彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止)   作:双盾

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剣戟→>激突<←打撃

― side チェレン ―

 

刹那に散る火花を、平凡な人生を送る者は知ることが無い。

しかしここに集まっているのは茨の道を進み続け、その先陣を切っていく者達ばかりだ。

けれどもその瞳は振り回される鎚と刃までは追えていない。

迫りくる刃を重量のあるメイスで打ち返し、衝撃に揺れる眼前の敵に重撃を叩き込む。

しかし軽量の剣では伝わる衝撃も体の揺れも一瞬で、その一撃も難なく回避されてしまう。

未だお互いに本気を見せていない。

この勝負、先に手の内を明かした方の負けだ。

 

「剣姫ってだけはあるね。機動性を重視し手数と命中率の高さで攻撃の低さを補っている」

 

剣姫の攻撃の恐ろしい所は、物理的威力ではない。

一撃目の技の出とその後の行動までの無駄な動きが無く、2撃目までのロスが無い。コンマ単位での連撃。

それをブーストするように極めて高い技の命中率。追撃とでも言うべきなのかは分からないけど、逃げ道を的確に塞ぐ体の配置と足の動き、そして回避さえ許さない高速且つ必中の剣閃。

これが剣姫の本気ですらないと言う。

武への、特に軽量の剣に関しての才能の塊だ。

この先の未来が恐ろしいと思うけれども、これだけでは足りない。

そもそも、根本的に足りていない物があった。

対人戦の経験の不足。

本気で殺しにかかってくる相手にこの程度の技では太刀打ちできない。

技術ではカバーしきれないのが覚悟。

それが足りていない。

剣戟を交えながら敵は僕に問いかけてきた。

 

「何で私を指名したの?」

 

剣戟を弾いてそれに答える。

 

「ジンを怒らせた時の大本の原因は狼君だ。けど、それを止めることのできた君にも罪はある」

 

表情が曇る。あまり理解できていないのか。

会話を交えても尚下がることのない精度。剣を我が身と見立てるような戦い方は、戦闘の心得を持っている証。自信の無駄を省き、剣の無駄を省く。自身の心境を表すこの戦い方からも、彼女の罪は見て取れる。

無駄を省くと同時に、必要な物まで省いてしまっているのだ。

彼女に足りないのは智と知識欲。

書物や会話から人の事を知りたいという欲求が薄い。

 

「無知は無恥ではなく罪である」

 

無知故に止められなかった事態。その始末を負うべき人間の1人が、こうしてのうのうと生活していることが、僕を激昂させる。

ステップと受け流し。そして鋭突。

メイスを振ってもその重量故に追撃までは対処しきれない。体を逸らせて回避しその勢いを与えて振り上げるメイス。

状況は僕の劣勢だった。

 

「いいぞー!!そのままやっちまえアイズ!!」

 

五月蝿い狼の声を掻き消すように風を割断する重撃を見舞う。

徐々に傷が増えてく。服に、武器に、体に。

しかし僕はまだ諦めていない。

負けなんてありえない。

 

「断罪するのは僕達の仕事だ。職務を全うするためなら、僕は悪魔にだってなろう」

 

僕は目の前の敵に吠える。

こんな相手が罪を償わないのは、世界の理に反している。

世界を正してきた僕達が、この程度の敵に負けるはずがない!!

 

「さてと、前哨戦(準備運動)はここまででいいよね」

 

距離を取ってメイスを地面にめり込ませて傾かないようにして手放す。戦闘中に自ら武器を手放すのは自らの敗北を告げる時だけだと教官は教えたが、この行為は僕にとって切り替えのスイッチのようなものだ。

久しく出すことの無かった本気。ジンさえも知ることの無い真の力。

いままで隠しててごめんね。今日、僕の本気、見せるから!!

 

「たとえ幾千幾万の兄があり、その愛情すべてを寄せ集めたとしても、俺一人のこの愛には到底、及ぶまい」

 

もういない僕の家族に向けて、新しくできた僕の家族に向けて、愛の深さを教えるように告げた。

 

「本気で行くよ」

 

両手に鉄塊が姿を現す。

先程の言葉、それは僕の持つ収納魔法から物を取り出す時の言葉。そして取り出したのは、僕の信じる唯一無二で絶対な相棒。

盾と手甲、そして大鎚を組み合わせたような武装。

重量的には、メイス以上に重いハンマーよりも重い装備であり、エルフと言った重量装備と縁が無い種族がこれを使うことは万に一つと無かっただろう。

だが事実現実、僕がこの装備を使っている。

驚愕するのは皆同じ。その中でも一際驚くのがハイエルフ攻略組Lv6二つ名【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ。その人だ。

エルフと言う種族は元々、魔の方面に長ける反面で肉体的な方面には長けていない。どれだけ鍛えたって人間にすら及ばない。そんな種族がこんな重量装備を使えば、同系種族の人間であれば皆驚くだろう。

もちろん、この装備がとても軽い訳ではないし、これに魔法をかけている訳でも無い。

変わったのは、僕自身。

今まで培ってきた経験をもとに生まれた唯一無二のスキルが、僕を支える。力無くとも近接を挑める。

 

「さあ、殴り合いを始めようか」

 

スキル『重打緩減』、打撃武器且つ重量が一定以上の武装を使用する時、体にかかる負担と疲労をおおきく軽減する。ただしスキル発動中は微量の魔力を消費し続ける。

まるで両手にメイスを持っているかのようだけれども、スキルの加護のおかげで戦える。何度だって立ち上がれる。

僕の姿を見て、相手も本気を魅せる。

剣を構えて、覚醒の言葉を述べる。

 

「目覚めよ(テンペスト)」

 

突如、剣姫を中心に風が吹き荒れる。

恐らくこれが彼女の奥の手。本気の姿。

風魔法は珍しいことではないが、空気抵抗による威力の減衰などが理由で使う者はすくなかった。使う者は精々が機動力の上昇にしか使わない。

しかし彼女は違った。

恐らく風による攻撃範囲の拡大、敵からの攻撃の防御、機動力上昇を主としたスキルだろう。

非常に珍しいスキル。

攻撃が更に加速、攻撃範囲は大きく回避はほぼ不可能、威力も上がると、まさに彼女のためにあるような魔法。

これから近接同士の戦いとなる。

こちらの不利は変わらず、けれども負けられない激闘だ。

 

「ここからが本番だ!!」

 

地面を踏みこんで駆け出す。

踏み込んだ地面に重量と衝撃が伝わり足が少しめり込む。構うことは無い。やることは1つ、殴って殴って殴る。叩く打つ押し潰す。それだけ。

圧倒的速さで加速する敵。最早剣閃を捉えることすら難しい。

しかしこの武装は盾の力も備えている。津波の如く襲い掛かる剣戟と風撃を凌ぎ、右手の手甲で弾き飛ばす。

打撃は敵に届く前に風の防壁で阻まれ、行き場を失う。

けれど、これで終わらないのが僕の進化した力。

 

「壁を貫け!!」

 

打撃部分に紋様が浮かび、刹那の中消える。

直後、打撃に触れることの無かった剣姫が大きく吹き飛ばされた。そのまま5m程離れた場所で体勢を立て直すと、剣をこちらに向けて構える。

剣姫は流石だな。もう今の魔法を理解したみたいだ。

僕の魔法そのものについてはまだ分かってはいないようだけど。

僕が使える魔法の1つ、名をマジックスタンプ。魔法名の通り魔法の刻印がその力を発揮する。

けれどこの魔法は、攻撃方法が多種多様な物だ。

例えば今のように攻撃が阻まれてしまう相手には衝撃を貫通させる手段を使え、回避能力の高い相手には打撃範囲拡大を使う。

攻撃に魔力を込め、そこに命令式を組み込めば魔法が発動するという仕組みだが、1つ欠点があった。複数の命令を与えると魔法が発動しないことだ。

しかしそんな複数同時に命令することはないので、あまり気にしたことはないけれど。

突風の如く、一瞬にして接近してきた相手は、今度は超近接での連撃を繰り出す。近くにいることで攻撃を避けやすくする狙いがあっての事だろう。凄まじい連撃に手甲は破損へと近づくが、反撃の隙すらない。けど僕が守ってばかりなことにだって理由はある。

 

「我が身護りし硬壁よ。護りの血傷に癒しの祈りを。護りの勇姿に栄光を。汝の痛み知る我が崇め、汝が為我が力を振るわん。癒しと栄光の輝きの前に、ひれ伏せ!!」

 

盾として剣戦を、壁として風撃を防いだ手甲が、光を放ち、輝きを現した。

美しき白銀は、まるで鏡のように全てを映し出している。

そこへ鋭い一撃が襲いかかる。一撃が白銀の鏡を傷付け、美を切り捨てる。誰もがそう思った。

しかし現実は違った。

剣先が鏡に触れる寸前、その勢いが消滅し、静止する。立て続けに風の猛攻が襲うが、風の刃は弾かれも、相殺もされず、白銀の中へと吸収されてしまう。

何が起きたか分からない、けれども危険であることは理解しているのか後退する敵。

攻撃が止んだことを確認し、防御の構えを崩し突進した。

手甲に白銀の煌めきはもうない。それを見て相手も再び剣を構えて加速する。

重撃の拳を振り上げる。その時に皆が知る事実。

破損寸前であったはずの武器が、まるで新品のように傷1つ無い状態に戻っていることを。

相手はあの魔法をこう思っただろう。武器修復魔法と。

確かにそれも間違っていない。効果の1つだ。しかし効果は他にもある。

 

「重打一撃壁を崩し敵を砕け!!」

 

先行する風の刃に手甲を振りかざした。

鉄の拳に深緑の刻印が浮かび、それは輝きを増して迫る風の刃を崩壊させるように消滅させ、衝撃と化して敵へと突き進んでいく。

衝撃の波が敵に迫る。寸での所で衝撃の波を回避した敵だったが、再び何かに吹き飛ばされた。

外野からは何も聞こえなくなった。驚愕に言葉も出ないのだろうか。

先程の魔法は「ミラーシールド」。消費する魔力は膨大な物だが、その分効果は大きい。

防御した魔法は吸収し一時的にその属性を武器に宿すことができ、物理的攻撃は反射された剣の威力で相殺される。

いわば一時的な無敵状態になれるのだが、精神力の損耗が激しく、万全の状態であっても1分は使い続けることのできない魔法だ。

使い時さえ見図れば逆転の一手ともなりえる。

巨人の一撃であろうと相殺でき、竜のブレスを吸収すれば消費魔力よりも吸収回復する量が上回りフルチャージされる。

魔力量の多いエルフでも1分と持たないこの魔法を人間が使おうがものなら3秒と持たないだろう。初めてこの種族で良かったと思える魔法である。

 

「っく」

 

しかし、別の事にも魔力を使っているので、この状況での使用はかなり苦しいものがある。

だがこんなチャンスを逃すわけにはいかない。

勝たなくては、勝たなければ、この怒りは収まらない。

 

「絶対に許さない!!」

 

大きく跳躍し、上空から落下速度を加速させ

 

「僕の――――」

 

大きく振りかぶって、

 

「僕の好きな人を、傷付けるなぁぁ!!!」

 

刻印が今までで最も明るく輝きを放ち――――――

着弾。

砲弾や爆弾でも爆発したのかと言う程の轟音と衝撃。

敵は間一髪の所でまともに食らうのを避けたようで、少しよろけたものの立ち上がる。

一方で僕は衝撃の中心にいたので、全身の打撲と精神疲弊寸前の状態。立ち上がることすら苦しい状況。

軋む身体と叫びのように脳から痛覚が体中を迸る。

立ち上がる僕い、グローリア様から拍手が送られる。やめてよ、まだ僕は戦える。まだ――――

 

「チェレン、もうよせ。お前の気持ちはよく分かった」

 

ジンが駆け寄ってくる。

ああ、そうか。僕は負けなんだね。

煮えたぎる血液から一転、急速に冷えていく血液。

崩れ落ちる足腰。薄れゆく意識。

僕は残る全ての力を振り絞ってジンに腕を伸ばす。けれど体を起こすだけの力もなくなり、倒れこむ僕をジンが支えてくれる。

意識が途切れる前に、これだけは言わなくちゃ。

最後の力を声に変えて―――――

 

「ジ、ン」

 

「何だ?」

 

優しい声音で尋ねるジンに僕は言った。

 

「負けちゃった。ゴメン、ね…………」

 

温かく優しいジンの温もりを最後に、ここで僕の意識は途切れた。

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