彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
「それでは、お互いの取り分の話ですが」
「ん?ああ、いくら欲しい?俺は1万でいいんだが」
この店ではかなりの出費をしてしまっているが、それでも1万あれば十分足りるだろう。
「初日ではそこまで稼げないかもしれない」と家を飛び出した時にあった心配は、今では「これなら明日は2倍を目指せるんじゃないか?」という楽観に変わっていた。
リリルカ・アーデもまた同じようなことを考えていたのか、断固として3分の1以下で良いと言って譲らない。
まあ明日もあるし、ここは俺が折れようと考えた。
「分かった。今日は俺が3分の2でいいか?」
「はい」
「じゃぁ明日もよろしくなアーデ君」
「あ…はい!」
差し出した手に少し戸惑いを見せたが、すぐに笑顔を浮かべて俺の手を取った。
「でもアーデ君は止めてください。私の事はどうぞリリとお呼びください」
「分かったリリ」
小さく柔らかいその手を、優しく握った。
「それで、明日からはどうしますか?」
「うーむ、ハッキリいうとあそこじゃ温いんだよなぁ」
ダンジョンの始めの方はかなりの雑魚しかいないようだ。
敵が弱ければ入手できるアイテムなどの質も低く、戦果も低い。ましてや大金など稼げるはずもない。
更に奥へと進まなければ質も戦果も上がらないなら、進む他無いだろう。
「私としてはジン様がどれくらいの強さなのかが分からないのでどれくらいの階層まで行けばいいのか分からないんですが」
「わかった。明日は行けるとこまで行ってみよう」
「では、その為にも今から買い物に行きましょう」
何を買うんだと聞く。寝袋やランタンかと思っていたのだが、彼女の答えは違った。
「悪臭袋や煙幕は持っていくべきです。特に、奥まで行く場合は」
「なるほど。モンスター避けや戦闘離脱道具か」
「出来れば閃光弾とかも有ったら欲しいんですけど、ここでは殆ど流通してないので諦めます」
閃光弾か。
確かにここらではもう殆ど無いな。流通していないというよりも、作る技術も持った者がすぐに他のファミリアに引き抜かれていくというだけなのだが。
そういえばあの商隊に有ったような気がするが……
「閃光弾はまああったら買ってくる」
「はい、こちらはこちらで2人分の野宿道具をそろえますので」
「頼んだ。明日は午前7時に噴水前で」
「わかりました。では、今日はここで」
お互いに手を上げて、明日またとの意を伝えあう。
リリは先に店を出たが、俺は酒場に残った。
まだ勘定が終わってないからだ。
俺は最も近くにいた店員、掃き掃除をしていたエルフの女性に声をかけた。
「……………」
「どうかしましたか?」
「いえ、大抵の男性はよく体に触れてくるので、少し驚きました」
「それは俺が下心を持って貴女を呼んだと思っているということかな!?」
「そうです」
一刀両断。
まさにバッサリと、俺の質問にYESと答える。それも澄ました顔で、まるでこんな状況慣れていると言うように。リア充め。
確かに彼女はエルフの中でも美人に入るほどの女性だが、俺はそんな不潔な男になるつもりはない。
「エルフが心を許した者以外の接触を嫌うのを知っていますから」
「…更に意外でした。ところで、ご用件は何でしょうか?」
「ああ、お勘定。いくらだ?」
彼女は箒を一旦手放してこちらに近寄る。テーブルを確認し、料理の値段の合計を口頭で伝えた。
「2800ヴァリスです」
「こいつで」
「…私には2800ヴァリス以上の金額に見えるのですが」
ならアンタの目はおかしくなんかないさ。この袋は5000ヴァリスの金貨が入っているのだから。袋にも「5000V」って書いてあるだろうから、見間違える人の方が少ないだろうけど。
ほぼ倍額の金額の袋を渡されても澄ました顔をする彼女だが、声は困惑を隠せていない。
「納得できないのなら…そうだな。1200は店主の料理が美味しかったってことと、残りは美人なエルフさんと話ができたからでどうです?」
「…後者は理解できませんが」
少しでも理解していただけたなら上々だと思っていたので、前者だけでも理解した様子を見せた店員に、笑顔を向けて店を出た。
その間際に、こんなことを、言い残して。
「また来ます。美味しい料理と美人な店員さん達に会いに」
豊饒の女主人を出てまず最初に向かったのは、冒険者登録をした場所(ギルドと言うことを初めて知った)だった。この街での買い物をしたことが無いので、場所を聞こうと思っての行動だ。
そこにはやはり以前対応してくれた従業員がいて、以前と同じように書類に向かっているのだ。
「ども」
「あ、ジンさんですね。今日はどういった要件ですか?」
しかし今回は空気が違った。正確には俺の名前を従業員が口に出した瞬間だ。
俺はここに来てそこまで大きな問題は起こしてないはずなのだが……………
けれどここに来た目的はこの空気について聞くことじゃないとして特に気にすることなく本題を切り出した。
「長期間の探索になりそうで食料を揃えたいんだが、どこへ行けばいい?」
「食糧の調達ですね。でしたらバベルの9階が食品取扱専門階になっておりますので」
「ありがとう、早速行ってく―――――」
「おいお前」
俺の言葉を遮る声は、俺より低く、喋り方もまた記憶の中からヒットする者は無かった。用は赤の他人ということだ。
声の主を目視すべく振り返る。
そこには中軽量装備のやたら目付きの悪い男がいた。やはり顔に見覚えは無い。
「お前、ジンとか言ったか?」
「人違いじゃねぇのか?それにもし仮にそうだと言ったら、どうするつもりなんだ?」
「ハッ、決まってんだろ」
目の前の男は腰からサーベルを抜刀し、俺の首に当てる。これに辺りはざわめきの波紋を広げたが、男は後悔する様子もなく、続けてこう言い放った。
「噂の偽善神の眷属サンと戦うのさ!!」
「噂?」
もしかして俺知らないうちに何かやらかした?何て一瞬思ってしまったが、初対面で勝負を仕掛けられるような事件を起こした覚えは無い。つまりこれは俺の所為じゃないということだ。
そして次に気になった単語、偽善神?これについては夜の酒場で情報を収集しよう。
それよりも―――――
「遅い」
「あ゛あ゛?」
「サーベルの抜刀時の速度が遅いと言ったんだ。余計な力が入り過ぎている。無暗に力を入れても剣が痛むだけだ」
「テメェ、ナメてんのか?」
おや、挑発したつもりはなかったのだが、どうやら相手は挑発と取ってしまったらしい。
こちらとしては指摘しただけのはずだったのだが、余計な問題を引き起こしてしまったな、何て考えつつもどうやってこれを解決したものかと思考を巡らせていた。
「いいだろう。円形闘技場に来い。そこで見せてもらおうじゃないか」
「いや、明日から忙しいから今日で」
「ッチ、じゃぁ今晩だ」
ふむ、どうしてもといった感じだな。
突然絡んで来たり一方的に戦いを押し付けてきたりと忙しい奴だなぁ……………
それはともかくとして、だ。決闘を申し込まれたんだ。受けて立つのが粋ってもんだろう。買い物は手短以上の速度で終わらせた方がよさそうだ。
「まあ改めて行ってきます」
「あ、ハイ。いってらっしゃいませ」
未だ動揺していた従業員を我に戻して俺は飛び出した。
確かバベル9階だったな。
金はきっと足りるだろう。武器じゃあるまいに。
前回と同じように屋根の上からあの巨塔『バベル』へと猛進する。
「とぅっ」
今度はめぼしい人気のない場所が無かったので、街灯を踏んでそこから更に遠くへと跳躍し、直接内部へと飛び込んだ。
エレベーターの行き先を9階に指定し一直線に上昇していく。
チーンという音と共に扉が開いて食材ばかりの階層へと到着した。
人は少ないだろうと思っていたが、案外いるものだなというのが最初に思った率直な考えだ。冒険者はいないが、女性客が多い。その中には豊饒の女主人で見た顔があったが、あえて声はかけないでおいた。
「さて、長期保存且つ常温保存可能な物はないかな」
「おや、貴方は」
「うん?」
声を掛けられて反射的に振り向くと、先程見つけた豊饒の女主人の店員がいた。
「貴女は豊饒の女店主の………」
「シル・フローヴァです」
「ああ、ジンです」
どうやら無難にやり過ごすつもりであったが、まあ問題は起きなさそうだ。
安心して会話ができるとここで気を抜いてはいけない。戦闘においても、会話においても、一瞬の気の緩みが命取り。戦闘では文字通り命が消え、会話では縁が消える。人脈が1つずつ減っていき最後に0になる。俺の実体験だ。
「ここにはどのような用事で?」
「明日からちょっとダンジョンに潜るんで」
「食糧ですね。なら、あの棚に長期で離れるときに使う食糧はあります」
ここに何度も来ているのか棚に置いてあるものに詳しい。
やはりツウの情報収集能力はありがたいな。
あ、そういえば――――
「今晩もう1度酒場、行くことになると思うので、店長さんに言っておいてください。自信作、期待してますって」
「はい。わかりました」
ニコッと愛らしい笑顔で了解と言う彼女を見て、必要な物を買うべく棚に向かう時、彼女が声をかけてきた。
「そういえば」
「はい?」
「リューの事が好きなんですか?」
この女、超素直というか、遠慮が無いと言うか……………
それにどうして恋愛のことになると、女という生き物はしつこくなるのだろうか。いや、男でもウザくなるものはなるのだが。
まあここは素直に言っても損はなさそうだし、精々口を滑らせたところで俺の後悔と黒歴史が増えるだけで済むのならば、彼女が何かしらの起点を聞かせてくれると言う可能性という大きすぎる得があるのだ。言った方が得と言うものだ。
「そう、ですね。とても綺麗で魅力的な女性だと思いますけど」
「ハッキリと!どうぞ!!」
「好き、なんでしょうね」
「おお、言った!」
アンタが言わせたんだろうが。何て心の中で悪態を吐く。
すると目から笑みが消えた。
女には読心術でも使えるのか!?
「まぁ、僕は彼女に相応しい人ではないんですけどね」
「そうでもないですよ?」
「何か?」
「いえ?」
聞こえていたのだが、極東で購入したライトノベルなる小説の中で良くあった言い回しを実践してみる。案外使えるものだな。
必要なことは言い終えた訳だし、さっさと食糧を調達せねば。
「とにかく俺は食糧を購入するんで」
「そうですか。店長に伝えておきます。もちろんリューにも」
「変な気を回さなくていいですから」
彼女にそれだけ言って目的の物の並ぶ棚へと向かった。
俺が振り返るとまだ彼女は俺に手を振っていた。
やはり恋とは、人を惹き付ける何かがあるんだろうか。
「(考えるだけ無駄か)」
棚に向かって歩く。
かなりの種類があるなぁ。
よく使う干し肉や塩、油なんてものもあれば、水をかけるだけで瑞々しくなる葉物なんてものまである。
更には人体に影響なく使える防腐剤なんてものもあった。
「(案外楽しい)」
柄にもなく、ドキドキワクワクと言った子供心が疼いてしまった。
恥ずかしい。