彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
「っ!!」
頬を撫でる暖かな日の光を感じて飛び起きた。
日の高さからして午前の9時といったところだろうか。
「ッチ」
かけられた布団を見て、チェレンの入室を知る。
ベッドから体を起こして扉を開けると、食欲をそそられる匂いが鼻孔を擽る。
階段を下りると、足音で気付いたのか調理場でフライパンを振るっていたチェレンが俺を見る。
「おはよう、ジン」
「おはようだチェレン」
混じりっ気のない無邪気な笑顔を直視することなくテーブルと同じ素材で出来た椅子に座る。
テーブルの上には、食器に綺麗に盛られた食事。色彩鮮やか栄養のバランスも取れている。
「フフン、自信作なんだぁ。ねね、感想は?」
「見た目はいいと思うぞ?食ってないから味は分からんが」
「そだね。じゃあ食べようか」
最後に皿に盛られたのは卵を焼いただけのシンプルな料理だ。
視覚嗅覚共に食欲を刺激し、はよ飯よこせと言わんばかりに俺達の腹の虫が唸り声を上げた。
「いただきます」
「いただきます」
俺達は同時に食事に手を付けた。
まずは卵焼き。いや、正しくは目玉焼きなのだが言葉通りの物を想像すると折角の食欲が失せてしまうので卵焼きで通すことにしよう。
白みを箸で切って一口大にして口に運ぶ。
薄い味の白みには、気付かなかったが塩が振ってあったようで、程よい塩辛さが更に箸を進める。
「そんなにおいしかった?」
ニコニコしながら俺を見てそう聞くチェレン。
俺は
「ん、いい塩加減だ」
素直に思ったことを返すと、目の前の青年は子供の用にやったと喜ぶ。
俺達の箸は止まることを知らず、更に速度を高めていく。
が
「んむぐぅ!?」
「何だ、喉に詰まらしたのか。これでも飲んどけ」
水入りのコップを手渡すと、チェレンはそれを勢いよく飲み干した。
大きく息を吸って呼吸をするチェレンに、はぁぁと溜息をもらす。チェレンはテヘヘと、ミスっちったと言った表情で苦笑い。
「はぁ、こんなことで死にそうになってるんじゃねぇよ」
「いやーまさかここまで美味しく感じるとは」
「実際にお前の腕は確かだろう」
「最近は干し肉とかパンばっかりだったから猶更美味しく感じるんだろうね」
荷車での生活では食糧も最低限しか配られず、その食糧も日持ちする干し肉と集落で購入したパンだけだった。そんな生活からの解放感と元々美味しい食事を食べれば相乗効果で最高の味に感じるのも無理は無い。
「これからはお互いに忙しくなるな」
「だね」
この街で生きていこうとするのならまず金が要る。ほとんどはチェレンが払っているが、いつまでもそれに甘えているようでは対等な関係には慣れない。
チェレンは将来、冒険者や探検者などの身体を使う仕事をする人間を直接支える為にと、薬学や魔術、戦闘術から鍛冶までもを熟している。それに比べて俺はどうだ。戦うしか能の無い無能になるつもりはない。
「早速だが、俺は今日からダンジョンに潜ることにした」
「へぇ、がんばってね」
「お前も、頑張り過ぎて倒れるなよ」
「モチのロンだよ!」
コツンと、軽く拳をぶつけ合う。
空になった食器を片して俺は家を出る。
その時、後ろからチェレンが声をかけてきた。
「行ってらっしゃい」
「行ってくる!」
声高らかに応答して家を飛び出した。
そして俺は、またも大切なことを忘れていた。
「ダンジョンってどこだ?」
地図もなく、土地勘も無い。来てまだ24時間経っていないのだ。
くっそぉ、案内できそうなやつはいないのか?そう思っていると背後から少女の声が聞こえた。
「お兄さん、お兄さん。黒髪のお兄さん」
「誰だ?」
「初めまして、お兄さん。突然ですが、サポーターを探していませんか?」
サポーター?何だそれ?といった表情をしていたのだろう。俺の顔を見た少女は、そのサポーターというものについて簡単に説明してくれる。
「サポーターが分からないんですか?サポーターとは、冒険者のアシストを主とした職種のことですよ」
「ほーん、なるほど。そいつは便利だな」
「サポーターをお探しで無かったとするなら、待ち人でも?」
「いや、案内役が欲しかったんだが………そうだお前、報酬は弾んでやるからダンジョンとやらまで案内してくれないか?」
この際だ。金払ってでも場所を教えてもらおう。
そう思っていたのだが
「そんなことでしたら、報酬はいりませんよ。さ、こっちです」
大きなバックを背負った少女は俺の前を行く。
俺はその大きな目印についていく。
やがてやたら重装備な冒険者が群がっている場所に辿り着いた。
「ここがダンジョン入口です」
「おお、ありがとうな。いくら欲しい?2000か?3000か?」
「案内程度でどうしたらその値段になるのかは疑問ですが、いりません」
あれ?おっかしいな。他の街の案内人は5000とか6000とか取っていったのに。もしかして騙されてたのか?………気にしてはいけない。俺の心が痛む。
しかしながら何か、金じゃなくとも何かしてやりたいのだが………そうだな。
「ところで譲さん。冒険者をお探しで?」
「ええ。まあいつもの事ですし」
「なら俺がお前の雇い主になってやるよ」
「!!そうですか。では今日はよろしくお願いします………えっと、失礼ですが名前は」
「言ってなかったか。ジンだ」
少女は俺の名を何度か反復し、顔を上げた。
「ではジン様。今日はよろしくお願いします。私、リリルカ・アーデと申します」
「ん、よろしく頼むよアーデ君」
俺達はダンジョンに潜った。
最初俺は、ダンジョンと言うのだから危険なモンスターでもいるのかと思っていた。
入り口前にあれだけ重装備の男たちがいたのだから、ドラゴンやケルベロスくらいの凶悪なモンスターがわんさかいるんだなとおもっていた。しかしそれも最初だけの話で、入って30分後には失望の目に変わっていただろう。
「何故にこうも雑魚ばかりなんだ」
「いや貴方がおかしいんですよ」
俺達は8階層まで来ていた。
ここまでの階はゴブリンなどのスライムレベルの雑魚しかいなかったのだ。
「今日のノルマはどんくらいまで溜まった?」
「もう既に3分の1は終わってます………」
「何だ、給料そんなに安いのか。もうチョイ稼ごうぜ?」
「いや来て2日目の新米はいきなり8階まで来ないですから」
………………
「そんなもんか?」
「そんなもんです」
………………弱!?
まあ新米はもっと弱い装備で、戦い慣れても無いのだろうから仕方がないといえば仕方がないのかもしれないな。
「ならここら一帯の敵を殲滅したら次の階層いくか」
「ハァ、貴方は一体何者なんですか………」
不味い物を拾ってしまったみたいな目で俺を見るのをやめてくれ。俺はそんな扱いされたくない。そもそも絡んできたのはアンタからだろうが。
そんな恨みがましい視線を送ると「何か?」と威圧たっぷりの言葉が返ってきたので「何でもない」と返して、砂利のように群がるキラーアントを殲滅していくのだ。
「で、今日はあとどのくらいでノルマ達成だ?流石に昼飯無でこの時間まで粘ったんだ、一旦食事を取にもどりたいんだが」
「………もうとっくにノルマは達成してます。それも既にノルマの2倍の戦果………」
現在10階層。弁当を持ってくるべきだったと本格的に後悔をし始め、腹の虫も怒り狂っているような時間帯。戦果を聞くとノルマの倍だというではないか。誰だよここまで粘ったヤツは!!…俺だった。
何で俺はもうチョイ稼ごうぜ?何て言ってしまったのだろうか?後悔は後から悔いると書くが、本当にその通りである。
「戻るか」
「ですね」
無理は禁物。油断大敵。慢心はダメ絶対。
帰りは空腹で極限状態となっており、気付いた時にはすでにダンジョンの外だった。
その後、リリルカ・アーデが換金をしてくれたらしく、その金額を報告してきた。
「3万ヴァリスでした。初心者が初日に稼ぐ金額とは思えないですね」
「3分の2はくれてやる!!。一刻も早く飯を食わせろ!!」
「え、あ。ちょ、待ってくださいよーっ!!」
俺は良い匂いがしたと言う単純な理由で酒場『豊饒の女主人』に昼間から突入した。
店員は皆驚いていたが、店長とエルフの店員は驚きを見せなかった。
「おやおや。何にするんだい?」
「貴女の自信作を3つ、お願いしたい。値段は気にしないでくれ」
「あいよ!ちょっと待ってな」
しばらくの間の後、厨房から調理の音がきこえてきた。
そして更に少ししてから、アーデがゼエゼエと息を切らしながら到着した。
「は、早すぎですよジン様………」
疲れ果てた身体、うっすら上気した頬、そして息切れ。ここが宿屋だったらそうとうな勘違いと間違いを犯しそうな彼女だが、ただ疲れているだけである。
しかし俺の耳には入っていない。
アーデは俺の前の席に座って俺に話しかける。
「最も重要な報酬の話で飛び出すなんて、しかも半分以上も置いて……今度ダンジョンへ行く時は昼食を持参するか午前と午後で分けて活動するかを考えておいた方が―――――」
「はいよ。私の自信作3つ、作ってやったよ」
「ありがとうございますいただきます!!」
俺は一心不乱に皿に盛られた料理を食していく。
美味しいのに飽きのこないこの料理が、店長の自信作だというのを改めて実感した。
気付くころには皿に盛られていた料理は綺麗に跡形もなく無くなっていた。
正気を取り戻した俺を見て、目の前に立つ店長は笑う。
「アンタ、良い食べっぷりだったねぇ」
「そんな?」
「ええそれはもう猛獣の如く」
そんな所を見られてしまったのかと思うと恥ずかしかったが、目の前の店長はそれを馬鹿にするようなことはしなかった。
「最近はアンタみたいな食べっぷりのいい男が増えてきてアタシは嬉しいばかりだよ」
「あ、アハハハハ………」
乾いた笑いしかない。
「さて、アンタらはアンタらの話があるみたいだし、あたしゃ引こうかね」
「すいません」
「勘定はあとでたっぷり貰うからね」
「うっす」
空になった食器を持って店長さんが下がると、目の前で話を遮られた少女ことリリルカ・アーデは、毒薬調合師ならだれもが知っているフグのように、ふくれっ面をしていた。
が、俺は見逃さなかった。
彼女の口の端からよだれが垂れかかっているのを、しっかりと捉えていた。
すると彼女はふくれっ面から瞬時にしまったというような表情になる。
「くふふっ、注文いいですかー?」
「えっ、ジン様!?私は別に」
「いいのいいの。迷惑料だと思っといてくれ」
リリルカ・アーデは終始困惑していたが、結局来た食事が無駄になるぞと唆すと渋々ながらに食べ始め、最終的には俺と同じように一心不乱に食していた。それに気づいた彼女は顔を真っ赤にして俺を叩いてきた。地味に痛い。