彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
我らが主神から授かった酒を家の冷温庫に仕舞うと再び家を出た。
とりあえず酒場集合時間までの時間を利用して、魔石の換金と身体に蓄積した疲労を取る為にマッサージでも受けようかという考えである。問題点はこの都市のどこにマッサージしてくれる店があるのか、果たしてそんな店があるのか分からないと言う所程度だろう。程度どころの問題ではないのだが。
何をするにせよ金が無ければ何もできないので、ひとまず換金する。
雑魚程度では大した額は稼げないと考えていたが、思ったより僅かに多い額が手に入った。思わぬ幸運であった。
これだけの金があればマッサージと酒と食事くらいならなんとかなりそうだ。
近くを通った警備員にマッサージ店は無いかと尋ねて周り、この都市唯一のマッサージ店に辿り着いた。
店の中の雰囲気は中々に洒落たものだが滅多に人が来ないらしい。まあ当たり前だと思う。
「漸く着いたね。迷路のゴールに到着したみたいな達成感があって面白いね」
そう、立地というか店の場所が分かりにく過ぎるのだ。地図を渡されてていも迷ったのだから、もしも渡されていなかったらここまで来れなかっただろう。残念ながらこの世界にはアリアドネの糸は存在しないので帰りもまた迷うことになるのだろうが今は考えないことにした。
「おやおや、いらっしゃいませ」
店の奥から出てきたのはこの店唯一の従業員(と聞いている)である、店長ことアウロム・エスフライ本人だろう。
少し短い青い髪に右側のみ1つ付いたピアスには緑色の宝石が煌めいて、バーテン服を改造したような制服を着こなした彼は、静かな雰囲気とあっていた。
身体的な特徴が見られない為、神か人間の2つに絞られるが、神は基本的にファミリアを作って人に囲まれているので消去法で人間であろうと推測した。
「ここでマッサージが受けられると聞いてきたんだが」
早速俺達は本題を切り出す。
店員ははいと言って答えた。
「ここは全ての種族に合ったマッサージを行えるマッサージ店でございます。1人あたり大体30分~1時間ほどでご案内しております」
お二人ですか?と尋ねてきた店員に、俺だけが受けることと、チェレンが見学したいという趣旨を伝えると笑顔で答えた。
「わかりました。ではあちらのお部屋で着替えて、その隣の部屋に来てください。チェレン様は私についてきてください」
「それじゃあ後でね」
「おう」
俺は更衣室に、チェレンは店員についていってマッサージ室へと入っていった。
更衣室はそこまで広い訳ではないが人が5人いても狭くない程度には大きかった。衣服を脱ぐと置いてあったタオルを念のために持ってマッサージ室へと入っていった。
「ありがとうございました」
俺達が店を出るころには空は少し赤くなっていたが、まだ青色と言える程度の時間になっていた。
あの店員は中々に腕がよく、様々な道具を使い、時には魔法まで使うほどの極めっぷりで値段も格安であった。おかげで疲労が取れるどころか普段よりも体の調子がいいほどであった。
チェレンは使われる道具に興味を示し、使う魔法の効果に驚いていた。
「流石に一回見ただけじゃ覚えられなかったや」
面目ないと尖った耳を垂らすチェレンに、仕方ないことさと言ってやる。
見学というのは間違っていないが、チェレンは店員のマッサージ技術を盗もうと瞬きすらしないほどの熱中ぶりで一時も目を離さなかったが、それでもすべては真似できそうにないというのだ。まあ1度見ただけで完璧に真似しろとは言えないし、こいつが自発的にやったことなので責めたりもしないが。
さて、まだ時間があるなと思ったが、何をしたいでもなくどこへ行きたいでもないので、俺達は先に皆で集合する酒場、豊饒の女主人に行っていることにした。
まだ空は青い時間帯だが、早めに探索やレベリングを終えた冒険者たちが既に集まっていた。
繁盛してるなあと思いながら歩いていると、中から砲弾が飛んできた。否、シルが猛突進してきたのだ。
「ジンさん、お話しがあります」
「はい?」
ぐいっと。
服の襟を掴まれて店の裏へと回って放り出される。俺が何をしたと言うんだ。
普段と様子が違うシルに気圧されながらジリジリと壁際まで追い詰められてしまう。
ドン!
顔の真横をシルの掌が掠め、壁に叩きつけられる。
「ジンさん、うちのリューに何を吹き込んだんですか?」
何のことだ?
全く話の流れの読めない展開に困惑していると、とぼけないでくださいと純度100%威圧感で構成された言葉が身を震わせる。そこらの賊よりも怖いな。
「今朝ジンさんが来た後からリューの様子がおかしくなったんですよ?何もしてない方がおかしいでしょう!!」
シル曰く、積極的に会話に交じってきたり、自分に優しくなったり、笑顔が増えたらしい。
いやそれ何にも悪いことじゃないだろ。しかも俺何にもしてないのに何で何も言わないんだ?
「もしかして告白とかしたりしたんですか!?したんですね!?」
「してねーよ!」
ハッ、普段の勢いでつっこんでしまった。
しかしシルは嘘おっしゃいと俺が告白したという前提で話を進めていく。前提からおかしい会話は成立するはずないものだが片方の勢いや思い込みが激しいと成立するんだなといらない情報を得たが心底どうでもいい。
「大体、俺は全然リオンさんと会話できないまま店を出たでしょうが!!」
「へ?あ、あぁ……」
俺は事実を言い放つ。
その言葉を聞いたシルは少し思い返して、やがて気付いたのか物凄い勢いで目が泳ぎ始め、滝のような汗すら見える。
しばらく、あー…だの、えー…だのと言っていたが、咳払い1つして俺を見据えると
「ジンさんがさっさと告白しちゃえばこんなことにはならなかったんです!!」
開き直りやがった!?
「開き直りやがった!?」
「そそそそんなことはないですよ!!列記とした事実です!!」
口に出てたか。
確かに俺が告白すれば、もしくは告白したと認めれば収まった話かもしれないがまず前者であれば俺がフラれて気まずくなるだけで俺にとってマイナスじゃないか!!後者は嘘はできる限りつかないという信条に反するのでほぼ無い。
最早シルの不利が決定的になったのを本人も分かったのか、再び俺を引きずって店の正面に戻ると
「2名様ご来店デース!」
この女!?金を搾り取って逃げるつもりだ!?まあ2名と言うあたりチェレンの存在が見えなかったという訳ではないのだろう。それって無視で尚の事悪くね?
後ろから待って―とチェレンが追いかけてくる。
強引に椅子に座らされると、向かいの席にチェレンが座る。もうなんか疲れた。
「ねーねー、何食べる?」
「お前は呑気でいいな……」
何も知らない元凶は、何にしようかなーなどと零しながら食べる料理を考えていた。俺の言葉も聞こえていないらしい。都合のいい耳だなこんちくしょう。
しばらくの時間が過ぎて、店員が来たのか視界の端にこの酒場の制服が見えた。机に突っ伏していたので、腰から下しか見えないが。
「お決まりになりましたか?」
「あ、リオンさん」
何!?と起き上がって店員を見ると、チェレンの言葉にあった人物、リュー・リオンその人が立っていた。
俺の様子にどうかしましたか?と尋ねられたので何でもないですと返して注文する。
ついでにこれから来る主神達のことも言っておくか。と思い口を開いたのだが
「夜10時くらいにうちのファミリア数人がくるんだけど、席の確保ってできる?」
チェレンに横取りされてしまった。
この泥棒猫め。いやこの場合は泥棒エルフか?そもそも使い時すらあってないので前言を全て撤回して何事も無かったように振る舞おう。
「…今日はロキファミリアの方も来ますが、よろしいですか?」
既に予約していた奴らがいるのかと思っていたが、よりにもよってロキファミリアであるとは…
しかしながら俺個人の気持ちの問題で主神の意向を変えるわけにも行かないので、ここはおとなしく耐えよう。
「それでもいいです」
「……ジン?」
「分かりました。では伝えてきます」
チェレンが俺を心配する。
コイツには俺がロキファミリアにいい感情を持っていないことが知られているので隠すつもりはなかったが、そこまで心配そうな顔をさせるつもりではなかったのだ。
大丈夫?と尋ねるチェレンに大丈夫だと返す。
俺達を侮辱したり俺達に絡んで来たりしなければ何も問題は無い。
眼中に入れなければ何も恐れることはない。いやロキファミリアを恐れてはいないが。
「お待たせしました」
「お待たせしたニャ」
知らぬ間に店員が2人、リオンさんと猫人の店員が料理を運んで――――待てよ?そんな大皿あるいは大量の料理は頼んでないはずだが……?
テーブルの上に頼まれた料理が乗せられ、頼んでいない料理まで乗せられていた。
頼んでない料理がくるのは初めてではなかったし、量が勝手に増やされていたこともあったが、ここまで料理とそれぞれの量が増えると完食が難しくなるなと頭を抱える。
だが
「残すことは食材への冒涜だ。残すなよ」
そう言って料理に手を付けた。
チェレンはええー!?などと驚いていたが、腹を括ったのかいただきますと手を合わせて食しにかかった。
美味しい料理は多く食べてしまうものだがこの量は流石に無理だと思うので、作戦を「味わい少量」から「早食多量」に変更した。この作戦は短時間に食べることで腹がいっぱいになると脳が感じるより早く多くの量を食べるというもので、難点は、後から苦しい位に腹が膨らむことである。
幸い小骨の多い魚や硬い食べ物は殆ど使われていなかったので、作戦の妨げになるような事態は起こらず、ペースを落とすことなくハイペースのまま食事を続けた。
しばらくして全ての皿が空になり、腹も随分膨らんだ。最後に呼吸が苦しく感じるほどに食べたのはどれくらい前だっただろうか?
食器を片しに来たリオンさんやシルも驚きの表情を浮かべる。というかシル、自分でも驚くくらいなら勝手に増量するなや。恨みがましい視線で睨むとそそくさと厨房へと逃げてしまった。
最後の食器を取りに来たリオンさんが言った。
「よく食べ切りましたね」
「残すことは食材への冒涜だ。残すくらいなら貧困に苦しむ少年少女にやればいい。残すことは許されないことだ」
「……そうですね」
短い会話を終えてリオンさんは食器を両手に持って厨房へと戻っていった。
何やってるんだ俺は。もう少しまともな会話はできなかったのかよ。ついでにもっと会話を伸ばせよ。しかし後悔した所で意味なんて無いのだからと無駄な後悔をやめた。
「ジンー……苦しいよー……」
俺もだ諦めろとチェレンの発言をばっさり切り捨てる。
机に突っ伏そうがものなら肺と胃袋が圧迫されてリバースしそうになり、イスにもたれかかろうものなら腹から胸にかけての皮膚が張ってリバースしそうになる苦しい状況。体さえ動かすのがつらい。
すると再びリオンさんが来て、その手には水入りのコップが握られている。
「口直しにどうぞ」
どうやら彼女なりの気遣いのようだ。動けない俺達を思っての行動だと思いたい。
まあ実際の所この行動はありがたかった。
様々な料理の味が口の中を侵食し、水のような無味の液体を求めていたところに水が来たので俺達は迷うことなく水を飲み干す。が、悪手であった。
膨らんでいた胃袋に更に物を入れたのだ。口の中はスッキリしたが苦しさは増した。
しかし彼女の気遣いは嬉しかったので感謝を告げてみる。
「ありがとう」
「助かったよー」
俺に便乗するようにチェレンも言う。
するとリオンさんは少し顔を赤くして、それならよかったと笑顔を残して去っていく。
彼女のその笑顔に俺は自分の顔が熱くなるのを感じ、苦しみを堪えて机に突っ伏した。
ッチ、俺らしくもねぇな。笑顔に見惚れて顔を赤くすることになるなんて。
シルが言った笑顔が増えた。優しくなったを実感させられる。
「リオンさんも、変わったね。良かった」
お前がそう仕向けたんだろと言おうと思ったが、呼吸が苦しいこの体勢で言葉なんて発せるわけもなく、ただ黙ってその言葉を聞くしかなかった。
時間が気になったので、ちらりと出入り口を見てみる。
人口密度が高くなるこの空間は、人体熱で外よりもいくらか室内温度が高い。外から吹き込む風が少し冷たく心地よい。
それもそうだろう。外は既に日が沈んでいた。
しかしまだ赤みが残っているので真っ暗な夜中という訳ではなく、少し暗い程度だろう。
だがそれだけでもかなり時間が経っていることは窺い知れる。
けれども動けない俺達は、空から赤が完全に消えるまで動けなかった。
動けるようになっても俺達はその場を動かずにいた。
やることが無いのだ。
そんなわけで突っ伏していると、今度はシルがやってきて、タダ働きの勧誘をしてくる。
何もやることの無い俺達はその勧誘を受けた。
すると彼女はとても驚いたようで明日は火矢でも降ってくるんですかねぇなどと言ってのけた。
「やっぱやめようかなー(棒」
「男に二言は無いでしょう?」
そんな言葉を知っているとは……こりゃ一本取られたな。
「冗談です。まあうちのファミリアがくるまでの間だけ、お手伝いしましょう」
ワザと「だけ」の部分を強調して言う。シルはくそうと言いたげな表情をしたが、人手が無いよりかはマシだと思ったのか文句は言わなかった。
「じゃあ早速ですが料理運ぶの手伝ってくださいねー」
どうやら少しでも長く働かせようと言うことだろう。まあここまチェレンの職場になる場所だし、体験してみるのも悪くは無いかと意気込んで手伝いにかかった。
平均文字数が5000間近!!
これ以降は1話当たり5000文字以上を目指して頑張ってまいります