彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
長かったなぁ
あの後更に3体のミノさんを倒して俺とロキファミリア所属ティオナ・ヒリュテはついに5階層まで到着した。しかし目の前にはあと2体が疾走している。巨体に似合わぬ速度で走る目の前のモンスターに悪態を吐く。
そして再びティオナ・ヒリュテが投擲を放って残り1体となると、本格的な生存危機を感じたのか更に加速するミノさん。
広がることの無かった距離が段々と広がっていく。これではティオナ・ヒリュテの投擲も狙いが定まらない上に回避しやすくなってしまう。
自信の武器の損耗を減らすべく手出しをしなかった俺も腰の魔剣に手をかける。
「あれは頂く!!」
地面を更に強く踏み込んで、跳躍。
引き離された距離は瞬きする間になくなり、ミノさんの頭上を飛び抜けていく。
そして丁度ミノさんの真上に来た頃を狙って
「『穿』」
角の配置や体つきで魔石の位置を特定する俺にとってもっとも魔石の位置を特定しやすい頭上から、逃げること叶わぬ無慈悲な一撃が、頭蓋を粉砕し魔石を貫いた。
魔石が砕けた刹那、灰になる寸前でミノさんの身体から飛び降りる。
しかしここで漸く全滅かと思われたミノさんが、さらに20mほど先にもう1体見つけた。
そしてそのミノさんは冒険者を襲っていた。
「もう少し耐えろ!!」
応戦しているであろう冒険者に向かって叫ぶが、その姿は岩石に阻まれて見ることは叶わなかった。
だが、声が聞こえた。
「ベル様!!行き止まりです!!」
「そんな!?」
応戦している冒険者は、最悪なことにリリとクラネルだった。
全身に鳥肌が立つ。汗が滲むのが分かるが早いか俺は出せる限りの速度で加速していた。
しかし俺が加勢するよりも先に、ミノタウロスがその拳を振り上げる。
間に合わない―――――
そんな時、金色の剣閃がミノタウロスの背を裂いた。
焦りで気付かなかったが、そこは十字路になっているらしく、ミノタウロスの後ろにも道はあったようで、そこから来た剣閃で、ミノタウロスは崩れ落ちた。
剣閃を魅せた少女が、そこにいると思われるベルに向けて口を開いた。
「あの、大丈夫ですか?」
そして少し遅れて俺も到着する。
そこには、ミノタウロスの血飛沫をまともに浴びたのであろう真っ赤な2人が壁にもたれかかっていた。見た所傷は無く、動く様子を見せないが死の恐怖から脱して安堵し、腰を抜かしたのだろう。
呆然とする2人を放置して俺は救世主的存在と対面する。
混合物のない純金を彷彿とさせる金の髪に、細身の剣、そして剣捌きからロキファミリア所属の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインであることが予想できた。
俺は2人に変わって感謝の気を込めて頭を下げた。
「そこの放心した2人に変わって礼を言う。ありがとう、助けてくれて」
「ん、いい。あの2人、大丈夫?」
これが格上の余裕というやつなのか、モンスターが沸くことを心配する様子も無く2人を心配する剣姫。
俺はクラネルの身体を見回してみるが、目立った傷は無く、精々が打撲であろうと見立てる。
「ミノタウロスによる怪我はなさそうだ。あって打撲だろう」
しかし俺が触れたにもかかわらず反応を見せないクラネル。目を開けたまま失神することは少ないが事例があるので気絶だと断定する。
剣を収めてクラネルとリリに歩み寄る剣姫。ポケットから白い布を取り出してクラネルの顔の血を拭き始める。
すると………
「へ、あ、う、ぁ………ぅ、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
正気に戻ったのか間近にあった剣姫の顔を認識すると、拭いた箇所の肌がすぐさま真っ赤になり――――――
逃走した。
リリはまだ放心しているので、逃走したクラネルには気付いていない。
何故逃げられたのか分かっていない剣姫に、俺は弁解する。
「あいつ極度の恥ずかしがり屋なんで、許してやってくれ」
うんと頷く剣姫。
ともかく、あんな状態でモンスターの群れに遭遇でもしたら危ないと考え、クラネルのやつを追いかけようとクラネルが駆け抜けた道に足を踏み出す。
「リリルカ・アーデ。そこのサポーターを、よろしくお願いします」
それだけ言い残すと俺は再び加速した。
小さくなる2人の姿。そこへティオナ・ヒリュテが到着したようだがそのころには俺の姿は見えない場所にあったので、俺はそのことを後日知ることとなった。
ベルを追いかけて2分後、4階層の中部あたりで漸くその姿を視界に捉えた。
クラネルの名前を呼ぶが、反応が無い。恐らく意識の無いままなのだろう。このままでは危険だと更に加速しクラネルを抜かす。そして正面に立って両肩を掴んで名前を呼んだ。
「ベル・クラネル!!」
「は、はい!!」
ビクッと大きく跳ねて自身を襲った驚愕の大きさを体現するクラネル。
俺の姿を視界に捉えて満面の疑問符を浮かべる。
ショックで忘れちまったのか?
「さっきまで何があった?思い出せ」
いつからここに?とクラネルが問う前にこちらが記憶の糸を辿れと指示する。
素直に言葉に従って自分の行動を振り返っているのか、人差し指を顎に当てて思い出し中の仕草を見せる。
そして思い出したのかボッという効果音が似合う程に真っ赤になり、やがて青ざめた。
「僕は……何て失礼なことを!!」
リリの心配か自分の失礼な行動かどちらを先に後悔するかなと思い、俺の先に失礼な行動を後悔するだろうという予想は見事に的中した。だから何だと言われればそこまでなのだが。
まあこの絶望する様を見るのは楽しいものだが本人が可哀そうなのでとりあえず俺の知る限りの行動を話す。
するとクラネルはよかったぁ~と腰を下ろして心底安心したということを体現した。
だがそんな時、微かに聞こえる足音。
ギギギギ………
手入れのされなくなったブリキ製のおもちゃよろしくゆっくりと後ろに視線を向けるクラネル。これ以上のモンスター登場はこりごりだと言わんばかりの表情だが、この足音はミノさんではない。
恐らく………
「じぃぃぃんんんんんんーーーー!!」
「やっぱぐぇっ」
ダイビングホールドをくらい思い切り地面に倒される俺。
飛び込んできたチェレンはスリスリと自身の顔を擦りつけてくる。ネコかお前は。
俺はよこで困惑しているクラネルに説明する。
「こいつは前にも会ってるだろ?俺の相棒、チェレンだ」
「そ、そうですか」
地面にぶつけた部位を摩って、暑苦しいエルフを漸く引きはがして立ち上がる。
「何にせよ、だ。リリはあっちが保護してくれるって言うし、俺達は地上で待ってる方がいい」
「あ、はい。すいません色々…」
「何、気にするな。行くぞチェレン」
「ああっ!!待ってよー!」
地上に出てから何かと人目を惹く。理由は簡単、真横で足を引きずりながら歩く血塗れのクラネルだ。
正直人目に付きたくない俺はこの場を離れたかったが、疲労困憊のクラネルを放置するわけにも行かず、クラネルの所属するファミリアまで運ぶ以外の選択ができなかったからである。
既に太陽ギラギラ輝く午後1時30分。肌を服越しではあるが触れあわせているので、暑い。衣服に汗が染み込んでいくのが分かる。
道行く人はクラネルを笑うがそんな人達も、人を実際に殺めた俺の一睨みで目を逸らしてしまう。
しかし遠いな。ここらに拠点があるのかと思いたくなるような場所で、クラネルが廃教会を指差す。
「あそこまで、お願いします」
「おいおい、まさかあそこか?」
そのまさかであった。
教会の隠し部屋に主神と2人で住んでいるらしいクラネルに少し同情の視線を送ったが本人それに気付けない程の疲労だ。部屋にあったタオルを拝借して血を拭っていく。
服を脱がすとチェレンに洗濯を任せて体を拭いていく。
小柄ではあるが中々に筋肉質な身体と背中の神聖文字が目につく。残念ながら神聖文字は読めないのでクラネルのステータス詳細は分からないままだ。
下着だけ新しい物に変えてベッドに寝かせる。ここだけは本人に着替えさせたが。
「俺達も一旦ホームに戻る。明日ロキファミリアの拠点に午前8時集合だ。それまで体を休めてろ」
「はい。あり…がとう……ござい………」
重くなった瞼がクラネルの瞳を覆った。やはり普段よりハードな上にミノタウロスと遭遇と……疲れない方がおかしい。
泥のように眠ったクラネルを見て、チェレンは声を小さく寝ちゃったねと言う。
俺達はそこから静かに出ていく。
廃教会を出て俺はチェレンに提案した。
「なあ、クラネルの奴武器壊れたんだよな。俺の短剣を貸してやった方がいいかな?」
「そうだね。武器を買い替える為のお金が稼げるまでは、そうした方がいいと思う」
クラネルの装備は傷だらけであったが、それは過去の物が多かった。しかし武器の方は、刀身が砕かれ、最早刀剣類ですらなくなってしまっている。金はありそうだが装備を買い替えることが出来そうかと言われると怪しい所だ。
兎も角、一旦ホームへ帰ってから考えよう。
そう思った矢先に、豊饒の女主人の契約書を思い出し、グローリアに報告しなければと急遽商隊の占領している場所を目指すことになってしまった。こればっかりはなくしてはいけないからな。
丁度昼飯が終わり主婦達が活発になる時間帯。あの一角はいつにもまして人が集まっていた。
行きたくねぇと零すが行かなければならないので決死の突撃を試みた。
人にモミクチャにされながらもなんとか一番奥の荷車に辿り着いた。
荷車の横口には眷属以外立ち入り禁止という文字があるが、眷属である俺達は無視してその荷車に乗り込んだ。
「何だ?」
そこにはじゃが丸君を頬張りながら新聞を読む我が主神グローリアの姿があったが、それを主神だと思いたくなかった。ぐでっとしたその姿は神というよりも親父と言う方が信じられる。
しかしこれが我らが主神なのだ。
「特産広知計画受けてくれた所があったんだよ!!」
「マジかよ!?」
おい。お前が言いだしておきながらあの計画受けるとこがあるとは……とか言ってんじゃねぇよ。まさかダメ元だったのか?無駄足覚悟で俺達に計画書押し付けたのか?
なんて俺の怒りを知らぬ2人は計画の話を進めていくが、俺はその話を聞かない。
俺の知らないところで立てられた計画だ。今更俺が計画を聞いたところで理解するだけの時間が用意されるでもないのだ。なら無駄な行動はしないに限る。
しばらくして話がまとまったのかグローリアが契約書に自身の血を一滴垂らして契約書を完成させた。その契約書を懐にしまうと他の眷属を集めて計画の今後について話し始めた。
だがすぐに行き詰ったのか淀んだ空気が流れる。大丈夫かこいつら……
そんな時、グローリアが口を開いた。
「こういうときは何しても上手く行かん!!仕事終わらせて酒場でパァーッとやろうぜ!!酒があると何でも上手く行くんだぜ!!」
全員がおおおお!!!と拳を振り上げて各自の荷車の売り上げを伸ばさんと加勢に行った。
だらしない上に呑兵衛ときたら完全におじさんである。だがこの神の救いの1つである優れた外見で、とてもそうは見えないのである。
そしてグローリアは俺達に気付くと
「お前らも来るか?」
「お断r―――――」
「是非!!!」
俺の言葉を遮ってチェレンが瞳を輝かせながら言った。
するとグローリアは俺達が行くことを前提にしていたことを明かした。
「そういうと思ったぜ!酒は皆で飲んだ方が美味いもんなぁ!!」
やはりこの2人は何故か仲がいい。そしてこの2人と一緒に居るときは俺に人権はなくなるらしい。もう慣れたことだが。
「よっしゃ。この後の……そうだな。10時くらいに酒場に集合だ!!」
酒場が最高に五月蝿くなる時間帯じゃねぇかよ。
五月蝿いのも人が多いのも苦手な俺にとって最悪な時と場所じゃないか。
俺のテンションが下がり続ける一方で2人(正しくは1人のエルフと1人の神である)のテンションは上がり続けていた。
そんな時にグローリアから俺達に何かが投げ渡された。
「まあ何だ。仕事に対する報酬とでも思ってくれ。俺のイチオシだぞ」
俺達に投げ渡されたのは酒の入った瓶だった。なんちゅうもん投げとんねん我!!誰だ俺は。
チェレンの瓶には極東の文字で純米大吟醸の部分しか読めず(名前部分が達筆すぎて)、俺の瓶にもまた読みにくい字(達筆なのだろうが読めないもんは読めないのだ)で「桜花爛漫」と書いてあった。チェレンの瓶は元から茶色い瓶なので中身の色が分からないが、俺の方は透明な瓶の中に綺麗な桜色の液体が入っていた。
呑兵衛の主神がイチオシと言う酒だ。余程の物なのだろう。大切に飲もう。
「ありがとうございます!!」
「どーも」
感謝の言葉を告げて荷車を下りる。それにチェレンも続く。
じゃーなーと気の抜けた声で力無く腕を振るう我が主神も、たまにはいい物くれるなあと思いつつも、瓶を割らないようにゆっくりゆっくり慎重にホームへと帰った。
疲れた......凄い隈.......
多分数日後くらいから更新が途絶えると思います
筆休めだと思ってください