彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
5000文字維持と宣っておきながら前話は5文字足りず今回は10文字足りませんでした
申し訳ございません
翌日。チェレンが起きるより先に起きて水を汲んでチェレンの部屋に行くと、上半身を裸のチェレンと遭遇した。どうやら着替えの途中だったらしい。
俺はコイツより先に挨拶をしてみる。
「おはよう」
「!!おはよう」
俺はコップに水を注いでチェレンに手渡す。
その水を勢いよく飲み干すチェレン。
そしてベッドに腰掛けると口を開く。
「僕のこと、気にしてくれたんだ?」
「まあな。脱水症状で倒れられても困るからな」
いまいち素直に返せない本音をまるで読み透かしているかのように、えへへぇと嬉しそうに笑う目の前のエルフを見て、顔が赤くなるのが分かった。
俺は水の入っていたコップを持って部屋を出る。
と、その前に
「朝飯、できてるぞ」
早く来いという意が伝わるように言って階段を下りる。
朝食を作ったとはいえ、疲弊しきった体にいいものをつくったわけではない。
レタスのサラダに豚肉の生姜焼き、白米が無かったのでパン。飲み物は牛乳である。まさに適当。あった物で創ったものだが、ないよりかはマシであろうという出来栄えである。
そこへ降りてきたチェレン。その第一声は
「え!?ジンて料理できたの!?」
何と失礼な奴だ。
「何と失礼な奴だ」
「ああごめん」
いかん、口に出ていたか。
しかし俺はチェレンに手料理を振る舞ったことがあったはずだが……
まあいいか。
「いただきます」
「いただきます」
食器を洗っていると、チェレンが問いかけてきた。
「ねぇ、僕もダンジョン行ってみたいんだけど、ついて行っちゃダメ?」
「何を言ってるんだお前は」
昨日フラフラになった男が次の日に言う言葉ではないな。
俺がチェレンのダンジョン同行に否定的であることを知ると、ヤダヤダなどと喚きだした。
ガキじゃないんだからなどというと子供で良いもんと帰って来るのは目に見えていたが、他に何と言った物かと考える。
そして漸く思いついたのが
「お菓子買ってやるからおとなしくしてなさい」
「…僕を何だと思ってるのさ」
ガキだと思ってます。
心の中でそう呟くと、見透かしたようにジーっとこちらを見ていたチェレン。魔法か何かで読心術でも使っているのか?
しかしダンジョンか。特別強い奴はいなかったし大丈夫だろう。
結果的に同行許可を出す形になった俺。コイツに甘いなとは自覚しているが、こればっかりは直せないものだと諦めることにしている。
「ただ主戦は俺がやる。お前はアイテムの回収に努めてくれ。いいか?」
「わかった。僕はウスバカゲロウの調子を見たいだけだからさ」
こいつはエルフでありながら前線での戦闘が得意だというのだから変わり者だと思う。
しかしダンジョンに行く前にやらなければならないことが2つあった。
「まず弁当作らねぇと。あと豊饒の女主人にも行かないとだろ?」
「あ、そうだった」
お前は忘れてたんかい。
内心でのツッコミを聞いたかのように、テヘペロと舌を出すチェレン。
昔からこういうやつだったろと自分自身を宥めて弁当の作成に入ろうと思ったが、チェレンが横から割って入ってきた。
「これは譲れないな」
「何をドヤ顔をしてる。まあ任せた」
どうやら何かプライドでもあるんだろう。
まあ何にせよ、俺が作るよりも美味くい弁当が食えるのなら何でもいいか。
弁当の準備を終えて、久しく見ていなかったチェレンの戦闘服に懐かしさを感じ、家を出た。
大通りは、やはり人が少なく、されど見渡す限り10人はいる。まあマシなほうだ。
「そういえば僕酒場って初めてだなぁ」
「ん、行ったことないんだっけか」
そういえばこいつは貴族だったな。元だが。親がそういう所に行かせてくれなかったとかなんとか……
旅の道中だって酒場何て無かったから、これが初めてになるのか。
俺は今年15になるというのに酒場には行き慣れてしまっている。まあ酒は滅多に飲まないが。
「こんにちはー」
「こ、こんにちはー」
「あ、いらっしゃーい」
やはりこの店で最初に聞く声はシルのもので、店の中から駆け寄ってきた彼女はチェレンを見て、キラーンと瞳が輝いた。
タッタッタという歩速からダダダダという駆け足でこちらに突進してきた。
いや、あのままだと激突しない?ねぇ?ちょっと!?
しかし俺達に激突する前に金と緑の疾風が砲弾と化したシルを止めた。
「おや、リオンさん。こんにちは」
「…こんにちは」
首根っこを掴まれて空中でブラリと掴まれているシルの顔から血の気が引いていくのが視界の端に映る。大丈夫だろうか?俺の知ったことではないな。
背中を掴まれる感覚に後ろを見ると、どうすればいいのか分からないといった表情をするチェレンに、とりあえず何とかせねばと目の前の2人の店員について紹介する。
「チェレン、エルフの店員がリュー・リオンさんで、首掴まれてる方がシル・フローヴァだ」
「ええっと、チェレンです」
「…どうも」
チェレンは「うわぁ…綺麗な人だ…」なんて零す。同種族ですら魅了するのだ。俺が魅了されていても悪くは無いはず。
リオンさんの手をシルが限界ですというように叩いているが、気付いていないのだろうか?
漸くそれに気づいたのかゆっくり地面に降ろすと、シルはすぐに深呼吸をして体内に酸素を巡らせている。自業自得故に気にしなくてもいいだろう。
「大丈夫だチェレン。ここではこれが日常だ。気にするな」
「違いますからね!?」
おやツッコミを入れられる程度には回復していたか。
シルはコホンと咳払いしたあと、俺に耳打ちする。
「どうです?彼をここで働かせてみては?」
「欲望に忠実なやつめ……こいつが働きたいといったらです」
「ぼ、僕はいいよ?あ、でもできれば今週からじゃなくて来週位からで」
チェレンに聞かれてるじゃねぇか。耳打ちの意味ねぇ……
とはいえチェレンはいいと言う。俺がそれを止めるなんてことはしないので、あっさりチェレンのバイト先が決まった。まあバイトしなくても生きていけるだけの金がこいつにはあるんだがな。
まあ同種族のリオンさんがいる訳だし、何かあれば助けてくれるだろ。
「それで、今日は何の用で?」
「あ、そうだった」
チェレンが俺のバトルポーチに乱暴に手を突っ込み弄る。こいつは目の前のことしか見えないヤツだな。俺が出そうと思ったのにそれすら気付かないのか。
腰に掛けたバトルポーチから乱暴に書類の束を出すチェレンに、もうちょい丁寧に出せやと言ったがどうも聞こえなかったらしい。残念。
「ええと、地域独特の料理を知ってもらうことにご協力お願いします」
「わ、私に言われても………」
「バカが。こういうのは店長に言わねぇとダメだろうが」
ペコッと優しくたたく。
俺達の何気ない触れあいに驚くリオンさん。
おそらくエルフと言う種族であることに関することだろう。
同種族同志で話したいことでもあるだろうと無駄な可能性を拭いきれない気遣いで俺はこの場を離れる。
「チェレンはそこらに座っとけ。俺が言ってくる」
「あ、うん。お願い」
俺はシルを手招きして厨房へと向かった。
厨房にはドワーフという種族故の巨体のこの店の女将が俺の姿を捉えていた。
そして溜息を吐くと言葉を放つ。
「厨房ってのは関係者以外立ち入り禁止なんだけどねぇ」
男子厨房に入らずともいうので男性の俺が入るのは2重の意味で良くは無いだろう。
しかしここで連れ出したシルが仲介役をしてくれたので、それ以上の口論も険悪化も無く本題を切りだせた。
手に持つレシピ集を手渡しながら本題を説明する。
「世界各国の独特な風習や食材を使った郷土料理やその地のことに興味を持ってもらおうという我が主神の意向に、ご協力願えませんか」
かなり大仰なことに聞こえるが、実際は気まぐれな主神の考えたことで、更に正確に言うならば、世界各国から集めてきた特産品の売れ行きの悪さを解消しろとの苦情が事の発端なのだが、そんな情けない(というか恥ずかしい)事をいう訳にもいかないので、少しどころではない事情の改変をさせていただいた。
レシピを見ながらそれでも渋い表情の店長に、俺は補足した。
「食材の方は私達のファミリアが提供します。残念ながら無料とはいきませんが」
「こんな危険な博打に、アタシが賛同すると思ってんのかい?」
やはり乗ってこないか。
だがここまでは想定内。というよりも、俺が店長の立場だったら速攻で断っているが。
我が主神も、そう思っていたのか苦渋の決断というほどでもない提案をだしている。
「そう簡単に賛成していただけるとは思ってません。ので、1ヶ月は無料で食材の提供します。これでどうでしょう」
「これまた大きく出たね。これで売り上げが伸びなかったらアンタら大赤字じゃないのかい?」
痛い所を突いてくるな。いや、誰でも気付くか。
只でさえそこらの食材よりも少しばかり高い食材を、1ヶ月もの間無料で提供するのだ。運送料金や保存料金などで更に高くなることが見込まれるので、大赤字どころではない。
ハッキリ言ってこれは宝くじのような感覚を俺達は味わっている。
しかし、ファミリア全体が不安になるような博打の中でも、我が主神グローリアは自信にあふれた笑顔を崩すことは無かった。
そういうときは大抵の物事は成功を収めてきた。だから俺達は主神を信じてこの賭けに出た。
「絶対成功するって、ウチの主神が言うのでね。俺達はそれを信じた。それだけです」
「アンタ、人や物事を信用しやすい人間には見えないけど、随分と信用してるんだね」
そこまで見抜かれてしまうとは、実はこの店長体の大きなサトリなんじゃねぇのか?あるいは俺がサトラレ説。この場合は後者の可能性が濃厚である。
今現在で俺が信用しているのは2人。チェレンとグローリアだけである。
俺の信用の基準は他人とは違っているらしい。
俺の人を信じる基準は、「こいつになら裏切られてもいい」そう思えるような人間だ。絶対の存在しないこの世界で「こいつは絶対に裏切らない」そんな人間はいない。だから俺は「裏切られてもいい」そう思える人間を信じるようになった。
他人に背中を預けることを、信頼をしていると見る人もいるがそれでは甘いと思っている。心臓を掴ませて、「俺の命お前に預ける」これくらい言えるような間柄にこそ信頼と言う言葉は相応しい。軽々しく使っていい訳ではない言葉なのだ。
「縁を切られてもおかしくないくらいの迷惑をかけてるけど、返せるのはこれくらいしかないんで」
金や物を渡しても断固として受け取らない2人だ。俺が返せるのは無類の信頼と思いしかない。
しかし店長は言った。
「それで十分さ」
と。
「相手は見返りが欲しくてアンタに手を貸した訳じゃない。ならアンタは精一杯の信頼や思いを返す。当たり前のことだけどとても難しいことなんだ。それができるアンタは一人前だよ」
「………ありがとうございます」
やっべぇ。この人超カッケー。俺が女だったら惚れてるところだ。いや男でも惚れてるな。
店長は俺の背中をバシバシと叩く。力が強いのか本人は気にしていない様子だが結構痛い。
「アンタ達の計画に乗ってやるよ。シル、ペン持ってきて」
「はいっ」
レシピ集の最後のページに挟んであった契約書を切り取り、シルの持ってきたペンで、名前を記入する店長。そして懐から印を取り出して押し付ける。
これで契約は完了した。
俺は精一杯の感謝をこめて言葉を送った。
「ありがとうございます」
「何、アンタもがんばりなさいよ」
何を、と聞き返そうとするより先に店長の視線を辿ってしまう。その先にはチェレンと会話するリオンさんの姿。
アンタもシルと同じような口か。
しかしまあ店長の応援を受けたんだ。これからそれなりにアプローチしていかないとな。
俺は壁をノックしてチェレンに合図する。
「あ、終わったの?」
「ん。OK貰った」
報告を聞くとやったぁと飛び跳ねたチェレンに落ち着けとチョップを入れる。
リオンさんもまたよかったですねと言ってくれたのが地味に嬉しい。
俺は店長に頭を下げて、
「ありがとうございました。また来ます」
別れの挨拶をして先に店を出た。
チェレンもありがとうございましたと言って後をついてくるが、少し立ち止まってリオンさんに一言。
「また、会おうね」
「はい。楽しみにしてます」
くっそ。俺よりも好感度が溜まっているようにみえる2人のやりとりを見て羨ましいと思ってしまったのは主神以外には絶対にバレないようにしないと。できる限り主神にもバレることなくいたいものだが、最終的にはバレてしまうのである。