彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止)   作:双盾

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どうも口調が安定しないです


探索

決闘が終わり、シュルツは自らのファミリアのホームへ、俺は酒場「豊饒の女主人」へと足を進める。グローリアの「偽善神」などの単語の疑問は解決されたが、シル・フローヴァに行くと伝えてしまったからには行くしかない。…それに自分が相応しいとは思わないが、エルフの店員さんにも会いたいと思ってしまっていた。

彼女には俺なんて相応しくないだろう。

血塗れの過去、今でも消えない復讐の炎、弱者への同情からなる偽善……

最早人とも見られる資格なんて無い俺如きが彼女に思いを寄せることすら本来は許されないものなのだろう。

下がる一方の気分とは裏腹に、酒場に近づくにつれて周りは騒がしくなっていく。

 

「ありがとうございましたー………あ!」

 

店内で飲食を終えた冒険者を店から出し、その見送りをしていた店員が俺に気付いた。

俺もその店員を見た。銀の髪を後ろで1つに結わえられ、無邪気な笑顔を振りまく彼女はシル・フローヴァ本人で間違いないだろう。

こちらに向かって大きく手を振り回している彼女は、必然的に視線を集め、その視線の先にいる俺もまた視線を浴びてしまう。目立ちたくは無いからと気配を消していたのに彼女に気付かれただけでここまでの苦労が水の泡と化してしまった。

 

「こんばんは、フローヴァさん」

 

「シルでいいですって。1名来店ですー!」

 

「食事をしに来た訳じゃ――――って聞いてないし」

 

強引にカウンター席に座らされ、どれにしますか?などと愛らしく聞く彼女に面倒なことになったな何て思いつつ、コスパな料理と飲み物を注文すると、もっと注文してくださいよーと文句を垂れる。とことん財布を狙ってくる女だな…けれど余計な出費は避けたい故に断固として引く姿勢を見せないでいると、向こうが先に折れた。

店内は冒険者で大いに賑わっており、相当稼いでるなと思ったがここでは働きたくなかった。汗や血、料理や酒の臭いが混ざり合い、人ごみ酔いと同じような感覚に陥る。

すると料理が完成したのか店員が料理を運んできた。

 

「ありがとう」

 

「…意外ですね。貴方が感謝を素直に言うなど」

 

「ん?」

 

俺は気付かなかったが、料理を運んできた店員はあのエルフの店員だった。

 

「ああ、昼間の。申し遅れた。俺はジンだ」

 

「…リュー・リオンです」

 

やはり初対面…ではないか。2、3回顔を合わせただけの相手は警戒対象か。

必要以上に近付かず、すぐに防御できる体勢にしている彼女を見て、相当の力を持つ冒険者、あるいはハンターだったのだろうなと思ったが、それと同時に何故そんな人がここで働いているのかを疑問に思った。

しかし目の前に置かれたスパゲティと飲み物の香りに脳内を占領される。

 

「あ、店忙しいでしょう。引き留めて悪かった」

 

「いえ、こちらの落ち度でもありますから。失礼します」

 

エルフの店員、リュー・リオンは足早にその場を立ち去って、次の料理を運んでいく。

さて、と。俺は彼女の心配ばかりではなく、俺自身の心配をしなくては。目の前に置かれた明らかに注文した量よりも多いスパゲティを完食しなくてはならないのか。小腹が空いた程度の今の状態で完食はムリだろとも思ったが、リオンの運んできた物だと考えればより美味しく感じると言う物。

意を決して、食しにかかった。

 

「!!」

 

驚いた。

スパゲティのソースが、濃過ぎず薄すぎず絶妙なラインを保ち、程よく麺に絡んでくる。麺も、麺自体の味を損なわず、且つ触感も残っている。酒場で高級食材なんぞを使うはずがないと考えると店長の技量でここまで美味しくなるのかと思い、感動した。

 

「(これを、アイツらにも食わせてやりたいな)」

 

ここから遠く、地平線の遥か彼方の集落の子供たちを思う。

けれど俺にはここまでうまくはできないだろうな何て思ったりもして悔しさくなったりもした。そしてできっこないさなんて思う自分に腹が立った。

そんなこんな様々な考えを巡らせていると、気付けば皿の上は空になっていた。やはり食の力は計り知れないな。

 

「さて、出るか」

 

適当に店員を呼んで、勘定を済ませて酒場を出ようとした。出る間際、リオンと目があったので、最高の笑顔を送ってやったが、何事も無かったかのように澄ました顔で無視された。

明日に備えて、早く寝るか。

家に帰ると、チェレンに決闘の事を散々質問され、結局寝るのはその2時間も後であった。

 

 

 

 

翌朝、家を出た時間は午前6時50分ここから走っていけば集合時間には噴水前についているだろう。

屋根の上を滑るように走り抜け、噴水前に到着した時間は56分。

しかしそこには既に大きな荷物袋を背負った少女が居た。

 

「おお、はやいなリリ」

 

「ジン様こそ。閃光弾の方はどうでした?」

 

「ほれ」

 

手提げ袋を投げ渡す。リリは中身を見ると驚いた様子を見せた。

何かおかしなものでも入っていただろうか。

 

「どうやってこんなに!?」

 

「ん、まあトクベツに売ってもらった」

 

実際は特別ってほどでもないが。

しかしリリは未だ納得していない様子だが、俺がダンジョンへと進んでいくと、バックパックに閃光弾のは言った袋ごと放り込み、俺の後ろをついてきた。

 

「さぁて、今日はどこまで行けるかな」

 

と言うよりもどこに強い敵がいるかなという方が正しいか?などと無駄な思考を巡らせつつもダンジョンへと潜っていった。

 

 

 

 

「昨日はここまで来たんだったか?」

 

「ええ、今日はここからですね」

 

10階層に到着し、雰囲気の変化を改めて実感する。

まるでモノクロの世界にでも来てしまったかの様な空間。靄で視界は悪く、日の光もあまり入ってこない。薄暗く視界の悪いこの場所でも、当然モンスターは出てくる訳である。

ズシン、ズシンと足音を響かせて現れたのは茶色い肌に豚のような頭のモンスター、オークだ。3Mにもなる巨体だが、1つ1つの動作は単純なうえに遅い。

 

「コイツの出番だな」

 

「それは…」

 

腰に装備していた細長い刀身の剣を抜く。

これは、盗賊を殲滅した際にもらった報酬。これ以外にも様々な武器をもらったが、手軽さで選んだのがこの剣だったのだ。

暗夜の色をした刀身には、金色で印が刻まれているが、螺旋状に捩じれ、剣として振るうことはできなくはないが威力は期待できそうにない代物だが、それはこの剣の正しい使い方ではない。

 

「魔剣…ですか」

 

「まあ魔法が使えるようになるとかそう言った類のものではないがな」

 

見てれば分かるってと言ってリリを下がらせる。

オークがそこらじゅうに生えていた白い木の1つを引き抜き、棍棒のように振り回す。誰かが俺にこう教えてくれたことがあった。

『人か獣かは、理性の有無で決まる』

人型ではあったが、理性は見られず、彼の教え通りであればこれは獣に分類されるのだろうが、はたしてダンジョン内のモンスターは動物なのだろうか等と考えつつ接近するオークに剣の先端を向けた。

オークは棍棒のように振り回した木を振り上げた。

 

「『穿(ウガチ)』」

 

俺が『穿』と言った刹那、刀身が一瞬にして3mまで伸び、オークの胸の中心、核が埋め込まれている場所を貫き、魔石を粉砕した。

それによって振り上げた木を振り下ろすことなくオークは消滅した。

砕けた魔石の欠片をリリが拾いながら言った。

 

「そちらはどちらで入手されたんですか?」

 

「ああ、これは……あー………」

 

盗賊皆殺しの報酬だと素直に言うべきだろうか。しかしここでそんなド直球に言って、下手に噂が広がって問題が出てくるのは避けたい。

だからある程度曖昧にしつつも嘘偽りなく説明した。

 

「とある契約の報酬だ」

 

「魔剣が契約報酬ですか……ジン様って実はかなり有名だったりします?」

 

ここで「俺実は極東の〇〇って所の主なんだよねー」みたいなことを言えたならよかったのだろうけれど、生憎と俺はそこまで裕福な生活は送ってこれていないんだ。

従って俺は彼女の質問を否定した。

ただ運が良かっただけだと説明して、周囲の索敵を続ける。

前方20mほど先にオークが2体。視界が悪いおかげで向こうはこちらに気付いていない。

しかしここで俺が下手に突っ込んでリリが無防備になってしまうのはいけない。サポーターは基本的に採集や魔石の収集が仕事、故に武器は持つことが少なく敵が接近した際に身を守る術は無いのだ。

入念に索敵を繰り返し、この周囲にはあのオークしかいないことを確認すると、俺はリリにその事を伝える。

 

「分かりました。リリもすぐに向かいます」

 

「安全を確認してからだ。何かあれば閃光弾を使え」

 

「お心遣い、ありがとうございます」

 

短く現状を伝え、入念な安全確認の末に、俺は無音の接近を開始した。

姿勢を低く、高速な足捌き、且つ障害物を利用して視界に入らないようにする。対人戦でも対モンスター戦でもそれは共通である。

オークの視線がこちらに向く寸前、地面を蹴って飛び上がり、オークの頭上へと軌道を合わせて、一撃。

 

「『穿』」

 

瞬間伸びる刃が骨肉を貫通し、魔石を砕く。

そして2体目のオークが気付く前に刃を伸縮させ、地面に降りて加速。その視線が俺を捉える頃には切先が、魔石に標準を合わせ

 

「『穿』」

 

雄叫びを上げることすら叶わぬまま灰となるオークは可哀そうだが、この程度の雑魚ならば俺の邪魔をするから悪いという暴論が効くだろう。

 

「さて、リリの魔石回収が終わったら次の階層行くか」

 

と言いながらリリを見ると何故かジィーっという視線を向けられていた。

 

「…ジン様は本当に来て数日なんですか?」

 

「何度となく同じ質問かをしてくるが、何度となく返ってくる答えは同じだぞ?」

 

「ジィィィ………」

 

その効果音は口に出して言う物ではないとは思うが、やはり口には出さないでおこうか。言ったら言ったでまた五月蝿く長い説教になりそうだし。

 

 

 

 

結局今日は13階層まで行った物の、手応えのある強敵とは出会えず、先にドロップアイテムや採集したアイテム、回収した魔石で確保していた分の荷物袋の空きが無くなってしまったのだ。

よってそれ以上の探索は止めざるを得なくなり、先程リリが換金を終えて漸く帰ってきたところだが、その様子が今日は一段とおかしかった。

いつもより深刻そうな………

 

「10万か、あそこじゃこんなもんか」

 

「反応薄いですけど、来て数日の冒険者からしたら大金ですよ!?」

 

大金とは言うけれど、俺が見てきた数々の飢饉に苦しむ子供たちを救うには1%にも満たないのだ。

あまりにも薄い俺の反応にリリは不満だったのかリスやフグのように頬を膨らませる。幼い容姿からか非常に可愛らしいのだが、幼女性愛を患っているなんてことはないので恋愛感情は抱かない。

さて取り分の話に入ろうか。

 

「じゃ俺は前回と同じく3分の1で」

 

「うーむ、引く気配を見せないですね……ここはお互いに妥協して2分の1でどうでしょう?」

 

おお、リリ成長したな。妥協案を出してくるとは……仕方ない。ここはその妥協案に乗っておくか。

 

「分かった。明日も頼むぞ」

 

「はい!ジン様」

 

「今日はどこまで潜ったのですか」

 

「おや、リオンさん」

 

珍しく彼女、リュー・リオンが声をかけてきた。

しかしサポーターであるリリは面識が無いので誰?という表情を浮かべている。

俺はお互いの紹介をする。

 

「リリ、彼女はリュー・リオン。ここの店員だ。リオンさん、こちらリリルカ・アーデ。俺のサポーター」

 

「…どうも」

 

「…どうも」

 

どっちもお互いの存在にあんまり関心はなさそうだな。俺のこの紹介って無駄だったか?

2人は睨み合うような雰囲気を漂わせるが、リオンさんが息を吐いたことでその緊張感は解かれた。

 

「…それで、どこまで行ったんですかと聞いたのですが」

 

「あ、そうでした。今日は13階層まで」

 

「…………はい?」

 

リオンさんらしくもなく、素っ頓狂な声を出して自身の耳を疑うような仕草をした後、再び同じ質問を繰り返したので同じ答えを返した。

やはりリリの言う通りとてもおかしなことなんだろうか。

 

「……私は今までに沢山の命知らずな冒険者を見てきましたが、貴方ほど命知らずな冒険者は初めてみました」

 

ジトっと言う視線を送ってくるリオンさんの瞳には、隠し切れていない驚愕の色があった。

すると正面の席に座っていたリリが説明するように言った。

 

「しかも余裕で、物足りないとでも言うように倒していくんですよ」

 

「…貴方は本当に新参者なんですか?」

 

「冒険者と言う意味では新米なんですがね」

 

俺の冒険者と言う意味ではという言葉に、リリがすぐに食いつく。

 

「ということは、ジン様は戦闘職は初めてではないと言うことですか?」

 

「まあな。商隊の護衛だとかはやっていたが」

 

「そこまで過酷な護衛だったんですか……」

 

商隊の護衛っていうのは規模は違えど、簡単なものではないと思うのだが………と溜息を吐こうとしたとき、更にリリが続けた。

 

「それに、魔剣といいその棍といい、余程の所持金があるようですが?」

 

「魔剣は報酬だっての。棍の方は相棒に作ってもらったが」

 

俺がいくら質問に答えても、リリは怪しむ表情を変えず、リオンさんは警戒の色を強めていく。どうしてこうなった。

リリの質問に答えている間に、日は沈み、夜の賑わいが現れてくる。

騒がしくなりつつある酒場は、既に人の海と化していたので、勘定を手早に済ませてその場を離れた。

 

「じゃ、明日も同じ時間でいいか?」

 

「すいませんジン様。明日はどうしても外せない用事があるので」

 

「そういうことなら、明日は休みにするか」

 

明日はダンジョン探索が出来なくなったことをお互いに了承し、酒場の前で俺達は解散した。ファミリアの集会かなにかだろうか?などと思考を巡らせてみる。グローリアファミリアでは集会何て1度も無かったのだが、普通というか、ごく一般的なファミリアではどんな風な生活を送っているのか、知りたくなって当然でもある。

しかしながらプライベートや他ファミリアの事情に介入するのは人としていけないと思うので、リリの後を追いかけそうになる足を抑えつけて、渋々帰宅した。

明日、ダンジョン探索が無くてよかったと思ったのは、未来の話である。




5600文字も超えました。
今後は5500前後を維持できるか挑戦です
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