彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止)   作:双盾

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詠唱(技/スキル/魔法名)です。
ほぼ世界樹4から引用。一部SAOより引用。


対戦、狼

― side ジン ―

 

気絶したチェレンを抱きかかえてグローリアの近くの木陰にもたれさせる。

ボロボロの服装や切り傷打撲青あざ………と正に満身創痍のチェレンに小さくありがとうと言って再びロキファミリアと対峙する。

またもベート・ローガは見下すように言い放つ。

 

「ハッ、見ろよアイツ。絶対に勝つとか言っておきながらこのザマだぜ?」

 

アイツとは十中八九チェレンのことを指しているのだろう。

その言葉にグローリアは眉をピクリと動かしたが何も言わない。だが俺まで黙っている必要は無い。

溜まりに溜まった鬱憤を、少しばかりここであいつらも知らない事実を交えて教えてやろう。

 

「どっちがこのザマだ?レベル3如きにここまでされるそっちの方がよっぽどだと思うがね」

 

俺の放った言葉に【剣姫】と同期のLv5勢たちが固まり、Lv6勢は驚きの表情を浮かべる。

まさか同じレベルだと思っていたのならチェレンは素晴らしい戦闘センスの持ち主であると言うことで褒めてやらないと。

そんな彼らの表情を見て笑いをこらえるグローリアはホントにいい趣味してんなぁと思う。

 

「【崩帝】も【剣姫】までは勝てなかったと。まあレベルが2つも違うんだ。当たり前だな」

 

更に追い打ちをかけるようにレベル差の部分を強調して言うと、先程まで喜びはしゃいでいたLv5勢もお通夜のように静まり返ってしまっている。実の所俺自身も笑いを堪えるのが苦しくなってきた。

けれども相手が何であれ虐げて快感を感じる変態ではない俺はベート・ローガとの決闘に話題を移した。

アイズ・ヴァレンシュタインと入れ替わるように俺の前に立ちふさがる狼人の男、【凶狼】ベート・ローガに、出せる限りの殺気を向ける。

 

「お前には俺の誇りを汚した罪と家族を傷付けた怒り、ストレス発散の名目で相手してもらうぜ」

 

「俺がお前に負けるだァ?馬鹿言え。お前もさっきのエルフ同様にボロ雑巾みてぇにしてやるよ」

 

互いに武器を構える。

狼人、ベート・ローガは短剣2本を構えているが故にそれが相手の獲物と見えるが違う。短剣もまた高級な物ではあるが、敵の装備の中で最も金がかかりそうな装備は短剣じゃない。

そのブーツだ。

上半身装備はそこまでこだわりが見られないが、脛から足先を守るブーツだけはやたらと白銀の輝きを魅せている。恐らくは何かしらの特殊能力を持っていると考えるのが得策。

戦闘開始の声が上がり、お互いに加速した。

速度では相手の方が上。速度には自信があったが、やはりレベルの差は大きいな。あるいは装備による恩恵か。

棍を弓に変えて先制する。

けれども格上相手には威嚇射撃も足止めの働きすらしない。

ならばと小双刃に変形させ、手数で凌ぎ合う形としてみた。リーチが長いこちらは手数で一歩劣るが、攻撃範囲は重要なもので迂闊に近寄れない相手に接近する機会が多くなる。

けれどもお互いに切り込み回避しまた切り込みを繰り返す。膠着状態。徹底抗戦の構図とでも言うのか、状況は何一つ変わることなく、ただ時間と体力が消費されていくだけだった。

 

「チィッ、ちょこまかと!!」

 

「それはこっちのセリフだっての!!」

 

互いが機動性重視であるが故の状況。攻撃しても回避され、逆に攻撃されても回避が難しくないという戦いが10分ほど続く。

手数かリーチか。その2つの攻め合いは一進一退、距離を一歩詰めれば次の瞬間には一歩引いている。

けれどもレベルによる差が俺を劣勢へと追いやり始める。

勝利を見たような獰猛な笑みを浮かべる敵。

一進一退は、一進二退に、一歩詰めよれば3歩下がり、と後退が多く目立つようになってきた。

このままズルズルと戦いが長引けば先に負けるのはほぼ確実に俺。

状況を変える為に少し動きをみせようか。

槍へと変形させて、リーチ特化へと変わる。

 

「我は血を贄に荒れ狂いし力欲す物。血盟においてその力を借り受けん!!(ブラッドウェポン)」

 

こぉっと薄ら赤いオーラが体に纏わりつく。

そして立て続けにもう1つの詠唱を始める。

 

「流れし鮮血、地に消えることなく、戦激化せし刃となりて、彼の者を切り裂かん!!(血の暴走)」

 

今度はドス黒いオーラが体に纏われる。

これで、俺へと風向きは変わる為の土台作りは終わった。

後は前哨戦が一区切りつくまで耐えるだけだ。

 

「ハッ、魔法でどれだけ強化しようが、俺に勝てると思うなよ!!」

 

振りかざされる双振りの短剣が襲いかかるが、俺は同じように刃の襲撃をいなしていく。

そして、明白な変化を相手に見せつけた。

 

「なっ!?」

 

双振りの短剣のうち、右手に持っていた方の短剣を弾き飛ばしたのだ。

弾き飛ばされた短剣は、かなり刀身が傷付き刃も欠けはじめている。

そして動くたびに肌の表面に小さな切り傷が生まれ、血飛沫を上げていく。そしてその傷口の血が独りでに蠢くのだ。その光景に周囲は恐怖の一種を抱く。

これは巨大な樹の迷宮の近くの街で出会った青年から情報を得たものだ。

行動する度に体が傷付く代償を払って身体能力を上げる『ブラッドウェポン』と、自身が傷付いた時に一定確率で敵に応戦する『血の暴走』。この2つで威力と手数を増やして戦う。

 

「クソが!!ナメた真似しやがって!!!」

 

ナメているつもりはないのだがなと返すとベート・ローガは更に激昂し、攻撃を激化させてくる。武器の扱いも乱暴になって来るので、武器破壊がかなり簡単になったと思っていることに相手は気付いているだろうか?

ふと時計を見る。既に15分が経っている。

ここらでもう一変化加えてみましょうか。

槍を構える。

 

「我が分身でありし魔槍よ!宿せし霊圧よ!時を歪め、彼方を穿て!!(ディレイ・チャージ)」

 

槍を投擲するように撃ち放つ。

しかし鋭突が相手に届くことはなく、槍が手から離れることも無い。

 

「猫騙しなんて効くかよ!!」

 

「じゃぁ犬騙しは効くのかワン公」

 

「犬じゃねぇ!!!!!!」

 

おおう。中々弄り甲斐のある奴だな。

うちのチェレンも弄り甲斐はあるがまた違った方向で弄り甲斐のある人材が、俺を怒らせた相手であるのが悔やまれるが、嘆いていたって結果は変わらないのなら最善を尽くそう。

剣を弾いて身体から生える血の刃で追撃。

相手もそれなりに消耗した所で槍が何かと共鳴し振動する。

頃合いか。

距離を取って矛先をベート・ローガに向けて、詠唱を始めた。

 

「矛先集え、散りし鮮血、死霊の残影。宿せし力は時を経て、練られし霊撃この槍身に纏穿(ルセン)の一撃を!!(クロス・チャージ)」

 

ダン!!と爆音を立てて突進する。

コォォォォと呼吸音のような音を立て、何かを吸い込む穂先。切先の周囲は歪みが発生し、紫電が迸る。

低い吸引音が途切れた。瞬間、穂先に煌めきが宿る。

共鳴最大、時に練られし一撃を放つ。

最高速の刺突を回避することは許されず、短剣で穂先を弾くようにして軌跡を逸らそうとしたが、穂先が纏う霊圧が触れることなく刀身を砕く。逸らすことすら敵わぬままに迫る矛先。

死の危険を知らせる警笛がこちらにも聞こえるようだが、普段は忌々しいその音も、今は気持ちを昂らせる。

このまま穂先が相手の脳を貫き体を引き裂いてしまえたら。怒りの精神が槍を推し進める。俺はそれを止める気は無い。時の流れが緩やかになり、その表情や伝う汗の1つ1つが詳細に見て取れた。

一瞬の判断の遅れが招いた死。それに恐怖せずに死ねるのは覚悟の有る奴だけだ。

しかし覚悟を持つ者でも、知らぬ間に死の淵を覗き込んでいることはある。例えそれが歴戦の猛者であったとしても、恐怖せずにはいられはしない。

恐怖に怯えた表情の狼もまた乙なものだ。

 

「死に呑まれてしまえ」

 

そう告げて槍を推し進めた。

そのまま穂先は、ベート・ローガの額を穿つ―――――ハズだった。

けれど現実は、ベート・ローガの頬を掠めるだけであった。

全速力での突きが不発に終わり、徐々に減速するもののそれでは背が狙われてしまうと、共鳴する力を前方に解放してその力で減速を加速させる。

今度は俺が驚愕する番であった。

 

「何を隠してやがった?」

 

「俺が知らんことを聞かれたって分かる訳ねぇだろうが」

 

本人が最も驚いている。

しかし今はまだ戦闘の最中。呆ける敵は好機の塊。けれど俺を驚かせたこのに報いてしばしの時間を与えよう。無論、何もせずに待つだけではないが。

 

「Ek fylla heilaqr austr brott sudr bani(我は満たされる、聖なる水、冷たい死を遠ざける)」

 

唱えると体が薄緑の光に包まれ、流した血や無数の傷口さえも回復してしまう。

続けて別も詠唱も行う。だが相手も流石に気付き、詠唱を中断させようと攻撃を仕掛けてきた。

 

「全を悟りし武士の民、戦場を常とし我が身鑑みることなくして先陣を切る戦神の末裔よ!勇猛なる精神を我が身に宿し、場を打開せし力を!!(武士の悟り)」

 

金色の輝きが体を這う。手足から腕へ、そして胸元で光は凝縮し、刻印を成した。

ここで微かに冷静を取り戻したベート・ローガが尋ねる。

 

「オイオイ、お前はどれだけ魔法が使えるんだよ。3つどころじゃねぇよなぁ」

 

「バレちったか。いいだろう。教えておこう。俺の持つ唯一の魔法スキルのことを」

 

「いくつも使っておいて唯一なわけねぇだろうが!!」

 

鋭い蹴りを受け流して後退、距離を取って武器を投げつけた。

投擲した槍は躱されてしまったが、そこから相手が加速する頃には俺の手にエペタムが握られていた。

 

「久々の登場だァ!!暴れさせてもらおうか!!」

 

狂ったように叫ぶエペタム。ここしばらくは使う機会が無かった故に本人も力が滾っているのだろう。

そんなエペタムの事を無視して火花を散らしながら説明をしてやる。

 

「俺の唯一の魔法『メモライズ』。これは、俺が何らかの形で記憶した技や動きを再現することのできる魔法。他者の使う魔法スキルも再現できるぜ?」

 

ここだけ見ればほぼ最強のスキルだろう。

だが、何事にも欠点がある。

 

「魔法スキルの再現には通常の倍の魔力がかかるが、再現精度は半分以下程度のものだが」

 

例えば【剣姫】の使う風による強化魔法『エアリエル』。あれだって再現はできるがあれの利点である性能と消費魔力のバランスが取れず、すぐに精神疲弊を起こしてしまうだろう。

燃費が悪化するくせに精度は似ても似つかないような代物。まったく意味を成さない。

だから実質的に再現できるのは、体術などの魔力を使わない物と、肉体強化に関する物だけしかない。

体術であっても完全な再現はできない。魔法よりも精度は高くとも完全ではない。それでもいいのだ。

世界中で様々な技を記憶し、それを戦場で再現したとしたらどうだろうか。

未知の戦式に対処ができず、強くなり続ける相手に戦意を削がれる。

これが俺の戦術だ。

 

「ケッ、厄介なモンだな!!」

 

この情報を知って尚も相手は攻撃の手を緩めない。

それどころか更に加速し攻撃を続ける。

やはり俺をレベル3だとナメているのか。

確かに俺はレベル3だが、ダンジョンに潜らずしてここまで辿り着いた対人のプロフェッショナル、極みに限りなく近い存在だ。レベルという圧倒的な差であっても、それを経験と盗んだ技術で乗り越えてきた。ならば俺は、この程度の敵に負けるはずがない!!

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「おっ?いつになくやる気だな、我が契約主サマは。なら俺も本気出してやるぜ!!」

 

ねっとりと絡みつくような悪寒がエペタムから発せられるが今の俺には関係ない。

嵐のような剣戟をいなしてより近くへと近接する。しかし二刀流ではない故に手数で押し負ける。動くたびに増える切り傷が完治した体を痛めつける。流れ出る血液の量もまた傷の量に比例して多くなり、視界が朧気になる。

弱ってきた俺に迫る刃すら見ることが難しくなり動きも鈍くなる。

ロキファミリアの者もこれで終わりだなと確信している。

 

「俺より弱いやつをいたぶるのは好きじゃないんでな、これで終わりにしてやる!!」

 

この戦闘が始まってから最も早い剣閃。せまる刃はもう見えていない。

回避することもせず、武器で防御することすらしない。

必死に呼びかけるエペタムの声も、グローリアの表情も、何も聞こえない。

血を流し過ぎたか。もう手遅れ――――――

 

「――――じゃない!!」

 

エペタムを構え直して剣戟の1つを受け流し、残る一撃は短剣を握る腕に蹴りを入れて軌道を逸らす。もはや感覚でやってのけた反抗。

立ち上がるが左右に揺れるようなこの状態で、俺は詠唱を始める。

無謀だとエペタムが言う。

確かにその通り無謀な挑戦かもしれないが、この勝負に勝機を見出せるのなら、それに賭けてみよう。

 

「散りし鉄火、風に舞う」

 

喉を狙う短剣の刃。

 

「生命の灯、薄れた熱は燃ゆる物無く、虚無へと進む」

 

追撃する刃は胸元へ。

 

「舞う鉄火闘志を熱せ」

 

構える漆黒の刀身。

 

「死境を脱せし烈火を我が身に!!(獅子奮迅)」

 

詠唱を終えると同時に刃を交えた。




しばらく更新が途絶えます
職業上の都合で忙しくなってきたので
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