彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止)   作:双盾

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遭遇

「あ、おはよー」

 

気の抜けるような声が大抵毎日の始まりに聞く人の声だ。

声の主でありこの家の買主チェレンは、陽気に鼻歌にのりながら朝食の準備をしていた。

 

「おう」

 

短く返答して席に座り、朝刊の表紙を見た。

そこには太字で『ギルド調査隊壊滅!!生存者1名!?』などと書かれていた。

あの後、既に壊滅した賊討伐隊が到着すると、壊滅した拠点を見て襲撃を知り、俺以外の敵味方全員の死亡を確認した。最初は俺自身に内通者疑惑がかけられたが全身打撲や装備の状態やその他物的証拠の数々によって無実が証明された。

そしてオラリオを出て丁度一週間後に、漸くこの家に戻ってこれたというわけだ。

久しぶりのまともな朝食。温かい食事に限ってしまえば調査隊と合流した初日以外ずっと口にしていない。

 

「うめぇ」

 

「そう?よかった」

 

無意識にそう零してしまう程、暖かい料理の美味しさは体と心に染み渡った。

 

 

 

 

 

さて自己満足のための衝動的行動は終わった訳で、とりあえずは金稼ぎに戻るとしますか。

そう思いダンジョンに向かう。

うん?何か忘れているような…………

……………………………………………………

……思い出した。サポーターことリリの存在を忘れていたんだ。

そこら辺探してれば見つかるだろと時計を見ながら思ったので、適当に散策するとまたも噴水の前で身体に不釣り合いなほど大きなリュックサックを背負った人影をみつけ、リリであることを確認したが、既に別の冒険者と組んでいることを確認し、適当にサポーターを捜したのだが適当な奴が見つからなかったのでソロで行くことにした。

露店で少し大きめのバックパックを購入し、ダンジョンに潜った。

 

 

 

 

 

現在14階層中盤。

全然探索が進まない。魔石回収が面倒なうえに回収中のモンスター乱入と…………

これではリリと組んでいた時の方が回収役が居て取得魔石量も多かったなと思いながら先を見ると、既に何体ものモンスターが群がっている。

あいつら倒したら一旦帰るか。

ギルドに行って適当なサポーターを見繕ってもらおう。

そう意気込んで殲滅作業に入った。

 

 

 

 

 

あれから2時間ほどが経過して現在3階層。

道に迷った結果がこの大きすぎるタイムロスだ。

道の先には雑魚の大群だが、雑魚は雑魚であるが故に10秒とかからずに通り過ぎる。

そんな道中で

 

「おやジン様、お久しぶりです」

 

「えーっと、知り合い?」

 

リリルカ・アーデと遭遇した。

サポートしている冒険者は初心者のようで、白い髪に赤い目は兎を彷彿とさせた。

反応に困っている新米冒険者に、俺は先に自己紹介をした。

 

「どうも。グローリアファミリア所属、ジンだ」

 

「あ、ヘスティアファミリア所属のベル・クラネルです」

 

ヘスティア?聞かないファミリアだなと思っていると、リリが説明する。

 

「どうも最近地上に降りてきた神のようで、団員もベル様お1人だそうで」

 

そういうこと。団員が1人、最初にして唯一の眷属か。光栄なことなのだろうけれども新米冒険者にそれは酷というものだろう。金が無いからアイテム的補助も無い。仲間がいないからソロでの探索しかできない。1人しかいないファミリアには誰も近付かない。悪循環。負の連鎖。

どうも本人それは分かっているようだが、見た目通り優しいのか甘いのか主神の役に立てるようにと弱いなりに頑張っているらしい。

頑張れるだけこいつは幸運だ。過去には頑張ることすらできない少年少女を俺は見てきた。

俺は自分が来た道を指差して教える。

 

「この先には俺が拾わなかった魔石がゴロゴロ転がってる。好きなだけ持ってけ」

 

それだけを教えて地上へと向けて歩き出した。

しかし曲がり角を行こうとした時、俺の名を呼ぶベル・クラネルの声を聞き、足を止め、振り返る。

彼は礼儀正しく頭を下げて

 

「ありがとうございます!!」

 

「…まぁ何だ。頑張れよ」

 

俺は照れ臭さが抜けぬまま先を急いだ。

いい冒険者に着いたじゃないかリリ。まあ稼ぎは悪いだろうが、きっとこいつならリリがどんな状況になろうと助けに来てくれるだろう。それこそ、正義のヒーローのように。

 

 

 

 

 

その後俺はギルドに顔を出し、適当なサポーターの要請を行い、誰かが来るまでの間俺は昼食がてらに酒場、豊饒の女主人に顔を出しに行くことにした。

しばらくの間、疲労度的な意味合いで濃厚な生活を送ったので、久しぶりに感じてしまうが実際は一週間来ていなかっただけである。

現在は昼。冒険者の殆どはダンジョンに潜っていたりその他で大通りにはまったく姿が見えない。この時間帯は主婦や主夫、それと買い出しを頼まれた(と書いて押し付けられたと読む)従業員が行き来している。

豊饒の女主人の前では、店内での仕事が無いのか、いつも通りに箒を振るい掃き掃除に勤しむシルの姿があった。

 

「あ、ジンさんじゃないですか!」

 

毎度の事ではあるがそう大きく手を振るのは止めていただきたい。注目される上に恥ずかしい。けれども俺の気持ちなんぞ露知らず、タッタッタと駆け足で近づくシルに、諦めの溜息を吐いてこちらもまた歩み寄る歩幅を大きく早くした。

 

「仕事は終わったんですか?」

 

「かなり面倒でしたけど、終わったので」

 

面倒というのは賊に関しての情報収集とギルドの取り調べが、である。

 

「でしたらウチで食事なんてどうでしょう」

 

「俺を店に引きずり込むのなら質問しなくても結果は一緒でしょう」

 

華奢で可憐な乙女とは思えない力で笑顔を崩さぬまま店内に引きずり込むシルに呆れつつもおとなしく店内に入っていく俺も俺だなと乾いた笑いが出てしまった。

店内には厨房に気配がある程度で、そのほかには誰もいないことを確認する。

やはり人の入りがいい夜に来る人が多いのかと思いつつも適当な料理を注文した。

誰も人のいない空間や出入口から見える人のいない大通り、調理の音だけが響く厨房。そんな中にいる俺は、世界から人が消えた、あるいは自分だけが世界から隔離されたような錯覚に陥る。

船酔いしたような胸焼けにも似た感覚が胸を中心に広がり始めたが、そこに透き通る美しい声が入り、広がっていた不快感は瞬間無くなっていた。

 

「ただ今戻りました」

 

リオンさんだ。

彼女はどうやら買い出しに行っていたようで、厨房にあると思われる裏口から戻ってきた。客の入りがよくなる夜に備えて食材を買いに行っていたのだろうか。

調理の音の中でも濁されることない綺麗な声は、俺の耳を癒す。

シルがリオンさんの声に反応して厨房に行き、おかえりなさいと言うのが聞こえる。

和やかな一時が流れ、しかしその中に俺はいない。

全てにおいて部外者の俺がその輪の中に入ることは許されていない。

 

「さ、持っていっとくれ」

 

帰ってきて早々に仕事を課せられるリオンさんを可哀そうにと思った。先ほどまで暇を持て余していたシルに任せてしまえばいいのにとも思ったが、社畜の教訓その3の「上司の命令に理由を求めてはいけない」を思い出し諦めるしかないのかと一人絶望したりもした。

シルはどうやら食材の片付けや皮むきを任されたらしく、不服そうな声の直後に店長がドスの聞いた声で聞き返すと「イエナンデモアリマセン」とまったく心の籠っていない棒読みが聞こえた。

リオンさんはそういった反応は示さず、黙って命令を実行する。

厨房から出てきた彼女に俺は声をかけた。

 

「お久しぶりです。リオンさん」

 

彼女は俺の方を見て、少し驚いた様子を見せた後、手に持っている料理を俺の目の前に置いていく。

 

「お久しぶりです、ジンさん」

 

特に表情を変えるでもなく素っ気なく言うリオンさんだが、その表情は微かに微笑みがあった。

ふと料理を持っていた細く白い腕に目が行った。

手首から先しか見えないが、それでも、それだけでも目を惹く魅力があり、すらっと伸びた指先は白磁のように美しく、それだけで芸術だと思うほどであった。

 

「……どうかしましたか?」

 

「何がですか?」

 

不思議そうに質問するリオンさんの言葉の意味が分からず、問い返してしまった。

彼女は右手の甲を撫でながら答える。

 

「私の手を凝視していたので。何か汚れでもついていましたか?」

 

自分でも気づけないほどに魅入ってしまっていたのか。これは恥ずかしい、リオンさんが綺麗だから悪いという横暴な良い訳でもしてみようかと思ったが、できる限り嘘は吐かないという信条に反するので、素直な思いを告げてみる。

 

「貴女の手があまりにも綺麗だったので、つい見惚れてしまっていただけです」

 

「…そうですか」

 

彼女は平静を装っているつもりなのか表情に変化は無いが、顔が薄紅に色付いている。言動や表情から気分を害した訳では無いことを知り安心する。

だがよくよく思い返してみると、かなり恥ずかしいことを言ったのではないだろうか?

厨房からひょこっと顔を出していたシルが今までに見たことの無い程の驚愕の表情を見せている。ついでに言うならば顔も真っ赤だ。

シルは厨房に引っこみ、しばらくキャーキャーと何かを喚いた後、何事も無かったかのように厨房から出てきた。その手には液体の入ったコップ。

リオンさんはシルが近付いてくるのに気付くと、「失礼します」といって下がっていった。

厨房へリオンさんが行ったのを確認するとシルが言った。

 

「ついに攻略を本格化させてきましたね!」

 

「何の攻略ですか、まったく」

 

やはり先程の発言を聞かれており、史上最高レベルに、これ以上ない位に目を輝かせて俺に詰め寄るシルに、俺はウゼェ…という表情を隠すことなく接するが、本人は気にすることなく続ける。

 

「何のってリューをオトす為にあんな恥ずかしい口説き文句を言ったんじゃないんですか?」

 

改めて他人から恥ずかしいセリフと指摘されると更に恥ずかしく感じる。多分他人ではなくとも、身内や友人知人からいわれたとしてもきっと恥ずかしくなるんだろうけど。

確かにリオンさんのことをシルの前で意識していると断言したが、前にも言った通り俺自身が彼女に相応しい人間だと思えない。恋愛的な意味で付き合いたいと思ってはいるが、それと同時に付き合うべきではないとも思っている。俺と関われば悪い影響が出るだろう。

それに俺には意図して口説き文句を垂れることができるほどの度胸は無い。

 

「…意図して言えてるのなら俺の周りには美女が集まっているはずです」

 

いや、意図して言えるだけの度胸が有ったら、口説き文句を誰にでも垂れるチャラい男でしかないか。

シルは俺の言葉を聞いて、うわぁという顔をして言う。

 

「天然モノ……これはフラグを乱立させてそう………」

 

「残念、俺の身の周りにはそんな女性の知り合いはいないんで、フラグが立つことすらありません」

 

女性の知り合いなんて、商隊案内役の女性とリリ、シルとリオンさんだけだ。前者2人は仕事上の関係だし、シルはそういうものに敏感そうだ。立って嬉しいのはリオンさんだけだが、俺自身がそれを拒んでいるのだから、フラグが立つわけがない。死亡フラグも立てないようにしてるし、大丈夫なはず。

すると今度は可哀そうな物を見る目で俺を見てきたので、「サボってる従業員がいるって教えた方がいいですか?」と脅してやると、すぐにいつもの笑顔を張り付けた。女って言うのは皆こういうモンなのかねぇと恐怖するばかりだ。

料理を食べながら話していたので、知らぬ間に料理が消えていたなんてことになったが、まあ腹は膨れたと考えないことにした。

 

「ごちそうさまでした」

 

店を出て、ギルドにサポーター要請の結果を聞こうと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

まだ日は空に浮かんでいる時間帯だが、俺は家にいた。

ギルドに結果を聞いたが、どうやら時間帯が悪かったのか集まらなかったらしい。

しかたなく家に戻った俺だが、やることが無いので読書をしてみる。しかし本の中の情報の大半は知っているものなので、つまらない。内容の知っている面白くも無い本を進んで読みたいなんて変人ではない。無論、変態でもない。

俺は家を出てバベルへと向かった。

ウィンドウショッピングをしつつ、良い物があれば購入するという考えからの行動である。

バベルはトレーニング施設があったりマッサージ施設があったり、武器防具が売っていたりと、冒険者にしか縁が無さそうな建物だが、食糧だって扱っている上、家具や書籍、インテリアや小物まで売っている何でも屋みたいな印象だが、最上階はいけないらしい。最も、行くことは無いだろうが。

15階の書籍取扱階層に入ると、目の前にはずらっと並ぶ本棚。けれど人影は殆ど無い。

向かって右側にレジがあり、どうやら本の買い取りまでしているようなので次回来た時何冊か売ってみようと思いながら、適当に本を探してみた。

何でも揃ってるな。歴史や図鑑、料理指南書から戦闘指南書、更に奥には薄い本まであった。

俺は棚の森を縫うようにして移動していると、人に出くわした。正しくはエルフだが。

その姿からエルフであることは理解できたが、服装や佇まいなどを見て数瞬遅れてハイエルフであることを理解した。

向こうもまたこちらに気付き、殺気を向けてきた。

が、すぐに殺気は消え謝罪の言葉が飛んできた。

 

「すまなかった」

 

「慣れてますので、気にしないでください」

 

どうやら反射的に殺気を放っただけのようで、謝罪の言葉には感情が籠められていることが聞いて取れた。

しかし殺気の鋭さや衣服の質からして、よほど名の知れたファミリアに所属しているのか金を稼げるほどの冒険者なのか。どちらにせよ戦力的にはチェレンよりも上であることが感じ取れる。

相手の分析をしていると、相手が先に口を開いた。

 

「失礼を承知で聞かせてもらいたい。君はどこのファミリアに所属している?」

 

「何故そんなことを?」

 

俺は殺気を放ってもいないし、睨んですらいない。ただ歩いて見つけて殺気を放たれた。ただそれだけの関係。どこにも不自然なところはない。

故に答えるべきか悩んでいる。別段隠していることではないにしても、突然そんなことを聞かれて素直に話すほど、人を信じることができない類の人間だから仕方のないことではあるが。

彼女は俺の問いに答えた。

 

「私はロキファミリア所属のLv6、リヴェリア・リヨス・アールヴという。

 驕るつもりはないがLv6の私が気付けない程の隠蔽能力を持っている。しかしそんな2つ名持ちは聞いたことが無い。レベル1であればその目覚ましい才能と名を覚えたい」

 

リヴェリア・リヨス・アールヴ。思い出した。ロキファミリア所属、二つ名を【九魔姫】。名声実力ともに迷宮都市最強の魔道士。才色兼備、文武両道を体現したオラリオで最も有名な存在。

そんな存在と出くわしてしまうとは、恨むぜ運命。

ともかく、そんな存在の言葉を無視するわけにはいくまい。

 

「グローリアファミリア所属、ジン。冒険者登録をしてからまだ3週間も経たない新参者ですよ」

 

所属ファミリアの名前を口にすると、ピクリと彼女は反応したが、口を挟むことはなく最後まで黙って自己紹介を聞く。

 

「最初に言っておきます。俺はロキファミリアに好感を持っていません」

 

これは最初に言わなければならない。

俺のその言葉に表情1つ変えずに話を催促させる【九魔姫】。

俺は続けた。

 

「だから今ここで会話する俺達の関係は、偶然出会った他人。そういうことにしておいてください。でないと」

 

腰のエペタムに伸びた右手は震えるが、俺は一歩手前の所で堪え、言葉を放つ。

 

「何をしでかすか、分からないですから」

 

彼女はそれを見て、複雑そうな表情の後、悲しげな笑みを浮かべて返答した。

 

「……そうか。わかった」

 

腕の震えが収まり、俺は安堵の吐息を何度かして、目の前の【九魔姫】と改めて対峙する。いや、今は偶然出会った新米冒険者と凄まじい美女。ただそれだけだ。




文字数の差が激しいですね、頑張ります(多くすることを
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