彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止)   作:双盾

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正面衝突

『世の中の関節は外れてしまった。

 ああなんという呪われた因果か。

 それをなおすために生まれついたとは』

 

などと言う言葉を書物で目にしたことがあった。

この世界は神が下りた時点で関節なんてものは外れている。

だが俺はそれをなおす為に生まれついたとは思わない。

自分達の住む世界をなおすのは自分達全員なのだ。変わった後の世界がよければ直さず、気に入らないから直すのである。

しかしこの言葉を聞いたグローリアは、正に君ではないかと言う。

俺のやっていることはそんな綺麗言で片づけられるようなことではない。

どんな罪よりも重く、どんな事情であっても、どんな罪滅ぼしをしても、許されることのない大罪のその象徴『殺人』の繰重ねである。

そんな俺にグローリアは言った。

 

「全ての物事は犠牲の上に成り立っているんだぜ?」

 

「今大量の犠牲を払うことで、悪に染まった犠牲だけを代償に罪なき未来を守れるんなら」

 

「それは最早、正義以外の何物でもないんじゃないか?」

 

だがグローリアは俺が悪ではないのかと尋ねると、首を横に振る。

正義であり悪であると言う。

矛盾している。

俺はそんな存在だと言いたいのかと尋ねると、違うと答えた。

正義と悪は同義であると説明した。

矛盾する2つの最終的な意は同じであると説いたのだ。

崩壊寸前であった俺を救った言葉だ。

正義を求めて、悪だと罵られた俺を救った言葉。その主であるグローリアを、俺は裏切らない。

俺は、殺してきた人を裏切らない。

俺は、目の前で死んでいった罪無き人々を裏切らない。

そのために俺は捨てられるものは捨てる。

それが我が身我が魂であろうと。

 

 

 

 

 

朝の9時。地域によってはこの時間は既に昼であると言う所もあったが、ここでは朝と言う認識である故に昼と言わせてもらう。

【ロキ・ファミリア】本拠『黄昏の館』の前には、たくさんの野次馬共。恐らく前代未聞の事態に凄まじい速度で情報が拡散していったのだろう。そしてその大きな要因は朝刊である。

 

『噂のギルド団員が最強の一角ロキファミリアに決闘を申し込む!?』

 

表紙に太字でデカデカと書き出されている。

こんなものが都市全域に配布されればそりゃあこれだけの人も集まるだろう。

集まった人間はかなり状況を楽しんでいるようで、賭け事なんてことをやりだす輩も出てきている。

知ったことか。

俺の敵を討つ。その為だけにここにきたんだ。

ロキファミリア本拠点内の建造物の前に対峙する2組の集団。

方やロキファミリア精鋭の面々。

方やグローリアファミリア戦闘要員2人と主神グローリア。

殺気の塊がぶつかり合うここでは、他社の介入を許さない。

先に言葉を放ったのは、【勇者】フィン・ディムナ。

 

「おはようグローリアファミリアの皆さんと主神グローリア」

 

律儀な挨拶はいらない。

乱暴に返すと騒ぎ出すアマゾネスの姉。しかしフィン・ディムナに宥められてしまう。まるで獣だな。また騒ぎ出されても会話が進行せず困るのでこれは口に出さずにおいた。

 

「んじゃ、早速だが決闘の誓いを立てさせてもらおうかね」

 

一方的に進み出るグローリア。その手には血盟の誓書がある。

けれども相手は未だ平和な解決を試みているのか渋っている。

 

「前も言ったけど、こちらは彼に相応の罰を与えて反省をさせた。謝罪もしよう。これでも引いてくれないか?」

 

相応の罰?

何だそれは。

 

「罰、というのだから気絶するまで鞭打ちだとか、爪を全て剥がすくらいはしたんだろうな?」

 

「いや、反省文を300枚とリヴェリア・リヨス・アールヴ直々の説教を5時間だよ」

 

甘い。

温い。

そんなもので、済むものか。

人の誇りを踏みにじり、命を軽視するようは発言が、そんなもので許されていいはずがない。

 

「そんな程度なら、俺がその罪、断罪してやろう。さあ早く構えろ」

 

「ちょい待ち」

 

俺達と【凶狼】ベート・ローガの間に割って入ってきた細い腕。

その主である赤髪の主神ロキが口を開く。

しかしその言葉さえ発する前にグローリアが邪魔をするように喋る。

 

「理由なんて野暮なことは聞くなよロキ。人よりも生きながらえてきたんだ。言葉1つ、表情1つで過去さえも読み取る程度の技は身に着けておくのが神としての常。まさか俺よりも多く長くの人と接しておきながら、それさえできないとは言わないよなぁ?」

 

久しく見たグローリアの苛立ちの表情。

挑発的な発言を繰り出すグローリアの前に、ロキは引くことはなかったが言葉を返す様子は無い。

 

「世界の実情さえ知らない様な奴が神を名乗ることさえ認めたくは無いが、俺とお前の仲だ。それは許そう」

 

だが、と続けた。

 

「俺と同じものを見てきた仲間の全てを汚すような暴言を吐く奴を庇うのであれば、俺はお前と言えど、敵として相手するが」

 

神の力を解放する寸前までに高められた殺気。

何億という月日と見てきた全ての惨状で洗練され、鍛え上げられた神威すら等しい殺気の前に、高々100も生きない生物が耐えられるはずも無く、恐怖の渦中に支配される。

だがロキが壁となって眷属を守るように立ち塞がる。

その立ち塞がった神であるロキでさえ、表情を強張らせている。理由はグローリアの別称。

 

「『禁忌恐れぬ者』、『神殺し』。俺の通り名をお前は知っているだろ?死にたくなければさっさと戦え」

 

神は地上に降りる際にいくつかの制約を呑まなければならない。

それを犯せば罰を与えられる。

しかしグローリアは例外であった。

地上で躊躇うことなく神の力を発動し、必要があればその手で人々を虐殺、犯罪組織の撲滅を積極的に行い、どうしようもなくなった時には死者蘇生の秘薬さえ作りだし取引の材料とした。

無論そんなことをすれば罰が与えられる。

けれどもグローリアには罰を与えられなかった。

理由。

それは地上の人間から絶大な支持を集めているからである。

全国を回って、様々な危機的状況を打開してきたグローリアは、いわば救世主。他の神がやらなかった偉業を成し遂げてしまった。

そんな正義の頂点にも見える神に罰を与えれば当然ながら地上から反感を買うだろう。

反感は必ず出たがグローリアに罰を与えられない理由はその規模の違いにあった。

他の神であったならば反感は精々が都市1つ程度であるだろうが、グローリアは全世界に無数の信者がいる。人口的に見れば国規模の反感を買うことになってしまう。そうすると必然的に地上にいる他の神達に対しての感情もいいものではなくなっていき、最終的には物理的な被害が出てしまう。

それを恐れるが故にグローリアは罰を唯一受けないのである。

もし仮に今ここでロキファミリアを壊滅させたとしても、神々は罰を与えられないのだ。ダンジョン攻略のファミリアは他にもいる、代わりがあるとされて、グローリアの罪も軽減されてしまう。例え罰があたえられても大した罪にはならない。

これはグローリアが目指した理想の過程でしかないというのだからその理想とやらは想像を絶するなにかなのだろう。

神同志の威圧対決。

そんな状況にいた人間は、一般人であれば意識を保つことすら危うい状況を打開すべく最善と判断した行動にでる。

 

「いいぜ。戦って、勝ちゃいいんだろ?」

 

声の主はベート・ローガ。

その発言にグローリアの殺気は静まり、それを相殺するロキの殺気もまた収束していく。

ロキ以外のロキファミリア精鋭は驚愕しただ、誰一人止めることはしない。

それが最善と知っての事か、はたまた我が身可愛さから差し出す贄か、あるいは慢心か。

何にせよ進み出たベート・ローガには凄まじい量の視線が送られる。

最終確認をするかのようにロキが尋ねた。

 

「ホンマにええんか?」

 

その言葉に対して勝気な表情でベート・ローガは

 

「ヘッ、ナメてんのか?俺を誰だと思ってやがる」

 

答えを聞いたロキは溜息1つ、そしてベート・ローガの隣に立つ。

それを見て俺とグローリアもまた一歩、前に出る。

漸く戦いが始められる。

そんな時にまた、声が遮る。

 

「待って!!」

 

今度は何だと思ったが、声の主を考えると何か考えがあっての事だろうと判断し、無言で振り向くだけに終わる。

グローリアは尋ねた。

 

「何か言いたいことがあるのかチェレン」

 

声の主チェレンは、俺達に駆け寄り、俺の肩に手を置いて返答する。

 

「僕も戦わせてもらう。いいよね、グローリア様?」

 

こいつは何を言っているんだ。

ダメだ、やめろと言う俺の言葉を妨害する形でグローリアが手を俺達の間に差し入れて、会話に割り込む。

 

「止めはしない」

 

俺が最も信頼する神が、止めないことは分かりきっていた。しかし俺が今ここでチェレンの発言を取り消そうと強行しても意味はない。俺は黙って従う他ない。

舌打ち1つで怒りを抑えてチェレンの参戦をロキファミリアに確認をする。

ここで拒否しようがものならグローリアが何かしらの行動を起こす。その行動が何であれ、相手はグローリアに手出しをできない。

実質的に答えは1つしかない状況で、最善は1つだった。

 

「………ええわ。許可したる」

 

悔しそうに表情を歪めながらグローリアを睨んだロキ。

これ以上の犠牲を出したくないと言わんばかりだ。

しかしチェレンが動くとなると、それがどんな行動かは俺ですら予測不能だ。ここは先にチェレンを動かした方がいい。

 

「先行を譲ってやるよチェレン」

 

「ありがとジン」

 

バトンタッチするようにハイタッチで前後を交代する。

グローリア、チェレンを止めないことは分かっていたが、そこまで困惑も動揺も見せないと、こうなることを分かっていたようにも見えるぞ。もしそうだったとしたら、この戦いにどんな意味があるってんだ。

俺達の誇りを汚されたとはいえ、関る必要のないチェレンさえも巻き込むとは。何か策でもあるのか?

進み出たチェレンは仁王立ち。そして戦いの相手を指名した。

 

「【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。Lv5勢のリーダー的存在の君を、戦いの相手に指名するよ」

 

何を考えてやがる。

剣姫はレベル6と互角に戦えると噂の強者だぞ。俺達で戦える相手ではないとは言わないが、苦戦する結果になるぞと死線を送るが本人はそれに気付かない。いや、あえて無視しているのか。

向こうもまたベート・ローガへの最終確認のようにアイズ・ヴァレンシュタインに同じ確認をする。無論答えは同じだ。

ベート・ローガが口を開く。

 

「アイズ、本気は出す必要無さそうだぜ?対人最強ギルドとはいっても、あいつらここにきてまだ1ヶ月も立ってないらしいぜ。力の差を思い知らせてやれ!!」

 

狼の言葉にまともに耳を貸していなかったのか、んと一文字の言葉を返して進み出る。

ベート・ローガの言葉は慢心の現れそのものに感じる。

しかしその言葉に【勇者】フィン・ディムナとロキは苦々しい表情を浮かべ、アマゾネスの2人は驚き、Lv6勢はアマゾネスほどではないにしても驚きの表情でこちらを見る。そこまで詳しい情報は知らなかったらしいな。

そして俺達グローリアファミリアの面子は、まずグローリアは表情を崩さず俺も腕を組んで目を瞑る。

そんな中でチェレンだけが噛み殺し損ねた笑いを零した。

チェレンの笑いに何がおかしい!!と食って掛かるベート・ローガ。

 

「ああゴメンね」

 

続けて

 

「まさかそこまでナメられているとは思わなくてさ」

 

チェレンらしからぬその発言に俺は驚いたが、その表情を見て納得する。

その顔には、狂気の笑み。

時たま姿を表すチェレンの第2の顔だ。

 

「でも安心してよ。僕だってそんな覚悟で戦うわけじゃないから」

 

メイスを構えるチェレン。それを追うように剣を構えるアイズ・ヴァレンシュタイン。

両主神が右手を天に向けて、誓いの言葉を告げた。

 

「我、神として汝らの決闘を見届けん!!」

 

主神の右腕に赤い刻印が施される。これが誓いの証。

誓いを破れば一時的に神の力を消失させてしまうという物。戦いを妨害させないための刻印。

それの顕現は、戦闘開始の意を持ち、宣言の直後には既に火花が散っていた。

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