とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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今回少々短いです。


第弐章  休めない夏休み
塞翁之馬


 

 

 

 

 

 長点上機学園も夏休みに入った。

 学生の一年間において最も長い休暇であり、またその長さに量が比例する課題という名の障害を連れ添うハイリスクハイリターン(?)な期間。

 満喫したいのは万人に共通だが、課題の消化効率を誤れば苦しむのは他でもなく自分。

 長いだけあり計画性は大切だが、長いだけあり計画の変更は吝かではない。

 長点上機学園には夏休み中に一日だけ登校日が設けられているが、それまでまだ数日ある。

 

 そして夏休みという行事を久しぶりに体験する御坂美影は現在、不本意だが『仕事』に狩りださられていた。

 今回の仕事内容は『奪還』。

 とあるモノを武装無能力者集団(スキルアウト)の一派により奪われてしまったため、それを奪い返せという内容だ。

 その首謀者の名は、榊原(さかきばら)健太郎(けんたろう)。20人ほどの不良を束ねているとの情報だ。

 

 本来、美影に押し付けられる仕事は『処分』が大半なのだが、今回このような比較的穏やかな仕事を与えられた理由はいくつかあった。

 一つ目は、御坂美影の『無限重力(ブラックホール)』によって空間を把握できるため、特定の物体を発見するのに適しているため。

 二つ目は、他の組織の構成員には必ずと言っていいほど怒りで我を失いかける人物がいて、下手をすると命を失う人物が発生する可能性があるためである。

 

 とまあ、『電話相手』に言われた美影だが、彼にとっては夏休みを学生らしく過ごしたいのである。

 さっさと済ませようと意気込む美影は、着用している五分袖の黒パーカのフードをかぶって顔の上半分を隠す。

 今は夜であるため顔を隠すにはこの程度で事足りるだろう、と美影は伝えられた武装無能力者集団の拠地の入り口付近に立ち止まった。

 そこは第7学区の路地裏で不良が集まるには相応しいと呼べるだろう。彼の目の前にある建物は五階建ての廃墟。廃れて窓ガラスすら無くなっているが強度は保持されているように見える。

 四階からは照明と思える光が漏れだしており、そこに榊原はいると思われる。

 

 

(……さっさと行くか)

 

 

 能力を発動。

 廃墟全体にかかる重力を全て把握し、廃墟の構造、中にいる者の数、物体の位置、そして探しているモノの在処を約4秒ほどで把握し、躊躇なく廃墟に足を入れた。

 正体を気づかれず、相手を生かすことが今回の前提。

 まずは明かりをブラックホールで音もなく破壊し、一人ひとり確実に意識を奪っていく。

 

 

 ◆

 

 

 

「――――♪ ――――――――――♪」

 

 一人の少女が鼻歌を歌いながら街路を歩いていた。

 常盤台の制服を着ている。この時間は既に寮の門限を過ぎているのだが、彼女の『能力』を利用もとい乱用すれば何も差支えない。

 星の入った瞳、背に伸びるほどの長い金髪、長身痩躯、あまつさえ巨乳という中学生離れした容姿は異性を引きつけるだろう。

 

「―――――♪ ――♪」 

 

『――!! ――ッ!? ――――――!!』

 

「ん~?」

 

 どこからか悲鳴とも取れる叫びが耳に届き、立ち止まる。

 耳を澄ましたところ、それは建物の間にある細い通路の先から来ているようだ。

 昼間でさえ影となりそうなその路地裏は、太陽が沈み切っている今は一層暗い。

 しかし、彼女は躊躇なく足を進める。

 彼女にとって、人間は大して脅威をなりえないからである。

 

 

「――――――――――♪ ――――♪」

 

 好奇心に任せて動いていると期待も膨らむ。

 この先にあるのは何か。

 日が出ているときとは違う顔を見せる街にはどんな人物がいるのか。

 初めて通る道はどこへとつながっているのか。

 

「…………」

 

 狭い通路を通り過ぎたところ、今はもう使われていないであろう建造物に囲まれた空間に出た。

 人影は視認できないが、人の気配はする。

 そこらじゅうにからのペットボトルやコンビニ弁当のゴミなどが転がっているので、この周辺には武装無能力者集団の住処でもあるのだろうと少女は見当をつける。

 なら大して面白いことはないだろうと少々がっかりしたとき、

 

「…………!」

 

 足音が聞こえた。

 少女からして左ななめ前方。

 街灯などの設備も乏しいこの辺りは、月光を頼りに対象を確認しなければならない。

 目を凝らしたところ、そこにいたのはフードをかぶった、身長から判断してに男。

 左手には何か小さなものを持っており、右手には携帯電話を持ち、ちょうどポケットに入れるところだった。

 

 

 ◆

 

 

「もしもーし。 お目当てのものは見つけたよ」

 

 美影は左手に持っているモノを確認して電話をかけていた。

 今回だけ報告に利用するよう教えられた番号でつながったのは、この仕事を与えてきた『スペース』の『電話相手』だ。

 

『おぅ、お疲れさん。迎えのもん寄越すからそいつに渡してくれ。場所は後で教える』

 

「決めておけよそれぐらい」

 

『アドリブぐらい許せ。報酬はいつも通り振り込む。それじゃお疲れ。お休み』

 

 やけに早口だという印象を受けるとすぐさま通話は切られた。

 取り込み中だったのかと適当に予想しておきながら携帯をポケットにしまい、左手に握られたモノを見る。

 

 それは鍵だった。

 

 黒い札のようなキーホルダーを付けているということを頼りに特定し、奪還した。

 学園都市としては珍しい、電子錠の鍵ではなく、シリンダー錠であった。

 

「……ん?」

 

 触ってみたところ、革製の黒い札には凹凸があることが感じ取れた。

 それは文字のように思えるが、何が書いてあるのかまでは分からない。

 ちょうど外に出たところなので、月光を頼りに読み取ろうと、それを上に掲げてみる。

 首も上に傾けたため、かぶっていたフードがずり落ちた。

 

 何とか読み取ったところ、そこには『CD-3』と掘られていた。

 読み取れたところでそれが何を意味するのかは分からない。

 

 脳内で、イニシャルがCDの名詞を検索しているとき、美影は人の気配を感じた。

 

 

 ◆

 

 

「…………?」

 

 突如として建物の一つから出てきたその男を、少女は不審に思った。

 しかし、見ていたところ、こちらの存在に気づいていないらしく、携帯電話をしまってからは手元にある何かをじっと見つめていた。

 しかし、よく見えなかったらしく、月光を利用するべくそれを空に掲げた。

 その時、見上げるような態勢になったため、被っていたフードがするりと落ちた。

 

「―――!!」

 

 少女は驚愕した。

 目の前の人物から目を離せなくなり、また言葉を失った。

 

(………この人、)

 

 目の前の人物が、数年来の再会の相手ではない。

 むしろ見覚えなどなく、初見であることは否定できない。

 

(この人…………)

 

 しかし、彼女の心は揺さぶられ、脳内は目の前の人物で埋め尽くされている。

 指先は強張り、口は半開きのままで、瞼は開ききっていた。

 

(この人……、この人……)

 

 この少女が抱いた感想は、ほかの何物でもなく、偽りも疑いも訂正もなく、

 

 

 

 

 

(――――カッコいいっっ!!)

 

 

 

 

 一目見た瞬間に、特定の異性に対して恋愛的感情を抱いたり、もしくは夢中になったりする現象、すなわち一目ぼれという体験をした少女は、わずかに歩み寄る。

 

「――!」

 

 舗装が不十分な地面であったため、砂利を踏んだ音が合図となり目の前の少年は素早くこちらに顔を向けた。

 少しでも彼にお近づきをと願う少女は、躊躇いながらも声をかけようとするのだが、

 

「え?」

 

 少年はこちらを確認した直後、人間の身体能力ではありえない初速度、加速度、速度でこの場から離脱してしまった。

 

「……え? …………え?」

 

 少女はただ一人、目の前の光景に唖然として、しばらく直立不動でいた。

 

 

 ◆

 

 

 美影は己にかかる重力を完全に支配して高速道路の自動車に匹敵するスピードで逃走(・・)していた。

 壁を走り、空を跳び、3次元で移動をしつつ、先ほど偶然相対した少女の姿を思い起こしていた。

 

(何であんなところにアイツ(・・・)が…………?)

 

 それはまさに不意を突かれたものであり、少女の姿を見た瞬間、心臓の鼓動が一気に激しくなったのを感じ取れたほどだ。

 冷や汗をかき、珍しく焦り、必要以上に場所を変えた美影は川付近の道路で立ち止まった。

 

(……間違いない、)

 

 制服は常盤台中学のもの。

 容姿も以前入手したデータと一致。

 彼女こそ、超能力者の序列第5位に位置する少女、食蜂操祈。

 

 彼女が所有する能力は、心理掌握(メンタルアウト)

 

 学園都市最高の精神系能力であり、記憶の読心・人格の洗脳・念話・想いの消去・意志の増幅・思考の再現・感情の移植などなど精神に関する事ならなんでもできる十徳ナイフのような能力。

 

 そしてそれこそ、()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

(…………見られたか?)

 

 

 先ほどの一部始終を何度も脳内で再生する。

 街灯もなく光源となるのは目視の手助けには不十分と思える月光のみ。

 しかし、()()()()()能力であるため、もしかしたらあのわずかな間でも能力を使われてしまったのかもしれない。たとえそうあったとして、美影が()()()()()()()()()()()()()()を得られただろうか。

 

(…………) 

 

 深く思案した結果、あまりにも考えすぎだと美影は改める。

 例え顔を見られたとして、記憶が残っている間に再開するとも思えない。

 例え彼女の能力発動にかかる時間があったとしても、初対面の人物にいきなり使用することもないだろう。

 

 

 

「待ちなさいよッ!!」

 

「だれが待つかバーカ!!」

 

 

「……ん?」

 

 いきなり聞こえた二人の声の方向を見る。

 そこには美琴が上条を追いかけるという、夏休みの遊戯らしい(?)シーンがあった。

 

「この前は美影もアンタもいつの間にか逃げちゃったから、二人分相手しなさい!!」

 

「理不尽で不幸すぎるッ!?」

 

 と、上条の弁解などを聞く耳は美琴は備え付けていないらしく二人の全力疾走はまだまだ続く。

 

 

「御坂兄ぃぃぃいいい!! 妹をどうにかしてくれえええええ!!」

 

 

 どこにいるのかわからない美影の召喚を求めるが、すぐ近くにいる美影は正直面倒であるから関与しない。

 頑張れ、と適当に心の中で励ましながら美影は二人と逆方向に歩き出した。

 ずっと左手に握られていた謎の鍵をどこかの誰かに渡さなければならないのだから。

 

 

 





今回、読者からいただいたオリキャラの名前を使わせていただきました。

使わせていただいた名は、榊原健太郎

㈱現任堂さん、ありがとうございました!

というか超脇役ですいません。


そしてこれをもってオリキャラの募集は終了いたします。
たくさんの方々、本当にありがとうございました。

成るべく読んでいて苦労しないように書いていきたいと思います。

能力も使わせていただくつもりですが、中には名前だけ使わせていただく場合もあるのでご了承ください。

また何かアンケートする場合は宜しくお願いします。

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