彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止)   作:双盾

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激昂

日が沈み静まりかえる平原や住宅街に反比例するように酒場は賑わいを増していくが、集まるのは男ばかりで華が無い。働く従業員だけしか女性がいないのだが、それでもまあいないよりもマシなのだろう。そして恐らくこの酒場に来る冒険者の目的は美人従業員との会話であろうとも予測できた。

しかしここの空間の何人かの冒険者は不満そうな表情をしている。

普段ここの従業員は女性しかおらず、食事が運ばれてくると必然的に顔を合わせることになるのだが、今日は男性が2人手伝いとして働いている。不満そうな顔をしているのは料理を運んできたのが男だったからであろう。

しかし受けが悪いのは片方だけでもう片方はかなりの好感触のようだ。

つまり俺の方が受けが悪いと言うことである。認めたくは無いが。否定したところで誰が得をするでも損をするでもないので認めてもいいが、コミニュケーション不足で美形でもないということを認めるようなので俺は認めない。

 

「下心を持った客が多く居て困る」

 

諦めの声音で心情を吐露するのは、尖った耳に色白の肌というエルフという種族の象徴を持つ美人なウエイトレス。金の髪は支給される制服の色合いによく似合い、その美貌をより際立たせている。

彼女ことリュー・リオンは諦めの表情を切り捨てると同時に気持ちを切り替え両手に皿を持って席へと運んでいく。

むさ苦しい男共の群がる空間の中でも凛々しく美しい彼女の周りには、その容姿に魅かれた下心丸出しの男が集まるが触れることさえ叶わない。

同種族のチェレンまでもが認める美人である彼女に俺が恋というものを抱いてしまうのはおかしなことではない。俺は彼女に現在進行形で恋とやらをしているのだから。

けれど俺は他の男共同様に下心を持って彼女に触れようとは思わない。ましてや彼女がそれを良く思わないのであれば視界にだって入れないようにする。

それが俺の彼女に対する誠意だ。

 

「飯!!はよ!!」

 

五月蝿い客が俺を呼ぶ。恐らく本当に食事目的だけで来ている客しか俺を呼んだりはしないだろう。いつもなら五月蝿ぇ男だなぁ、すっこんでろ!!などと言っているところだが今現在俺はここの従業員である。仮であり一時的なものだが。よって客は神といういつかの教えに従って客の命令を遂行するしかない。

俺が動くたびに悪意に満ちた視線が俺を射止めるのであまり動きたくないが、人手が足りない状況で動かない従業員はゴミも同然である。俺はそんなゴミにならないように悪意の視線に耐えながらせっせと動く他ない。動いても動かなくても地獄。クソゲーじゃねぇか。

そんな試練の中、時計を見るとあと数分で手伝い終了の時間になった。チェレンとリオンさんは予約席の確保兼片付けに移行した。

予約席を予約していない客は使えない。よって客の回転率が悪くなり外には行列が姿を現していた。凄まじい人気だな。

 

「!!」

 

そして時計の針が動き、手伝い終了の時間となった。

俺は近くにいたシルに声をかける。

 

「時間なんでキリがいい所で上がります」

 

「もう少し働いていきません?働き足りないでしょう?」

 

そんなわけあるか。人ごみを嫌う俺がこの人ごみの中で接客業に耐えきったんだ。もう接客業はこりごりだというくらいにまで頑張ったんだ。これ以上の努力はない。

シルに結構ですと返して机の上の皿を片して厨房の流し台まで持っていきミッションコンプリート。チェレンも少ししてから食器を片して上がる。

裏口から出て正面に戻ると少し遠くに我が主神グローリアと各商隊のまとめ役の面々がこちらに向かってきていた。

チェレンが手を振り場所を知らせる。

 

「こっこでーす、ここ!ここ!」

 

それに気づいたグローリアはおーうと返事をして雑談しながらこちらに向かう足速を僅かに早める。

俺は目印となりその場から動かないでいると、チェレンが店内の従業員の誰かに近くまで来たことを伝えたのか、中から2人の従業員が出てきて行列の向きや並び方を変えて通行の邪魔にならないようにする。

少しして店に到着して本人確認を終えると、確認を担当した従業員が席へと案内していく。

 

「よーやく着いたぜ。まあ最初は酒だよな。と言うことで酒7と大皿料理を適当に頼む」

 

「承ったニャ」

 

初っ端から酒を頼むうちの主神に呆れつつも俺とチェレンは適当に座る。

酒のグラスが到着するとそれを握り高く掲げると

 

「まずは乾杯だ!乾杯!!」

 

「「「「乾杯!!」」」」

 

その勢いのまま口元へ持っていき、ぐびっと。酒があまり得意でないチェレンだけが咽る結果となった。齢14にして酒に慣れた俺ってやっぱおかしな目で見られますよねハイ分かります。

しかしながらぐびっといっていいのはビールであって酒は味わう物だと思うのだがと言ったが、盛り上がりより一層騒がしさを増した状況では俺の声も届く前に掻き消されてしまうのである。

その後大皿料理が到着すると計画のより詳細な部分について話し始めた。その点に関しての話には混じれないのでその間俺達は武装やダンジョンについて雑談しあった。

 

「薄刃蜻蛉の調子はいいんだが、どうにも砥石を使う必要性がなぁ」

 

「うーん、ガルヴォルン鉱石製の砥石でも探してみる?」

 

同じ素材が含まれているのなら少しは研げるはずとのことだろうが、それでもそれを手に入れるには莫大な金がかかるのだろう。良い武器には維持費がかかるのである。初めて知ったけど。

 

「壊れることはないだろうけど、冒険中に手入れできないのがどうも痛いな」

 

硬すぎるゆえの欠点。そして盲点でもある。

 

「手入れするのが難しいなら、いっそのこと壊れるまで使ってみるとかどう?」

 

「それしかなさそうだな」

 

特注の砥石でもまったく歯が立たなかったのだ。諦めて壊れるまで使う他無いだろう。維持費などのことを考えても、壊れたら打ち直すと言う方が安上がりだ。というよりも作った本人がその提案しちゃってもいいのかよ。

試に色んな物を切ってどれで傷がつくかを調べてみるのも手だが、これで切るのは大凡モンスターか硬い物でも金属程度だろう。

そんな中で猫人の従業員の底抜けに明るい声が響いた。

 

「予約のお客様、ご来店にゃ」

 

来たか、と内心で身構える。

店内に侵入してきたのはぱっと見た感じ7人。

先頭を歩く赤髪が恐らく主神ロキ、その後ろを少年のような背丈の冒険者がついて行く。その様は姉貴の後ろをついて回る弟のようだが兄妹ではないことは分かっていた。

小人族の精鋭部隊長、フィン・ディムナ。二つ名は【勇者】。

その後ろに2人の褐色少女。ティオネ・ヒリュテとティオナ・ヒリュテ。攻撃重視の2人。それぞれ与えられた二つ名はそれぞれ【怒蛇】【大切断】。

そして銀の髪にピンと立った耳、琥珀色の瞳は容姿だけでも動物的危機感を与えてくる。

ベート・ローガ。機動力重視の攻撃型。狼人に多い好戦的で弱者を見下す性格であることは調べるまでも無かった。二つ名は【凶狼】

そしてその後ろからは既に顔を合わせた【九魔姫】ことリヴェリア・リヨス・アールヴ。

誰一人俺に気付くことなく他の席に座っていく。

俺は歯を食いしばる。

殺気を我が身に抑えるに徹し、会話も食事も止まった。それに気づくチェレンが小声で大丈夫かと聞くので、何とかと掠れ気味の声で返答する。

正直ここまでの殺気を放出するとは想像もしていなかった。

いくらロキファミリアに敵対心を抱いているとはいえ俺自身が何かをされた訳でもないので大丈夫だろうと事態を軽視していたのが大きな失態だろう。

そして少し遅れて入ってきたのがクラネルの救世主、【剣姫】のアイズ・ヴァレンシュタイン。

ここで店内の誰かが言った。

 

「おいおい、ロキファミリアのトップが勢揃いじゃねぇか」

 

少し視線を動かして見てみると、気付かぬうちにそのほかの精鋭部隊の面子もまた入店し、着席していた。

脳が警笛を鳴らすかのように掌や額に汗が滲む。

チェレンとグローリアだけが俺の異変に気付くが他は誰一人気付かない。

やがて席がすべて埋まると主神ロキと思わしき人物が酒を片手に立ち上がった。

 

「ダンジョン遠征ご苦労さん!今夜は宴や」

 

情報通り、遠征の祝杯を挙げにこの酒場へと訪れたようで、団員達は運ばれてくる酒と料理に手を付け始めた。

食しては酒を飲み干しまた食す。そうこうしているうちに程よく酒がまわったのか場の雰囲気もまた正常ではない物となっていく。

酒がまわり始めた団員達だったが、フィン・ディムナは親指を見つめて何かを警戒するように見回す。犯罪者でも見つけたのかと思ったが忙しなく動く瞳は犯人あるいはその原因を突き止めてはいないようだ。その様子に気付いたのかリヴェリア・リヨス・アールヴがどうかしたかと尋ねたが、嫌なんでもないと返す姿に俺は何かあるなと確信していた。

そんな中で【凶狼】ベート・ローガが口を開く。

 

「アイズ!例のあの話、披露してやろうぜ」

 

何かを見下すような獰猛な笑みを浮かべて【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに提案するが彼女の表情はあまり変化が見られない。

ベート・ローガはそのまま話を進めていく。

 

「ミノタウロス、最後の一匹お前が始末したろ?」

 

それは恐らく俺が一歩間に合わなかったあのミノタウロスのことだろう。

 

「その時いたトマト野郎の、ヒョロくせぇガキが、逃げたミノタウロスに追い詰められてよぉ」

 

クックックと笑いが堪えられないのか噛み殺して尚聞こえる笑い声。狼人に多い弱者を見下す性格が存分に表れている。こういうやつが俺の最も苦手な奴だ。

 

「ソイツ、クッセー牛の血を浴びて、真っ赤なトマトみてえになっちまったんだよ」

 

ひゃははははと笑いだした狼。クスクスと笑うアマゾネス2人は僅かに愛想笑いが混じっているようにも見える。

その続きを話そうとしたベート・ローガを叱る声が聞こえた。

リヴェリア・リヨス・アールヴだ。彼女があの集団の中ではまともな部類に入る人間であったことに感謝するしかない。

もっともこの場合に俺が感謝すべきなのはベル・クラネルに多大な疲労を与えたミノタウロスにだろうが。あいつがもしここにいたらと考える。悔しさと悲しさで何も言えなくなっていただろう。しかしあいつはホームで休息している。ここにはいない。

 

「いい加減にしろ、ベート!!」

 

「ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

悪びれる様子は微塵も無く、正しいのは自分だ。そう言いたげにしたが、アイズ・ヴァレンシュタインの方を向いて別の問いを放つ。

 

「じゃあ質問を変えるぜ。あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「ベート、君酔ってるね?」

 

フィン・ディムナがいよいよ場の空気の悪化を察知して動き出したが時既に遅し。転がる石が自ら止まれぬように、陽が昇っては沈むように、海が満ち引きするように、彼もまた自らを制御しきれぬまま言葉を放ち続ける。

 

「アイズ!!俺とトマト野郎ならどっちを選ぶってんだよ!!」

 

それは無意味過ぎる質問だろうと思った。

状況が全く違う2つのどちらかを選べと言われるのは、もはや選択肢が1つしかないようなものだ。

会って間もなく逃げ出されて正しい姿を見たことの無いクラネルと、ある程度親しいベート・ローガ。比べる対象が違い過ぎる。

 

「あんな軟弱な雑魚野郎にお前の隣に立つ資格なんてありゃしねえ。雑魚じゃ釣り合わないんだ!!アイズ・ヴァレンシュタインにはな!!」

 

その言葉に、俺は――――――

限界を超えて耐え続けた結界が、崩れた。

ダメだと言って俺を静止させようとしがみつく。俺は謝罪の意を込めた無言でチェレンを突き放した。

ガタン!!と勢いよく立ち上がった俺に一斉に視線が向けられる。

ベート・ローガへと進む足。もう俺にはこの足を、体を止める意志は無い。

一瞬、グローリアと目があった。その目はこう言う。

 

<よく耐えた。あとは好きにしろ>

 

止めるでもなく叱るでもないその声の無い言葉にさえ感謝の言葉を返すこと叶わぬまま視線を外し、突き進む。

そしてロキファミリアの全員の顔を見る。

何やコイツと言いたげな主神ロキ、中々に根性ある奴だと面白そうな表情の【重傑】ガレス・ランドロック、君はと零すリヴェリア・リヨス・アールヴと似た反応を示したのはティオナ・ヒリュテ、その他は皆ロキと同じような反応を示す。

動揺や困惑でガヤガヤザワザワと騒がしくなっているはずの空間の音も俺には届かない。

真っ先に動いたのがティオナ・ヒリュテの姉、ティオネ・ヒリュテ。同じように立ち上がって、吠える。

 

「誰よアンタ。一体何が―――――」

 

「黙れよ」

 

俺の一言で場は静まり返る。大半は空気と共に凍りついたように動かなくなる者。残りは格上の存在相手に対しての俺の言葉に息を呑む者。

凍てつくような、身を切るような殺気が、空気を破壊し動きを止める。

気圧されたように一歩後ずさるティオネ・ヒリュテ。

そこで次に動いたのは、やはりかと納得したような表情をした【勇者】フィン・ディムナ。

 

「待ってくれ。君の気持ちも分かる。彼にはそれ相応の処罰を与える。それで収めて―――――」

 

「邪魔だ。どけ」

 

「ちょっと!?アンタ団長に!!」

 

あ゛あ゛?団長?それが何だってンだ。相手が何であれ、どんな処罰を与えると証明したって、証拠も証明もできないじゃないか。今俺が信じられるのは俺だけだ。君の気持ちも分かるだ?ふざけたことぬかすんじゃねぇ。お前に俺の気持ちが理解されてたまるかよ。

しかし俺の前で尚も表情を崩さずに立ち塞がる。

 

「君もこれ以上問題を大きくしたくないだろう?一旦引いてく―――――」

 

「分かった」

 

その言葉に安堵を見せたフィン・ディムナ。

だが、次の言葉でそれは一変する。

 

「お前がどかないのなら俺が動こう」

 

邪魔な物体を迂回するようにフィン・ディムナを避けてベート・ローガへと歩む。

けれどやはりそこを通さんと妨害するフィン・ディムナ。

面倒な奴だ。何としてもここで収めたいらしい。

 

「邪魔だ、どけ。最終警告だ」

 

もしも退かなかったら?と言うフィン・ディムナに、強行させてもらうと言うが、やはりその場を動く気配は無い。

では宣言通り、強行させてもらう。

正面にいるのは敵だ、しかし未だ俺に害を与える存在ではない。酷い手傷を負わせぬように胸元を掴み上げようと手を伸ばす。

 

「ふっ」

 

「おん?」

 

逆に腕と胸元を掴まれてしまう。背負い投げと見た俺はおとなしく投げ飛ばされる。

地面に叩きつけられ、周りからは歓声が上がる。

フィン・ディムナは言う。

 

「これでも諦めてくれないかな?」

 

どれだけやっても君は僕に勝てないと言う意の隠されたその言葉を聞いたが―――――

だからどうした、と返す。

初めからお前に勝つ気は無いと意を込めて放った言葉に驚きの表情のフィン・ディムナ。

地面から起き上がって構える。

だがここで俺は思い出す。

この店にはある程度親しい人間が居る。我がファミリアの契約相手でもあるこの店で迷惑を起こすのは店としてもファミリアとしても俺としても困る。

 

「良いだろう。ここは引いてやる」

 

構えを崩し、そう告げる。

フィン・ディムナとチェレンは安堵の表情を、リヴェリア・リヨス・アールヴは悲しそうに俯き、その他は俺を敵視するかつまらなかったと言いたげに不満の表情を浮かべた。

唯一、グローリアだけがどれでもない表情で俺を見る。

 

<いいのか。これで>

 

<まだ終わってない>

 

アイコンタクトで短い会話をして再びフィン・ディムナを見据える。

 

「ただし、翌日の午前9時。ロキファミリアの拠点に行かせてもらう」

 

少し間を空けて

 

「ロキファミリア所属、【凶狼】ベート・ローガに、決闘を申し込ませてもらう」

 

返事は聞かずに店を出る。恐らく周りから見た俺は、負け犬のような感じだろう。それでも別に問題は無い。

この決闘宣言に意味があるのだから。

大衆の前で決闘宣言をする。強者の立場にある者は挑まれた決闘で逃げることを選択する場合は少ない。2度と刃向わぬように叩き潰すからだ。そして遠征が終わった相手は今後の準備を早急に進めたいという訳でも無いので決闘を受けるだろう。

というよりも、うちの主神は人を煽るのが好きな性格だ。あそこで受けないような雰囲気になれば「雑魚相手にビビってるぜこいつwwww」みたいなことを言って乗せてくるだろう。

ほぼ決闘は確定なんだ。俺は明日に備える。ただそれだけだ。




6500文字突破!?
ともかく主人公がベートにキレて決闘を申し込むお話でした
次の話が長くなりそうなので連日更新は今日までで終わりです。
これからはこの作品も週一の更新となります
なお、話が早く更新できたら更新します
連日の投稿で体調不良、睡眠不足、etc.....とまあ悪影響が出てきたので
しばらく休ませていただきます
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