とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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一万字オーバーです。


奇奇怪怪

 

 

 

「よし、あそこに二人いるぞ」

 

 とあるビルの屋上に二人の男が身を潜めている。

 一人は大柄で鍛え抜かれたカラダが服の上からでもうかがえ、もう一人は金髪に染め、ワックスで立てられた髪型が特徴的だ。

 そしてその二人には共通点がある。

 それは二人とも携帯式対戦車噴進弾発射機(バズーカ)を持っていること。

 ずぼらな彼らであってもあまりにも不似合いだ。

 だがそれは使用対象には物足りないくらいだと二人は警戒を怠らない。

 

 ターゲットは二人、一人はベンチに座り、女の子と何やら騒いでいるようで、もう一人は自動販売機の正面に立っている。

 ここからの距離は約四百メートル。

 その武器の射程範囲には入っているが二人は初めて使用する。ゆえに二人にとっては遠すぎると言ってもいい。

 だが、弱音は言っていられない。

 情報が入ってからは数時間待機していたのだ。このチャンスを無駄には出来ない。してはいけない。

 

「いちにのさんでいくぞ」

 

「おう、」

 

 金髪の男の言葉に賛同し、合図を決める。

 一度深呼吸をし、肩にそれを乗せ、長方形の照準器を覗き、反動で動かないように全身に適切な力を込めて固定する。

 そして、

 

「「いち、にの、さん!!」」

 

 二人の手から、人間を灰へと変える全長六十センチメートル、直径八.八センチメートルの先端に火薬を含んだ金属棒が発射された。直後、加速度を高め衝突に最大速度を引き出すよう備えて空を切る。

 発射から約三秒、視線の先にある広場の二か所で爆発が起きた。

 このバズーカは広範囲に爆発するものではなく、軌道上の直進方向に衝撃を与えるものであるため、広場全体が吹き飛んだわけではない。

 それでもおそらく標的の付近にいたものは巻き込まれただろう。

 だが、そんなことは気にしていられない。彼らの目的のためなら大した問題ではない。

 視線の先には爆発により大きく風塵が舞っている。

 

「お、おい、これ大丈夫なのか!?」

 

「……だがアイツら相手ならこれぐらいが丁度いいんじゃねえのか?」

 

 二人の顔には次第に嫌な汗と共に焦慮が表れてくる。

 もしかしたら死んでしまっているのではないのか、とうろたえてしまう。

 殺しは目的ではない。また、二人はれっきとした不良であってもそのような行為は一度もしたことがない。

 

 そして次第に土煙がはれ、状況が視認できるようになってくる。

 

 

 

 

「な、なんだ!?」「突然爆破したぞ!!」「まだ爆発するんじゃないか!?」

 

(い、いったいどういうことですの!?)

 

 白井は目の前の変動が理解できない。

 突然鼓膜を破るほどの爆発音が聞こえてきたと思えば美影と一方通行がいた場所が爆発しているのだ。瞬時に理解しろというほうが無茶である。

 周りにはその事態に驚き、とにかく急いで逃げようとする者が見られる。避難誘導は必要なさそうだが論点はそこではない。

 とにかく、美影の近くには初春と佐天の二人もいた。あの紅蓮の炎と黒煙の中にいる。

 もしかしたら、と思うと全身に寒気が襲う。

 

 立ち止っているとベンチがあった場所の爆煙が晴れてきた。

 そこにあったのは、

 

 初春と佐天を抱き寄せながら立っている美影の姿だった。

 爆煙とは違う黒い流動する物体が彼らを守っているように見えた。

 

「? …………?!」

 

「え!? ……な、なにが……」

 

 佐天と初春は状況がつかめていない。

 気づいたら美影の懐に押さえつけられていたのだ。そして黒い何かに包まれていた。

 その黒い何かにより熱と衝撃が身に届くのを防いでくれた。

 

 

(……まさか街中で撃ってくるとはな、……だが……?)

 

 美影は一人その出来事を理解しているようだ。

 彼はバズーカが発射されたのと同時に立ち上がり、すぐさま初春と佐天を能力で自分に引き寄せ、ブラックホールで身を守ったのだ。よってこのような体勢となっている。

 彼は目を細めて事態をどう収拾することが最適かを思案している。

 

「二人とも、大丈夫か?」

 

 とにかく、二人を離してけがは見られないが一応安否を確認する。

 

「あ、はい……」

 

「え、あ、大丈夫です」

 

 とにかく二人は少し分かった。なぜか爆発が起こり、美影に助けてもらったのだと。

 だが、他は何もつかめていないため、放心が抜け切れていない。

 

「一方通行、大丈夫か……ってお前が大丈夫じゃないわけがないか」

 

 一方通行がいた自動販売機のほうも煙が晴れてきた。

 そこにあったのはボタンを押す大勢で固まっている一方通行の姿。だがその指の先にはボタンはない。 直撃したのか、自動販売機の上半分は吹っ飛んでいた。そのせいで美影の位置より爆煙が多かったのかもしれない。

 

(あ、大丈夫じゃないかも)

 

 その一方通行の表情を見た美影は少し焦る。

 これは危険だ、と。

 爆発が危険というわけではない。一方通行がコーヒーの一服を妨げられたことが危険なのだ。

 そして一方通行の手がゆっくりと下ろされ、口が開く。

 

「美影、……どこだ(・・・)? 」

 

 その声は落ち着いていているが美影は確信する。

 絶対怒っているなコイツ、と。

 こうなったら美影といえど止められないので、仕方なくスナイパーの場所を教える。

 

「あの赤い看板があるビルの屋上、」

 

「そォか、」

 

 一方通行はそれだけ言い、下半身だけの自動販売機を軽く蹴る。すると、ベクトル操作により自販機と地面の接合部分が破壊された。

 そして一方通行は美影に言われた場所と自販機を結んだ線の延長線上に立ち、拳を構え、

 

「テメエらのせいでコーヒーが飲めねェじゃねェかァああ!!」

 

 右手で自販機を思い切り殴った。

 ベクトル操作をされた自販機は限りなく直線に近い放物線を描いてそのビルへと飛んで行く。

 見ていると、その屋上では小さく爆発が起きてしまった。

 そして自動販売機を追いかけるかのように一方通行自身も音速とは言わないがジェットヘリに匹敵するスピードで飛行していく。

 

(自販機飛ばしちゃだめだろ……)

 

「おい、白井!」

 

「え、あ、はい! なんですのお兄様!?」

 

 愛するお姉様よりもひどい自販機の扱いをする一方通行に若干引きながら、口を開けながら固まっていた白井を我に返らせる。

 

「お前一方通行を追ってくれ、このままだと死体ができるから」

 

 慣れない風紀委員活動により一方通行には類を見ないストレスがたまっているだろう。

 普段はやらないように美影が何度も忠告しているが、もしかしたら殺ってしまうかもしれない。

 

「お兄様は!?」

 

 美影が行けば済むと思うが彼には別の仕事が発生してしまったためその役は諦める。

 

「俺は……こいつらの相手かな」

 

 広場の周辺の建造物と建造物の間から、明らかに武装無能力集団と思われる不良たちが出てきた。

 しかも数が多い。

 

(……二十、三十、……三十七人か……)

 

 重力を感知することで、出てきた者、まだ出てきていない者の数を数える。

 その数は異常だ。

 しかもその内の半数強が拳銃や機関銃を手に持っている。それ以外の者もスタンガンやサバイバルナイフを所持していて攻撃に飢えているようだ。

 

「初春は警護員に連絡してすぐ逃げろ、佐天もだ」

 

 

「あ、はい!」

 

「え!?」

 

 武装無能力集団の数に驚嘆していた初春にすべきことを冷静に命令すると、初春は慌てて携帯を取り出す。

 佐天はまだ混乱しているようだが、逃げろという言葉は理解できたようだ。

 

「……お兄様、気をつけて下さい」

 

「あ、そうだ。これ持っていくといいよ」

 

 とある物を白井に投げ渡し、それを受け取った白井は急いで空間移動の演算を開始し、その場から消えた。

 

「おい、一人飛んでいったぞ」「だがこっちにも一人残っている」「この数なんだ、確実にやるぞ」

 

 武装している奴らからそんな声が聞こえてくる。

 その中には何やら紙のようなものを数枚所持している者も見られる。

 

(……一人、か)

 

 先ほどまでこの場にいたのは風紀委員と超能力者が二人ずつ。どちらも一人ずつ離脱している。

 だが目の前の不良たちを見たところ、ターゲットは後者だというのは明らかだ。

 全員が全員、美影を睨んでおり、現在進行形で離れていく初春に意識を割く者などいなかった。

 

「……お前ら誰の組織のだ? 駒場か? 黒妻か? 榊原か? ……狭間(はざま)……じゃあないな多分」

 

 美影は目の前の不良たちに思い当たる武装無能力集団を束ねる人物の名を言っていくがそれらに反応する者はいない。そこから一つの結論を出す。

 

(寄せ集めか?)

 

 一つの組織の者たちではなく、そこら辺の不良たちに武器を持たせただけのようだ。

 とにかく、自分や一方通行のような超能力者が狙われていることは分かった。

 なら出来るだけ自分に注意を向けさせるようにしなければならない。漠然と追い込んだ場合に人質を作らせないためにも。

 

(だが、……)

 

 相手は飛び道具を持っている。しかも手つきを見るからにおそらく全員が扱うのは初めてだ。

 使い方を誤り、暴発されて流れ弾が初春や佐天などの一般人に当たっては一大事だ。

 望ましいのは周辺の者が誰も傷を負わないこと。たとえ自分に弾が当たっても。

 

(仕方ない、か。、……久しぶりにあれ(・・)やるか)

 

 この緊急事態を確実に打破する方法が美影にはある。

 それは『仕事』で使うワームホールやブラックホールよりも演算は難しいものだ。だが、一瞬で全てが終わり、不良たちにも、もちろん一般人にも傷を負わせることはない。

 

 

「おい、さっさとやるぞ」「ああ、これだけ銃があれば確実に当たるからな」「へへ、これで俺たちは……」

 

 数もあり、武器もある。不良たちは勝利を確信する。

 そして余裕を感じ、拳銃、機関銃、スタンガン、ナイフ、それぞれの凶器をを構え、全員で一斉に攻撃しようとしたとき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ?」「はぁ!? どういうことだ?」「何が起こった!?」「消えたぞ!」

 

 目の前から一瞬で、蒸発したように消えた。

 美影ではない。彼らがしっかりと構えていた武器、凶器が、だ。

 どこにいったか首を、体をあらゆる方向に動かし、探したら見つかった。それらは美影がいるところのすぐ横に山になって置いてある。

 そして美影はやり終えたような顔をして、

 

「ふぅ~、なんとかなった、か……」

 

 もちろん銃を奪い、山積みにしたのは美影だ。

 だが彼の能力は重力操作。アポートやムーブポイントのような離れたところにある物体を手元に直接引き付ける能力はない。

 ワームホールを使えば空間を跨ぐことはできるがそれではこの状況を作り出せない。

 だが現に武器を一つ残らず奪ったのだ。

 

 

 

 

 彼が行った演算は『時間(・・)』の操作。

 強い重力場にいる観測者は、それより弱い重力場にいる観測者よりも時計の進み方が遅いと言われる。

 美影は自身の重力場を変えつつ、自身にかかる重力を一定にすることで不良たちよりも何千何万倍ものスピードでこの世界を駆け巡ったのだ。

 つまり、彼は『相対性理論』を自身の演算公式に当てはめたのだ。

 超高速移動で武器を奪い、不良たちの手に届かないところに固めて置いた、という正直彼の能力で可能なことの中で最も地味な事を行ったのだ。

 ちなみに美影はこれを多用しないのだが、その理由も数秒老けるから、という地味な理由だったりする。

 

 とにかく、不良たちは武器を奪われ、丸腰の状態となったのだ。

 だが、

 

 

「おい! あれ(・・)使え!」

 

 一人が叫ぶ。

 どうやら彼らにも最終手段があったようだ。表情を見るに、まだ打開できると言えるような秘策が。

 そして他の一人が近くにあったワゴン車に近づく。

 美影は不審に思い、その者がたどり着くまでに先ほどまで違法駐車としか思っていなかった車を重力探知で視る。

 そこにあったのは美影も知る、対能力者の一品だ。

 

(あれは……まさか!)

 

 心の中で焦り、急いで山になっていた凶器の中から拳銃を一つ拾い、構える。

 距離は約三十メートル。

 一般の人には銃を扱うにしては遠いといえるが美影は一般ではない。銃の扱いにも長けている。

 拾い上げてから五秒と経たずに狙いを定め、引き金を引く。

 バン! 放たれた弾は正確にワゴン車に積まれていた機器から飛び出ているコードの一つを貫いた。

 

「あ!?」

 

 機器を作動させようとした男は拳銃によりそれが使用できなくなったことに慌て、声を上げる。

 何度もスイッチを押すが何の反応も見せない。

 回数に従い、嫌な汗が37人の不良たちから浮き出てくる。

 

「さーて、俺を襲おうとするなんて、覚悟はできてんだろうなぁ?」

 

 美影は拳銃を再び山に捨て、手をポケットに入れ、笑みを浮かべる。

 その声に恐怖で体が震え、さらに慌てる哀れな男たち。

 

 

「お、おい、やばいんじゃねえのか?」「あいつ、バズーカも効かなかったんだぞ」「だ、だが、たったひとりだ!」

 

 武器はないが、目の前にいるのは一人。

 袋叩きにすれば勝てる、かもしれないと思ったのがそのわずかに過ぎった驕傲はおおきな勘違い。

 美影は超能力者、自分たちはとある理由で無能力者で統一されている。

 これでは裸でエベレストを登頂するようなものだ。

 

「はぁ、……この数は面倒だな」

 

 美影は飛びかかった不良たちを一人一人相手にするのも時間がかかり、手間がかかりすぎる、と思ったので彼らにかかる重力を上げ、一気に地面に押しつけようとする。

 

「がぁ!!」「なっ!?」「くそぉ!!」

 

 走る、という重心を前方にずらして可能となる行動をとっていた男たちが、いきなり体重が倍増させられて体勢を保てるわけがない。

 そのため、盛大に転び、地面に激しいキスをすることとなった。

 しかも美影は倒れたのを見ると男たちにかかる重力を約5倍にする。体重が70キログラムの者は350キログラムとなり、立ち上がれるわけがない。

 立てても歩けず、体を再度打ち付けることとなるだろう。

 

 美影は不良たちに演算をしたまま、先ほどのワゴン車へと歩いていく。

 そして、機械いじりが少々だができる美影はそこに積まれている、自分が壊した巨大な機器のあちこちを触り、確信する。

 

(キャパシティダウンだな、間違いない。)

 

 音響機器を利用してAIM拡散力場を乱反射させ自分で自分の能力に干渉させる事により、能力使用を妨害する装置。 能力を打ち消すというよりは、『照準を狂わせて暴走を誘発させる』代物らしい。 つまり、能力者が自由に演算をすることを出来なくするものだ。なお、使用には大量の電力や演算能力が必要らしく、少年院などの限られた施設でしか使われていない。そして学生どころか学校が所有できるようなものでもないはずだ。

 だが現物が目の前にある。

 

「おい、これどこで手に入れた? あとなんで俺達を襲った?」

 

 一番近くに倒れていた不良に顔を向け問う。

 

「へっ、誰が言うかよ!」

 

「……へぇ~、そうかぁ」

 

 またもや美影は不敵に笑みを浮かべてキャパシティダウンが積まれたワゴン車のロッカパネルを下から掴む。そして、右手一本で車を軽々と持ち上げた。

 

「いッ!?」

 

 不良の一人は人智を超えた行動に恐怖を覚え、顔色は真っ青になっていく。

 実際は車の重量が百分の一ほどまで低下されているためだれにでも持ち上げられるのだが傍から見れば怪力を振る舞っているようにしか見えない。

 

「さぁ、どうしてやろうか?」

 

 それは質問ではなく、脅しに過ぎない。

 

「わ、わかった。話す!、話すから」

 

 脅しに対し、命の危機を見せつけられ、更に嫌な汗をかき、動揺し、全てを話した。

 

 

 ◆

 

 

「一方通行さん! やめてください! 死んでしまいますの…………その方が」

 

 白井は急いで空間移動し、一方通行の元に辿りついた。

 自販機は当たらなかったらしく、脇に粉々となった残骸が散らばっている。

 だが一方通行は金髪の男のの襟元を掴み、今にもベクトル操作した、それこそバズーカを上回る威力を誇る拳を打とうとしているところだった。もう一人の大柄な男は体格に見合わず横でビクビクと怯えている。

 

「あァ!? うるせェぞオセロ!! こいつは俺のコーヒーをふっ飛ばしやがったンだ。ミンチにするに決まってンだろォが」

 

「お、オセロ!? と、とにかく、コーヒーはありますの!」

 

 予想外なあだ名に面食らうが、とにかく落ち着かせようと先ほど美影から受け取った、一方通行が一本目として買った缶コーヒーを差し出す。

 一方通行は金髪を離し、それを乱暴に分捕り片手でプルタブを開け、グビグビと中毒者のようにコーヒーを飲み干した。

 

「ふゥ~。さて、…………殺るか」

 

「ダメですの! 今、一方通行は風紀委員……じゃなくてもですがそんなことされてはいけませんの!」

 

「……チッ、仕方ねェなァ。ならさっさと戻るぞ、オセロ」

 

「オセロっていうなぁああああ!! ですのォおおお!」

 

 コーヒーを飲んで満足したのか拳はおさめた。が、変なあだ名は止めないため、白井は本気で叫ぶ。

 が、その声は届いていないのか元の場所に飛び立とうとする。

 

「あ、待ってほしいですの。わたくしでは空間移動の重量オーバーですので一人運んでください」

 

 白井の空間移動が可能な質量は百三十.七kgまでだ。そのため男二人と自分を運ぶのは不可能。美影が彼らの体重を操作すれば可能かもしれないがこの場にはいない。ゆえに不安ではあるが一方通行の手を借りなければならないのだ。

 

「使えねェなァ、オセロは」

 

 フー、ヤレヤレと肘を程よく曲げて両腕を広げて手の平を天へと向け、気にいったのかあだ名を再度言う。

 

 

「わたくしはオセロではありませんの!!」

 

 

 ◆

 

 

「美影さ~ん、大丈夫ですか~~?」

 

 近くに隠れていた初春と佐天が出てきた。

 倒れている不良を避けるように走り、美影に近づく。

 

「ん、大丈夫だよ。あいつらも戻ってきたみたいだね」

 

 白井と一方通行も近づいてきた。見ると、一方通行が狙撃手と思われる男二人の腕を掴みながら飛んできた。そのため男二人は目を回している。目立った外傷はないようだが。

 

(ん?)

 

 ふと兵器を内蔵された車の運転席を見たところ、そこには見覚えのあるものがあった。

 鍵だ。

 それを美影は抜き取り、見覚えのある黒い革製の札を見る。そこには『CD-4』と掘られていた。

 

(…………ふむ)

 

 綿密には異なっているが先日回収したものと類似したものであると確信したところで、『CD』が『Capacity Down』であるところにたどり着いた。

 

 警備員も初春の連絡を聞き、サイレンを鳴らしながら接近してくるのが伺える。

 だが、連絡してからはまだ5分も経っていない。早いに越したことはないのだが、まるで待機していたかのようなスピードだ。その仕事振りに美影は、

 

(…………なるほどね)

 

 

 

 ◆

 

 

「超能力者一人につき一千万!?」

 

「あァ、ありえねェだろ」

 

 第一七七支部に戻り、一方通行は金髪と大柄の二人から聞き出した事を述べ、驚いた佐天が声を上げる。

 今、支部の中にいるのは、固法、白井、初春、佐天、一方通行、そして美琴だ。

 美影が武装無能力集団の標的が著能力者と分かったので、一応ここに呼び出したのだ。

 だが、美影は今、支部の外で電話をしている。

 

 

 ◆

 

 

「あぁ、……うん………やっぱりか……麦野の方は? …………そうか……ならそっちも気をつけろよ」

 

 話は終わり、携帯を閉じ、ポケットにしまう。

 電話をしていたのは第十八学区で美影と同じように風紀委員をしている垣根だ。

 話は終わったため入口のドアを開け、入室した。

 

「で、どうだった?」

 

「ん、やっぱり帝督と軍覇のほうも襲撃されたらしい。しかもあっちもキャパシティダウンつきでな。まあ、あいつらも大丈夫だったらしいから心配はいらない。」

 

「心配なンざしてねェがな。そのまま死んでくれればいいンだが」

 

「あと、麦野のほうにもスキルアウトが来たらしいが、四の五の言われる前に能力使ったからこれもまた無傷だ。キャパシティダウンも木端微塵」

 

 つまり、風紀委員をしている超能力者以外も超能力者なら襲撃されたというわけだ。

 食蜂のほうは連絡手段がないためまだ分からないが。

 

「でも、なんでこんなことに?」

 

 固法はあごに手を当て、悩み、テーブルの上を見る。

 そこにあるのは7枚の写真。

 一方通行(第一位)垣根帝督(第二位)御坂美琴(第三位)麦野沈利(第四位)食蜂操祈(第5位)御坂美影(第六位)削板軍覇(第七位)、と超能力者(レベル5)の顔写真だ。美影が捕まえた武装無能力集団の一人から没収したもので、その写真をもとに彼らはターゲットを探したようだ。

 

「事情聴取では、レベル5を欲しがった研究者に捕まえるように依頼された、とおっしゃっていましたの」

 

 白井の言うとおり、あの不良たちはそう依頼された。その為に武器やキャパシティダウンを渡されたというわけだ。

 

「だが、たぶんそれは嘘だろうな」

 

「どうしてよ?」

 

 美影の言葉に美琴が首をかしげる。

 

「スキルアウトが嘘をついているということ?」

 

「そっちじゃなく、俺たちを研究者が欲しがっているってことが、だ」

 

「どうしてそう思いますの?」

 

 美影は一拍置き、

 

「まず、ひとり一千万って話だが・・」

 

「高すぎますよね!」

 

 佐天はその話題になるとテンションが上がる。

 どうやら金には困っているようだ。

 

「逆だ、安すぎる」

 

「まったくだ、ありえねェ」

 

「え!? そうなんですか?」

 

 美影に一方通行は賛同する。そういう意味での『ありえない』だったようだ。

 

「俺らレベル5の研究成果は何と言っても金になる。それこそ億単位で。だからこそ俺たちを欲しがるってのは分からなくはないが、本当にそうならもっと出してもいいくらいだ。それに俺たちの家に押しかけたほうがいいのにそれはやられていない。それにあの不良たちは俺たちの能力については何も聞かされていなかったのは、不自然だ。全部は知らなくても少しぐらい教えたほうが捕まえられる可能性はかなり上がる」

 

 超能力者の能力により、自然や機械では再現不可能な現象のデータが取れるため、超能力者のあるなしでは成果に大きな差が生まれる。

 そのため、超能力者を所有している研究所は他より頭が一つも二つも出ているのだ。

 

「あ! それもそうですね」

 

 美影の説明に初春は納得し、声に出る。

 他の者もその矛盾に気づき頷いた。

 

「しかも、あの不良たちはスキルアウトの組織じゃなく、単なる寄せ集めだった。当然仲間意識の強い集団に依頼したほうが全然いいのに、だ」

 

「と、いうことは……」

 

「目的は全く別だろうね。不良たちは利用されただけ。これで終わるとも思えない」

 

 分かることが増えてきたが、分からないことも増えてしまったため、全員が頭を抱える。

 佐天は目の前に三千万相当の物品があると感じ、少し目の色が違っているがあえて誰も触れないでおく。

 

「……お兄様はずいぶんと冷静に対応できたようですが、どうして最初の砲弾を防げましたの?」

 

 白井は思う。

 美影はあの時まるで予期していたかのようにバズーカに対応していた。

 

「ああ、それね。なんか視線を感じていたからずっと警戒してたんだよ」

 

「うぜェほど見られていたな」

 

 一方通行も視線には気づいていた。そのため、白井の注意だけでなくそれもいらいらさせる要因となっていたようだ。比率は八対二ほどではあるのだが。

 

「……いつからですの?」

 

「『では今日はわたくしたちがいつも使う巡回ルートを行きますの』、から」

 

「ここを出てからすぐではありませんの!」

 

 美影は視線を感じてからずっと半径五百メートルの範囲を視ながら風紀委員の活動をしていたため、全てを視ていたのだ。狙撃手も、隠れていた不良たちも。

 

「まさかあんなところで撃ってくるとはな」

 

「どうして言わなかったのですか!?」

 

「言ったところで何にもならないと思ってな」

 

「お兄様!」

 

 危険を察知していても何も言わなかった美影に白井は叫ぶが、

 

「ピーピーうるせェなァ、風紀委員ならあれくらい気づけよオセロ」

 

「し・ら・い・く・ろ・こ、ですの!!」

 

 反論の点は違っているが、数時間外にいてもまったく視線に気づかなかったのは何も言い返せない。

 

「とにかく、この一週間の実習については上が判断するわ。今日はもう終わりだから一方通行君と御坂君、あと御坂さんはおとなしく家に帰るように」

 

 固法が注意し、お開きにしようとする。

 このままでは風紀委員の実習でさらに風紀が乱れてしまうため、もしかしたら中止になるかもしれない。

 だが、美影は止めないだろうと思っていた。それは勘ではない。

 

 そこで一方通行と美影は支部から出て行き、ビルの階段を下りていった。途中、「それでは、お姉さまは黒子が肌身離さずお供しますの」「余計なことはしなくていい!!」ビリビリバチバチ、と聞こえてきたが気にしない。

 

 

「そういえば美影さん、スキルアウトにくわしそうだったね、駒場とか黒妻とか」

 

(え?)

 

「ええ、名前をいろいろといっていましたね」

 

 佐天と初春は美琴の台詞を思い出しながら話す。二人にはどこの誰だかわからないがこの中の一人は驚いていた。

 

(……御坂君が黒妻を……知ってる!?)

 

 眼鏡をかけた風紀委員、固法美偉は耳を疑っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

「面倒なことになったなァ、オイ」

 

「お前のせいでこうなったんだろ。……あ、そうだ。もう一本電話かけるわ」

 

「あァ? どこに?」

 

「担任」

 

 美影は携帯をポケットからまた取り出し、電話帳から一人の番号を選択し、耳に当てる。

 コール音が数回なった後、相手は出た。

 

『おぅ御坂か、どうだ風紀委員をやってみて』

 

「……もう情報はつたわっていますよね、せんせー?」

 

 美影がかけたのは担任有澤の携帯電話。

 気になることがあったからだ。

 

『……ふむ、なかなかタイヘンなことに巻き込まれたみたいだな』

 

「先生はそれを分かっていて風紀委員をやらせたんでしょ?」

 

『はは、やっぱ分かったか。実はな、最近妙な機械を使って能力者を襲撃するっつう事件が多発していてな。お前らを目立つようにするともしかしたら、と思って』

 

 美影は片眉を曲げながらさらに気になっていた点を引き出してみる

 

「昨日、俺一人を呼び出したときに言おうとしたのはまさかこのことですか?」

 

『ああ、本当は四人の中で一番使いやすそうなお前一人を囮に使うつもりだったんだが、都合がいいことに罰を与えねえといけねえ不良が二人出来ちまったから序でに巻き込んだ』

 

「おい」

 

『まあ結果オーライ結果オーライ。どうせ無傷だったんだろ?』

 

「そうですが…………この一週間はどうなるんですか?」

 

『多分続行だ。成るべく警備員に手を借りるが、その支部の奴らはお前らで守れ。OK?』

 

 そこで美影は電話を切った。

 何を言っても変わらないだろうと感じたからだ。それだけでも十分だったこともあるが。

 

「やっぱ学園長とか担任が分かっていてこんなことやらせたみたいだよ」

 

 美影は不審に思っていた。あの時、可笑しな程警備員の到着は早かったことを。

 まるであらかじめ用意していたかのように通報から五分とかからずに、武装無能力集団の連行には十分な数の護送車を運んできた。

 それはつまり、

 

「俺らを売りやがったなァ、上の奴ら」

 

風紀委員(これ)をやる理由なんてどうでもよかったんだろうな。たまたまお前らが暴れたから罰則みたいになったけど」

 

「ンで、これからどうすンだ?」

 

「そうだな、とりあえず情報収集かな。恒例の」

 

「またキーボードと格闘かァ?」

 

「いや、違う方法で」

 

「どうやってだ?」

 

 

 美影は唇の右側を軽く吊り上げ、

 

 

 

 

「スキルアウトのことはスキルアウトに聞くのが一番だろ」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 美影の誘導に従い、寄り道をしつつ移動すること約十五分、二人はとあるビルとビルの間にある、人が使わないような通路に来ていた。

 

「なンなンだァ? ここは」

 

 何も聞かされていない一方通行は美影に尋ねる。

 てっきり不良を捕まえて乱暴に暴力に任せて尋問すると思っていたのだが違うようだ。

 

「俺はね、スキルアウトにもお友達がいるんだよ」

 

 暗い通路にある、薄汚れた小さめの扉を開け、美影は中に入る。

 

狭間(はざま)、いるか~?」

 

「んん? ぁあ、御坂か……。フウァ~ぁ、ああ、眠っ」

 

 美影の呼びかけにあくびと共に返事が来た。

 中はドアがあった建物とは全く別の場所であるかのように壁に囲まれ、外の騒音も聞こえない。そこにいたのは一人の男。

 染め直したかのように真っ黒なジャージに包まれ、髪も真っ黒で、美影と年齢は変わらないように見える男だ。

 身だしなみには気を使っていないようだが部屋は奇麗にされており、冷蔵庫やソファが置かれ、ここで生活しているようである。

 

「なんだ寝てたのか?」

 

「ああ。……そっちは第一位か?」

 

 狭間、と呼ばれた男は美影が珍しく人を連れてきたことを意外に思いつつ、その人物を特定した。

 

「ああ、」

 

「美影、何だこいつは?」

 

 美影と知り合いのようであるが一方通行は見たことがない。だが相手は自分のことを知っているようだ。

 

「こいつは狭間指導(はざましどう)。俺が去年か一昨年に捕まえたスキルアウトの一人だが、使えそうだから警備員には渡さなかった奴だ。けっこう武装無能力集団(そっち)の方では情報通でね。だからここにきた」

 

「で、キャパシティダウンのことか? さっきレベル5への襲撃に失敗したっていう情報がはいったが」

 

「ああ、それそれ。で、誰があんなおもちゃ渡したんだよ?」

 

 先ほどまで寝ていたというのにそのことを知っているということは襲撃と同じくらいの時間に知ったということ。美影の言うことも間違ってはいなさそうだ。

 

「…………、」

 

 質問に答えず、無言で狭間は手を差し出す。

 その手は今までに何回か見たことが美影にはあった。

 

「………いくらだ?」

 

「今日は一つでいいや」

 

「チッ、ぼったくりが」

 

 文句をいいながら、先ほど銀行に寄ったときにおろした札束を峰野の手に乗せる。

 厚さ一センチメートルの束が一つ。百万円だ。

 

「まいどありー。 で、依頼したのは第19学区のAIM特殊解析科学研究所。囮で元凶は他かもしんねぇが直接不良たちに渡したのはそこだ。全部で五つ」

 

「ずいぶん多いな。お前にもまわってきたんじゃないのか?」

 

「貰えたが、断った。お前がいるから金にも困らねえし。それに、キャパシティダウンは俺にも効いちまう」

 

「それもそうだな。……依頼についでだが、レベル5への襲撃だけか?」

 

「相変わらず察しがいいな。……お前らが壊した以外の残りの二機を渡したところには命令が違っていた。内容は『誰でもいいから能力者を襲え』だ。今日でその被害者は四十人にのぼった。まあ、あと二つ、壊さない限り止まらないだろうな」

 

「ふーん、そういうことか。目的は実験か?」

 

「ああ、キャパシティダウンの実践データが目的だ」

 

「そいつらに見返りはあったのか?」

 

 超能力者の懸賞金が手に入らないのでは命令通り動いてもらえる保証はない。

 だが、

 

「んなもんキャパシティダウンそのものに決まってんだろうが」

 

 能力者から能力を奪う代物。

 武装無能力集団にとってこれほど欲しいものはないだろう。

 美影は納得したような表情をするがなにかよからぬことを企んでいるようにも見える。

 二秒ほど黙り、口をあける。

 

「じゃあ、レベル5の懸賞金についてはなくなった、ってデマ情報流しておいて。今日見たいにやられたら風紀委員ごっこも出来やしない」

 

「それはいいが、どうする気だ?」

 

「とりあえず一方通行とこれからその研究所壊しに行く。まあ、無駄かもしれないが警告ぐらいにはなるだろ、多分」

 

「……どこにキャパシティダウンが渡されたかは聞かなくていいのか?」

 

「少しぐらい風紀委員や警備員どもに解決させないとかわいそうだろ」

 

「…………そうか」

 

 峰野は何かを察したようで口の端がつりあがる。もう何も言わなくてもいいだろう。

 だが彼は言葉を付け加えた。

 

「お前が所属している風紀委員の支部だが、……大丈夫なのか?」

 

「……何とかするさ」

 

 狭間の言葉が安否を心配する質問ではないことは美影も捉えていた。しかし、それを分かりつつも問題はないと告げる。狭間としてはこれ以上関わる義理はないため、いつも通り面白おかしく展開を眺めていくだけだ。

 そこで美影はドアを開け、部屋から出て行った。

 情報をいくつか聞いた美影だが何か一つ、引っかかっていた。表情からは読めないことが多い美影ではあるが、一方通行は今回それには気づいていた。

 

「……写真のことか?」

 

「ああ、」

 

 武装無能力集団には超能力者全員の写真が渡されていた。情報操作で自分のことを知られることを避けていた美影のも、だ。

 

「あの写真な、もっている奴はかなり限られる。だから大体黒幕(・・)の見当はつく。でもなぁ……」

 

 美影は口ごもり、顔をしかめる。

 その見慣れない仕草で一方通行はとある名が脳裏をよぎった。

 

「お前、まさか……」

 

「多分、『木原』の一人だ。キャパシティダウンを作ったのもその一人だからな」

 

 『木原一族』。

 学園都市における研究者の中でも、一部では有名な一族だ。 そのほとんどが研究者であることに加え、 『実験に際し一切のブレーキを掛けず、実験体の限界を無視して壊す』ことを信条とする。学園都市でも群を抜いてイカレた人間達だ。

 

「そうだったら俺でもアレイスターの許可なしじゃ手は出せない。だからとりあえずAIM特殊解析科学研究所とやらだけにしておく」

 

「そンな奴らは皆殺しが一番なんだがな」

 

 一方通行も昔は木原の名を持つ者にモルモットとされていたためもし目の前にいたら真っ先に殺しているだろう。

 

「俺だって木原の名を持つヤツとは無関係じゃないけどさ。だからこそ下手に手出ししたらどう返ってくるかわかったもんじゃない」

 

「とか言いつつ研究所壊すってどォなンだよ」

 

「狭間に数分で割りだされるとこなんて、使い捨てに決まってるさ」

 

 

 

 

 

 二人は歩きだす。

 

 

 

 この数時間後、一つの研究所が地図から抹消した。

 

 

 

 

 

 

 




 とりあえず、第弐章が原作のどこと関わっているのかはこの話でおそらく分かったと思います。

……といってもアニメのストーリーなんですけどね。

 今後ともよろしくお願いします。はい。
 



……私事ですが、最近友達に太った?と言われてしまい、少々ブルーです。

なにか有効的なダイエット方法はないですかね?


 ◆


今回使わせていただいた名前。

  狭間指導(はざましどう)


ザ・ゲイルさん、本当にありがとうございました!





 
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