夏休みになって、約半分が経過した。
宿題をすすめた者、遊んでばかりいた者、暑さにやられ何をやったのかさえ正確に覚えていないもの、とにかく生活は十人十色だろう。
この日、長点上機学園は夏休みであるにも関わらず登校日となっている。しばらく会わないでいると驚くほど黒く肌が焼けている者が少なからずいることは夏において定番だ。
主な目的は九月十九日から行われる大覇星祭の打ち合わせ。
この学園は前年度の優勝校であり、今年も各方面から期待されている。しかも今年度は超能力者を4人も獲得したため、ほぼ確実とさえ言われている。
もちろん油断は言わずもがな。
そしてその4人が大活躍するであろうと思われるため、それを嫉視する上級生が敵対心を燃やし、なんとかして彼らよりも目立とうとする者が多発していた。
登校日の午後は種目との適性を図り、誰がどの競技に参加するかを決定することなっている。
一芸がある生徒を入学させている長点上機学園においてはこの選択が重視され、間違えれば雲泥の泥にもなり兼ねないだろう。
◆
「お前って本当にコーヒーばっかりだな」
午前が終わり、生徒は昼休みを迎えている。
一方通行はいつもは屋上でのんびり過ごしているのだが夏の日差しは眩しすぎるらしく無駄に広い食堂にいる。
だが同席しているのは美影ではなく彼よりも少し髪が長い垣根だ。
誘われたため、一方通行は彼の正面に座っている。だが少し鬱陶しそうなのは垣根にも明らかなように見せている。
「テメエだって紅茶ばっかりじゃねェか」
彼らがテーブルに置いているものは似ても似つかないものばかりだ。
片や肉料理とコーヒー、片や魚料理と紅茶。とてもじゃないが、二人は仲良しとは見えない。コイツがこれを選んだから異なるものを選んだという故意にできた机上ではなく、純粋に好みを選んだ結果だ。
ちなみに二人と同じテーブルには一方通行と同じく垣根に誘われた削板がおり、特盛のカツ丼と格闘している削板がいる。
そこへ突然、招かれざる来訪者が来た。
「「突撃! レベル5にインタビュ――!!」」
「あァ?」
「なんだ?」
「
男女の二人組が彼らの元へ来た。女のほうはマイクを持ち、男のほうは学校のものとは思えないほど、それこそテレビ局で愛用されていそうな巨大で精巧なカメラを持っている。
新聞部のものだろうか。とにかく超能力者に取材しに来たようだ。
女子インタビュアーのほうが自分の口にマイクを当て、
「えー……、何故か御坂君がいないようですが、ここでレベル5の皆さんにインタビュ-としたいと思いまーす!」
ハイテンションな高めの声に一方通行はだるそうな表情になり、垣根は興味深そうに笑みを浮かべ、削板はハムスターのように膨らませた口の中身を飲みこもうとする。
男子生徒が持つカメラはその3人をとらえていた。その映像は生放送リアルタイムで食堂に品えつけられているテレビにも移し出されている。
そして、
「ではまず、3人はどのような女性がタイプでしょうか?」
それから出るのも不自然とも取れなくはないが、学園の女子生徒にとっては一番気になることだろう。 実際、(知らない内に)彼らのせいで別れたカップルはいくつもあった。
別れてまで告白しても断られることばかりなのだが。
一人ひとりにマイクを当て、
「あァ、フツーのやつ」
「可愛い子かな、」
「根性があるやつだ!」
曖昧だがそれぞれの答えが返ってきた。
最後のは女子に求めるべきではないと思うが、気にしない。
「では次に、好きな食べ物を教えてください!」
この質問もおそらく女子生徒には無視できない内容だ。
彼らの分まで弁当を作ってくる女子生徒が多発しているのも事実。また料理は女性にとって重要な技能スキルだ。上手いに越したことはない。
また同じ順番で一方通行から言おうとしたが、
「お前はモヤシにきまっているよな」
垣根が他でもない一方通行にいらぬ茶々を入れる。
一方通行は何を言おうか決めてはいなかったが、それは明らかに違う。しかもそれは彼に言ってはいけないことベストスリーには確実にランクインするNGワードだ。
「はァ? なにふざけたこと言ってんだ万年第二位」
「あっ、それじゃ共食いか!」
ポン、と左の手の平に右手の拳をあて、さらに調子にのったことを言う。垣根は火に油どころかガソリンを注いでいるのは自覚済みだ。
それに怒り、割る勢いで机を叩き、立ち上がる。
「テメエ、ぶっ殺されてェのか!?」
「へー、お前に出来るのか?」
「当たり前だ、きめェ羽つけてるメルヘンなンかに負けるわけねェだろォが!!」
その言葉に垣根も逆上し、
「はあ!? 真っ白なモヤシに言われたくねえな! 何だ、コーヒーでも飲めば黒くなるとでも思ってんのか!?」
「ハッ! テメエはそんなエセホストみてェなナリしてるくせにカッコつけて紅茶飲んで英国紳士でも気取ってンのかァ!?」
学園都市のトップツーを誇る彼らではあるが、今は単なる子供にしか見えない。
二人のインタビュアーはこの状況に戸惑い、マイクを二人の間に固定し、カメラは二人を撮っているままだ。
すなわち、この喧嘩は学園中に流れているというわけだ。
唖然とする者、面白がるもの、なぜかビクビクと振るえている者が見られるが二人は構わず口げんかする。ちなみに削板はカツ丼とのケンカを再開していた。
そして第一位と第二位がたどり着いた結論が、
「「表に出ろやコラァ!!」」
◆
『はあ!? 真っ白なモヤシに言われたくねえな! 何だ、コーヒーでも飲めば黒くなるとでも思ってんのか!?』
『ハッ! テメエはそんなエセホストみてェなナリしてるくせにカッコつけて紅茶飲んで英国紳士でも気取ってンのかァ!?』
御坂美影は現在、職員室にいる。
理由は彼を含めた超能力者4人の担任である有澤に呼ばれたからである。
だがちょうど本題に入ろうとしたときに職員室に備え付けられているテレビにほかの三人のインタビューが映し出されたのでしばらくそれを観覧していたのだ。
「おーおー、レベル5ってのは皆あんなに個性的なのか?」
担任、有澤は腕を組みながら正直に感想を述べた。
「……変な帰納しないで下さい。少なくとも学校では俺は普通にいるつもりです」
「学校以外じゃ変人にカテゴリーされるのか?」
「肯定も否定もしません」
正確には『できない』のである。
彼の持論としては人の性質や価値は本人以外が決めるものであるため、自己評価など戯言でしかないと思っている。
変人扱いされるのが不本意であることは即肯定するが。
「そんなことより、」
「はい」
改めて有澤は本題に入ろうとする。
「御坂の好みのタイプはどんな女子かという話だが」
「そんな話でしたっけ?」
あくまで顔の上半分はまったく変わらず無表情のままだが有澤の口は達者だ。
「ああ、年上好きか? 女子を卒業した女が好みか?」
「嫌いじゃないですが別に好きというわ」
「ならあそこにいる現国の先生がまだ独身で」
美影の言葉も遮りマイペースで口を動かす有澤だが、その彼すらも黙らせる声が聞こえてきた。
『『表に出ろやコラア!!』』
「お?」
再び有澤はテレビへと目を移す。
既に一方通行と垣根はカメラの視野から外れており、十秒と経たない間に校庭から爆発音が聞こえてきた。
職員室にいる教師陣は一気に校庭へと意識を向けるが有澤は依然、冷静に構え続ける。
「第一位と第二位の戦いか……。見に行くか?」
「構いませんが……このままだとこの学校が物理的に崩壊しますよ?」
「…………」
チラリ、と窓の外を見て見ると、サッカーゴールが垣根によりサッカーボールのように蹴られていた。
「下手をすれば第18学区ごと消滅しかねませんね」
「…………」
ジッと外を見続けていると一方通行により野球場でダイヤモンドごと地面が抉られており、それが一直線に垣根へと飛ばされていた。
「……御坂」
「はい」
「あれ、止められるか?」
「努力します」
◆
美影は目の前の光景を見て、困るのでも怒るのでも悲しむのでも喜ぶのでも笑うのでもなく、ただただ呆れていた。はぁ、と思わず生温かいため息も出てしまう。
グラウンドは隕石が落ちたように深く陥没しており、大地震でもあったように地割れがあり、嵐があったように備品が転がっている。
もちろんこの状況を作り出したのは美影の後ろで今だ睨みあっている一方通行と垣根帝督の二人だ。
「おい、」
「「はいっ!」」
美影の呼びかけに飛び上がりように反応する二人。その状況はあまりにも不自然だ。
だが、実際
その止め方は殴ったわけでも能力を使ったわけでもない。
(やっぱり
(……どこで
要するに美影は証言と物証で脅したのだ。彼の携帯に入っている2枚の写真と共に。
一方通行は心当たりがあったようだが、垣根は彼の入手経路にまったく心当たりがないものだ。いつどこでどうやって手に入れたのかは美影しか分からない。
彼らは彼の情報網を強く呪って同じことを思う。
((やばい、こいつ早く何とかしねえと!!))
そこでピーンポーンパーンポーン♪ と放送の前触れとなるリズムが聞こえてきた。
『一方通行君、垣根帝督君、御坂美影君、削板軍覇君、至急職員室まで来てください』
スピーカーから女性教師の声が聞こえてきた。おそらく学園長が命令したんだろう。
あれ?、と美影は不思議に思う。
美影一人が再び職員室に呼ばれたり、この災害をもたらした二人が呼ばれるのならまだわかるのだが、そこに削板が加われる理由が解らない。
とにかく呼ばれたので外の三人プラスカツ丼に勝った一人は職員室へと足を運ばせた。
◆
「まあ、とにかく御坂は止めてくれたことに感謝しておくよ」
この学園が荒野へと化すことはなくなったため心の底から安心する。
美影はどうも、と適当に返事をする。
「それで、この件の処分についてだが、」
当然罰は与えられる。
だが今は夏休み。停学は出来ない。学校の破壊は普段は決してあり得ないことだが退学になってもおかしくはないレベルだ。
でも超能力者を失うのは正直学園側としては痛い。
そこで提案されたことは、
「学園長からの命令だ。4人には明日から一週間、
数秒の沈黙、
「は!?」
垣根が意味を理解し、声を上げる。他の三人も同じ気持ちを抱く。
だが美影はもう一つ思う。
「なんで俺もなんですか?」
彼は先ほど学園を二人の悪魔から守った英雄だ。二人にとっては美影は悪魔にしか見えないのだが。
褒められても罰せられるべきではない。その疑問は削板も同じで彼はひたすらカツ丼と向かい合っていただけなのだ。
「まあ、連帯責任だよ」
なんの連帯だ、と激しく問いたくなったが、超能力者のだ、といわれるのが目に見えていたためあえて聞かなかった。
「俺もか!?」
削板も声をあげるが、その通りだ、としか言いようがない。
理不尽ではあるがなぜか彼はすんなりと受け入れられた。
前向きというか、バカというか彼は無駄な正義感を含有しているため風紀委員となることに抵抗がないのかもしれない。
「詳細は今日の夜にでも連絡するから、今はもういいぞ」
4人のアドレスは入学して間もないころ、担任に教えるように言われたため知られている。
それぞれの勤務先の支部でも決めるのだろう。ここでの話はそこで終わったため、四人は職員室から出て行った。
(…………?)
美影は一つ、疑問に思ったことがあったのだが、それは今聞いても仕方がないことだと考えたので素直に退室を完了させた。
「あっはっは! 残念だったなあ、美影!」
肩をたたき、笑いながら言う垣根。止めにいって巻き込まれた美影が可笑しく思えたのだろう。
美影はそんな垣根にイラッと感じ、携帯をポケットから取り出し、とあるアプリを起動させた。
「なあ、垣根。知っているか?」
「何をだ?」
「今時の学生の間では、『ツウィッター』というのが流行っているらしくてな、」
ここまで言いかけた瞬間、垣根は彼が意図することを掴み取り、右手を素早く振り切った。
その軌道上にあった美影の携帯の上半分が瞬時に液化、気化してしまう。
美影は私物が破壊されたのにも関わらず、冷静なままその携帯の下半身を最寄りのゴミ箱に投げ入れ、
「まあバックアップなんて、初歩中の初歩だよね」
「テメッ!! マジでそれはやめろ!!」
垣根は美影の襟元を掴むが美影の表情は変わらない。
「あーでも第二位のあんな姿をツウィートしたら炎上しちまうかな……」
「だからやめてくれッ!!」
「まあ、アカウントなんて十個程あるから一つぐらい……」
顔が真っ青なまま、垣根はこの場では必死に説得するしかなかった。
同じ立場にいる一方通行にとってはこれ以上美影の機嫌を損ねないことが先決であると悟ってしまったため、下手に口を出さないままでこの場をやり過ごすのであった。
◆
その日の晩、美影を含めた四人は担任から勤務先をメールで送られ、『風紀委員の心得』と書かれた教科書ぐらいの本が届いた。
それを一晩で覚えろというのか、と思ったが美影には問題はない。
おそらく四人のうち、三人がペラペラと捲りながら覚えることが出来るだろう。
そして風紀委員としての一週間が幕を開けた。
一般の学生によって構成され、基本的に校内の治安維持にあたる組織だ。
だが、その活動は郊外にもおよび、夏休みとなった現在はそちらでの仕事がほとんどだ。正式に風紀委員になるには 九枚の契約書にサインして、十三種の適正試験と4ヶ月に及ぶ研修を突破しなければならない。だが、今回超能力者の四人は特別に免除されている。
そして美影がこの一週間所属することとなった支部は、
(ここかよ……)
彼がメールに添付されていた地図に従って辿りついたのはとあるビルの一角にある支部。
そして入口には『風紀委員活動第一七七支部、JUDGMENT 177 BRANCH OFFICE』と表記されている。
すなわち白井と初春の所属しているところだ。
「どォやらここみてェだなァ、美影」
そして美影の後ろには一方通行もいる。
バラバラにするよりはまとめておいたほうが何かと便利だろうという考えと四人が一か所にいては何かと面倒であるという考えからツーマンセルの形態を採用され、一方通行も美影と同じ第177支部に所属することとなった。
つまり、第7学区に住む二人がここに勤務することになったというわけだ。
そして垣根と削板は第18学区の同じ支部に行くことになったらしい。
美影と一方通行の二人が支部に入って行こうとしたとき、中から一人の少女が出てきた。
「あ、お兄様。いらっしゃいましたの。ささ、どうぞ中へ」
ツインテールの風紀委員、白井黒子が手招きをして中へ入るよう促す。
美影が今回風紀委員として活動することがうれしいのか、笑顔だ。
「美影、あのツインテも妹だったのか?」
一方通行は
「いや、違うよ」
「ンじゃ、なンでお兄様なんだ?」
「あー、まあ、簡単に言うと、美琴を溺愛するあまりにあいつを『お姉様』って呼ぶようになったから俺は『お兄様』なんだって。やめるように言ったんだが」
「あいつのせいでここに配属されたンじゃねェの?」
「さぁな、もうどーでもいいや」
「ンじゃ、行くとしますかお兄様」
「……一方通行、知っているか?」
「何をだ?」
「今時の学生の間では、『ツウィッター』というのが流行っているらしくてな、」
「おい、それはマジでやめろォ!」
二人は仲良く(?)第177支部へと入って行った。
◆
「じゃ、これがこの一週間君たちが使う腕章よ。くれぐれも失くさないように。」
メガネをかけた女子高生の風紀委員、固法美偉に一通り説明を受けた後、美影と一方通行は風紀委員の証である緑と白の盾をモチーフとした腕章を受け取る。
この一週間の二人のお世話係となったようだ。
そして横には白井と初春がニコニコとした笑顔で立っている。
美影はこんな形でまたここに来るとは夢にも思っていなかった。
事務室や学校の職員室のように机が並び、部屋の端には資料が所せましと並べられたスチール製の棚が置かれている。
美影は基本、堅苦しいことが好きではない。したがって職員室も正直入りたくはないのだが、なぜか超能力者の中では一番呼ばれている気がする。
第177支部の面々としては、超能力者が一時的だが風紀委員となることで、治安は良くなるだろうという考えを持っている。しかも同じ支部で活動するのだからうれしくないわけがない。
「じゃあ、さっそく二人はこれから巡回パトロールをしてもらうわ。もちろん教育係として白井さんと初春さんが同行してもらうけど」
「はーい」 「へーィ」
「シャキッとしなさい!」
二人にやる気はあるわけではないので返事にメリハリがない。
そんな二人に見兼ねて固法は大きな声で注意する。
なんともないような光景に見えるが一方通行に忌憚なく注意するなんて、見る者によっては目を見張ってしまうような光景だ。
そのため二人は新鮮味を感じる。
そして白井と初春、美影と一方通行は4人とも腕に腕章をつけ治安維持へと向かった。
◆
「では今日はわたくしたちがいつも使う巡回ルートを行きますの」
外に出てから白井を先頭にし、4人は歩きだした。
どうやら超能力者が風紀委員をやることは噂になっているようで、すれ違う者から視線を向けられる。
美影はともかく、一方通行はどちらかというと治安を乱すほうの住人だ。というより乱したせいでこのように風紀委員をやらされるという矛盾したことになってしまったのだが。
「はぁ、まさかこんなことになるとは……」
美影のその気持ちが思わず言葉として表に出てしまう。
彼は完全に巻き込まれただけなので不満はある。というか不満しかない。
「これを期に正式に風紀委員になられたらどうですの?」
何気なく白井はそういうが顔は本気だ。
半年前の件や虚空爆破事件のことを踏まえても美影は風紀委員に向いていると白井は感じていた。
というよりなってほしいという願望がある。
「面倒くさいし、俺には向いてないだろ」
だが美影は白井のようには思わない。
どちらかといえば面倒くさいという気持ちが強い。その比率は九対一ぐらいで自由に過ごしたいという欲求が圧勝だ。
「いえいえ、そんなことはありませんの。それに正式に風紀委員となってくだされば治安はもっとよくなりますし」
「なら美琴に勧めたらどうだ? 俺より有名だし、序列も俺より高い第三位なんだから」
「以前、勧めてみましたところ、断られましたの」
「なら俺もこれっきりにしたいね」
そう言ったところで前方に青い楕円状の物体が飛んで行くのが見えた。
風船だ。
その下で小学生低学年ぐらいの小さな女の子が飛ばしてしまったらしく、今にも泣きそうになっている。
そこで美影は自分にかかる重力を小さくし、約五メートルの垂直飛びを難なく実行し、風船のひもをつかむ。そして桜の花びらのようにゆっくりと降りてきてその子供に笑顔で風船を渡した。
「もう離すんじゃないぞ」
「うん! ありがとうジャッジメントのおにいちゃん!」
その子は笑顔になり、風船のひもを握り、元気に走って行った。
美影は優しい笑顔で手を振っている。
そんな光景を見て、白井は改めて確信する。
「ぜーったいに向いてますの」
◆◇◆◇◆◇◆
風紀委員の主な仕事というのは決して強盗などの悪を捕まえるものではない。
そのような危険なことは基本警護員アンチスキルによって行われる。美影と一方通行は裏ではそれよりも遥かに危険な仕事を行っているがもちろんそれは白井や初春などの光が当たる表の住人には言えない。
そして風紀委員が普段行うことは正直地味だ。
ゴミが落ちていればその場に留まり掃除をする。
道に迷っている者がいれば案内する。
不良がいれば注意する。
美影は嫌そうにしていてもきちんと行っているので問題はない。
だが、一方通行にとってはどれもイライラさせるようなものばかりだ。
ゴミが落ちていれば風のベクトル操作で吹きとばす。
道に迷っている者は一方通行の顔を見た途端怖くなってとてもじゃないが道なんて聞けない。
不良に至っては一方通行を見ただけで逃げてしまうどころか攻撃してくるものもいた。
とにかく、一方通行は風紀委員には向いていないのだ。
白井からも何度も注意を受けてしまっているが馬の耳に念仏だ。
「では、ここでしばらく休憩としますの」
一通り歩き回った後、4人は広場に辿りついた。
夏休みということもあり、真昼間からでも私服姿の学生が多く見られる。
こんなときに制服でいるのは風紀委員くらいだ。つまり、今広場にいる制服姿の学生は美影、一方通行、白井、初春の4人だけ。
美影は慣れないことに精神的に疲れて、ベンチに座っている。
そのベンチはカップルが使うような二人用のものではなく、真中に足をつけなければ安定しないほど大きく、六人ぐらいが一度に座れるようなものだ。
彼は現在それを一人で占拠している。
一方通行は近くにあった自動販売機でコーヒーを購入しているようだ。
「お疲れ様です、美影さん」
初春が笑顔で声をかける。
彼女も美影が一時的だが風紀委員になってくれてうれしそうだ。
そんなのは美影にとってどうでもよく、早くこの一週間が過ぎてほしいことを願うばかりなのだが。
その時、初春の背後に何者かが近づき、
「う~い~は~、るぅッ!!」
盛大に初春のスカートをめくった。
当然、初春は美琴のように短パンをはいているわけではないのでスカートの下は見られては困るものしかないのだ。
「さ、さ、佐天さん! 何しているんですか!?」
急いでスカートを押さえるが、周りからは「今の見た?」なんていう声が聞こえてくる。
それを耳にした初春は発言者の方向を向くことも出来ずに赤面している。
「あ、美影さんこんにちは! 初春から聞いたんですけど本当に風紀委員やっているんですね!」
朝起きて歯磨きをするように日常茶飯事になってしまっているのだろうか、初春へしたセクハラをまったく気に留めず、美影に元気よく挨拶をした。
美影はリアクションに困ってしまう。
なぜなら、
「……見たんですか?」
涙目になりながらおそるおそる初春は美影に尋ねる。
美影も男だ。それもかなり上のランクの。
しかもそれなりに知り合いであるので、もちろん見られたくはない。誰であってもだが。
「ふぅ――………………、一方通行、俺にもコーヒーちょーだい」
「ン、」
一方通行が飲むために開けようとした缶をそのまま開けずに美影に投げ、それを彼はキャッチした。
話をわざとそらしたところをみると、要するに彼は、
「……見たんですか?」
未だスカートを抑えたまま涙目で初春は絞り出すように尋ねる
「…………、」
「見たんですか!?」
今度は美影に急接近しながら大声で尋問した。
「……………………淡いみずたm」
「見たんですねぇ――――!!」
ボソッといった一言を初春は逃さず聞き、見てはいけないものを見てしまっていたことが分かり、顔をさらに紅くしてポカポカと何度もパンチを美影に打つ。
だが彼女に腕力という攻撃力はないため、コーヒーを飲むのを妨害するだけで全く痛くはない。場所によってはマッサージになるぐらいだ。
「あー、もう、俺に怒るなよ」
「あれー? 美影さん初春のパンツみてもまったく動揺しないなんてすごいですね!」
「そうですよ! 少しは何か反応してくださいよ!」
表情を変えずベンチに座っている美影を見て、佐天はなぜか感心し、初春に至っては動揺で冷静さを失い発言がかなりずれてしまっている。
「お前はこんなところで俺に反応していかがわしい目を向けてもらいたいのか?」
当然美影が騒げばより目立つ。
なんの反応もないのは初春に失礼な気もするがはぁはぁと息を乱し鼻の下を伸ばして発情してしまうほうが失礼な気がするし風紀委員としても失格である。
あくまでも冷静な美影に初春は手を止めない。
そんなカオスな光景を白井は少し離れた所から呆れながら見ていて、一方通行は完全無関与で新たに自販機に小銭を投入する。
そして一方通行が再びコーヒーのボタンを押そうとした瞬間、
美影と一方通行がいる場所で突如、テロともとれる爆発が発生した。
一万字まであと二百字弱。
文字数が不安定なのはなんとなくキリのいい一話を形作っているからです。
感想は大歓迎ですが、キツイお言葉ははお控えください。
◆
……なぜか最終章のプロットは8割完成させつつも大覇星祭編の話が殆ど決まっていない。
超電磁砲寄りか、オリストか。
うーむ。悩む。