしまった。
どこか気まずい空気が流れている。
そんな時、そうした機微を感じ取ったのかリンディが会話を振った。
「あ。そうだわ。落ち着いたことだし、みんな私の茶室でお茶にしましょう!」
「「「「遠慮します!」」」」
最高の思いつきだとでも言わんばかりの表情で言った、リンディの言葉に全会一致で否定の声が上がったあと、そのまま解散の運びとなった。
――数か月後。海鳴市。公園。
祝福の風、リィンフォースとの最後の一幕を思い返す。
ある雪の日だ。
泣き縋るハヤテに言って聞かせるように言葉を贈って、12月の空に彼女は還った。
彼女は最後に言った。
『愛する騎士達と同胞よ。私は嬉しい。夜天の空は、輝きに満ちている――主とお前たちの幸福を願っている』
その時、レナードは続く唇の動きを見逃さなかった。
――宜しく頼む。
レナードは穏やかな表情で佇むリィンフォースに、ただ頷いて返した。
少なくとも、彼女の表情は本当に幸福そうだったと思う。
記していた自らの手記を、閉じた。
レナード達は公園に来ている。
今日は、なのはやフェイト達と魔法の練習をするというのでハヤテ達と一緒に来ているのだ。
ちなみに、レナードはぐれてしまったのでベンチで日記を読み返していた。
あれから、いろんなことがあったと思う。
管理世界での裁判。ハヤテや自分、守護騎士達の環境の変化。
管理局への協力や、ハヤテのリハビリ。新しく生まれたリィンフォースII。
ダムが堰を切ったかのような勢いで日々が流れ、いつの間にか季節は夏だ。
当初、話を聞く限りにおいて、レナードは自分の元居た世界にいた連中と同様の匂いを管理局に対して感じた。
監獄行きはもちろん嫌だが、素直に協力するのも拒否したかった。
その部分に関しては、思わないところから助けが入った。
ギル・グレアムだ。
八神はやての一件に責任を感じた彼は、その後ハヤテやレナード。守護騎士達に協力を申し出たのだ。
結果、それまで通りの生活が送れている。
そうした部分の話があるが、一番重要だったのは、実はこの世界の戸籍がないということだったりしたのはまた別の話だ。
どの国に問い合わせても、出生記録から何から何も存在しない人間の戸籍を用意するのには相当苦労したらしい。
そんな相変わらずな毎日だが、確実に言えることがある。
少なくとも、日々元気になっていくハヤテを見て思った。
これで良かった。
自身の選択は間違っていなかったのだ。
今のレナードには、それが確信できる。
「ここにいたのかレナード」
「ああ。はぐれたついでに、ちょっと日記をつけていてね」
「――日記か」
かけられた声の方向に顔を上げると、木漏れ日を受けて立つシグナムの姿がそこに立っていた。
自らの回想から現実に意識が戻ったためか響き渡る蝉の音が、余計にうるさく感じた。
「あいつは。リィンフォースは幸せだったのだろうか。私には、なんと言っていいのか分からない」
シグナムが、ぽつりと口にする。
普段通り、意志の強い光を湛えているその瞳が、迷っているようにも見えた。
「幸せだ」
それに、断言で返した。
「――?なぜそう断言できる」
「何故か?それは、彼女が望んだのは、ハヤテ。そして、僕らの幸福だったからだ」
そうレナードは笑顔で返した。
そうだ。
リィンフォースが。祝福の風が祈ったのは、主達の幸福だ。
それを理解した、シグナムも口端を緩めてこう返した。
「そうだな」
蝉の声が、再びうるさくなったように感じた。
丁度、正午くらいなのだろうか。
陽の高さは高く。日差しの勢いは最高潮に感じられた。
公園のベンチに降り注ぐ木漏れ日に、手を翳しながら空を仰ぎ見る。
たぶん今日もこのまま、良い天気で一日を終えるだろう。
天気予報の内容に反して、レナードはそう思った。
そこに、追加で声がかかる。
「おーい。ここにいたか」
「シャマル。ヴィータ。ザフィーラ」
「みんな来たか」
「来たんじゃなくて、お前らが迷子なんだろーが」
「ははは。違いない」
不満げな表情で近づいてくるヴィータを見て、どこか可笑しい気持ちになった。
あらためて見回すと、守護騎士達が集まっていた。
「ハヤテはどこに?」
「向こうであたしらを待ってるよ。なのはとフェイトも一緒だ。いこう」
「はやてちゃんから伝言よ『出来るだけ早く見つかるように』だって」
はぐれているのに、その伝言もどうなのかと思ったがあえて突っ込まないでおいた。
守護騎士達の面々の顔を見ると、表情は明るかった。
「どうした?」
視線の合った、ザフィーラが訝しんで聞いてきた。
「いや、みんなはこの後どうしたいのかなって」
それが単純に、今日の予定を聞いているわけではないことは居合わせた誰にも分かった。
緩んでいた表情が若干真剣なものに変わる。
「すまない。レナードと、リィンフォースの話をしていたんだ」
「なるほど」
シグナムの言葉で、理解が及んだようだった。
「どうする。か。まだ分からんな」
「まあ、管理局で仕事をするようになるのは間違いないんじゃないかしら」
当然、そうだと思う。
管理局の仕事に徐々に巻き込まれることになるのは必然の筈だ。
今でも一部は請け負っているが、それが増加しつつある。
「それもそうなんだけど。根本的にどう身を振るべきかなって」
だが、軸足はどこかに置いておくべきだろう。
それを促すのが、最後にリィンフォースとの約束のようにレナードには感じられた。
しかし、その心配はなかったようだ。
ヴィータがこう言ったのだ。
「ハヤテ達と、幸せになるに決まってるだろーが」
何を不思議なことを言っているんだというような表情のヴィータに、どこか安心したレナードだった。
「そうだな」
その言葉には、全員が頷いて返す。
「あ。はやてちゃーん!みんなここにいますー」
「おお。お手柄やでリィン。みんな揃って何してんや」
ぐずぐずしていたので、とうとうハヤテまで来てしまった。
八神家勢揃いの面々となった。
「いや、シグナムが愚痴をだな」
「レナード。毎度毎度、適当な嘘で誤魔化される主ではないぞ」
「ええ!?どうしたんや!シグナム」
「主!?いえ、これは!!」
「いや、嘘やごめん」
「シグナム。毎度毎度、期待した反応が見られて僕は嬉しいよ」
恒例のコントがはじまり、残る面子がいつものごとく苦笑する。
「まあ、なのはちゃんとフェイトちゃんが待ってるから、行こう」
その一言に、ようやく移動が開始された。
はやてを中心に、みんなと一緒に、歩き出した。
なのはとフェイトもやってきて、ハヤテが駆け出しそれに続く。
みんなが来いと、呼ぶ声がする。
見上げた真昼の空は、やはり快晴そのものだ。
透き通る青空と、巨大な積乱雲のコントラストを背景に、みんなが彼に手を振っている。
そう彼は、いや。彼も、もう大丈夫だ。
レナードも、一歩一歩と歩みを早め、駆け出した。
その時、暖かな風が吹く。
南から吹くその風は、南風だ。
その風が、レナードには背中を押しているように感じられた。
南風は、祝福と共に彼の頬を優しくなでて、吹き抜ける。
どこまでも。どこまでも。
(完)
2018.04.22
あとがきは、活動記録に記載します。
また、この2次創作タイトルを変更します(旧題も併記します)