彼が望みの為に戦うのは間違っているだろうか(更新停止) 作:双盾
早朝、俺よりも先に起きたチェレンの作った朝食を食べながら、この後は何をしようかと考える。この街に来て数日の時が過ぎたが、仕事上の同僚のリリルカ・アーデは今日は用事があり、商隊は客引きで忙しい。しかし他に声をかけるような知り合いがいない。俺のこの状態を「ぼっち」と呼ぶ奴もいるが違う。あまりの強さに恐れをなして誰も近づかないだけなんだ!!寂しい訳ないだろう(強がり
うーむと唸りながら今後の予定を考えていると、チェレンが声をかけてきた。
「ジン、僕は買い物に行ってくるよ」
「おう、気を付けてな」
昨晩、チェレンが何やら材料が尽きたなどと言いながら地下室から出てきたのを思い出し、一体何が無くなったのかと聞こうと思ったが、そのころには既に家を出ていた。
暇過ぎて行動がワンテンポ遅れてしまっているなと自覚しつつも、焦るような用事も無いので、改善のしようが無かった。
仕方なく部屋に戻り、別の商隊から購入した書物を読むことにした。
『全裸で始める野生活』
『道具が無くてもできる 戦闘指南書』
『人を騙す100の方法』
『これさえあれば怖くない。サバイバル攻略本』
明らかに気分転換とかいう類の物ではない本しか持っていないのだが、ダンジョン内で孤立無援の状態になった時に役立つかと思っての本だが、そもそもダンジョンの内と外ではまったく違うことを知り、読まずして箱にしまわれてしまっていた本だ。読まずに閉まっておくのは金の無駄だと自分自身を納得させながら本を読み始めた。
……………………
読み始めて数分が経った。はっきり言ってつまらない。内容は確かに良い物だったがそれは既に自分の中に知識として記憶しているものばかりで、知っていることばかりが書いてある本を読んで面白いと思う輩はいないのと同じように俺もまた面白くもなんともない本を閉じた。
その瞬間だった。
扉が荒々しく開かれ、焦りを帯びたチェレンの声が俺を呼んだ。
ベッドから飛び起きて何があったとチェレンに問う。
「ジン、これを見て」
チェレンが差し出すその手には、手紙が握られており、強く握られたのか皺が深くまで入っている。
しかしチェレンがここまで焦るのだから余程の緊急事態だろうと、俺自身も正体不明の焦りを覚え始める。
手紙を受け取り、開いて中身を黙読する。
そこには信じたくない情報が載っていた。
「ジン!?」
刹那、俺は家を飛び出していた。
路地裏を駆け抜け、大通りに出て思考の回りを高速にさせた。
馬……馬を借りれそうな所はないか………クソッ、焦れば焦る程に時間が過ぎていく。
その時、200mほど先で馬を連れている人間を見つけた。
服装からして警備兵だろうか。しかし今は相手が誰であろうと知ったことではない。
屋根から飛び降りて警備兵の所に駆け寄る。警備兵は高速で迫りくる黒い影に少しの畏怖を見せた後、剣を抜いて止まれと叫んだ。
警備兵の一声で、周囲の冒険者は恐怖して警備兵から離れた。それによって俺と警備兵を取り囲むような形になったが、そんなことはどうでも良かった。
「馬を貸してほしい」
「貴様、名を名乗れ」
「…グローリアファミリア所属、ジン」
…随分と図々しい男だ。焦りから来る怒りで襲い掛かりそうになるが、爪が食い込むほど固く握りしめた拳から伝わる痛みで意識を保つ。
俺が名乗ると周りはざわめき、警備兵も困惑した様子を見せる。
しかし警備兵は冷静さを保ち、理由を問う。
「これを読めばわかる」
「これはっ!?」
投げ渡した手紙に目を通した警備兵は、驚愕し、事の重大さに気づいたのか馬から降りた。
剣を収めた警備兵は、先程とは打って変わって俺と同じように焦りを帯びた声音で言った。
「私はギルドに報告に向かう。お前はすぐにそちらへ迎え」
「言われなくたってそうするさ!!」
警備兵は後ろを向いて、道を空けよと大きく叫ぶ。冒険者たちは道を空け、警備員はギルドへと走る。
俺も急がなくては。
馬を走らせる。
オラリオを飛び出し、果てしなく広がる荒野を駆け抜ける。
チェレンや俺を焦らせ、警備員がギルドに報告するほどの手紙。その内容を俺は思い出しながら駆け抜けていく。
「グローリア一行様。
我々は現在賊に襲撃されています。
応戦はしますが、長くは持ちません。
至急応援を要請します。
セモゥル族 族長 セモゥル・セルガレム」
手紙は所々が血で汚れ、それが更に焦りを加速させる要因の1つにもなっていた。
幸い、セモゥルはオラリオから最も近い部族だが、それでも距離は荷車で3時間ほどかかる場所である。足の速い馬であったとしても時間はかかる。そこから時間や部族の死者を逆算していく。
「(賊がある程度の規模だったとしてもセモゥルはそれなりに戦える部族だ。危険になったら逃げることも知っている筈。手紙が届くまでに1、2時間。そこから1時間で到着できたとしても3時間。生存確率は極僅かだ。それでも、1人でも助ける!!)」
馬は荒野を駆け抜ける。焦りで時間の感覚が狂っていて、何分経ったかすら分からない。けれど時間は止まりはしない。
僅かな希望を握り駆け抜けた先に漸く目的地が見えてきた。
しかし、そこに希望は無く、あったのは地獄のような惨状だった。
「――――――」
息が止まった。
そこにあったのは―――――
焼け焦げた建物。倒壊して跡形もなく壊された物見の塔。踏み荒らされた畑。時間が経ち炭や灰になった食糧庫。
最早生存者などいるはずも無かった。
「まだだ!!」
馬を飛び降りて集落を駆けまわった。
「誰か!!誰かいないのか!!」
「返事をくれ!!」
「頼む!!返事をしてくれ!!」
いくら叫ぼうと聞こえてくるのは風の音。
ガッシャァン!!
また1つ建物が倒壊する。
そこらじゅうに舞う灰、砕け散った炭、焼け焦げた人肉、大きな血溜まり…………
まだ!!まだ!!!
そう信じながら建物の中まで探し回るけれども、次第に涙が零れ始め、前が見えなくなっても俺は探すのをやめない。これ以上探しても絶望と悲しみしかないのを知っていても俺は探すのをやめなかった。
涙が零れる。
また涙が、1つ零れる。
諦めはしない。
次々と建物が崩壊していく。
「もう、ダメなのか。手遅れなのか……」
膝を着き、空を見上げた。
しかしそんな時、俺の耳に確かに届いた。
小さな、声。
「…ぁすけて」
声は掠れ苦しさが滲む声が、聞こえた。
すぐに立ち上がり、声のした建物へと駆ける。
その建物は、あと1分で崩れそうなほど焼けてしまっていたが、そんなことを気にする余裕が無いほどに俺は焦っていた。
「すぐに助ける!!」
扉を蹴破り、見渡すと隣から倒れてきた木材の山の下。小さな腕が見えた。その奥には俺の姿を捉える小さな瞳。
しかし少女を押し潰さんとする木材を、移動させる時間は無い。
俺は、両手を前に突き出して、魔法の詠唱を始めた。
「Ek verpa einn brandr muspilli, kalla bresta bani, steypa lundr drott」
直線に火球が突き進み、木材を吹き飛ばした。そのまま火球は壁を突き破り、隣の建物を破壊した。
壁を破壊された衝撃でこの建物も崩壊し始める。
気絶した少女を抱えて、火球によって開けられた穴から飛び出して脱出した瞬間、建物は崩壊した。
間一髪。目の前の建物はもう燃え盛る木の山と化していたが、俺も少女もその山に埋まることはなかった。
「あぐぅっ」
「これはまずい!」
少女の左腕から背中には、木材を吹き飛ばした際の爆炎で負った火傷で皮膚が爛れて、血が滲みだしている。その他にも足の骨折などがあったが、火傷の方が命に係わる。
ここまで来てしまうと、高品質な上位ポーションであっても完治する前に死んでしまう。
俺は緊急事態の時のためにとっておいた万能薬を少女の血の滲む傷口に塗りこんだ。
「ぁああああああああ!!!」
「我慢してくれ」
喉が張り裂けんばかりに少女は痛みに叫んだ。
鼓膜が破れてしまいそうなほどの叫び声をあげた少女だが、激痛に耐えることはできず、気絶してしまった。
けれど少女の意識が無い間に万能薬は、傷口をすぐさま修復していく。
やがて傷口は完全に治り、傷口から染み込んだ万能薬が骨折や打撲までをも治癒していき、まるで何事も無かったかのような状態となった。
少女の胸元に耳を当てる。
ドクン、ドクン……
心臓の鼓動が聞こえた。
良かった。そう改めて思うと、安堵の気持ちが込み上がり、涙としてあふれ出した。
「まだ、生きててくれてよかった…」
俺は、少女を抱きしめて、泣いた。
やがて警備兵が引き連れてきた騎兵隊達が、集落を捜索したが、生存者は少女ただ1人だけだった。
俺に馬を貸してくれたあの警備兵が歩み寄ってきた。
「貴方もお休みください。少女は我々が保護しますので」
「あ、ああ……」
俺は自分が何を言われたのかすら分からない程になっていた。
上の空ではない。思考の海で溺れていたのだ。
俺はこの少女しか助けられなかったのか……
きっとほかの人も苦しみながら死んだんだろう。
助けの手紙を受け取ったのに1人しか助けられなかったのか……
俺は…俺は何て無様なんだ……!!
何て無力なんだ。
俺は…俺は……!!
悔しさに涙が流れるが、それを必死に止めようとした。
きっと俺より苦しいのは、あの少女なのだから。
泣いていいのは、あの少女だけなのだ。
そこからはあまり覚えていない。覚えているのは荷車で運ばれていく大量の焼死体と、オラリオに帰った時に浴びた負の視線、そして悲しげな笑顔で俺を抱きしめるチェレンの姿だけだった。
その晩、俺は夢を見た。
俺はあの惨状を夢で見ていたのだ。
武器を手に取り立ち向かう男達。逃げる準備をする女子供。次々死に行く男達。逃げる間もなく捕まり殺される女子供。生きたまま火炙りにされる子供。何度も殴打されやがて死ぬ女性。
そして全てが手遅れになった後で駆けつける自分の姿。
もはや自分は何も考えたくなかった。
そんな俺に、聞いたことの無い声が、囁いた。
「無力だろう」
ああ。俺は無力だ。
「無様だろう」
そうさ。何もできずに飛び出したんだ。
「俺には分からないがそれだけは言える。お前は無力で無様だ」
俺はそんな人間だ。
強くなったつもりで思い上がって、今日初めて無力だと思ったよ。
「ならお前は力をつけるべきだ」
どうやってだ?
「俺はお前に力を貸そう。お前は俺に、敵を寄越せ」
お前は誰だ?
「そんなことはどうでもいい。お互いに利用しあうだけに過ぎんからな」
ああ、そうか。
わかった。力を寄越せ。敵はいくらでもいる。お前の好きにすればいいさ。
「仮契約完了だ。力が必要であれば、いつでも呼べよ」
俺とその声の会話はここで終わった。
連日の投稿でかなりの疲労とネタ切れの近さを感じます