The Echo ~Reflection of The FullMetalPanic~   作:手拭

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5.それは通すべきこと

時空管理局・巡航L級8番艦。次元空間航行艦船アースラ。

 

その艦にレナードとシャマルは拘束されていた。

 

彼らにつけられた拘束具は、彼らの手のみを縛っている。

デバイスは取り上げられ、どこにあるのか分からない。

 

彼らは取調べを受けていた。

 

 

――良かった―

 

 

そんな中、内心シャマルは安堵していた。

彼女はずっと黙っている。

 

それは何故か?

受け答えの全てをレナードが請負っていたためだ。

 

当初、シャマルとレナードは別々の部屋で取調べを受けていた。

黙秘を続ける彼女だったが、万策尽きていたのも確かだった。

 

このまま待っていたところで、何らかの手によって情報が引き出されてしまう。

実はその心配はなかったのだが、どうにかしなければと考えていたところで救いの船はやってきた。

 

 

数分前。

 

 

突然レナードが連れてこられて彼女の隣に用意されていた椅子に座らされた。

それからようやく、取調べといえるべきものが始まったのだった。

 

こめかみをひくつかせて、管理局の制服を着込んだ少年が部屋に入ってくる。

 

「まったく――これでいいんだろう?では話を聞かせてもらうぞ」

 

その少年に続けてシャマルを拘束した空戦魔導師2人が顔をのぞかせる。

 

「「失礼します」」

 

彼女達は部屋の入り口と、その反対側の角へと一人づつ立つ。

それと同時に取り調べのために設置されたテーブルの反対側に、その少年は座り込んだ。

 

「はぁ。一度名乗ったが僕は執務官、クロノ・ハラオウンだ。では始めよう」

 

そんな言葉を聞き流しながら、シャマルはレナードの方を見る。

 

「これは一体?・・・どうやったの?」

「それは秘密だよ」

 

そう言って、今まで全く見たことのなかった実に爽やかな笑顔で彼は微笑んだのだった。

 

こ――こわい。

 

背筋がぞくりとした。

笑顔だというのにその表情のレナードは実に怖い。

 

対角線の角に立っている彼女達も、あはは・・・と笑うだけで微妙な顔をしている。

 

聞かないほうがいい。

 

そう言われたような気がする。

もちろん気のせいなのだが。

 

しかし、ふと見ると目の前の執務官の目が全く笑っていない。というか死んだ魚のような目をしている。

 

やめておきます――

 

本来敵対する関係にある筈のクロノにシャマルはこくこくと何度も頷いたのだった。

 

 

 

数分後、

 

「ほう。じゃあ君達は管理局という組織に所属していて、そこの魔導師なわけだ」

「そうだ。僕達管理局員は、特にこの艦の人間は次元犯罪の捜査にあったっている」

「なるほど。なるほど。それで?最近は何かあったのかい?」

 

「ああ。リンカーコアが極度に収縮した状態の生物達の死骸があちこちで見つかっていてね。

 目星がついているのはブレードとハンマー、そして徒手で戦う3人で――」

 

あろうことか、レナードの質問に答えている執務官の姿があった。

 

 

「ク、クロノ君。ま、また――」

 

 

高町なのはの慌てたその言葉にハッとなるクロノ執務官。

 

「ウガアァア!!またか!一体君は何なんだ!!」

 

両手で頭を抱えて大げさに騒ぐ執務官。

それを聞いて、ははは。と実に愉快そうに笑ってレナードは陽気に答える。

 

 

「君達が拘束した者だよ。クロノ・ハラオウン執務官」

 

 

隣のシャマルは唖然としていた。

話しかけ始めるのはいつも決まって執務官であるクロノだ。

 

だというのに、いつの間にか。

本当にいつの間にか質問する側とされる側が入れ替わっているのだ。

 

もうかれこれ3回目だ。

 

取調べは全く進んでいなかった。

焦れた執務官はシャマルに向き直る。

 

「もういい!!彼女に聞くことしよう」

 

すると、

 

「それは出来ない注文だ執務官。なぜなら彼女は僕のものだからね」

 

――ん?

 

それから、室内にいる少女2人が真っ赤になるような台詞をレナードは吐きつづける。

彼より年上というか、見た目はともかく実年齢差がかなりあるだろうシャマルですら顔を赤らめてしまいそうなそれは、

彼女達には刺激が強すぎるのだろう。

 

だからシャマル含めて途中から彼女達は聞くのをやめた。

 

そのとたんに、

恥ずかしさでやられてしまいそうになる言葉の数々を口にし続けるレナードを再び執務官が止める。

 

「分かった!!分かった!!君に聞こう――だからやめてくれ!」

「ああなんだ。まだ語り終えないというのに実に残念だ」

 

心底残念そうな表情でそう言い、わざとらしく大仰なしぐさで肩をすくめるとレナードは椅子に深く座りなおした。

 

「・・・・なあ・・・頼むから、普通の取調べをさせてくれないか・・・お願いだ・・・」

 

あまりにも疲れきった様子の執務官を見ていると可哀想になってきたシャマルだった。

そんな彼に対してなおもレナードは無慈悲にこう告げる。

 

「なんのことだい?僕は君が話し相手になってくれるから話しているだけだよ」

 

実にいい笑顔でそう言ったのだった。

 

 

 

 

「やっと終わったか――まったく彼らにも困ったものだね」

「え、ええ。そうね」

 

アースラの艦内、この艦の艦長であるリンディ・ハラオウンに会うために2人は通路を歩いていた。

 

結果として2人は拘束を解除された。

 

だがその後の取り調べもあの調子で続き、それはレナードの独壇場だった。

 

まじめに質問にも答えている場合もあり、一概に止めることの出来ない彼の話と問いによって、

長時間に及んだそれは主にクロノの精神力をガリガリと削りきったところで終わった。

 

疲れきった顔の、3人のアースラ所属の魔導師達は部屋から出る際に彼女達の拘束を解いた。

 

『事件終息までの期間、アースラ艦内における被害者を魔力蒐集から保護するための一時的措置』

それが彼らが艦内を自由に闊歩している理由だ。

 

話では長くとも2、3ヶ月ほどだろうと言われていた。

 

レナードとシャマルは管理外世界で発見された地元魔導師――

彼らの管理世界から戦乱を嫌って渡航した一族の末裔だろうという管理局側からの推測で事が片付けられている。

 

突然結界に捕まり、謎の仮面の男達に戦闘を仕掛けられて応戦していた。

そういうことになっていた。

 

またレナードの会話のそれは、相手から情報を引き出している。

仮面の男のことや、管理局の今後の動き、2人の協力者であるなのはとフェイトのこと。

 

――管理局の彼らが自分達を追っているのが分かった。

――各地で繰り返されている魔力蒐集と違法渡航者の逮捕。それが彼らの目的だと言った。

 

それにしても良くここまで嘘八百並べ立てた上で、それを相手に信じ込ませられるものだとシャマルは思う。

 

ある種感心していたシャマルだった。

 

 

 

 

誰もいない食堂に行き着く。

時刻は昼食時を2時間ほど回ったぐらいだ。

 

「おや?ここではないようだ。だがまあ近道かもしれないから通り抜けよう」

 

そういうとレナードは誰もいない食堂へと入っていく。

それに続いてシャマルも入り口のドアを抜けて食堂内へと入った――

 

そのときだった。

 

レナードが彼女の腕を引いて照明の当たらない、食堂の死角になっている暗がりへと引き込む。

びっくりしたシャマルが彼を見ると、彼はいつもの表情に戻っていた。

 

小さな声で彼女に顔を寄せ、ささやく。

 

「静かに。ここから出る手立てがある」

「逃げるの?でもどうやって・・・それに私達のデバイスはどうするの」

「あのクソガキ――クロノとかいったのがいるだろう?あいつが手引きをしてくれた」

「あの子が?あの子は管理局の――」

 

そう疑問を口にしたシャマルにレナードはかぶりを振ってから言葉を続ける。

 

「そう思うのは分かる。だが、そもそもこの話はあいつから持ちかけてきた。

 あいつ――かなりのやり手だよ。それに役者だ。まったく嫌なガキだよな」

 

そう言って皮肉っぽく笑うレナードを見てなおも首を傾げるシャマル。

 

「どういうこと?罠の可能性もあるわ」

「僕も最初にそれは疑った。まあ説明しよう」

 

レナードはこれからのプランと、その始まりの出来事を伝え始めた。

 

 

 

 

 

彼らが捕まった直後、

複数の男達に拘束されたレナードは彼にあてがわれる部屋へと向けて歩かされていた。

 

そこに声がかかる。

そいつは男達に対してこう告げた。

 

「みんなお疲れ様。ああ、そこの彼には聞きたいことがあるから僕が直接連れて行こう」

 

そう言うと男達を解散させ、彼の護送をそのまま引き継いだ。

声をかけたのは先程自分達に執務官と名乗ったクロノ・ハラオウンだった。

 

「君に話があるんだ」

 

沈黙を続けて歩くレナードにクロノはかまわず続ける。

 

「まあ部屋に入ってからにしよう」

 

そう言うと彼もまた黙りこみ、2人の会話は完全に無くなった。

しばらく歩いて部屋にたどり着く。

 

机と椅子以外部屋には何もない部屋。

だが見覚えのあるものが2つ、机の上に置かれていた。

 

 

 

「A your safe is above all(ご無事で何よりです)」

 

 

 

レナードが部屋に入るとベリアルがそう言ったのだった――

 

 

 

「これはどういうことだい?」

「さあ?見ての通りだろう。彼女と君のデバイスだよ。ほら、落し物は持ち主に返さなくてはいけないだろ?」

 

それを聞いてもレナードは何も答えない。

 

「まあ、簡単には信用しないか・・・」

 

クロノは彼に話を続けた。

 

「率直に言う。君には利用されてもらいたい。この艦から君達を逃がそう。取引をしないか?」

「信用のなら無い話だ。そんなことをしてお前に何の得がある」

「得――では無いが因縁だね。僕は僕の父親の仇を探していてね。それは――」

 

その言葉を皮切りに、クロノ・ハラオウンは胸中を語り始めた。

十数年前、彼の父親はある事件が原因で命を落とした。

 

原因はある第一種ロストロギア指定にされている闇の書という古い魔導書のせいだった。

彼はその魔導書のことを調べ続けていた。

無限書庫、そう呼ばれる場所に新たな協力者を得た彼はいつか訪れる機会のための情報を既に持っていた。

 

「僕が追っているのはその闇の書と呼ばれる古書だ。そして僕は既にその手がかりを掴んだ。

 しかし、ある障害にぶつかっている。僕の望まない展開を望む者がいる。僕達は管理局という組織の一員だが必ずしも"一枚岩"じゃないんだよ。

 ―――僕が追っているのは闇の書本体と、それが引き起こす惨劇だけだ。そこ以外に影響を広げるつもりは無い」

 

真剣な顔でクロノ・ハラオウンはレナードへ告げた。

 

「つまりお前は自分の目的のために、僕達を逃がすと?」

「そうだ。物分りが早くて助かる。そのかわりに――」

 

 

「――そのかわりに、『僕の都合のいいように動け』とのことだ。

 まあ話はこれだけだった。その後は君の知る通りだ。それと指示はなんとかして出すし、それ以外は自由にしていいとのことだ」

 

彼女のデバイスであるリングを差し出しながらレナードは最後にそう言った。

 

「なるほど・・・だけどそれはつまり彼は」

「ああ、クロノは君達について何か知っているようだった。僕には聞かされた話以上には何も分からなかったんだがね」

 

黙りこむシャマル。

それを見ながら確認するレナード。

 

「どうする?ここにいても何もすることは無いし、あいつの一言でいつ再拘束されるかもわからない」

「そうね。どうやら私達のことを詳しく知っていて持ち掛けてきた取引みたいだし、ひとまず乗りましょう」

「分かった。裏切れないようにしっかり手綱を握ってくるあたり実に嫌なやつだな」

 

それはレナードにも時折当てはまる場合もあったのだがシャマルは黙っておくことにした。

だが、彼の言っていることは本当だった。

これではうかつに裏切ることが出来ない。

 

闇の書について知っている。

それはつまり、こちらを詳しく知っているということだろう。

下手に裏切ればよろしくない展開になることは間違いない。

 

だが、いつ嘘がばれるか分からない。

それに3ヶ月もこの艦にいることはできない。

主であるはやてを救わなくてはいけないのだ。

 

乗るしかない。

後からどうなろうと、現状維持を続けるのは得策ではない――

 

「それよりも、戻ったらあなたについてみんなで確認しなければいけないことが多いわ」

「そうだな」

 

することが決まった後のシャマルの切り替えは早かった。

それを見て、なんとかなりそうだなとレナードは思う。

 

「まあ2時間後にあの街の海岸沿い2kmの辺りをパトロールとして隠密飛行すると言っていた。タイミングはそのときだ」

「そう。わかったわ」

「まあひとまずは艦長殿の顔でも拝みに行こう」

 

そう言うとレナードは取り調べのときのような"陽気な"表情を取る。

それにギクシャクしながらシャマルは聞いた。

 

「レ、レナード君あなたそれやっぱりワザとやっていたのね」

 

「なにを言っているんだ。あたりまえだろう」

 

一瞬だけ元に戻って、彼は不機嫌そうにそう言ったのだった。

 

 

 

 

レナードとシャマルが、リンディによって差し出されるお茶に蒼い顔をしていたその頃、

クロノ・ハラオウンはブリッジに戻っていた。

 

彼はシャマルの正体に気がついていた。

 

闇の書の守護騎士の一人、後方支援型の魔導師。

彼女を見たとき、何年も前に落ち着いたはずの感情が高ぶりそうだった。

 

だが彼は、そんな感情よりも自らの"義務"を優先するほどに、

彼の父親と母親を心の底から尊敬している。

 

だから、今回のような行動をとるのだ。

 

「――これから忙しくなりそうだな」

 

厳しい表情のまま、ぽつりとつぶやく。

 

「え?何か言ったクロノ??」

 

それを聞きつけたエイミィが聞いてくる。

いや、なんでもないよ。

そう返してからブリッジ内のコンソール画面にて時間を確認する。

 

時刻は現地時間で午後15時過ぎというところだった。

 

 

 

 

奇怪な日本茶を出す未亡人との邂逅を終えた後、

レナードとシャマルは艦内のとあるミーティングルームでくつろいでいる。

 

広すぎないその部屋は今の彼らにとってはかえってやすらぎを与えていた。

 

と、そこに取調室で顔を見せた2人の空戦魔導師が入ってきた。

 

「あれ?こんにちわ」

「こんにちわー」

 

「ん?ああ君達か、どうしたんだい?こんなところに来て」

 

そう返したレナードに彼女達はこう答えた。

 

「私達まだ正規の魔導師じゃなくて――ちょっと待機しているように言われたんです」

 

「ふうん。まあいいか――暇なら僕らと話でもしていかないかい?」

 

彼のそんな言葉きっかけとなり、彼女達との会話が始まったのだった。

 

 

 

「それで、そのときなのはったら私に極大の収束砲を――」

「も、もうフェイトちゃんっ!」

「ははは。実に衝撃的な出会いだなぁ」

 

取り繕った"陽気な"表情を一度も崩すことなくレナードと彼女達は談笑する。

 

その会話を聞いていてシャマルはつい笑いをこぼしてしまう。

そしてその後、ふいに寂しそうな表情をした。

 

「どうしたの?シャマルさん」

「ああ。ごめんなさいね。何かあるわけじゃないのただ、」

「ただ?」

「ただ、私の良く知っている子にもあなた達みたいなお友達ができたらなって思ったの」

「シャマル―」

 

レナードの諌めるかのよう声にシャマルはハッとなり黙り込む。

 

沈黙が流れる。

 

ふと、あらためて高町なのはと名乗った娘がこう言った。

 

 

「できますよ!私達その子とお友達になりたいな」

 

 

なのはの言葉にきょとんとした表情をした後、シャマルはやさしい表情でこう返した。

 

 

「そう――ありがとう」

 

 

艦内放送が流れる。

 

「次元空間より、現地空間へ出ます。繰り返します。次元空間より、現地空間へ出ます――」

 

 

その放送に、なのはとフェイトは慌てた様子で立ち上がる。

 

「あっ!私たち、もう行かないと」

「レナードさん、シャマルさん、ありがとうございました。またお話したいです」

「ああ。僕もだよ、それじゃあ行ってらっしゃい」

「はい!そじゃあまた」

 

そういって2人とも手を振って部屋から出て行った。

2人が行ったのを確認して、レナードはシャマルに向き直る。

 

 

「それじゃあ――僕達も行こうか」

「ええ」

 

 

 

彼らは自分達のデバイスをセットアップし、行動を開始する。

 

 

 

クロノ・ハラオウンは未だ、一人ブリッジで待機している。

それは先程出動した部下である魔導師達の指揮を執るための極自然な光景だ。

 

部下達が現地に到着した映像が艦のモニターに映し出される。

 

――そろそろか。

 

そう思った時、アースラの艦内に警告音が轟音と共に鳴り響いたのだった。

 

 

「艦付近に強力な結界の発生を確認!――通信途絶しました!」

「左舷7ブロックが損傷!!通常航行に支障が出ます!」

 

「落ち着け!艦内の映像は!?」

「映像、確認できません!」

 

「分かった。僕が直行する!各自持ち場にて状況打破に向けて努力しろ!」

 

 

了解。

その声が聞こえると共に、クロノはブリッジから駆け出す。

 

彼らと話すにはこのタイミングしかない。

 

クルーの少なくなった艦内をクロノは全力で駆け抜けた。

 

 

 

アースラへ修復に2週間はかかりそうな損害を与えたレナード達は今まさに外界へと飛び出そうとしているところだった。

そんな時彼らに"声"が届く。

 

 

――聞こえるか?

 

――ええ。聞こえているわ

――なんだこれは?―声が―

 

――これは念話という。魔力を使った会話だ。

 

――やれやれ何でもありだな――まあ共振みたいなものか――

 

――?――何を言っているのかわからないが時間が無い。用件だけ言おう――

 

 

曰くレナードとシャマルのデバイスに、クロノのデバイスとの秘匿回線を用意したとのことだった。

魔力の影響範囲にいるのであればどこからでも通信できるとのことだ。

 

加えて最初の指示をひとつ。

 

 

――君達の行動を報告してほしい。――ああ行動は自由だ。それに魔力蒐集も行ってかまわない。

 

 

実に不可思議な指示だった。

なんだそれは。とレナードもシャマルも思う。

 

――何を考えているの?あなたは

 

――それは君には知る権利の無いことだ。守護騎士

――まあ伝えたとおりだ。次の機会での報告を怠るなよ

 

 

それきりクロノの声は聞こえなくなった。

 

 

アースラに開けた風穴から外界を見る。

海鳴市は黄昏時を迎えていた。

 

眼下に視線を落とすと、夕陽を映す海とその街並みが見て取れる。

 

 

「帰ろうか」

 

そう言った彼にシャマルもこう返す。

 

「ええ。帰りましょう」

 

 

互いに確認をとると、彼らは夕焼け時の大空へと飛び出したのだった。

 

 

 

 

「障害回復!モニター映されます」

「結構。もう大丈夫だ。現地にいる魔導師達への指揮を優先する」

「クロノ!無事だったの!!」

「ああエイミィ。それよりも現地の魔導師達を優先しよう。状況は?」

 

ブリッジに戻ったクロノは再び指示を出し始める。

そんなとき、彼は自身の上司であり母であるリンディ・ハラオウンと目が合う。

 

――。

 

リンディは何も言わなかった。

 

十分だ。そう思う。

悲劇の芽は摘まなくてはならない。

それは自分達にとって絶対のことだ。

 

だが、どういった方法をとるのか?

それは人によって変わるのだろう。

 

ならば自分は――

 

そんなことを考えながらクロノは指示を出し続けるのだった。

 

 

 

 

アースラからの追っ手は無く、尾行等の不審な点もなかった。

シャマルとレナードは夕暮れ時の砂浜に立っている。

 

ぼんやりと冬の砂浜で夕陽を眺めていたレナードだったが、やがて後ろを振り返る。

 

「さあ行こう。いろいろと積もる話もあることだ。僕からも聞かねばならないことが山ほど出来た」

 

そう言うレナードにシャマルの返答は無い。

 

「どうしたんだい?」

 

黙ったままのシャマルへレナードが問う。

彼女は何も返答しない。

 

何も言わない彼女の様子を伺っていると、ようやく返事がなされた。

 

 

「皆と合流する前に私から説明しておくべきだと思うの」

 

 

硬い表情でシャマルはそうレナードに告げた。

 

 

 

5.それは通すべきこと fin




2016.9.10
全話、あとがきを削除しました
バックアップは取っています。
2018.04.15
聞いてください。バックアップは消えてしまいました。
なので19話から今、アップできているものからサルベージして書き直しています。
ごめんなさい...ごめんなさい....
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