The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~   作:手拭

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4.それは気がついたこと(後編)

開けた寝室と表現すると言葉が変だろうか。

 

しかしその場所はもう、そのようにしか表現できない場所となっていた。

 

本来あるはずの壁や柱、天井等が削り取られたように無くなっていた。

その寝室には今、月明かりが差し込んでいる。

 

 

音がする。

 

 

固い物体同士が衝突して発されるようなその音は、室内にいる者たちの元から聞こえていた。

 

 

月の明かりをうけて、金髪の女性が仮面の男との舞闘を演じている。

だが、女性の方は一方的に繰り出される男の攻撃を防いでいるだけだ。

 

 

近接戦闘、つまりクロスレンジの間合いはベルカ式の魔法を用いる彼女達にとってみれば有利な間合いだった。

 

 

なにせ相手を倒すことにのみ特化した魔法体系をとったベルカ式だ。

戦乱の中で、人々の流された血を糧として積み上げられたそれは現代社会で言う軍隊式の格闘術と同じ部類のものだ。

 

だというのにその使い手であるシャマルはひたすら防戦に徹していた。

 

彼女へと襲い掛かっている男は1人で、もう一人の方はそれを傍観しているだけだ。

だが、1人だけでもこの仮面の男は十分に脅威だった。

 

 

魔力で強化された拳が彼女の首筋を狙う。

 

 

引き下がるのを許さないかのように回し蹴りが彼女の立ち位置を誘導する。

 

 

踏み込もうと思えばあしらわれ、強烈な肘による一撃を貰いそうになる。

 

 

反撃を行えば、自らの腕を絡めとられそうになる。

 

 

突き、打撃、払い、蹴り。

およそ人の形をとる者の行う最も単純であろうその攻撃は、シャマルにとって脅威的なものだ。

 

それは彼女の扱う魔法の傾向にも原因があった。

 

彼女は積極的に攻めるタイプではない。

相手の攻撃を防ぎつつ、突くべき点を観察する。そして相手を倒すのに十分な攻撃を用意する。

 

戦闘の根底に防御があり、その時間の中で最も有効な手段を吟味し実行するのだ。

 

そうしたスタンスを取る彼女に、時間を与えてくれないこの戦闘方法ははっきり言って相性が悪かった。

 

 

脇に転がっているシグナムとヴィータには既に意識がない。

砲撃の直撃を受け、その軌道をかろうじて逸らしたザフィーラは吹き飛ばされ屋外にまで追い出されてしまっていてその安否は知れない。

 

直前になって強制的に転移させたとは言え、主を守らなければならない。

口から血を流しながらも必死に男の猛攻に抗った。

 

 

――拙い。拙い。

 

そう焦るシャマルに容赦なく襲い掛かる仮面の男。

ふとした瞬間、彼女の防御壁―プロテクションが砕け散った。

 

――。

 

「詰めだ。眠るといい」

 

仮面の男の拳が繰り出される。

 

終わったか。

 

そうシャマルは思った。

 

――ごめんなさい。はやてちゃん。

 

彼女は目を閉じ、最後に主のことを思いながらその一撃を受け入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あれ?

 

 

 

 

覚悟した相手の一撃が来ない。

 

 

 

 

 

 

不思議に思い閉じていた目を開ける。

 

 

 

 

 

そこには古臭い黒い外套を翻し、男とシャマルとの間に立つ者の姿があった。

彼は数ヶ月前に転がり込んできた長い銀髪の、青年というにはまだ少し若い男だ。

 

「淑女の扱い方がなっていないんだな君は」

 

こんな状況だというのにそんなことを言いながら仮面の男と対峙している。

 

「・・・お前はなんだ」

 

もう片方の仮面の男が問う。

 

レナードは掴んでいた男の腕を放した。

瞬間飛び退るように距離をとる仮面の男。

 

「なんだとは、なんだ?人様に向けて使う言葉じゃないよな」

 

相変わらずの態度で仮面の男と向き合うレナード。

 

一瞬呆けていたシャマルだったが、すぐに気を取り直す。

 

「逃げなさいレナード君!!殺されてしまうわ!」

 

「「・・・」」

 

彼をも逃がすつもりはないのか、2人の仮面の男はレナードを挟むようにして構えを取る。

それを目視したレナードは、シャマルとの距離が十分離れたことを確認した上でこうつぶやいた。

 

 

 

「やる気か――では始めよう」

 

 

 

戦闘が開始された。

 

 

 

 

月夜の明かりのもと、3つの影が動き始める――

 

 

 

その光景を見て最初、シャマルは呆然として動きが取れなかった。

 

高速で行われるその戦闘は、先ほどまで自身が行っていたものとはレベルの全く違うものだった。

 

仮面の男2人を相手に、腰の辺りにベリアルを吊ったレナードは近接格闘戦を行っていた。

 

突きに合わせて、投げを入れる。

投げられつつの、頭を狙った蹴り。

それにあわせて放たれる正面からの足払い。

足払いを放った別の相手に対する回し蹴り。

重心を移した彼に対する貫き手。

貫き手に合わせて放たれる掌打。

 

その応酬のどれもが訓練された者の放つそれだ。

 

数合打ち合わせた後、彼と2人の男は距離をとる。

 

ふと片方の仮面の男が馬鹿にしたような声で言った。

 

 

「ふん。やはりそんなものか」

 

「なるほどね。腕だけは確かなようだ」

 

 

彼は右脇腹を押さえていた。

レナードは腹部に強烈な痛みを感じている。

 

掠っただけで、この威力か。

 

 

やれやれ――とんでもないヤツだな。

 

 

そんなことを考えた彼は内心呆れていた。

 

今しがた八神家を襲ったこの現象にも。

目の前の人外の身体能力を発揮するこの男達にも。

 

 

そしてこの状況を受け入れた自分にも。

 

 

しかし自分を突き動かすものがあることにも彼は気がついていた。

 

ここで引き下がり"たく"はない。

 

それは彼が生まれて初めてこの方感じたことのない感情、そして願いだ。

 

「なにか手はないのかベリアル」

「Ok...Combat form(分かりました...近接格闘形態)」

 

すると先ほどまで弓の形状をしていたベリアルは、軍用ナイフのような形状へと姿を変え手に収まった。

 

それを見てつぶやく。

 

「お前最初から―」

 

言いかけたところで仮面の男達は再びレナードへと掛かって来た。

 

「武器を変えたところで無意味だ」

 

迫り来る仮面の男へ咄嗟にナイフを振り下ろすレナード。

ふん、という鼻で笑ったかのような声と共にその刃は男の防御壁に阻まれる。

 

男は慢心していた。

 

いかなデバイスとはいえ通常の攻撃、つまり魔力を込めたとはいえナイフなどでは魔導師に通用するはずがないのだと。

 

仮面の男は間違っていなかった。

どんなに優秀な魔導師であれ正面から相手の防御壁を貫くなど、砲撃型魔導師の重撃などでなくてはできない。

 

しかし、目の前の敵の持つナイフがそれを"可能"にするものである事を彼は知らなかった。

 

予想は裏切られる――

 

彼が展開した防御壁―プロテクションとナイフが一瞬拮抗する――

 

そして――

 

阻むものが"何もない"かのようにナイフは防御壁をすり抜け、仮面の男の肩口から腹部の辺りまでかけてを切り裂いた――

 

 

「ガッ・・・!!」

 

 

今まで聞いたことのないような声を上げ、仮面の男がレナードから距離をとる。

床にはその男の傷口から迸った鮮血が飛び散っていた。

 

「何をした・・・」

 

男は明らかに動揺していた。

 

それを見てレナードは思った。

これらが魔法とか呼んでいるものにもラムダドライバによる力場の"干渉"は有効なのだなと。

 

応えないレナードに対して2人の仮面の男は互いを見合わせ頷くと、戦闘方法を切り替えてレナードへと挑んでいった。

 

 

 

 

 

風の癒し手、湖の騎士シャマルは倒れたシグナムとヴィータ、

そして先ほどボロボロの状態で発見したザフィーラに対して治療を行っていた。

 

主を転送した先の、仮面の男たちから離れたこの場所で治癒魔法を用いながらも感じる。

 

自分を除いて彼女達は現状、戦える状態ではない。

 

彼女達が現在も主と共にあれるのは、他ならぬレナードが戦闘を引き継いでいるからであった。

 

――だが何故彼が魔法を?

 

自分達が最初に彼に行ったのは暗示までも用いた"調査"だった。

結果は魔法的要素など欠片も見つからず間違いなく一般人であると思っていた。

 

――いえ、それどころではなかったわね。

 

未だ寝息をたてる主の寝顔と、気絶した仲間達を見る。

敵は自分達をここまで追い込む手練だ。

 

自分よりかは近接戦に心得のありそうなレナードを見ていたが、それでも2対1だ。

 

――いかなくては。

 

そう思いシャマルは、闇の書を抱えて戦場へと再び転移した。

 

 

 

転移した先で、彼女のデバイスであるクラールヴィントを構えたシャマルが目にした戦闘はもう近接戦ではなくなっていた。

 

 

 

 

空中を飛び交う魔力弾の嵐の中、その戦闘は終盤へと差し掛かっている。

 

 

仮面の男達は、レナードから距離をとりつつ魔力弾を射出する。

地や建物の上を駆ける、またはラムダ・ドライバをバリアジャケットである外套から展開させ三次元的な動きで飛行することで彼は回避する。

回避する間にも、一つ一つは小さいながらも個数にして20弱の魔力弾を彼のデバイスの補助によって生成し、反撃を行っていた。

 

それは魔導師同士の戦闘であるのならば通常良く見られる光景に近かった。

 

近いというのには、通常とは異なる点があったためだ。

 

不可解なことが起きている。

 

彼は時折、防御壁―プロテクションを展開させることもなく敵の攻撃を防いでいた。

いや、それだけではない。

彼が放つ魔力弾は、まるでそこに何もないかのように仮面の男の防御壁を"貫通"している。

 

原理が全くつかめないがこれは彼にとってこの上なく有利な状況だった。

 

だが、戦闘が成り立っている。

 

それは彼我の有利不利の差を、敵が埋めているからに違いなかった。

 

妙な攻撃を行っているレナードだが、シャマルの目から見ればそれは魔導師としての戦闘で言えば素人のそれだった。

だから手助けしなくてはいけない。

 

 

 

「場所を移すわ!離れて!!」

 

 

 

先ほど助けた人物の声が駆けるレナードへと届く。

距離を取れと言っている。

 

ちょうど良い、とレナードは思った。

撃ち合いに持ち込まれて焦れていたところだったのだ。

 

シャマルが何かするつもりなのだろう。

 

ではその機会を利用しよう。

 

そしてこの戦闘を終わらせる。

そう思い彼は手にしているベリアルへとある指示を出した。

 

 

ところで、八神はやての家の付近は常時結界が張られている。

 

 

彼女達の貼るそれは、結界内で物理的損傷がおきようとある一定の損壊率を超えなければ現実の物体に影響しない。

――レナードの部屋はもうダメかもしれないが・・・

 

そしてそれは操るだけの魔力量さえあれば自由に扱うことの出来るものだった。

 

 

「クラールヴィント!――転送!!」

 

 

傍らでページのめくられ続ける闇の書に手を沿え、シャマルが大きくそう叫ぶと周囲の空間が大きく歪む。

 

仮面の男たちまで者が、その違和感に身を硬くする。

空間の歪みとその違和感が消えたとき、周囲の景色は都会の高層ビル群へと変わっていた。

 

シャマルが手にしていた闇の書の約百ページ程が消え去り、その本もまた転移する。

 

そう、彼女は闇の書のページの魔力を用いて結界ごと空間転移させたのだった。

 

 

 

男達は周囲の状況を見渡した。

そして彼らは思う。

 

――潮時だ。

 

そもそも最初の30分ほどで全ての戦闘が終わるはずだった。

 

ヴォルケンリッター達を襲撃し彼女らの主への危険を感じさせ、

追い詰めることで本のページを消費、魔力蒐集の期間を伸びさせるのがこの者たちの目的だった。

 

ページを消費させることには成功した。

だが、ヴォルケンリッター達は未だ健在で消滅していない。

 

本来、目的を達成するためには障害は出来る限り取り除いておくことがセオリーだ。

仮面の男達のマスターは情報漏えいを恐れて、より良い状況を作れとしか言わなかったため独自の判断でこうした行動に出た。

目的半ばだが、結果が何も得られないていないよりはマシだ。

 

それにイレギュラーな要素も確認した。

今回はそれと戦闘を行った内容を報告すれば自分達の役割は果たしたこととなるだろう。

 

そう判断した彼らは行動を再開する。

 

「チッ――」

 

彼らの体が、先ほどシャマルの用いた転移魔法と同様のそれに包まれる。

 

「逃げるつもり!?」

 

シャマルは慌てた。

ここまで追い詰めたのだ。何としても倒さなければならない。

 

自分達の手札を晒してしまった相手だ。

敵として再び現れた場合、次はどんな対策を講じて来るか分からない。

 

「さらばだ守護騎士よ」

 

そう言って、男達が消え去ろうとしたそのときだった。

 

「――いや。逃がさないよ」

 

その場に居合わせた者全員が頭上を見上げる。

数百メートルほど離れたその先、その人間を確認する。

 

そいつは弓を構えていた。

 

不思議なのは、弓を構えているだけで魔力をほとんど感じないことだ。

 

 

怪訝な様子の相手を他所に、レナードは引き絞った弦から指をそっと離した。

 

 

仮面の男達は何のつもりだ、と思った。

離れた距離にいる敵には魔力のうねりを感じない。

ヤツが射撃型に近いことは先ほどの戦闘で理解していた。

だが、狙撃されるこのタイミングで魔力をほとんど感じさせないとはどういうことなのか?

 

自分達の体がその場から消え去る寸前、ヤツが弦から指を離すが分かる。

 

それが見えたとき2人の男の片割れが、突然血しぶきをあげた――

 

 

――アイザイアン・ボーン・ボウ――

 

 

その真価が発揮されたのだった。

 

 

貴様――と聞こえたあたりで仮面の男達の姿が掻き消えた。

 

 

 

 

男達が消え去った結界内、高層ビルの並び立つ空中。

 

そこに浮遊したレナードは弓をおろしてシャマルの方向を見る。

向こうもちょうどこちらへと視線を合わせてきたところだった。

 

「ずいぶん腕がたつのね。レナード君」

「それは君のことだよシャマルさん」

 

それだけ言うと彼らは沈黙して見つめあったまま動かなくなった。

 

レナードは悲しそうな顔をしていた。

 

「なぜそんな顔をするの?」

 

ビル風に煽られる髪をかきあげながら、シャマルが聞く。

 

「いや、できれば君達がこうしたものの匂いから遠いものであってくれと願っていたんだがね・・・」

「まあなに、そんなに不思議なことでもない。僕達は本当に"同類"だった。そういうことさ」

 

続けざまにそういった。

 

それだけで理解した。

目の前のこの男は自分達と同じように命のやり取りをした事のある――つまり殺し合いのしたことのある男だと。

 

再び沈黙が2人の間に訪れる。

 

ふと、シャマルがなんともいえない顔で微笑んだ。

 

眉尻の下がった、苦笑ともつかない、

しょうがないか。とでも思っているような顔だ。

 

そう、しょうがない。

仕方がないのだろう。

 

レナードも瞑目して口元を少しだけゆがめた。

 

そうして言葉もなく彼らが佇んでると、それすらも許さないかのようにそれは起こった。

 

転移させた結界が突如として歪む。

 

慌てて2人はデバイスを構え、武装するも間に合わない。

シャマルは自分が見覚えのある少女2人にバインドで拘束される。

 

「アースラ所属、嘱託魔導師フェイト・T・ハラオウンです。動かないで」

「同じくアースラ所属、嘱託魔導師高町なのはです」

 

首筋には金色の鎌、目の前には砲撃を放つ宝珠の赤いコア。

 

見やればレナードもまた、4人ほどの男達に全身をバインドで拘束されている。

 

瞬く間に拘束されていた。

 

 

「結界が現れて数分後から君達を観察していた。僕は管理局次元航行艦アースラ所属、執務官クロノ・ハオラオウンだ。君達に同行を求める」

 

 

包囲した者達を代表して、レナードより3つほど年下かと思われるくらいの少年がそう言う。

 

 

――くそったれ。この状況で何が同行だ。

 

レナードはそう思った。

 

 

 

 

4.それは気がついたこと(後編)fin

 





2016.9.10
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