彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
「それで、君は何をしにここへ?」
先程の表情を一変させて優しげな笑顔でそう問いかける彼女は、ハイエルフ独特な美貌と服装、そして雰囲気がこの大量の書物の林の中でより際立ち、平衡感覚や距離感さえ狂わされるような感覚に陥る。
俺は彼女の手にしていた本に目を落として答えた。
「面白そうな本を探そうと思って。そう言う貴女は?」
「私か?私はこの本を探していてな」
その手に持っていた本を手渡してきたので、受け取る。見た目通りの重量感と古ぼけた表紙には『魔力と鉱石』と書かれていた。しかし本にしおりと一緒に挟まれていた値札を許可をもらって抜き、値段を確認すると本如きにこんな金払えるかというような金額が書かれていた。0の数の数え間違いかと思ったがどうやら違うらしい。
苦笑いをしながら返すと彼女もまた困ったような表情を浮かべた。
どうしてこんな本を探していたのかと聞いた所、
「どうやら私達のファミリアでも鍛冶師の育成を創めるようでな、そういった本を買わなければならないのだ」
「…そうですか」
聞くんじゃなかったなと後悔しつつも、嘘偽りなく答えてくれた彼女に感謝を送る。
そんな時ふと目に留まった本があった。
俺の手がその本を掴むと、彼女は驚いたような表情をした。
「君はそういったものに興味があるのか?」
まあそういう表情をされても仕方ないだろう。彼女がLv6だと言うのならば歩き方や仕草で俺が戦闘専門だということがわかるだろう。
そんな俺が手に取った本は真新しい本だが表紙には『鉱石大全集』と書かれている。
俺は彼女の言葉を否定しつつ理由を話す。
「俺の相棒が鍛冶やってて、旅先で仕入れた鉱石とかの見分けなどに役立つかなと思って」
「……そうだったな。君のファミリアは旅をしていたんだったな」
どうやらそこらのファミリアと同じような見方をされていたらしいが、どこからか情報を耳に入れたのだろう。思い出したような仕草を見せてそんなことを言う。
まあ旅先では俺は少し観光してあとは寝ているだけだったが。
「私はそろそろ失礼させてもらうよ」
「ええ。それでは」
本棚の林を移動し、レジへと到着するのを見て、俺は手に取った本を開き中身をパラパラと捲ってみる。
少年の頃憧れたオリハルコンや最前線の冒険者から人気の高いミルリル、宝石や魔石、鉱石などのカットによく使われる緋緋色金何てものもあったが、俺の興味を惹いたのはどれでもなかった。
『ガルヴォルン』
俺はその説明書きに魅かれる物を感じた。
『魔的要素を抜いて考える場合、最も硬い金属と言えるだろう』
最も硬い。魔的要素を抜いてであるとはいえ最も硬度の高い金属だ。武装成型時点で何かしらの工夫を凝らせば魔的な補助も可能だろう。
その事を頭に入れて本をしまう。そして速足で家に戻り、チェレンを呼んで話をした。
「ガルヴォルン?知ってるよ。一番硬い黒い金属でしょ?一級防具の留め金とかになってるアレでしょ?」
「それで武器を作れないか?」
俺はガルヴォルンが防具の留め金になっていることに驚きだった。最も硬い金属を、何故基本素材に使わないのだと思った。
チェレンは驚きの表情をしている。何かおかしいだろうか?俺が金属の事を言ったからだろうかと思ったがそうでもないらしい。
「初めてだね。ジンから注文してきたのは」
その言葉にチェレンと過ごしてきた時間を遡って思い出してみるが、チェレンの言った通り俺から武器作成の依頼を出したことは1度もなかった。
「そうだな。こういう依頼をしたことが無いからこれがどれ位鍛冶師にとって難しい依頼をしたのか分からない。だから無理だったら無理と言って―――――」
「大丈夫!!ジンからの初めての注文だもん。過去最高傑作を完成させてみせるよ!!」
目の前のエルフは目を輝かせて自信有り気に胸を張る。
普段ミスばかりで頼りないコイツも、今この瞬間だけは何故か頼もしく思えた。
しかしこの良い雰囲気も、チェレンにかかれば瞬時に躊躇無く掻き消してしまうものなのだが。
「あ、そうだった」
チェレンは階段を上って2階の部屋に向かう。しばらく何かを探す様にゴソゴソと言う物音がして、階段を下りてきた彼の手には紙の束が握られていた。
いやー忘れるところだったといいながら汗を拭うチェレンに、そこまで緊急のモノかと問う。
しかし
「全然緊急じゃないけど?」
……先程のいい雰囲気を無視してまでして取ってきたのに緊急じゃないのかよとツッコミを入れつつも紙を奪い取り内容を確認する。
表紙には極秘とチェレンの字で書かれているが、そんな極秘書類なのに緊急じゃないのかと疑問を抱く。
そして表紙をめくり―――――拍子抜けの溜息を吐いて閉じた。
「何でコレに極秘って書いたんだ?俺はてっきり過去の作品の資料かと」
「そんな訳ないじゃん。極秘って書いてあると見たくなるじゃん?ジンも見たくなるかなって」
だからって
「料理のレシピの表紙に極秘何て書くなよ」
1ページ目には肉じゃがのレシピ、2ページ目には炒飯のレシピ。そこまで見て極秘から与えられた緊迫感が溜息と共に抜け、それ以降のレシピを読む気が失せてしまった。
もう16のエルフだろうがと思うが、16はまだ子供かとも思うのでつっこみはしなかったが。
「それで?俺に料理でも作れってか?」
「違う違う。ジンって酒場とか行くんでしょ?」
何故それを知っている。あ、俺が言ったんだっけな。
しかし酒場と何か関係があるのか?
まさかその店のレシピを盗んだのかと危惧したが予想とは違う答えが返ってきた。
「それでね、グローリアさんが『地方の郷土料理を知ってもらおう!!』とか言い出して」
ああ、そこから先は安易に想像がついた。
店を開こうにも食材を買う金が無いし第一ウチには料理できるのがチェレンと案内役の女性しかいないので、そこまでの量は作れない。それで他の店にレシピを渡して料理を作ってもらおうとでも思ったのだろう。安直な考えと言うか、年不相応な思考回路というか。
「俺に豊饒の女主人に交渉に行けと」
「そう!!」
パコン
「何するんだよー」
「お前が行けばよかっただろうが」
別に俺が行かなくともコイツが行けば解決した話を俺に押し付けるなという意を込めて、丸めたレシピ集で優しくたたいてやる。
しかしそれにはチェレンなりの考えがあったらしく
「店の常連が一緒だと交渉がやりやすくなるかと思って」
たしかに知った顔が居れば警戒心は薄れるだろう。
だがしかし、俺はあそこの常連ではない。その趣旨を伝えると反論された。
「でもあそこ以外の飲食店に言ったことないでしょ?ならそれはその店の常連客なんだよ」
いや違うだろ。
ああでもそういうことなのか?
やはり違う。俺はリオンさんを見にあの酒場に行ってるだけだ。あれ?結構動機が不純?
「ダメ?」
おいそんな悲しそうな顔をするな。お前は美人の部類なんだ。そういう仕草に惚れちゃいそうなんだよ。一部の女子に人気の単語た方面の関係になっちゃいそうだろうが。
1つ息を吐いてくしゃくしゃとチェレンの頭を撫でて
「わかった。今度一緒に行ってやるから、そんな顔すんな」
「!!ありがとジン!!」
悲しそうな表情は一転。喜色満面で抱き着いてきた。
爽やかな甘い香りが嗅覚を擽る。少し前に行った集落で子供たちにもらった香水を今でも好き好んで使っている。あの時は子供たちと一緒にはしゃいでいたが、今でもそういう所は変わらない。
子供っぽいところが抜けきっていないなと思った。
それと同時に愛おしいとさえ思った。
何が何でもこいつだけは――――――。
夕日が映える時間になって俺達は再びバベルへと訪れる。数時間前と違うのは、俺の横にチェレンがいるかどうか。
バベルにはチェレン自身よく来るらしく、通りがかった主婦数人と、店員の人から声を掛けられていたので事実であると判明した。
それにしたって何でも揃い過ぎだろこのバベルって場所は。
どうして玉鋼とかまで扱ってんだ?どうせ買いに来るのはヘファイストスファミリアの眷属か、そこらのはぐれ鍛冶師だけだろうに。まあどれもとてつもない金額になっているものの、ここでしか売っていないのだろう。
「ここって値段凄いけど、全国殆どの素材が揃ってるのは凄いよねぇ」
「値段さえ安ければ文句はないんだがな」
見本を1つ1つ手に取って質感を確認しているチェレンの目つきは真剣そのもの。こいつもこんな顔するんだなと思いその手に持つ金属の値札を見ると0の数が3つほど多いんじゃないか?と思う程の高額な物で、何て名前の金属なんだと見ても聞いたことの無い名前だ。有名でないものでこの値段。オリハルコンやミスリルはどんな値段になるのかと気になったが買う気も(元々ないが)失せるような値段であった。
この階層の金属販売エリアは小さいが、やけに防犯対策が施されている。やはりこういった高価な物は窃盗事件が憑き物なんだなと知る。
しばらく先を行くと仄かに光を放つ金属を見つけた。
緋緋色金だ。
金属に興味も無い俺でも、こういった金属を見ると興奮してしまうが、値札にはその興奮の熱さえも瞬時に冷ましてしまうほどの値段が書かれている。そんなことは最早考えるまでも無いことなので値札に目を向けずに見本を手に取ってみる。
「おお…」
感嘆の声が漏れる。
あの書物に書いてあった通り、紅の輝きが美しく、金属独特な冷たさではなく弱い火のような仄かな暖かさを感じる。書物によればこれは婚約指輪としても人気らしい。なんでもこの暖かさは永遠に冷めぬ愛をもたらすとかいう噂があるらしい。が、超胡散臭い噂だなと俺は心の中で吐き捨てた情報である。
「あ、あったよジン」
緋緋色金を傷付けないようにそっと見本の置いてあった台に置く。もし傷付けて買い取りなんてことになれば何て不吉なことは考えないようにした。
チェレンが立つ場所の前には黒光りするインゴットがあった。
値札には凄まじい金額と、商品名『ガルヴォルン』が表記してあった。
「ガルヴォルンは剣とかレイピアにするにはいいけどハンマーとか防具には不向きなのが玉に傷だよねぇ」
「どういうことだ?」
「うん?ガルヴォルンは硬度最強とか言われてるけど、衝撃とか打撃には弱いんだ。だから軽量の片手剣とかレイピアには使うことが有っても防具に使われることは少ないんだ」
そういうことか。やはりどんなものには欠点はあるんだな。オリハルコンは万能すぎるが高く使うには金が要る。ミスリルは硬度でガルヴォルンに劣り。ガルヴォルンは打撃に耐性がない。緋緋色金だって結晶は切れても金属は切れない。
まあその点、ガルヴォルンは剣にはお誂え向きな物なんだな。魔的利点は無いが。
俺がそんなことを考えている間にチェレンは購入を終えていた。
「早く帰ろうよ」
「分かったから、服が伸びるから引っ張るな」
特に興味を惹くものがなかったのかつまらなさそうに店内を見回して俺の服を引っ張る。
いやそんな早く買ってもらった玩具で遊びたい子供精神丸出しにしなくても、仕事は逃げませんから落ち着きなさいチェレン。
しっかしいくらしたんだかわかんねぇな。まともに値札見てなかったからな。いつか金入ったら絶対返してやらないと。
「じゃあジンは何を作ってほしい?」
そう聞いてくるチェレンに返す言葉は既に決まっていた。
「『ウスバカゲロウ』、頼めるか?」
「分かった。でもすぐには完成させられない。少し待っててね」
「2週間以内であれば」
俺は最強の硬度を誇るガルヴォルンの加工には2、3週間くらいはかかると見てそれくらいの期間を出してみたのだが、チェレンはバカにしてるのかい?と返した。
「3日で完成させるからね」
ビシィッと効果音が付くほどの鋭い指差しで宣言した。が、俺は安心していない。
こいつは時々やらかすが、それはドジだけの話ではないのだ。
自分の体力を考えずに鍛冶に没頭し、鍛冶場で倒れることが何度かあるのだ。
大丈夫なんだろうかという不安の視線を送ると大丈夫だってと笑顔で返答するチェレンを見て、本当に大丈夫の意味分かってんのか?と思う。
まあやる気があるなら傑作ができるだろうと俺も期待して待つことにした。
俺はその3日間、チェレンを心配して1度も家から出られなかった。
そして3日目の夜。
地下室へとつながる扉が凄まじい音を立てて爆砕された。
何事かと地下室に向かうと、そこには狂気の瞳をしたチェレンがいた。
「ああジン。見て?完成したんだぁ」
ゆらりゆらりと立つその手には俺の注文した極薄刃『薄刃蜻蛉』があった。
幅が1mmも無い脆弱な刀身。極東でこれを見た時は感動したものだ。防御を考えず、ただ両断することに特化した剣。金属を如何に強靭にするかが問題点だったこの剣も、ガルヴォルンであれば壊れることはないだろう。
ひとまず俺のするべき仕事は…
「おとなしくしとけ」
「あがっ」
気絶させ、倒れこむチェレンを寝室まで運んだ。
チェレンが本気で鍛冶に没頭すると、人格が変わってしまうのだ。
手当たり次第に物を破壊し、人を切っていく。
よっていつも俺は被害が出る前にこいつを気絶させねばならないのだ。
鍛冶に本気を出してはいけない鍛冶師。それでいいのだろうか等と無粋なツッコミを入れようがものは俺が斬る。
埃や煤で汚れた服を脱がせ、体や顔を拭き、髪を洗って湿気を拭いて、寝間着を着せて布団に寝かす。これもまたいつもの作業である。
少し前に鍛冶中のチェレンを覗き見たことがあるが、ストレスでも溜まっていたのだと思いたい。
「ひゃははははははは!!!」
「潰れろ!!」
「痛いだろぉ?なぁ?何とか言えよ!!」
そんなことを言っていたような気がするが気のせいだと信じたい。
今後は5000文字維持していきたいですねー(他人事